※以前某所に投下したゆっくり姉妹のリメイクになります。
「うー♪、うー♪」 
「あはは、こっちだよ。おいで。一緒に遊ぼう」 
これは何の冗談なのだろうかとレミリア・スカーレットは思った。紅魔館の中での出来事である。 
目の前に自分とよく似た帽子と羽をつけた饅頭のような物体が妹のフランドール・スカーレットとじゃれあっている。 
うー、うーと鳴きながら屈託のない笑顔でフランと笑いあい、どのような原理かあの小さな羽で空を飛び、妹と追いかけあっている。 
「咲夜、あの不快な物体は何?」 
「私にも何がなんだか・・・」 
と、従者に対して聞いてみても彼女も何もわからないようでただオロオロとうろたえるばかりであった。 
彼女がこのようにうろたえることは滅多にない。しかし化け物ぞろいの幻想郷の中でも紅い悪魔と恐れられたレミリアと 
似た饅頭のような物体が、幻想郷最狂と恐れられる悪魔の妹フランドール・スカーレットと並んでいる光景は 
彼女であっても目に余る光景だった。咲夜は 
「パチュリー様は何かご存知ですか?」 
と、紅魔館の頭脳、パチュリー・ノーレッジに対して質問を振ってみると、すらすらと答えた。魔術を研究しているだけあり、 
様々な事態を知っているのだろう。 
「あの物体の原理は私が作った泥人形と酷似しているわね。とりあえず幻想郷で問題を起こしそうで、 
ああいうものを作れる技術と頭脳を持つ人物を片っ端からあたってみなさい。」 
と、何か思い当たる節があるようだったが面倒ごとは御免だとすぐに図書館に引きこもってしまった。 
自らのプライドと居場所を破壊された気分となったレミリアはこの異変の犯人探しをした。頭脳と技術をもち、 
あのような研究に対して好奇心を持っている人物。幻想郷では数人しかいない。そして数件当たった後、永遠亭に殴り込みをしたところ、 
黒幕は八意永琳であったと知ることになった。レミリアは霊夢と魔理沙に似た大量の饅頭たちに出迎えられることになった。 
「「「ゆっくりしていってね!!」」」 
「誰がするかぁ!!」 
レミリアは怒髪天の状態であった。 
「まぁ、ゆっくりしていきなさいよ。詳しく話すから。」 
永琳が言うには、パチュリーが以前図書館を幻想郷の住人の髪と泥を触媒にした、 
髪の持ち主とよく似た泥人形を使って防衛したという話(黄昏フロンティアより発売中のぱちゅコン参照)を聞いて、 
面白そうだと思って制作に取り掛かったところ、あのようなものができてしまったらしい。 
今では幻想郷に溢れかえっているようである。通称は【ゆっくり】。ゆっくりしていってねという鳴き声を発することからつけられた。 
ゆっくりは葉緑体もないのに光合成ができる。少女達が当たり前のようにそれを飛ぶ幻想郷では常識はすぐに覆される。 
そのため、特に何を食べるでもなく日向でゆっくりしていけば生きていける事が由来であると永琳は言った。 
「やっぱり原材料に泥じゃなくて餡子やひき肉を使ったのがまずかったのかしらねぇ。泥でよごれるのが嫌だったし、 
餡子ならおなかがすいたら食べれるからいいかなって思ったんだけど。それよりどう?永遠亭名物になった
ゆっくり饅頭」 
目の前に皿に乗ったゆっくりまりさが挑戦的な顔をしてレミリアに語りかけてくる。 
「おいしくたべてね!!!」 
「誰が食べるかぁ!!気色悪いわ!」 
頭痛を抑えながらレミリアは永琳に食って掛かる。 
「あの饅頭どもを一匹残らず始末しなさいよ。これから饅頭大食い大会でもしなさい。白玉楼の大食い亡霊でも呼んでさ。 
でないとあんたが不死であることを後悔するような地獄を見せてやってもかまわないのよ」 
「別にいいじゃない。特に害があるわけでもないし。それによく見たらかわいいわよ。おいしいし。ゆっくり愛でてあげたら。」 
ゆっくり達はおいしいという言葉に反応してふてぶてしい顔をしていた。食べられることに恐怖を感じないのであろうか。 
目の前で小さいれいむ型のゆっくりが永琳に食べられているが、平気そうな顔をしていた。 
「おいしいわよ。ゆっくり。ありがとう。」 
「ゆっくりよかったね。れいむはうれしいよ!!」 
それどころか永琳がおいしいわよと食べられているゆっくりに話しかけるととても満足そうな顔をしていた。 
人工物だけあって恐怖を感じないようにできているのだろうか。 
「馬鹿も休み休み言いなさいよ。あんなものがうろついていたら私の評判にも関わるのよ。」 
レミリアはそう言っていたが、内心では自らのカリスマ性の低下よりも、フランと何の屈託もなくじゃれあう姿を見て、 
嫉妬を覚えたことのほうが心の大部分を占めていた。 
ありとあらゆるものを破壊する程度の能力。これがフランドール・スカーレットが持つ能力であった。彼女は精神的に幼く、 
それに対して能力は凶悪なものであった。そのためにレミリアは彼女の危険性を恐れ、 
そしてそれ以上にフランドールを世話する紅魔館の住人を壊し、 
彼女が一人ぼっちになることを恐れて数百年にわたって地下に幽閉してきた。たった一人の肉親である妹。 
レミリアは妹を守ろうとするあまりその世界を閉ざしてしまった。この数年間で様々なことがあってフランドールは外の住人を知り、 
能力の制御も徐々に可能となったので、地下室から出るようにもなった。 
しかしレミリア自身はこれまでの負い目もあってかまだ妹と屈託なく接することはできなかった。 
「とにかく今更遅いし、大量生産しちゃったけど、さすがに増えすぎちゃったからこれ以上作ることはないわよ。 
これも縁があったと思って寿命がくるまでゆっくり世話をしてあげなさい。 
博霊神社の巫女は自分をモデルにしたゆっくりを可愛がってあげているそうよ。 
小動物の世話をするのってお宅のフランドールちゃんの情操教育にもいいと思うし。」 
と、無責任なことを言って永遠亭を追い出された。レミリアは頭を抱えながら紅魔館へと帰ることにした。 
あの薬師には後で報復を行うとして、当面の問題としてあの【ゆっくり】と呼ばれた物体をどうするかが問題であった。 
あのような物体に嫉妬心を覚えている自らに自嘲しながら、これからどうするか途方にくれていたところ、 
永遠亭の方より何かを抱えて向かってくる者がいた。月の兎である。何か嫌な予感がする。彼女はレミリアの前で止まると、 
抱えていた物体をもってこう言った。 
「すいません。師匠がついでならこの子も連れていって欲しいって「ゆっくりしね!!」」 
そこにいたのは、フランドールに似た帽子と羽をもったあの饅頭だった。 
「、う゛ー、こあ゛い、こあ゛い、ざぐや~~!」 
「うー、ゆっくりしね!ゆっくりしね!!」 
ゆっくりフランにゆっくりれみりゃが追いかけられ、苛められていた。 
あれが本当に自分達姉妹をモデルにしてできたものなのだろうか。あの力関係は一体何なのだろう。 
ゆっくりれみりゃは泣きながら逃げていた。ゆっくりは食べられたり料理されるのは平気でも、 
誰かに苛められるのはいやであるらしい。ゆっくりフランはかなり攻撃的だった。同属に対する縄張り争いであろうか。 
それにしてもゆっくりれみりゃの弱さにレミリアは見ていて悲しくなった。 
「ほら、苛めちゃだめじゃない。仲良くしないと遊んであげないよ。」 
フランドールが仲裁に入る。すると不思議なことにゆっくりフランはすぐにゆっくりれみりゃを追い掛け回すのをやめた。 
自分のモデルだけあってか母親のようなものなのであろうか。フランドールは二匹にかけよると、両手に持って抱きしめていた。 
「姉妹なんだから仲良くしなきゃいけないんだよ。ほら、仲直り。」 
「う゛―、ゆっくり・・・」 
「うー、なかなおり♪ゆっくりなかなおり♪」 
ゆっくりフランはしぶしぶゆっくりれみりゃのほほに自らのほほを当てて、仲直りの証のようなものを立てた。 
ゆっくりれみりゃは先ほどまでの事をもう忘れたのか、無邪気に笑っていた。 
「それでお嬢様は断ることが出来ずに連れてきてしまったというわけですね。」 
と、門番である紅美鈴につっこまれることになった。 
「しょうがないじゃない。材料に通常の餡子ではなく、一組の肉まんと餡まんを使ったあの二体はいわば姉妹。 
私とフランの形をしたゆっくりはあれだけだっていわれたら、連れてこないとって思うわよ。その結果があれよ・・・」 
レミリアは咲夜と紅美鈴と共に、二匹に増えた【ゆっくり】とフランドールの姿を遠目に眺めながら語り合っていた。 
美鈴はうれしげに語った。 
「でも、これでいいのだと思います。フランドール様のあのお顔を見てください。まるで妹が出来たようにうれしそうではないですか。 
あのように生き生きとしたお顔は魔理沙さんが来たときとはまた違ったものがあります。」 
レミリアは頬杖をつきながら 
「なんというか複雑なのよ。咲夜にも言ったけどあの物体がフランと何の屈託もなく仲良くしているところをみると、 
今まで私がフランを地下に閉じ込めてきたことは間違っていたのではないかって。」 
咲夜がそれを否定する。 
「お嬢様、そう物事を後ろ向きに考えないでください。お嬢様が今までフランドール様を心配していたためにしてきたことだというは 
フランドール様もきっとわかっていてくださっているはずです。今はこの状況がフランドール様により良い影響が残せるようにと 
見守っていただくことが大事なのではないかと思います。」 
そう言って美鈴と咲夜はその場を後にした。 
レミリアは内心彼女達に感謝しながらこれから先どうするか頭を悩ませた。 
これがフランのためになるとはいうものの、この先のことはどうなるのか考えが浮かばなかった。 
幻想郷に乗り込んできたとき以上に非現実的な事態だ。そのときフランドールが満面の笑みでレミリアに向かって近づいてきた。 
「ねぇねぇお姉さま。お願いがあるの」 
「どうかしたのフラン」 
「この子達に名前をつけてあげてもいい?」 
名前くらいなら別にかまわないだろう。あの物体をお姉さまと呼ばれた日にはショックのあまり灰になってしまうだろうという 
恐れもあった。 
「別にかまわないわよ。どういった名前をつけたいの」 
「こっちの私に似ているのがゆフラン、お姉さまに似ているのがゆっくりゃよ」 
そのまんまじゃん。やっぱり自分が名づけ親になってあげるべきだったとレミリアは二匹に同情した。 
ちなみにこのレミリアは自分の弾幕に不夜城レッドや全世界ナイトメアなどという 
斬新にもほどがある名前をつけるネーミングセンスがあるが、そのことは棚においていた。 
「咲夜さん、お仕事お疲れ様です」 
「こっちこそお疲れ様美鈴。こういう事態は免疫がないからお互い大変ね。」 
ここは厨房であった。ゆフランとゆっくりゃは他のゆっくりと違い、吸血鬼がベースなので光合成ができない。 
そのため、あの二匹がどのようなものを食べるのかわからなかった。しかし美鈴がコッペパンを渡したところ、 
おいしそうに笑顔でうーうー鳴きながら食べていたので、 
それならもっとおいしいものを食べさせてあげようと咲夜が腕によりを掛けて食事を作ることになったのである。 
「誰だってそうですよ。このような事態、想定しろっていうほうが無理です。それよりおいしそうですね。」 
「いくら人形とはいえどお嬢様の一部から生まれたものをぞんざいに扱うことなんて出来はしないわ。それに、 
あんなに嬉しそうなフランドール様を見ることは初めてだしね。」 
「そうですね。そう考えると永琳さんにも感謝をしないといけないですね。ただ、お嬢様は複雑そうでしたけど・・・」 
「大丈夫よ美鈴。お嬢様はフランドール様のことを第一に考えているわ。きっと今回の異変もよい方向に向かってくれるはずよ。」 
「そうすんなりいけばレミィも苦労はしないんだけどね。」 
いつの間にかパチュリーがそばに立っていた。 
「どういうことです。何かあるんですか。」 
咲夜と美鈴が尋ねる。 
「あの二匹と妹様を見てレミィが自分達と重ね合わせて複雑な思いをしなければいいんだけどね。あの子達は決して本人ではない。 
そこを踏まえておかないと。」 
ぱちゅりーは頭にある疑問がわいた。 
「それに、餡子や肉まんををベースに作られたっていうのが気になるわね。賞味期限はいつなのかしら・・・。」 
その後の夕食の席ではレミリア、フラン、ゆフラン、ゆっくりゃの二人と二匹で食卓を囲んだ。 
ゆっくりたちは手がないので誰かが食べさせてあげる必要がある。 
「はい、こぼさないようにたべるんだよ。」 
フランは二匹を膝の上に載せて食べ物を食べさせるようにしていた。まるで赤子に対して母親がするかのように。 
「うー、おいしいね♪ふらん、おいしいね♪」 
「う゛―、ゆっくり♪」 
ゆっくりゃは笑顔が浮かび、そしてうれしそうな声で鳴いていた。ゆフランもまんざらではなさそうだ。 
それを見てフランもまた笑っていた。 
レミリアはその雰囲気になじめなかった。自分が姉としてフランにしてやれなかったことをフランはあの二匹にしてあげている。 
自分は姉として本当に正しかったのか疑問に思った。 
その後、ゆっくりゃとゆフランは紅魔館にあっというまに馴染んだ。最初はメイドたちも戸惑っていたようであったが、 
慣れてくるととてもかわいいと評判であった。今ではフランと共に二匹をかわいがる光景さえも見られるようになってきた。 
「はい、おやつのプリンですよ。」 
「ぷりん♪ぷりん♪」 
「うー♪」 
咲夜におやつを与えられると二匹はとてもうれしそうに飛び回った。 
さらに、咲夜だけではなく隠れておやつを与えているメイドもいるらしい。 
パチュリーは興味なさそうな姿勢をとっていたが、あるとき影でゆっくりゃの頭を撫でていた。 
「永遠亭の薬師は薬以外にもたいしたものね。けっこうかわいいじゃない。え~と、ゆっくりしていってね!?だっけ?」 
「ゆ、ゆぅ、ゆ~♪」 
そこにタイミング悪く小悪魔が近づいてくる。 
「パチュリー様、何をしているんですか?」 
「小悪魔、ち、ちがうの・・・これは・・・、ゴハァ!!」 
小悪魔に目撃され、ショックのあまりパチュリーは口から血を吹き出してしまった。 
美鈴のところに遊びに行くこともあった。二匹は夜行性なので夜は外に出たくなることがある。そのようなとき、 
遠くまで行くのは危険なので、紅魔館のまわりをフランと共に飛び回ることがある。 
そのときに夜勤をしていた美鈴のところで一緒に遊ぶこともある。美鈴は一人で長い夜を過ごさずにすんだのでとても喜んだ。 
「ゆフラン様、いうことを聞かないゆっくりはこの特性の蒸篭で蒸し饅頭にする妖怪がおしおきにくるんですよ~~」 
「うわぁぁぁぁぁ!!ゆっくりしねぇ!」 
そうやって美鈴はゆフランを蒸篭を持って追い掛け回す。美鈴は本気ではないのだが、 
ゆフランは全速力で逃げた。ゆっくりのくせに料理されるのが嫌なんて変わっている。 
攻撃的なためか、苛められることはおろか料理されることにまで嫌がるのであろうか。 
ちなみにこの後やりすぎたとのことで美鈴は咲夜にナイフ千本を刺されることになる。 
しかしレミリアは未だに二匹に対して馴染めなかった。 
最終更新:2008年08月19日 16:57