赤く染まれ、すれ違い綺羅の夢を ◆PKyKffdMew
【0】
錆という現象は、我々人間によく似ている。
【1】
時刻は、そろそろ昼時に入ろうとしていた。
新たな屍も相当数積み重なり、このデスゲームも相当な加速を見せている。
火種は着々と芽を出しにかかり。
また、火種が新たな火種を呼び。
はたまた、一つの火種が鎮火したり。
哀れな子羊たちの命の焔は、三者三様に千者万別の輝きを見せるのだ。
それを美しいと受け止めるか、それとも物悲しいと受け止めるかは、それこそ一概には決められない。
世界の終わりを求道する《最悪》ならば、全ては同じことだと切り捨て、犯しそうに笑うか。
その命がこことは違うどこかで失われて久しい《迷子》ならば、悲しげに眉をひそめるか。
愛する者を失った《刀》ならば、受け止めもせずに拳(やいば)を振るうか。
正しすぎると称された《完成品》ならば、悲しいことだと受け止め、また胸の闘志をみなぎらせるか。
ならば―――、
世界を終わらせる《種子》の少女は、何を思うのか。
それを問おうものなら、きっと答えは返らない。
今の彼女は、解放された彼女は――狂乱している。
一人を殺めて暴走し、今なお正気を取り戻さないままだ。
その
想影真心は随分前に響いた放送の内容も理解せぬままに、ただ徘徊を続けている。
その様はまるで浮浪者のようでもあり、また狂乱の檻に囚われし化け物のようでもあった。
今は既に亡き《操想術士》の手で解き放たれ、自我があるのかどうかは定かではない。
一見すると無防備なその姿だが、もしも彼女と戦おうと考えれば例外なく痛い目を見るだろう。
橙色の髪に、童児と見紛う華奢な体格。
とてもじゃないが、傍目からは彼女が《人類最終》と呼称される限りなく人外に近い怪物であることを見抜ける者はいないのではないか。
そんな真心は現在――文字通り、さまよっていた。
何をするでもなく、何を求めるわけでもなく。
「――――――」
彼女をこの支配から抜け出させる《鍵》になる可能性を秘めた人物は、ただ一人存在する。
彼を形容するならば、名簿にもあった通り《
戯言遣い》。
ある殺人鬼は《欠陥製品》と呼称したし、《詐欺師》でも間違いではないだろう。
こうして語ると何とも近寄りがたい人物に聞こえるが、真心にとって彼の存在はあまりに大きい。
実験動物同然だった真心にとって、唯一心から友と呼べる。そんな存在だった。
数時間前、
時宮時刻の術さえ振り切っての暴走攻撃に至った理由が、それだ。
《戯言》というワードは、想影真心の中で一つの重大な意味を持っている。
戯言遣い。
この殺し合いが始まってすぐの頃には、彼に会うために行動していた。
今は見る影もなく、こんな風に狂い果て、破壊者として徘徊を続けている。
人類最終――かの人類最強を、単純なパラメーター上の数値でなら上回る怪物。
いくらオンボロだったとはいえ、アパート一軒をいとも容易く完璧に破壊してしまえる程の強さ。
それとは対照的に心に隠した一つの弱さ。
戯言遣いという《断片(ピース)》が収まることで補われるべき箇所が、補われていない。
「―――いーちゃん」
口から譫言のように漏れた渾名が、今ではとてつもなく懐かしくさえ感じる。
未だ正気を取り戻さない真心の、たった一つの拠り所。
まともな判断力が機能しているかどうかも疑わしいのに、その名前だけは消えない。
どうしようもなく歪で―――噛み合わないからこそ確かな絆。
絆なんて不確かなものが、果たして想影真心を救う鍵になるのか―――
それとも、逆に彼女を完全に崩壊、覚醒させる起爆装置になるのか―――
最良か最悪か。
つまるところ、極論を言えばこの世にあるそれ以外の結末は、物語にとって不要なゴミ同然だ。
そして、真心を救うにしても、真心を壊すにしても、それに準ずる《最果て》が必要なのである。
ハッピーエンドにしろ、バッドエンドにしろ、だ。
例えば、本来の歴史で真心が辿った根こそぎの物語の最果てにあった、ハッピーエンドのように。
例えば、人類最悪の遊び人が夢見た根こそぎの物語の最果てにある筈だった、世界の終わりのように。
彼女には――結末が必要だ。
ふらふらと覚束ない足取りで、しかし見る者が見たならその秘めたる力の大きさにたじろぐだろうほどの強さを全身から放って、真心はさ迷う。
向かう先に何があるかなんて、考えていない。
まして、何がしたいかなんて、考えているわけがない。
橙の髪の毛を時折揺らしながら、小柄な少女は虚ろにさ迷う。
瞳に光を写さずに―――実に戯言めいた運命を背負って。
人類を終わらせ得る《最終》の物語は、何事も起きずに続いていく。
ただし――この世界が一つの物語だったとしたら、その《作者》は余程悪趣味だったのだろう。
彼女の行く先には、二人の《毒物》があった。
片や、前日本最強と謳われる錆び付いた刀。
片や、誰もが認める負の権化たる少年。
彼ら風の表現を用いるなら、《過負荷(マイナス)》といったところだ。
想影真心と彼らの邂逅。
それが、マイナスの結果を生む以外有り得ないことは当然だった。
戯言的に――最終的に、最悪だ。
【2】
一方その頃、
球磨川禊と鑢七実の二人は、何をするでもなく目的地を目指していた。
戦闘においては残虐性を剥き出しにする七実も、普段からああも獰猛者なわけではない。
対する球磨川。彼は基本的に、弱者の味方である。
七実を果たして弱者と見なせるかといえば断じてノーと答えられるが、彼女は確かに過負荷だ。
平たく言えば、《こちら側》の人間。
七実と球磨川は大分歳が離れているが、現在はマイナス13組の同志であり、仲間である。
球磨川禊という少年は誰もが認める過負荷だ。
しかし、彼は極論的に言えばどうしようもない程に《仲間想い》なのだ。
だから仲間を裏切る行為はまずしないし、仲間を失えば激しい動揺を見せる。
二人がそういう人間だからこの協力関係は成り立っているのだが――、人間一人を虐殺しておいて、またそれを見ていてこんな風に過ごせるあたり、彼らはどうしようもなく過負荷だった。
『うーん、なかなか遠いね骨董アパート』
球磨川は気だるそうに欠伸を一つする。
全てをなかったことにする過負荷を保有する球磨川も、根本では人間だ。
長い運動をすれば疲れは溜まるし、延々と歩き続ければ飽きもする。
そういう面では、飽きを見せる様子のない七実はやはり彼より大人だった。
「そうですか? わたしは全然疲れていませんけれど――ああ、それは忍法のおかげでしたね」
加えて、かつて葬った真庭忍軍のしのびから《見取った》忍法足軽。
病弱な七実を支える上で、なくてはならないものとなっていた。
仮に球磨川禊が鑢七実に襲い掛かっても、きっと数秒と保たずに倒されてしまうだろう。
唯一の欠点を克服した七実の力量は、それこそ計り知れないものがある。
ともかく、そんな二人は方針通りに骨董アパートを目指していた。
多少ばかりのイレギュラー要素は入ったが、問題にするようなことではない。
休息をとらなければならないほど、互いに消耗はしていなかった。
「そういえば禊さん、わたしはいずれ優勝しようと思っているのですけど」
『ああ、そういやそういう設定もあったね。でももう死に設定じゃないかい?』
「いえ、そうはいきません」
はっきり言うと、球磨川禊は今の今まですっかり七実のスタンスを忘れていた。
負完全の同志として、すっかり彼の心情とする『ぬるい友情』に浸っていたのだ。
だが思い出してもさして取り乱すような真似はしない――この程度で壊れる球磨川禊ではない。
過負荷の群体、マイナス13組の実質的なトップが、その程度で務まる筈がないのだから。
死の危険くらいで潰れていては――
あの『致死武器』や『不慮の事故』に笑われてしまう。
『まぁいいや。それはその時になったら考えるとしようぜ』
だから、彼はマイナスらしく明確な回答を求めなかった。
回答を先延ばしにする。最善手でありながら、なかなか打ち出せない一手である。
何しろ、それは死の危険を隣に侍らせておくことと等しい。
裏切りに疑心暗鬼になることもあるだろう――ただ、それは幸福(プラス)の言い分だが。
人を何かのきっかけがあるまで信用できる。
それは十分すぎる幸福だ。
球磨川禊は、それすら満足に出来ない人間を知っている。
過負荷なら、裏切りなんてものを恐れない。
裏切られたって「ああ、こうなっちまったか」の一言ですっぱりと諦められる。
―――ぬるい友情なら、断ち切るのだって容易いのだ。
球磨川の仲間想い気質を考えると少々あれだが、球磨川禊は言うまでもないマイナスだ。
やがて訪れる裏切りを危惧して怖じ気づくような真似をする筈もない。
それどころか、その選択肢自体がまずない。
《彼ら》は――そういう生き物だ。
ぬるい友情に浸り。
無駄な努力をし。
むなしい勝利を手に入れる。
生まれついての負け組で、だからこそ永遠に負け犬で、しかし精神だけはいつでも勝ち馬だ。
「じゃあ、そうしておきましょう」
七実は球磨川の返答を、突っかかることもなく簡単に受け流す。
球磨川から過負荷と認められた彼女は、球磨川の行動に疑問を抱かない。
最悪だとは思っても、それを嫌悪はしない。
そういう意味では――彼らと、とある戯言遣いは違う種類の生物だった。
球磨川禊を人間未満と呼んだあの青年は、過負荷とはまた違っていたように球磨川は思う。
鏡の向こうの存在のように、酷似していながら決してイコールではない。
言うならばノットイコール、彼と球磨川はそういう関係にあるらしい。
何とも歪で――気持ちの悪い間柄だ。
「――――おや?」
その時、不意に鑢七実がその足を止めた。
忍法足軽の恩恵を受けている彼女が、疲れで足を止めたとは考えがたい。
ならば何か――その理由は単純にして明快、足を止めるだけの理由があったからだ。
前日本最強を立ち止まらせるほどの存在が、前方に見えた。
『どうしたんだい七実ちゃ……うおっと。見るからにヤバそうなのがいるね』
「はい。さっきの方なんかとは比べ物にならない手練れのようですね」
遠くからでも確認できる、鮮やかな橙色の頭髪。
太い三つ編みが、その小柄な体つきにやけにマッチしているように感じた。
少なくとも七実よりは年下、球磨川とは然程歳が変わらないのではないだろうか。
ただし、全身から放たれている溢れんばかりの威圧感は、彼の比ではない。
球磨川が見ても一目で分かるような、明らかな異物だ。
『で、どうする?』
「どうすると言われましても……逃がしてくれるかは分かりませんし。――まぁ、さっき会得したのも使ってみたくはありますし都合が良いかもしれませんね」
『ひゅー、かっくいー』
指笛を吹いて七実を茶化す球磨川だが、七実は橙色の存在を球磨川よりは重く受け取っていた。
七実の知る限り、七実の知る時間軸の限りでは、自分の弟より強いかもしれない。
勝てないということはなくとも、少々気合いを入れなければいけないのは確かだった。
七実は錆び付いた刀だ。
戦うほどに朽ちて行く、呪われた天才だ。
だが、幼い頃から見てきた虚刀流の奥義はしっかりその身に刻まれている。
真庭のしのびから得た忍法足軽、爪合わせもある。
一番新しいものでは、ついさっき殺した男の《操想術》。
戦いの中で会得できるものもあるだろうし、そこまで不利な戦いにはならない筈だ。
だが―――、
(おや。珍しい感覚ですね――胸騒ぎというやつでしょうか)
鑢七実にしては珍しく、胸騒ぎが彼女の中に響いていた。
警鐘というほど大袈裟なものではないが、気を抜けば殺される、そう告げているようではあった。
当然、マイナスの資質を持つ七実はそれを無視する。
こちらの姿を見かけるなり驚異的な速度で接近してくる橙色――想影真心を迎え撃つのみ。
真心の速度を見ても、七実も球磨川も驚きはしない。
七実にだってこれくらいの芸当は朝飯前だし、球磨川の知る限りでもこの速度で走れるような怪物は存在した。
そして、人間の限界を超えた速度で駆ける二人の女性が交錯する。
「散りなさい」
七実の放った攻撃は、只の拳――しかしその実は、戦闘経験から放たれた鋭い一撃だ。
真心はそれを悠々とかわすが、それは悪手だ。
「雛罌粟」
虚刀流の奥義が、無防備な真心の頭を潰さんと放たれる。
かわせるような距離ではない。
必殺を確信した七実だったが、真心はその一撃を――バックステップで威力を殺し、受け止める。
今度は真心の手番。
繰り出すのは、《殺し名》の頂点に君臨する《匂宮》がエースの十八番。
一撃必殺の平手打ち、
匂宮出夢のみに許された必殺技、《一喰い(イーティングワン)》!
溜めが大きいのが玉に瑕だが、掠りでもすればその威力は十分に味わうことが出来るだろう。
猛獣のあぎとに喰い千切られるような衝撃で、痛みさえなく肉を食い散らかす。
しかし、そこは前日本最強。
破壊をもたらす平手の一撃を、同じく驚異的な身体能力で避け、一度上に跳躍し、立て直す。
髪の毛を数本掠めただけに被害は止めたが、その威力は十分に実感できた。
七実の非力な体にあれを一度でもまともに喰らえばひとたまりもないのは明白だ。
厄介ですね――七実はそう思うが、彼女にも策はある。
彼女が天才たる最大のゆえん。
父に命を狙われる原因の一つともなった、天性の《目》が妖しく光る。
「さあ、もう一度見せてみなさい――」
鑢七実の見稽古は、二度見ることで完全にそれを会得する。
殺し屋の絶技だろうが例外なく、吸収して自分のものにする。
溜めの大きさという欠点は見えたが、虚刀流の奥義や忍法足軽を合わせて工夫すれば、克服することは不可能ではないように思えた。
七実が持つ天性の資質は、《一喰い》の本来の持ち主さえも凌駕する。
「――――」
しかし、想影真心は何かを感じ取ったのか、一喰いを放つことはしなかった。
自我を限りなく喪失していても、流石は人類最終。
そう簡単に敵の思う壺にはならない。
「………では、またこちらからいきますよ」
凶器に匹敵する打撃が飛び交うが、二人は互いの攻撃を全て避けていた。
常人なら目で追うのも厳しいような激戦の中でも、息ひとつあげない二人の怪物。
七実は攻撃のバリエーションなら真心に勝る。
虚刀流の奥義は、現代人の真心の経験程度では計れない。
単純な破壊力なら一喰いに劣るかもしれないが、当て方次第で更に大きな威力を産み出すことも可能だ。
その筈なのだが――この勝負、七実に勝てない道理はないのだが――。
七実はこれまで感じたことのないものを、目の前の少女から感じていた。
恐怖ではない。
彼女が恐れるものなど、この世にあるのかも曖昧だ。
不安でもない。
こうして打ち合っていても、勝利の隙を窺うだけの余裕は十二分に残されている。
憐憫でもない。
真心がどうして正気を失っているのか、その理由を知っても七実の心は動かなかったろう。
――鑢七実は、単純に目の前の存在から《脅威》を感じていた。
単純に、実力だとかそういうものを一切関係なしにして、途方もない何かを感じた。
生物の本能として、《人類最終》が何たるかを無意識的に悟っていたのかもしれない。
時宮時刻。
世界の終末を渇望した男は、七実を大当たりと称した。
世界の終わりへ至る鍵として十分な存在だと、歓喜さえ示した。
だが―――。
二つの《可能性》があったとして、二つが対等だとは限らない。
鑢七実がステータスでなら真心に勝っている。
それと同じことだ。
想影真心もまた、彼女に勝っている要素を持っている。
人類最悪・
西東天に選ばれたのは伊達ではなかったということだ。
その違いがこの戦いの決着にどんな影響をもたらすのか――語らずとも、その時はいずれやってくる。
ずっと超人同士の激戦を見守っている過負荷の少年が、過負荷な一手を講じる訳でもない。
最終対元最強――錆び付いた種子と錆び付いた刀。
二人の戦いは実に王道な――熱き決着で締めくくられるべきなのだから。
どんな事項があったとしてもそれは同じこと。
どちらかが潰れ、どちらかが立つ。
遥かの太古から変わらない弱肉強食の道理が、ここでもまた仕事をするだけのつまらない話だ。
竜巻でも起きたように変わっていく地形。
高速で移動し、ぶつかり合う二人に、舞台そのものが悲鳴をあげているようにさえ見える。
このまま戦い続ければ先に朽ちるのは、肉体に爆弾を抱える七実だ。
現にもう、体にはその兆候が見え始めている。
時間としてはそんなに経過していない筈だが、相手が相手。
一手一手の応酬が、七実の少ないスタミナを容赦なくもぎ取っていく。
(……しぶといですね)
内心で毒づきながら、七実はそろそろ締めにかかろうと決めた。
一喰いを見取ることに固執していて手が進められなかったが、流石にそれも潮時。
虚刀流の奥義をもってして、この化け物との戦いに終わりの楔を打ち込む。
描くは、いつか使った《雛罌粟》からの《沈丁花》、連携攻撃。
それで無理なら打撃技の混成接続、最愛の弟が開発した《最終奥義》で仕留めるのも一興だ。
余裕綽々――七実は勝負を決めるべく、最初にぶつけた《雛罌粟》を打つ―――
「――!!」
――それは誤りだった。
想影真心は、鑢七実の《見稽古》にも近しい吸収力を持っている。
一度見た《雛罌粟》を見切っていたとしても、何ら不思議はない。
一度学習したその攻撃を完全に避け、七実に生じたほんの僅かな隙を、スロー映像でなければ見抜くことの出来ないような極少の隙を―――引き裂いた。
「か、ぁっ!」
放たれたのは手刀。
少女の姿から放たれるところを見れば大層弱そうだが、その威力は人間のそれを遥かに超越する。
無防備な七実の腹部を――《ばっさりと》切り開く。
内臓までしっかり両断して、腹の半分以上を切り裂いて、そこでやっと止まった。
噴き出す鮮血。
紅蓮の赤色。
病的に白い七実の肌と比べて、その赤色はやけに目立つ。
その赤色を見た瞬間、想影真心の中の何かが再び《ブレた》。
『おいおい、いくら温厚な僕でも――こりゃあ黙ってられないね』
真心に向かって、これまで完全に蚊帳の外だった球磨川禊が大螺子を持って突貫する。
無論言うまでもなく、彼が真心に敵う筈がない。
少なくとも今の彼のスキルでは、橙なる種に敵う理由が一切ない。
ただでさえ敗北の星に生まれついた《勝てない》男に奇跡は――
『ぐぁあっ!!』
もちろん起こらなかった。
回し蹴りが球磨川の脇腹に突き刺さり、肉を散らして内臓を削った。
たったそれだけで、時間にして僅か五秒で、球磨川禊は地面に朽ちる。
ひどくマイナスな男の、マイナスらしい敗北が彼の終わりだった。
まぁ――彼らしいといったところか。
「―――あか」
赤色。
その色を、真心は知っている。
人類最強。
あの赤色を、知っている。
真心は七実と球磨川には目もくれずに駆け出した。
明後日の方向に、学者が目を回すような埒外の速度で消えていく。
こうして、最終対元最強の戦いは、最終が《終わらせた》のだった。
【1日目/早朝/G‐6 薬局付近】
【想影真心@戯言シリーズ】
[状態]解放
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:壊す。
1:いーちゃん。狐。MS-2。
2:車。
3:赤。
[備考]
※ネコソギラジカル(中)、十月三十一日から
※三つの鎖は『病毒』を除き解除されています
※忍法断罪円を覚えました。
※虚刀流『雛罌粟』、鑢七実の戦闘スタイルの一部を会得しました
【3】
勝者が消えた。
敗者二人は、黙って朽ち果てる。
二人ともまだ辛うじて息はあるが、七実はまず確実に手遅れだった。
重大な臓器を真っ二つにされ、血液だって全身の何割を失ったか分からない。
球磨川は彼女に比べたら軽い傷だ。
しかしそれでも、その程度は即座に処置を施さなければならないような大傷である。
もちろん、この場に医療設備などない。
彼を助けてくれるような人物もいない。
負け犬(きらわれもの)は不要物(きらわれもの)らしく――たった一人で消えていく。
ここに、二人分の屍が生まれた。
【鑢七実@刀語シリーズ 死亡確認】
【球磨川禊@めだかボックス 死亡確認】
『ま、嘘なんだけどね』
【鑢七実@刀語シリーズ 復活】
【球磨川禊@めだかボックス 復活】
死は免れないような大傷を負っていた少年・球磨川禊は何事もなかったかのように直立していた。
負った傷は痕も残らず癒え、完調以外の様子にはどうやったって見えない。
彼は別に、特殊な再生細胞を持った超人ではない。
ただ、人より大きな《欠点(マイナス)》を持っているだけであって。
『大変だったよ、怪我をなかったことに出来なくってさ。わざわざ死ぬのを待たなきゃなんなかった』
球磨川禊は、《大嘘憑き》という過負荷を持っている。
オールフィクションの名の通り、その効力はあまりに絶大。
現在では細かな制約がつけられてしまっていたが、自分と七実の死を《なかったこと》にすることくらいは容易かった。
死んでいた筈の七実も、意識こそないが息を吹き返し、怪我は綺麗さっぱり消えている。
真心に負わされたダメージはすっかりチャラになり、屍から二人は返り咲いた。
『とりあえず七実ちゃんが目を覚ますまで待たなきゃね』
言うなり球磨川禊は地面に胡座をかいて座り込む。
七実が目を覚ますまで、彼は一時の休憩を取ることにしたのだった。
その胸の内で、これまであった色々なことを回想しながら。
【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(大)、気絶
[装備]無し
[道具]支給品一式×2、錠開け専門鉄具、ランダム支給品(2~6)
[思考]
基本:弟である鑢七花を探す。
1:………
2:七花以外は、殺しておく。
3:骨董アパートに行ってみようかしら。
4:球磨川さんといるのも悪くないですね。
5:少しいっきーさんに興味が湧いてきた。
[備考]
※支配の繰想術、解放の繰想術を不完全ですが見取りました。
※日之影空洞を覚えていられるか、次いで何時まで覚えていられるかは後続の書き手様方にお任せします。
※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ。だけどちょっと疲れたかな、お腹は満腹だけどね』
[装備]『大螺子が2個あるね』
[道具]『支給品一式が2つ分とランダム支給品が3個あるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『1番は七実ちゃんが起きるまで休んでおこう』
『2番はやっぱメンバー集めだよね』
『3番は七実ちゃんについていこう!彼女は知らないことがいっぱいあるみたいだし僕がサポートしてあげないとね』
『4番はこのまま骨董アパートに向かおうか』
『5番は―――――まぁ彼についてかな』
[備考]
※『大嘘憑き』に規制があります。
存在、能力をなかった事には出来ない。
自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り1回。
他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り2回。
怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。 (現在使用不可。残り45分)
物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします。
※日之影空洞を覚えていられるか、次いで何時まで覚えていられるかは後続の書き手様方にお任せします。
※戯言遣いとの会話の内容は後続の書き手様方にお任せします。
最終更新:2013年12月02日 22:34