神に十字架、街に杭 ◆mtws1YvfHQ
黙々と
零崎軋識は歩く。
まず目指すのはクラッシュクラシック。
トキを、
零崎曲識を、殺した奴を殺し、その一族郎党余さず皆殺しにする。
それは良い。
それは良いが、情報がなければそれも出来ない。
そのためにはまず死体を見付け、どう殺されたか調べなければならない。
のもあるが、何よりも弔ってやりたい。
他の『家族』の誰かが既にやっている可能性もあるが、それでも見付けて損はない。
「…………」
そう思っても、口惜しい。
何故、『家族』の事を疎かにした。
何故、『他人』の事を優先したか。
何もかも殺しても殺し足りない。
『家族』を守り通すと決めてもまだ足りない。
償い、足りない。
しかし今思い悩んでも意味はない。
見付けなければ意味がない。
そのためのクラッシュクラシック行き。
「きっとあそこに向かってるはずっちゃ……!」
人識は分からないが、レンならきっと、クラッシュクラシックに向かっている筈だ。
『家族』思いのレンが向かわないはずがない。
だからそこか、その途中で合流出来る。
そうすれば全身全霊を持って守る事が出来る。
「ん?」
何か、何処からか音がした気がした。
耳を澄ませる。
足音。
それが近付いて来ている。
自然、《愚神礼賛》を握り直す。
誰か知らないが殺す。
会場にいるなら殺す。
足音に向けて進む。
走っていたレンがいた。
「――レン!」
思わず声を掛ける。
声を掛けた瞬間、離れるように横に跳び、十字架を構えた。
そして小脇に抱えていた、
「子供かっちゃ?」
子供を降ろす。
何をやっているのか
思わず怒鳴り付けたくなる。
老若男女容赦なく、関わりがあれば殺し尽くす。
特に今回はもう一人死んでいる。
尚更、ここにいると言う関わりを持つ人間を殺さないといけない。
それが基本の筈だ。
それが普通の筈だ。
それが通常の筈だ。
それが当然の筈だ。
なのに、
「レン!」
「近寄るな!」
「ッ!」
何故、『家族』に武器を向ける。
何故、『家族』に殺意を向ける。
何故、何故、何故。
どうして。
「また似たような手で騙せると思ってるのか貴様は!」
「……は?」
「今度はなんだ? 正面から不意討とうって魂胆だろう。違うか!?」
「お、おい、落ち付くっちゃ!」
どうして。
どうにも妙な事になっている。
俺が誰か分からないのか。
『呪い名』に何かされた訳でもあるまいし。
いや、ざっと見ただけで定かではないが、確か、あろう事か、あの名簿には、『時宮』の名前があったはずだ。
もしかしたら、そう言う事なのか。
「――落ち付け、レン。俺は他の誰でもない、『呪い名』の野郎共じゃない、紛れもなく、零崎軋識だっちゃ」
「……悪いがまだ信用ならないな」
「だったら何を言えば良い?
お前は《自殺志願》を使わない方が圧倒的に強い事を言えば良いのか?
お前の特技がコサックダンスだって事を知ってるって言えば良いのか?
それとも……それともお前がかなりの変態だって事を知ってれば良いのか?」
「…………おい」
「事実だろ」
そこまで言ってようやく、顔が引き攣らせてはいるものの、十字架を下ろした。
後ろの子供を守るように。
言い様のない苛立ちが湧き起こるが、堪える。
今この苛立ちに流されれば今度こそ本当に偽者と思われるかも分からない。
それに少し前まで人の事を言える立場じゃなかった。
歯を食い縛り、何とか堪えた。
「――――それより、その、子供は、なんだ?」
堪えた、と言ってもまだ残っている。
心の奥底から未だに湧きつつある不満。
それが言葉を途切れ途切れにさせていた。
何とかそれ以上何も出ないように押し留め、睨み付ける。
レンは肩を竦めた。
「何って、協力者に決まってるだろう?」
「協力者だぁ?」
事もなげに協力者と言った。
よりにもよって、『家族』が殺されたにも関わらず、協力者。
こいつは一体、何を言っている。
何故殺してないかと思えば協力者。
この場所にいると言う立派な関係者なのにも関わらず協力者などと温い事を言って、殺していない。
思えば思うほど、考えれば考えるほど、
「レン…………この、馬鹿野郎!」
耐え切れない。
堪え切れない。
よもやそんな甘い男だったと思いたくない。
よもやその程度の男だったと思いたくない。
人一倍『家族』の事を大事にし、大切にし、それ故に特攻隊長などと言われていた男がこんな甘かったと思いたくない。
しかし、目の前にあるのが事実だ。
「この会場にいる関係者ならなんで殺さない!
この場所にいると言う理由でなぜ殺さない!
なんで殺さない!
理由として充分だろ!
理屈として充分だろ!
なのになんで殺してねえんだお前は!
『家族』でもない奴を殺したくないって訳じゃねえだろ?
それとも何か別の理由で殺せないって言うんだったら、俺が、殺して」
《愚神礼賛》を振り上げ、
「馬鹿野郎!」
「がっ!」
その瞬間、殺気と共に眉間に衝撃が走った。
殺気があったから咄嗟に衝撃を和らげる事が出来たが、それでも十分痛い。
十字架を握った方とは逆を振り終えた姿勢のレンの姿が目に入る。
殴られた。
そう気付く。
死にそうなほどではないにしろ、あろう事か、『家族』に殴られたと思うとなお痛い。
痛みが増す。
「お前、何を……!」
「馬鹿だから馬鹿だと言ったんだこの馬鹿が!」
「レン! 幾らお前でも」
「許さないとでも言う気か? だったらそれで構わない」
「なにっ!」
予想を遥かに超えた剣幕に尻込みした。
僅かに気圧され、下がってしまった。
そうなってもレンの言葉が止む気配はない。
「確かに関係している。間違いはない。この場にいるんだからな……だが考えろ! もし俺達の手に余る事態が起きたらどうする? その時になって殺さなければ良かったじゃ済まないんだぞ!」
「た、確かにそうだが……」
振り絞るように、言葉を続けようとするが、続かない。
現実的に考えればその通り。
事実、思い当たる節が幾つもあった。
例えば、《害悪細菌》のような破壊。
例えば、《猛獣》のような探索。
例えば、俺の現地行動。
それぞれにはそれぞれにあった輩が居るのは、骨身に染みて分かっている。
手を取り合う『家族』ではなく、目の敵のような『他人』のお陰で。
「とりあえず……」
レンが一瞬子供を窺い見て、その首筋に手を当てた。
子供が前のめりに倒れた。
動かない。
当て身。
気絶させたのか。
「今殺すのは不味い。さっき言った通り、殺してから後悔では遅いんだ。殺すなら――全てが終わった後。そう思わないか?」
射抜くような目が向けられた。
そう言えば普段付けている伊達眼鏡がない所為で諸に視線が身体を射抜く。
一時の激情に身を任せて皆殺しにしようとしていた俺と、それを堪えて今後を考えて行動しているレン。
どちらが正しいかなんて考えるまでもないだろう。
それでも、そうと分かっていても、
「――悪いが、そうは思わない」
口から衝いて出たのは同意とは真逆の、否定の言葉だった。
レンが目を閉じ、空を仰ぐ。
「何故」
「嫌だから、だ」
もし協力するとしても、その中にトキを殺した奴が紛れ込んでいたとしたら。
そんな想像、一時足りとも耐えられない。
顔を戻し、睨み付けてくるレンの眼が鋭く光った気がし、同時に殺気が湧き上がり始めた。
そうだろう。
頭ではどれだけレンの話が正しいと分かっているのに、否定の材料もなくただ否定だけされる。
ただの子供の我が儘に近い。
きっと俺自身であっても殺気を抑え切れない。
だから、レンは正しい。
間違っているのは俺だ。
故に、『家族』に殺気を向ける行為を、咎められない。
「猶予はやる……次に会う時までにその子供を殺しておけよ。『家族』以外生き残らせる道理なんて無いんだからな」
それだけ言って、横を通り過ぎる。
刹那、レンの体が激しく震えているのが見えた。
口で言っても、理屈も何もなく否定されたのが口惜しいのか、はたまた別の理由か分からないが。
「クラッシュ・クラシックで待ってるぞ」
「このっ!」
殺気が背を叩く。
大人しく殴られる覚悟は出来ていた。
殴られても、少ししてまた仲直りすれば良い。
漫画のような話だが、それで良い。
唯一無二の、『家族』同士。
出来ない道理はないのだから。
「馬鹿野郎!」
そう思っていた中、頭を、今までにない衝撃が、襲った。
「が、ああ!」
絶叫が上がった。
それでも武器に力を込めようとしている零崎軋識の脇腹に、頭を殴った流れで十字架を打ち込む。
鈍い音が鳴り、くの字に折れ曲がって地面に倒れた。
だが、手を緩めるにはまだ早い。
空かさず軋識の右肩に十字架を振り下ろし、砕く。
「ぁが、ぐがが!」
再び絶叫を上げた所で手を止める。
と見せ掛けて左肩を。
次いでに腰骨も。
そこまでやって、今度こそ手を止める。
「がががあがががが」
最早何を言おうとしているのかも分からない。
何処をどう動かそうとしても痛みが走り、それどころじゃないんだろう。
腰骨じゃなく背骨にするべきだったかと一瞬思うが、大して変わらないと思い直す。
抵抗する隙を与えれば命の危機に直結しかねない相手だから、これでもまだ心細い位。
そんな奴だと話していた、だけでなく見ていて、確信したのだから。
「きゃはきゃは……って、武器持たせたまんまじゃ、まだまだ危ねえか」
口にしながら武器をもぎ取る。
辛うじて指に引っ掛かっていた程度だったが、指を外すのに少し掛かった。
思い入れでもあったのか。
如何でも良いが。
それよりも、武器だ。
振り回すのには中々の力が必要な重量感に全体に付いた鉄の棘。
当たり所次第では死に直結し、当たり所が良くても大きな傷を与えるだろう。
一撃必殺と言う言葉がこれ以上なく似合う武器だ。
「これでよし…………きゃはきゃは」
一先ず笑ってみるが、今になって冷や汗が出て来る。
真後ろから、しかも身内と勘違いしていた様子だったから一発で殺そうとしたのに、初撃の威力を殺され反撃までされる所だった。
始終疑いを持たれずにそれだ。
もし途中で、ちょっとした事ででも疑われていたら、倒れていたのはどちらか分からない。
まあ勝負になっていたとしても勝算はあった。
姿から動揺を誘い、言葉巧みに揺さぶり逃げて、不意打ち。
過程方法問わなければ幾らでも勝ち得ただろう。
そう思っても、冷や汗が止まらない。
疑われなくて良かった。
そう、未だに思う。
「お、前……な……に、者」
「きゃはきゃは。生憎ながらおれはレンだぜ?」
「嘘、を」
「付くなって? おいおい、お前がそう思いたいだけだろう、零崎軋識さん?」
意地悪く言ってみると、軋識が震えた。
姿形はどう見ても双識のそれだが、偽者だと思っているはずだ。
そこで、そう思いたいだけだ、と言われればどうなるか。
笑いながら思い悩む軋識を眺める。
体がもはや殆ど動かず、顔を動かす位しか出来ない様子だ。
そんな苦悩と苦痛に歪む顔を見てて愉しいが、
「――ま、そろそろネタばらししてやるか。確かにおれはお前の思ってる通り、
零崎双識じゃねえぜ?」
言いながら創貴を窺う。
まだしばらくは起きそうにない。
その間に、力一杯使って地面に十字架を突き刺す。
軽い力でも押せば軋識に向かって倒れそうだ。
そうして、ゆっくりと、焦らすように軋識の後ろに回り込み、
「……おれの……いや……わたしの…………名前は…………あ。あー。よし……」
身体を弄くり、軋識の前に姿を晒す。
双識の姿ではなく、
「奇策士とがめだ」
紛れもない奇策士とがめの姿に変えて。
その姿で笑って見せる。
するとそこには、驚きのあまり目を剥いた軋識の姿が目に入る。
笑いが込み上げてきた。
心の底から可笑しさが込み上げてきた。
本当ならここでネタバラシと行こうと思っていたが、一つ、悪戯を思い付いた。
このままの調子で上手く行けば面白い事になる悪戯を。
「――いや、そんな、はずがあるか! とがめって、やつは、死んだはずだ!」
「んー、何で死んだって分かるんだ?」
「何で、も、何も、不要、湖とか、言う、場所、に、死体があっ、た!」
こいつ、もう死体見てやがったか。
しかも丁度よりにもよってとがめの野郎の死体を。
仕方ない、もうバラすか。
いやいやだが待て。
「死体を見た」って事は、実際に殺した訳でもなけりゃあ話した訳でもない訳だ。
ならばここはあえて押してみるべきか。
「へぇー。それは本当に、このわたしだったのかな? んん?」
「当然、だ! それ、に、放送で……!」
言っている途中でその言葉は止まった。
軋識も言っている途中で気付いたようだ。
こっちも今まで思い付かなかった事だが。
「お前、まさか、不知火、って奴と……!」
「さあ、どうだろうな? きゃはきゃは」
苦しげに言うのを嘲笑う。
そう、放送の内容がすべて真実かどうかなど、放送で名前を呼ばれた奴が本当に死んでいるのかも、直接死体を見ない限り分からないのだ。
おれもついさっきまでその可能性には気付かなかった。
でもまああの二人は死んでるだろうなきっと。
さて、笑いながら様子をじっくり観察する。
何処まで真実か分からない不安定さ。
何を信じればいいか分からない不可解さ。
仲間だと思った奴が敵で。
その敵が死んだ筈の奴で。
混乱に混乱を重ねて正常な判断力を根こそぎ奪った今現在。
目に見えて、そして何より予想通り、面白い位に狼狽えている。
だけでなく、
「?」
何故か僅かな安心が見て取れた。
それに思わず首を傾げる。
「おい、とがめ」
「何だ、命乞いか? 何でも差し上げますってんなら聞いてやるぜ?」
「違う。一つだけ、聞きたい事がある」
「……聞いてやる理由がねえな」
「頼む――冥土の土産に、一つだけ、教えてくれ」
冥土の土産。
あろう事かこの蝙蝠に冥土の土産とは。
折角最後まで意地悪く死なせようと思ったのに。
そう言われれば、
「きゃはきゃは……そう言われちゃ断れねぇな。何だよ」
「零崎曲識って、奴、は、生きて……るか?」
零崎曲識。
その名前は記憶にある。
放送で呼ばれた中にその名前があった。
つまり死んだはずの人間だ。
だがなるほど、目の前に死んだはずの人間がいる。
そしてそいつが不知火とか言う奴と仲間だとしたら、本当に死んだかどうか知っている。
とでも思った訳か。
「…………」
もちろんそんなの知らない。
今現在言った事だって嘘八百。
冷静に考えれば可笑しな所が幾つも考え付くほど分かり易い嘘だらけだ。
だが冷静に考えられるだけの時間は軋識に残ってない。
残すつもりもない。
ならばせめて真庭蝙蝠。
冥土の蝙蝠らしい答えに、
「……生きてるぜ」
嘘を一つ。
その嘘に軋識が目を閉じ、言った。
「最高の、土産、だ。ありがとう……っちゃ」
「どういたしまして。そしてさよならだ」
答えながら十字架を押す。
十字架はゆっくりと倒れて行き、
「すま、な、いっちゃ、レン。トキ。人識――申、し訳あ、りま、せん、暴く」
何事か呟いていた軋識を――――
目を開けると僕の目の前に、麦わら帽子を被り、血塗れの服を着た、零崎軋識が立っていた。
一瞬で全身総毛立つ。
「……蝙蝠か」
が、気付いた。
もし目の前にいるのが本当に軋識だとしたら、目を覚ませている訳がない。
そう言うと軋識が、いや、蝙蝠があからさまにつまらなそうな顔をし、舌打ちをする。
「ちったぁ焦れよ、つまんねぇな」
そして、
「きゃはきゃは」
相変わらずの不愉快な笑い声を上げた。
そこまでしたのを見届け、気付けば、そして思わず、ため息を付いていた。
「ため息付くなよ。幸せ逃げるぜ?」
「これ以上逃げてたまるか」
別段蝙蝠が役立たずな訳ではない。
能力や性格性能含めたあらゆる要素のぶっ飛び具合は今まで会った大半の――会った事のある6人の魔法使いを含めた――中でも相当だ。
もしかしたら良くも悪くも五本指の中に入るかもしれない。
だけど、それでいても零崎軋識。
そのぶっ飛び具合は異常だった。
家族至上主義と言えばいいのか。
無差別殺人鬼と言えばいいのか。
釘バットを何の躊躇いもなく人間に、それに一応子供相手に振り下ろそうとした動作。
魔法と違って、飛び道具と違って、自己防衛のためと言う訳でもないのに、やらなければならない訳でもないのに、特に理由らしい理由もなく、本当の意味で自分の手で人を殺す動作を何の躊躇いも迷いもなく。
片鱗を見ただけでどれだけ危険か分かる。
だから正直不安だった。
果たして蝙蝠が騙し切れるか。
途中、騙す工程で必要だったんだろうが気絶させられるとは思ってなかっただけに。
目を覚ました時、目の前に血塗れの軋識の姿が目に入った時の恐怖は言い表せれない。
駒にこうも振り回されるのは難だが。
騙し切れて良かった。
「…………」
そう思う反面、惜しいとも思う。
あの異常なまでのぶっ飛び具合。
もちろん魔法使いではないにしても。
家族至上主義と言える考えを利用出来れば、そこそこ優秀な駒として使えたろうに。
後悔先に立たず、ではあっても。
例え蝙蝠と双識のの殺し合いが確定事項でありその時に僕が蝙蝠の手伝いをするのが確定事項でも。
例えその時に軋識が双識側に付くのが確定事項であっても。
過程までは駒として役に立っていた、かも知れない。
かも知れないに過ぎないが。
それに、あんな奴みんなを幸せにする上で障害にしかならなかっただろうが。
「……で、だ」
「あん?」
「気絶までさせといて何の情報もないでーす……なんて事はないよな?」
下を軽く出して、目だけ軽く上に向ける。
ペコちゃんか貴様。
顎を下から殴ってやろうかと考えるが、読まれたようで下を引っ込め少し真剣そうな表情をした。
「クラッシュクラシックは分かるよな?」
「ああ。それで?」
「どうもそこと零崎の奴らが関係してるみたいでな、あいつもまず行こうとしてたみたいだ。ま、おれにあったのが運の尽きだったって訳だが――きゃはきゃは」
「クラッシュクラシックか」
「笑えよ」
苛立った様子で舌打ちする蝙蝠をスルー。
付き合い過ぎると調子が狂う。
「一番考えられるのは零崎の……曲識と関係ある場所何だろうな。だとしたら双識についても何か分かるかも知れないが……」
「今行くのは危険、ってか?」
揶揄するような蝙蝠の言葉を、若干気に入らないが、頷く。
もし他の零崎、と言っても残りは双識と人識だけのはずだ、が二人とも軋識と同じようにクラッシュクラシックに向かっているとすれば鉢合わせになる可能性が高い。
何時かは双識を殺す手伝いをするにしろ。
今、クラッシュクラシックに行くべきだとは言えない。
今は、まだ。
「いやいや」
と。
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや」
と。
僕の考えに蝙蝠が首を振る。
「今だから、今だからこそ、行ける。
今、まだ二人が軋識が死んだって気付く前に、おれが軋識に成り代わってるって気付かれる前に、そう今の内なら仮に鉢合わせたとしてもすぐには気付かれねえ。
気付かれない内に殺せれば後がぐっと楽になる。
だからこそ今、クラッシュクラシックに行くべきだ」
釘バットを振り回しながら蝙蝠が言う。
それをただ、なるほど、と思う。
確かに蝙蝠の言葉にも一理ある。
そしてふと思う。
あるいはここが分岐点なのかも知れないと。
委員長としてりすかと出会ったように。
りすかと共にツナギと出会ったように。
あるいはここが大きな分かれ目になるんじゃないか。
「……一応聞くが」
「何だよ?」
「僕がどっちか決めたとしたら、お前は大人しく従うのか?」
自分で言いながら、その自分に思わず呆れる。
元々は裏切る前提で組んでいたはずなのに、どうにも蝙蝠の魔法が魅力的過ぎるらしい。
変身能力。
変態能力。
地球木霙、属性「肉」、種類「増殖」。
ツナギ、属性「肉」、種類「分解」。
単純に属性「肉」の二人と比べても、戦闘でこそ一歩以上引き離されそうだが、使える幅が広い。
なまじ戦闘に特化でないだけに、応用が利き易い。
利き易過ぎて、作戦に使い易い。
使い易過ぎて、まるで万能だ。
それこそ万能過ぎて、手に余らない。
「んー、どうすっかな」
「その場合、同盟を解消したいってんなら僕はそれでも構わないぜ?」
「行く気はないって訳か?」
「早まるな。あくまでそうなった場合は、だ。すぐ決めるにはメリットもデメリットも多い」
言いながらさり気なく蝙蝠の様子を観察する。
首を横に傾げ、目を閉じて、考え込む動作。
表情は相変わらずの笑いが貼り付いてるだけで、何も読み取れない。
関係ないが今の、華奢な男の、ガキ大将のような見た目とマッチしているようなミスマッチのような、微妙な表情。
「ん?」
ガキ大将のような見た目。
零崎軋識の姿そのまま。
服装から武器、何から何まで軋識と全く同じ姿だ。
蝙蝠から目を離して辺りを見渡す。
までもなくすぐに、背中を十字架で貫かれ地面に縫い付けられた、裸でうつ伏せの男の姿が見付かった。
道具やら何やら所の騒ぎじゃなく、服までひん剥きやがったか。
やり過ぎだろ、とは思わない。
むしろどうせひん剥いたなら素性が分からないようとことんまで遣り尽くすべきだ。
「蝙蝠」
「……もうちょい待てって」
「違う。軋識の顔をしっかり潰しとけ」
「もうやってある」
何でもないように言って、こちらに向けていた目をまた閉じた。
「ふん……」
見えてなかっかったが抜かりがない。
優秀な駒だ。
逆に言えばそれだけクラッシュクラシックに行く気満々な訳だろうが。
「……蝙蝠、こんな所で考えてて鉢合わせしたら拙い。場所を移すぞ」
「おうよ」
すぐに答えは返ってきた。
考えていたのはあくまで僕を振り回すためのフリだったのか。
そう疑問を感じるほど、答えは早かった。
だとしたら扱い辛い駒だ。
それとも僕の言葉で危険性に気付いたか。
だとしたらまだ扱い易い駒だが。
死体に背を向ける形で足を進める。
数歩も行かない内に、蝙蝠が横に並んだ。
十字架は置いて釘バットで行くようだが、上手く扱えるのか。
そんな事を思いながら頭の中で地図を開く。
山の方向からして、一番近いのはマンションか。
「マンションで少し過ごすぞ。クラッシュクラシックに行くかどうかはその後に決める。良いな?」
「ま、良いんじゃねえか? きゃはきゃは」
変わらない、不愉快になる笑い声を聞きながら考える。
早い内にクラッシュクラシックに行くべきか、行かないべきか。
一先ずはそれを。
【零崎軋識@人間シリーズ 死亡】
【1日目/午前/D-5】
【
供犠創貴@りすかシリーズ】
[状態]健康
[装備]グロック@現実
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(0~1)、銃弾の予備多少、耳栓
A4ルーズリーフ×38枚、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0~X)」、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:みんなを幸せに。それを邪魔するなら容赦はしない
1:蝙蝠とマンションに向かう
2:出来るだけ早くクラッシュクラシックに行くかどうか決める
3:りすか、ツナギ、行橋未造を探す
4:このゲームを壊せるような情報を探す
5:機会があれば王刀の効果を確かめる
6:蝙蝠の目的をどう利用して駒として使おうか
[備考]
※九州ツアー中からの参戦です
※蝙蝠と同盟を組んでいます
※診療所でなにか拾ったのかは後続の書き手様方にお任せします
【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]健康、零崎軋識に変身中
[装備]愚神礼賛@人間シリーズ、軋識の服全て
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、ランダム支給品(0~4)、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、王刀・鋸×1、諫早先輩のジャージ@めだかボックス
[思考]
基本:生き残る
1:創貴と行動
2:双識をできたら殺しておく
3:強者がいれば観察しておく
4:完成形変体刀の他十一作を探す
5:クラッシュクラシックで零崎について調べたい
6:行橋未造も探す
7:危なくならない限りは供犠の目的を手伝っておく
[備考]
※創貴と同盟を組んでいます
※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、元の姿です
※都城王土の『異常』を使えるかは後の書き手の方にお任せします
※放送で流れた死亡者の中に嘘がかも知れないと思っています
※零崎軋識の死体はD-5にありますが、服がなく顔も潰されています
死体が一つ。
顔の潰された無惨な死体。
しかしそれこそが、その死体の主のあるべき末路だったのかも知れない。
零崎の一賊でありながら《仲間》の一員である事を捨て切れず、《仲間》の一人でありながら零崎であった男の。
このような場所でどちらかに偏ろうとして、結局根本的な所で偏り切れなかった男の。
ずっと昔から決まっていた未来、なのかも知れない。
さてそこに一本残された十字架。
果たしてこれはどちらの十字架なのか。
《愚神礼賛》の十字架なのか。
『蠢く没落』の十字架なのか。
いや、結局どちらとも言えないだろう。
誰かも分からない骸と十字架。
それだけ。
それだけが、残された。
最終更新:2012年11月01日 02:26