黒いスーツとランドセル ◆mtws1YvfHQ



今更感溢れる。
しかしそれでもしようと思う。
この殺し合い。
参加者達は、一体どう言う意図で集められたのか。
このランドセルランド。
入り口からもう血の香る遊園地で。

「どう言う風に集められたのか?」

タイミングよく、絶叫マシンの一つが唸りを上げてレールを駆け昇って行った。
意図はまあ、完全な人間がどうこう言っていたものとしておこう。
しかし、そもそも可笑しい。
なぜ詐欺師がこんなの事に巻き込まれているのか。
何をこんな時間が経ってからと言われても困るが、そもそもが詐欺師だ。
何やら不思議な力を隠し持っている訳でなく、鍛錬の末に修得した必殺の技がある訳でもない。
逃げるための技術。
怪異の記憶や偽怪異。
そう言った物は知っているし使える。
だがこれと言って利益の見当たらない、事、殺人に関しては間違いなく素人だ。
なのになぜ巻き込まれているのか。
謎を解き明かすべく見たのは、参加者一覧表。

「参加人数は四十五名」

適当な店に顔を覗かせ、中の機械が動いているのを確認する。
人数はそう多くない。
学校の一クラス程度だろう。
一見すれば、一部を除いてだが、無差別に選ばれているようにも見える。
何せ学生から詐欺師にハッカー、果ては良く分からない女まで様々だ。

「だが問題はその一部だ」

カウンターを乗り越え、中へと入る。
零崎、四名。
真庭、四名。
病院坂、二名。
黒神、二名。
鑢、二名。
阿良々木、二名。

「まあ、阿良々木は妹がもう一人いる訳だが」

ずらりと並んだ機械の数々は様々なジュースにソフトクリームまで出せるようだ。
その妹は参加はしていないようだ。
最も、不死鳥なんぞが参加していたら殺し合いのシステムが成り立たない。
順当な理由だろう。
正当とは言えないが。

「さてと。死者を含めず考えると、同族と思われるのが計十六名」

動くか試すために紙コップを置いてボタンを押すと、ジュースが流れ出してきた。
四十五人中の十六名。
全体の三分の一。
多過ぎる。
この時点で無差別に選ばれているとは考え辛い。
ではどのようにして俺が選ばれるに至ったか。
それは、

戦場ヶ原ひたぎ。いや」

とりあえずメロンソーダを飲む。
間違いなくメロンソーダだ。
他の物も適当に口に含む。
押したボタン通りのジュースが出ていた。
無駄に。

「どちらかと言うと阿良々木暦か」

一先ず紙コップに蓋をしていく。
まあどちらかを中心に、因縁深いか距離が近いかまでは分からないが、選ばれている可能性がある。
そのような方式で改めて参加者一覧表から関係者を選び出せば、

「なんと計六名」

戦場ヶ原ひたぎ、阿良々木暦、阿良々木火憐、羽川翼八九寺真宵
少なく見えるだろう。
だがこの方式。
以外にも人数が合っている。
零崎と真庭の四名との差が二名。
そして確定している事では、球磨川禊、江迎怒江、黒神めだか人吉善吉、阿久根高貴の六名の関係。
黒神姓と言う事で真黒も入れると、計七名。
全てのジュースに蓋したは良いがどれを持っていくか。

「つまり、誰かを中心となる人物とその周辺の何名かが選ばれた可能性がある」

それもなかなか高い可能性で。
先程上げた同姓の二名に足す三~四名で五~六名。
とりあえず全ての関係者を最低五名として同族と合わせ、それらの数を全参加者数から引けば、

「残り、十二名」

ジンジャーエール、ウーロン茶、カルピス、コーラ、オレンジジュースに決め紙カゴに載せる。
もう二人。
別の中心となる人物がいれば、そして関係者達が揃っていると考えれば、おおよその人数が合ってくる。
この予想は案外悪くなさそうだ。
この発想で行こう。
つまり中心となる人物さえ探し出し、味方に出来さえすれ、それを中心とした周りも騙し易くなる。
生き残り、易くなる。
しかし、

「逆もまたしかり」

味方に出来なければ、それ以外を敵に回す可能性もある。
下手すれば。
下手すればだが。
まあ良い。
中心になる人物が、計八名か。
内の一人に当たりそうな、阿良々木暦は既に死んでいる訳だが。
それでも七名。

「……既にあっている中から中心になりそうなのは誰かいたか?」

機械からソフトクリームを絞り出させる。
会っているのは誰だったか。
江迎怒江。
腕の長い女。
危ない少女。
鑢七実。
鑢七花。
零崎人識
球磨川禊。
そして、玖渚友
中心と成り得る人物。

「おっとっと、しまったな…………」

絞り出し過ぎてソフトクリームが手に付いた。
頭の中に上げた中で、真っ先に中心として浮かぶのがいる。
だがあいつに協力を申し入れるのは出来ればごめんだ。
あいつは、危ない。
直感的にそう思う。

「……それでも、出来ればだ」

コーンを置いて、手のソフトクリームを舐め取る。
組める可能性があるなら会うのもやぶさかではない。
それに、既に殺された可能性も十分ある訳だ。
自分から探すつもりはない。

「となれば次は零崎人識だな」

見回し、近くにあった蛇口を捻る。
人数的に見れば、同族の最も生き残っているだけ有利。
それに顔面に刺繍なんぞしたあの少年に、老練な交渉能力があるとは思えない。
騙してから同族もなし崩しに行ける。
だろう、が、

「……止めておくか」

音を立てて溢れる水に手を突っ込む。
背筋に冷たい物が走った。
箱庭学園で、何気なく七実に殺され掛けた一瞬。
対応したのは零崎人識だった。
だが、それに理由があった訳ではなさそうだ。
恩を売るためだとか、媚を売るだとか、そんな理由もなく、言ってしまえば気まぐれだろう。
気まぐれ。
逆に言えば、気まぐれに殺される可能性も十分ある。

「厄介だ……」

蛇口を閉める。
理由がないのが一番恐ろしい。
何かしら理由があるなら何とかしようがあるが、何の理由もなければ何のしようもない。
金が目的なら金で。
女が目的なら女で。
夢が目的なら夢で。
位が目的なら位で。
命が目的なら命で。
恩を売りたいなら恩で。
媚を売りたいなら対価で。
何とかしようがあるのに。

「つぐづく、厄介だ」

紙カゴにソフトクリームを傾けて載せておく。
零崎も諦めて、では次。
やはり玖渚友だろう。
パソコン越しとは言え十二分に感じさせる存在感。
頭も悪くなく、会場の監視カメラを見れるのも点数が高い。
何より、むこうも生き残りたいと考えている事。
そうでなければ俺のような男と手を組もうと言い出すものか。
黒神めだかの悪評などそのおまけに過ぎない。
まあ、そのおまけのおかげで、比較的簡単に同盟が出来かけている訳だ。
安心安心。
と言いたかった。

「とも、言ってられないか」

近くにあった紙ナプキンを四枚頂戴して手を拭きながら店を出る。
だが、悪寒。
何か取り返しのつかない事が起きているような予感。
ランドセルランドに来て弱まりはしたが、消えてはいない。
もしかしたらもしかするか。

「だとしたら、次は真庭」

適当なゴミ箱に手を拭いたナプキンを放り込む。
四名参加の真庭。
内の二人は既に死んでいるが、この場合それはむしろ好材料。
不知火に敵対させる理由にはなる。
だが、またしてもだが、無理な気がしてならない。

「……………………」

向かうのは入口。
ランドセルランドに入ってすぐに見付けた死体。
見える限りの血が乾き切ってしまった男の屍。
コスプレと勘違いしそうな珍妙な衣装を着たそれ。
そんな衣装は二つ目だ。
一つ目はネットカフェの女。
二つ目は、

「無惨だな」

ここの男。
こうなりたくない。
胴に一撃、頭に一撃。
どんな顔だったかまるで分らないこの男の死体。
だが、女の死体が身に着けている衣装と雰囲気が似ているから同族とみて間違いないだろう。
なら既に同族二名が死んでいる所は。
真庭と病院坂。
普通ならそれ以上分からないが、だが偶然見付けたどちらもどうやら動物を元にした衣装。
そうなると話は別。
それぞれに、片や狂犬の犬、片や喰鮫の鮫の、姿が見え隠れしている気がする。
恐らく真庭の残り二名の姿も同様だろう。

「蝙蝠と鳳凰――なら、鳳凰か」

近くにあったベンチに顔を載せ、死体に近付く。
蝙蝠と鳳凰。
片や実在していない動物の名。
どちらが中心人物か考えれば、鳳凰一択。
まあどちらにしろ蝙蝠か鳳凰を模した衣装を着た奴がいたら、

「出来るだけ近付かないようにしよう」

死体が未だに握り締めている鎖鎌を見れば一目瞭然。
返り討ちに合った事は。
返り討ちはともかくして、開始から六時間足らずで戦闘するような奴の仲間が信用に値するか。

「俺よりマシか」

近くで見れば随分と酷い。
信用と言う意味でなら俺よりマシか。
だが、仲間にしたいかでいうならしたいと思わない、と思う。
まあ戦場ヶ原なら俺は選ぶまい。

「だがそうなると、鑢二名はもちろん除外。黒神は真黒の方も要警戒とすれば……組めそうな相手は…………」

おい。
組めそうな団体がいないじゃねえか。
そうなると個人と結んで行くしかないか。
中心となる人物を探し出して、組むか。
だがそれは、面倒臭く厄介な上に危険。
殺人鬼の一人でも混じっていれば死ぬ。
下策も良い所。

「なら…………………………球磨川しかいないか」

球磨川禊。
真っ先に除外したのに。
死んでいる事にして無視しようと思っていたのに。
そうも言ってられそうにない。
除外したはずの奴が、消去法で逆に候補に挙がるとは。
選り好みするなと言うのか。
改めて言うが死んでいる可能性はある。
と言うか、はっきり言ってあの鑢七実と一緒にいた時点で相当高い。
なのに何だかんだで生きている気しかしない。

「ふぅむ……」

死体の血は、見える範囲は予想通り既に固まり切っている。
球磨川禊と組むとなると、外し難い要因が、いや要員が一人。
此方も出来るなら会いたくなかったのだが。

「江迎怒江」

向けている眼が違うと言えばいいのか。
何故か球磨川は江迎に甘そうだった。
その江迎から頼ませれば、あるいは、

「……いや、あくまでも可能性の話だ可能性の。そう見えただけかも知れない。見付からなければそれで良い。うん、良い」

別にいないからと言って困る訳でもない。
少し難易度は上がるかも知れないがその程度。
どう言う訳か向こうからの友好度は高かったし。
わざわざ江迎を捜す労力と比べれば。
そうだ。。
いないならいないでやりようは幾らでもある。
偶然、偶然会うような事があれば江迎を使えば良い。
それだけだ、それだけ。
うん、うん、うん、うん、うん。

「まあそれは横に置いておいて…………なんだ、戦利品は奪わないのが習わしか?」

今まで無視したままだった死体からデイパックを奪い取る。
早くも本日二度目。
何故、殺した奴が持っていかないのか。
重みになるほど重くはない。
少しは邪魔になるかも知れないが、メリットとデメリットを比べればメリットの方が大きい。
例え二つ持つのが億劫なら、一つに纏めれば良い話。
なのに持ち去られていない。
考え得る可能性。

「そいつらにはそれ以上何も必要なかったから、か?」

頭、はやめて腹の傷口に指を突っ込む。
強力な武器を持っていたが故。
友好な道具を手に入れている為。
何かまでは分からない。
だがそう考えられる。
それは何か。

「拳銃?」

肉体内部の血はやはり固まってはおらず、手に粘り付く感じがした。
ついでに死体を観察する。
弾痕は見当たらない。
頭か胴を撃ち抜かれた後に潰されたか。
周辺の壁や地面を見るが、そこにも弾痕は見当たらない。
もちろん上に向けて撃てば弾痕が出来ない。
だから分からないが、拳銃か。

「護身用に欲しくもあるが、ないならないで構わないな――俺は」

手に付いた血を死体の指先に付け、地面に血で文字を書く。
殺し合いに乗るつもりはない身としては、あってもなくても構わない。
あくまでも対等、あるいはそれより下からの交渉の方がやり易い。
上から交渉する手段もなくはないが、足元を掬われるのが怖い。
間近で誰かも分からない虎児を養い破滅を待つより、口先三寸から虎の威を借りる方がずっと良い。
狡賢い狐のように。
薄汚い鼠のように。
罵られる事も、蔑まされる事も、生きるためなら厭わない。
少なくとも俺は、

「生き残りたいだけだからな」

死体の手の傍に、真っ赤な文字で、『めだ』、とだけ。
どんな目を向けられようと。
それ以上でも以下でもない。
俺の目的はそれだけなのだ。
さて、手を洗おう。
血を舐める気は流石に起きない。



「さてと。時間までまだまだあるが……放送まで待つか」

やはり詐欺師は一人で座る。
誰もいない遊園地で一人。
轟々と走るジェットコースターを尻目に。
何の変わりもなく孤独に、
不吉な姿そのままに。

「………………」

一寸も似合いはしない。
溶け掛けたソフトクリームに齧り付き。
ジュース六種の一つを片手に。
デイパックを足元に置いて。
案外、今を楽しんでいるように。



【1日目/昼/E-6ランドセルランド】
【貝木泥舟@化物語】
[状態]健康
[装備]ソフトクリーム、ジュース×6
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2~10)、「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、貴重品諸々、ノーマライズ・リキッド」(「」で括られてる物は現地調達の物です)
[思考]
基本:周囲を騙して生き残る
 1:玖渚と手を組む代わりに黒神めだかの悪評を広める
 2:ランドセルランドで放送を待つ
 3:麦藁帽をかぶり、釘バットを持った男(軋識)に出遭ったら伝言を(伝えられれば)伝える
 4:球磨川禊と会ったら同盟を提案
 5:怒江はとりあえず保留
 6:零崎、真庭、黒神、鑢とは出来れば接触しない
[備考]
 ※貴重品が一体どういったものかは以後の書き手さんにお任せします。
 ※取得した鍵は、『箱庭学園本館』の鍵全てです。
 ※言った情報(少なくとも吸血鬼、重し蟹、囲い火蜂については話しました)、聞いた情報の真偽、及びそれをどこまで理解したかは後の書き手さんにお任せします。



 ※E-6ランドセルランドの真庭喰鮫の死体の手の近くに、血文字で『めだ』と書かれています


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最終更新:2013年02月21日 22:42