絡合物語は ◆mtws1YvfHQ
ブレーキを踏む。
緩やかにトラックの速度は落ちて行き、止まった。
予定通り、クラッシュクラシックの前で。
我ながら見事なドライブテクニックだと言いながら、更に双識は口を開く。
「思ったよりも早く着いたな……よし、降りるぞ」
「あいよ――って、どっちが先に入るんだ?」
荷台から飛び降りた人識が言う。
当然、どちらが先にクラッシュクラシックに入るか、と言う意味だ。
通常なら、通常より身体能力諸々が上昇している双識が先陣を切るのが賢明と言える。
しかしそうした場合、一つ、問題が発生する。
言葉に出さず、二人の視線が荷台へと動く。
「…………」
荷台に乗っている少女をどうするか。
人識でも問題なく背負える。
だが、背負えるだけだ。
それ以外の行動を大きく制限される。
奥の手である、極限技――曲絃糸を除いた攻撃手段が制限される。
故に、双識から見れば人識に背負わせる利点は少ない。
精々が自由に動ける程度。
「…………」
対する双識はどうか。
身体能力の活性化している状態なら少女程度片腕で十分。
空いた片腕で戦う事もまた十分。
脚力腕力を武器に戦える。
更に言えば、
「……チッ、俺の武器を一つ貸しとくよ」
「ふふふ、ありがとう――へぇ、鋏か」
人識が双識に武器を渡してしまえば戦力としては十二分。
そうして渡されたのは一つの鋏。
《七七七》
七枚の刃を持つシュレッダー鋏。
偶然か必然か、それを渡し、受け取られた。
人識はそれについて何も言わない。
双識はそれについて何も知らない。
ただ右手で構えるのみ。
「――――」
双識が脇に抱えている間に、人識はクラッシュクラシックの扉に手を掛けていた。
頷き合い、扉を開け、駆け下る。
そして蹴破り、入った。
瞬間、目に入った人間は二人。
一人は椅子に座りながら奥に向けて頭を垂れた男。
一人は手持無沙汰気味に隅で足を抱えている子供。
二人が、此方を向いた。
「……遅かったな」
気落ちした様子と声音。
一瞥しただけで、
零崎軋識はすぐに項垂れ直した。
脇にバット入れを置いている。
異名を知る者は、その中に何が入っているか想像するまでもないだろう。
軋識の頭の垂れている先。
零崎曲識の死体を見る。
特に何をされた跡もない。
双識の視線が動く。
怯えたように、双識と人識、そして抱えている少女を見る子供に。
「……そこの子供は?」
「協力者だ。見た目に合わず、頭は良い」
「協力者?」
瞬間、双識の顔に小さな怪訝が浮かび、消えた。
静かに、鋏を持つ手に力が籠められる。
人識はポケットに手を入れているために分からないが、警戒しているようだ。
気配で察したのだろう。
緩慢な動作で軋識が立ち上がり、双識を見、
「……ッ、おま、胸の!」
表情を驚愕に染め上げた。
胸に刺さったそれを見て。
悪刀を、見て。
分からない者のために整理しよう。
悪刀は刺す事で効力を発揮する変態刀である。
そして現在、双識は効力を発揮させるため、胸に悪刀を刺していた。
そう、刺していた。
何も知らない者が見れば、胸に短刀が刺さっているようにしか見えない。
故に、驚愕に無理はない。
普通なら死んでいても何ら可笑しくないのだから。
「心配するな――これは悪刀と言うものだ」
「悪刀……?! いや、それよりも何で刺さってて生きて……!」
「そう言う効果なんだよ、トキ」
「…………?」
一瞬だけ軋識が振り返り、曲識を見た。
死んだ曲識を。
それから、顔を戻した
哀れっぽい目をしながら、双識へと。
「あー……レン。分かってると思うがトキは……」
「分かっている――本物かどうかの確認のためだ」
「本物かどうかだぁ? まるで偽物でもいるみたいな言い草を……まあ良い。で、だ。何かあったか?」
「多少はな。だがその前に確認して置きたい事がある」
「……なんだ?」
軋識の言葉に対し、双識は無言で応じる。
意味を悟れと。
悩ましげに視線を彷徨わせ、ふと一点で止まった。
それは、子供の所で。
気付いたように頷き、近付いて声を潜める。
「協力者だ、一時の。俺達だけの手に負えない事態が起きた時に備えての、な」
「それで?」
「安心しろ。零崎に関しては何も言ってない。何も」
「それで?」
「備える必要がなくなれば殺す」
「そうか」
双識は頷き、子供へと近付いていく。
僅かに心配そうな眼差しを双識に向けた軋識だが、気を取り直したように、人識を見た。
じっくりと。
体の全てを見極めるように。
足先から、太腿へ。
太腿から、股座へ。
股座から、腹部へ。
腹部から、肩へと。
流れるように左右の両腕を手先の指一本まで執拗に。
そして最後に、顔を見た。
「…………」
「なんだよ」
「いや、別に」
ドン引きしている人識を置いて、軋識は椅子に座り直す。
ただ肩を竦めるしか人識はせず、扉を閉めて背を掛けた。
少女を抱えたまま、子供の前に双識が立つ。
恐々とした様子で少女と双識を見比べる子供は、少年。
出来る限り視点を合わせようとしてか、双識は屈んだ。
「名前は?」
「宇、宇練銀閣…………です……あ、あなたは?」
「私かい? 私は
零崎双識と言う」
「え、っと……双識、さん?」
「なんだい?」
「あ、あちらの方は?」
小さく、宇練銀閣は指を上げた。
指しているのは、扉を背にしている人識。
双識は軽く眉を上げ、少ししてから頷いた。
「人識と言う。家賊の一人だよ――そこの、トキと、零崎曲識と同じね」
「零崎曲識なのに、あだ名はトキと言うんですか?」
「ふふふ、まあ色々とあってね。他に聞きたい事はあるかい?」
「……抱えてる女の子は、一体?」
「私の家賊の仇かも知れないので確保している」
さらりとそれだけ口にして、立ち上がる。
そして曲識の元へと歩く。
途中で抱えていた少女を落とし。
その足元に立った。
「すまない……まだなんだ。もう少しだけ待っていてくれ、トキ」
呟くように。
懺悔するように。
何もかも押し殺しているように。
しかし、悲痛に満ちた声を漏らす。
泣いているかと言えばそうではないし、泣きそうにはない。
決心している顔付である。
仇を決して逃がしはしないと。
怨念に満ちた顔で。
「………………」
その間に創貴は少女に近付き、壁際へと運んで行く。
人識はひっそりとそれを眺めていた。
「……以上だ、質問はあるか?」
「真庭蝙蝠、ねぇ?」
「変装とは違うんですか?」
「全く違うよ創貴くん。あれはむしろ、身体を作り変えていると言うべきだ」
作戦会議。
と言えば聞こえはいいが、今やっているのはそんな上等な物ではない。
情報交換。
しかも重要な部分を隠してのものだ。
放送前の段階。
精々が危険人物の情報交換だけである。
例えば双識からは、真庭蝙蝠。
例えば軋識からは、黒髪の女。
例えば人識からは、鑢七実。
例えば銀閣からは、なし。
それだけ。
銀閣に情報がない事はある種、予想通りだったらしい双識と人識。
主に三人に関する事で話は進んでいく。
「んー、とりあえず鑢七実って言うのは俺が一緒に行動してた時期があるんだけど、ヤバい」
「如何、ヤバいんだい? 具体的に言ってくれると私としても助かるんだが。ニーソは似合いそうかい?」
「黙ってろ変態――そう言う次元の話じゃねえよ、あれは。似合いそうだけどよ」
「どう言う次元の話なんだい?」
「兄貴風に言うなら、あの女に会った時点で、遭った時点で、運が『悪』かった――って所だろうよ」
かはは。
と、人識は笑い、目を細めた。
そのまま二人を見遣る。
興味深げに耳を傾けるだけの二人を見遣る。
それを見てもう一度笑った。
「どうした、人識?」
「なぁ――なぁなぁ、零崎軋識さんよ」
「なんだ?」
「覚えてないのか、俺と、鑢七実と遭った時の事?」
「遭った?」
間髪を入れぬ、軋識の返し。
人識は笑って何も言わない。
双識の眼が向けられる。
対して、諸手を上げながら首を振る。
「いや、悪いが記憶にない。妙な奴から襲撃が合ったり何なりで曖昧なんだよ」
「妙な奴?」
「あぁ。妙な服を着た妙な男だ――鎖付きの刃を振り回して襲って来やがった。時間は掛かったが、殺した」
「それと記憶が曖昧なのに何の関係がある?」
「頭に喰らったんだよ、でけえ瓦礫を。起きるのが一瞬遅かったら俺が死んでた」
言いながら頭を見せるが、血は見えない。
しかしそれ以上の追及はせずに人識は口元に笑みを浮かべ、鋭い視線を送る。
人識にとっては充分過ぎる程の疑惑。
だが、双識にとってはどうか。
正直な所、どちらとも言えないだろう。
知らないのだ。
トラックでは前後で会話が出来ず、それ以前は疑っていて殆ど会話をしていない。
故に、果たして鎌を掛けただけなのか、真実を言っているのか、判断できない。
更に言えば軋識のそつない対応。
疑いを深めるには材料が、別にもう一つあるのだがそれを含めても、不足し過ぎている。
だから追求しない。
追求できない。
すればするだけ、深い沼に嵌まる未来しかないのだから。
「私の言った真庭蝙蝠について人識に言ったが、これは凄い」
「どう凄いんだ?」
「変態能力とでも言えば良いのかな? 丸っきり他の人間と同様の姿になれるんだよ」
「同様の姿?」
双識が顔を向ける。
初めて口を挟んだ銀閣に。
あっ、と声を漏らし、顔を下に向けた。
話の邪魔をしたと思ったのだろう。
しかし特に気にしている風でもなく顔を戻す。
「そう、同様の姿。全く同じに、変装なんてレベルじゃなく、そっくりそのまま変態するんだよ」
「た、大変な能力ですけど……どうやって?」
「私にも分からない。しかし事実だ――声まで同じに出来るから、案外、この場にいるかも知れない訳だしね」
次いで何か言おうとしたのを制すように、呟いた。
ハッキリと、聞こえるように。
二人が、空気が凍り付く。
言っている事の意味が、分かり過ぎるほど分かり易い。
人識に対してはどうかは分からないが、少なくとも、お前達二人は信じていない。
言外にそう言う意味が込められているとあっさりと理解出来たのだろう。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
場に沈黙が下りる。
不気味なほどの静寂。
時計の針音だけが響く。
「チッ」
舌打ちをしながら、軋識が立ち上がった。
三人の視線が集まる。
しかし気にする様子もなく荷物を手に持ち、バット入れを担ぎ、荒々しい足取りで外への扉へと向かっていく。
「どうした、アス?」
「見張りだよ見張り。何かあれば、呼べ」
そのまま苛立ちを隠す様子もなく、
「あ、ぼくは彼女の様子を見てます」
一瞬だけ足を止め、扉を思いっ切り閉めた。
それを余所に銀閣は部屋の隅の少女へと歩いていく。
平然と。
動揺している風もなく。
人識が声を潜め呟く。
「どう思うよ、兄貴は?」
「十中五六は偽者だろう」
「だよな。口調からして」
「零崎の気配と違うしね、多分」
「これで合ってたらどうする?」
「今の発言をなかった事にする」
時計の音よりも小さな会話。
それでも共通認識を深めるには十分過ぎた。
失敗と言えば失敗だろう。
零崎軋識の口調。
キャラ作りの一貫。
姿形は完全に軋識であっても、声音までも同質であっても。
それが完全に抜け落ちていた。
少なくとも十の内の五六は偽者であると考えられる不自然。
キャラ作りを辞めた、と言えばそれまでだ。
キャラ作りを出来る隙がなくなった、と言えばそこまでだ。
それでも、人識よりも軋識の方が怪しいと、判断させるだけの材料ではあった。
勘付いたのか、本当に苛立っているだけなのか。
軋識の行動も怪しい。
見張りをするだけならばなぜ、武器だけではなく、荷物まで持って行く必要があったのか。
しかしそうなると、
「だとしたらあの余裕は何だ?」
軋識の、ではない。
銀閣の、である。
疑われている状況。
勘繰られている情勢。
平静で入れる筈がない。
普通の、ただの子供なら。
だと言うのに、冷静過ぎる。
宇練銀閣の態度は異様過ぎる。
「分からねえ。が、何か企んでるようだぜ?」
「本物だと信じて疑っていない訳ではなく?」
「あぁ、俺が見続けてた限りはな」
それが結論。
密かに、最初に少女を壁際に移す時から観察を続けていた、人識の結論。
双識は納得したように頷き、座ったまま目を閉じた。
「――かはは」
「なんだ、人識?」
「いや、別に」
片目を開ける双識の言葉を流し、立ち上がり、人識は扉に向かって歩く。
笑ったまま。
初めて、一瞬だけだったが、至近で警戒を解いた双識を笑いながら、扉に背を掛けた。
銀閣はそれに一瞬だけ目を向け、少女を見直し始めていた。
脈を測るように腕に手を当てたり、指を触ったりと。
「――――――」
「――――――」
「――――――」
そうして。
『――時間になりましたので二回目の放送を始めます』
自然と、三人の視線が上に向き。
そうして、放送は、
『何人か疑っている方がいるようなので先に言っておきますが、内容に嘘はありませんよ』
上を向いたまま。
始まった。
放送の瞬間を、待っていた者がいた。
恐らく、全参加者の中で全く違う形で待っていた者が。
『虚偽があるようでは実験にならないではないですか』
宇練銀閣、ではない。
名を偽っていた、
供犠創貴である。
果たして彼は気付いていた。
零崎人識から向けられ続けていた眼に。
『それでは、死亡者の発表です』
警戒の眼に。
気付いていて、何もできなかった。
反抗の気配を見せればどうなるかの予想が出来ていたが故に。
先の、切り刻まれる未来を予想できたが故に。
故に、
『一度しか言いませんから聞き逃しのないように』
全精力を耳と口に傾ける。
聞き逃すまいと。
同時に、言い逃すまいと。
どれほど早く来ようとも。
たった一つ。
『零』
零。
参加者内数少なく、必ず放送されると分かっていた、
『崎』
「すぐ」
小声で呟く。
どんな小さくても必ず聞こえていると信頼し。
絶対的な確信として、一瞬だけ人識の意識が、
『軋』
「外」
此方から放送に移る名前。
零崎軋識の名前。
逃さず。
『識』
「ッ!」
「ッ!」
頷く姿を確認する暇もなく、爪を立てる。
少女の、りすかの肌に。
血が、滲むのが見えた。
瞬間、世界が、軋んだ。
空気が緩んだ。
どうしようもなく緩んだ。
たった一つの名を聞いて。
空気が、緩んでしまった。
零崎軋識。
どうしようもない家族にして家賊。
《愚神礼賛》を操った零崎。
その手口。
最も荒々しかった。
最も容赦なかった。
最も多くを殺した。
一賊に歴史書が残れば、必ず名が記されたであろう殺人鬼。
前置きらしい前置きもなく。
それが、死んでしまった。
軽く、死んでしまった。
あまりにあっさりと。
双識は呟く。
「――お前もか、アス」
天井を向いたまま閉じられた瞼。
その間から一筋の涙が、零れた。
だが、落ちる事はなく拭われた。
人識は呟く。
「あばよ、にーちゃん」
天井を向いたまま閉じられた瞼。
その間から涙は、零れ落ちない。
だが、ほんの少し悲しそうな声。
そして、二人は目を開け、
「――それでは、零崎を」
壁際に目を向け、止まった。
目も、口も、指も、呼吸も、何もかもが止まった。
誰もいない。
居るはずの二人が居ない。
一瞬の静止。
「――はぁ?」
先に動いたのは人識だった。
扉から背を離し、視線を後ろに向ける。
確実に扉を背にしていた事を確認するために。
そして、確認し、再び固まった。
状況の理解が追い付かないのだろう。
居るべき人間がいない。
人識と双識の共通認識として、あの二人は素人だった。
戦闘に関して、ではない。
暴力の世界に関する事柄全般の。
逃げようと動けば容易くその動きを察する事が出来る程度の物のはず。
仮に、両方とも素人ではなかったとしても結果は変わらない。
二人の動きを、プロのプレイヤーである二人が全く察する事が出来ない筈がない。
なのに居ない。
居ない筈がないのに居ない。
「――呪い名か? いや、『時宮』の名は今出た……なら……?」
表向きは冷静を装いながら、双識は咄嗟に考察する。
さながら、消えた。
現在の状況を表すならそれだろう。
二人の人間が、全く何も感じさせる事なく、消えていた。
事実は如何でも良い。
問題は、誰が、どうやって、だ。
誰が。
水倉りすかと宇練銀閣――は、どちらも本当の名前か今となっては怪しいが。
これは二人の内のどちらかとしよう。
問題は、どうやって、だ。
《恐怖》を司る『時宮』。
《武器》を造る『罪口』。
《病毒》を操る『奇野』。
《脳髄》を乱す『拭森』。
《肉体》を使う『死吹』。
《予言》を謂う『咎凪』。
普通ならまず間違いなく『時宮』か『奇野』か『拭森』の何れかを疑うだろう。
しかし、
参加者名簿が本物であると仮定すれば、唯一いたはずの『時宮』は死んでいる。
だとすれば残るは有名処ではない、何か。
「………………『過負荷』球磨川……?」
まさかの可能性。
絶対にないとは思える可能性。
なれど、絶対にありえないと言い切れない可能性。
訳の分からないあの男ならありえるかも知れないと言う可能性。
球磨川禊と言う《謎》。
『奪う』と言っていた訳の分からない何か。
何をどうやったか、一時的に視力を失くしたのはまさに『奇野』の手際か。
他には『死吹』か『時宮』もありえる。
一先ず球磨川が、何らかの都合で名を名乗っていない『呪い名』の可能性であれば。
そして何より重要なのは、
「なら、不味い!」
気付いた時にはもう遅い事。
それが、『呪い名』。
分かっていても、咄嗟に身構える。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………?」
が、双識の身にも、人識の身にも、何も起きない。
ただ二人が居なくなった以上の異常がない。
時間のみが過ぎ去っていくのみ。
それでも、疑心暗鬼でも、し過ぎではない。
警戒をしながらも扉を開け、外へと歩を進める。
軽トラックは置かれたままだった。
車体や周辺を確認しても、何の細工の跡もない。
キーを差し込み回すと、エンジンが唸りを上げ始める。
異常が見付からない。
「――人識」
「何だ?」
「疑って悪かった」
「いいよ。あれ見りゃ誰だって疑うぜ」
「これからあの三人を捜す。お前はここで待ってろ」
「いや、俺も捜す。一時間後、クラッシュクラシックに連絡する。なかったら、そう言う事だ」
「――――すまない」
呟くような言葉を残し、双識は軽トラックのアクセルを踏み込んだ。
走り出すそれを見送りながら、人識が笑う。
「傑作だぜ……なあおい、真庭蝙蝠?」
返事はない。
消えて行くトラックを見ながら。
なお言葉を続ける。
「どんな方法であの状態から逃げ出したか知らねえ。だが、これで決定だ。俺はお前達を殺す。どんな手を使ってもな」
何処へ消えて行くのか。
走らなければやってられない思いだろう。
などと考えながら、人識は言葉を紡ぐ。
紡ぎ続ける。
「別に《愚神礼賛》のためにって訳じゃねえ。ましてや一賊のためって訳じゃねえ。ただ、兄貴のためだな、これは」
だから、
だからこそ、
お前達三人、
「殺して解して並べて揃えて晒して刻んで炒めて千切って潰して引き伸ばして刺して抉って剥がして断じて刳り貫いて壊して歪めて縊って曲げて転がして沈めて縛って犯して喰らって辱めてやんよ――俺に出来る全手段を使ってな」
答えは返って来ない。
ある種の独白。
独り言。
答えなど、ある筈もない。
「――――さて」
どれだけ過ぎたか、ポケットに手を入れた。
出したのは携帯電話。
そこから電話帳を開く。
登録しておいた番号。
今後、何かあれば確実に向かうであろう場所。
ツナギ。
豪華客船。
もう豪華客船にいないとしても、今の場所を聞けばいい。
「戯言と行こうか――欠陥製品」
そうして、ボタンを押した。
鏡に会いに行くために。
【一日目/真昼/C-3 クラッシュクラシック前】
【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康、腹七分目
[装備]小柄な日本刀 、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×6(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り)、医療用の糸@現実、千刀・ツルギ×2@刀語、
手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、S&W M29(6/6)@めだかボックス、大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、ランダム支給品1~3個
[思考]
基本:
戯言遣いに連絡し、合流する。
1:一時間後、クラッシュクラシックに連絡を入れて兄貴とも合流。
2:真庭蝙蝠、水倉りすか、供犠創貴、宇練銀閣を捕まえる。
3:
西東天に注意。
4:ツナギに遭遇した際はりすかの関係者か確認する。
5:事が済めば骨董アパートに向かい七実と合流して球磨川をぼこる。
6:
哀川潤が放送で呼ばれれば殺人をしないつもりはない。
[備考]
※曲絃糸の射程距離は2mです。
※曲絃糸の殺傷能力(切断・絞殺など)は後の書き手さんにおまかせします。
※りすかが曲識を殺したと考えています。
※Bー6で発生した山火事を目撃しました。
※携帯電話の電話帳には戯言遣いが登録されています。
※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました。
走る。
奔る。
出せる限界の速度で。
それしか零崎双識には出来なかった。
疑った末の間違い。
もっと早く決断すれば、あの三人を逃がさなかったのではないか。
もっと人識を信頼していれば、あの三人をそのまま殺せたのではないか。
謝った。
笑われ、許された。
しかし自責は止まらない。
そう簡単に許されるとは思っていない。
だからこそ、あるいは、あの場から逃げたかったが故に、軽トラックで走っているのか。
「……違う」
あの三人を見付けるために走っているのだ。
それ以上の意味がある筈もない。
それ以外の目的がある筈もない。
合って、良い訳がない。
見付けて殺す。
そうしなければならない。
そう思っても、
「くそっ!」
ハンドルを殴る。
車体が一瞬揺れる。
込み上げる物を抑え切れない。
奥歯を噛み締めても変わらない。
「…………くそっ」
項垂れる。
それ以外しか出来る事もない。
それでも走り続ける。
目に付いた火事。
山火事。
あるいはそちらに行けば何かあるのではないかと。
もはや、捜す事とは関係のなくなっていると分かっていても。
考えもない。
それらしい物を目指すしかないのだから。
「……おっ、つ!?」
不意に、車体が揺れた。
何かに乗り上げたように。
そのまま、片方の車輪だけで走る。
徐々にその傾きが増しながら。
「っ、くそ!」
咄嗟の判断だった。
咄嗟に、扉を蹴り飛ばし、トラックから飛び出す。
地面に着地してから少し。
離れた所でトラックは横転する。
派手な火花を散らし。
勢いはそれに留まらず、更に何回転してから、止まった。
中にいたままであればどうなっていた事か。
舌打ちをしながら、双識は振り返る。
何に乗り上げたのか。
「なんだ、人間か――それはそれとして」
何者かの死体。
道のど真ん中にあったそれに乗り上げたのが原因らしい。
どう言う結末かは、見れば分かる。
ゆっくりとその死体へと近付いていく。
一対一の末の決着。
真ん中に倒れていたらしい誰かが負け、道端で眠っている誰かが勝った。
その眠っている誰かも全身血に塗れ、決して容易い戦いではなかった事を想像させる。
しかし、それを見て双識が思う。
「こいつ、素人か?」
強いだけの素人か。
少なくとも、裏の世界の住人ではありえない。
何故なら裏の住人は、勝ち続ける事こそ第一なのだ。
勝つだけなら、誰でも、とは言わないが出来る。
にも関わらずこの男。
暢気に眠っている。
殺して下さいとでも言うように。
今なら容易く殺せる。
これにてこの男の勝ちを無価値に変える事など容易い。
だが、
「殺すのはそんなに難しくなさそうだ」
あえて殺さない。
持ち物を奪っておく。
次いで、適当な衣類で手足を縛り合わせる。
これでそう簡単に動けない。
一応の収穫。
片腕で持ち上げ、横転した軽トラックに向かって呟く。
「動けば良いんだが……」
自分が何をしているのか。
なぜこんな零崎らしからぬ事をしているのか、考えながら。
果たして、頭の隅に付いた言葉。
俺達だけの手に負えない事態が起きた時に備えて。
敵である、身内の姿をした存在に言われた言葉が片隅に残っていたため。
これがどう言う結末を迎えさせるのか。
人が死ぬ時、そこには何らかの『悪』が必然、『悪』に類する存在が必要だと思う。
零崎双識の考えである。
『悪』と言う概念。
果たしてこの出会い。
運が。
『良』かったのか。
『悪』かったのか。
それは、神のみぞ知る。
【一日目/真昼/C-3】
【零崎双識@人間シリーズ】
[状態]健康、腹五分目、悪刀・鐚の効果により活性化、鑢七花運搬中
[装備]箱庭学園指定のジャージ@めだかボックス、七七七@人間シリーズ、カッターナイフ@りすかシリーズ、軽トラック@現実
[道具]支給品二式(食料二人分、更に食糧の弁当6個)、体操着他衣類多数、血の着いた着物、カッターの刃の一部、手榴弾×2@人間シリーズ、奇野既知の病毒@人間シリーズ、
[思考]
基本:家族を守る。
0:クラッシュクラシックに引き返し、電話に出る。
1:一先ずは真庭蝙蝠、りすか、銀閣(供犠創貴)並びにその仲間を殺す。
2:りすかについては曲識を殺したかどうかを確認してから殺す。
3:他の零崎一賊を見つけて守る。
4:零崎曲識を殺した相手を見付け、殺す。
5:この男(鑢七花)を連れて行く。
6:蝙蝠と球磨川が組んだ可能性に注意する。
7:そろそろ何か食べて置こうか。
[備考]
※他の零崎一賊の気配を感じ取っていますが、正確な位置や誰なのかまでははっきりとわかっていません。
※現在は曲識殺しの犯人が分からずカッターナイフを持った相手を探しています。
※真庭蝙蝠が零崎人識に変身できると思っています。
※鐚の制限は後の書き手さんにお任せします。
※軽トラックが横転しました。右側の扉はなく、使えるかどうかも不明です。
※遠目ですが、Bー6で発生した山火事を目撃しました。
※浴びると不幸になる血(真偽不明)が手や服に付きました。今後どうなるかは不明です。
【鑢七花@刀語】
[状態]疲労(大)、倦怠感、覚悟完了、全身血塗れ、全身に無数の細かい切り傷、刺し傷(致命傷にはなっていない)、睡眠中、衣類で緊縛中
[装備]なし
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
1:……………………。
2:起きたら本格的に動く。
3:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る。
4:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない。
[備考]
※時系列は本編終了後です。
※りすかの血が手、服に付いています
※りすかの血に魔力が残っているかは不明です。
※浴びると不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です。
※C-3の左右田右衛門左右衛門の死体が轢かれました
真庭蝙蝠は駆ける。
両脇に二人の子供を抱え。
正直な所、悩んでいた。
見捨てようか、見捨てまいか。
見捨てる理由は多々あれど、見捨てない理由がなかった。
あるとすれば少なからず知られてしまっている事だろう。
能力について、詳しく。
居て、役に立つか立たないかで言えば役に立つ。
それでも、危険を冒してまで助けるかと言えば微妙な所。
精々隙が付けそうな時が放送の最中。
聞きながらも、どうするか悩んでいた所だった。
助けようか悩んでいた筈だった。
少なくとも、自力で逃げれる状況とは言えなかったから。
その筈だった。
だと言うのに、気付けば居た。
何かよく分からないもの――蝙蝠は知らないが軽トラックと言う――の上に居た。
初めから居たような自然さで、居た。
「逃げるぞ」
そう言われ、何も分からないままそれの上に飛び乗り、二人を抱えた。
そして走っていた。
どうやって助かったかも知れない。
どうやって抜け出たかも知れない。
だが、面白い。
「きゃはきゃは!」
思ったより面白い。
想像以上に面白い。
どんな方法かは後で聞けば良い。
今後の参考になるかも知れない。
何より、この女。
手足を拘束されたままだ。
なのに逃げて来ていた。
それに、武器も何もなしに生き残っていた。
零崎がどの程度の存在かは一人ばかり殺して分かった。
それから今まで生き延びていただけ大したもの。
この女が何時の間にか居た奇術の仕掛けかも分からない訳だし。
「おっと」
分かれ道に着いた。
西か、東か。
「次はどっちだ?」
「東なの」
「あ? ――良いのか?」
「――何があるかは後で聞く。一先ず行け」
「あいよ」
とだけ答え、足を進める。
悪刀を刺した双識。
また一つ殺す理由が出来た。
楽しみで仕方ない。
作戦通りに行かなかった事に少し納得行かないが。
情報はなかった。
だがもう一つの策があった。
殺害。
本来ならあの場にいる全員仕留める予定で待機していたのに。
予定を変える場合の対応。
臆病なフリ。
咄嗟の変更でも何とか乗り切れたから良かったが。
少しどころかかなり危ない橋だった。
それもこれも、
「……………」
やはり抱えてる女に関係するんだろう。
損はない、と信じて置こう。
損だったら、殺してしまおう。
放送最中での奇襲。
折角の好機を一つ、逃させられた訳だ。
「詳しい話は、また後で」
【1日目/真昼/D-3】
【供犠創貴@りすかシリーズ】
[状態]健康
[装備]グロック@現実
[道具]支給品一式×2、銃弾の予備多少、耳栓、A4ルーズリーフ×38枚、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0~X)」、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:みんなを幸せに。それを邪魔するなら容赦はしない
1:りすかから情報を得る。そのためにはまず安全そうな場所に
2:ツナギ、行橋未造を探す
3:このゲームを壊せるような情報を探す
4:機会があれば王刀の効果を確かめる
5:蝙蝠の目的をどう利用して駒として使おうか
[備考]
※九州ツアー中からの参戦です
※蝙蝠と同盟を組んでいます
※診療所でなにか拾ったのかは後続の書き手様方にお任せします
※主催者の中に水倉神檎、もしくはそれに準ずる力の持ち主がいるかもしれないという可能性を考えています
【水倉りすか@りすかシリーズ】
[状態]手足を拘束されている、零崎人識に対する恐怖
[装備]無し
[道具]無し
[思考]
基本:まずは、知っているだけの情報を供犠創貴に教える。
1:人識から盗み聞いたツナギと豪華客船について言う。
[備考]
※新本格魔法少女りすか2からの参戦です。
※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです。(使用可能まであと五十分)
なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません。
※大人りすかについての制限はこれ以降の書き手にお任せします。
【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]健康、零崎軋識に変身中、創貴とりすかを抱えて移動中
[装備]軋識の服全て
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、王刀・鋸@刀語、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
1:創貴と女(りすか)と行動。現在は東に向けて移動中
2:双識を殺して悪刀を奪う
3:強者がいれば観察しておく
4:完成形変体刀の他十一作を探す
5:行橋未造も探す
6:危なくならない限りは供犠の目的を手伝っておく
7:女(りすか)がどの程度役に立つか確認して、役立たずなら創貴ともども殺す
[備考]
※創貴と同盟を組んでいます
※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、元の姿です
※都城王土の『異常』を使えるかは後の書き手の方にお任せします
※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
※鑢七実の危険性について知りましたが、嘘の可能性も考えています
物語の主賓達が集い始める。
終わりに向けてか。
それとも。
最終更新:2013年12月03日 10:45