撒き散らす最終(吐き散らす最強) ◆aOl4/e3TgA
【0】
パクリとオマージュは違う。
愛があるかないかが明確に異なっている。
【1】
「■■■■■■■■■■――――――!!!!」
戦争だった。よもやそれを女性の喧嘩であると、直ぐに気付ける者が居たなら賞賛に値するといってもいいのではないか。
ランドセルランド――絶叫マシンの坩堝で、橙色の少女が叫ぶ。
少女と片付けるにはあまりにも強大で、彼女の通り過ぎた後は嵐でも訪れたかのように抉れ、引き散らされている。
驚くなかれ、彼女の得物は己の肉体一つだ。
珍妙な能力も、その破壊力にも何のトリックもない、生物の根源に必ず存在する破壊のエネルギーをそのまま押し出しただけのもの。
彼女は何も見ていない。
思考能力のほぼ全てを放棄して、原始的な欲求に一切逆らうことなく因縁の相手を物言わぬ屍に変えようとしているだけ。
橙色の太い三つ編みを揺らしながら彼女、
想影真心は唸る。
痛みや疲労によるものではなく、言うなればそれは威嚇のような。
彼女の行う攻撃の全てを華麗に優美に絶無にかわし続け、それでも息一つあげていない赤い紅い女を、真心はただじっと睨む。
彼女はあまりにも強い。
重度の意識混濁にある真心が覚えているかどうかは別として、以前に彼女があっさりと撃破した時よりも格段に、強くなっていた。
ここに来る前に戦った小柄な女と、『彼』を想起させるマイナスイメージの塊のような少年。
彼女たちと眼前の赤色を比べれば、赤色は劣るかも知れない。
赤色は最強だ。無比なる孤高だ。ただし無敗ではない。むしろ彼女は割とよく負けるといっても――過言では、ないのだ。
それでも彼女は強い。
その理由が真心にはわからない。
「はん、相変わらずやるねぇ真心ちゃんは」
真心の猛攻にも汗一滴すら流さずに、伝説の女、
哀川潤は立っていた。
燃え上がるような真紅の頭髪に、グラマラスなボディー。
美女以外の表現が出来ないくらい抜群のスタイル。
それでいて女性の肉体とは思えないレベルの運動神経と戦闘力を発揮するのだから、やはり常識とは宛てにならないものだ。
「でもな、前にやり合った時――――つっても覚えちゃいねーか。とにかくあたしは成長してんだよ。永遠の成長期だ」
そう言って、最強の女はシニカルに笑う。
人類最強には限界がない。限界など飛び越えなければ、唯一無二の強烈無比なる存在であり続けるなど断じて不可能。
本来で言えば、真心よりも今の哀川潤は強い。
彼女のいた時間軸では既に人類最強と人類最終の戦争は終結し、真心にも然るべき居場所が生まれた。
その未来を妨げられた少女は、執念のみを糧とする。
「■■■■■■…………あかぁっ!!」
真心が地面を蹴りつける。
アスファルトが抉れ、人間離れしたそのスプリングが同じく人間離れした加速を可能とし、哀川との間合いをあってないものとした。
赤、と叫ぶや否や。最終の疾走は最強へと容易に届いた。
「うおっ、速えっ」
瞠目した哀川は、だが冷静に拳を構える。
真心の拳と真正面から衝突するように、砲弾の如き拳は打ち出された。
――というのはフェイント。
本命は真心が空振ったその隙を狙っての、鋭い上段蹴りである。
「っっっっっっ!!」
真心はそれにすんでのところで気付き、受け止めんと構える。
ばしぃぃぃぃん、とプロ顔負けの快音を立てて受け止められた蹴り。真心があまりに事もなさげに受け止めるため誤解を招きかねないので一応補足するが、一般人どころかプロの格闘家でさえも昏倒しかねない威力が、哀川潤の一撃には籠められているのだ。
それを咄嗟の判断で止める、自意識を汚染されてもなお衰えぬセンスと無茶を実現する『最終』の身体能力。
人類最強を超える存在として作り出された『橙なる種』の性能が尋常でないことを、その事実が物語っていた。
それでも、ノーダメージとはいかない。
腕の骨を破損するまではないが、手に痺れが生まれるのは避けられなかった。だがむしろそれだけで済んだことを、賞賛するのが正しい。
「あァ、かァッ! あか、あかあかあかッッ!!」
意味を成さない叫びが吐き散らされる。
一転不利になるのは哀川潤、相手に大事な四肢の一つを預けている。
真心の腕力は相当のものだ、握り潰すことだって十分に可能だ。
流石の彼女でも、片足を無くした状態で真心を相手取るのは困難だ。
もしも並のプレイヤー相手なら『たかが半身をもぎ取ったくらいでこのあたしを倒せると思うな』とシニカルに笑うことだろうが、そんな余裕さえも抱けないほどに、想影真心は強大で最終な存在なのである。
「■■■ッ!!」
「うおっ!?」
哀川の足を砕かんと真心は怪力を込める。
ビルの最上階からダイブして無傷の武勇を持つ哀川潤だが、そんな彼女でも不味いと感じたのか、真剣なトーンで呻いた。
――けれど、哀川だって何の苦労もしてこなかった訳ではない。
安楽椅子で紅茶を嗜みながら最強であり続けた訳ではないのだ、彼女は戦場で戦い、幾度の敗北と勝利を経験している。
だから、経験というアドバンテージは圧倒的に彼女にある。
それが赤色の窮地を救った。自由の利くもう片足で推進力をつけ、弾丸のように彼女は真心の胴体へと足から突っ込んだのだ。
ヒットした。この親子喧嘩で初めての、まともなダメージが通った瞬間だった。
「ッ――――」
真心が蹴りを諸に受けた箇所を抑えて息をつく。
あれだけまともに入ったのだ、肋骨の数本はもっていけただろう。
もっとも、それくらいで止まってくれるなら苦労はしないのだが。
「おいおいどうした真心ちゃんよぉ? まさか――」
「■■■■■■ッッ!!」
台詞が終わるのを待たず、真心は動いた。
それに対して哀川は驚くでも怒るでもなく、少年のように破顔する。
「ははははッ! そうじゃなくちゃいけねえや!! 折角の喧嘩なんだ、思いっ切り楽しもうぜ、想影真心ッ!!!」
哀川潤の笑顔には本当に、欠片ほどの屈託もない。
思惑も不安も恐怖もない、純粋にこの喧嘩を楽しんでいる表情だった。 想影真心に、『橙なる種』に向けて、そんな風に微笑む人間など果たしてこれまでどれだけの数居ただろうか。
哀川は思い描く。次はどんな技を見せてくれるのか楽しみで仕方ないという風に、シニカルかつ獰猛に口角を釣り上げながら考える。
殺し屋・
匂宮出夢の『一喰い』か?
その両手打ち、究極の必殺技『暴飲暴食』か?
それとも、と思ったところで真心が再び肉体を駆動させた。
彼女が取った構えは、武芸に秀でる哀川潤でさえも見たことがないもので、それ故に未知へ挑むドキドキを生んでくれるものだった。
真心が使う『技』は、格闘技に在らず!
正しくは剣技、刃を用いぬ『虚』の剣技の完全模倣!
「■■■!!」
――錆びる天才・鑢七実より見取った奥義だ。
手首を返しての切り上げの手刀は、即ち『雛罌粟』を意味している。
かの人喰いから得た技に破壊力でこそ劣るかも知れないが、小回りが利くという意味では断然此方に軍配があがるだろう。
さしもの哀川とて、これはわざと受けるには少々キツすぎた。
身を反らすことで攻撃の主軸からは逃れることが出来たものの、その衣服の上から肌を浅くではあるが切り裂かれてしまった。
溢れ出す真紅。それもまた、赤色の彼女にはよく似合っている。
敵の負傷にいちいちぬか喜びしてくれるくらい容易い相手なら良かったのだが、この想影真心がそんな醜態を曝すわけがない。
真心は既に次の攻撃の動作へと移っていた。
数十分程前に会得したばかりの、鑢七実の戦闘スタイルを使用する。
「やってくれるじゃねえか!」
楽しそうな声をあげ、哀川もまた彼女へと構えた。
不完全なりにも虚刀流の理念を纏った剣戟と、人類の頂点という誉れを背負ったスタイルも何もあったものじゃない闘法。
どちらかが見劣りするなどありえない、まさに頂上決戦。
振るわれる拳を避けつつ、掠めつつ、また相手の肌へと懲りずに打つ。
頂点の名を冠するに相応しい二人の怪物にこそ許された、人間としての限界を意図せずに突き詰める打撃戦が繰り広げられる。
互いに、小さなダメージを幾度も受けながら。
でも決して、決定打になるほどのダメージは受けない。
まさに紙一重の状況での極限戦闘、それが強者の闘志を更によりいっそう高ぶらせる。
「はははははっ!!」
「■■■■■■――!!」
笑う最強と、雄叫ぶ最終が、全力で戦っていた。
後先のことを考えれば、少しは力のセーブを考えるのが利口だろう。
想影真心と哀川潤、そのどちらも参加者中最高クラスの実力を秘めているにしろ、バトルロワイアルはまだまだ続くのだ。
だが、この二人にそんな理屈が通じるだろうか。
答えは否、否、否、否である。
仮に真心が精神の暴走を促されていなかったとしても、彼女たちはそんなつまらない理由で戦いを止めたりはしない筈だ。
まともな人間ならば恐怖に気絶しても可笑しくない気迫が迸る。
さながらそれは地獄の鬼が喧嘩をしているようだ。
鬼どころか、閻魔大王にだって勝るとも劣らないかもしれない。
二人の女性の瑞々しい素肌が所々避け、真っ赤な液体を滲ませる。
ごきりと鈍い音が鳴れば、それはどちらかの骨が砕けた音だ。
「■■■■■■■■――――」
「んおっ、やべっ!!」
真心が攻撃の手を休め、唐突に右腕を高く振り上げた。
その動作を哀川潤は知っている。
他ならぬ真心自身に葬られた人喰いが誇っていた必殺技。
殺すことをひたすらに極めた結果である、手加減の出来ない一撃だ。
あまりの威力に痛みを覚えないという、文字通りの必殺技。
「――――■■■ッ!!」
振り下ろされた一撃必殺の平手打ち、一喰い。
どうにか直撃は避けたが、自慢の赤髪が一部不自然に短くなっている。
不思議なことに、髪が抜かれる痛みは感じなかった。
哀川をすり抜けて地面へ命中したその一撃は、たかが平手打ちと侮った全ての存在を後悔させるだろう爪痕を残している。
原始的なまでの、破壊の痕跡を。
「やっぱすげーよなあ、それ。殆ど爆発だもんなあ」
そんな暢気なコメントを返せるのは、これが初見ではないからか。
いいや、違う。人類最強は相手に恐怖しない――逆に、高揚するから。
だから、彼女はこんな存在を相手にしても笑えるのだ。
「でもよ、あたしはその弱点を知ってんぜッ!」
踏み込んだ哀川が、回し蹴りを真心の脇腹に叩き入れる。
一喰いという技の欠点は、放った後に完全に無防備な時間が出来ることにある。
元の使い手、匂宮出夢はそれを突かれて敗北死した。
しかも哀川は一度戦ったことで真心の使う場合の一喰いに欠点があることを見抜いている。
それは真心の矮躯が原因で起こる当然の理屈、リーチの不足だ。
元々匂宮出夢の異様なまでに長い両腕があってこそあの爆発的威力を誇っていたのだ、模倣しても使用者のスペックだけはどうにもならない。
蹴られた真心がかはっ、と息を吐き出す。
建前のようなものだ。彼女は苦しんでなどいない。
「ぐはぁっ!」
真に苦しんでいる人間は、苦しみながらこんな風に駆動できない。
哀川の胴体にはお返しとばかりに真心の掌底が打ち込まれ、彼女はその肉体をバトル漫画のように吹き飛ばすことになった。
やられた。吹っ飛びながら、哀川はそれでもシニカルに微笑み思う。
骨がまたちっとばかしいったかもしれない。
内臓までダメージが届いていなかったのは間違いなく幸運だった。
真心は容赦なく追撃を行ってくるだろう。
ならばのんびり吹っ飛ばされている暇なんてあるわけがない――その暇があったら、向かってくる駄々っ子を迎え撃たねばならない!
空中で無理に宙返りをし、ずざざざざ、と地面を靴底で擦りながら哀川潤は元通りの戦う為の姿勢を取り戻す。
腹部はまだ痛むが、戦いを止めさせたくばこの百倍以上は必要というもの。
受けたダメージを逆に闘争心の糧とし、向かってくる橙へ駆ける。
「さーて、そろそろオネンネの時間だぜ?」
「あか――あか、あか、あか、■■■■■■――ッッッ!!!!」
挑発的に笑う哀川とは対照的に、最も激しく真心は雄叫びをあげる。
彼女の挑発など届いているかどうかも分からないのに、哀川はその叫びを自分の言葉に逆上したと勝手に認識した。
こういった傲慢な決定も、哀川潤の真骨頂である。
一喰いは破った。見たこともない型の戦法も十分に見ることが出来た。
見稽古なんて器用な真似は出来ないが、動きの大体を覚えることくらいは赤子の手を捻るがごとく彼女にとっては容易い芸当だ。
あれで見せていないカードが尽きたのだとしたら、ラッキィだ。
だが同時に、それは最高にそそるシチュエーションでもある。
真心を侮っていい理由にはならない。
むしろ互いの手の内が全て明かされたからこそ、改めて本気でぶつかることになる――最高にそそるし、最高におっかない。
「はんっ、あたしの素晴らしさをとくと見せてやんよ」
余裕綽々と構える哀川に、真心は何の策も弄さずに突進する。
まさに猪突猛進というべき動作、だが隙を見つけることは困難だ。
単純というものを突き詰めれば、それは難解な策よりも高い壁になる。
たとえば、純粋に強い。
それを突き詰めれば、哀川潤や想影真心のような存在になるのだから。
「■■■■!!」
再び、真心が愚直にストレートを放つ。
片手で易々と受け止めて、哀川がお返しとばかりに猿真似ストレート。
最初こそゆっくりだったものの、次第にそのやり取りは加速していく。
そしてまたもや嵐が起こる。
ただ今度は、微量のダメージさえもなかなか相手に通らない。
大胆かつ繊細な二人の動作は、的確に相手を打たんと迫り、同時に的確に自分を守らんと回避を行う。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!」
「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!」
されどその舞うような戦いにもすぐに限界は訪れる。
最初は真心の顔面へ哀川の右フックがヒットし、それを皮切りに少しずつ、互いのガードが崩れ始めた。いや、破られ始めたといった方が正しいか。
最強と最終の戦いと呼べば仰々しい響きだが、根本のところでは結局、路地裏の不良の喧嘩と何ら変わることはない。
単に喧嘩のクオリティが数十段ほど上昇している、それだけのことだ。
だから彼女たちの戦いは泥臭く、美しさとは縁遠い。
「見たかよ真心ちゃん、いいや人類最終! これが人類最強、哀川潤様の拳ってやつだぜ!?」
「■■■■……■……■…………――――」
真心も哀川も、双方が息切れを催していた。
それほどまでに苛烈で休む暇のない拳の交わし合いが繰り広げられていたことを、彼女たちの困憊具合が何より物語っていた。
が、哀川は眼前の少女の様子がどうもおかしいことに気付く。
息切れしているのは確かな筈なのだが、それとも何かが異なっている。
そして、その答えは大音量でまき散らされることになるのだった。
「―――ら」
そこで、掠れるような声が途切れる。
嵐の前の静けさのような時間が訪れて、すぐに烈風に変化した。
「――――げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら!!!!」
絶叫のような笑い声が、哄笑が、ランドセルランドを無粋に満たす。
その比喩抜きで大気を揺さぶるような哄笑は正しく爆音。
哀川潤をして冷や汗をタラリと一滴垂らすのを禁じ得ない、それほどに大きな殺気が、声と同時に放たれていた。
それは間違いなく生き残る上では失策。ランドセルランドの全域には少なくとも響いただろう彼女の声は、自分の居場所をご丁寧に報せているようなものだ。
血の気の多い者ならば、今が好機とばかりにやってくるかもしれない。
されどこの二人の戦いに割って入れるような存在はそうそう居まい、中途半端な実力でそれを行えば、数秒とせぬ内に永遠の眠りを経験することになるだろう。
二人とも、だからそんな小さなことは気にも留めない。
哀川も真心も、目の前の喧嘩相手を倒すことしか考えてはいないのだ。
しかし、哀川も少しだけ『マズい』と思った。
真心とこれまで拳を交えた時に比べて、今放たれた殺意の哄笑に含まれている殺気の大きさはあまりにも大きかった。
住居を一瞬で消し炭にするような機動戦車でも、この真心に比べれば小煩い蠅にも等しいと哀川は思う。
ここからが真髄で。
これからが神髄で。
決着への分け目となるだろう局面だ。
「■■■■■■■■ッッッ!!!!」
足が地面を蹴る。それとほぼ同時。哀川潤の前へと短距離ランナーの世界記録を軽々塗り替えるだろう速度で、橙は赤色へ肉薄した。
段違いに速い。これが人類最終かと、不敵に笑うのみだった哀川も思わず舌を巻く。
匂宮出夢を一撃で殺害せしめた時のように、並の人間ならば根刮ぎに破壊できる威力を秘めた正拳が彼女の心臓を狙う。
「走る速さはオリンピック、パンチ力はチャンピオンシップってか! 良いじゃねーの、とことんまでやってみせろ!」
哀川はなおも狼狽えることなく、男らしくこの逆境を笑い飛ばした。
それは本当に父親が出来の悪い娘に向けるような豪快な笑顔で、親子の絆を深め合っているのかと見るものを錯覚させかねない程だ。
そんな男らしさにも不自然さを抱かせないあたり、哀川潤という存在は本当に気高く、それでいて美しいのだろう。
×の字に組んだ両腕で、真心の拳を逃げも隠れもせずに防御する。
べぎゃり――いやな音がしたが、気にはしないでおく。
両腕の骨が折れた程度では戦いを放棄するには足りなすぎるし、気にするだけ思考力を無駄にするってものだ。
しかも、真心の攻撃《ターン》はまだ終わっていない。
朽ちる天才鑢七実から、彼女の得意技さながらに見取った戦い方でもって、反撃の隙すら与えずに追撃を加える。
彼女は七実やその弟とは異なり、虚刀の流派を完全に理解したわけではなかった。あくまで虚刀流という流派の、片鱗程度を理解したのみである。
だが、その理解は戦いの中で更に成長していく。
理解は研磨され――――、改良が始まって完成される。
「■■!」
「んおぉっ!? さっきと、ちが――」
哀川がその一撃を避けるには、片腕を捨てる他無かった。
人類最強。死色の真紅。砂漠の鷹。生ける伝説。請負人。仙人殺し。赤き征裁。
数多くの異名を保有する彼女でも、生物学的には人間に部類される。その肉体も、限界がない訳ではないのだ。
真心の――いわば《虚・虚刀流》とでもいうべきか――剣のような一撃を左腕で防御すると、面白いまでに妙な方向へ変形を遂げた。
痛みを感じている様子などおくびにも出さずに、哀川はその上段蹴りでもって真心の顔面を打ち、そのまま華麗に宙返りを決めて距離も確保する。
こんな曲がり方をしたままでは格好つかないという彼女なりの拘りが働いたのか、哀川はわざわざ折れ曲がった腕を元の形に曲げ直す。
形は幾分か綺麗になったが、当然傷の度合いでいえば先程までの状態よりもひどくなっているのは明白だ。
「やってくれたなあ、おい」
戦況でいえば劣勢なのは間違いなく自分だと哀川は理解している。
肋骨が何本かやられている上に左腕は暫く使い物にならない有様、これでは相当に厳しい戦いを強いられることになりそうだ。
――だからこそ、面白え。
想影真心は――少なくとも『この時間軸』の想影真心は、まだ哀川潤の本質を正しく理解していないだろう。
彼女にとって逆境はスパイスだ。カレーライスは普通に食べても美味しい食べ物だが、そこにスパイスが加わると味わいが一層引き立つ。
戦いもまた同じ。普通に手強い相手とやり合うのも面白いが、こういう『本気を出さないと負ける』ような状況は最高に面白い。
何しろ哀川潤は――――本気を出したことがない。
彼女ほどの実力者となれば、比類する者を探す方が難しいのだ。
「そろそろ、おねーさんもちっと本気出しちゃうぞ~?」
「■■――、げら、げらげら」
殺し合い。
戯言。
傑作。
人間。
同行者。
関係あるか。思う存分戦って、それで他の問題も全部こなしてやりゃあいいんだろ――赤色の女はあくまでシニカルに微笑む。
「行くぜ」
赤色が跳ねた、それを見て橙色も跳ねた。
まるで某竜の玉を集める漫画のように、二人は地面へと落ちるまでの滞空時間で拳を、蹴撃を、ノーガードで交わし合い続ける。
鼻血が舞い、皮膚が裂けて、折れた歯が舞う。
「あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははァッ!!!!」
「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらァッ!!!!」
ドガガガガガガガガガンッ、埒外の怪物たちは笑い合う。
片方は好戦的に、もう片方はひたすら狂気的に。
笑い合いながら――殴り合っている。
小細工も逃げ道も無しだ。
どちらかが倒れるまでは終わらない。いや、終われない。
親子喧嘩は、ここからが本番だといってもよかった。
――それからどれだけの時間が経ったのか、二人には分からない。
五分か、十分か。刹那か、永遠か。一瞬か、千瞬か。
このまま闘争心をひたすらにぶつけ合う戦いを続けていって、互いに笑い合って和解するような結末はまず有り得ない。
真心が正気を取り戻したとしても、彼女たちは拳を足を突き出す筈だ。
どっちかが負けるまでが、喧嘩だから。
ならば、彼女たちにとってこんな幕切れはあまりにも興醒めだったに違いない。
哀川潤も、想影真心も、どちらも望まなかったに違いない。
”それ”はあまりにも唐突にやってきた。誰が見たって逃げたくなるような頂点同士の対決に、”それ”は物怖じ一つしなかった。
ふらふらと、ゆらゆらと、くらくらと、さらさらと。
ぶらぶらと、ぐらぐらと、どろどろと、ずるずると。
放浪者のように、怪我人のように、夢遊病のように、舞う砂のように。
通り魔のように、中毒者のように、末期患者のように、亡霊のように。
銀色の刃を抱いて。
蜃気楼のような足取りで踊るように。
下女の服装をした細いシルエットの少女は、やってきた。
――
西条玉藻。
激闘を繰り広げる二人には及ばずとも、ランドセルを背負っているような年齢から幾多の戦場に駆り出されてきた狂戦士だ。
どこかの殺人鬼の一賊にも引けを取らない狂気を宿した彼女は、もはや人間というよりは一つの『現象』であるといっていい。
彼女に止まるという選択肢はなかった。
そもそも、彼女には一切の悪気はなかったのだ。
別れた同行者を探してさまよっていたら、こんな場面に遭遇した。
折角だからなんとなく助けてやるか――そのくらいの気持ちだったのだろう。彼女にだってそのくらいの仲間意識はある。
けれど――ずたずたにするには、丁度よさそうだと思ってしまった。
彼女はまだ、哀川潤が最強であると信用しきっていなかった。
「ゆらぁり――――」
哀川と真心が、玉藻の接近に気付く。
玉藻は彼女たちの反応を見るまでもなく、動き出していた。
ナイフでもって、敵をずたずたにするために、迷いもせずに、その小柄な矮躯を走らせていた。
当然、真心の対応は一つだ。西条玉藻は確かに強力な戦士であるが、匂宮出夢や鑢七実など、これまで倒してきた怪物レベルの猛者のことを考えればどう考えたって見劣りしてしまうのは致し方ないことだ。
玉藻の胸を――真っ直ぐに、ぶち抜く。それだけで構わない。
「ゆらりぃ!!」
玉藻の攻撃は間違いなく届かない。
如何に彼女が強くとも、真心はあまりに規格外だ。
その太刀筋を見切るまでもなく、生じている隙にぶち込む。それだけで、西条玉藻という鼠を殺すには事足りる。
「■■■■■■――――!!」
手加減も、容赦も、一切無し。
百パーセント西条玉藻を殺害できる拳が、放たれた。
速度も最高。哀川潤、鑢七実ほどの実力者の動きの一部を模倣した一撃は、皮肉にも哀川との戦いで放ったどんな一撃よりも鋭かった。
止まることなく、拳は彼女の胸板を――ぶち破る。
「《――真心っ!》」
――筈だった。玉藻の未だ成熟しきっていない肢体を打ち抜いて、心の臓を粉々にされる、そういう未来の筈だった。
なのに、真心の拳は途中で止まってしまった。玉藻に届くことなく人類最終の拳は停止し、結果として戦いに水を差した邪魔者を始末することに失敗する。
それだけには終わらない。真心は目の前の狂戦士の存在も忘れて振り返り、彼女へと無防備な背中を晒し、そのまま静止する。
想影真心を止めたものは、たった一つの言葉だ。
たった一つの言葉で、たった一色の声色だ。
名前を呼んだ、懐かしい声。
実験動物だった頃に出会った親友の少年。
真心にとって彼は、あの時から今に至るまで、ずっと特別な存在のままだったのだ。
その彼の声がすれば、真心にとっては急を要する事態となる。
人類最強の肩書きを持つ赤の女との戦いさえも、彼の存在と比較すれば軽すぎて笑えてくるほどに、どうでもいいことだった。
まして今の真心は、彼を求めている。
果たして彼に出会えて彼女が何かを変えられるのかは分からない。
もしかすると案外、彼を殺してしまうのかもしれない。
それでも最終は走り出す。
自分の名前を叫んだ彼を、盲目に追い掛けようと地面を蹴る。
西条玉藻のナイフが、その背中を躊躇無く貫いた。
ずぶり、という確かな手応え。
闇突の名は伊達ではない、既に走り出した真心に一撃を見舞うことさえ大して難しいことではなかった。
それでも橙色は止まらない。
自分を呼んだ少年を探して、痛みも反撃も忘れて走っていく。
ランドセルランドに大きすぎる爪痕を残して。
その去り行く背中を見て、狂戦士の少女は呆然と呟いた。
「……あたしのナイフ、刺さったままですよう…………」
ともかく、こうして。
あまりにも呆気ない幕切れで、人類最強と人類最終の親子喧嘩は一旦の終わりを迎えることとなるのだった。
【2】
声を聞いた。
聞き違えることなど、どうしてあろうか。
有り得ない。ありえない。足り得ない。聞き違いなどであの声の色を片付けられるなんて、そんなこと絶対に有り得ない。
聞き違いなどでは、どう考えたって足り得ないのだ。
人類最悪の狐の手中に収まるより以前、実験動物だった頃に出会い、そして別れた優しくて弱いひとりの少年。いや、友達。
決闘に割って入った脆弱な殺人魔を一撃で粉砕するのは容易かった。
あまりにも、そんな存在はどうでもいいからだ。
興味を向けることさえなく、一つの挙動だけで十分だった。
拳でなくたっていい、足先一つあれば五度はあれを殺せた。
逆に言えば、あんなものは思考の中で最も下と言って良かった。
只でさえ狂乱の渦中にある真心である、普段ならいざ知れず、現在の暴走状態で最適な判断を下すこと尚更不可能であった。
そこまで考えられるほど、理性は残っていなかった。
あの場での最善は誰が見ても明らかに、狂戦士の少女を殺した上で求める再会の為に走ることだったろう。
――いいや、そもそも。
『呪い名』の操想術士の死んだ振りを見破ったように、あの時響いた声の真相をすぐに看破することだって出来たはずなのだ。
もうお分かりだろう。
想影真心の名前を叫んだのは彼女の求める
戯言遣いの少年ではない。
読心術に錠開け、そして声帯模写を呼吸をするように行う人類最強の請負人が、同行者の馬鹿な少女を助ける為に行った行動だった。
玉藻に気を向けた瞬間に哀川潤はアクションスター顔負けのバック転でもって最低限の間合いを確保し、そこから声帯模写を行った。戯言遣いの少年の声を模写することでなら暴走状態の橙なる種だろうが注意を引けるだろうと、真心と戦った未来を知っている彼女は思ったのだ。
幾ら何でも、如何に人類最強でも、玉藻をあの局面で庇えば命を落としていた。
彼女にしては珍しい、完全な逃げの一手だった、というわけだ。
「いーちゃん」
そんなことも知らずに、橙の少女は愛おしげにその名を呟く。
彼女は完全に正気を欠いている。
人類最強との戦いを妨げられたからではなく、バトルロワイアルで他者の命を奪うことが、時宮による解放をより深い狂気へと変えていた。
戯言遣いの少年と再会することが彼女にとってどう働くのかは分からない。
本来の快活で優しい性格が戻ってくるのかも知れないし、何かの間違いで彼を――あまりに弱すぎる彼を、あっさりと殺してしまうかもしれない。
同じことでは、ないだろう。同じことと断ずるには、あの少年が一つの『物語』の中で担っていた役割は大きすぎる。
彼が死ねば多くの人間が何かを感じる。他の登場人物を欠くよりも明らかにその影響は大きく、また深刻だ。
しかし、それ以前に。想影真心は未だ目を向けていないが、彼女の制限時間は実はもうさほど残っていない。
腰へと深く深く突き刺さったエリミネイター・00の刃は致命傷として、然るべき処置を施さなければ長くは保たない傷を刻んでいた。
真心と玉藻の実力差はあまりにも大きい。それでも彼女は傭兵育成を生業とする学園でホープと呼ばれ、策士の右腕を担っていた怪物だ。
そんな存在の攻撃をまともに受けて無事であるなど、人間である限りは不可能なこと。真心は強大だが、されど人間であった。
彼女が走る度、鮮血が散る。
果たして彼女を待つのは救いか、それとも破滅か。
それにしても、なんという皮肉だろう。
世界の終わりを切望した操想術士が施した手心が巡り巡って、頂点を獲得できる資質を秘めた人類最終を破滅させようとしているのだ。
最早『物語』は破綻している――最強も最終も狂戦士も、この歪に淀んだ『二次創作』の前には等しく一つのキャラクターでしかない。
だがこれもまた、何かの因果――――
【1日目/真昼/E-5】
【想影真心@戯言シリーズ】
[状態]解放、肋骨数本骨折、右腕骨折、疲労(大)、全身にダメージ(極大)、腰にナイフが刺さっている(致命傷)、失血(大)
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:壊す。
1:いーちゃん!
2:狐。MS-2。
3:車。
4:赤。
[備考]
※ネコソギラジカル(中)、十月三十一日から
※三つの鎖は『病毒』を除き解除されています
※忍法断罪円を覚えました。
※虚刀流『雛罌粟』、鑢七実の戦闘スタイルの一部を会得しました
※致命傷です。処置を早く施さないと命に関わるでしょう
※腰にエリミネイター・00が刺さったままです
【3】
西条玉藻はぽつりと一人残されていた。
彼女にしてみれば本日二度目のシチュエーションであるが、今回は何も分からず置いて行かれたのとは状況が少々違っていた。
玉藻は思い返す。人類最強と互角に張り合っていたあの橙色の少女を前にして感じた、絶対的なまでのとある『気配』のことを。
恐怖ではない。そんな感情は現象と揶揄される彼女にはあまりにも似合わないし、これまでの殺し合いの日々で捨て去った塵屑だ。
高揚ではない。あれは相手をズタズタにする時のものじゃなかった。もっと獰猛で冷たくて、感じていたくないと心から願える程の邪悪さ。
玉藻はそこでふと気付く。
自分は今、あの気配を『二度と感じたくない』と思った。
平穏とは随分縁遠い、けども充実していたここまでの人生だったが、そんなありきたりなことを思ったのは初めてではないだろうか。
狂戦士と呼ばれる自分には、とても似合わない台詞だ。
そんなことばかり口にしていては、狂戦士から一文字引かれてしまう。
戦士などありふれている。狂っているからこそ価値がある。
正気に戻れば、西条玉藻は現象ではなくなる。
だから、弱くなる。望もうとさえ思えないことだった。
「あたし…………ゆらり、確かに思いましたよねぇ…………」
いつも通りの霧のように掴めない口調ではあるが、彼女の瞳は獲物を前にして高揚している色とは明らかに異なっていた。
何かを思案するような、何かを噛みしめているような表情で、いつになく真剣な感情の色を見せながら玉藻は静止している。
狂っていると誰もが称する少女。
現在は主催者の手にある策士少女でさえ扱いに手を焼く程のじゃじゃ馬殺人狂がそうしている様は、不自然を通り越して不気味でさえある。
彼女を知る者なら誰もが違和感を抱いたはずだ。
もしも何処かの里の冥土のなんとかさんを知っていたなら、それの変装ではないかと疑って掛かるほどに、彼女のイメージに合わない。
――玉藻にとっても、気付いてしまったその事実は黙って無視できるものではなかったのか。それとも、只の気紛れなのか。
「『死ぬ』……って、思いました」
あの時。自分の襲来を迎え撃たれそうになった瞬間、間違いなく殺されると感じた。死の気配をあまりにも身近に、強大に感じた。
重ねて言うが、恐怖はしない。恐怖で使い物にならなくなるほど愚鈍では、玉藻は澄百合のホープとは呼ばれかった筈だ。
彼女自身にもこの不思議な感情の意味は分からない。
彼女に分からないのなら、世界中の誰にも分かるまい。
あの『策士』にも、看破することは不可能だろう。
表現のしようがないものを、表せないものを、理論立てて説明するなど出来るわけがない。
どうにも釈然としないままで、玉藻は哀川潤に穴を開けられた地図を幼児のように掲げて、小首を傾げながら見つめた。
「ゆらぁり……」
哀川潤は、大した会話も無しに真心を追うと宣言して、有無を言わさずにあの橙色を追いかけていってしまった。
その前に彼女が唯一行った行動は、玉藻の地図のとある場所に指で穴を穿ち、ここで待っているように言うことだった。
他のやつがいて信用できそうならそいつと一緒に行ってもいいとだけ言って、そのまま彼女は走り去って消えた。
それともう一つだけ、誓約を課して。
『誰かをあたしの許可無しにぶっ殺したら承知しねえからな』
――西条玉藻の楽しみを奪って、自分勝手に去っていった。
「……まぁ、行ってみましょうかぁ……?」
往く宛などどうせない。
殺し合いなのに殺し合いを封じられるとは生殺しもいいところの話だったが、あの人類最強と対立するのはまだ御免だった。
先の放送を担当していたのは、萩原子荻。彼女の懐いていた優秀極まる策士の少女だった、というのも理由の一つにある。
彼女がイかれた老人の道楽に協力しているとは思えないし、既知の人物がいる以上は当分哀川潤へ協力するのが賢明と判断したのだ。
だからひとまずは、我慢する。
なにもずっと我慢していろというのではない、とりあえずは哀川と再度合流を果たすまで約束を守っていればいいだろう。
「……――――ゆらぁり」
玉藻はゆらゆらと、示された場所へと足を進めた。
その場所は、図書館である。
【西条玉藻@戯言シリーズ】
[状態]身体的疲労(小)
[装備]メイド服@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2
[思考]
基本:どうしましょう……かねえ
1:当分は潤さんとの約束を守りましょー……あくまで当分は、ですけど
2:図書館に行きましょうか……
3:でもぉ……戦うときは、ずたずた未満で……頑張りますよぅ
[備考]
※「クビツリハイスクール」からの参戦です(正確には、戯言遣いと遭遇する前からの参戦)。
※毒刀の毒は消えました。
※哀川潤に不殺を命じられました。当分は守るつもりのようです
【4】
赤色の女も、走っていた。
全身に様々な生傷を負い、骨折しているのも一カ所や二カ所ではない。
常人であれば立っているのもままならないほどの負傷をしているが、あらゆる部門の最強を誇る彼女を止めるにはまだ足りなかった。
彼女は事もなさげにその両足を追跡の為だけに動かし続ける。
走り去ったあの馬鹿娘を追いかけて、まずは傷をどうにかしなければ。
あの刺さり方は明らかに不味かった――如何に人類最終であろうとも、人体に用いるにはあまりにも必殺的すぎる一撃だった。
早くしなければ手遅れになるやもしれない。
それどころか、持てる限りの力を尽くしても無謀であるかもしれない。
それでも最強は走る。
決して希望を捨てずに走る。
自分の娘と称した少女を正し、救うために地面を蹴りつける。
助けなければならない。そうしなければ、自分の気が収まらなかった。
(どいつもこいつも…………っ!)
哀川は完全に激昂していた。
元々、彼女は気の長い質ではない。
玉藻の乱入といい真心の狂乱といい、既に怒りは頂点に達していた。
どうしてあいつらはそうも子供なのか。
どうしてあいつらはこうも――
(馬鹿すぎんだろ、お前らっ! 畜生、どこまであたしを振り回して困らせんだ!! あたしはもう怒ったぞ!!)
どいつもこいつも大馬鹿だ。
救えないほどに子供すぎる。
それが哀川潤には許せない。
二人の子供の馬鹿さ加減は、最強の存在の琴線に触れてしまった。
「――お前ら二人ともあたしがぶっ壊してやる! お前らに教えてやるよ、人間の素晴らしさってヤツを!!」
少年漫画のヒーローのように哀川は走る。
人類最強――未だ、衰えること無し。
【一日目/真昼/E-5】
【哀川潤@戯言シリーズ】
[状態]あばら数本骨折、両腕骨折、疲労(大)、全身にダメージ(極大)
[装備]
[道具]支給品一式×2(水一本消費)、ランダム支給品(0~4)、首輪、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実
[思考]
基本:バトルロワイアルを潰す
0:真心を捕まえて、玉藻ちゃんと纏めて叩き直す
1:とりあえずバトルロワイアルをぶち壊す
2:いーたん、
玖渚友、想影真心らを探す(今は玖渚を優先)
3:積極的な参加者は行動不能に、消極的な参加者は説得して仲間に
4:後で玉藻ちゃん拾いに行かねーとな
5:阿久根の遺言を伝える
6:もうちょっと貝木と情報交換したかった
7:玉藻ちゃんに殺しはさせねー
[備考]
※基本3の積極的はマーダー、消極的は対主催みたいな感じです
※トランシーバーの相手は宇練銀閣です
※想影真心との戦闘後(
無桐伊織との関係後)、しばらくしてからの参戦です
※主催者に対して仮説を立てました。詳細は以下の通りです。
・時系列を無視する力
・死人を生き返らせる力
以上の二つの力を保有していると見ています
最終更新:2013年10月05日 12:17