再覚醒 ◆PKyKffdMew



―――ゆらり。
狂戦士の少女はそんな風に揺らぐ視界を視た。
これまでの記憶は混濁している。
ここが殺し合いの真っ只中であることは分かっても、これまで何をして過ごしていたのかが曖昧だ。
殺したのか、殺していないのか。
殺したのか、殺されたのか。

「殺されたならぁ……わたしはここにいません、ゆらぁり……けどね」

少女は相変わらず、空気中を漂う霧のようにぼんやりと喋る。
四季崎記紀の変体刀なんてものに己を支配されていたことなど露知らず、彼女は呑気に空を見る。
地面に寝そべって衣服が汚れることなど、彼女が気にするようなことではなかった。
今考えるのは、これからのことである。
確かに全員を『ズタズタ』にして終わらせるのも楽しそうだし、というか個人としては実にやってみたいことでもあるのだが、如何せんそれでいいのか、と思わないでもない。
澄百合学園の頼れる策士もここには居らず、彼女に指示を与える者は誰一人として居なかった。

「……ゆらぁり」

戦闘に関してなら、まだランドセルを背負っているような頃から第一線に立ってきた。
《闇突》《狂戦士》など、多くの畏怖を買ってきたと記憶している。
少女の齢にして殺人の経験も勿論あるし、かの零崎一賊の人間と矛を交えたことも何度かあった。
ゆえに、殺し合いだろうとやってやれないことはない。
全てを引き裂いて、切り裂いて終わらせるだけならば、それは彼女にとってただの得意分野だ。

殺人を躊躇うほど甘い世界を生きてきてはいない。
逆に、誰かに殺されたとしても彼女はその相手を恨むことはないだろう。
彼女たちの生きている世界は、そういうものなのだ。
殺し殺され、裏切り裏切られが平然と横行する世界――端から見れば、それは狂ってさえいる。
だからこそ彼女は珍しく迷う。
全ての参加者をズタズタにして勝ち抜き、澄百合へと帰還するのか。
それとも、無差別な虐殺を行うのではなく、降ってかかった火の粉を払う程度に留めるのか。
後者ならば―――殺し合いを主催した人間は、否応なしにズタズタにさせて貰うが。

「どっちが、いいんでしょう……………ねえ」

零崎の少年が聞いていたなら、「もっと早く喋れよ!」とキレていたかもしれない。
名簿の確認を行わない彼女にそれを知る術はなかったが、この殺し合いには彼女も知る人物が何人か参加させられている。
まぁ、零崎の少年――零崎人識とは既に一度、遭遇しているのだが。
その記憶は毒刀による発狂の影響下にあったからか、それとも彼女自身の記憶力の問題か。
レム睡眠下で見た夢のようにうっすらと、ぼんやりと脳裏にあるだけだった。

どちらにしても、何となく《策士》の先輩だけは居ないような気がしていた。
あの人がいたなら、もう殺し合いはどういう形であっても混沌の最中に落とされているだろうという、歪な信頼がそこには関係しているらしい。
少女に指示を与える人間はなく。
狂戦士は手綱を外され、今や野良犬同然だ。

「……でもぉ。これがあるのは―――嬉しいですねぇ」

しっかりと握り締めた、エリミネイター。
その獰猛なシルエットこそが、彼女にとっては最高だった。
これさえあればどんな相手だろうとズタズタに、切り裂いてやれる。
殺し合いを認めるにしろ、認めないにしろ、それは同じことだ。

「ぱたり」

幼子のように擬音を口に出して立ち上がり、小さな体をまた、霧のようにゆらゆらと揺らす。
その動作が、彼女の全てを表しているといってもよかった。
霧のようにぼんやりとしただけの、ただそれだけの狂戦士。
猛毒の刀の支配から抜け出てもなお、その在り方は狂戦士そのものである。
迷う彼女は――――


「ん? お前は確か澄百合学園の」


視界に入った赤い女を、とりあえずズタズタにしてから考えることにした。


† † †


「ふぅ、一段落だな」
「うぅ」

結論から言って、少女はあっさりと赤い女に敗北した。
当然といえば当然である、相手がいくら何でも悪すぎた。
異名を聞けば彼女も聞き覚えくらいはあっただろう――少女が返り打ちにされた女は、彼女の生きてきた世界の中でも最も信用され、同時に最も危惧される存在だったのだから。

《死色の真紅》―――哀川潤

人類最強の生物でありながら、依頼一つで簡単に動く人類最強の請負人。
少年漫画に毒され過ぎて、熱血の心をその内に秘めた生ける伝説。
《闇突》として恐れられる澄百合学園期待のホープであっても、まだまだ哀川相手には足りない。
刃を煌めかせて意気揚々と突撃をかけた少女に対して、哀川潤の行った対処は単純明快だった。
まず、エリミネイターをその手から蹴りあげる。
武器を失った少女を組伏せる。以上二行程で、狂戦士は人類最強に呆気なく敗北した。

「悪くねえ動きだったけどよぅ、ナイフなんかで死ぬ人間なんていねえだろ」

普通は死にますよぅ、と突っ込む気力は少女にはなかった。
哀川の力で押さえつけられると、喋ることもなかなかに苦しいのだ。
かといって哀川が彼女を開放する様子はない。
襲撃されたことへの意趣返しのようだった。
三分ほどそうして気が晴れたのか、哀川は少女の拘束を僅かに緩める。
ナイフは手を伸ばして届くような位置にはないし、少女に反抗を行うことは最早不可能だった。
それに――聞きたいこともあった。

「今からあたしがする質問に答えろ。そうすりゃあ開放してやんよ♪」

シニカルに微笑んで言う哀川。
少女に選択肢はもちろん最初からなかった。

「単刀直入に聞くぜ。お前――あの一件から生き延びてたのか?」

一瞬たりとも迷うことなく、少女は首を横に振る。
それは殺された筈だという意味合いではない。
単純に、彼女には「あの一件」とやらにまるで覚えがなかったのだ。
「知りませんよぅ。玉藻ちゃんはぁ……ゆらぁり……警備の最中で、ここに呼ばれたんですから」
西条玉藻か」

その名前に聞き覚えはあった。
暴力の世界では比較的有名な、若き狂戦士。
だが、澄百合学園であったあの事件から彼女が生き延びていたとはどうしても考えにくかった。
澄百合、通称《首吊学園》で起きたあの大量殺人事件から。
一人の少女によって引き起こされ、哀川の手で解決されたあの事件から。

「警備の最中……ねえ。はぁん、なるほど。信じらんねえが、そういうことか」

ここで、哀川潤はようやく自分の中の疑問に合点がいくのを感じた。
玉藻の言っているのは恐らく自分たちが学園に突入するよりも前、もしくはその直後だ。
そして哀川の中ではその事件はとっくに終わったこと、解決済の一件となっている――
これの意味するところを、聡明で少年漫画かぶれの人類最強は即座に理解した。

「―――時系列」

信じられない話だが、どうにも主催者の爺は別の時系列から参加者を呼びつけられるらしい。
どういう手段を使ったのかは不明。
ただし、ここにいる自分自身と西条玉藻の証言がその仮説の信憑性をかなり高めていた。

「加えて、死人を生き返らせる力ってか」

匂宮出夢零崎曲識
二名の死人が生き返り、再び死亡したことから、もうこれは疑いようもない事項だろう。
ここまで考えて、総合的に見れば主催者の《願いを叶える》という言葉も嘘ではないのかもしれない。
叶える気があるかどうかは別として、そういう力はほぼ間違いなく《ある》。
だが、そこは熱血なる最強の女。
願いを叶える裏付けが取れたとしても、殺し合いなんてムカつくものを認めることはしない。
そしてそれに乗るような奴は、とことん邪魔をしてやるまでだ。

「あのぉ」

考察に浸っていた哀川の意識を引き戻したのは、玉藻の間延びした声だった。

「終わったならそろそろ離してくれませんかぁ」
「おお、そうだったな。悪い悪い――じゃあ行くか、玉藻ちゃん」

二人の間に、三点リーダーがしばらく漂った。
流石の西条玉藻も、これには呆気に取られざるを得なかった。
離してやると確かに哀川潤は言ったが、自由にしてやるとは一言も言っていない。
早い話が、こき使う気満々ということだ。

「このあたしに手を出したんだ。そんくらいの落とし前はつけて貰うぜ」

シニカルに笑って理不尽なことを宣う人類最強に、玉藻は従うしかなかった。
あれほど完膚なきまでに負けたのだし、おまけに仕掛けたのはこちらからなので反論の余地がない。
それに、どうせどうするか迷っていたのだ。
この赤色に従ってみるのも悪くはないだろう。

「わかりましたぁ―――ゆらぁり」

エリミネイターを拾って、しかしその刃を目の前の哀川潤に向けようとはしない。

「よろしくお願いしますねぇ――哀川さん」
「あたしを名字で呼ぶんじゃねえ!」
「あうぅ」

デコピンを食らって可愛らしく呻く玉藻。
何はともあれ、こうして刀の支配から逃れた西条玉藻は、人類最強に拾われたのだった。
彼女たちの行く末は如何に?



【1日目/昼/F-4】


【西条玉藻@戯言シリーズ】
[状態]身体的疲労(中)
[装備]エリミネイター・00@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:とりあえず、潤さんについていってみる
1:敵が出たなら―――ずたずたに。
[備考]
※「クビツリハイスクール」からの参戦です(正確には、戯言遣いと遭遇する前からの参戦)。
※毒刀の毒は消えました。


【哀川潤@戯言シリーズ】
[状態]健康、腕に傷(もう塞がった)
[装備]
[道具]支給品一式×2(水一本消費)、ランダム支給品(0~4)、首輪、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実
[思考]
基本:バトルロワイアルを潰す
 1:とりあえずバトルロワイヤルをぶち壊す
 2:いーたん、 玖渚友想影真心らを探す(今は玖渚を優先)
 3:積極的な参加者は行動不能に、消極的な参加者は説得して仲間に
 4:玉藻ちゃんとネットカフェに向かう
 5:阿久根の遺言を伝える
 6:傷?んなもん知るか
[備考]
 ※基本3の積極的はマーダー、消極的は対主催みたいな感じです
 ※トランシーバーの相手は宇練銀閣です
 ※想影真心との戦闘後、しばらくしてからの参戦です
 ※主催者に対して仮説を立てました。詳細は以下の通りです。
  ・時系列を無視する力
  ・死人を生き返らせる力
  以上の二つの力を保有していると見ています


それは縁々と 時系列順 赤く染まれ、すれ違い綺羅の夢を
それは縁々と 投下順 赤く染まれ、すれ違い綺羅の夢を
つばさゴースト 西条玉藻 友情の手前、憎しみの途中
崩壊を受け追う(抱懐を請け負う) 哀川潤 友情の手前、憎しみの途中

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年02月21日 22:41