「だーじぇ♪ だーじぇ♪ だーーーーーじぇ!」
ちょこんとした饅頭体型の体。頭に体に合わせたかのようにこれまた黒くて小さなとんがり帽子。
金髪を上下に揺らしながら、土の上を跳ねている謎の物体。
ゆっくりまりさである。
そのゴルフボール程度の大きさから、まだ生まれて1~2週間程度の赤ちゃんだろう。
このぐらいの頃なら親が付きっきりで面倒を見ている筈なのだが、このまりさはたった一人である。
先ほどから楽しそうに歌いながら調子よくピョンピョンと田んぼ道を跳ねていく。
意気揚揚とまりさが向かったのは町の中だった。
そのまま土の道からアスファルトの歩道に乗り上げると、ペースを変えることなくまたどんどん進んでいった。
しばらく跳ね続けると、次第に周りの景色も変わってくる。
コンクリで出来たアパート。色とりどりの花がある花屋。そして全くゆっくりしていない車
見るもの全てが生まれて始めたみたものばかり。まりさはそれらに目を輝かせながら跳ね続けていた。
「ゆ! いいにおいがするんだじぇ。」
突如現れたにおいをくんくんと嗅ぎとり、まりさは自分の鼻孔?を擽る甘い匂いの元へすぐさま跳ねていった。
まりさが町に来たのには理由がある。
まりさの親であるれいむおかーさんとまりさおとーさんは、知り合いのおにーさんの畑で働いている。
所謂共働きだ。
家がおにーさんの庭の中の一か所にあるので安全なせいもあってか、最近まりさは日中一人で過ごすことが増えた。
増えたといっても実際はまだ2日ぐらいなのだが、ゆっくりの感覚で言えば結構長いのである。
寂しさを紛らわそうと色々遊んでみたがやはりつまらない。
それならおにーさんが言ってた町へいってみよう。
そしたらきっと二人も町に来てくれるはずだ。
そんな単純な考えからだった。
「とってもゆっくりできるんだじぇ!」
実はまりさの周りにいた人間は、まりさが怪我をしないように足を止めたりしていたり
町に住んでいるゆっくり達が、
「ゆふふ……げんきなまりさねぇ」などと暖かい視線を向けながら
まりさを踏まないように周囲の人間に注意を促していたしていたのだが
まりさはそれに気付かなかった。
甘い甘い匂いの元を求めて路地裏へホイホイ入って行ってしまったまりさ。
匂いを求めてゴミやらなんやらが大量に置かれている道を懸命に進む。
「だぁーじぇ! あぶないんだじぇ! ゆっくりできないんだじぇ!」
落ちていたアルミ缶に危うくぶつかりそうになりながらも、意外と落ち着いた足取りで進むまりさ。
しかし流石に疲れていた。
呼吸も大きくなり、汗でもちもちお肌がベトベトになってきた。
これではまりさ自慢のキューティクルヘアーも台無しである。
「ゆっ! ゆっくりするんだじぇ!」
適当な休憩場所を求めて辺りをウロチョロと見回すまりさ。
しかしここは路地裏。ゆっくりできなさそうなゴミやネズミなどが大量に居るのでゆっくりできそうにない。
ここで女子高生吸血鬼とエジプト二ーソでも居れば話は変わったのだが、それを望むこともできず。
押し迫る不安をなんとか払いのけようと、体をぶるぶると奮わせて、気合いを入れる
しかし気合いを入れどもゆっくりできる場所は見つからない。
仕方がないので疲れた体でなんとか路地裏を抜けることにした。
「ゆぅー? ゆゆ! とってもひろいんだじぇ!」
路地裏を抜けた先は、だだっ広い空間が広がっていた。
簡単に言えばバスケットコートである。
手入れは十分とは言えないが、ビルの間に挟まれて生まれた空間。
古ぼけたゴールと周りを囲むフェンス。空から微妙なさじ加減で降り注ぐ光。
それらが合わさりアメリカンな空気が最強に見えなくもない場所。
まりさの家の周りも十分広い。というか広さだけならここよりずっとある。
しかし初めて見る幼き言葉では形容しがたい景色にしばし呆然となった。
ふと我に帰ってどこかゆっくりできそうな場所がないか探し始めた。
幸いにも、水飲み場がそこにあった。まりさは水があるそこへ向かう。
「ごーく! ごーく! つべたいんだじぇー♪」
水飲み場に溜まっていた水で喉を潤せたからか、まりさの顔には笑顔が戻った。
「ゆゆゆ~♪ まりさはまりさだじぇ!」
誰も聞く物がいない自己紹介をしながらもしばらくゆんゆんと歌い続けていた。
誰も居ない空間である。
まりさの声はよく響いた。
自分の甲高い声が自分の耳に入る。
他に何も音がしない。
だから気づいた。
こんなに世界は広いのに、自分は今ひとりぼっちなことに。
上にも横にも誰もいない。
たとえ仕事が終わったばっかで疲れていてもすーりすーりしてくれたれいむおかーさんが
まりさが食べたいといったはちみつを、ハチさんに刺されながらも取ってきてくれたまりさおかーさんが
自分は今一人なのだ
ふと思い出したその事実が、心の中に恐怖を生み出した。
「ゆぐぅ……ゆっゆっ……ゆぅ。お、おきゃぁああああしゃぁあああああああああああんん!!!!」
淋しさのあまりまりさは泣きだした。
叫べばきっと二人が来てくれると信じて
ただひたすら泣き続けた。
「ごめんなざぁぁああああああああいいいいい!!! ばりざごわいよぉおおおおおお!!!」
カツン。と、何かの音が聞こえた。
まりさはとっさにそっちの方を振り向く。
「おきゃーしゃん! まりささびしかったんだじぇ……じぇ?」
おかーさんが来たと思って振り向いた先に見えたのは……
「おいおい、ゆっくりが居るぜゆっくりが。」
「おれ初めてみたよ。」
「俺も俺も。」
「どーするよ豪傑君?遊んでみねえ?」
まだ高校生ぐらいの男が三人と。
「ゆゆー! とってもびっくなんだじぇー!」
身長2m近い男子高校生がいた。その筋肉ムキムキな体は明らかに場違いである
そして始まる追いかけっこ。
「にげるんだじぇぇええええええええええ!!!」
「まてやこらー」
「ゆっくりしていってほしんだじぇええええええええええええ!!!」
「しるかぁああああああああ!!!」
「だじぇええええええええええええ!!!!」
「だじゃあああああああああああああ!!!」
「きゃはははははははだじぇええええええ!!!」
「うふふふふふふだゴラァアァァァァァァ!!!」
「おれゆっくり触るの初めてなんだー」
「へへ……どうしてやろうか?」
「キャッチボールだろキャッチボール」
「サッカーでもいいよね?」
たちまち四人に囲まれたまりさ。
後ろは壁。前は子供
まさしく四面楚歌
絶体絶命である。
「ゆぐぅ……うふふふふふ……ごわいよぉおおおおおお!!!!」
恐怖でパニくって前世の記憶やらなんやらが交わりもう視点も定まらないありさま。
(おきゃーしゃん……ごめんなさいなんだじぇ……)
「そこまだぜ!」
「ゆっ!!!」
何かが上から降ってきた。
見覚えのあるその体。
それはまぎれもなく
「おぎゃぁあああああああしゃぁあああああああん!!!」
まりさはすぐにれいむおかーさんの頭の上に飛び乗った。
「ゆゆ!ゆっくりおかーさんのあたまのうえにいてね!」
「いまこのわるいにんげんさんをかたづけるからね!!!」
不敵に笑う二人に、ヤンキー側は露骨に嫌な顔をした。
「おいおいお前らで勝てると思ってんのか?:」
「勝てるわけねーだろjk」
「豪傑君なめんなよ? ここらじゃ豪傑番長って言われてるんだぜ?」
肩を揺らしながら詰め寄るヤンキー。
まりさは怯えていたが、二人は違っていた。
「ゆッ! ゆっくりはパワーだぜ!」
まりさおかーさんは突如飛び上がるやいなや、近くに居たヤンキーAの鼻へ体当たりをかました。
これにはヤンキーも予想外だったようで、無防備な顔面にクリーンヒットした形になった。
「おおっと。……てめえ!」
なんとか体制を戻そうと踏ん張るヤンキーA。
しかし今度は踏ん張ろうとした左足へ噛みつかれた。
「あぎゃあ!」
片足になってしまいバランスを崩したヤンキーはそのまま倒れる。
しかも運悪く倒れた先がベンチだったために更にダメージは加速した。
「お、おい!」
「ゆっへん!」
おろおろし始めたヤンキーと堂々としたまりさおかーさん。
まりさはその光景を信じられないような顔で見つめていた。
「まりさははたけしごとできたえられてるんだよ! ゆっくりりかいしてね!!!」
れいむおかーさんは誇らしげにそう言った。
その時、騒がしくなったヤンキーの集団の中。たった一人だけ今まで喋らなかった男が動いた。
「ふん。威勢はいいな。」
モヒカンの男が動いたことにより、ヤンキー側は一層慌ただしくなった。
同時にまりさも感じていた。この男はレベルが違うと。
流石のまりさも相撃ち覚悟で挑まざるえないと思った刹那
「お前ら行くのはやいっつーの!」
「ゆ! おにーさん!」
第三の乱入者はまりさとれいむが働いている畑の主だった。
20代前半ぐらいの中肉中背のパッとしない男である。
「あーもういいから早くいけ。んで今日はもう仕事しなくていいから。町で遊んできゃいいだろ。」
突然現れて突然の発言。まりさとれいむは申し訳なさそうな目でおにーさんを見ていた。
「ゆぅ……でも「いいからいけっつーの」
三人を掴むと、軽々路地裏へポイッと放り投げるおにーさん。
きちんと着地するとれいむはおにーさんの方へ振り向き
「おにーさんありが「きこえなーーーーーーーーーーーーーい!!!」
おにーさんのよくわからない発言で遮られた。
まりさはれいむおかーさんの頭の上にいた。
しかし先ほどから一言もしゃべらない。
怖いのだ。怒られるのが。
ちらりと、まりさおとーさんの方を見てみる。
すると、まりさおとーさんは二コリと笑った。
何故わらったのかまりさにはわからない。
それに続いてれいむおかーさんがこう言った。
「みんなでまちでゆっくりしようね!」
まりさは目から流れる何かが口に入ったのを感じた。
しかしそれを気にせず大きな声で言った。
「わかったんだじぇ!」
三人は路地裏を抜けて、明るい町へ歩きだした。
【オマケ】
身長2m近い豪傑。そして畑のおにーさん。
二人の間には30cmの距離しかない。
そんな近距離でにらみ合っていた。
「……殺す。」
豪傑と呼ばれた男は突如、腰を深く落とした。
「ヒャッハー! 豪傑君は空手の全国大会ベスト4に入るんだぜー!」
隣のヤンキーが何やら騒ぎ出す。
しかしおにーさんにそんなことは関係ない。
「なあ。」
覇気のない声でおにーさんが言った
「……なんだ?」
豪傑は思わず聞き返した。
「ジェノサイッ……カッタッ!」
「うぎゃぁああああああああ!!!」
- 畑おにーさん、過剰防衛w -- 名無しさん (2009-05-03 13:33:57)
- 9〜10割ジェノサイですねわかります -- 名無しさん (2009-05-08 09:48:18)
- 畑のおにーさんってルガールかよwww
-- 名無しさん (2009-05-09 20:52:55)
- やったー!おにいさんカッコイイー! -- 名無しさん (2010-11-26 19:14:05)
- だじぇだじぇまりさそういう物もあるのか… -- 名無しさん (2013-07-11 12:44:29)
- おにーさんかっけえw -- 名無しさん (2013-09-24 23:08:13)
最終更新:2013年09月24日 23:08