陽炎 ◆ARe2lZhvho


   ■   ■





いっそ誰かに奪われるなら 抱きしめたまま壊したい





   ■   ■


こいつらのいちゃつきを期待してたやつらがいたかもしれないが、残念ながら語り部はおれだ。
おれだよ、おれ。
四季崎記紀。
の思念の絞りかす、がかろうじてしがみつけた残骸、のようなもの。
暇で暇でしょうがねえから問わず語りでもさせてもらおうってことだ。
いやまあ、どうしても見たいってんなら逐一実況はできなくはないんだが。
でもな、

『放送も近いし腹ごしらえでもしとく? まだあのゼリー飲料はたっぷりあるし。ほら』
「あら、ありがとうございます。ではわたしが開けてさしあげますね。はい」
『……七実ちゃん』
「なんでしょうか?」
『開けてくれたのはありがたいんだけど、普通に蓋を捻って開ければよかったんじゃないの? なんで手刀でスパっといったの?』
「こちらの方が手馴れていましたので。それに口が広い方が召し上がりやすいかと思ったのですが」
『この構造の意味少しは考えようよ? おかげで中まで伸びてるストローみたいなやつ僕初めて見れたよ』
「律儀に吸われていたお姿が似合わなそうでしたので」
『そんな理由!? いや無理すれば食べられなくもないけど』
「そうですか。では仕方ありませんね、責任をもってわたしが口移しで」
『しなくていいから! 僕が口の周りや手をベトベトにすればいいんだよね!?』

とかこんな実のないやりとりを見せつけられるおれの気分にもなってみろ。
ごちそうさまです?
ああそう。
こういうのが好きなやつがいることはわかってるが、おれにとっちゃつまんねーことこの上ねえの。
子猫ちゃんには「恋はいつでも戦争」なんて言ったが巻き込まれる側としちゃ面倒でしかねえからな。
戦闘狂でもなけりゃ戦争に巻き込まれて喜ぶやつはいねーだろ。
もっとも、相手が戦争となると戦闘狂でも怪しい部分はあるかもしれねえが。
やろうと思えばおれの娘に茶々を入れることもできなくはないんだが、機嫌を損ねるのはごめんだからな。
今のおれは毒刀に籠められていたときとも、子猫ちゃんにエナジードレインされていたときとも違う。
おれの娘の交霊術によってなんとか繋ぎ止められているような状態だ。
何かの拍子に解除されたら雲散霧消してしまうような儚い存在だ。
さっきの戦場ヶ原ひたぎみたいに強い怨念でもありゃ留まっていられるのかもしれないけどな。
そういえば黒神めだかについてはどうだったのかねえ。
無念すら残せず一瞬だったのか、何かしらの未練が残ってたのか。
ま、それが見えていたとしておれの娘が言及するはずがないってのは明らかだし考えるだけ無駄か。
こうして残してもらえてるのも、蟹のときみたいに使い道があるかもしれないって程度だろうしな。
それで重畳。
子猫ちゃんのときと違って持ちつ持たれつじゃあない、おんぶにだっことなるとご機嫌取りはしなきゃいけねえ。
とはいっても、今のおれの娘なんてまさしく水を得た魚。
嬉しそうに生き生きとしてやがる。
さっきなんかでもさらっと口吸いしようとしてたしな。
おっと、ここはわかりやすくキスつった方がよかったか?
もしかしたらこれが初めてなんだろうな、生を実感してるというのは。
おかげでおれは何もしなくてもいい。
しなくてもいいんだが、それが続くとなると話は変わってくる。
最初に戻るが要するに暇なんだよ。
おれの性格はわかってるだろう?
基本的に饒舌なんだ、おれは。
だから付き合ってくれよ。
もっとも、聞き手、もとい読み手がいなくても垂れ流させてもらうがね。
おれの娘にとっても悪い話じゃないはずなんだが……邪魔するのはやめておくか。
色恋沙汰と刃傷沙汰は関わるもんじゃねえ。
下手に手を出して痛い目見るのがオチだからな。

おれ、四季崎記紀は刀鍛冶として知られちゃいるが、元々は占い師の家系だったのは知る人ぞ知る事実だ。
子孫以外に知ってるやつらがどれだけいるかは知らんがね。
そんなおれがどうして刀鍛冶になったかは説明したか?
知ってるやつはそれでいい。
知らないやつは……簡潔に説明してやるか。
答えは単純、その時代が戦乱の世だったからだ。
世の中を動かすには武器が手っ取り早かったから、それだけの理由だ。
もし戦乱ではなく戦争だったら、おれは兵器を開発していたのかもな。
結局、作ったのが刀であれ兵器であれ共通してることはそれらがあくまでも手段だってことだ。
おれのこの在り方を一言で表すなら――研究者、になるのかねえ。
だからどうしても好奇心旺盛になっちまうんだよな。
そして求めてしまうわけだ、研究の成果ってやつを。
ただまあ、残念なことにおれの息子の方は折られちまったからな、他ならぬおれの娘の手によって。
錆び付いて腐ってても使い物になったのは驚きだったが、長続きしそうにはなかったのは確かだったからしょうがない。
この後何かあってまだ使えるようになってりゃ儲けものだ。
思わぬ収穫として、生存力が負に特化しているはずのおれの娘がここまで元気にしているってのがあるがな。
とはいっても、こういうのは往々にして反動がやってくるもんだからな。
その時が来ないことを願うしかないってのがもどかしいところではあるが。
おれの息子を折ってくれた以上、おれの娘には責任を取ってもらわなきゃならねえ。
もちろん、こんなこと本人に言えるわけがないが。
一発で消されちまう。

ああ、そういやおれの娘が見取った二つの過負荷についても気になることがないでもないんだよな。
『大嘘憑き』と『却本作り』。
どちらも概要しか見聞きしちゃいないが、おれの娘はその本質に気づいているのかねえ。
特に『却本作り』はかなりの危うさを孕んでるんじゃないかとおれは危惧しているんだが。
あれは劣等感を大本にしている過負荷だからな。
確かにおれの娘も劣等感を持ち合わせちゃいるだろうが、それを他人に転嫁するとなると話は別だ。
今現在おれの娘がべったりくっついている球磨川禊が使えば、当然だが効果は絶大だ。
あんな最低な野郎と同一にさせられるってのはそりゃ心が折れるってものだろう。
おれだってご免被りたいね。
こうして人ならざる存在でいるから客観的でいられるが、人間のおれだったらほぼ間違いなく悪影響を受けちまう。
そう考えるとおれの息子は認識していたのが短時間とはいえよく正気でいたもんだ。
あのとき被ってた過負荷が緩衝材にでもなっていたのかねえ。
なんだかんだ言っても刀だったのと、球磨川がどんな人間か知れなかったというのも大きいとは思うがな。
反面、おれの娘が『却本作り』を使った場合。
おれの娘本人は劣等感を抱えちゃいるが、その劣等感は他の人間から見れば一種の羨望とも言える。
あの天才性をうらやましがる凡俗は少なからずいるだろう。
要するに球磨川が使ったときと同じようになるかは怪しいところだ。
さっき、おれの息子は『却本作り』が4本も刺さっていたにも関わらず、割合早く身を起こしていた。
それについておれの娘は疑問に思っちゃいなかったようだが。
気づいていたところで関係ないものではあった、というのもあったかもしれないがな。
あくまでもおれの見立てではあるが、劣等感――言い換えれば不幸せ――か?
自分が不幸せであればあるほど効果が強まるんじゃないかとおれは睨んでる。
相手に堕ちてもらいたいっつー感情が見え隠れしてるのがタチが悪いよな。
不幸が嫌なら傷の舐め合いなんかしてねーで自分で上を目指せばいいものを。
それができないから過負荷なんだろうけどな。
まあ、性能については二の次だ。
重要なのは本質だ。
弱さの質。
確かに「弱さを受け入れろ」とは言ったがそれがどんな弱さかまでは言及してねえ。
『大嘘憑き』が弱さを拒絶する弱さならば、『却本作り』は弱さを受容させる弱さだ。
そして弱さを受容させる前提として使い手自身が己の弱さを受容する必要がある。
そこまで含めて気づいてるかどうかはわからねえがな。
とはいえ、弱さに特化すると人間はここまでの領域に達するというのは興味深い。
刀ってのはどうしても武力を内包するもんだから、おれには到達できない域だからな。
薄刀だってちゃんと使えば切れ味を発揮するし、そもそも刃がない誠刀ですら投げれば武器になっちまう。
ここまで来たらおれの娘もその域まで到達して欲しいものだが……まあ、難しいだろうな。
何せこんなにお熱なんだ、護るためには弱さより強さを求めるのが当然の帰結だろうよ。

それと、『大嘘憑き』だって……ん?
声が聞こえてきたかと思えば、放送ってやつか。
ちぇっ、まだ話し足りないこともあったんだがな。
さすがに放送となるとこいつらも無反応じゃいられねえだろ。
まあ変化が生まれるなら退屈も少しは紛らわせるかねえ。


   ■   ■


当然ながらおれにはほぼ無関係な内容だったな。
あくまでもおれには、だが。
無関係つってもかつて利用させてもらった真庭鳳凰が死んだことについては、まあ、ご愁傷様ってことで。
とはいえ、こいつらにとってはそうもいかねえ。
今いるこの場所が禁止エリアに指定されちまったからな。
もっとも、首輪が外れている球磨川はおそらく何事も起きねえだろうからおれの娘だけに降りかかる問題ではあるが。
それも、さっさと動いちまえば解決することではあるし。
はてさて、第一声は何になるのやら――


『うーん、もしかして……』
「いかがされました?」
『黒神めだかって、真黒ちゃんの妹だったのかもなあって。名字が同じだし』
「妹?」
『うん、妹。そういえば妹を探してるって言ってたことがあったんだよなあ……ああ、でもそれは名瀬さんのことだっけ』
「名字が違うような気がするのですが」
『名瀬さんの本名は黒神くじらだからね。せっかくマイナス十三組に誘ったのに振られちゃってさ――あれ、どうしてだったっけ?』
「それについてはは存じ上げませんが、その黒神めだかが妹以外ということも考えられないのですか?」
『黒神家はかなり大きな家だったからありえる話だね。だとするとさっきは失礼なこと言っちゃったかもなあ』
「と言いますと」
『「見ず知らずの人が死んだくらいで」とは言ったけどそれを訂正しないとなあって。とはいえ、真黒ちゃんも死んじゃってるし』

『僕は悪くない』

『ってことで』


いくら黒神めだかの存在を抹消したからといって周辺の事情までは消却しきれないか。
そうなっちまったら自我の崩壊にも等しいからなあ。
いや、今の時点でも十分に崩壊してるようなもんなんだが。
それでこの有様となっちゃ恐れ入るわ、この空っぽぶりは。


『じゃ、テンプレ通りに放送への反応を済ませたし行こうか。八九寺ちゃんたちを待たせるのもよくないしね』
「ですが、いっきーさんがそこに留まっているという保証は」
『そうなんだよね、携帯電話持ってないのが響くなあ……でもどっちにしたって早く行かなきゃいけないのは変わらないし』
「急ぐ理由がありました?」
『七実ちゃんったらとぼけちゃってー。僕は外れてるからいいけど七実ちゃんには嵌まったままじゃん、首輪』
「あら、すっかり忘れていました、お恥ずかしい。いっそ禊さんのように外してしまえればよいのですけれど」
『できなくはないと思うけど、無闇に死ぬのはやめておいた方がいいんじゃない? 首輪をなかったことにできなかった以上、死んでも生き返れないかもしれないんだし』


今更ながら生死感とか倫理観が曖昧になるような会話だよな。
そもそもそれを口にする(といってもおれの娘には聞こえないようにだが)おれがあやふやな存在であることこの上ないんだが。
……さて。
そろそろだとは思うんだよな。


「禊さんができなかった以上、わたしも不可能でしょうね……ふむ、やっぱりできませんでした」
『首輪が外れた今でも無理となると、首輪には何の仕掛けもなくて僕自身の問題になるのかなあ。普段ならこんな回数制限も時間制限もないし』
「それは困りますね。わたしの『おーるふぃくしょん』もそうなっているかもしれない以上、いざというときにあなたを守れないようでは」
『いざというとき、って大げさだなあ』
「そんなことはありません。いつだって今だって、あなたと共にいるこの時間はわたしにとっては大切な思い出なのですから」
『そんなに? まあ悪い気はしないけど』
「ですので、邪魔をされない限りは穏便に済ませましょうということです。今のわたしは気分がいいので」
『七実ちゃん?』
「ああ、お気になさらず」


おれ、のことじゃねえな……
おそらく盗み聞きでもしてるやつがいるのかね。
おれの娘なら気付いてもおかしくはねえしな。
まあおれも下手なちょっかいはかけない方がよさそうだ。
上手なちょっかいがあるのかは知らんが。


『気にしなくていいなら気にしないけど、それでも急いだ方がいいんじゃない? まだ禁止エリア抜けてないみたいだし』
「それもそうですね。この辺りは代わり映えしませんから、どこにいるのかわかりにくいのが難点です」
『さっきまでは住宅街みたいなとこだったのに、今はたまに木が見えるだけのただの草原だもんなあ』
「敵襲がわかりやすいのは利点ではありますけれど――あら、道が」
『じゃあここが地図のあそこってことでいいのかな。このまま道なりに行けばランドセルランドに着くし、理事長にさっさとお返しもしたいしね』
「お返し?」
『同じマイナス十三組の江迎ちゃんや、真黒ちゃん、高貴ちゃん、善吉ちゃんに、それに何よりめだかちゃ――」


お、やっと来たか。
やっぱりかかってたな、時間制限。
夕方のあの殺人鬼との会話で可能性は示唆されてたからな。
曰く、「あいつに兄貴の視覚を『なかったこと』にされたときは大変だった」と。
過去形で言っていたから、元に戻ったんじゃないかと推測はしていた。
おれの娘は考えていなかったのかねえ――って。


『……あれ?』
「いかがなされましたか?」
『いや、なんかまた頭がぼーっとしちゃって。さっきもあったよなあって』


時間差なしかよ。
憂う暇も与えないとは、わが娘ながらえげつないねえ。
それともまとわりついた黒神めだかの残りが、そんなに憎いのか。


「体調を崩されているのでは?」
『それはないと思うけど、何か忘れてるような気がするんだよなあ……なんだっけ――むぐっ』


しかもキス。
それまでこういうのと無縁だったとは思えない即断ぶりだな。
ひゅーひゅー。


「――――ふぅ。残念、もしかしたら手間を省けるかと思ったのですけれど、そううまくはいきませんね」
『…………えっと、何の話?』
「強いて言うなら、個人的なことです。忘れてください」
『人間、忘れろって言われたことをそう簡単に忘れられないものだと思うけどなあ……まあいいけど』


だが、少々挙動が不自然だったのが気に掛かるな……
ずっと目を合わせたままでいたが、おれの知らないところで何か見取っていたのかねえ。
まあ、罪を知らない瞳に、どんな罪を冒したか忘れてしまった黒い瞳相手にできるとは思えねえけど。


「では早く参りましょう、八九寺さんが少々気がかりになってきたところですし」
『……八九寺ちゃんが? 何で?』
「追々わかるとは思います。さあ」


その上で、なーんか企んでいそうなんだよなあ。
今のおれの娘なら、そうだな――「おそらく彼女の記憶も戻っているはず。もしもまた球磨川の手を煩わせるようなら斬っておくのも手だ」とか考えてもおかしくねえ。
まあそうなったところでおれには痛くもかゆくもないしどうでもいいが。


『七実ちゃん、そっちはネットカフェに続く道だよ? ああでも、玖渚さんだっけ、彼女と先に合流するのならそれでもいいけど』
「あら、うっかりしてました。わたしとしてはどちらでも構いませんので禊さんに一任しますが」
『そう。それじゃあ――』


さて、これでおれは御役御免といったところかな。
そもそもこんなことやる柄じゃないってのにどうして駆り出されたんだか。
消去法か。
そりゃそうだよなあ。
誰がこんな過負荷だらけの内面描写をしたがるっていうのか。
年甲斐もなく惚気ているそんな過負荷なおれの娘だが、あの戦場ヶ原ひたぎと同じようになりかけていることはわかっているのかねえ。
おれの娘がしてるのは横恋慕みたいなもんだがそれでも恋は恋。
今のおれの娘が易々と殺させるような真似も殺されるような真似もしないとは思うが、万が一ってことがある。
存分にはしゃいでもらっていいんだが、くれぐれもまた泣き濡れるなんて無様な格好はしないでくれよな。
もっとも、よこしまな恋の果てに行きつくべき場所なんて知れたものだが。

それはそれとして。
どうせ今も覗いてんだろ?
ならちょうどいい。
交代だ、交代。


   ■   ■


おや。
本体の四季崎くんもそっちの四季崎くんも僕のことは知らないはずだったんだけどなあ。
確かにそこには端末(ぼく)はいないから直接覗いてはいたけれど。
さては、さっきスキルを使ったときに気取られたかな?
別に構わないけど。
今の僕は神視点にちょっと恣意的な解釈を差し込むだけの傍観者。
ゆえに、名誉欲など存在するはずもなく登場人物表に加える必要は一切なし。
では、舞台に上がることすらできなかった端役と引退を余儀なくされた主役になれたかもしれなかった彼らについて、語るとするか。
ただし、脇役未満の出演者に割く尺がたっぷりあるとは思わないでくれよ。

えっと、まずは存在を仄めかされた端役、つまり真庭蝙蝠くんだね。
彼については、放送前にどうしていたかも補足しておいた方がいいのかな。
といっても、お亡くなりになってしまった真庭鳳凰くんと違ってこれといったことがあったわけじゃないからねえ。
逃げ出して。
逃げ延びて。
逃げ切って。
そして考えるのは身の振り方だ。
ネットカフェに戻ったところで零崎人識くんと遭遇する可能性は十分にあったし、供犠創貴くんとの同盟より保身を取ったわけだ。
奇しくもほぼ同じ時刻に供犠くんも言っていたが、この同盟はあくまでも自身を優先するという前提で成り立っていたからね。
それに、いくら忍法で傷を隠せても失った体力はどうしようもない。
結論として、放送まで木陰で身を休めることにした。
その選択が彼にとってどうだったのかと言えば、正解に近いものではあっただろう。
放送によってもたらされた供犠くんと鳳凰くんの死。
彼にとって大変不服ではあったけれど、それでも後悔はしなかった。
供犠くんを殺したのが誰かはわからなくとも、人識くんである可能性が高いのは当然想像がついたからね。
頃合いを計ってのこのこと戻ったら待ち構えていた人識くんにむざむざ殺されました、じゃ笑い話にもならない。
玖渚ちゃんやりすかちゃんが呼ばれていないことに疑問を抱きはしたけれど、彼女らについて断定できる要素を持っていたわけじゃないし、些細なことだと切り捨てた。
真庭忍軍の生き残りが自分一人になってしまったことについては、思うところがあったみたいだけど、その気持ちは彼だけのものだ。
ここで言及するのは彼のためにも遠慮しておこう。

いよいよ今後のことについて考えるわけなんだけど、早急に決めなきゃいけないのがどこへ動くかだ。
今いるその場所が禁止エリアに指定されてしまったからね。
東西南北どこへ向かうか考えて、まず南はエリアの端まで遠すぎるので選択肢から消去。
北はネットカフェがあるので、ここも無し。
残るは東西どちらかになるんだけれど、そこで気配を察知した。
そう、球磨川くんと七実ちゃんだ。
学生服がどういうものか知らなかった彼だけれど、都城くんと遭った後に供犠くんから知識は得ている。
もっとも、学生服を知らなかったとしても、球磨川くんの人畜無害っぽさと七実ちゃんのか弱そうな雰囲気でわかっただろうけどね。
手裏剣砲があるならいざ知らず、数で不利な上に都城くんからの情報も手伝って様子見に徹することにする。
障害物がない分、七実ちゃんのか細い声でもなんとか聞き取れたしね。
そうして彼らの何気ない会話から情報を拾おうとしたんだけれど、中々に衝撃的ではあったようだ。
というかまあ、普通に考えればそうだよなあ。
首輪が外れていたり、死んだら生き返ればいいなんてのたまったり。
でも、それで少なからず動揺してしまったのはまずかった。
結果、七実ちゃんに『警告』されちゃったからね。
七実ちゃんなら最初から気付いてはいそうだけど、彼女の気分がよかったのは幸いだった。
虫の居所が悪かったらあっという間に毟られて、それでおしまいになってただろうし。
ともかくとして、これで彼の向かう方向は決定された。
好き好まなくたって、球磨川くん七実ちゃんペアと同じ方へ向かうなんて蛮勇ですらないからね。
二人が分かれ道で考えている隙に背を向けて逃走する。
そしてその先にいたのが――七花くん、というわけだ。

七花くんのこれまでについて語るなら一文どころか一単語で完結する。
寝てた。
それだけ。
まったく、人識くんや蝙蝠くんは一睡もしてないというのに寝てばっかりだなあ、君は。
八九寺ちゃんの方がまだ起きてる時間が長いんじゃないとさえ思えてくるよ。
それはそれは無防備に寝ていた七花くんだけれど、蝙蝠くんから見れば格好の獲物であるのは間違いない。
しかし、千切れた右手が腐臭を放って骨が見えていたり胸に螺子が四本も刺さっているのを差し引いても、情報は得ておきたいところではある。
なにせ、供犠くんも鳳凰くんもいないとなると、話の通じそうな手合いは残っていないに等しい。
掲示板について詳しくはわからなくとも、不利な情報が撒き散らされているのは理解できたし。
そして蝙蝠くんは考える。
どうやって七花くんを『利用』するかと。
熟慮の末、一旦デフォルトの体に戻した上で頭部のみを変態させる。
軋識くんの体じゃ大柄すぎると判断したんだろう。
かといって首から下を小柄な体格にしたところで、骨肉小細工を今する必要はどこにもない。
全身変態するのは脆弱すぎて、起き抜けに攻撃を喰らってしまうことを考えるとやや危ない。
そもそも骨肉細工だって、全身を同時に変えていたわけじゃない。
大元が自分の体なら、一部を変態したところでパフォーマンスが落ちることはなく。
服はそのままだったけれど、ないものはないと諦める。
顔と声さえわかれば十分だろうと思ったんだろうね。
本来蝙蝠くんが知る七花くん相手では、失敗に終わったんだろうけれど運が良かった。
そりゃあ、まさか人間の男女の区別すらつかないとは思わないもんなあ。
脳内でシミュレーションを終えると、最も攻撃をしにくい場所、すなわち頭上から少しだけ離れたところへ。
そこで息を吸い、


「なに寝ておるのだ。起きぬか、七花!」


そう、とがめちゃんの声で言い放った。
いくら寝ていたといっても、七実ちゃんの病魔の激痛に苛まれながらじゃその眠りは深くない。
いとも簡単に七花くんは目を覚ます。
まさかとは思いつつも声の主を探し、正体を確かめた七花くんは、


「とがめ……?」


そんなありきたりすぎる反応を示しましたとさ。



球磨川くんと七実ちゃんが主役を務めた舞台裏での一幕はこれにておしまい。
ここから先は彼らが主役となる以上、四季崎くんよろしく傍観者としての僕は御役御免。
彼らの言葉か、それこそ主観が混じらない第三者視点で語るべき場面だ。
それでは続きを乞うご期待、ってね。



【二日目/深夜/E-5】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『少し頭がぼーっとするけど、健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックス、クロスボウ(5/6)@戯言シリーズと予備の矢18本があるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『0番はランドセルランドとネットカフェ、どっちに行こうかな』
『1番はやっぱメンバー集めだよね』
『2番は七実ちゃんは知らないことがいっぱいあるみたいだし、僕がサポートしてあげないとね』
『3番は……何か忘れてるような気がするけど、何だっけ?』
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています
 ※黒神めだかに関する記憶を失っています。どの程度の範囲で記憶を失ったかは後続にお任せします



【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、ランダム支給品(0~2)、球磨川の首輪、否定姫の鉄扇@刀語、
   『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:球磨川禊の刀として生きる
 0:禊さんと一緒に行く
 1:禊さんはわたしが必ず守る
 2:邪魔をしないのならば、今は草むしりはやめておきましょう
 3:繰想術が使えないかと思ったのですけれど、残念
 4:八九寺さんの記憶が戻っていて、鬱陶しい態度を取るようであれば……
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします


【二日目/深夜/D-5】
【鑢七花@刀語】
[状態]睡眠、右手欠損、『却本作り』による封印×4(球磨川×2・七実×2)、病魔による激痛、『感染』?
[装備]袴@刀語
[道具]支給品一式
[思考]
基本:『おれは悪くない』
 0:『何もかも面倒だ』ったのに、とがめ……?
 1:『殺し合いとか、もーどうでもいい。勝手にやってろ』
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※寝てる間に右手がかなり腐りました。今更くっつけても治らないでしょう


【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]身体的疲労(中)、頭部のみとがめに変態中
[装備]軋識の服全て(切り目多数)
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
 1:虚刀流を利用する
 2:強者がいれば観察しておく
 3:行橋未造は……
 4:鳳凰さまが、なあ
[備考]
 ※創貴と同盟を組んでいます
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識供犠創貴、阿久根高貴、
  都城王土、零崎軋識、零崎人識、水倉りすか宗像形(144話以降)、元の姿です
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実の危険性を認識しました。
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません
 ※体の一部だけ別の人間の物に作り替える『忍法・骨肉小細工』を習得しました


第四回放送 時系列順 解体サーキュレーション
第四回放送 投下順 解体サーキュレーション
孤(虚) 鑢七花 狂信症(恐心傷)
球磨川禊の非望録 鑢七実 着包み/気狂い
背信者(廃心者) 真庭蝙蝠 狂信症(恐心傷)
球磨川禊の非望録 球磨川禊 着包み/気狂い

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2017年02月08日 18:12