孤(虚) ◆mtws1YvfHQ



「ぁ  ぁ」

そんな、か細い声しか出なかった。
何処までも遠ざかっていく背中に。
離れた所へと行ってしまう姉に。
言葉の一つ、投げ掛ける気力も湧いては来なかった。



その姿を誰がどう見るだろう。
一人、一個の彫像のように固まっているのだから。
無数の、巨大な螺子が突き立っている姿を見ればなおの事。
熱によって不気味に捻れた人形のようですらあった。
見開かれた目は空に向いてこそいるが、何を見ているかも知れない。
時折口から譫言のような言葉を漏らすだけで。
端から見れば、精魂尽き果てた姿としか見れない。
事実でもある。
何しろ突き立った螺子の特殊なこと、この上ない。
あらゆる物に苛まれながら、鑢七花が思うのは過去だった。



「  」

始まりの月。
二人暮らし。
ただ月日が過ぎ何時しか朽ちるのではないかとも思えた島暮らし。
修行の日々が過ぎて、やがては朽ちて、錆び尽きる。
受け止めていた。
そう思えていた。
そんな中で現れた。
刀を持って現れた。
とがめ。
奇策士。
そう名乗った彼女が。
家でねーちゃんとおれの前で、天下が欲しくないかと言った。
どうでも良いとか言ったような気がする。
次に現れたのはまにわにの蝙蝠。
よくも親父の建てた家を壊してくれたもんだ。
思わず追い掛けて出たのは砂浜で。
そこで、最初の一本を見た。
絶刀・鉋。
絶海の孤島に現れた忍者が持ってたのが絶刀なんて笑える話だ。
ともかくの内にとがめが現れて連れ去られて、向き合った。
父親の事と。
父親の事を知って、惚れる事を決めた。
それが。
それが全ての始まりだった。
終わりの始まりだった。
平穏の終わり。
悲劇の始まり。
あの時のおれは間違ってたのか。
あの時のおれが悪かったのか。
なんて。

「  」

砂漠を、歩いたんだった。
何とも無駄に長い歩き旅。
目的の物は決まってた。
斬刀・鈍。
砂漠。
蜃気楼の中の城。
確か三迷城だったか。
あとの二つってどんなのだよ。
それは置いといて、まにわにの誰だったかの死体もあったか。
その先の城。
一室で待っていた。
宇練銀閣。
見えない居合い。
鞘鳴りと同時の斬撃。
ことが居合いだけだったら、頂点だったろう。
もちろん、二つある頂点の内の片方、だけど。
それも弱点とは言えない弱点。
人間誰しもが苦手な頭上を突いて勝った。
ああそうだ。
あの時に言ってた言葉だ。
あんなのをおれも言いたかったけど、ダメって言われたんだ。
とがめに。
ちょっとだけど、羨ましいな。
ああ、言えたのが。

「  」

出雲。
神様がどうとか興味はないけど。
色んな所にいた巫女さんが持ってた刀。
全く同一の千本。
千刀。
階段の一番上で会ったのが一番最初か。
あいつは苦手だったなあ。
千刀流の使い手。
本当に、二枚貝を合わせたみたいに噛み合った武器と流派。
でも、あの性格が苦手だっただけだったんだけど、誰だったかに千刀流が苦手って勘違いされた。
誰だったっけ。
ま、どうだっていい。
とにかく刀の毒を治療に使う。
おれじゃあ思い付かない使い方をしてた。
盗賊の元頭領だとも言っていた。
強かった。
手強かった。
おれがもしもあの事に気付いてなけりゃ、負けてたかも知れない。
最後の最後に引き当てたからこそ、油断も何もなくなってた訳だけど。
そんでその後。
階段から転げ落ちて行ったんだった。
とがめが無事で本当に良かった。

「  」

決闘だった。
錆からすれば、血統を賭けた決闘だったのかもなあ。
何にも知らなかったから分からないけど。
今ならまた何かしら掛ける言葉があるのかな。
ともかく、刀。
薄刀。
恐るべき腕前。
唯一無二の使い手。
ってのはまさにあいつとねーちゃんのためだけにあるように思える。
一刀で海を割るは鮫を卸すはでやりたい放題。
空を斬るなんてのも強ちウソじゃなさそうだった。
日本最強。
あれは過言じゃなかった。
技、居合いだけでも銀閣とは趣を異にした頂点にあっただろう。
今思えばぞっとする。
もしもあの時に使ったのがあれだったら。
生きてるのはおれじゃなかった。
おれの命はなかったんだろうから。

「  」

日本最強。
そう呼ばれるようになってからの最初の刀。
海賊船長。
賊刀。
砂浜はまさに独壇場。
柵に囲まれた中での戦い。
一度見てた上でもあれは、危なかった。
奥義も利かないし、負けたとも思った。
錆には悪いけど。
でも勝てた。
技でも何でもない、力業で。
それこそ守るものを持つ奴が強かったんだろう。
とがめ。
もしも言葉を掛けてくれなかったらきっと負けてた。
諦めて大人しく引き下がってた。
ああ、でも。
今思い返せばその方が良かったのかも知れない。
その方が、ずっと良かったのかも知れない。
今更。
本当に、今更だけど。

「  」

凍空一族。
あの雪山で暮らしていたと言う一族の守っていた刀。
双刀・鎚。
過去の刀狩りが失敗した理由を考えると少し笑える。
重いのなんの。
それが理由だと思えば。
でもまあ確かに。
普通のやり方じゃ持つ方法なんてないし、見知ってる限りでも足軽かあの怪力がないと運ぶのも無理だ。
片方はまるで意味がない。
重さなくして何の意味があるって言うか。
でも。
とにかく思い返してみると、あの惨劇はおれの所為だったのかな。
おれがとがめに惚れてさえなければ。
おれがとがめと出て行かなかったら。
ああなりはしなかったんじゃないか。
そうすれば。
一人にならなくても済んでただろうに。
笑えてくる。
泣けてくる。
ふざけてる。

「  」

悪刀。
言うまでもない。
一度目はあっけなく。
あまりにもあっけなく。
負けた。
歯牙にも掛けられず。
軽くあしらわれた。
全部が全部、否定されたようにも思える。
ああ、強かった。
敵わない。
ああ、叶わない。
普通じゃどうやっても勝てなかっただろうし、今でもまるで勝てる気がしない。
それでももう一回、刀大仏を仰いで戦った。
いやまあ、その前のはあんまり思い出したくない。
遊ばれただとかそう言う話じゃない。
ただちょっと戯れた。
そんな感覚でしかなかったんじゃないかな。
とにかく。
とにかくあそこでおれは。
ねーちゃんを。
殺した。
望んでなのか。
望まずなのか。
勝てるはずもないのに。
勝てるはずもなかったのに。

「  」

七本目が終わった。
そして、あれと巡り会った。
ガラクタの中を歩く人形。
微刀。
あいつはおれだった。
おれはあいつだった。
どうしようもない程。
言い訳出来ない位に。
ただ命じられたことをやり続ける。
それだけの存在だった。
だからこそ気付かされた事があった。
今では思う。
会えて良かったと。
今は思う。
会いに行けなくて悪いとも。
微刀。
今は、どうしてる。
言われたことを変わらずやってるのか。
殺してるのか。
壊れてるのか。
不要湖の中を。

「  」

強いと言えば強かった。
手強いと言えば手強かった。
ちょっと苦手だった。
王刀。
看板娘、汽口慚愧。
卑怯な手で勝ったなあ。
それでも負けを認めてくれたんだから大した人だった。
真っ直ぐで混じりっ気のない。
もっとずっと握り続けてたら一体どんな人格になってたのやら。
どんな人間が出来上がってたのやら
錆ほどじゃないにしろ、相当やばい実力者にはなってただろう。
下手したらあんな手を使っても勝てたかどうか怪しいぐらいの。
終わった後でも変わらない修行をする姿。
それと一緒に思い出す。
呪いのことを。
血統のことを。
血刀のことを。
まるで、と言ったあの言葉。

「  」

厄介な奴だった。
仙人を自称するだけあって。
外見は確かおれの苦手意識が集まったって言ってたっけ。
内面はとがめの苦手意識が。
まさにこれ以上ない持ち主だったんじゃないかとも思う。
おれの浅知恵で、だけど。
誠刀。
あの刀の所有者とすれば。
これ以上ないぐらい、異常ないぐらいハマってたんじゃないか。
まあ持ち主としては良かったとしても。
外じゃなくて内を斬る刀なんて刀って言えるのか。
疑問に思ってもまさかケチ付ける訳にも行かない。
とがめはとがめで納得してたから別に良いけどさ。
実際の所はどうなんだろうな。
刀として。
あるいは、武器として。
殺せない武器に意味があるのか。
どうでもいいけど。

「  」

偶然だった。
偶然道端で見付けたのが切っ掛けだった。
毒刀。
それに精神を乗っ取られたって言う真庭鳳凰。
それに斬られたのに生き残ってられた真庭人鳥。
どっちもどっちでとんでもない奴だ。
果て。
最後には真庭の里の壊滅。
暗殺専門の忍者、まにわに。
何とも呆気ない終わり方だとも、何ともらしい終わり方だとも、どっちとも取れる。
少なくとも相応しい終わり方だとは誰も思わなかっただろうってことは確かだけど。
幸せな、ではあったかも知れない。
いや、不幸せか。
やった事を知ってしまった訳なんだし。
真庭鳳凰。
あいつとの約束はどうも、果たせそうにない。
まあ人鳥が生きてるんだろうから、何かあったり運が良ければそのまま復興もできるんじゃないか。
ああいや、あいつが言ってたな。
殺したって。
だったらもう、どうしようもないか。
どうでもいいけど。

「  」

炎刀。
あれに、あの時に、気付いてれば良かった。
そうすればあんなことにはならなかったのに。
取り返しの付かない。
取り戻しようのない。
取って返せもしない。
終わったことに、なってた。
呆気なさ過ぎる。
なんだってあれは。
まるで意味がない。
だからこそ意味がない。
おれととがめのしてた旅に意味がない。
一年近い時間はまったくなんの価値も意味もなく。
とがめが終わっておれもただの刀になった。
だからあれは助長なだけだった。
持ち主のてを放れた刀が独りでに木に刺さったように。
空をとんで誰かを傷付けただけにすぎない。
誰が喜ぶようなものでもない。
しいて言えばあいつだけか。
まるで最初から決まった道筋をそうみたいに。
道具としてつかわれて、道具としてつかわれず、道具としておわっただけだった。
おれの心も、おれの家族も、何もかも。
無価値に。
おわった。

「  、    」

つかれた。
なにもかもおわったのに。
なんだってまだ続くんだよ。
なにもかもおわらされたのに。
なんだって、おわれないんだよ。
おれはわるくないだろう。
もういいじゃんか。
もう、なんだって。
とがめがおわったその時から、おれはとがめの望みとも言えないものだけで、惰性でつづいてるだけなのに。
無様につづく。
無意味につづく。
無惨につづく
無関係につづく。
無為につづく。
無価値につづく。
どうだっていいいはずの世界が、なんだって。

「  ちゃ 」

なんだってひどい。
なんだってくるしい。
なんだってうらめしい。
やりたくもないことをやるハメになったのに。
そのあげくがこれか。
これなのか。
ばかじゃねえか。
なんだこれ。
ふざけるな。
もうイヤだ。
なにもかも。

「あ 」

もういいじゃねえか。
かってにやってくれ。
おれは、わるくない。

「なにもかも――」

おれにかかわるな。
だれもちかよるな。
もうぜんぶいやだ。
だってなにもかも、

『――めんどうだ』



【一日目/真夜中/D-5】
【鑢七花@刀語】
[状態]睡眠、右手欠損、『却本作り』による封印×4(球磨川×2・七実×2)、病魔による激痛、『感染』?
[装備]袴@刀語
[道具]支給品一式
[思考]
基本:『おれは悪くない』
 0:『何もかも面倒だ』
 1:『寝る』
 2:『殺し合いとか、もーどうでもいい。勝手にやってろ』
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※寝ました。右手の治療していません

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球磨川禊の非望録 鑢七花 陽炎

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最終更新:2015年12月04日 12:01