自己愛(事故遭) ◆wUZst.K6uE



 アスファルトで舗装された道路の上を、黒神真黒は沈痛な面持ちで歩いていた。
 心情的には今すぐ次の目的地へと走り出したいところだったが、あいにく今の真黒には向かうべき明確な目的地が存在していない。
 一回目の放送を聞いて以来、真黒の両足は泥に深くはまったかのような有様だった。その足取りは重く、遅々として動かない。
 方向も定まらず、疲弊しているわけでもないのに立ち止まりそうになる。
 道に迷った幼子のようだと、精一杯の自虐をこめて思う。

 「情けない……」

 深く息を吐き、デイパックから地図を取り出す。
 目的地こそ明確でないが、目的ははっきりしている。最優先すべきは、妹の暴走を止めること。そしてそのために、人吉善吉を見つけ出して合流すること。
 現時点では、たったこの二つ。
 それなのに、まるで手がかりすらつかめない。
 入ってくるのは、絶望的な情報ばかりである。
 最も合流の可能性が高く、有益な情報が得られそうな場所である箱庭学園は、とうに禁止エリア内に入ってしまっている。
 そこで二人を待つという選択肢が奪われた以上、真黒としては闇雲に探し回るか、ほかの参加者の目撃情報などを頼りに、二人の足跡をたどるかしかない。
 今までに、真黒は妹以外では二人の参加者に出会っている。暗い目をした、どういう理由でか女装をしている少年と、鮮血のように赤い衣装をまとった小学生くらいの少女。
 しかしどちらからも、有益な情報を得ることは出来なかった。
 そしてそれ以来、ほかの参加者と接触することすら適っていない。
 足跡どころか、痕跡すら見出すことができない状態である。

 「だけど、善吉くんがまだ生きているなら、向こうも僕を探そうとしているはずなんだ……」

 もし彼のほうも、自分と同じく黒神めだかの現状を知っていたとしたら。
 阿久根高貴が脱落してしまった今、この場において自分たちが信頼できる人間というのは限りなく少ない。
 黒神めだかが実質主催者側の手に堕ちてしまっているというこの状況――それを正しく認識していたなら、協力者として真黒のことを探し出そうとするのは当然の思考のはずだ。
 向こうから何かしらのアプローチがあれば、こちらからも探しやすくなる。彼なら、それくらいのことは思いつくだろう。

 「……………………」

 『まだ生きているなら』。
 自分で言ったその言葉が、胸に重くのしかかる。
 彼が今も生きている保障はどこにもない。一回目の放送から、すでに五時間以上が経過している。次の放送までそう時間はないはずだ。
 最初の六時間で、十人。
 次の六時間で、新たに何人かが死ぬのだろう。
 そこに人吉善吉や黒神めだかの名前が付される可能性は、考えたくはないが否定できない。
 妹はともかく、彼は特別(スペシャル)でも異常(アブノーマル)でもない、ただの普通(ノーマル)なのだから。

 「……………………」

 真黒はひとつ、迷いを抱えていた。
 それは阿久根高貴の死を知らされたときからかもしれないし、数時間前にここへ来て初めて妹の姿を目にしたとき――つまりは最初から抱いていた迷いだったかもしれない。
 自分はずっと、妹という存在を行動原理の中心に据えてきた。生まれたときから今に至るまで(本当にそう信じている)、途切れることなくずっと。
 黒神めだか、そして、黒神くじら。
 今この状況においても、その思想に変わりはない。
 だからここへ来てすぐ、あの破壊衝動の権化と化したような妹の姿を見たとき、一切の迷いなく助けなければと思った。
 自分自身を犠牲にしてでも、妹の暴走を止めなければと。
 嘘偽りなく、心の底からそう思った。

 しかし――それは本当に正しいのだろうか?
 妹の暴走を止めることが、本当に彼女を助けることになるのだろうか?

 この首輪や最初の「見せしめ」を思い返すまでもなく、この殺し合いにおける参加者への強制具合は半端ではない。主催者側としては、真実最後のひとりになるまで殺し合いを続けさせるつもりだろう。
 それを止める術が、本当になかったとしたら。
 妹は――黒神めだか(改)は、あの状態のままにしておくのが最善なのではないだろうか。
 元から戦闘において、妹のスペックの高さは尋常ではない。並みの特別(スペシャル)や異常(アブノーマル)では勝負すら成立しないほどの、驚異的な強さを有している。
 その妹が今、自身の持つ強さを遺憾なく発揮できる状態にいる。
 人を殺しても表情ひとつ変えず、兄である自分にすら躊躇なく襲い掛かる、非情にして非常なる強さ。
 このバトルロワイアルという舞台において、それはうってつけと言っていい状態だ。
 ならば。
 黒神めだかではなく、黒神めだか(改)をサポートし生き残らせることこそが、妹を守るということではないのか。
 自分自身を犠牲にするだけでなく。
 妹以外の全員を犠牲にする。
 最初のうちは、自らの手で殺してでも止めなければと思っていたが。
 妹を手にかけるくらいなら、
 いっそ自分のほうが、妹自らの手で――――


 「…………なんてね」


 陰鬱だった表情が一転、別人のように明朗な表情へと変わる。

 「ふふ――自分自身を『解析』するために、わざわざ自発的にネガティブ思考なんてものに陥ってみたわけだけど――やっぱりこれは、僕のキャラじゃないね。
 めだかちゃんに見られたら、頭がおかしくなったと誤解されて問答無用でぶん殴られそうだな――まあ、それはそれでいいんだけど」
 どんな光景を想像したのか、真黒はとても楽しそうに笑う。
 「しかしおかげで、僕はまだめだかちゃんを――そして善吉くんをそこまで見損なっていないことがよく理解できた。みっともない僕を演じただけの価値は十分あったね」

 自分はずっと、幼いころから妹のことを見ている。
 自らの異常に悩み、苦しみ続けてきた妹の姿を。
 特出した天才として扱われながら同時に化け物のようにも見られ、誰にも理解されることなく、究極の孤独と戦い続けてきた黒神めだかの姿を。
 もし妹をこのまま戦わせ続け、その結果すべての参加者を殺戮し尽くし、最後まで生き残ってしまったとしたら、そのときこそ妹はすべてを失うだろう。
 あの黒神めだか(改)を肯定し、まして殺戮を後押しするなど論外中の論外だ。
 善吉くんも、きっとそう言うだろう。
 どこまでも普通で普通の少年――しかしそれゆえに、妹を苦悩と孤独の暗闇から救い出した唯一にして無二の存在。
 今の妹を救えるのは、おそらく彼以外にはいない。
 それこそ真黒がそう思うように、自分自身を犠牲にしてでも妹を元に戻そうとするだろう。
 しかし、それでは妹が本当の意味で救われることはない。黒神めだかとしての自我を取り戻したところで、そのために善吉くんが犠牲になったのでは、妹は二度と癒えない傷を負うことになる。
 黒神めだかと、人吉善吉。
 両方が救われなくては、意味がない。

 「頼むから、一人でどうにかしようなんて思わないでくれよ、善吉くん――」

 そう呟いたとき。
 黒神真黒は、『何か』を感じ取った。

 「…………何だ?」

 立ち止まり、五感を澄ませる。
 しかしそれはほんの一瞬だけ偶然に漂ってきたものだったようで、今はもう微かな風の音以外に感じられるものは何もなかった。

 『音』のようでもあったし『気配』のようでもあった。一瞬だったが鋭くはっきりと感じることができ、かつ曖昧で抽象的という、矛盾を孕んだ感覚。
 近くからではない。ある程度離れた場所から漂ってきたもののようだ。

 「殺気――いや、『闘気』、か――?」

 これはおそらく――戦闘の気配だ。
 このフィールドにおいて、いつどこで戦闘が起きようと不自然なことではないが――
 一瞬とはいえ、何の音も届かないほど遠くで行われているはずのそれを、自分が「察知できた」ということに、若干の違和感を覚える。

 「まさか――めだかちゃんがまた、誰かと……?」

 その闘気の発生源が妹だというなら、自分が察知できたというのも納得がいく。妹の気配ならば、無意識レベルで常に感じているようなものだ。
 妹がそう遠くない場所にいるのはわかっている。今のが妹の発した闘気ならば、また誰かを見つけ、殺そうとしている可能性がある。

 「……………………」

 何度も自分の中で確認してきたことだが、自分ひとりでは今の妹をどうこうできるとは思えない。
 それどころか、不用意に近づけば今度こそ逃げ切れない可能性がある。同じ相手を二度も逃がすほど、妹は――黒神めだか(改)は甘くないだろう。
 このまま近づかず、当初の予定通り善吉くんを探すか。それとも危険を承知で様子を見に行ってみるか。
 数分間、真黒は熟考し――――

 「…………行こう」

 気配を感じた方向へと、慎重に足を進め始めた。





  ◆   ◆   ◆





 黒神真黒が本当に幸運に恵まれていたとしたら、彼が足を進めるその先で、黒神めだか本人との再会を果たすという展開もありえたことだろう。
 現在の位置関係からいっても、彼と黒神めだかが偶然ニアミスするという可能性は決して低いものではない。
 彼が今、妹(と思しき者)の気配に反応して移動を決めたことを考えれば、むしろ出会わない確率のほうが低いといってもいい。
 だから結果だけを言ってしまうなら、彼は幸運には恵まれていなかった。
 むしろ不運の極みといっていい。
 今、彼が妹と再会するということはすなわち、彼が想像しているであろう黒神めだか(改)でなく、元通りの妹、正真正銘の黒神めだかに出会えたということなのだから。
 人吉善吉を失い。
 それと引き換えに自我を取り戻した、黒神めだかと。
 善吉亡き今、この場において黒神めだかが最も必要とするべき人間は、兄、黒神真黒だったと言っても過言ではない。
 妹を愛し、妹のために尽くし、妹のために生きることのできる彼ならば、ひょっとしたら今の彼女を救うことができたかもしれない。
 心に傷を負い、四面楚歌に陥った黒神めだかのことを。
 だからこれは、お互いにとって不運としか言いようのない展開だった。
 兄として、妹として。
 二人が兄妹として真に力を合わせて戦うことができたかもしれない機会を、永遠に逃したということになるのだから。





  ◆   ◆   ◆





 エリアひとつ分を移動し、あたりを探し回ること数十分。真黒はようやく、ひとつの人影を発見する。
 その男は自分のほうへ歩いてきた真黒に気付き、「ん?」と顔だけをこちらへ向けてきた。

 「あれ、あんた――」
 何かを言いかけて、男は何かを確認するように真黒の顔をじっと見つめる。
 「いや、違うな――さっきの女と同じ顔に見えたけど、よく見たら別人だな。髪型とかもすげえ似てる気がしたんだが――ああ、服が違うのか」

 どことなく倦怠感を感じさせる口調で、淡々と男は呟く。
 真黒よりはるかに上背のある大男で、上は十二単を二重に重ねたような派手な着物、下には袴をはいている。ぼさぼさに伸ばした黒髪が、男の無頼な感じをより際立たせていた。
 真黒でなくとも、男がただの一般人だとは思わなかっただろう。

 「はじめまして――と言うべきなのかな」

 男との距離が近づきすぎないように注意しつつ、真黒はにこやかに話しかけた。

 「僕は黒神真黒。見てのとおり、参加者のひとりだ」
 そういって真黒は、自分の首輪を示してみせる。

 「……俺は鑢七花。剣士だよ」
 男もまた、ひどく面倒くさそうに名乗る。
 「……ん? 黒神? たしかさっきの女もそんな名だったような気がしたけど――なんだっけな、思い出せねえや」

 やはりと思う。
 七花が最初に言った独り言から、すでに自分の予想が外れていないことはほぼ確信していた。
 自分に似た顔、似た髪形の女。妹のことと見て間違いないだろう。
 真黒は七花に尋ねる。

 「七花くん。もしかしてその女は、黒神めだかと名乗っていなかったかい?」
 「めだか――ああ、そういやそんな名だったっけな。あんたの知り合いか?」
 「妹だよ。僕の愛すべき、大事な妹さ」

 どうやらこの男が、直前まで妹と会っていたことはほぼ間違いない。先ほど感じた闘気も、おそらくこの男と妹が戦闘に突入した際に発されたものだろう。
 しかしそうすると、ひとつの疑問が湧いてくる。
 この男――鑢七花と妹が戦ったのだとしたら、その結果はどうなったのだろうか。
 自ら剣士と名乗ったこの男。見たところ刀剣の類を帯びている様子はないが、相当な武闘派であることは間違いない。
 一瞬とはいえ、遠くにいた真黒にすら届いた闘気の強さが、鑢七花という男の実力を物語っている。
 七花の来ている着物の袖に、ごく微量だが、血痕のようなものが見て取れた。
 返り血にしては少ない量の血ではあるが――いったい誰のものなのか。
 まさかとは思うが、妹がこの男に――――

 「……その様子だと、君は僕の妹と戦ったのかな? 怪我をしているようだけど、妹のつけた傷かい?」
 「ん? あー……まあな、戦ったよ」
 七花は急に渋い顔になり、目を泳がせた。
 「変な爪で引っかかれて、気絶させられちまったけどな――起きたときには、もうどっか行ってたよ。強いな、あんたの妹」

 姉ちゃんほどじゃねえけど――と小声で付け足すように言う。
 それを聞いて、真黒はひとまず安堵する。男の言うことが真実なら、妹はまだ無事なはずだ。
 爪で引っかかれて気絶した――という表現が文字通り引っかかるが、妹のことだから何か相手の奇をてらう策を弄して、この男をいなしたのだろう。
 やはり妹が、このあたりにいるのは間違いないだろうが――

 「…………ん?」

 急激に違和感を覚える。
 ありえないことを聞いたような、矛盾を自覚したときのような感覚。
 何だ――何が引っかかった?

 「……七花くん、妹は、どんな様子だった?」
 「どんなもこんなも……随分と偉そうな態度だったよ。かつては正義感の強い人間だったとか、私が更生させてやるとか、勝手なことばっか言われたぜ。正直言って腹の立つ――――」
 「…………!!」

 男の言葉の何が引っかかったのか、はっきりと理解する。
 妹が自分と会ったときと同じ状態でいるならば、敵対した相手を「気絶させた」だけで立ち去ったというのは不自然だ。確実に相手の息の根を止めてから立ち去るのが自然だろう。
 黒神めだか(改)ならば。
 しかし実際、真正面から敵対した鑢七花はこうして生きている。それは何を意味するのか。
 極めつけは、いま七花が口にした台詞だ。今のは妹が悪人と対峙するたびに、散々言い放ってきた台詞ではないか。
 上から目線の、性善説――。

 (めだかちゃんが――元に戻っている?)

 ある意味、この殺し合いを最後まで生き残ることよりも達成し難い問題と考えてきた事項が。
 解決した? こんな唐突に?
 希望が胸に広がるのと同時に、疑問と困惑が頭を支配する。
 いったい誰が、どうやって妹を正気に返らせた?
 あの状態が、時間の経過とともに自然と元に戻るような一時的なものだとか、まっとうな療法やプロセスで押さえ込める類のものなどでないことは確かだったはずだ。
 黒神真黒の異常をもってして、それは断言できる。
 あの妹のことだから、何らかの能力を駆使し、自力で自分自身を律したという可能性もゼロではないだろうが――

 正気に返るほどの「何か」が、妹の身に起こった――?

 どちらにせよ、妹はいま危険な状況にある可能性が高い。
 暴走状態にあったとはいえ、妹は真黒が知っているだけで二人の人間をその手で殺している。それでなくとも、妹の持つ異常と戦闘能力はそれだけでほかの参加者にとって警戒の対象になり得る。
 妹が、真黒が知る以外の凶行をすでに働いていて、それを誰かが見ていたとしたら。
 そしてその誰かが、妹に対する悪意を持ってして、その情報を利用しようとしたら。
 妹はこのゲームにおける危険人物として、多くのプレイヤーから敵視されることになる。
 暴走が解けた今、その状況はよりいっそう危険と言えた。
 妹は基本、良くも悪くも目立ちすぎる。こそこそ隠れたり、逃げたりすることをことのほか嫌う。相手の真正面から正々堂々、馬鹿正直に切り込んでいくのが黒神めだかのスタイル。
 それどころか、相手を見逃すことすら妹はしない。すでに敗北した相手ですらも、反省し、更生するまで徹底的に、完膚なきまでに叩き潰そうとする。
 その上で妹は、相手のすべてを肯定する。
 異常も過負荷も不完全も、すべて平等に受け入れる。
 相手の攻撃をわざわざ受けることにすら、一切の躊躇をもたない。
 しかしそれは、悪意ととられかねない考え方だ。自分よりはるか上にいる――すべてが完成しきった人間から無条件ですべてを受け入れられるなど、人によっては屈辱でしかないのだから。

 おそらくは目の前の相手――鑢七花がそう感じたように。
 妹の優しさはあまりに強く、それゆえに両刃の刃となる。
 敵が増えすぎれば、たとえ妹でも生き残ることは至難だ。

 「……それは、妹がずいぶんと失礼を働いたようだね」

 笑顔を絶やさぬままに、真黒は言う。

 「本人に悪気があるわけじゃあないんだ。ただちょっと、正義感が強すぎるきらいがあってね――妹に代わって詫びよう。どうか許してやってほしい」
 「いや、いいよ別に」

 そう言う七花はすでに、元の淡白な表情に戻っている。
 どうやら実際に妹の言動を根に持っているわけでなく、剣士として勝負に勝てなかった自分自身に腹を立てている様子だ。

 「ありがとう七花くん――ところでもうひとつ訊きたいんだけど、君との勝負のあと、妹がどっちへ向かったかわかるかな」

 この質問に対する回答は、正直なところあまり期待してはいなかった。
 七花はさっき気絶させられたと言っていた。その間にこの場を立ち去ったのだとしたら、どちらへ向かったかなど知る由もないだろう。

 「あっちに行ったよ」

 しかし予想に反し、あっさりと七花は答える。
 「気を失う前に、あっちのほうに歩いていくのが見えたっけな。どこに向かうとかは言ってなかったけど」

 七花の指差す方向、北西から北にかけての方角を見やる。地図で言うと、この先にあるのは喫茶店と西東診療所、その向こうに竹取山だったか。
 喫茶店は、自分が串中少年と会った場所だ。もし妹が串中くんともういちど出会えば自分のことを伝えてくれるはずだが――あの少年がまだ喫茶店に留まっているとは思えない。可能性は低いだろう。
 それにしても、怖いくらいに次々と状況が好転している。
 七花が嘘をついていなければ(嘘をつく理由があるとは思えないが)、妹はすでに元に戻っていることになり、その上だいたいの所在地まで明らかになっているということになる。
 少し前までの停滞が、まるで嘘のように。
 とんとん拍子に、問題が解決していく。
 本当ならば今すぐに妹のもとへ駆けつけ、熱い抱擁を交わしたいところだが――――

 「七花くん――――」

 その前にどうしても、訊かねばならないことがある。
 いや――もしかしたら、この質問自体は無意味なものなのかもしれない。もし、自分の予想が『正しければ』、こんな質問をしようがしまいが、この後の展開は同じものになるはずなのだから。
 ただ、自分は期待していた。
 これまでの質問でそうだったように、七花が『予想に反した』答えを返してくれることを、真黒は期待していた。

 「七花くん、僕からの質問はこれで最後にしたいと思う。君は――」

 真黒はここで初めて、表情から笑みを消す。

 「――君は、僕がこれから妹のもとへ向かうのを、何も言わず見送ってくれるかい?」

 「……………………」

 数秒だけ、あるいは一刹那だけ、二人の間に沈黙が下りる。

 「……わざわざそう訊くってことは、あんたも予想できてるんだろ?」
 そう言って七花は、拳法のような構えを取る。
 「あんたに恨みはないし、あんたの妹も別に恨んじゃいない。あんたの妹に受けた仕打ちを、あんたで晴らそうとも思ってない。
 ただ剣士として俺は、このまま何もせず、あんたを黙って行かせるわけにはいかない」
 「……………………」

 数十分前に感じたのとまったく同じ闘気が、七花から発される。あのときはほんの一瞬意識をかすめただけだったが、この距離では神経を尖らせるまでもなく、嫌が応にもこの身に感じる。
 それは、真黒の予想通りで。
 期待はずれの、展開だった。

 「…………君には、大切な家族はいるかい?」

 真黒は、再び質問する。
 先の質問を、最後の質問にできなかったことを残念がるように。
 まるで脈絡のない質問に、七花は出鼻をくじかれたような表情になった。
 返答を待たぬまま、真黒は続ける。

 「僕にとっては妹がそうだ。妹のことを、僕はこの世の何よりも優先する。言うまでもなく、僕自身よりもね。
 僕が何かを守るといえば、それはすなわち妹を守るということだし、僕が何かを愛するといえばすなわち妹を愛するということだ。
 僕の持つ愛情のすべては妹に注がれるために存在しているようなものだし、僕に注がれ得る愛情は、そのすべてが妹から注がれる愛情であるべきだ。
 いっそ『愛』という単語を『妹』と置き換えてもいいくらいだね――僕の辞書で『愛』の項を引いたとしたら、そこにはきっと『妹のこと』と記してあるに違いない」
 「……………………」

 なんとも言い難い顔で、七花は熱弁をふるう真黒をただ見つめる。

 「僕は今、君がくれた情報のおかげで妹と再会する絶好の機会を得ている。
 君はおそらく、剣士としてこういいたいのだろう――『剣士たる自分が、戦場にいながらにして目の前にいる相手を戦わずして見逃せるわけがない』――とね」

 七花と真黒との間合いは、目算でおよそ10メートル。どちらかが動けば、即座にもう一方も始動するであろう緊迫した空気が漂っている。

 「しかし僕はそれに対してこう返す――『妹の兄たる自分が、妹が近くにいるのを知りながらにしてそこに駆けつけないわけにはいかない』――とね。
 僕が今どれだけ妹のもとへ向かいたいと思っているか、君にわかるかい? 僕が今考えている、妹との再会時に言うための台詞候補が原稿用紙何万枚分に達してしまっているか、君に想像がつくかい?」
 「知るか、そんなもん」
 「それは残念だ」

 時代の違いとは別の、大きな文化の隔たりをどちらも感じているようだった。
 しかし語りながら真黒は、すでに自分なりの策を展開している。
 できればここは、七花のほうに矛を収めてもらいたいところだった。向こうが戦闘を諦めてくれれば、それが最善の結果といえる。
 だが次善の結果ためには、七花が真黒へと『向かってくる』姿勢でなく、真黒に対し『受けて立つ』、あるいは『待ち構える』体勢を取らせておく必要がある。
 そのために真黒は、慎重に言葉を選びながら、語る。

 「話が逸れたかな。まあ要するに僕が言いたいのは、少なくとも僕のほうは君と敵対する理由はないっていうことさ。今言ったとおり、僕は妹のことで頭がいっぱいだからね。
 君が僕に――というより妹に害を及ぼさない限り、僕が君に敵対心を抱く理由は微塵もない。むしろ協力することだってやぶさかではないよ、心からね。
 妹だってきっとそうだろう。君を気絶させたのは事実だろうけど、それ以上は何もせずに立ち去ったのも事実だ。君に対する殺意がないことは明白じゃないのかな。
 むしろ僕を殺せば、妹は今度こそ君を仇敵として殺すかもしれない。ここで僕を見逃すという選択肢は、君にとって決して悪いものじゃないと思うけどな」
 「……………………」

 まるで構えようともしない真黒の真意を測りかねているのか、七花は動かない。

 「君は剣士と名乗ったけれど、見てのとおり僕は丸腰だ。そもそも戦う気なんて最初からない。そんな相手に刃を向けるのは、剣士としてはむしろ間違いなんじゃないのかと、僕は思うのだけれど――」


 「関係ねえよ」

 唐突に。
 いままでの調子とは違う、きっぱりとした口調で七花は真黒の能弁を止める。

 「俺は剣士だが、同時に刀でもある。刀は斬る人間を選ばないし、刀は人を斬るのに理由を必要としない。俺は一介の剣士として、そして一本の刀として、あんたを斬るだけだ」

 悪いがそういうことだ――と。
 これ以上は不要とばかりに、七花は説明を打ち切る。

 「……………………」

 何が『そういうこと』なのか、正直なところ真黒には理解しきれなかった。
 ただ、七花の言葉が本心からのものであること。それだけはなぜかはっきりと理解できた。
 この男は嘘偽りなく、剣士でありながら刀として生きている。
 刀を帯びていないのも納得できる。刀が刀を持つ必要性など皆無だ。
 それゆえに、理解が及ばない。
 普通とも特別とも異常とも違う、そんな言葉では括れない、別種の何か。
 別の世界から来たのではと思うような、別次元の価値観。
 自分にこの男を説得するのは――不可能だ。

 「…………どうやら、見逃してくれる気はなさそうだね」
 やれやれと、真黒は天を仰ぐ。
 「人でありながら刀として生きる――か。なるほど、理事長が君をこの戦いに選抜したわけだ。こんな特異な人間は、さすがに会ったことがない――」

 ある意味、妹よりも特殊といえるだろう。人間としてでなく、刀という武具としての完璧さを求めた人間など。

 「最初は少しだけ、君とは仲良くなれそうな気がしていたんだけどね」
 「俺は最初から、あんたと仲良くなれそうなんて思わなかったけどな」

 にべもなく言って、七花は少しだけ構えを変化させる。

 「ただ――あんたが妹を大切にしてるってのは何となくわかったよ。それにあんたの言うとおり、無防備の相手に斬りかかるのは俺の望むところじゃない。
 だから俺は、こう言わせてもらう――」

 ――妹を助けに行きたきゃ、俺を倒してから行くんだな。

 そんな、見た目に似つかわしくない安物の悪党のような台詞を吐いて。
 鑢七花は、黒神真黒を『待ち構える』。

 「妹がそんなに大事だってんなら、その心意気を示して見せろよ。『お兄ちゃん』」
 「……………………ふ、」

 挑発するような台詞に、思わず笑みがこぼれる。
 真黒は初めて、七花の瞳に人間らしい光を垣間見たような気がした。
 彼にもきっと、誰か大切な人がいるのだろう。家族か、恋人か。
 七花がおそらく、その誰かのために戦っているように。
 真黒が妹のために戦っていることを、この男なりに酌んでくれたのだろう。
 刀でありながら、人であろうとしている。

 「……君は優しいね、七花くん」

 少しだけ笑って。
 すぐにその笑みを消し、正面から七花を見据える。

 「僕の気持ちを理解しようとしてくれたことについては感謝しよう――だが、あくまで僕と妹との間に立ち塞がろうというのであれば、君を排除しないわけにはいかないな。
 現時点をもって僕は、君を敵として認識しよう」

 真黒はここへ来て、初めて戦闘の体勢を取る。
 七花の受けの構えに対し、いつでも踏み込めるような前傾姿勢の構え。

 「妹のため、そして自分自身のため、僕は君を倒す」
 「ああ、来いよ。受けて立つぜ――ただしその頃には、あんたは八つ裂きになっているだろうけどな」

 『受けて立つ』。
 その言葉を聞いて、真黒は準備が整ったことを確信する。
 次善の策を実行するための、下準備が。

 「それじゃあ――――」

 真黒はひとつ、深く呼吸をする。
 二人の視線が交錯し、空気が静まり返った、その時。

 「行くよ、七花くん――――!」

 高らかに宣言して。

 足を強く踏み込み、力の限り地面を蹴り上げて。

 武器ひとつ持たず、その身だけを頼りに。

 素手のままで真黒は、正面の七花へと飛び掛った――!



 「――――なんてね」



 飛び掛った――かのように見えた。
 地面を強く蹴った、までは事実である。
 実際に真黒が跳んだのは、真後ろだった。
 一足跳びに七花から大きく距離をとり、そのまま踵を返して、一目散に遁走した。

 「な……………っ!」

 驚愕する七花の声を尻目に、真黒はさらに加速して、駆ける。

 「悪いね七花くん! 僕は武闘派じゃないし、君と戦う理由はやはり無い! ここは戦略的撤退を選ばせてもらうよ!」

 真黒の狙っていた策は、特に奇を衒うものではない。
 『ただ逃げるだけ』。それだけだった。
 とはいえ、本当にただ逃げたのでは絶対に逃げ切れないことはわかっていた。真黒と七花では体格差が歴然としているし、おそらく体力も筋力も、相手のほうがはるかに格上だろう。
 しかし真黒は、ひとつの事実を見抜いていた。
 自身の持つ異常――『解析』の異常(アブノーマル)によって。
 黒神真黒は、人や物の持つ性質や状態を一目見ただけで理解することができる。
 対象の長所や短所を理解したうえで、それらを改善、成長させることを得意とし、相手が個人だろうと大企業だろうと、その限界レベルにまで引き上げることができる能力。
 つまり換言すれば、真黒は相手の『弱い部分』を知ることができる、ということ。
 だからこそ、真黒は理解できていた。
 七花が今、全力を出し切れない状態にあることを。
 おそらくは妹との戦闘による影響だろう。妹がどんな手段をもってして七花を気絶させたのかはわからないが、その攻撃の残滓が七花の身体能力を損なわせているに違いない。
 体力にハンデがひとつつけば、こちらにも勝機はある。
 七花が『待ち』の体勢になるよう誘導したのもこのためだ。こちらを『待ち構える』体勢であれば、追跡に移るまでのタイムラグも大きくなる。
 それでもこの場所が周囲を広く見渡せるような平原であったなら、その程度のハンデは意味を成さなかっただろう。
 幸いにもこの周辺は、街路樹や家並み、塀などが多く立ち並ぶ、見通しの利きにくい地形になっている。その地形効果を利用して、障害物の間を直線的でなく立体的に逃走すれば。

 単なるスプリントでなく、『鬼ごっこ』や『隠れんぼ』の要領で駆け続ければ。
 そうすれば自分の体力でも、十分に相手を撒くことができる――!

 「戦略の立て方でなら、僕のほうが上だったようだね――七花くん」

 木々の間をすばやく抜ける。七花との距離を測るため、真黒は少しだけ後ろを振り返った。


 その瞬間。




 黒神真黒は、吹き飛ばされていた。




 「――――――――――――えっ?」

 間の抜けた声が口から漏れる。
 全身の感覚が消失し、視界が上下左右に目まぐるしく移り変わる。
 かろうじて、自分が宙を舞っていることだけは認識できた。足が――というか全身が地に着いていないことがわかる。
 くるくると回る身体。
 きりきりと舞う身体。
 無重力にいるがごとく、空中をさまよう身体。
 大きな放物線を描いて、まるで紙くずのように成すすべなく飛ばされていく身体。
 真黒の中では、とてつもなく長く感じられた滞空時間を経て、
 ぐしゃりと、ひどく厭な音を立てて、硬い地面の上へと落下した。

 「……………………………………な、」

 脳内がぐしゃぐしゃになっているかのような錯覚。
 落下の衝撃なのか、吹き飛ばされた衝撃なのか。意識を保てていることが不思議なくらいだった。
 何が起きたのかさっぱりわからない。
 気がついたら吹き飛ばされていた。そうとしか言いようがない状況。
 起き上がるどころか、身じろぎひとつ取ることができない。自分がいま伏しているのが本当に地面かどうかさえわからなかった。
 じわじわと、身体が感覚を取り戻し始める。
 全身が猛烈に痛い。もはや痛み以外の感覚は消失している。
 身体が大きくひしゃげているのが、今になって理解できた。肉も骨も内臓も、軒並み潰れていてもおかしくないくらいの損傷。

 「……………………が……………………は」

 何が――――何が起きた?
 まさか、攻撃を受けたのか? 鑢七花から?
 逃げたと思った直後に、追いつかれた?
 馬鹿な。自分が不意をついて始動したことから考えても、七花と自分の距離は少なく見積もっても20メートルはあったはずだ。
 その距離を、迎撃の体勢にいたはずの七花が、たった一瞬で詰めたというのか。
 いくらなんでも、速すぎる。
 この速さは、この恐るべき速さはまるで――――

 「黒神…………ファントム…………?」

 まるで、妹の使うあの技のような。
 衝撃波すら発生させる、常識外の威力を持つあの技のような。
 あの技と同等のものを、鑢七花が繰り出したとでもいうのだろうか。
 だとしたら自分は、大きな誤算をしていたことになる。
 自分は、相手との力量差を見極めたつもりでいた。見極めたうえで、数々の策を弄してその差を埋めることができれば、際どいながらも逃走を成功させられるだろうと、そう思っていた。



 七花の体力が失われていたこと――これは見抜いた。
 七花が迎撃の体勢をとっていたこと――それを見計らった上で動いた。
 ただ、相手の強さを――見誤った……?

 策を弄し、相手を分析し、それでもなお埋めることも縮めることもかなわない、圧倒的なまでの実力の差。
 それを自分は、見誤ったということなのか。
 その結果が――この現状か。

 「なんて…………ことだ………………」

 ごぶ、と、口から冗談のような量の血液が溢れ出る。
 疑いようもない、否定のしようもない絶対的な致命傷。
 素手の一発で、この威力とは――――。

 こんなとんでもない実力の持ち主に、妹は勝利したのか。

 相手を気絶させたあと、悠然と立ち去る妹の姿が目に浮かぶ。傷ひとつ負わず、子供をあしらうかのように軽々しく相手を撃退したであろう、黒神めだかの姿を思い浮かべる。
 その光景が、真黒を少し安心させる。
 自分がここで死んでも、妹はきっと生き残れる。四方八方を敵に囲まれ、絶望的に不利な状況に追い込まれようと、それを日常のように受け入れ、そして蹴散らしてしまうだろう。
 なぜなら、それが黒神めだかだからだ。
 逆境すら受け入れ、乗り越える力。それこそが黒神めだかの強さ。
 自分が助力する必要など、もはやない。
 妹が元に戻ったことを知らせてくれた七花に、今は感謝したいくらいだ。
 最大の懸念が取り除かれた今、自分は何の心残りもなくリタイアすることができる。
 妹が、黒神めだかとして戦えるのならば。

 「――――――――ああ、」

 そうか。
 きっと自分は、最初からわかっていた。
 妹が大丈夫だということを。
 誰かが妹を元に戻すだろうということを。あるいは妹が自力で元に戻るだろうということを。
 妹の強さを、わかっていた。
 妹が生き残るであろうことを、最初から疑いようなく理解していた。
 自分が妹を救済しようと尽力していたのは、きっとただの自己満足だ
 妹のために何かを成したと。妹のために力を尽くしたと。
 自分がいなければ妹は生き残れないと、自己を欺瞞し、自己で解釈し。
 自己の欲求を満たして、満足していただけ。
 自分の妹愛とは、蓋を開ければそんなものだったのか?
 妹の名にかこつけた、ただの自己愛だったのか?
 だとしたら自分は、妹にとって本当に不要じゃないか。
 妹にすがりつき、自己愛に浸るだけの兄など。
 死んだほうがずっと、妹のためになるじゃないか。
 ここで死んで正解だった。妹と再会する前に死ねて、本当に良かった。
 ありがとう七花くん。ありがとう神様。
 こんな人間を死なせてくれて、本当にありがとうございます――――――



 「――――――なん…………てね……」



 やれやれ、どうして自分はいつも、こんないい加減なことばかり考えてしまうのか。
 もしかすると、中学時代に一緒にいた彼らの影響なのかもしれない。
 どこまでも卑屈で大嘘吐きな、あの生徒会長に毒されたせいなのか。
 あるいは皮肉屋ですべてを見透かしたようなことばかり言う、あの副会長の影響か。
 それとも単に、生まれついての自分の性格なのか――――


 ――妹への愛が偽りだなんて。
 ――そんなこと、あるわけないじゃないか。


 耳鳴りが酷い。自分が発した言葉ですらもまともに聞き取れなくなっている。
 視界は真っ赤に染まって、目が開いているのか閉じているのかもわからない。開いたとしても、もはや何も見えはしまいが。
 鑢七花は――――どこにいるのだろうか。
 自分の生死を確認せず、そのまま立ち去ってしまったのか。
 まさに今、止めを刺そうとしているところなのか。それとも今際の際の言葉を聞くために、自分の目の前に立っているのか。
 確認する術はない。しかし真黒は、七花は自分のすぐそばに立っているのだろうと、何の根拠もなく予想していた。
 この状況で、まだ敵に期待するとは――。
 自嘲しながら真黒は、最期の言葉を絞り出そうとする。
 死ぬ前にどうしても、言っておきたいことがあった。
 鉄の味を飲み込み、息も絶え絶えに真黒は言葉を発する。

 「完敗、だよ、七花くん………………」

 声が七花に届いているのか、そもそも声が発せているのかどうかもわからない。それでも真黒は、言葉を紡ぎ続ける。

 「――妹のために、なんて、格好つけておいて、この有様だ…………しかも、逃げようとした矢先に倒されるなんて、恥ずかしい限りだ…………死んでしまいたい程、にね……」

 一言喋るたびに口から血が溢れ出る。それでも真黒は、喋るのをやめない。

 「七花くん…………最期に、ひとつ、君に頼みがある」

 今この場で、自分にできること。
 妹のために、自分がしてやれる唯一のこと。


 「妹に、手を貸してやってほしい」


 黒神真黒は、懇願した。
 たった今、自分に致命傷を負わせた相手に向かって。
 まさに今、自分に止めを刺そうとしているかもしれない相手に対して。
 最期の言葉で、妹のために、懇願した。

 「何を言ってるんだって、思うだろうね…………僕も、そう思うよ。
 君には、妹を助ける理由なんて、ひとつとしてないだろうし、妹にだって、君に助けてもらう謂れなんて、これっぽっちもないだろうしね…………
 本当、何を言ってるんだか、僕は――」

 これはもう、自己満足ですらないのかもしれない。
 これは――ただの我儘だ。
 妹の役に立ちたい自分の。
 妹のために何かを遺したい自分の。
 精一杯の、虚しい抵抗。

 「妹のために、僕ができることなんて、ほんの一握りさ…………身体すら動かせない、今の状態じゃ、尚のことね…………
 それでも僕は、何かひとつでも。
 何かひとつでも、妹のためにしてやれることがあるなら、それをしてやりたいんだ。
 虚しい抵抗でも、無意味な懇願でも構わない。
 だから、どうか――

 僕に、お願いをさせてくれ。

 妹に手を貸してほしい、と、君に懇願させてくれ。
 そんな、まるで無意味な、滑稽極まりないことでも、僕が最期に、妹のためにしてあげた、精一杯の手助けだと、僕に思わせてほしい。
 頼む。本当に、本当に本当に大切な、僕の妹なんだ――――」

 そこまで言って、ようやく真黒は言葉を止める。
 吐きつくしてしまったのか、もはや血も出てこない。
 意識が混濁する。あと一分もなく、自分の命は終わってしまうだろう。
 言いたいことはすべて言った。今度こそ本当に、思い残すことはない。
 あとはもう、妹と善吉くんが再会できることをただ願うだけだ。
 自分にできることは、本当にもう、ただのひとつもない――。

 「……ごめんな、めだか。不甲斐無い兄で、本当にごめん――」

 おまえと一緒に生き残れなかったことを、どうか許してほしい。
 だけど、これだけは信じてくれ。
 僕はおまえを、心から愛している。
 自己満足かもしれないけど、自己愛なんかじゃない。
 この身に誓って、妹を愛する心だけは、紛い物なんかじゃ絶対にない。
 だから僕は、心から願う。
 どうか最後まで、生き残ってくれ。
 そして願わくば、幸せになってほしい。
 我儘をいうようだけど、おまえにはどうしても幸せになってほしいと思う。
 それは僕にとっての、最上級の幸福でもあるから。

 ああ――そうだ。
 きみにもひとつ、お願いをしないといけないな。

 善吉くん。
 きみもどうか、最後まで生き残ってくれ。
 そして、妹をどうか、幸せにしてやってくれ。
 それがきみの役目だと、僕は信じているから。
 それがきみにとっても、最上級の幸福であると信じているから――――


 ――――――――――――――――。


 ふっ、と。
 ほんの少しだけ、笑ったように息を吐いて、黒神真黒は最後の呼吸を終えた。
 自分がどんな表情を浮かべているのか、それすら彼は知ることができなかったが――――
 妹のために、笑って死ねたらいいと。
 最期の一瞬まで、真黒はそんなことを考えていた。



 【黒神真黒@めだかボックス 死亡】





  ◆   ◆   ◆





 「おい! 何やってんだ兄貴!」

 アスファルトで舗装された道路の上に、一台の軽トラックが停まっていた。
 一見新品のようにきれいな車体に見えるが、フロント部分だけが、たった今何かにぶつかったかのように大きく破損している。
 タイヤの後ろからは、急ブレーキをかけたのがはっきりとわかるようなブレーキ痕がふたつ、まっすぐに伸びていた。
 その荷台に乗っていた少年――零崎人識はそこから身を乗り出すようにして、運転席へと向けて怒鳴った。

 「いま完全に人轢いただろ! いや轢いたってか、思い切り撥ね飛ばしたっていうか! ブーメランみたいに回転しながら飛んで行ったぞ! 戻ってこないのが不思議なくらいの勢いで!」
 「落ち着け、人識」

 運転席に座る青年――零崎双識は、落ち着き払った様子で人識に言う。

 「確かに今、この車は人を轢いた――しかし逆に考えるんだ。車が人を轢いたのでなく、人間が猛スピードで車に衝突したのだと考えるんだ!」
 「お前の脳味噌はバームクーヘンか!!」

 お前が落ち着けと、人識は運転席のドアを思いきり蹴飛ばす。

 「どうすんだよ…………ていうか、絶対死んだよな、今の勢いじゃ…………」

 通行人もほかの車も通っていないことをいいことに、見通しの悪い道路にもかかわらず相当なスピードで走っていたようだ。60キロは余裕で出ていただろう。
 そのうえブレーキをかけたのが衝突した後だったようだから、速度と重量のすべてを相手にぶつけたようなものである。
 普通の人間なら完全に即死レベルだ。

 「おいおい人識くん。その言い方だとまるで事故の責任がすべて私の運転にあるように聞こえるじゃないか」
 双識が不平を訴える。
 「私がスピードを出していたのは次の放送までに目的地へ到着するためだし、人通りがまったく無かったとはいえ、一応の安全確認はしていたぞ?
 それなのに今の相手は、そこの木の陰からまるで狙い澄ましたかのようにこのトラックの前に飛び出してきたんだぞ。いくら何でも避けようがないじゃないか」
 「そりゃそうだろうけどよ…………」

 確かにこの人口密度の低いフィールドで、偶然に誰かが車の前に飛び出してくる可能性など無きに等しいと人識自身も思っていたが。
 それを踏まえても、自分で轢いておいてこの言い草はどうなのか。

 「無駄だろうけど……助けに行ってみるか? 救命処置とかすれば、もしかしたら生き返るかも――」
 「救命処置? おまえは何を言っているんだ、人識」

 双識の厳しい口調に、思わず口をつぐむ。
 兄が言わんとしていることはわかる。
 今の場合は単なる偶然の事故の結果として相手を轢き殺してしまっただけだが、今の相手と人識たちが普通に邂逅していたとしたら、相手は偶然でなく、必然により殺されていただろう。
 ここは殺し合いの場で、自分たちは殺人鬼だ。
 過程が違っていただけで、どちらにせよ相手を殺すことには変わりない。
 つい救命処置などと口走ってしまったが、そんなことをしてやる必要は微塵もない。むしろ愚挙の極みと言えよう。
 いま自分は、兄から完全に信用されていない状態なのだ。こんなくだらない失言で、更なる信用を失っている場合ではないというのに。
 人識は確認するように自分へと言い聞かせる。ここは戦場なのだと。
 それを自覚せずに、何が殺人鬼か。
 兄と同じように、殺人鬼として徹しなければ――――

 「救命処置なんか施して、本当に蘇生してしまったらどうするんだ! 轢かれた仕返しでもされたら怖いじゃないか!」
 「普通に最低かお前は!」

 殺し合いも殺人鬼も、まるで関係なかった。
 ただの最低である。

 「……ていうか結局、いま轢いた相手は誰だったんだ? 俺らの知ってるやつだったか?」

 道沿いに立っている塀と茂みの向こう側まで飛ばされていったようで、轢いた相手の姿はここからでは見えない。どのあたりに落下したのかも正確にはわからなかった。

 荷台に乗っていたせいで轢いた瞬間は見ていなかったが、長い黒髪を翻しながら飛んでいく姿は見ていた。
 男なのか女なのかも判然としない。ぱっと見て自分の見知っている相手だという印象はなかったが。

 「うーん、私も知らない相手だとは思うが、なにせ見えたのが一瞬だったからな…………
 しかしなぜだろう……飛び出してきた瞬間、相手に自分の姿を重ねてしまったような感覚があったな。私ととてもよく似た者を轢いてしまったような、そんな感じがするのだが」
 「兄貴とよく似た? おい、まさか『零崎』じゃあないだろうな」

 名簿によればこのフィールドにいる『零崎』は、自分と双識、軋識と伊織、すでにリタイアしてしまった曲識で全員だ。
 しかし自分たちは、すべての零崎を把握しているわけではない。しかも通常、零崎の性質は後天的に覚醒する。
 自分たちの知らない『零崎』がこのフィールドにいるという可能性も、完全にないとは言いきれない。

 「ハッハッハ、冗談はよせ人識くん。いくらなんでも私が、零崎一賊の長兄たるこの私が、事故とはいえ家族である他の『零崎』を轢き殺すなんてことがあるわけないじゃないか」
 「……………………」

 ていうか、相手が誰でも轢き殺すな。
 そんな至極真っ当なことを言いかけたが、無駄なのでやめる。
 人識は悪刀『鐚』の副作用に「頭が悪くなる」がないかどうか、かなり真剣に不安になった。

 「それにさっきの感覚は、家族を見つけたときのそれとは違うな。どちらかというと、善き友になれそうな同志を見つけたような、そんな感覚だった」
 「なんじゃそりゃ…………」

 ようするに変態仲間ということだろうか。変態同士で通じる特殊な電波でも感じ取ったか。
 轢き殺して正解だったかもしれない。

 「とにかくだ、人識。轢いた相手のことは気になるが、依然として私たちには時間がない。やむを得ない状況と割り切って、ここは目的地を目指すことを優先しよう」
 「本当に放置していく気かよ……」
 やっていることだけを見れば、単なる轢き逃げと変わりない気がする。
 「轢き逃げとは人聞きが悪いな。目撃者がいないのをいいことに、堂々とこの場を立ち去ると言え」
 「よりひでーよ」
 「それに見ようによっては、こちらが当て逃げされたように見えないこともないぞ。見ろ、この損傷具合を。せっかくの車が台無しだ。相手が生きていたら修理費を請求する必要があるな」
 「兄貴、その発言はさすがに問題だと思うぞ……」
 「僕は悪くない!」
 「それ別の人!」

 キャラが崩壊するにもほどがあった。
 人身事故でテンパる殺人鬼。ある意味斬新と言えなくもない。

 「わーったよ…………先を急いでんのは事実だしな」

 人識自身も、何かもうどうにでもなれという気分になってきていた。
 馬鹿な会話を繰り広げているうちにも、貴重な時間は過ぎていくのだ。

 「んじゃ荷物だけ回収するから、ちょっと待っててくれ」

 そういって人識は荷台から飛び降り、トラックの前方に落ちているデイパック(どうやら飛ばされていく最中に身体から放り出されたらしい)を拾い上げる。
 そのままトラックのほうへ戻ろうとしたが、直後、思い直したように振り返り、相手が飛ばされていった方向へと向き直る。

 「あー……なんつうかまあ、間が悪かったっつーか、運が『悪』かった――ってことで」

 ワリッ、と、名も知らぬ誰かへと向けて、人識は軽く手を合わせた。
 誰かのデイパックを担いで荷台へと戻る。「出していいぜ」と運転席に言って、自分の横、荷台の上に横たわる少女――水倉りすかに目をやる。
 相変わらず気絶したふりを続けるつもりらしく、まったく微動だにしない。
 さっきの事故の衝撃と急ブレーキの勢いを考えれば、熟睡していても飛び起きそうなものだが。
 いやむしろ、あまりの衝撃に本当に気を失ってしまったのかもしれない。人識も危うく荷台の外に放り出されるところだったのだ。
 デイパックとりすかが外に放り出されないよう庇うだけの余裕はあったが、とっさのことだったため軽く頭をぶつけた。身を挺して庇ったのだから礼くらい言えとりすかに言いたくなる。

 「……ったく、どいつもこいつも…………」

 これじゃまるで、自分が常識人のようではないか。
 そんな役割を、自分に割り当てないでほしい。
 この先の目的地にいるかもしれない、もうひとりの『零崎』、零崎軋識のことを思い浮かべる。
 自分よりも、あの大将のほうがよっぽどそういう役回りにあっているのではないか。どことなく間の抜けた、あの麦藁帽子の大将のほうが。

 「釘バット振り回す変態に期待するようじゃ、おしまいだな…………」

 そういえば、と人識は思う。
 診療所内での話し合いで、人識と双識がどうやら違う時系列から来ていることが判明している。それも相当な、一日二日では済まない振れ幅で。
 それでは軋識も、自分たちとは違う時間軸から来ているのだろうか。そうだとしたら、自分たちにとってどの部分にあたる時間から来ているのか。

 「……まあ、本人に聞きゃわかることか」

 不要湖で会ったときにお互い何の違和感も抱かなかったことからすると、さほど大きなズレがあるとは思えないが……
 こんなことなら、もっとちゃんと情報交換しておけばよかったなあと、軽い感じに人識は思う。

 自分たちの向かう先に誰が待っているのか、深く考えを巡らすこともなく。
 人識たちを載せた軽トラックは、名も知らぬ誰かを置き去りに、目的地へと向けて走り去っていった。




【一日目/昼/C-3】
【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康、腹八分目
[装備]小柄な日本刀 、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×6(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り)、医療用の糸@現実、千刀・ツルギ×2@刀語、七七七@人間シリーズ、
   携帯電話@現実、手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、S&W M29(6/6)@めだかボックス、大型ハンマー@めだかボックス、ランダム支給品1~3個
[思考]
基本:兄貴の違和感の原因をつきとめる
 1:兄貴の信用を得るまで一緒に行動する
 2:時宮時刻西東天に注意
 3:ツナギに遭遇した際はりすかの関係者か確認する
 4:事が済めば骨董アパートに向かい七実と合流して球磨川をぼこる
 5:哀川潤が放送で呼ばれれば殺人をしないつもりはない
 6:轢いた相手については必要と余裕があれば調べるかもしれない
[備考]
 ※曲絃糸の射程距離は2mです。
 ※曲絃糸の殺傷能力(切断・絞殺など)は後の書き手さんにおまかせします。
 ※りすかが曲識を殺したと考えています。
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました。
 ※携帯電話の電話帳には戯言遣いが登録されています。
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました。


【零崎双識@人間シリーズ】
[状態]健康、腹八分目、悪刀・鐚の効果により活性化
[装備]箱庭学園指定のジャージ@めだかボックス、カッターナイフ@りすかシリーズ、軽トラック@現実
[道具]支給品一式(食糧の弁当9個の内3個消費)、体操着他衣類多数、血の着いた着物、カッターの刃の一部、手榴弾×2@人間シリーズ
[思考]
基本:家族を守る
 0:クラッシュクラシックに向かう。
 1:目の前の零崎人識を完全には信用しない
 2:りすかが目覚めたら曲識を殺したかどうか確認する
 3:他の零崎一賊を見つけて守る
 4:零崎曲識を殺した相手を見付け、殺す
 5:真庭蝙蝠、並びにその仲間を殺す
[備考]
 ※他の零崎一賊の気配を感じ取っていますが、正確な位置や誰なのかまでははっきりとわかっていません。
 ※現在は曲識殺しの犯人が分からずカッターナイフを持った相手を探しています。
 ※真庭蝙蝠が零崎人識に変身できると思っています。
 ※鐚の制限は後の書き手さんにお任せします。
 ※Bー6で発生した山火事を目撃したかどうかは不明です。
 ※軽トラックの一部が破損し、微量の血液が付着しています。


【水倉りすか@りすかシリーズ】
[状態]手足を拘束されている、零崎人識に対する恐怖
[装備]無し
[道具]無し
[思考]
 基本:まずは、相棒の供犠創貴を探す。
 1:この戦いの基本方針は供犠創貴が見つかってから決める。
 2:――――――?
[備考]
 ※新本格魔法少女りすか2からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです。(使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません。
 ※大人りすかについての制限はこれ以降の書き手にお任せします。





  ◆   ◆   ◆





 人識たちが走り去っていった、その道路沿いに立ち並ぶ木々の向こうから一人の男が現れる。
 アスファルトで舗装された道路の上で、鑢七花は遠ざかっていくトラックをただ呆然と眺めていた。

 「…………何だったんだ、一体……」

 一部始終を見ていた鑢七花だったが、正直なところ、何が起こったのかよく理解できていなかった。
 黒神真黒が、逃走していった先で突然現れた何かに撥ね飛ばされたのはわかったが、その何かは七花にとって見たこともないものだった。
 外見と見た限りの機能からして、陸を走るための乗り物であることは何となく理解できたが。

 その何かに乗っていた人物たちは、どうやら七花が見ていることに気がつかなかったらしい。
 針金のように細い身体をした男と、顔面に遠目でもわかるくらい妙な形の文様をいれた背の低い少年。
 よくは見えなかったが、真っ赤な衣装を纏った少女が寝ていたような気がする。
 距離が離れていたため、話していた内容までは聞き取れなかったが――――

 「………………………………まあ、いいか」

 結局、七花はあきらめることにした。
 逃がした相手のことも、走り去っていった連中について考えることも。
 黒神真黒とかいうあの男が無事かどうかはわからないが、無事ならすでに逃げおおせていることだろう。今から追って間に合うとは思えない。
 また斬り損ねちまったなぁ――と、特に残念そうでもなく言う。

 「あー、これからどうすっかな――姉ちゃんのことも探したいけど、どっか探すあてがあるわけでもねえし……」

 ぶつくさとつぶやきながら、あたりを適当に見回す。

 「…………ん?」

 七花はアスファルトの上に視線を落とす。
 真黒との衝突によって壊れたトラックの部品に混じって、小さな瓶のようなものが転がっていた。
 拾い上げて軽く振ってみる。中に液体状の何かが入っていることが音でわかった。

 「さっきの奴らが落としてったのか……? 何に使うんだろうな」

 そういえばさっき真黒とあの乗り物がぶつかった際、後ろに乗っていた少年が体勢を崩して、持っていた荷物を落としかけていたことを思い出す。あのときに中身が零れ落ちたのだろう。
 開けてみようかとも思ったが、やめておく。中身が危険な物質でないとは限らない。

 「まあ、一応もらっておくか」

 そう言って、拾った小瓶を無造作に着物の懐へと仕舞い込む。
 他に目ぼしいものがないことを確認し、七花はまた適当な方向へと足を進めだす。
 次なる相手と、もしかしたらもう一度戦うことになるかもしれない、自分の姉の姿を求めて。


【1日目/昼/C-3】
【鑢七花@刀語】
[状態]疲労(中)、倦怠感、七実がいることに困惑
[装備] 奇野既知の病毒@人間シリーズ
[道具]支給品一式(食料のみ二人分)
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
 1:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る。
 2:姉と戦うかどうかは、会ってみないとわからない。
[備考]
 ※時系列は本編終了後です。
 ※りすかの血が手、服に付いています
 ※りすかの血に魔力が残っているかは不明です。










  ◆   ◆   ◆





 アスファルトで舗装された道路から塀をひとつ隔てた、深い茂みに覆われた空き地のような場所。
 そこに男が一人、見るも無残な様相で倒れ伏している。
 地面に顔を伏せるようにして倒れているため、どんな表情をしているのか窺い知ることはできない。身体は大きくひしゃげ、口と胴体から大量の血液を流出させている。

 男はしばらくの間、よく聞き取れない声で何ごとかをぶつぶつと呟いていたが、やがて力尽きたように独白を止める。


 そのまま男は、二度と何かを言うことはなかった。





 『解析』の能力を持つ異常(アブノーマル)、『理詰めの魔術師』にして、黒神めだかの兄、黒神真黒。
 彼の最期の独白は、結局誰の耳にも届くことなく、風の彼方へと消え去っていった。


コイスルオトメ 時系列順 第二回放送
コイスルオトメ 投下順 第二回放送
多問少択 黒神真黒 GAME OVER
LOST PARADE 鑢七花 無名(夢影)
ナイショの話 零崎人識 絡合物語は
ナイショの話 零崎双識 絡合物語は
ナイショの話 水倉りすか 絡合物語は

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最終更新:2013年04月03日 12:33