ミスから始まる悲しいおなはし ◆oub/vvrBRg
走る、走る、走る。
ロボットだというのに息をあげ、まるで人間のように走る。
行き先が決まっているわけではない、むしろ決めてすらいない。
ただ、頭の中にあるディオの事が気がかりで。
どこにいるかも分からない、彼のことが心配で心配で仕方がなかった。
だから、レダはひたすらに駆けていく。
人間のようだと笑われてしまいそうなほど、必死になって駆け抜けていく。
どれほど走っただろうか。
突然、頭の中に電流のようなモノが走る。
何の異常か、はたまた攻撃なのか。
真実は、そのどちらでもない。
「ディ……オ……?」
直感、とでも言うべきそれが、彼女に一つのことを伝える。
今の今まで必死になって捜し求めていた一人の存在は、もうこの世にはいないと言うことを。
なぜそんな直感を受け取ったのか、なぜそれをそのまま信じようとしたのか。
彼女がそれを考えようとした時。
ぐしゃり、と何かが潰れる音が聞こえた。
「"もう遅いわ、わたしが撃てないとでも思ったの?"」
それは、死の宣告。
命辛々リリスのコンボから抜け出した琴弾は、休む間もなく一人の男におそわれた。
自分の体力はあとわずか、遊んでいる暇など無い。
もはや何度目か分からないその言葉を呟き、戦いを終わらせようとする。
だが、それを見つめている男は不敵に笑っている。
簡単な話だ、琴弾が銃を向けているのは彼の"分身"なのだから。
分身が殺されようと、彼にとっては痛くも痒くもない。
むしろわざと殺されることで、安心しきった彼女を労無く殺していく。
思わず笑いがこみ上げてきそうな完璧な作戦だった。
そして、琴引の手に持つ銃から弾が放たれた。
銃弾が分身を貫き、男は勝利を確信して笑う。
次の瞬間、パスッと軽い音が一つ鳴った。
勝利を確信していた男が、銃弾に倒れたのだ。
琴弾の技は広範囲投げ属性ロック技だ。
投げ属性成立後、ようやく専用演出にはいる。
だが、男の分身は飛び道具扱い。投げ属性も通らないしロックも起こらないはずだ。
では、いかにしてロックを起こし専用演出に入ったか?
それは至って簡単な話である。
勝ちを確信していた男は余裕を表しすぎて、琴弾に必要以上に近づいていた。
その結果、分身を通り越して本体に直接ロックをかけ、一撃技を決め込む事に成功したのだ。
男を殺したことを認識すると同時に、琴弾は男の遺体へと駆け寄っていく。
お決まりの専用演出、さめざめと泣くまでがこの技なのだ。
だが、彼女が再び涙を流すことはなかった。
その代わりに聞こえたのは、ぐしゃりと何かが潰れる音だ。
「う、うーん……何よ全く……」
5クトをモロに食らってしまい、軽い気絶に陥っていたフレデリカは、その小さな体をゆっくりと起こす。
人が親切心で話しかけてやったというのに、男の反応はありえないものだった。
思い出すだけでもふつふつと怒りがこみ上げてくる。
「あーもう! あったま来る!! 次会ったら絶対にぶっとばす!!」
彼女は力強く足踏みをし、鼻を荒々しく鳴らしながら宣言する。
助けてやろうと思った相手に襲われたのだから、無理もない話か。
だが怒りに狂うあまり、彼女はとある重要なことに気がついていなかった。
「……あれ?」
そう、体が軽いのである。
本来感じているはずの何かが肌に触れている感触が、一切無いのだ。
そよりと冷たい風が吹いたと同時に、彼女は自分の体を見つめる。
お世辞にも発達しきっていない小さな膨らみがまず目に入る。
視線を胸元から足下へとどんどん移していけば移していくほど、ぷにぷにとした子供特有の体が目に映る。
問題は、自分が見てきた自分の体が、一糸纏わぬ正真正銘の全裸だったことである。
あの男の放った5クトを受け止めたスリングショットは、元の形を保っていられるほど丈夫ではなかったのだ。
瞬時に頭の中で出来事を組み立て、瞬時に理解していく。
「キャアアアアアアアア!!!」
そして、彼女は叫んだ。
彼女は知らないが、この時会場も叫んだ。
ロケテ1の大盛り上がり!! といっても過言ではないかもしれない。
だが、この盛り上がりは氷水を掛けられたかのようにすぐに収まることになる。
全裸であることを認識したフレデリカが叫んだ直後。
ぐしゃりと何かが潰れる音と共に、見るも無惨な肉塊になっていたからだ。
この光景を見て数人が卒倒し、数人が血の涙でアンケ用紙に抗議の文章を書いたという。
そんな中、フレデリカの惨状に興奮するものもいたとかいないとか。
「……しかし、手下を使役して事を待つというのも、退屈だな」
二人の少女を意中のままに操ることに成功したゾウナは、そのままその場でたそがれていた。
片方はともかく一人は有能な少女だ、この地に招かれた者達を葬り去ってくれることだろう。
自分が手を下すのは最後に残った数人だけで良い、そうすればこの殺し合いに勝つことができる。
組みたった完璧な戦略に、彼女は笑い声を上げる。
「キシンリュウオウギ」
ふと目の前を見ると、先ほどまではいなかったはずの金髪ツンツン頭が、妙なセリフと共にこちらを見ていた。
~開発時の出来事~
「あのさー、こんだけマップ広いとテストプレイがタルいよなー」
「わかるわー」
「めっちゃ早いキャラでも作る?」
「いいねぇ~!」
「だったら、キャラ貸してくれなかったコンマイdisの意味も含めてマクシームにしようぜ!」
「いいねぇ~!」
「マクシームのバグ完全再現で遠まわしに向こうのデバッグ能力の低さをdisろうぜ!」
「いいねぇ~!」
「他のパラメータはどうする?」
「適当で良いだろ」
「あいよー、出来たよー」
とまあ、バグで生まれたクラウドが中身までクラウドである事も無く。
参照した中身はあろうことかテスト用のキャラクター「マクシーム・キシン」であった。
スタッフのお遊びであの有名なTASのバグやらなんやらを全搭載した、超移動の可能なイカレキャラである。
道中の剣の素振りに巻き込まれたレダ、琴弾、フレデリカの存在を認識することも無く、ゾウナの元へと辿り着いたのだ。
バグがどういう判断をしたのかわからないが、出会い頭にゾウナに「キシン流奥義」を放って行った。
分裂するクラウドが画面上をせわしなく飛び回る。
蹴りが入るごとにゾウナが死に、ゾウナが分裂する。
その分裂したゾウナが蹴られて死に、さらに分裂する。
そして奥義が終わり、満足の立ちションポーズから最後に一発ゾウナを殴ってどこかに消えて行ってしまった。
「……ふん、まあ良い。このゾウナが生き残ることには変わらん」
突然の乱入者にうろたえることも無く、ゾウナはゆっくりとその場に腰を下ろす。
身体が曲がりきった直後、自らの心臓が鷲掴みにされたかのような感覚を憶える。
「何ィ!? 誰だ、時の鍵を、回すのは!!」
ゾウナは抗うことが出来ない、死なないと思っていた自分の死に、抗うことが出来ない。
「おのれ、おのれェェェ!! 只では死なんぞォォォ!!」
だが、只で死に行く存在ではない。
魔王の全ての魔力が形となり、ある一点へと伸びていった。
それと同時に、ゾウナはまるで最初から何も無かったかのように消えた。
私は、雨宮桜子だ。
私は、雨宮桜子だ。
私は、雨宮桜子だ。
確認するように三回、口の中で反芻する。
自分で自分だと分かっているのに、この身体がまるで自分の物ではないように思える。
かけているアンダーリムのメガネは自分のものだ。
短いスカートが刺激的な学生服も自分のものだ。
引き締まったスレンダーな身体も、自分のものだ。
そして、鮮やかな水色の髪の毛も、疑うことなく自分のものだ。
だが、一つだけ違うことがある。
肌の色だけが、自分の見慣れない"褐色"だったのだ。
これは自分の物ではない。
これは自分の物ではない。
これは自分の物ではない。
では、なんだというのか? 他人のものだとでも言うのか?
馬鹿馬鹿しい、と言い切ってしまえれば楽なのだが。
ひょっとして自分は、雨宮桜子ではなく――――
思考は、超移動で現れたクラウドによって遮断される。
「なんだよ、あれ」
額に脂汗を浮かべ、口からは驚きの声を漏らし、巴は現れた乱入者を見る。
その傍には、一瞬の内に肉塊へと変わり果てた少女だったものがある。
音を置き去りにしたかのような現れ方をした"それ"は、まな板の上の鯉のように飛び跳ねながら自分達に向かってくる。
このままだと、殺される。
直感的にそう感じた巴はすぐさま、黄に向かって叫ぶ。
「オッサン! 俺がアイツを引きつける!」
「おい! 待て!」
待てといわれて待つ奴がいるわけもなく、巴は乱入者に向かって走って行ってしまった。
全く身勝手なことだと思いながら、このまま立っていれば自分も殺されてしまう。
先ほど出したばっかりの武器をイメージし、再び強く手に握る。
それは「神殺し」の異名を持つ、赤い斧だった。
「クソッ、早すぎだろっ!」
スプリンターであった巴の動きを優に上回る動きで、乱入者は彼を翻弄していく。
どうにかして隙を生み出さなくてはいけないのだが、それをやる余裕すらもない。
だが、彼は笑っていた。
死ぬ直前に味わったそれに似ている、絶望的な状況を前にして。
大胆不敵に笑っていた。
「ムリに無理を重ねるしか、無いだろッ!」
取り出したのは戦車用のロケットブースターだ。
約1tのそれにしがみ付き、巴はロケット燃料をぶち込んでいく。
乱入者の高速の剣が、彼の命を奪わんと迫ってくる。
そして、首を刈り取ろうとしたその時。
巴は、点火スイッチを押した。
乱入者に引けずとも劣らない超速を叩き出したブースターと共に、弾丸になった巴が乱入者の下半身をもぎ取っていく。
だが、乱入者クラウドはうろたえない。
なぜなら彼はバグの産物だから、存在がバグだから。
認識も次の一手も、全てはバグ次第なのだ。
さあ、次はどう動くべきか。
バグがバグを呼びバグがバグを呼びバグがバグを呼びバグがバグを呼びバグがバグを呼び。
「オラアアアァッ!!」
上半身だけとなった男に、黄はチェーンソーを振り下ろしていく。
バグの産物の超常怪力を持つ存在に対し、黄の力は優に下回っている。
よって、チェーンソーの公式が成立し、クラウドがバラバラになっていく。
バグがバラバラになり、辺りの地面に飛び散っていく。
そして、クラウドがいた場所にぽつりと一つの鍵穴が生まれた。
隣には、意味ありげに置かれた鍵。
そのまま立ち去っても良かったのだが、ほんの少しだけ生まれた興味に従い、黄はその鍵穴に鍵を差し込んだ。
「ぬぉっ!?」
勢い良く回そうとした瞬間に、襲い掛かったのは強烈な"何か"だ。
全身が激痛を訴え、思うように動かない。
これは、ヤバい。
頭が直感でそう言っている。
だが、これを野放しにしておけば危険にさらされる人間も増える。
だから、激痛を訴える身体に鞭を打つ。
「ぬおおおおおおおおおっ!!」
腕が捻りあがり、骨が軋み、肉が裂けながらも、黄はその鍵を最後まで回した。
それと同時に、ドサリと力なく倒れこむ。
彼は知らない、この行動が世にも恐ろしい魔王を封印していたことを。
魔王は知らない、戦乙女でもない只の一般人に封印されていたことを。
これは、バグが生んだ一つの悲しい物語。
【レダ 死亡】
【風魔小太郎 死亡】
【琴弾加代子 死亡】
【天樹院フレデリカ 死亡】
【雨宮桜子 死亡】
【臙条巴 死亡】
【バグデータ:クラウド(枸雅詩緒) 消滅】
【ゾウナ 死亡】
【黄 死亡】
最終更新:2013年01月24日 04:25