そう、魔理沙にはゆっくりれいむがいつ現われたのかわからなかった。
「随分しつけが行き届いてるんだなー。」
「ゆ!かしこくてごめんね!」
魔理沙は辺りを見回した。そして。
「おーい、寝るなー。追いつかれるぞー。」
「……あ。見つかっちゃたか。」
障子の裏でうとうとしている霊夢を見つけた。
「あーもう。こんなに早くバレるとは思わなかったな。……ふぁぁ。」
「本当に寝不足か……。にしても、なんでこんなつまらん悪戯なんかしたんだ?」
「これよ、これ。」
そう言って霊夢が魔理沙の方にほうったのは、
『現代の怖い話』と書かれた本だった。
途端にゆっくりれいむが
「ゆ!?魔理沙おねえさん、さっさとそれをしまってね!!!」
と震え出した。うっすらと泣きかけている。
「はいはい、怖がらないの、れいむ。」
霊夢はゆっくりれいむを抱き抱えて、頭を撫で始めた。
「……ははぁん。そうか、お前らが隈作ってんのは、それ読んで眠れなかったんだな?」
霊夢は如何にも図星という顔をして、目を逸した。
「ああいう力押しな連中とはまた違うのよ。こう……心胆を寒からしめる感じ。」
「えたいのしれないこわさがゆっくりおそってくるよ!」
「へぇ。」
魔理沙は適当な相槌を打って本をつまみ上げた。
「取り敢えず、これはお前にそんな古臭い言葉を言わせる程怖かったのか。」
「そ。だから恐怖のお裾分けでもしようと思ってね。」
「れいむとおねえさんでおどかしたんだよ!こわかった?」
いや、シュールだったぜ。と言いかけて魔理沙は止めた。
しばらくして家に帰った魔理沙は、死ぬまでのあいだ借りることにした例の本を読んでいた。
怖いというか、オチが利いているだけというか。霊夢が悪戯の元にした話も、それ程怖いとは思わなかった。
「ゆ?!おねえさん、なによんでるの?ありすにもよんでくれないかしら?!」
飼っているゆっくりありすが、飛び跳ねながら興味深そうに覗こうとしていた。
「これは怖い話。――夜眠れなくなってもしらないぜ?」
「ゆっ……。と、とかいははのうりょうにこわいはなしをたのしむのよ!ゆっくりきいてあげるわ!」
「はいはい。じゃ、読むぜ。……『記憶を追ってくる女』……。」
参ったな、こりゃ。と、魔理沙は思った。読んでる最中は大したことは無かったのだが、いざ暗くなるとなんともいえない不安を感じてしまう。
「ふぅ。期待外れだぜ。」
「とかいはにはこわくないわ!」
などと、ゆっくりありすと話していたのに。全く、情けない話だ。
さらに情けないことに、さっきから小用を我慢し続けている。
何故か?それは、当然怖いからだ。
「うう、本当に情けないぜ……。」
とはいえ、当然漏らすわけにはいかない。意を決して厠に行くことにした。が。
もぞっ。
「へ?」
布団からでてすぐに変な音がした。辺りを見ると、なにか生首のようなものが見え……
もぞぞぞぞっ!
「ぎゃああああああっ!」
「ゆ"う"ぅぅぅぅ!!!」
「全く、びっくりさせんなよありす。」
布団の中で、魔理沙はゆっくりありすを抱き抱えていた。あの、もぞっと動く怪物体は、魔理沙と一緒に寝ようとしたゆっくりありすだった。
「ゆうう、ごめんなさい…。とかいはのありすにもやっぱりこわかったの……。」
魔理沙の腕の中でプルプル震えながらありすが言った。
可哀相に、そんなに怖かったのか、と一瞬魔理沙は思ったが、
「私もおんなじだよ。ちょっとばかり怖かったぜ。」
と言った。
そして、二人は朝になるまで……物音にびくつきながらも、互いに身を寄せあって過ごした。
最終更新:2008年12月01日 19:00