神隠し(神欠し) ◆aOl4/e3TgA



 真庭鳳凰。
 今や廃りつつある、嘗ての栄光に縋っているだけと謡われるしのびの里の名字を冠する、十二人の頭領を実質的に統べる男。
 その実力たるや、大した苦もなく他の頭領を暗殺した旧友になおも別格として評価されるほどに高いとされる。
 付いた通り名は『神の鳳凰』。
 真庭の忍軍の中で唯一、実在しない動物の名前を背負った男だ。
 繰り返すが、彼は精鋭揃いの真庭のしのび中でも最強の座を欲しいままにしている、伝説といって遜色ない存在である。
 毒刀の精神支配を受けて乱心し、虚刀の青年に敗れこそしたものの、この殺し合いでもその力は曇り無く発揮されることだろう。
 中途半端な実力者では、『神』は越えられない。
 異常、過負荷、魔法少女、最強、最終――そんな存在と比べても引けを取ることのない強力なしのびである、それは決して間違いのない事実だ。
 事実の筈、なのだ。
 彼を危険と区別するのは正しくとも。
 彼を弱者と侮蔑するのは正しくない。
 そうだ。それこそが本当に正しい認識だ。
 そうであると、他ならぬ鳳凰自身も思っている。
 にも関わらず、だ。
 鳳凰は今、生涯――おそらくは、『真庭鳳凰』の名前が歴史上これまで受けたこともないような屈辱感に苛まれていた。

 (なぜだ)

 答えは返ってこない。
 あの狐面の男にでも聞けば納得できる答えが返ってくるのかもしれないが、僅かな矜持がそれを頑なに拒んだ。
 つまるところこの真庭鳳凰という男は、生まれてこの方こういった感覚というものを味わったことが無かったのだ。
 自分の強さを否定された挙げ句、最大限の侮辱を何の強さも持たないような全身隙だらけの男にぶつけられた。
 しかも情けないことに、奴を殺すことさえ自分には叶わなかった。
 右腕の死霊――それが戯言なのか、本当に真実であるのかは鳳凰にも知ったことではないが――、そんなもので、自分の強さは阻まれた。
 あまりにも、情けなすぎる。
 あれほどの侮辱を浴びせられて満足に論破することも出来ず、取り柄である実力行使さえ無駄に終わるなど、情けないにも程がある。

 (なぜだ…………っ!)

 だが鳳凰が真に理解できないのは其処ではない。
 口先で丸め込まれたことも、命結びにこれまで気付きもしなかった欠点があったというのも先ず納得しておいてやろう。
 ただ後一つ、どうしても見過ごせない疑問があった。
 こうして考えている内にも、その足は信じられない行動を続けている。
 誇りがあるなら、絶対に選択できないような行動を行っている。

 (なぜ我は、あの男に付いて行っているのだ…………!!)

 鳳凰は、自分を愚弄した男へ同行する道を進んでいた。
 どういう考えがあって、どんな理屈のもとにこんな決断を下したのかはまるで分からない。少なくとも分かっていれば、苦労はしていない。
 言うならば、本能的に。
 感じるならば、強制的に。
 数多くの闇の仕事を嵐のような激しさでこなしてきたこの両足が、そのすべてを否定した男の後ろを追い続ける。
 止めようにも止められない。より正確に言えば、止めようとするだけで自分の中の何かが選択を迷わせる。

 ――本当にそれでいいのか、と。
 本当にこの男を拒むことが正しいのかと。
 右腕の一件以降鳳凰のどこかで疼き続けていた、『畏れ』の感情がそんな問いを進む足に逆らおうとする度投げ掛けてくる。
 そして彼は、その問いに答えられない。
 一度恐怖を経験してしまったからか、自分の正しいと思うことが果たして本当に正しいのかが分からなくなっていた。
 ああ、なんと情けない。
 これが神と謳われた真庭鳳凰か。
 こんな醜態を晒すようでは、我もまたしのびの肩書きを捨てなければなるまい――――そんなことすら考えてしまう。
 逆を言えば、自分にとって何よりの誇りであり存在理由であるしのびの役目を捨ててでも、あの狐を追おうとしている。
 考えれば考えるほど無間の地獄にその身を埋められていくような感触が、鳳凰に気高き決断をさせることを妨げ続けた。

 「――おい、鳳凰」

 びく、と。
 突然に名前を呼ばれたことで心臓が締め上げられるような感覚が走る。

 「くくく――そうビビるなよ。俺だって、別にお前を虐めて楽しもうなんて悪趣味を持ってる訳じゃあねえ」

 笑う狐だが、その姿が鳳凰の方へと振り向くことはない。
 あくまで片手間に暇潰し程度の軽い感覚で、彼へと話を振ったのだ。
 鳳凰はあの狐面のことを何も知らない。それでも一つ分かることがあった。言動を見ていればすぐに分かるような当たり前のことである。
 それを理解するとなおのこと腹立たしい。
 何故よりにもよってこんな存在に、こんなにも最悪な存在に行き遭ってしまったのかと、悔やみたくさえなってくる。

 「……なんだ」 
 「結局お前は、どうする気なんだって話だよ」

 ――この男は、何も考えていないのだ。

 心の底から、下手をすると誰よりもこの異常事態を楽しんでいる。
 楽しんでいるからこそ、より面白いものを見ようと行動する。
 しかし、根本でこの最悪野郎は何も考えちゃいない。
 いわば気まぐれだ。気まぐれとその場の勢いで、コイツは動く。
 それを遂げてしまう器量があるのが、尚更その最悪さに拍車をかけている。

 「……我は」
 「俺はお前を駄目な奴だと思ってるが、お前を拒絶することはしねえぜ。何しろ、その実力は俺の護衛としちゃあ一級も一級、超がついたっていいくらいに優れている。俺の『十三階段』の中でだって、お前に並ぶレベルの奴は殆どいねえ筈だからな」

 殆ど。ならば、自分を越える存在も要るというわけか。
 それは驚くようなことではない。鑢七花のような規格外が通用するような世の中なのだ、世界の広さ程度はそれなりに理解しているつもりである。

 「我はおぬしが嫌いだ、狐面」

 鳳凰ははっきりと、最悪の男へ言い放った。
 右腕への恐怖で醜態を晒し続けていた彼であったが、腐っても真庭の頭領を任せられる者。その中でも更に頂点を座する、神の鳳凰。
 このまま化け狐の傀儡で終わることは、良しとしなかったらしい。

 「だが、おぬしの言う通り。我はおぬしを殺せないようだ」
 「『我はおぬしを殺せないようだ』――ふん。ようやく理解したか。頭抜けの馬鹿って訳でもねえようだな」
 「ならば」

 この男の従属で終わるなど真っ平御免。そんな生き恥を晒すくらいなら、自らの心臓を穿った方がまだ苦しくないようにさえ思える。
 されど、現状この男を手に掛けることが出来ないのは確固たる事実。
 おまけに蒙らされた恐怖という呪縛を抱えたままで、これまで通りの戦いを繰り広げられるとは思えない。
 肝心な時に発作的に、呪縛を絞められては適わない。
 そんな死に様、まさしく犬死に。
 天を舞う鳳の名を裏切る、避けねばならぬ終わりだ。

 「ならば、一時はおぬしと道を共にするとしよう。再びこの手が、おぬしを殺せるようになるまでは――な」
 「――ほう」

 ざっ。これまで一度とて振り向かなかった狐が、初めて足を止めた。
 その後は何の躊躇いもなく振り向き、鳳凰へと視線を送る。
 数秒の間があって、それから再び狐面――西東天は前へと向き直り、何もなかったように歩みを進め始めた。

 (真庭鳳凰――俺の欲する逸材の条件なんざ欠片も満たしちゃあいねえが……ふん、精々有効活用させて貰うとするか。
  此奴は手足としちゃあ落第点だが剣としちゃあ及第点だ。いや、違うな。忍者なんだから、暗器っつーのが正しいな)

 それは、真庭鳳凰にとって本当に本望なことなのだろうか。
 少なくとも、鳳凰は自分も知り得ない内に、西東天という誰よりも最悪な男の毒牙に蝕まれつつあるのは最早確かなことだった。
 鳳凰は先程初めて西東へと自らの意志を示したが、それは本当に鳳凰自身の意志による発言だったのか。
 西東天という男がきっかけをくれたからこそ芽生えたものなのではないのか――そんな疑問を、鳳凰は抱いていない。
 そこに疑いの余地などないとさえ思っている。あるいは、そもそも些末なこととして視野にすら入れていない。

 西東天は真庭鳳凰を完全に見定め。
 真庭鳳凰は自分の意志かも分からない決意で西東天と往く。
 鳳凰が望んだ、再び西東を殺せる機会は巡ってくるのだろうか。

 「それと、そこのおぬしは普通に殺せそうな気がするが」
 「ああ、だろうな。そいつは多分殺せるだろう」
 「やっぱり僕だけ危険じゃないですか」

 ――話に交じり損ねた串中弔士は一人溜息をついた。


    ◆    ◇


 ――戯言だな、と少年は思う。
 仲間が死んだ。
 誰よりも熱く正義に燃えた少女が死んだ。
 その在り方は彼の知るとある完全なる少女にも匹敵するほど愚直で、だが決して道を交えないだろうそれであった。
 彼女は死んだ。
 人ならざる、自立駆動の刀によって肉体を切り裂かれた。
 でも止めを刺したのは他ならぬ自分自身だ。
 仕方がなかったと思う。
 言い訳抜きで、あの場ではあれこそ最善だったと信じている。
 優しさとお節介は違うのだ。
 あのままあの子を生かし続けていたら、地獄のように苦しい死を遂げることは目に見えていた――だから、しっかりと殺した。
 人生で初めてだった。人を殺すというのは。
 連続殺人鬼扱いをされたこともあるし、事実その扱いも間違っちゃいないと彼自身思っている。自分の異常性がどれほど危険で間違ったものなのかを、どれほど苦しく忌まわしいものなのかは、当の少年自身が他の誰よりもよく知っているのだから。
 それでも、人を殺したことだけはなかった。
 人は殺したら死んでしまう。
 もう語ることも笑うことも、遊ぶことも出来なくなってしまう。
 優しき少年は当然のようにそれを忌避した。
 だから、内から這い出ようと躍起になる漆黒の衝動を抑制しながらこれまでの十数年間を生きてきたのである。
 異常な人生は、楽しいことばかりじゃなかった。
 暗器術を習い、普通(ノーマル)の少年とも戦った。
 そして敗北した。そして友達になった。
 そんな友情を芽生えさせるような戦いをしても。
 あの正しすぎる少女に触れても。
 遂に気付き得なかったことに――少年は、ずっと避け続けてきた禁忌を犯すことで初めて気付くことが出来た。
 人を殺すことは、最悪であると。
 彼女が殺し合いの開始からずっと連れ添ってきた仲間だったから、というのももしかしたらあるかもしれない。しかし何にせよ確かなことは、もう自分は二度と他人の命を奪うようなことは出来ないだろうということだ。
 殺した瞬間――、
 あれほど喧しく騒ぎ立てていた『衝動』が全て萎えた。

 やがて消えた。それっきりだ。それっきり、衝動は姿を見せない。
 おそらくは今後も、永遠に。

 (……枯れた樹海には、殺す木がない)

 殺す木がない。
 殺す気がない。
 なんて皮肉な検体名だろうか。
 こういうのをきっと、戯言というのだろう。
 いや、それとも傑作か。

 (どちらにせよ、僕にはもう人を殺せない。それは確かなことだ)

 少年、宗像形は考える。
 自分の『樹海』には、最初から殺す木など一本しかなかったのだ。
 後の木は全てがとっくに死んでいて、殺せない木ばかり。
 そして最後の木を、あの時遂に切り倒した。
 それで、樹海からは木が無くなってしまった。
 これで自分は、真の『枯れた樹海』として覚醒したといえるのか。
 ひょっとすると、退化かもしれないけれど。

 (……ふむ、やはり僕には哲学者は似合わないね)

 くすり、と微笑して宗像は走り続ける。
 目指すは禁止エリアに未だ座しているだろう青い少女の下だ。
 速度は十全。あと数分もしない内に、目的の場所へと辿り着く筈。
 禁止エリアが完成するまで、数時間も余裕がある。
 我ながら、良い活躍だと思う。

 (このまま何事も無く帰れればいいんだが――――)

 玖渚を救出して伊織たちの下へ戻る運動を行ったところで、まさか体力が尽きてゲームオーバーにはならないだろう。
 問題はその道中で面倒な輩に出会わないかどうかだ。
 少女一人を守りながら戦うなど一般人相手なら雑作もないことだが、その相手が自分のような『異常』では話も変わってくる。
 こればかりは祈るしかないが、その時は最悪彼女だけでも逃がすしかない。
 玖渚を見捨てて自分の身を助けようとするほど宗像は落ちぶれていないし、そこまで自分の生に貪欲でもない。
 不安を払拭して、無意識に少し速度を上げて、なおも走る。
 が――その足は途中で止まることとなった。
 前方に見える複数の人影を見て、やれやれと愚痴るように宗像は零す。

 「どうやら、そうはさせてくれないようだね」

 その台詞を聞いて、人影の一人。
 狐面に浴衣姿の奇抜極まる様相の男は、犯しそうに笑った。
 殺人衝動を失ったとはいえ、その肉体に刻み込まれた殺人の技術の数々は未だ健在だ。だから彼には一目で分かった。
 しかし分かったからといって、得られるのは安堵でも愉悦でもない。
 何も得られない。疑問を蒙るだけだ。
 この男は、あまりにも殺し易すぎる。
 全身隙だらけ――丸腰であることを抜きにしても、正直前の自分がその気になれば一秒と掛からずに殺せそうなほどに。
 それに対して後方に立つ鳥のように奇抜な格好をした男は明らかにただ者ではない。間違いなく狐面よりも数倍、数百倍は強い筈だ。
 なのに、『いる』。
 決して隙を見せるなと警告する自分が、いる――――。

 「……何の用ですか? 僕は今非常に急いでいるので、早急にそこを退いて貰えると助かるのですが」

 少しだけ苛立ちを含ませた声で言う。
 怯んでくれでもすれば良かったものの、やはりそう上手くは行かない。
 宗像の気迫を受けても、男はただ笑うだけだった。

 「……ちょっと、いい加減に……!」

 埒が明かない。
 それに、この男とは関わりたくない。
 こんな感覚を覚えたのはひょっとすると初めてか。
 こんなにも――一人の人間から離れたくなるのは、珍しいことと思う。

 「くく、悪いな。そう時間は取らせねえ、だがこいつも何かの『縁』だろう、宗像形」
 「……何故、僕の名前を知っている」

 名前など、ただの記号だ。
 そんなもの、肝心の時には大した役割を果たしてくれない。
 だから無用なものであり、どうであろうと同じようなものだ。
 けれど、会ったことも遭ったことも無い筈のこの男が、どういうわけか一方的に自分の名前を知っている。
 これは無視できない事実だった。
 場合によっては、強硬突破。
 人を殺すことは出来ないから、無力化して早々に突破する。
 あの鳥の格好をした男を相手取るのは骨が折れそうだし、隙を作って逃走を図り、適当に撒いたところで軌道補正というのが最善か。
 そんなことを考えている宗像だったが、

 「『何故僕の名前を知っている』――ふん、つまらねえ台詞だな。だが俺が言うだろう答えは、既にてめえは大方分かってそうだ、そういうツラをしてやがる。……無駄だぜ、お前は逃げられん。心配するなよ、少なくとも俺にはお前をどうこうしようって気はない」

 考えを見透かしたように、狐が言葉を吐いた。
 確かにこの男は自分に危害を加えようとはしないだろう。
 殺気というものも、敵意というものも限りなくこの男には皆無だ。
 仮に襲ってきても、この程度の相手ならば掠り傷すら負わない。
 逆に言えば、そんな相手から逃げることは容易い筈なのだが。
 なのだが――どうしても、逃げられる気はしなかった。
 ここで関わってしまったことが運の尽きと考えてしまっている自分が何処かに居ることに気付くのに、そう時間は掛からなかった。

 「くくく」

 笑って狐は、宗像の姿を観察する。
 変態的なそれではない。どちらかといえばそれは、科学者が実験体にするような本当の意味での観察行為だった。
 時間にして数秒が経過した頃、狐は惜しそうに呟いた。
 悔しそうに、口惜しそうに。

 「ああ、くそ――惜しい、惜しいな。もう少し前のお前にも接触しておけば良かったと言わざるを得ないぜ」

 どきりと、跳ね上がるような感覚を覚えた。
 今の台詞は、まるで知っているような口振りだった。
 宗像形が、一人の少女を殺して殺人衝動を失ったことを。
 あんな数秒の観察から、そんな結果を導き出したようだった。
 有り得ない。そう思っていながらも、感じてしまう。
 この男への紛れもない、恐怖心を。

 「だがそれでも、お前はなかなかだ。どっかの殺人鬼連中と同じであって同じじゃない。お前の代用品はそうそう見つからないだろう」

 代用品(オルタナティブ)と、狐面は口にした。

 「かなりのレア・ケース……ふん、『合格』だな。お前ならちゃんと資格がある」

 合格。
 代用品。
 資格。
 レアケース。
 殺人鬼連中。
 すっかり自分の世界に入っている男の台詞一つ一つが、まるで脳へ直接響くように思考を蝕んでいく。
 怖い。
 未知といってもいい感覚が、宗像の中で少しずつ膨らんでいく。

 「どうだよ、宗像。お前――」

 狐の男は笑った。
 ――実に、犯しそうに。

 「――俺達と来ないか?」

 答えなど、選ぶまでもない。
 そんなこと、きっと生まれた時から決まっている。
 この男に。
 狐面の奥で微笑む男に。
 正しく『人類最悪』と言うしかないであろう男に。
 化け狐のように人を惑わすこの男に。
 この男と、同行することが出来るなど。

 「断るっ!」

 ――――願い下げだ。


    ◆    ◆


 宗像形は、まるで風のように走り去っていった。
 鳳凰の速度でなら追い付くことも可能だったろうが、狐面・西東天の方からその提案を却下した。
 縁が合えばまた奴とは再会することになる。そう言って、旨い魚を逃した釣り人のような雰囲気を醸しながらまた歩き出した。
 宗像を見て、西東はその本質をすぐに理解した。
 これは殺人鬼の素質があるようで皆無な奴だと、一目で見抜いた。
 殺し名序列第一位・匂宮雑技団。
 殺し名序列第二位・闇口衆。
 殺し名序列第三位・零崎一賊。
 そのどれとも違い、ただし近いのは零崎の鬼どもだ。
 あれはそういう目だった。殺人の衝動を欠いた後でも、数多くの異様な存在と縁を持ってきた西東天に隠し通せはしなかった。
 彼は本当に二度と人を殺さないだろう。
 零崎とは違う。限りなく近いのに対極以上に遠い存在だ。
 だからこそ、面白いと思った。
 自分の仲間にしてみたいと思った。
 結果はにべもなく断られてしまったが、これもまた物語。
 時としてご都合主義に、時として現実的に進む。
 物語の先が見えているほどツマラナイことはない。
 ゆえに西東天は、不測を大いに歓迎する。
 何も拒まず、去る者も追わない。
 それが因果に追放された男の、異常な在り方だった。

 「さて、弔士、それと鳳凰」

 落ち込まずに。
 常にそれも物語と受け入れ。
 そうして人類最悪は、次なるイベントへ近付く。
 これほどまでに物語に大きく関与できるなどそうそう無いことだ。
 この好機は間違いなく、逃せば一生で二度と訪れない。
 だから楽しむ。この面白き物語を、精一杯楽しむとする。
 ――面白きこともなき世を面白く。
 どこかの偉人の座右の銘。
 素晴らしい言葉だと西東は思う。
 まさしくその通りだ。
 だから次に向かうのは、新たなる可能性のもとへ。

 「次の目的地は決まったぜ」

 現地点から見てもっとも近い場所。
 もっとも近いということは、それもまた何かの縁。
 ならば接触してみるのも悪くない。
 むしろ、いい。

 「E-7だ」

 短く言うと、同行者達の意見も聞かずに西東はすたすたと歩く。
 まさに傍若無人だ。その様子に溜息をつく弔士を見て、同じように溜息をつきながら、鳳凰は小さく言った。

 「……その、なんだ。おぬしも大変だな」
 「わかってくれるのはあなただけですよ、鳳凰さん」

 ちょっぴり親近感が芽生えたりしていた。


【1日目/昼/D-7】
【西東天@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]拡声器(メガホン型)@現実、首輪探知機@不明、チョウシのメガネ@オリジナル×12
[道具]支給品一式、ランダム支給品(0~1)、マンガ(複数)@不明
[思考]
基本:もう少し"物語"に近づいてみる
 1:E-7へ向かう
 2:弔士が<<十三階段>>に加わるなら連れて行く
 3:面白そうなのが見えたら声を掛け
 4:つまらなそうなら掻き回す
 5:気が向いたら<<十三階段>>を集める
 6:時がきたら拡声器で物語を"加速"させる
 7:電話の相手と会ってみたい
[備考]
零崎人識を探している頃~戯言遣いと出会う前からの参加です
想影真心時宮時刻のことを知りません
※展望台の望遠鏡を使って、骨董アパートの残骸を目撃しました。望遠鏡の性能や、他に何を見たかは不明
※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前が表示される。細かい性能は未定


【串中弔士@世界シリーズ】
[状態]健康、女装、精神的疲労(小)、露出部を中心に多数の擦り傷(絆創膏などで処置済み)
[装備]チョウシのメガネ@オリジナル、三徳包丁@現実、中華なべ@現実、虫よけスプレー@不明
[道具]支給品一式(水を除く)、小型なデジタルカメラ@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、懐中電灯@不明、おみやげ(複数)@オリジナル、「展望台で見つけた物(0~X)」
[思考]
基本:…………。
 1:今の所は狐さんについていく
 ?:鳳凰さんについて詳しく知っておくべき?
 ?:できる限り人と殺し合いに関与しない?
 ?:<<十三階段>>に加わる?
 ?:駒を集める?
 ?:他の参加者にちょっかいをかける?
 ?:それとも?
[備考]
※「死者を生き返らせれる」ことを嘘だと思い、同時に、名簿にそれを信じさせるためのダミーが混じっているのではないかと疑っています。
※現在の所持品は「支給品一式」以外、すべて現地調達です。
※デジカメには黒神めだか、黒神真黒の顔が保存されました。
※「展望台で見つけた物(0~X)」にバットなど、武器になりそうなものはありません。
※おみやげはすべてなんらかの形で原作を意識しています。
※チョウシのメガネは『不気味で素朴な囲われたきみとぼくの壊れた世界』で串中弔士がかけていたものと同デザインです。
 Sサイズが串中弔士(中学生)、Lサイズが串中弔士(大人)の顔にジャストフィットするように作られています。
※絆創膏は応急処置セットに補充されました。


【真庭鳳凰@刀語】
[状態]精神的疲労(中)、左腕負傷
[装備]炎刀『銃』(弾薬装填済み)、匂宮出夢の右腕(命結びにより)
[道具]支給品一式×2(食料は片方なし)、名簿×2、懐中電灯、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、ランダム支給品2~8個、「骨董アパートで見つけた物」、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する
 1:一旦は狐面の男についていく。但し懐柔される気は毛頭ない。
 2:本当に願いが叶えられるのかの迷い
 3:今後どうしていくかの迷い
 4:見付けたら虚刀流に名簿を渡す
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません
 ※「」内の内容は後の書き手さんがたにお任せします。
 ※炎刀『銃』の残りの弾数は回転式:5発、自動式9発
 ※支給品の食料は乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※右腕に対する恐怖心が刷り込まれています。今後、何かのきっかけで異常をきたすかもしれません。


    ◇    ◇


 ――たどり着く、研究所の前。
 しかし達成感はない。
 それよりも速く済ませて伊織たちと合流したいと思っている。
 それほどまでに、宗像にとっては衝撃的だった。
 あの男は何だったのか。いったい、何がしたいというのか。
 分からないが、とにかく一つ。
 二度と関わり合いになりたくないことは確かだった。
 もう自分は人を殺せない。殺したいとすら思えない。
 けれど、もし未だ殺人衝動が健在だったとしても、あんなものは殺したいとすら思えなかったのかもしれない。
 「ああいうのを、最悪と呼ぶんだろう」

 一人呟いて、納得する。
 あれは確かに最悪だった。
 百人に聞いたら百人がそう言うだろう。
 仲間になれ? あれと仲間になるなど有り得ない。
 少なくとも自分とは決して相容れない。
 宗像はもはや確信さえしていた。

 「伊織さんたちは――大丈夫かな」

 もたもたしている暇はない。
 一刻も早く玖渚を連れて伊織たちと合流せねば。
 宗像は研究所の内部へと足を進めた。
 彼はこの後玖渚友と再会し、研究所を出ることを信じている。
 そこに障害が生まれるなど有り得ぬと思っている。
 仮にそうだとしても。彼は未だ知り得ない。
 待たせている同行者の下へ、彼が忌避した狐面の男が既に向かっているということを――――。


【宗像形@めだかボックス】
[状態]身体的疲労(中) 、殺人衝動喪失
[装備]千刀・鎩(ツルギ)×564
[道具]支給品一式×2、コルト・パイソン(6/6)×2@人間シリーズ、スマートフォン@現実、「参加者詳細名簿×1、危険参加者詳細名簿×1、ハートアンダーブレード研究レポート×1」、「よくわかる現代怪異@不明、バトルロワイアル死亡者DVD(1~10)@不明」
[思考]
基本:阿良々木火憐と共にあるため『正義そのもの』になる。
 0:斜道郷壱郎研究施設へ向かい、玖渚友を禁止エリアから出す。
 1:黒神めだかが本当に火憐さんのお兄さんを殺したのか確かめたい。
 2:機会があれば教わったことを試したい。
 3:とりあえず、殺し合いに関する裏の情報が欲しい。
 4:DVDを確認したい。
 5:火憐さんのお兄さんを殺した人に謝らせたい。
[備考]
※生徒会視察以降から
阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※危険参加者詳細名簿には少なくとも宗像形、零崎一賊、匂宮出夢のページが入っています
※上記以外の参加者の内、誰を危険人物と判断したかは後の書き手さんにおまかせします
※携帯電話のアドレス帳には櫃内様刻、玖渚友が登録されています



トリガーハッピー・ブレードランナー 時系列順 撒き散らす最終(吐き散らす最強)
トリガーハッピー・ブレードランナー 投下順 撒き散らす最終(吐き散らす最強)
稀少種(鬼性手) 真庭鳳凰 Let Loose(Red Loser)
稀少種(鬼性手) 西東天 Let Loose(Red Loser)
稀少種(鬼性手) 串中弔士 Let Loose(Red Loser)
解放された者と抑える者 宗像形 配信者(廃神者)

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最終更新:2013年06月19日 17:01