切望(絶望) ◆0UUfE9LPAQ
学習塾の廃墟から骨董アパートへ向かう広い道路の途中で、
「……はぁ」
と着物を着た女がため息をついた。
透き通るような程白い肌を持つその女にはとてもよく似合うため息だった。
『どうしたの?七実ちゃん』
すると、隣にいた学ランに身を包む人畜無害そうな笑顔をした少年が女――鑢七実に声をかける。
「別にどうもしませんよ、禊さん」
『その割には結構着物を気にしてるみたいだけど。七実ちゃんって綺麗好きだったりする?』
「わたしの趣味は草むしりですが、だからといってそこまでこだわりがあるわけではありませんよ」
『ふーん、まあいいや。じゃあこれは僕からの余計なお世話ってことで』
言うが早いか七実の真っ白な着物についていた赤い模様が消える。
それは一時間ほど前の戦いで一方的に虐殺した日之影空洞の血痕だった。
雑草の分際で自分を汚したことが許せなかった――もはや逆恨みですらないただのいちゃもんだ。
そして球磨川の過負荷――大嘘憑きは血痕を消すだけに留まらず、七実の中にあったものをもう一つ「なかったこと」にした。
「あら、ありがとうございます」
『お礼を言われるほどのものじゃないよ。……ってやっぱり気にしてたんじゃない』
「ただの社交辞令です。ついでに言うなら体もいくらか軽くなったみたいですしそちらの方のお礼を」
『ここまでほとんど歩きっぱなしだったでしょ?疲れもそれなりに溜まっているだろうしそれを「なかったこと」にしてあげただけだよ』
「本当に便利なものですね――その『おーるふぃくしょん』は」
『べっつにー。いくら僕でも「なかったこと」にしたことを「なかったこと」にはできないし七実ちゃんの病気も「なかったこと」にはできなかったしね』
「その気持ちだけでいいんですよ。いえ、悪いのかしら?しかしわたしの目でも見取れないものがあるとは思いませんでした」
『僕たち過負荷っていうのはそういうものだからね。分析するだけ無駄なんだよ』
「確かに結果だけを見て過程や原因を逆算することはできませんしね。それに見取れたところで強くなってしまうようでは逆効果です」
『強くなるだなんて変なこと言うね。誰よりも弱いのが僕たち過負荷なのに』
「弱い、ですか。確かにわたしの体は誰よりも貧弱です。全く、どうせなら健康な体で生き返らせればいいものを……」
後半部分は独り言のように呟いたものだったので球磨川には聞き取れなかったようだ。
それでも何かを言っていたことはわかっていたようなので内容を聞こうとしたそのとき。
ぐ~~~~~
と、どこからともなく音がした。
二人は立ち止まりしばし顔を見合わせ。
『……ごめんね』
気まずそうに球磨川が口を開いた。
「しょうがないでしょう。そういえばもう何時間も食べていませんしね」
『七実ちゃんはお腹空かないの?』
「わたしは元々食が細いですから。でもそろそろ食事にしてもいいかもしれませんね。いえ、悪いのかしら?」
『じゃあスーパーマーケットに行こうよ。ここから近いしこんな道のど真ん中で食事にするよりはいいと思うよ』
「『すーぱーまーけっと』ですか、どういったところで?」
『基本的には食料品を売っていてね――って七実ちゃんスーパーも知らないの?』
「島育ちなので本土のことには疎いんです」
『疎いってレベルじゃ済まされないと思うんだけどなぁ……。まあいいか早く行こっ』
「そうしましょうか」
このとき既にスーパーマーケットに二人を罠にかけようとする人間がいるということは知る由もなかった。
■ ■
地図のG-5に位置するスーパーマーケット。
そこに一人の男が訪れていた。
「これだけ時間が経っているのだ、誰かが来ているとは思っていたが――」
彼――
時宮時刻が見据えていたのは跡形もなく破壊された鮮魚コーナー。
数時間前、魔法を使ったことで「おなかすいた」ツナギが手当たり次第に消化していったためだ。
陳列されていただろう生魚やら刺身やらは根こそぎ食い散らかされ奥の保管庫の中身もすっからかんであった。
所々にぶち撒けるように床の上にあった発泡スチロールのトレーやマグロの尻尾にあった歯形が下手人の手掛かりを残している。
「歯形の大きさは大小様々か、形を見るに猛獣の類だろう。複数の猛獣を使役した――というところか?」
真相は前述の通りだが、いくら人間離れした存在が数多く跳梁跋扈する暴力の世界にいた時刻とて「魔法」にはそうそう思い至れるはずがない。
まだしも理解力の追いつく「何者かが動物に餌を与えるなどの目的で破壊させた」という考えが先に浮かぶ。
それでも害でしかない発泡スチロールも食べられた跡があったり、隣の精肉コーナーが無事だったりと不可解な点があるが。
「まあこれ以上考えても無駄だろうな。それよりも食事を済ませるとするか」
そう言って惣菜コーナーに足を伸ばす。
この「実験」がいつまで続くかわからない以上、保存が効く缶詰やレトルト食品を持ち出すべきなのだろうが、生憎、今の時刻は左腕を欠損している。
片手で開けるのが難しいため、勿体ないがそのままにしていくことにした。
その点、惣菜やおにぎり、サンドイッチなどの軽食は多少は苦労するが開けられないことはない。
マウンテンバイクが入っていたことから推測できるように、デイパックには容量制限がないようなので多めに入れていく。
賞味期限などの問題はあるが、2、3日は平気だろう。
開けるのにやはり多少は苦労したが食事を済ませ、当面の食糧の確保も済ませたところで、時刻は外へ向かわずある日用品の前で止まった。
しばし逡巡し、それらもデイパックの中に入れていく。
「少々時間はかかるが仕掛けてみるか。それまで他に人間が来なければいいのだがな」
そう呟く時刻の口元にはうっすら笑みが浮かんでいた。
■ ■
時宮時刻が「仕掛け」を終えてから約30分、そんな「仕掛け」があるとは露知らず、球磨川禊と鑢七実の二人も到着した。
『ほら、七実ちゃん、ここがスーパーマーケットだよ』
「ここが、ですか――随分しっかりした造りで」
『七実ちゃんお肉食べられないんだっけ?だったらゼリー飲料とかいいかもね』
「『ぜりーいんりょう』……なんですか、それは?」
『七実ちゃん本当に物を知らないんだね……しょうがないなぁ、僕が教えてあげるよ。とりあえずこっちこっち』
と、七実に先んじて入った球磨川だったが、一歩目を踏み入れたその瞬間――
ずるっ
と、足を滑らせ、とっさに――
『う』『ぉ』『おっと――!』
と、声を上げ、体を支える物を探すも手は宙を掴み――
ごっち~ん☆
と、盛大に硬い床に後頭部をぶつけたのだった。
突然のことで何があったのか理解できなかった七実は茫然と事態を眺めていたが、このままでは埒が明かないので、
「禊さん?」
声をかけてみるが反応しない。
今の球磨川の状況をさながらベタなギャグマンガの表現で表すとすれば目は渦を巻き、頭上を星が回っている――といったところか。
端的に言えば、気絶していた。
「起きてくださいな」
しゃがみこみ、頬をぺちぺち叩きながら尚も声をかけてみるがやはり反応しない。
「――しょうがありませんね。まあ、なんとかなるでしょう」
ひょい、と球磨川を拾い上げ肩に担ぐと、先程までと変わらないペースで歩き出した。
日本の高校3年生の平均体重は63kg――球磨川もそれぐらいの体重のはずだが七実は全く重さを感じていない。
それもそのはず、このバトルロワイアル開始当初から多用している忍法足軽の効果だ。
「しかしわかりません――どうして禊さんは足を滑らせたのでしょうか……」
不気味に光る床の上を何事もなく歩きながら七実は呟く。
その先が罠へと繋がる一本道をは気付かずに――
■ ■
入口をじっと棚の陰から見張る者がいた。
無論、時宮時刻である。
店内には棚が乱立しており、隠れる場所には事欠かない。
それでも、気配で気付かれる可能性があったため離れたところから覗くことしかできなかったが。
「念のためにと思ってやったものだったが……ここまで効果があったとはな」
球磨川が足を滑らせ、後頭部を強打し、気絶した原因――それは原液のまま撒かれた洗剤だった。
店の出入り口は一ヶ所しかないため、必然、時刻がスーパーを出るときも洗剤の海を渡ることになるが、それについては抜かりはない。
意図的に洗剤の無い箇所を作り、自身が出るときは滑らないようにしてある。
「あそこまでうまくいくとなると本来の目的からはズレてしまうが――」
時刻が本当に用があったのは洗剤の中身ではない。
あれは本命の「仕掛け」が終わった後にあくまでついででただの思いつきでやってみただけのものだ。
気絶までされるとは時刻も予想外ではあったがそれはそれで相手が目覚めたときに無抵抗に繰想術をかけられるからよしとする。
七実はきょろきょろと周りを少し気にしながら時刻のいる方向に歩いて来ていた。
この距離ならばそろそろ勘付かれるかもしれない――ならば見つかる前に自分から姿を現すとしよう。
「――ここまで思い通りにいくとは期待できそうだ。罠を仕掛けたかいがあったというものだ」
それでも時宮時刻は気付かない。
僅か数時間前に人類最終・
想影真心という前例にどんな目に遭わされたのか忘れたわけではないのに、気付かない。
罠にかかった獲物が被食者でなく捕食者であるという可能性を――
■ ■
突然七実の進路上に人が現れた。
だが、それに七実は動じることなく。
「あら、わたしたちの他にも人がいたんですね」
その辺でたまたま知り合いに出会ったときのように話しかける。
武器などを隠し持っていないかを足元から一応確認し、最後に顔を見る。
そして、
目が、合った――
瞬間、肩に担いでいた球磨川と持っていた双刀・鎚が落ちるのと同時に忍法足軽が解ける。
本来の重さを取り戻した球磨川はどさりと2回目の床との激突を果たし、鎚は3分の1程陥没する。
七実は目を開き意識をなくしたまま立ちつくし今は時刻の傀儡と成り果てていた。
「無抵抗だったとはいえこうも操想術がうまくいくとは――下地の効果はあったようだな」
時刻が本当に用があったのは洗剤の中身ではなく中身が入っていたボトルだった。
色にはそれぞれ意味がある。
時刻はそれを利用した。
陳列されている商品の色も利用しながら。
怪しまれないようにさりげなく。
主張しすぎずそれでいて目には映り。
意識には残らずとも無意識には残るよう。
数種類の色のボトルを配置し、操想術をかけやすくするための下地を形成した。
滑らせるために撒いた中身は相手を警戒させるためのものだ。
入って早々あんな目にあえば、自然、周囲の状況に必要以上に気を配る。
聴覚は過敏になり、視覚は余計なものまで捉えてしまう。
さらに言えば、相手が七実だったことが時刻にとって幸いした。
七実の見稽古はまず見ることから始まる。
見る。
見切り。
見抜き。
見定め。
見通し。
見極め。
見取る。
見る――視る――観る――診る――看る。
観察するように――診察する。
だから。
目を合わせることで発動する時刻の操想術とは非常に相性が良かった、いや、悪かったのだ。
横に倒れている男のことはほっといてまずは落ちた石刀を拾い上げようとする。
が、時刻の右腕では持ち上げることはかなわなかった。
時刻が非力というわけではない。
自由落下のみでめり込んだことも考えれば仮説が立つ。
これは超重量の物体で、これを容易く持ち歩いていた女はとてつもない怪力の所有者であると――
そしてもう一つの仮説が浮上してくる。
この女は世界の終わりに繋がるのでは?と――
どことなく人類最終と似た雰囲気を抱えている彼女。
世界の終わりに繋がるかもしれないのならばかけるべき操想術は支配ではなく――解放だ。
そうと決まれば――時刻は七実の頭部を掴み、目を合わせ、術をかけていく。
解放の操想術をかけながら支配の操想術を解くのも忘れない。
下地がまだ残っていた影響か施術は5分もかからず終わった。
人類最終は解放こそしたが直後に自身が投げ飛ばされたこともあって成果を見れていない。
「そういえば名前を聞いていなかったな……さあ、君はどうするのかな?」
人類最終の二の舞を踏まないよう、離れようと背を向けながら独り言を呟いた時刻に返事があった。
「わたしの名前は鑢七実と言います――ところで」
「む?」
反応し振り向いた瞬間、闇色の目があった。
■ ■
「その汚らわしい手でわたしに触れましたね――この、草が」
一瞬で吹き飛ばされた。
時刻には何をされたのかわからなかった――認識できる事象の範囲を超えていた。
操想術によって解放された七実は何の技術を行使することなく、ただの純粋な反射運動のみでやってのけたのだ。
壁に叩きつけられたことで背中の傷口が開く。
鋭い痛みが蘇るが、それ以上に時刻は喜びに溢れていた。
この鑢七実という女は――当たりだ。
当たりも当たり、人類最終に匹敵するかもしれない大当たりだ。
そんな時刻の考えがわかるはずもない七実は吹き飛ばしただけで満足するはずもなく、時刻に迫っていく。
虚刀流の足運びも忍法足軽も使用せずただ歩いているだけなのに、瞬間移動をしているかのようだった。
壁にもたれるように座り込む時刻の左足を七実が踏みつけた。
繰り返し、繰り返し、繰り返し。
時刻の反応などまるで構わず――踏みつける。
「草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。
草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。
草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が」
大動脈が潰されたことで血がどくどくと流れ出る。
背中を刺され、腕を捥がれてもまだ、体内にこれほどの血が詰まっていたのか――
そんな時刻の反応を尚も構わず七実は踏み続ける。
「草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。
草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。
草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が」
程なく――時刻の左足は失われた。
跡形もなく――ただの血だまり、肉だまりと化した。
これは、逃れられないな――このような目に遭ってもまだ意識のあった時刻は自らの死期を悟る。
だが、心は晴れやかだった。
ああ、自分は世界の終わりに近づけたのだ。
直接見ることが叶わないのが心残りではあるが――やはり死心地が違う。
薄れゆく意識の中、声がした。
『これ以上は駄目だよ、七実ちゃん』
一緒に入ってきていたあの男だ。
目が覚めたのか。
しかし、手遅れだ。
もう解放されてしまっている。
人類最終のように不完全な解放ではない。
止める手立てなどありはしないのだ。
「禊…さん、わたしの邪魔をしないでください」
『そんなこと言ったって無茶な動きをしたせいで体がボロボロじゃないか』
「関係ありません。警告は一度だけですよ」
『僕が気絶してる間に何かされちゃった感じなのかな?安心して、それも「なかったこと」にしてあげるから』
途端、目の色が変わる。
戻る。
止まるはずのない解放が――止まった。
「何故だ!何故邪魔をする!」
気づけば時刻は叫んでいた。
これ以上流れ出る血もなく、ただ安らかに死を待つだけの体に鞭打ち、あらん限りを振り絞って叫ぶ。
「その女は人類最終にも勝るとも劣らない世界の終わりへと向かう可能性だ!
だからこそ解放してやったというのに何故戻す!
人類最終のときとは違う、完全な解放だ!」
「完全な解放?まさかあれがわたしの全力だと思っていたのですか?」
「何……?」
突き落とすかのような言葉だった。
「わたしの全力はわたしだって耐えられませんよ、あれで完全な解放だなんて滑稽も甚だしい」
では、さっきまでのあれはなんだったのか。
解放では、なかったのか……?
「最初の方はおっしゃっていた下地……とやらの影響でしょうか、わたしに逆らう術はなかったんですよ」
下地のことがわかっている――最初から失敗していたのか?
さらに時刻にとって衝撃の言葉が続けられる。
禊、と呼ばれた男も口を挟んできた。
『えーっと、僕には状況が理解できないんだけど……何?世界の終わりなんてものが見たかったの、君は?』
「何が、『なんてもの』だ!お前らごときに何がわかる!」
『でもさ』
ずい、としゃがみこんでくる。
視界はもうおぼろげで輪郭くらいしかわからないが、簡単な操想術ならかけられる。
時刻の思惑通り正面に球磨川の顔がやってくる――
そして。
目を、合わせた――
が。
『ほら、僕には何もできないでしょう?そんなんで世界の終わりなんて見れるわけがないじゃん。ばっかみたーい』
そのとき隣に都城王土がいたとはいえ、受信の異常を持つ行橋未造に「思考が全く読めない」と評された彼である。
眼球に何かが浮かぶはずもなく、鏡のように反射し、放たれた操想術はさながら呪い返しのように時刻に返る。
「ぐ、うぅ……」
それでも、時刻は完全に自我を失ってはいなかった。
瀕死で放った操想術が不完全だったのか自身に耐性があったのかはわからない。
「まだ……まだだ。ここまで来て終われるはずがないだろう」
血を流し尽くし、唯一の目標を折られ、肉体も精神も抜け殻となりかかって尚、生きようとしていた。
世界の終わりに近づける可能性なのだ。
先程の解放が不完全?ならば今度こそ完全な解放をさせるまで。
こんなところで邪魔立てされるわけにはいかない。
そこに、とどめが刺さる。
「禊さん、ちょっとどいてくださいますか。この方の言っていた操想術とやら、試してみたいんです」
『んん?いいよー』
操想術を試す?一体何を言っている。
この技術は一朝一夕で身につくものではない。
それなのに、何故、その色はなんだ。
やめろ。
そんな色で見るな。
そんな色の目で――
再び闇色の目がやってくる。
目を合わせられた時刻に抵抗ができるはずもなく、辛うじて繋ぎ止められていた意識がぷっつりと切れた。
■ ■
「大体こんな感じですかね」
『終わったの?』
「ええ、まあ。といってもこれ、調子が悪かったみたいなので本当に効果があったかどうか疑わしいですがね」
これ、ともう動かなくなった時刻を言葉だけで示し、球磨川と言葉を交わす七実。
彼女の見稽古は時宮の繰想術までも見取っていた。
支配の繰想術と解放の繰想術、それぞれ一度ずつしか見ていなかったため不完全ではあるが。
事切れた肉塊には既に興味を失い、見据える対象は球磨川一人のみだ。
『でも彼は何がしたかったんだろうね?世界の終わりがどうとか言ってたけど。』
「そんなこともわからず挑発していたのですか?」
『ちょっと台無しにしてみたくなってみただけだよ。それに僕はマイナス十三組のリーダーなんだから七実ちゃんに危害を加えるのを見過ごせるはずないじゃないか』
「ぬるい友情――ですか」
『あ、覚えててくれたの?
三つのモットー』
「いいモットー――いえ、悪いモットーでしょうと言ったではないですか。むなしい勝利も手にしてしまいましたし」
『そういえばそうだね。じゃあこの場合無駄な努力はどうなるのかな?』
「それもわたしでしょう、操想術なんてものを見取ってしまいましたが使い道が今のところありません。それこそ無駄な努力です」
『ふうん、まあいいや。それよりもさ、食事にしようよ』
興味を失ったのは球磨川も同じでそれまでのことが「なかったこと」のように話を続ける。
「そういえば――食事をしに来たのでしたね。……どうしたんですか、禊さん?」
『ほら、この人のカバンの中サンドイッチとかおにぎりとかいっぱい入ってるよ。探す手間が省けたね』
「あら、それはよかった、いえ、悪いのですかね」
『うーん……肉が入ってるのがあったりするから七実ちゃんには悪いかも。さっき言ってたゼリー飲料探してみる?』
「わたしにはよくわかりませんし、禊さんにおまかせしますよ」
『そう、じゃあ多分こっちかなー。ついてきてよ』
二人はその場を後にする。
片手片足を失くした男には目もくれず。
■ ■
スーパーマーケットを出て再び道路に出た二人。
入る前と変わらない歩調で進み続ける。
『どうだった?口に合った?』
「悪くはありませんでしたよ。ですが、量は若干多いかもしれませんね」
『そういうときは蓋をすればいいじゃん。こうやって、さ』
手に持ったゼリー飲料のパックの蓋をひねって七実に示す。
球磨川も味が気に入ったようだったので時刻同様多めに持ち去っていた。
「これは便利ですね。そういえば、禊さん」
『なぁに?』
「その袋、食べ物以外には何か入っていなかったんですか?」
『何本か洗剤と錠開け専門鉄具ってのが入ってたよ。鍵を開けられるらしいけど僕の場合あまり必要ないかもね』
「『なかったこと』にしてしまえる――と」
『そういうこと、その気になれば鍵穴を「なかったこと」にもできるしね。なんだったらこれ七実ちゃんにあげるよ?』
「でしたら、お言葉に甘えましょうか」
『なら僕が入れてあげるよ……あれ?あの棍棒みたいなのどうしたの?』
「それなら置いてきましたよ。いつまでも持ちっぱなしというのも疲れますしね」
『疲れなんて僕が「なかったこと」にしてあげるのに』
「いつまでも頼りっぱなしというわけにはいきません」
『強がっちゃって。仲間なんだからいつでも頼ってくれて構わないんだよ』
「別に強がってるわけでは――」
否定しようとして止まる。
今更否定して何になる。
錆びた刀には温(ぬる)い馴れ合いがお似合いだ。
このまま堕ちていくのも悪くないだろう。
『どうしたの、急に立ち止まっちゃって』
「お気になさらず。頼ってもいいというのでしたら、着物と草鞋の血を消していただけますか」
『お安いご用。それにしても七実ちゃんも結構潔癖なんだ、僕と同じだね』
球磨川禊。
マイナス十三組のリーダー。
好きな相手と一緒に駄目になる。
愛する人と一緒に堕落する。
気に入った者と一緒に破滅を選ぶ。
強固(ぬる)すぎる仲間意識の持ち主。
そんな彼と同じと評された錆びた刀、朽ちる天才――鑢七実。
余談だが錆には二種類ある。
一つは、一度できてしまえば内部を浸食し続ける赤い錆。
一つは、表面に緻密な膜を作り内部を保護する黒い錆。
どちらも切れ味こそ鈍るが内部には大きな違いがある。
彼女の錆は、何色なのか――
『こんなに広い道だし、さすがに今度は迷わないよね。あ、そういえば』
思い出したように球磨川が言う。
『あの人の名前、僕知らないんだけど七実ちゃん知ってる?』
「いえ、結局わたしも聞かずじまいでした」
勝者は切望して死に、敗者は絶望して死ぬ。
時宮時刻――世界の終わりを望んだ彼がどちらであったかは言うまでもないだろう。
【時宮時刻@戯言シリーズ 死亡】
【一日目/午前/G‐5】
【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、満腹
[装備]無し
[道具]支給品一式×2、錠開け専門鉄具、ランダム支給品(2~6)
[思考]
基本:弟である鑢七花を探す。
1:七花以外は、殺しておく。
2:骨董アパートに行ってみようかしら。
3:球磨川さんといるのも悪くないですね。
4:少しいっきーさんに興味が湧いてきた。
[備考]
※支配の繰想術、解放の繰想術を不完全ですが見取りました。
※日之影空洞を覚えていられるか、次いで何時まで覚えていられるかは後続の書き手様方にお任せします。
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ。だけどちょっと疲れたかな、お腹は満腹だけどね』
[装備]『大螺子が2個あるね』
[道具]『支給品一式が2つ分とランダム支給品が3個あるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『1番はやっぱメンバー集めだよね』
『2番は七実ちゃんについていこう!彼女は知らないことがいっぱいあるみたいだし僕がサポートしてあげないとね』
『3番はこのまま骨董アパートに向かおうか』
『4番は―――――まぁ彼についてかな』
[備考]
※『大嘘憑き』に規制があります。
存在、能力をなかった事には出来ない。
自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り2回。
他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り3回。
怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。 (現在使用不可。残り45分)
物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします。
※日之影空洞を覚えていられるか、次いで何時まで覚えていられるかは後続の書き手様方にお任せします。
※
戯言遣いとの会話の内容は後続の書き手様方にお任せします。
※G-5のスーパーマーケット内に時宮時刻の死体、双刀・鎚@刀語が放置されています。
最終更新:2012年12月27日 15:43