ゆっくり運送2 -終章-前編

団欒の時も瞬く間に過ぎ、今は草木も眠る丑三つ時……という程ではないが夜も更け、霊夢、魔理沙、おチビ達も寝ている様だ。




唯一匹、れみりゃだけを除いては……




社長は「今日は諸君だけでゆっくり過ごすといい。」と別室へ行ってしまった、彼なりに気を使ったのだろう。



「うー…みんな、ごめんなんだど~…。」


申し訳なさそうに呟くと、れみりゃは一人事務所へ向かった。
そして、その様子を物影から見つめる影が一つ。


「………………。」







………数分後、れみりゃは何の問題も無く事務所へとたどり着いた。

れみりゃが目を向けた物、それは頑丈そうな「金庫」だった。

「うっう~!これなんだど~☆」

れみりゃは金庫の前にしゃがみ込むと、懐から小さなカードを取り出し、小さい声で呟いた。

「うっう~、ぐんぐにる~!」

すると、ボシュっという小さな爆発音と共に金庫に小さな穴が開いた。
れみりゃは占めたとばかりに穴にその小さな腕を突っ込むと、中から一枚の書類を取り出した。
見ると、その書類には「権利書」と書かれている。

「う~、これだど~!」

れみりゃは書類を丸めて肩に下げたポシェットに入れると、出口へと向かった。
全てが順調に進んでいる、れみりゃはそう考えていた。玄関の前に立っている人物を見るまでは………


「…………れみりゃ君。」

「う~……しゃちょう…だどぉ……?」

れみりゃは動揺を隠せないでいる、互いに見つめあい、沈黙が続いた。
最初に口を開いたのは社長だった。

「こんな夜更けにどうしたんだね?れみりゃ君。夜更かしは美容に良くないぞ?」


余りにも意外過ぎる返事にれみりゃは目をまん丸に開け、ポカンとしていた。
しかし、それもつかの間、その判断に至るまでにそう時間は掛からなかった。

「うっう~☆よるのおさんぽにいくんだど~♪」

社長は気付いていない、れみりゃはそう判断した。
今なら上手くごまかせる。そう考えたのだ。

「お散歩?」

「そうだど~♪おぜうさまたるもの「つきよ」をみながらのおさんぽは「にっか」なんだどぉ~☆」

「そうか、夜道は危ない、ちゃんと気を付けて行くんだぞ。」

れみりゃにとっても意外だった、社長はそれ以上追求する様子も無く、れみりゃの頭をクシャっと一撫ですると、玄関の鍵を開けた。
その時の手の感触が暖かく、そしてれみりゃの心を締め付けた。

「じゃあ、いってくるんだど~☆」

「あぁ、れみりゃ君、ちょっと待ちなさい。」


ギクッ!と立ち止まるれみりゃ、気付かれた?と考えたのもつかの間。

「加工に時間が掛かってしまってね、これを君に渡さないとな。」


と社長は懐から銀色に輝く何かを取り出した。

「ほら、付けてやろう、こっちへ。」

「うっう~…。」


れみりゃのポシェットに銀色に輝くゆっくり運送のエンブレムが瞬いた。

「しゃちょう、これは?」

「私のお手製だ、少し不恰好だがね。社員全員に配る事になっている。フフ、社員への信頼の証みたいな物さ。」

「う~…しんらいだど?」

「そう、我々は社員と社長という関係以前に、仲間だと私は思っている。仲間は信頼し合い、助け合うもの。それはその証さ。」

「う~……。」


れみりゃは沈んだ顔で俯くとそのまま黙り込んでしまった。

「すまない、話が長くなってしまったな。気をつけて行ってくるようにな。」

「うっう~、わかったどぉ~…。」

「れみりゃ君。」

「う~…?」

「いってらっしゃい!」

「う………いって…きますどぉ…。」






れみりゃは行ってしまった。
社長はそれを黙って見送っていた。




「しゃちょう!いいんだぜ?あのままほっといて」

「れみりゃいっちゃったよ!!」

「いっちゃっちゃょ~!!」


不意に、机の下から声が響き、魔理沙、霊夢、おちび達が顔を出した。

「れいむたち、ここにいられなくなっちゃうの?」

今にも泣きそうな顔で霊夢が聞いた。
私は霊夢、魔理沙、おチビ達の前にしゃがみ込んだ。

「大丈夫だ、れみりゃ君は帰ってくる。」

「でも、でも……。」

「きっとだいじょうぶだぜ!!」


見ると、魔理沙が自信満々な顔で霊夢の前に立っていた。

「れみりゃはまりさたちの「なかま」なんだぜ!ぜったいかえってくるにきまってるんだぜ!!」

「ゆゆ、そう…そうだよね!!れみりゃはだいじななかまだもんね!!」

「その通りだ魔理沙君、流石は我が社の敏腕運送員だ。」

「ゆっへっへっへ~!とうぜんなんだぜ!」

魔理差は顎をシャクレさせて威張っている。

「まぁ、最悪の場合、既に手は打ってある。」

「ゆゆ?なにをしたんだぜ?」

「フフ、それはお楽しみさ。」

「ゆゆ~ん、きになるぜ~!!」










その頃、れみりゃは夜道を飛ばずにひたすら走っていた。
何かを振り切るように…

「これをもっでいぐんだどぉ~!もっでいがないどいげないんだどぉ~!!」


顔は様々な汁に塗れ、グシャグシャになっていた。
それを意にも介さずれみりゃは走った。走らなければいけなかった。
止まったら進めなくなる。そんな気がして仕方がなかったのだ…
必死に走っていると、道に小さな空き缶が転がっている。がむしゃらに走るれみりゃはそれに気が付かなかった。


「うべっ!!」


れみりゃは盛大に転げてしまった。

「う~…いだいどぉ~…しゃくや~…う…?」

ふと顔を上げると道端のカーブミラーに自分の姿が映っていた。そしてポシェットに輝く銀色のエンブレムが目に入った。
そして思い浮かぶ一つの言葉。

「う~………うあぁぁぁぁ!みんなあぁぁぁぁ!!でびりゃは!でびりゃはぁぁぁ!!」





れみりゃの葛藤の叫びは夜の闇に吸い込まれていった…。









数十分後、れみりゃはゆっくり運送の玄関口に立っていた。




その目に最早迷いは残っていなかった。
れみりゃは気付いたのだ…
れみりゃにとって一番恐ろしい事は、自分を暖かく迎えてくれた場所がなくなる事。
そして社長、魔理沙、霊夢を、「仲間」を裏切ってしまう事だと言う事に。
嫌われてもいい、追い出されてもいい。全てを話して謝ろう。れみりゃはそう決意していた。

「う~…いくどぉ~…。」


扉をソッと開け、中を覗き込む。


「おがえりでびりゃああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



覗き込んだれみりゃを迎えたものは、寝不足と泣き腫らしで目を真っ赤に充血させた魔理沙のタックルだった。


「うびぇ!!ぐるじいどぉ~…。」

「おがえりだぜぇぇぇ!!」

「ゆ!おかえりれみりゃ!!」

「おきゃえりなしゃい!」

「お、帰ったか。随分長い散歩だった様だな。」


魔理沙だけではない、社長、霊夢、おチビ達までが自分の帰りを待っていた。


「う?なんでみんないるんだど?」

「馬鹿者、社員が一人散歩に行って戻らないというのに伸う伸うと寝ている訳が無いだろう。」

「そうだよ!すごくしんぱいしたんだよ!!」

「しんぱいしたんだぜぇ!」

「しんぱいしちゃんだょ!!」

「う~…ごめんだど~。」

れみりゃは再び迷った、此処で全てを話すべきなのか。
このひと時の安らぎを壊してしまって良いのだろうか、と…

「う~…しゃちょう、あのね…。」

「どうした?、あぁ…君の盗んだ権利書ならダミーだ、安心したまえ。本物は別に隠してある。」

「う!?」

れみりゃは一瞬状況が理解できなかった。
社長は全て知っていた、つまりはそういう事だったのだ。

「しゃちょう、なんでしってるんだどぉ…?」

「何故かって?あんな露骨な盗み方をしたらよっぽどの間抜けでもない限り気付くだろう。」

「うー…ぜんぶしってたんだどぉ…。」

「生憎、私も流石にそこまでは呆けていないつもりでね。」


社長は全て知っていた、れみりゃが権利書を狙っていた事を、れみりゃの元居た職場、「黒海空輸」の事も。

黒海空輸、うーぱっく等を使った運送会社で利益のためなら他の運送会社を潰す事さえいとわないとされている、黒い噂が耐えない会社だ。
また、そこで雇われているゆっくり達の扱いも酷いらしく、奴隷同然に使われているらしい。


それを知った上で、社長はれみりゃを迎え入れたのだった。

「う~?なんでれみりゃをにゅうしゃさせたんだどぉ~?」

「あぁ、あいつ等とは何度か衝突していてな、奴等を潰す口実に丁度良かったのさ。そしてなにより…。」

「う?」

「君の目はアソコの人間共とは違う、アイツ等のように死んではいなかった……理由などそれで充分だ。」

「う~…じゃぢょう…。」

「しかし、だからといって、この行為は許される物ではない、覚悟は出来ているな?れみりゃ君。」

「う~…わかってるどぉ~……。」

「れみりゃ……しゃちょう!ゆるしてやってほしいんだぜ!!れみりゃもしょうがなく…。」

「そうだよ!れみりゃをゆるしてあげて!」

「………。私はちょっと用事が出来た。霊夢君、魔理沙君。今夜はれみりゃ君を頼んだぞ。」

「「しゃちょう!!」」

「では、行ってくる。」

そう言い残すと、社長は夜の闇の中へ消えていった。
チビ達は夜更かしが堪えたのか、ソファの上で眠ってしまっている。
そして、れみりゃ、霊夢、魔理沙だけが取り残されていた……。


「ゆぅ~…いっちゃったぜ…。」

「うっう~…しょうがないど、れみりゃがわるいことしたんだど~…」

「あきらめちゃだめだぜ!!あしたになったらはりたおしてでもしゃちょうを「せっとく」するんだぜ!!!」

「そうだよれみりゃ!!あしたいっしょにしゃちょうにあやまろう!」

「う…みんなぁ……」

「ゆゆ!ないてるひまなんかないんだぜ!あしたははやいからはやくねるんだぜ!!」

「そうだよ!ゆっくりねようね!!」

「うー…わかったど!れみりゃもうなかないど!!」

「えらいぜれみりゃ!あしたはいっしょにがんばるんだぜ!!」

「うー☆がんばるど!!」

「こんどはちゃんとみんなでねようね!!」

「うー☆みんなでねるどぉ~♪」


その夜は魔理沙、れみりゃ、霊夢、チビ達で川+1本の字になって寝た。
その温もりは、れみりゃの心もゆっくりと暖めていった。

「う~…あったかいどぉ~…♪」

「れみりゃ~…くすぐったいんだぜぇ~…。」

「う~…ゆっくい~…☆」

「れみりゃ…ずっといっしょだぜ!」

「いっしょだよ!」

「う~☆いっしょだどぉ~……♪」


そう言い合うと、それぞれお互いに身を寄せ合うようにして寝てしまった。















そうして、ゆっくり運送の夜はゆっくりと更けてゆく…























[おまけに限りなく近い何か。]







「おお、しゃちょうしゃちょう。」

「……………。」

「そんなにみつめないでくださいよ。」

「………。あぁ、すまない。いや、というか、君はどこの何方なんだ?」

「どうも、清く正しくきめぇ丸です。」

「そうか。お初にお目にかかる。」

「おお、おはつおはつ。」

「いや、そうじゃなくて、何故君が此処にいるのだね?」

「いやですよ、貴方の会社の社員じゃないですか。」

「いや、我が社にきめぇ丸は居なかったと思うのだが…。」

「何を言ってるんですか、エンディングにちゃんと登場しますよ。」

「なるほど、出番を先取りした訳か。最近のゆっくりは気が早くて困る。」

「そういうことです。」

「………。まぁ、ネタばれ等はやめてくれよ?」

「おお、あの時社長がれみr……。」






               ゆんごくさつッ!!






「おお、とんでいくとんでいくうぅ~………。」

「あぶなかったぜしゃちょう!!」

「おぉ、魔理沙君!助かったよ。」

「まったく、このぽじしょんはまりさだけのものなんだぜ!だれにもゆずれないんだぜ!!」

「魔理沙君……君は……。」

「かんちがいするんじゃないぜ!まりさはめだちたいだけなんだぜ!!」

「君がそんなにマゾヒストだったとは知らなかったよ……。」

「ぢがうよおぉぉぉぉ!!ぞっぢじゃないよおぉぉぉ!」

「いや、いいんだ、誰しも人に言えない趣味くらいあるさ、一人で悩むのはよくないぞ。」

「ぢがうんだぜええぇぇぇ!めをそらざないでぇぇぇぇぇ!!」






ゆっくり運送は荷物と幸せを貴方にお届け致します。




※この話はフィクションです、実際の団体、エンディング、etcとは関係ありません。と、思います……。











ゆっくり好きな新参者







  • 社長ってばホント好かれてるなぁ
    素直じゃないまりさもいいわ〜
    それにしてもまりさつえぇな・・・ -- 名無しさん (2009-05-23 08:51:23)
  • <最近のゆっくりは気が早くて困る。

    某パーフェクトソルジャーかよw
    きめぇ丸はどんな役で出てくるのやら -- 名無しさん (2009-05-23 10:45:01)
  • スレ664です。バトルパートについては作者さんにおまかせします
    個人的にはせっかくまりさも強くなったんだし、バトルパートも読みたいとも思ったりしました
    ゆっくり運送のメンバーがメンバーだから、バトルシーンが無双状態になりそうですけどねw
    作者さんの言うようにサラッと終わりそうw -- 名無しさん (2009-05-23 18:47:18)
  • >>664さん
    それもそうですねw
    なんとかクドくならない様に頑張って書いてみます!
    -- ゆっくり好きな新参者 (2009-05-23 18:54:58)
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最終更新:2009年05月23日 18:54