いい感じのを見たら脱出させてやりたくなる男 ◆CAP.3FrrY.
元気に走り去ってゆく薄紫色の髪の女の子の背を見送ると、
中学生とは思えないふけ顔の背景キャラはその場にどかっと腰を下ろし、懐から煙草を取り出すと紫煙を燻らせた。
つい今しがた核爆弾の閃光と振動が世界を振るわせたばかりだが、プレイヤーのいなくなった公園の中は至ってのどかなものだ。
背景キャラのみんなは遊具で遊んだり、ベンチに座っておしゃべりしたり、決められたルートを歩き続けていたりする。
己の役目を果たした中学生とは思えないふけ顔のこの男もまた、そのルーチンワークに戻ろうとしていた。
「川田くん」
その彼に声をかける存在がいた。彼と同じクラスの女子で、一時はバトルロワイアルの中を共に駆けた仲間だ。
「典子さん」
そう呼ばれた少女――中川典子はそっと中学生とは思えないふけ顔の男――川田章吾の隣に座る。
「七原の傍にいなくていいのか?」
「ああ、秋也くんは落とし穴に落ちて死んじゃった」
「そ、そうか……それは残念なことをしたな」
「ううん、いいの」
川田は典子のそっけない答えに眉根を寄せる。
記憶が確かならば……いや、そんな断りを入れる必要もない。彼女と七原はとてもお似合いのカップルでいい雰囲気のはずだったのだ。
「そんなことよりも」
「ん?」
「どうして川田くんはあの女の子に脱出用の装置を渡しちゃったの?」
「あぁ、それか……」
典子の質問に川田は頭を掻く。典子がそっけないのはひょっとすると自分が脱出キットを手放してしまったからかもしれないと考えた。
本来ならば、これは目の前にいる典子、そして七原のために用意されたものだったのだから。
「……思ったんだ」
「え?」
「あいつを見てるとよ……いいロリだなって」
「川田くん……」
川田は顔を伏せる。
あまりにも恥ずかしい理由だった。強面で誰からも只者(中学生)には見えないと言われる自分が、本当は幼女フェチのペド野郎だなんて。
そんな理由で仲間を裏切り貴重な脱出キットを手放すだなんて、温厚な典子さんも助走をつけてS&Wで川田をズガンするレベルだろう。
「川田くんのその気持ち……わかる気がする」
「えっ?」
しかし彼女の反応は意外にもその逆だった。怒るよりも、むしろ温かな笑みを浮かべ、まるで川田の行いを賞賛しているようでもあった。
そして彼女は懐から一冊のスケッチブックを取り出すと川田に差し出す。それを開いて川田はあっと声をあげた。
「これは……、さっきのロリじゃねぇか」
「そう。川田くんに会えたのは彼女を追ってたからなの」
そこに描かれていたのはさっきまでここにいたあの薄紫の髪をした少女の姿だった。それが何枚もスケッチされ、色が塗られている。
「けど、この絵は未完成なんじゃないか……? “服”が描かれていない。もっとも、そのほうが俺にとっては魅力的だがよ」
「彼女の後ろを走りながら描いてたしね。ちょっと服までは手が回らなかったんだ」
「でもまぁ、裸のほうがいいっていうか、芸術っぽくていいんじゃねぇか? むしろ、裸ばっかりのほうが」
「川田くん!」
典子の声に川田は自分が興奮しすぎて失言をしたことに気づいた。本音がぽろっとむき出しだ。
これでは典子に軽蔑される。そう思った。その上でクラス中にこの話を広められ、川田ロリコン説が定着しいじめられるとまで思った。
しかし――
「わかってるじゃない!」
「えっ!」
――その杞憂はまたしても覆された。
典子はそんな川田の発言を嫌悪するどころか、むしろ仲間を見つけたとばかりに目を爛々と輝かせている。
彼女は川田の手を取り言う。
「私、絵本作家になりたって言ったよね?」
「ああ、それが夢なんだよな……、アメリカに渡ったら七原はロックミュージシャンになって、典子さんは絵本作家に……」
「うん、だから川田くんがアメリカに送ってくれるって言ってくれた時は渡りに船だと思ったの」
「そうなのか……? 絵本作家は別に大東亜共和国の中でもできないことじゃないぞ?」
典子は目を瞑り首を振る。
「駄目なの……私の絵本は、私の描きたい絵本は、『幼女ポルノ絵本』なんだから」
「えっ」
川田は絶句した。それは普通にアメリカで描いても怒られるっていうか、むしろ怒られる。
「じゃあ、私行くね」
「どこに行くんだ……?」
それは愚問だったかもしれない。
「もちろん、あの褐色ロリの後を追うのよ。川田くんもどうかな?」
「い、いや……俺はいいぜ。俺はここにいる」
「そっか……」
「すまないな。最後まで付き合ってられなくてよ」
「いいよ。川田くんには一杯感謝してるから。そのスケッチブックは記念にあげるね。私まだまだ持ってるし」
「ああ、ありがとう。大事に使わせてもらう」
そして、典子は川田の傍を離れ、薄紫の髪の女の子の去ったほうへと走っていった。
川田はそれを見送り、ゆっくりと時間をかけて煙草を吸うとポケットから吸殻入れを出してその中にしまい、草原に寝転がった。
「ほんとはついていきたかったんだが、よ…………」
川田の声が震え出す。
「お、俺はここまで、みたいだぜ…………」
実はさきほどスケッチブックに描かれたロリの裸を見た衝撃で、桐山に撃たれた傷が開いてしまっていたのだった。
「やっぱ、褐色とロリの組み合わせは、最高だよな…………」
川田の手からスケッチブックが落ちる。そしてそれもう誰にも拾われることはなかった。
【中学生とは思えないふけ顔の背景キャラ@バトルロワイアル 死亡】
■
一方、幼女を追って立ち去った中川典子とは言うと世界崩壊のドサクサにまぎれてウェブ上に脱出し念願の渡米を果たしていた。
「ここがアメリカ! 川田くんの言っていた自由の国ね!」
【中川典子@バトルロワイアル 渡米】
最終更新:2013年01月28日 15:29