不忍と不完全の再会 ◆PKyKffdMew
――不本意。左右田右衛門左衛門は、苦々しげに漏らす。
何と不甲斐ないことかと、自嘲するように。
こうしている暇も惜しいと、焦り急ぐように。
仮面に覆われたその表情は読み取れないが、彼はいつもほど沈着ではなかった。
少なくとも、彼が血眼になって探す姫さまだったならまず皮肉るだろうくらいには、冷静を欠いていた。
放送を越え―――殺し合い開始から六時間の過ぎた頃に、解禁された参加者の名簿。
何となく予想はしていた。
直感的に、一種の虫の知らせのような不確かな感覚だが、そうではないかと思っていた。
見つけたら戦略的撤退を図ろうと思っていた。
左右田右衛門左衛門の命を一度終わらせた存在。
案の定、簡素な紙に彼の名は刻まれていたのだ――虚刀流七代目・鑢七花。
彼がこの遊戯に対してどう動くかは、右衛門左衛門には不分。
奴の『惚れた』女を殺したのは確かに自分だ――長年姫さまの宿敵だった女は、この手で射殺した。
『奇策士』の名前が放送で呼ばれたのもあって、奴が願いを求める可能性もある。
だが、乗らないとも思える。
鑢七花に関しては、右衛門左衛門の聡明さをしても確定させることは出来なかった。
それに虚刀流は確かに強大な障害だが、この場で警戒すべきはむしろ『それ以外』だ。
右衛門左衛門のような、本来この場にいるべきでない名前の方。
例えば、真庭鳳凰。
かつて親友(とも)と呼び、そして道を違えた因縁の男。
例えば、鑢七実。
先の鑢七花の姉にして、化け物と言う他ない才能の権化。
彼らは本来ならば、どちらも鑢七花の手にかかって命を散らした筈の存在だ。
が、事実をせせら笑うように二人の名前は存在している。
しかも、未だ存命中だから質が悪い。
何より右衛門左衛門が二人を警戒した理由は、どちらも右衛門左衛門をして強者と言わしめるだけの力を持っていながら、双方が殺し合いに乗るとしか思えないからだった。
鳳凰は、真庭の里の復興の為に。
七実は不分の要素が強かったが、右衛門左衛門の認識では十分な危険人物に写っていた。
姫さまが彼らのような人間に出会えば、太刀打ちできる道理がない。
彼女は彼らと違って―――超人ではないのだ。
彼女は彼らと違って―――戦えないのだ。
間違いなく、殺されてしまうだろう。
虫けらのように、あるいは野うさぎのように。
そんなことになれば、いよいよ最悪だ。
いや、最悪という言葉ではまだ足りない。
それは最悪すら生温い、形容する言葉がないほどの絶望的展開だ。
願いという最終策はあるが、あれが真実である保証はどこにもない。
不知火袴の言葉が虚言であった可能性を、誰が否定できようか。
それ以前に、七花や七実のような相手と戦って果たして自分が勝てるかどうか。
一人を倒せたとして、その時点で自身の体にはあとどれほどの余力が残されているのか。
相生忍軍最後の生き残り・左右田右衛門左衛門でも、流石にキツい。
「――不良」
故に、最優先すべきは姫さまの確保だ。
それを完遂してさえしまえば、漸く他のことに目を向けることができる。
しかし、だ。
不甲斐ないことに、殺し合いの開始から十時間以上が経過してもなお、右衛門左衛門は姫さまの手掛かりすら掴めてはいなかった。
腹心の名が聞いて呆れる体たらくに、胸の内から珍しく苛立ちのようなものさえ湧いてくる。
この会場が広すぎるのもあるだろうが、そんなものは言い訳だ。
彼女に忠義を誓った身、たとえどんな無理難題だろうと姫さまの為ならやってのけよう。
だから今は、泣き言を叩く暇もない―――。
「不良、不良、不良」
良からず。
善からず。
好からず。
三種の意味を持った同音語が低めの声で奏でられ、そして風の音に消える。
左右田右衛門左衛門は現在、しのびの脚力で会場を疾走していた。
焦り始めるのが遅すぎた。
しかし今は違えど、彼は真庭の頭領、『神の鳳凰』と互角にだって渡り合う不忍の暗殺者だ。
急げば、常人より遥かに上の速度で会場を駆け抜けることも容易である。
先程までは違ったが、もう呑気にしてはいられない。
ここまで姫さまの足取りが掴めないとなれば、どうしても万が一の場合を脳裏に描いてしまう。
――左右田右衛門左衛門の感情を唯一動かし得るとすれば、それは主たる否定姫。
彼もまた、一人の人間だ。
自らの死を否定し、第二の生を与えてくれた彼女に――打算抜きで仕えている、人間だ。
敵対する者は子供だろうと抹殺する冷血の暗殺者もまた、人間らしい側面を持っている。
「不良――――っ!?」
計五度目の同じ台詞を吐いた直後に、彼はその足を止めた。
視線の先に写ったのは一人の少女。
外見だけで判断するならどう見ても痴女で、血気盛んな男ならば胸元から目が離れなかったろう。
生憎右衛門左衛門はそういったものに興味がなく、またそれどころではなかったが。
彼にとってその人物は見覚えのある人物で―――というより、交戦して逃走した相手だった。
不死性を備えた超人。
この急いでいる時に要らない再会をさせられるとは、つくづく自分の不運を嘆いてしまう。
「……貴様は、確か」
が、何かがあの時とは違っている。
言うならば、あの時ほど『無機質』な印象は受けない。
最初の邂逅の時と比べ、大分人間らしくなったような気がした。
「奇遇だな、
黒神めだか。だが不良。お前とは、再会したくなかったよ」
「そうか。貴様にも迷惑を掛けてしまっていた、な―――」
左右田右衛門左衛門は、めだかが次の言葉を紡ぐより早く行動を起こした。
如何に不死の類といえど、どの程度までそれが働くのかは分からない。
首を切り付けられて死ななくとも、首を落とされれば死ぬかもしれない。
四肢を落として、心の臓を貫けば死ぬかもしれない。
脳髄の深奥まで刃を差し込めば死ぬかもしれない。
殺す手段はいくつか思い浮かぶ――相変わらず装備は万全には程遠い。
炎刀があれば不死を殺しきることも出来たかもしれないが、この装備では怪しいだろう。
ならば正攻法だ。
どうやってでもいい、この女を目の前から消し去る。
人間性だとか、そんなものは関係ない――姫さま以外は不要なのだ。
背弄拳。
今は滅びた相生の拳法。
ただしこれは一度、めだかに対して使っているのが気がかりだったが。
それでも、一撃必殺を狙うならば下手な正面突破よりずっと良いのは確かだ。
先ずは脇差で首を切断してみる――行動に写そうとした時に、右衛門左衛門は慌てて飛び退いた。
「速いな。気付くとは思わなかったぞ」
見えたのは、異様な長さになった爪。
右衛門左衛門には知るよしもないことだが、それはとある悪平等(ノットイコール)から得たスキル。
『五本の病爪』――病気を媒介する、悪魔の爪。
右衛門左衛門の背弄拳を朧気ながら記憶していためだかは、その速度に対応するためにこれを用いた。
攻撃を仕掛ける一瞬を狙って病爪を使い、一撃で戦闘不能にする。
失敗に終わりこそしたが、それは右衛門左衛門にめだかを脅威と見なさせるには十分。
「驚いた。珍妙な格好をしているとは思っていたが、もしやしのびの者か」
黒神なんて名前は聞いたことがなかったが、彼女の技術は驚きに値するだけのもの。
真庭の十二頭領にも匹敵し得るだけの腕。
あの奇抜極まる格好だって、真庭忍軍の連中と大して変わらない――やっぱりあっちの方がおかしいか。
ともかくスキルや異常なんてものを知らない彼は、彼女の技術を忍法と認識するのを余儀なくされた。
めだかにすれば脈絡もない『しのび』のワード。
彼女は軽く眉をひそめたが、然程気にとめるべきことではないと判断したらしい。
「背弄拳にそうやって対応してくるとはな――不禁得」
「背弄拳、か。またしても聞いたことのない武術だな。さっきも『虚刀流』とやらを使う輩と戦ったが、世界はやはり広いものだ。つくづく実感させられるよ」
めだかが何気なく言ったその言葉が、左右田右衛門左衛門に大きな衝撃を与えた。
それこそ、驚きを禁じ得ない。
虚刀流――この会場にいる中で、虚刀流の使い手は二人。いずれも怪物扱いこそ相応しい超人。
「……問わせて貰うが構わないか、黒神めだか」
「構わん。何でもこの私に問うがよい。――貴様にも、謝らねばならないしな」
「虚刀流といったな。お前が戦ったのは、男か女か。そして――そいつは、殺し合いに乗っていたか」
これ以上の質問は無用だ。
時刻が惜しい現在、理想としては背弄拳でめだかを仕留めておきたかった。
叶わなかった以上、あまり長居をしてばかりでは本当に取り返しのつかないことになるやもしれない。
まず、七花か七実か。
次に、乗っていたか否か。
これだけ分かれば十全だった。
「男だよ。殺し合いには乗っているようだったが、手っ取り早く無力化だけはしておいた」
事も無さげに答えるめだかだったが、それは右衛門左衛門にとってあまりに大きな衝撃だった。
鑢七花がどれほどの力量かは身を以て知っている。
家鳴将軍家御側人十一人衆を連戦で苦もなく撃破し、加えて自身をも討ち倒した。
あの七花を――無力化した。
五本の病爪を使ったことを知らない右衛門左衛門には、衝撃的に尽きる事実だった。
「……不笑。……お前を殺しておこうと思ったが、止めておくとする」
理由を挙げるならただ一つ、今はそんなことをしている場合ではないからだ。
姫さまを一刻も早く見つけ出して保護しなければならないのに、虚刀流以上の化け物になんて進んで関わりたいと誰が思うものか。
無機質な印象を受けた初対面の彼女より、恐らくは正義に燃えている彼女の方が厄介度数は数段増す。
勘違いには気付かないまま、左右田右衛門左衛門はめだかから離れる為の口実を即興で生み出した。
「悪いが、ここは見逃してくれないか。わたしはこれから仕えるべき主を探さねばならないのだ」
主――とはいっても、まさか馬鹿正直に否定姫のことを喋るような愚かしい真似はしない。
他ならばまだしもこいつに、この女に姫さまを任せようとは到底思えない。
見たところ殺し合う気はないようだが、だからこそだろうか、彼女の歪みが浮き彫りになっている。
黒神めだかの歪みは、正しすぎることだ。
誰よりも正しい道を行かんとするからこそ、そこに気持ち悪いほどの違和感が生じる。
正しすぎることも時には悪徳だ――。
「そうか。ならば仕方ないな。私が見つけたら保護しておいてやろう。名前はなんだ?」
「――
戦場ヶ原ひたぎだ」
何気なしに、名簿にあった名前の中から適当に名前を借りた。
―――そう、右衛門左衛門は本当に『適当に』名前を選んだだけに過ぎなかった。
まさかその名前が、黒神めだかにとって大きな意味合いを持つものだとは知るよしもない。
まさかその名前が――彼女の大切な人を殺した少女の名前であるなどと、思いもしない。
「――そうか」
めだかは冷静であろうと努めたが、本当に感情を隠しきれているか少しだけ不安にもなった。
脳裏に今でも真新しく蘇る
人吉善吉の死の瞬間、戦場ヶ原ひたぎの凶行。
戦場ヶ原ひたぎ――その名前がこんなところで絡んでくるなんて、思いもしなかった。
彼女が殺し合いに乗っていることを果たして右衛門左衛門は知っているのか。
彼女が既に一人を殺めてしまったことを知っているのか。
だがしかし、『大切な人』の悪事をわざわざ事細かに伝えるほどめだかはデリカシーに欠けていない。
虚言であったとも知らず、左右田右衛門左衛門の心を気遣って感情を自制する。
生徒会を執行するのなら、そのくらいは出来て当然だ。
「だが左右田右衛門左衛門。貴様は決して人を殺すな。それだけは誓ってもらうぞ」
「不断(ことわらず)。では別れるとしよう」
正しすぎる少女は親友殺しの下手人『戦場ヶ原ひたぎ』を探すために。
不忍を掲げし男は自らの仕えるべき『否定姫』を探すために。
こうして、二度目の邂逅を終えたのであった。
† †
「戦場ヶ原ひたぎ上級生、か」
左右田右衛門左衛門と別れためだかは、何をするでもなくただその名前を呟いた。
まさかここまでの縁があるとは、まさに合縁奇縁といったところか。
善吉を殺した相手が、仮面を被った妙な男の大切な人だった。
今まさに改心させるべく探していたひたぎを探す理由が、どうやら更に増えたようだ。
勿論、彼女を怒りに任せて殺すような真似はしない。
正気でなかったとはいえ禁忌を犯した自分に、誰かに激昂し、あまつさえ殺すような権利はないのだ。
ただ、黒神めだかの意地に懸けて改心だけはして貰わなければならない。
殺し合いに乗ることを撤回させ、ちゃんと矯正してやろう。
一時の感情に任せての行動だったかもしれないし、もう一度話せば案外話は早いかもしれない。
もし彼女が改心するようだったら、これ以上責めるような真似をするつもりもない。
誰にだって過ちはある――許されない罪も購えない罪もこの世にはない。
過去に激闘の末改心させた過負荷な男のエピソードが、不意によみがえる。
「……あの時も、随分と善吉には世話になったよなぁ」
善吉だけではない。
今は亡き阿久根高貴にも、ここにはいない喜界島もがなにも。
あの戦いに関わった全ての人に、支えられてこそ勝ち取った勝利だったと信じている。
自分だけでは、
球磨川禊をあそこまで後腐れなく正すことは出来なかったろう。
だが、その仲間ももう二人、欠けている。
めだかを支える四肢は既に二本がもがれた。
これではもう、完全なんて口が裂けてもいえない。
ゼロからのスタートだ。
「安心して眠るが良いぞ、善吉、高貴。後のことはこの私が請け負った」
凛ッ、と音が聞こえるような堂々とした態度でめだかは宣言する。
たった独りの生徒会。思えば少しだけ心細い。
けれど――それがどうしたというのだ。
私一人でこの事態を終結させるに越したことはないし、私一人で十分だ。
「貴様も安心しろ、左右田右衛門左衛門! 私が戦場ヶ原上級生を改心させ、必ず貴様の下に届ける!」
彼女は気付かない。
自分が歪みを抱えていることに、ねじくれてしまっていることに。
あと暫しの時が経てば、人吉善吉の手によってそのねじれを正される未来があった。
しかしその未来はもう二度と訪れない。
正しすぎる間違いを侵す少女を救う者は――ここにはいないのだ。
―――黒神めだかはたった一人で往く。
何があるかも分からない、どうしようもなく歪んだ未来へ。
人殺しの少女に光は今のところ、見当たらなかった。
【1日目/昼/B-4】
【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]『不死身性(弱体化)』
[装備]「庶務」の腕章@めだかボックス
[道具]支給品一式×3(名簿のみ2枚)、ランダム支給品(1~7)、心渡@物語シリーズ、絶刀『鉋』@刀語、否定姫の鉄扇@刀語、シャベル@現実、アンモニア一瓶@現実
[思考]
基本:もう、狂わない
1:戦場ヶ原ひたぎ上級生と再会し、更生させる
2:話しても通じそうにない相手は動けない状態になってもらい、バトルロワイアルを止めることを優先
[備考]
※参戦時期は、少なくとも善吉が『敵』である間からです。
※『完成』については制限がついています。程度については後続の書き手様にお任せします。
※『不死身性』は結構弱体化しました。(少なくとも、左右田右衛門左衛門から受けた攻撃には耐えられない程度には)
ただあくまで不死身性での回復であり、素で骨折が九十秒前後で回復することはありません、少し強い一般人レベルです。
※都城王土の『人心支配』は使えるようです。
※
宗像形の暗器は不明です。
※黒神くじらの『凍る火柱』は「炎や氷」が具現化しない程度には使えるようです。
※戦場ヶ原ひたぎの名前、容姿、声などほとんど記憶しています。
※『五本の病爪』は症状と時間が反比例しています(程度は後続の書き手にお任せします)。また、『五本の病爪』の制限についてめだかは気付いていません。
※軽傷ならば『五本の病爪』で治せるようです。
※左右田右衛門左衛門と戦場ヶ原ひたぎに繋がりがあると信じました
† †
「存外、あっさりと騙せたものだ」
左右田右衛門左衛門は黒神めだかから十分な距離を取って、思わずそう呟いた。
あんな分かりやすい嘘、少しは疑ってかかるべきだろうに。
戦場ヶ原なんて人間は知らないし、否定姫以外に尽くすなど過去にも未来にも有り得ない。
姫さまへの忠義を捨てるくらいなら、喜んでこの命を絶とう。
そう、問題ない。
虚刀流を退けた少女は騙せたし、万が一姫さまとめだかが会ってしまっても、奴は乗っていない。
あれに姫さまを委ねるなんてことは実に不本意だが、あくまで万が一の話だ。
このまま自分は――姫さまを探すために死力を尽くすのみ。
障害は殺して排除する。
姫さまへ危害を加えそうなら尚更だが、そうでなくとも例外なく殺す。
黒神めだかや鑢の人間のような規格外以外は、相手をしても問題はない――そう、不問題なのだ。
「だが、一応手だけは打っておくべきだな。あまり気の進むやり方ではないが――仕方あるまい」
右衛門左衛門とめだかの距離は、もう随分と離れた筈だ。
しのびの脚力の恩恵あってか、1エリア分くらいは離れたのではないだろうか。
如何に超人といえどこの距離でなら大声を出しても聞こえはするまい。
適当に走ったからここがどこかは分からないが、喫茶店のような建物が見えた。
右衛門左衛門は迷うことなくその屋根に飛び乗ると、辺りを見渡す。
「……声帯移しは無理か」
残念なことに、左右田右衛門左衛門以外の生物の姿は見当たらない。
相生忍法・声帯移し。
自分以外の生物を介した会話を可能とする、右衛門左衛門の修得している忍法のひとつ。
せめて鳥か何かがいれば、広範囲に目的の『誤情報』を撒き散らすことが出来たのだが。
生憎、鳥一羽すら見当たりはしなかった。
残念ながら、一つ目の策は潰れてしまったようだった。
「ならば」
短く言うと彼は迷わず屋根から飛び降り、地面へと着地する。
流石は元しのび、身体能力でならそんじょそこらの一般人とは比べ物にすらならない。
着地のダメージなどまるでなく、表情一つ変えずに喫茶店の中に入った。
西洋風の店内に疑問はあったが、気にするほどのことではないと最早割りきってしまう。
本来従業員以外は立ち入れない厨房の方にまで入っていくと、やがて事務室らしき場所が見えた。
右衛門左衛門の時代には喫茶店なんてものは勿論無いので、彼は正式な名称も詳細も知らなかったが。
部屋に入ると、コピー用紙――テーブルの上にあった山積みのそれをディパックに突っ込む。
目見当で枚数を計るのは難しいだろうが、その枚数はぴったり百枚。
乱暴に突っ込んだせいで折り目がついたかもしれない。
が、そんなことはどうでもいい。
百枚の内の一枚だけは、その手で掴んだままだった。
右衛門左衛門はディパックの筆記用具を取り出し、文字を紙に走らせた。
昔の人間のため現代の人間には少々癖の強い字に見えるかもしれないが、意味は分かる筈。
書き終えるなり立ち上がり、店の外に出るなり――紙を宙に舞わせた。
刹那、ディパックから抜き出した三本のメスがコピー用紙をドアに串刺しにする。
綺麗に文字の部分を避けているあたり、彼の腕前が窺えたと言えよう。
成功を確認すると、もう何も口にすることはなく、左右田右衛門左衛門は喫茶店に背を向ける。
寄り道をしてしまった。
一刻も早く姫さまを見つけなければ――『対策』を講じ終えた彼は、迅速に行動方針をシフトする。
否定姫を――もう数時間前に生命の花を散らした姫君を――求めて。
左右田右衛門左衛門は再び―――風のごとく駆けた。
『黒神めだか。この人物は殺し合いに乗っている。
身体能力に優れ、わたしは同行者を一人殺された。非常に危険、すぐに排除するべし。
黒神めだかを、殺せ』
左右田右衛門左衛門の残したひとつの『爪痕』。
これが後々効果を生むのかどうかは、未だ不分(わからず)。
【1日目/昼/A-3喫茶店周辺】
【左右田右衛門左衛門@刀語】
[状態]健康
[装備]「不忍」のお面@刀語、脇差@不明、真庭忍軍の棒手裏剣×10@刀語、メス×47@現実、コピー用紙×99@現実
[道具]支給品一式、浴びると不幸になる血(真偽不明)一瓶@不明
[思考]
基本:参加者は命が無い限り殺すが、七花など勝てない相手とは戦わない。
1:姫さまを探す。
2:近くの施設を順に見て回る。ついでに黒神めだかの悪評を広めておく。
3:殺したと思っても気を付けておく。
[備考]
※死亡後からの参加です。
※病院は一応調べ終えています。
※めだかが鑢七花と戦ったことを知りました
※喫茶店の扉に、めだかの悪評が書かれた紙が串刺しにされています
最終更新:2013年03月07日 17:36