作戦会議(策選懐疑) ◆0UUfE9LPAQ



先程遭遇した零崎軋識という男について考える。

殺気の塊のような男で。
殺意の塊のような男で。
殺気しか存在しないような男で。
殺意しか存在しないような男で。

それ故に粗暴。
それ故の凶暴。

『家族』以外は全て殺気を向ける対象としか判断せず。
『家族』以外は全て殺意をぶつける対象としか認識せず。

だからこそ、なのか迷いが見えた。
その迷いを押し殺そうとしているようにも見えた。

あれほどまでに『家族』を優先しようとしながら。
あれほどまでに『他人』を排斥しようとしながら。
それほどまでに『家族』を守護しようとしながら。
それほどまでに『他人』を駆逐しようとしながら。

本来味方であるはずの『家族』に知られてはならない領域があるようで。
本来敵であるはずの『他人』と関係するしかなかった領域があるようで。
本来味方であるはずの『家族』に踏み込まれたくない領分があるようで。
本来敵であるはずの『他人』に頼らざるを得なかった領分があるようで。

一見矛盾しているように見えるが、誰にでもあるような一面でもある。
それはつまり、零崎軋識という男はひどく『人間』らしいと言えなくもないのではなかろうか。

そして、そうであるとするならば身内とは言えなくとも仲間が死んだにもかかわらずその死を笑い飛ばした真庭蝙蝠という男はどう認識すべきなのだろうか――


 ◇ ◇ ◇

「ふん、とりあえずはここでいいだろう。入るぞ」

ガチャリ、とドアノブを捻る音に続き一人分の足音が室内に響く。
しかし、部屋に踏み入れた人数は二人。
さすがしのびというだけあって足音を立てずに歩くのが癖になっているようだ。
マンションに到着して最初に見つけたのが外に散らばる窓ガラスの破片だったので真っ先に該当する部屋を探し出し、中を見てみたがさしたる収穫はなかった。
まあ、ガラスを割るのなんて石つぶてでもあればできることだしな。
魔法が使われていたというのであれば由々しき事態だが、生憎僕には判断する術はない。
全く、りすかもツナギもどこで何をしているんだ。
特にりすか、お前なら僕の居場所くらいすぐにわかるだろうが。
さっき気絶したときに気付いてもいいはずだ。

……まさか、あの不知火の爺さんに何かされているとでも?
しかし、りすかの体をいじるなんてことそれこそ水倉神檎でもなければ――
おいおい、これは大チャンスじゃないか?
もしバックに水倉神檎がいるのなら『6人の魔法使い』なんてまどろっこしいものをショートカットして水倉神檎本人に辿りつける。
そうでなかったとしてもりすかの体をいじるなんて芸当ができるような奴なんだ、僕の駒にさせてもらおうじゃないか。

……いや、落ち着け、これはあくまで仮定の話だ。
ただの推論から発展しただけの根も葉もない妄想だ。
念のために可能性として一応頭の端には残しておくが。
万々が一本当だったときにすぐに対応できないようでは馬鹿もいいとこだからな。

それに、僕に異変が起きたときりすかも動けなかった可能性だってある。
あいつは血を流さなければ僕と同じ小学5年生の体躯なんだ、むしろそっちの可能性の方が大きい。
そうでなくても魔力を節約するためにそんなやたらめったら『省略』の魔法は使わないだろう。
いくらなんでも初っ端から『切り札』を濫用するような真似なんかしないだろうし……しないよな?

「おい、何急に立ち止まってるんだよ。入らねえのか?きゃはきゃは」

同行者である真庭蝙蝠に声をかけられてはたと気づく。
思索に耽っていたのか足を動かすのを忘れていた。
蝙蝠の外見は変わってもその特徴的な笑い声は健在で様々な声音で聞き飽きるほど聞かされている。
低い声では合わなくて気持ち悪いし、高い声では耳障りな、そんな笑い方。
できることならやめてもらいたいが一々言ったところで笑って聞き流されるだけだろうしな。
部屋の奥へ向かいながらため息をつく。
室内は3LDKの一般的な作りだった。
廊下を通りぬけ、リビングに入ったところで蝙蝠に返事する。
部屋の中央にテーブルと椅子があったが長居をするつもりはない、立ったままでいいだろう。

「別に、考え事をしていただけだ」
「ふうん、考え事ねえ」
「それよりも確認したいことがある。さっき軋識とかいう奴から荷物を奪っただろう、その中身の確認だ」
「それならお前が気絶してる間に済ましちまったよ」
「……そういうことは早く言え」
「聞かれなかったからな、きゃはきゃは」
「で、何があったのか?」
「鴛鴦の永劫鞭と、えーと、しょうじょしゅ……いや、違った、こりゃなんて読むんだ……ぼるときーぷ?」
「なんだそれは。その説明書を見せろ、ついでに現物も出しておけ」

蝙蝠の手からひったくるように支給品の説明書を奪い取る。
というか確認を済ませたのなら何で今になって名前を間違えるんだ。
そう思って説明書を見ると、


【少女趣味(ボルトキープ)】
罪口商会の罪口積雪が製作した少女趣味(ボルトキープ)零崎曲識の専用武器。
打撃武器としてかなりの威力を持ちながら、かつ最上位の音楽家が扱うとグランドピアノ級の音階が出る楽器でもある。


ふむ、これは使えるかもしれないな。
武器としてではなく、手段としてだが。
どんな形なのか気になったが蝙蝠が取り出したそれはマラカスと言って差し支えないものだった。
試しに振ってみた。
なんとも名状しがたき音が出た。
……振るんじゃなかった。
べ、別にぼくには音楽家なんて職業考えていないから構わないけどな。
硬さについては申し分ない、棍棒みたいに使えなくはないだろう。

「満足か?気持ちわりい音なんか出しやがって」

蝙蝠に窘められるような目で見られた。
生憎だがこれには反論できない……話題を変えるか。

「もう一つの支給品、永劫鞭だったか?どうやら知っているような素振りだったが」
「ああ、こいつは身内のもんだ。尤もおれには使えねえがな。きゃはきゃは」
「そうか。ならぼくも使えないと見ていいな」
「当たり前だろ、お前なんかが使えるなんて知ったら鴛鴦の奴が泣くって。全く、おれには変な形の刀しかなかったくせにこいつには三つとか恵まれてるなあ」
「武器があるだけましだろ。三つあってもどれも使えないものだった、なんてのに比べれば」

まあ、そういう意味では拳銃が入っていたぼくも運がいい方だろう。
もう一つの支給品がそこらの民家でも調達できそうなルーズリーフだったのは微妙だが。
最初に蝙蝠と遭遇したときに出てきた爽やかな男も支給品はあの十字架だけだったみたいだし。
そういえばあの男、結局名前はわからずじまいだったな、放送で呼ばれたかもしれないが知ったこっちゃない。
とにかく、今一番大事なのはクラッシュクラシックに行くかどうかの決断とその場合の作戦を練ることなんだから。

「蝙蝠、これはお前が持っておけ。使えるかもしれない」
「おれにはそうは思えないんだけどな」
「まあ聞け。
 少し話はずれるが軋識は最初零崎双識になってたお前を見たとき『レン』と呼んだよな?
 零崎双識の名前のどこにも『レン』という文字列はないのに、だ。
 それで、お前が『信用ならないな』と言ったときあいつはこう返したよな。
 『《マインドレンデル》を使わない方が圧倒的に強い事を言えば良いのか? 』と。
 この《マインドレンデル》が何なのかは僕たちにはわからないがおそらく双識の専用武器と考えられないか?
 説明書を読んだ限りじゃその少女趣味は曲識の専用武器がでありながら本人の二つ名にもなっている。
 つまり、《マインドレンデル》から取って『レン』と呼んでいるのだろう。
 となると、同様に軋識や曲識、後は名簿にいた人識ってのにも二つ名やそれを元にする呼び方があると考える方が自然だ。
 確証は持てないが曲識は大方『トキ』とでも呼ばれているんだろうな。
 だが、ここで重要なのは軋識の方だ。
 双識はお前が変身できることを知ってしまっているようだし少しでも怪しい素振りがあるとまずい。
 特に、普段読んでる名前を呼ばれて反応しない、とかはな。
 だから、クラッシュクラシックに行くのなら、双識と対決するのなら、ここで少しでも信憑性を上げておきたいんだ。
 身内なら武器などについても知っているだろうし、しかももう死んでる曲識のものだ、ぼくが持つより蝙蝠が適任だろう。
 できることなら軋識の二つ名も知りたかったが手掛かりがないしな」
「なるほどなるほど、そういうことか。納得だ」

逡巡すらしなかった。
話が早くて助かる。
ツナギはともかくりすかじゃこうもいかないからな。

「それでなんだけどよ」
「何だ」
「さっき言ってた軋識の手掛かりだが、あるぜ」
「本当か?」
「これだよ」

ずい、と肩にかけていた釘バットを袋ごと前に出した。

「ぶんどるのに結構時間かかったと思ったらどうやら思い入れの強いもんだったみたいでな、説明書読んだら納得したよ」
「で、その説明書というのは?」
「ほらよ」

差し出されたので先ほどとは違い普通に受け取る。
しかし一々支給品に説明書をつけてくれるとは親切だな。


【愚神礼賛(シームレスバイアス)】
鉛を鋳造した完全一体性の凶器。愚神礼賛(シームレスバイアス)零崎軋識の専用武器。
大戦争以前からの軋識の得物で普段は専用のバッグに入れ携帯している。


予想通り二つ名があった。
推測するに『レス』『バイ』『アス』のどれかか?
正解がどれだったところですぐ反応できれば問題ないが。
だが、軋識が放送で呼ばれることは確実。
つまり、それより前に双識とは片を付ける必要がある。
ならばこのチャンス、活用させてもらう他ないな。
移動時間を考えるとここで説明するよりは道中で説明した方がいいだろう。

「決まりだ、蝙蝠。クラッシュクラシックに行くぞ。詳しい説明は動きながらする」


【1日目/昼/C-5 マンション】
供犠創貴@りすかシリーズ】
[状態]健康
[装備]グロック@現実
[道具]支給品一式×2、銃弾の予備多少、耳栓、A4ルーズリーフ×38枚、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0~X)」、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:みんなを幸せに。それを邪魔するなら容赦はしない
 1:放送までに蝙蝠とクラッシュクラシックに向かう。道中で作戦を説明
 2:りすか、ツナギ、行橋未造を探す
 3:このゲームを壊せるような情報を探す
 4:機会があれば王刀の効果を確かめる
 5:蝙蝠の目的をどう利用して駒として使おうか
[備考]
※九州ツアー中からの参戦です
※蝙蝠と同盟を組んでいます
※診療所でなにか拾ったのかは後続の書き手様方にお任せします
※主催者の中に水倉神檎、もしくはそれに準ずる力の持ち主がいるかもしれないという可能性を考えています



【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]健康、零崎軋識に変身中
[装備]愚神礼賛@人間シリーズ、軋識の服全て
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、王刀・鋸@刀語、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
 1:創貴と行動
 2:双識をできたら殺しておく
 3:強者がいれば観察しておく
 4:完成形変体刀の他十一作を探す
 5:クラッシュクラシックで零崎について調べたい
 6:行橋未造も探す
 7:危なくならない限りは供犠の目的を手伝っておく
[備考]
※創貴と同盟を組んでいます
※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、元の姿です
※都城王土の『異常』を使えるかは後の書き手の方にお任せします
※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています


不忍と不完全の再会 時系列順 黒いスーツとランドセル
不忍と不完全の再会 投下順 黒いスーツとランドセル
神に十字架、街に杭 供犠創貴 絡合物語は
神に十字架、街に杭 真庭蝙蝠 絡合物語は

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最終更新:2013年04月03日 12:32