※オリキャラが出ます、ていうかでしゃばります。
※無駄に長いです。ていうか長すぎです。ドウシテコウナッタ‥
※ゆっくりSS‥?
※ゆっくりに癒されたい人は視聴不推奨。
※厨二設定のオンパレードな気がします。
※最後にも言いますが、今のうちに謝っておきます。色々とごめんなさい
「アハハハハハッ、アハハアハハハ!!!」
陽も月も出ていない深夜、一つの大きな影が緩やかに、だが確実にその身を少しずつ海面へと沈ませていく。
不沈船と謳われたその船の名は、豪華客船『ゆイタニック号』。
その重厚な船体には、先ほど巨大な氷山と衝突した際にできた、船の大きさから見れば非常に小さな、だが安全な航海を保障するには致命的な程度の大きさの穴が空いていた。
船の中に居る可哀想な乗客たちの多くは、まだ気付いてもいないだろう。
この大海原で自分達の命を支えているその巨大な足場が、あと数時間のうちに沈みきってしまうことを。
当たり前だ。自分のように、船の遥か上空から船全体を観察でもしない限り、発生してすぐに気付ける異変ではない。
今、この事実を知っているのは、船の仕組みと現状を良く理解できる環境にある一部のクルーだけだろう。
自分を含めてもほんの少しの人数だけだ。
「ウハハハハハハ、アッハハハハハハァ!!」
だから、それが面白くおかしくて仕方が無い。
まさか、本当に沈むなんて。
まさか、本当に沈ませることができるなんて。
それも、こんなに大きな船を。
「アハハハハハ、見える、見えるよ。慌てふためいて逃げ惑い、悲しみと絶望に包まれる、哀れな人間の姿が!アッハアハハ!!」
宙に浮かぶ彼女は、狂ったような大声で、この惨事を高笑いしながら見つめ続けた。
その光景が、本当に楽しみで仕方が無いという風に。
『ゆイタニック号のゆ劇』 海上の船上ローレライ(上) byかぐもこジャスティス
「私の名はローレライ。かつてこの海に沈んで死んだ哀れな少女の成れの果て」
ゆイタニック号船内。2階廊下。
船が氷山と衝突してから数刻後。
既に船内に非常ベルは鳴り響き、船内は乗客の怒号と狂乱の中に支配されていた。
混乱しながら我先にと船内を逃げ惑う人々、突然の災事に統率の取れていないクルー達、
その混乱の最中、その少女はそこに、ただ立っていた。
「そして、今はこの海域を根城とし、幾人もの男達の魂を喰らって来た恐ろしい魔女」
見た目の歳は十代半ばほど、黒く長いロングヘアーに、綺麗に透き通ったブルーの瞳、黒のワンピースと赤い靴、
そして、何より際立つのは、人間のものとは思えないほど白く透き通った肌の色。
健常さや生気がまるで感じられないその色は、彼女が語るように死人のそれとまったく同じ色だった。
少女は高く大きな澄んだ声で、大きく両手を広げながらかく語る。
「私の歌は終わりの序曲。聞いて沈まぬ船はない。私の歌は絶望の調べ。聞いて生きて帰れる者はいない」
青い目は燦燦と輝かせながら、そこに居る者達を嘲笑するように、少女は言う。
お前達をこの状況に追いやったのは自分であると。
「さぁ絶望しろ。末期の言葉を考えろ。お前達がどう抗おうと、ここがお前達の終点だ。これ以上の先はない!!あるのは貴様らの水死体と終わりの暗闇だけだ!
それが宿命だ。私の、魔女ローレライの歌を聴いた者の終焉だ!!
畏れ敬え!!嘆け恨め憎しめ!!そして苦しみながら死ぬが良い。私が、魔女ローレライがお前達の死だ!!」
歳相応ではない、少女らしかぬ凶悪な笑みと共に、一気にそれだけの台詞をまくしたてる。
まるでオペラのように仰々しく声高く、そこに居る全ての人々に自分の声を届かせるように。
「こっちだ!はやく上に逃げるんだ!!」
「冗談だろ!この船が沈むなんて!よりによってこの船が!!」
「船は傾いているんでしょう!!ブリッジに出るのは危険じゃないの!!」
「馬鹿、いつ水がここまで上がってくるか分からないんだぞ!!」
「おい、そこのお前。わしをこんな目に合わせおって、お前んとこの会社は責任を取ってくれるんだろうな!!」
「それより他のクルーはどこ行ったんだよ!!」
「ゆっくりしていってね!!」
「ゆっくりしていってくださいね!!」
「うー、うー!!」
「どなたかー!!このれみりゃの飼い主さんはいらっしゃいませんかー!迷子になってたんですけどー!!」
「ちくしょう自分のゆっくりくらい自分で面倒見やがれってんだ!」
だが、その場に居た全ての人は、その言葉を誰も聞いていなかった。
「ハハハハハ、どうだ自分の運命が憎いか?悔しいか?絶望したか?だがもう手遅れだ!!こうなったら私にも止められん!!
私を倒そうという無謀な勇者が居たとて貴様らはもう絶対に助かりはしない!!アッハアハハ‥げほげほ」
あまりにもの長台詞に流石にちょっと疲れてしまったようで、少女は肩を落として息を整える。その表情はちょっと辛そうだ。
「ていうかさぁ、これ只のドッキリだろ?騙されんなよ」
「マジでか!?やっだなぁ、れいむ騙されちゃったよ!」
「馬鹿言うんじゃないんだぜ!!てゐの言うことなんか信じちゃ駄目なんだぜ!!」
少女の言葉どころか存在さえ無視するように乗客の避難は続く。
「ゼェゼッェ、ハァハァハ、お‥お前達の希望は既に尽きた。未来は無い。あるのは絶望だけだ!!ここがお前達の終点だ! あ‥、しまったこれはさっき言ったや。え~と」
一旦台詞を言うのをやめ、少女はポケットから手帳を取り出して赤ペンでチェックマークを付ける。
その手帳にはそれまでの長台詞が黒い文字で長々と書かれているほかに、『凄く良い。絶対使おう』、『ちょっとチープすぎるかも?もうちょっと難しい言葉に変えてみよう』、
『絶望って言葉が多すぎるかも』などと言った赤色のメモ書きが添えられていた。
「らんしゃまぁぁぁぁ!!」
「ちぇぇぇぇぇんん!!!!」
「うるせぇよ!どのゆっくりだ!!」
少女が真剣にメモ帳をめくっている間にも避難は続く。
人と比べゆっくりの避難活動は比較的和やかだ。
「ゆ~ゆっくりゆっくり」
「ゆっくっち」「ゆっくちぃ!」
「くろまく~」「あたいさいきょー」
「逃げるのめんどい‥」「とらうみゃぁ」
「けろけろけろ」「かなきゃのーん」
多種多様なゆっくりが各々のペースで避難を進める。
「あ~え~と。あ、これまだ言ってないや。コホン、あ~、愚かな人間よ。人の身でこの私に適うと思っているのか。私は悲しみの海に沈んだ魂の‥」
「うにゅー!!」「にゃにゃぁぁん!!」
「っち、妬ましい」「むいしき~」
「むきゅー」「ときゃいはー」
「つまりお前達が私に挑むということは海に沈められし幾万の魂と敵対することに他なら‥」
「りぐるーん」「ちんちーん」
「おお、きけん、きけん」「わふ~」
「そして私を倒したとして‥」
「フィィィバー!!」「9回でよい!!」
「ってあぁああ!!もう五月蝿いわね!!台詞が頭ん中入らないじゃない!!!」
あまりにもゆっくりたちのマイペースな会話に耐え切れなくなった少女は台詞を中断して叫び声でそれらに訴えた。
「逃げるのも‥めんどい」「姫ぇ!!」「とらうみゃ!!」「いいから早く逃げるぞ!!」
だが、その叫びにすら気付く者はゆっくりの中にも居やしない。
「あれれ?ていうか‥、もうゆっくりしか残って無いじゃん‥」
どうやら、人間の乗客は既に全員どこかへ避難してしまったらしい。残ったゆっくりものんびりやのゆっくりかぐやとその一行だけだ。
そいつらも無理矢理ゆっくりけーねとゆっくりえーりんが引っ張って退散していく。
「はうぅぅ。また誰にも聞いてもらえなかったぁ」
さっきまでの凶悪の笑顔はどこへ行ったのか、少女は涙目でその場に座り込んだ。
そして体育すわりでうずくまる。
「そうだよ。船を沈めたって、私の姿が見えないんじゃ意味ないじゃん」
少女は消え入るような声でそう呟いた。
少女は、既にこの世の住人ではなかった。
俗に言う幽霊という存在と言えるだろうか。
少女が死んだのはもう何十年も前の海難事故。当時少女が乗っていた船が不幸な事故から沈没し、命からがら救命ボートに乗り込めたまでは良かったのだが、
その後強い波に傾いたボートの上から、彼女一人バランスを崩して海へと落ちて、そのまま溺れて死んでしまったのだ。
別に誰が悪かった訳でもない。船が沈んだのも、少女一人海へ投げ出されたのも不幸な事故の結果であった。
海の上では何の珍しくも無い、あまりにも有り触れた悲劇。
だが、彼女の魂までこの世界から消え去ってしまうことはなかった。
少女はずっとその海域に、彼女が死んでしまったその海の上に、身体を亡くした後も存在し続けた。
その後、少女はこその海域に船が通る度に、船内に侵入してはこうやって乗客に恐れられようと大声で自分の存在を主張している。
『ローレライ』というのは、少女が生きてる間に両親に教えてもらった、船を沈めてしまう水に住まう恐ろしい『魔女』の名前だ。
少女はその魔女の伝承を聞くたび、悲しく、そして恐ろしい想いに包まれ夜眠れなくなったものだ。
自分がこれだけ恐いんだから、他の人も同じくらい怖いに違いない。それにここは海の上だから、船を沈めてしまうその魔女の存在は自分にとても似合っている、
そんな安易な想いから、少女はその名前を騙ることを決めた。
だが、どうやら普通の人間には幽霊というものは見えないものらしい。もちろん声も聞こえない。それは相手がゆっくりだって同じこと。
少女が一生懸命考えた、少女自身が恐ろしいと思える台詞の羅列はまったく意味を成してはくれることはなかった。
それは今回も同様のようだ。
「あーもう、欝だ。死にたい。もう死んでるけどー。 うう‥ぐすん」
そんな自虐的な台詞を呟いたところで、少女を慰めてくれる者も笑い飛ばしてくれる者もいない。
所詮全ては独り舞台。観客さえどこにも居ない。
こんな私の存在に、何の意味があるというのだろう。
少なくとも少女はその瞬間が来るまで、そういうことを思っていた。
「目の前に居るのは、悲しんでる人類?」
「ぐすんぐすん‥、て、え?」
その空に浮かぶ謎の饅頭が現れるまでは。
「‥‥‥あれ? え?」
「ゆっくりしていってなー!」
少女の目の前に現れたのは翼も無いのに宙に浮かぶ、金髪の1頭身の饅頭だった。
大きさはサッカーボール程、金色に輝く髪に特徴的な赤い大きなリボン、そして笑顔の口のうちにある鋭い八重歯、ゆっくりるーみあと呼ばれるゆっくりだ。
それが、気のせいだろうか、少女の顔を覗き込むように顔を近づけ、少女の方に向けて声をかけてきた。
少女は信じられないという顔をして、慌てて後ろを振り向く。
だが、少女は廊下の壁にもたれかかるように座っているのだ。少女の後ろに居る誰かに話しかけた、というオチは恐らく無い。
間違いなく、このゆっくりは少女に対して、声をかけてきたのだ。
「あ、あなた‥見えてる? 私のこと、分かるの?」
驚愕の表情は崩さぬまま、少女は一つ一つ、言葉を搾り出すように聞いた。
「るーみゃー?当たり前なー」
ゆっくりるーみあは元気良くくるくると身体を回転させながらそう答えた。
何故か無駄に嬉しそうだ。
間違いない‥!
私は今、見られている。
知覚されている。
私は今、ここに居る。
少女の表情がみるみる内に朗らかな笑顔に包まれていく。
やった、やった、やったぁ!!
やっぱり居たんだ。
幽霊の見える人‥人じゃないけど、霊能者って本当に居たんだ。
無駄じゃなかったんだ。
私のこれまで幽霊人生は無駄じゃんかったんだ。
胸に広がっていく歓喜を抑えつつ、少女は堪え切れない笑顔と共に勢い良く立ち上がる。
そして、依然として自分のことを見てくれているゆっくりるーみあに対し、高らかと語り始める。
「ハッハハアハハ、ハハハハアハハアハハハ、あなた運がいいわねぇ!!この私、深淵の魔女ローレライの姿を見ることができるなんて!!良い冥府への土産を手に入れたものだわ!!」
「るーみゃー?」
無駄だと思いながら、それでも一生懸命考えて、精一杯練習した台詞が、自然と口から流れていく。
よし、変な緊張は混ざっていない。
緊張しちゃだめだ、いつも通りにやらないと。
「そう、私は絶望と終焉の歌い手、ローレライ。どんな大船をも沈めてしまう海の上の恐ろしいモノ。この船も、もうすぐお仕舞なのよ。
だって私は既に歌ってしまったから。この船の終わりの歌を」
聞いてくれている者がいて嬉しいのか、その語りはいつもの少女のものより、ずっと熱が入った情熱的なものとなっていた。
その凶悪な笑顔の演技も、どこか満足気な表情である。
「さぁ、恐怖に嘶き絶望に抱かれローレライの名に畏れ戦くがいい。アーハッハハハハハハ、アハッハハハハハハ!!!」
少女は長々しい台詞を一人のゆっくりに対し言ってのけた。
嘆きの悲鳴をあげる。恐怖で顔を歪ませる。そんな自分に対するリアクションを期待して。
「そーなのかー」
だが、ゆっくりるーみあは一言そう呟いただけだった。相変わらず能天気そうな笑みを浮かべてそこに浮かんでいる。
「‥‥、コホン。つまり、今この船が沈んでいるのも、乗客たちが慌てあふためいて走り回っているのも、全ては、全ては私の、魔女ローレライの仕業なのよ!!」
「そーなのかー」
言い直してみたが、反応は全然変わらない。
能天気そうな笑顔でどこまでも幸せそうな状態で浮かんでいる。
(難しい言葉じゃ分からないのかな‥)
ゆっくりの年齢と言うものは見た目じゃちょっと分からないが、この無邪気そうな表情、もしかしたら相当幼いゆっくりなのかもしれない。
少女は少し頭を掻いて、小さい子でも分かり易いような言葉でもう一回言ってみる。
「私がこの船を沈めているのだ!!船の上の人たちが困っているのも全部私のせいだ!!」
「そーなのかー」
(ううん‥、もっとシンプルに)
「私は幽霊魔女だ!とっても怖いんだ!!お前も怖い目に会わしてやる!!」
「そーなのかー」
(もっと、もっと簡単に。えぇと、ええと‥)
「うらめしやー!うらめしやー!」
「そーなのかー」
「呪ってやるー!呪ってやるー!」
「そーなのかー!」
「おいてけー、おいてけー!」
「そーなのかー!!」
「がおー、食べちゃうぞー!」
「そーなのかぁー!!!」
駄目だ‥。全然恐がってる様子はない。
寧ろどんどん元気になっているような気さえする。
ゆっくりがとことんまでマイペースな生き物だということは知っていたが、まさかここまで酷いとは思っていなかった。
「ああもう畜生―!」
少女はがっくりと膝をつきうな垂れた。
せっかく、沈み逝くこの船の上で自分の姿に気付いてくれる存在に出会えたというのに、それがこんなマイペース饅頭だなんて。
自分の幽霊人生、どこまで巡り合わせが悪いのだろう。
責めて一言でも『わーきゃー』とか悲鳴をあげてくれればいいのに、この饅頭は済ました笑顔で『そーなのかー』としか言ってくれない。
此れではあまりにも惨めじゃないか。
少女は泣きそうになる両目を必死に擦りながら、『うう‥』と低い嗚咽をもらした。
「目の前に居るのは、また悲しんでる人類?」
ゆっくりるーみあはそんな少女の様子を心配してか、気を使うように優しく話しかけてきた。
ちょんちょん、と、慰めるように自身の柔らかいほっぺを少女の頬に摺り寄せてくる。
少女には実体がないのでその頬ずりは空を切るだけだったが、その心遣いに少女の心に確かに届いた。
ああ‥、
こうやって、誰かに慰められたのは何十年ぶりだろう‥。
直接肌は触れ合っていないのに、ほっぺが何だかすっごくあったかいや‥。
私はこの船を沈めた張本人だって言ってるのに、それに恐れを抱くことなくこの子は私を慰めようとしてくれている。
なんていい子なんだろう。
それに比べて私は、本当何やってんだろう。
こうやって姿を見てくれて会話してくれるだけで十分じゃないか。
「うう‥、いいよ、私は大丈夫だから」
「そーなのかー?」
「大丈夫、大丈夫だから。ありがとう‥、うう」
「そーなのかー‥。でも心配だからおにーさん呼んだ方がいいかなー?」
大丈夫とは言っているが、いまだに涙目で俯きがちな少女のことが心配らしい。
『おにーさん』とはゆっくりるーみあの飼い主のことだろうか。側にそれらしい人間がいないところを見ると、どうやら今は別行動をしているらしい。
「いいよ、いいのよ。どうせ、私は普通の人には見えないんだし」
少女は自虐気味に微笑み、気を使ってもらって悪かったなと思いながらそう返した。
「そーなのかー?でも、おにーさんはるーみあみたいに幽霊とか視えるのなー」
「だからいいって‥え?」
少女の動きがビクっと止まる。
「今、何て‥」
「だから、おにーさんもるーみあみたいに幽霊とか視える人類なのなー」
「‥‥‥」
少女の体感時間が3秒ほど見事に停止する。
「るーみゃー?」
ゆっくりるーみあが心配そうに声をかける。
すると少女は、がしっ、とゆっくりるーみあの頭を片手で掴むように押さえた。
実際には触れられないのであくまで掴む振りだけだが。
「るーみゃぁ!?」
「その『おにーさん』とやらのところに、この魔女ローレライを連れて行きなさい」
ニヤァ、とした凶悪そうな笑顔を取り戻し、少女は嬉しそうにそうゆっくりるーみあに命令した。
幽霊人生はや数十年。
落ち込むことも多いけど、立ち直りの早さには自信アリ。
「くそっ、何でこんな目に!!」
「どこに行けばいいんだ?どこに行けば安全なんだよ!?」
「きゃー、もうやだー」
「うえええんん、ママー!!」
タキシードを着た青年男性、ドレスを着た熟年女性、年端のいかない少女、etcetc。
あらかた避難し終えた思っていたが、まだそれなりの人数は残っているようだ。
慌てふためいて思い思いの方向へ廊下を走りぬけたり、立ち止まってうろたえたりしている。
そんな中、少女とゆっくりるーみあは宙を浮きながら廊下を直進していた。
「あなたの『おにーさん』とやらはまだ脱出してないの?こんな状況でまだ部屋に篭ってるなんて、正気の沙汰じゃないんじゃない?」
「そーなのかー?でもまだ部屋に居るはずなのなー」
既に船が氷山と衝突してから2時間余りの時間が経過している。船の揺れはどんどん激しくなり、浸水している場所もところどころあるようだ。
そんな状況で一人自分の部屋に閉じ篭っているとは、にわかに信じ難い話だ。
だが、ゆっくりるーみあの物言いは断定的で、ウソをついている素振りも、いい加減なことを言っている気もない。
どういう事情か知らないが、本当の話のようだ。
まぁいいか。
脱出云々は既に死んでいる少女にとってどうでもいい話であるし、わざわざその『おにーさん』とやらの心配をしてやる義理はない。
そんなことより、今から何て言ってそいつを驚かせてやるか考えておくことの方が何倍も大事だ。
大の男が自分を見て驚き慌てふためき泣き叫ぶ、そんなずっと夢見てきた光景をもうすぐ見届けられるかもしれないのだ。
クフフ、と少女は一人ほくそ笑む。
正直楽しみで仕方無い。
そう思いながら、通路の右を曲がり、ゆっくりるーみあと一緒に階段を走り降りて、下の階の廊下に出る。
この階も、まだ浸水はしていないようだ。
「すみません!!娘を‥娘を見ませんでしたか!!??」
「うわ!」
廊下に出てすぐのこと、少女は廊下をさ迷い歩いていた中年の人間の女性とぶつかりそうになった。
もちろん実体の無い少女は決して他人とぶつかるなんてことできないのだが、気分の問題である。咄嗟に少女は廊下の端に避けた。
「済みません、そこのゆっくりさん。私の娘を‥、まだ5歳なんです!見ませんでしたか?金髪で赤の服とスカートを着た、私と同じ目の色をした女の子です!!」
幽霊は普通の人には見えない。だから当然その女性が話しかけたのも、少女ではなくゆっくりるーみあの方だった。
尋常ならぬ物言いで彼女はゆっくりるーみあに詰め寄る。
どうやら自分の娘がこの混乱の中、迷子になってしまったようだ。
顔面蒼白、女性は今にも倒れてしまいそうな危うさに包まれていた。
「ごめんなー。るーみあはそんな人類見てないなー」
「そう‥ですか。嗚呼、どこに、どこに行ってしまったの‥」
女性はがっくりとうな垂れ、また廊下をさ迷うように早足で歩き始める。
その背中は遠めでも分かるくらい悲しみにくれていた。
ん、あれ?
ふと、少女は気付いた。
「あの人が言ってた迷子の子って、さっき見た上の階に居た子供のことじゃない?『ママー』って泣き叫んでた」
「そーなのかー?」
ゆっくりるーみあは少女の方にくるりと向き返り、能天気そうな呟きと共に答える。
「ほら、居たじゃない!間違いないよ、金髪で赤い服着てたし。目の色は覚えてないけどきっとあの子だ」
「るーみあは知らないなー」
どうやら、本当にゆっくりるーみあは気付かなかったらしい。元々注意深いゆっくりにも見えないし、廊下を横切る人はその女の子の他にもたくさん居た。
ゆっくりるーみあが気付けていなくても不思議ではない。
少女にしても気付いたからといって、それをあの女性に伝える義理はなかった。
この船が沈むまでまだ暫く時間がかかりそうだが、いつまでも『おにーさん』とやらが自分の部屋に引き篭もっているかは分からない。いくのなら1秒でも早いほうが良い。
あの女性にわざわざ娘のことを伝えてやる時間は惜しい。そもそも少女の姿はあの女性には見えないのだ。伝えたくても伝えられない。
だが、
「どこなのー!!返事をしてー!サラぁ!!サラぁ!!!ああ、ううう、どうしたらいいの!!サラぁ!!!」
必死に娘の名を呼ぶ女性の後ろ姿を見て、少女は悲痛な表情をした。
このままじゃ、あまり思い出したくない記憶を思い出しそうだ。
ああ、もうしょうがないなぁ。
「るーみあ、ちょっとあの人にもう一回話しかけてきてくれない?『やっぱりあなたの娘さんの姿は見てた』って」
「るーみゃー?」
「有難うございます!有難うございます!!」
先ほど少女とるーみあが走っていた、女性が居たところより1階上の廊下。
女性は何回もゆっくりるーみあに向かって頭を下げた。
その胸には泣きくじゃる赤い服を着た女の子が抱えられていた。
「そーなのかー!」
ゆっくりるーみあは嬉しそうにその礼に答える。
「ふぅ、これで良し。それじゃるーみあ行きましょう」
「分かったー。それじゃばいばーい」
少女の言葉にゆっくりるーみあは頷いて、女性に向けて別れの言葉を送り、そのまま振り向いて、今来た廊下を逆走しようとした。
「ま、待ってください!責めてお名前を!」
女性が義理堅く尋ねる。
それにゆっくりるーみあは後ろを振り向かず答えた。
「るーみあはるーみあだよ!!でも、あなたを助けてくれたのはローレライっていう子だよ!」
「あ、はい?」
女性は意図の読み取れない回答にポカーンとしながら、それでも去っていく金髪のゆっくりに対し、深々と頭を下げ続けた。
「よ、余計なこと言わないでよ!」
「るーみあは正直者なのなー」
少女が顔を赤くしながら言った文句を、能天気にいなしながらゆっくりるーみあは廊下を進んでいく。
そして、再び一階下の廊下。
「よし、それじゃさっさと‥」
「お嬢様ぁぁぁぁ!!!!」
う~む、デジャヴュ。
階段を出た先の廊下には、泣きじゃくりながらさ迷い困り果てているゆっくりさくやが居た。
「るーみあ!そこのるーみあ!さくやのお嬢様見なかった!?どこにもいないのー!!」
ゆっくりさくやは不安で今にでも潰れてしまいそうな泣き顔で、宙に浮くゆっくりるーみあに必死で問い掛けた。
お嬢様とは、ゆっくりさくやが敬愛する傾向があるゆっくりれみりあ、通称ゆっくりゃのことだろう。それがこの混乱の中迷子になってしまったらしい。
何で二連続でこんな稀有なシュチュエーションに巡り会わなければいけないのか。少女は思わず頭を抱えたくなった。
「るーみゃー‥。るーみあは知らないけどー」
チラっと、ゆっくりルーミアは少女の方を見つめる。
少女は顔を引きつらせた。
一度ならず二度までも。
何とも幸いで、不幸なことは、少女は迷子のゆっくりゃについて、心当たりがあるということだ。
「お嬢様ぁぁぁぁ!!!!どうかご無事でぇぇ!!!うええええんん!!」
子供のように泣きじゃくるゆっくりさくやの方を見て、少女は困ったような顔をして大きな溜息をついた。
「ok,るーみあ。私知ってるわ。そう言ってあげて」
だから時間が無いんだって、ちくしょうめ。
「ありがとうございます!!るーみあ、本当にありがとうございます!」
「うーうー!!」
嬉しそうに笑っているゆっくりゃに頬ずりされながら、ゆっくりさくやは涙を滝のように流し、ゆっくりるーみあに対してお礼を言った。
「助けたのはるーみあじゃなくて、ローレライっていう子だよ!」
「だから言わなくていいってば!」
そんな会話をして、二人はその場を去る。
予想外の事態に大幅に時間を取られてしまった。繰り返すが、『おにーさん』とやらの部屋に辿りつくのは早ければ早いほどいい。
船もまだ大丈夫だろうが、浮かんでいられる残りの時間なんて少女にも正確には分からない。
これ以上のロスはどうしても避けたいところだった。
次何かあっても絶対無視しよう。少女はそんなことを固く心に誓う。
「誰かぁあぁぁぁああああ!!!助けてぇなぁああああ!!」
誓った直後に狙いすましたかのようのうに、突然そんな助けを求める甲高い大声が走っていた廊下にある部屋の一つから聞こえてきた。
随分切迫しているのか、身を切り裂くような叫び声だ。何か、下手すれば命にかかわるような事態が起こったのかもしれない。
(だ、駄目だったら。無視よ、無視。私が助ける義理なんてないんだから!!)
少女は胸に手をぎゅっと置き、強く心にそう思いこませる。
「お願いやぁぁ!!誰かぁあぁぁぁああああ!!!!」
ああ‥、何て辛そうな声なんだろう。
悲哀や絶望の感情が声に乗って伝わってくる。
いやだ、嫌いだ、こんな声。
こんな声もう聞きたくない。聞きたくないのに。
「お嬢さん、そこの部屋入っていくのなー?」
ゆっくりるーみあが振り返り、少女に気を使うようにそう聞いた。
「な、いいよ!あんな声一々助けることない!それよりあんたの‥」
「でも、随分前から、お姉さんの脚、動いてないよ?」
「‥‥!ちが、これは‥」
「常闇で立ち止まるくらいなら、寄り道した方がいいのなー?」
少女が立ち止まっている脇にある扉の奥からは、依然として助けを求まる大きな叫び声が廊下に響き渡っている。
ああ、違うんだ、自分は。
別に助けを求める人間をほっとけない生ぬるい幽霊なんかじゃない。
ただ、この耳障りな音を聞いていられないだけなんだから。
その部屋はいわゆるファーストクラス、このゆイタニック号で一番高いランクの部屋だった。
絢爛豪華な装飾品に、床一面に敷き詰められた高級そうなカーペットの上には、どんなに船の揺れが激しくてもぐっすり眠れそうなベッド。
船内で放映している番組が見ることの出来る、横幅1mはあるだろう大型テレビに、大量の服を収納できそうな立派な木製のクローゼット。
そして、部屋の中央には、見るものを圧倒する迫力を持った、
巨大で巨大で逞しい、サメ。
「るーみゃー?」
「え?」
そんな呆けた声を出して二人の時間は一瞬停止した。
そう、サメである。
黒光りするザラザラした肌、大きく反れたヒレ、あらゆる生き物を骨ごと噛み砕くことができそうな筋力が発達した顎と細かく鋭い三角形の歯、そして意外と可愛いつぶらな黒い瞳。
少女は知る由も無かったが、サメの中でも最もポピュラーで最も畏れられている、映画『ジョーズ』で有名なホオジロザメその人である。
全長は6mほどであろうか。ただっ広いファーストクラスの部屋がその巨大で恐ろしい生物にほぼ占領されている。
そんなのが、部屋に入った途端、少女達の方向を見ながら横向けに倒れていたのだ。
そりゃ時も止まるというものだ。
ビチンっ、とその巨大な生き物が突然痙攣した。
少女の止まった時が再び動き出す。
「ぃい、いやぁああああああああああああああ!!!!!」
少女は驚いて後ずさろうとして、脚を滑らせ尻餅をついたしまった。
常に宙を浮いている幽霊だって転ぶ時は転ぶのだ。
「や、やだやだやだ!来ないで、いやぁ!!」
少女は涙目になりながら、腰を地面につけたまま後ずさった。
既に一回死んだ身ではあったが、その巨大生物の放つ迫力は少女を震え上がらせるのに十分なものだった。もともとは普通の女の子だ。
こんなでかくて怖い生の海洋生物、死んだからって慣れるものではない。
「お嬢さん、お嬢さん」
「る。るーみあ!鮫が!鮫がぁ!!」
「目の前の魚類は、本物じゃないよ」
ゆっくりるーみあが淡々とした口調で、呆れるようにそう言った。
「な、何言ってるのよ!!どうみたって本物だよ!だってほら、こんなにでっかい!!」
「そもそもここ近海に鮫なんているはずないのになー」
「け、けど実際だからここに‥」
そこで、やっと少女も気付いた。
これだけ大きな鮫が居るのに、部屋の中は随分と小綺麗だ。大きな生物が暴れた形跡はない。
というか、確かに現在進行形でこの船は沈没しているが、この部屋に巨大な穴とか傷はない。
つまり、このでかいのは元々、この部屋に、船が沈み始める前から存在していたことになる。
それに、さっき一回ビチンと跳ね上がったきり、この鮫が動く気配はさっぱりない。
「‥‥‥」
少女は慎重に部屋で横たわっている鮫に近づくと、そぉっと手を伸ばして鮫の皮膚に触れてみる。
もちろん触ることはできないが、それに命があるかどうかくらいは幽霊である自分でも判断はつく。
そして、何の反応も感じられないことも気付くと、少女はまた慎重に、更に身体を鮫に近寄らせ、その巨大な鮫の身体に自分の頭を透き通らせる。
鮫の中は何だかゴチャゴチャしたよく分からない精密機械で敷き詰められていた。
少女は大きく目を見開かせて、振り返り、叫ぶ。
「凄いよ、るーみあ!これロボットだ!凄くよくできてる!!」
「そーなのかー」
心なしか呆れ気味にゆっくりるーみあは答えた。
「だ、誰かそこにおるんか」
突然、少女の下方、つまり、大きな作り物の鮫の身体の下から、そんな存在確認の言葉が聞こえてきた。
「るーみあはここにいるー」
ゆっくりるーみあが不警戒に明るく笑顔でその言葉に答える。
「す、すまんが、ワシをここから出してくれんか。苦しうてたまらんのや」
鮫のインパクトが強すぎて少し忘れていたが、そういえば自分たちはこの部屋で助けを求めてる奴を救助しにきていたのだ。
少女はきょろきょろ辺りを見渡し、そして自分のちょうど足元にその人物を発見した。
頭身の極端少ない身体、大きく下がった垂れ目、そしてチャームポイントの大きな兎耳。そして生理的に何かキモい感じの顔。
ゆっくりうどんげの亜種、きもんげだった。
それが今、巨大な作りものの鮫に挟まって呻いている。
「‥どういう状況よ」
「何があったのなー?」
少女の咄嗟の呟きに追随するようにゆっくりるーみあがきもんげに尋ねた。
「うう、当然の疑問やな。取り敢えずこの体制はえらいしんどいから3行で説明するで」
ワシは日本の精密機械系の会社の代表取締役、きもんげ社長や。
今度ハリウッドで自社のアニマトロニクス(精密な動物型のロボット)が使われることに。
せっかくだから豪華客船で持っていったろ、と思ってたら激しい揺れで鮫が倒れてきおったでー。
「そっか‥、アホだね」
「アホなのなー」
「やかましいちゅうねん!」
随分重そうな機械の鮫の下敷きになりながらも、きもんげ社長は懸命にツッコミを入れた。
どうやらこの巨大な鮫は映画の撮影用に使う道具のようだ。どうりで本物さながらの迫力がある訳だ。
「made in japanか‥。どうりで精巧な訳だ。映画かぁ、最近見てないなぁ」
「おい、そこのゆっくり。お前はあれか?飼い主つきか?やったらはよ飼い主さん呼んでこのどでかいのどかしといてや。礼ははずむさかい。後生やから」
きもんげ社長は涙目になりながら必死にゆっくりるーみあに懇願する。
作り物とはいえ、これだけ大きな機会の塊、ゆっくり一人でどうにかしようなど土台無理な話だ。身体の大きな人間でも複数の協力がなければ動かすこともできないだろう。
「そーなのかー」
「そーなのかー。じゃないわ!ボケェ!!いやマジお願いします!」
飽くまでマイペースなゆっくりるーみあにきもんげ社長は本当切実そうな顔で呼びかける。
どうしてこんな出来の悪い漫才みたいな現場にかち合わなきゃならないんだろう、少女は大きく溜息をつき、ゆっくりるーみあに言う。
「いいよ、るーみあ。このくらいなら私一人で何とかなる」
「そーなのかー?」
ゆっくりるーみあが訝しげに顔を横に傾ける。
少女はこの世に存在する物体的なものに触れることはできない。
それは当然、この巨大な鮫の置物も同様のはずだ。
だが、少女はそんなゆっくりるーみあの心配を受け流すように言う。
「当たり前でしょ。私を誰だと思ってるの?」
胸に手を当て自慢げにそう言うと、少女は大きく口を開いて深呼吸した。
軽く唾を飲み込み、アー、アー、アー、と声を整える。
そして、また大きく息を吸い
La-la~♪ LA-lalala-lalala-,LA-lala-lalalala-la-la-la♪
そんなシンプルな単調の歌を歌い始めた。
軽快で馴染みやすい、大人よりも子供が好みそうな、暖かい陽日を感じさせるような明るい音調の歌。
沈み逝く船上の要救助者の目の前で取る行動とはとても思えないが、不思議と少女の表情は真剣だった。
静かに心情を込め、目を瞑りながら室内に響かせるようしっとりとした歌声をその小さな口から放っている。
「るー!るー!るーみゃー♪るーみゃー♪」
ゆっくりるーみあもそれを聞いて楽しくなってきたのか、リズムに合わせて身体を揺らし始めた。
「おい、踊ってる場合とちゃうで!この体制もマジきついんやからな!!おい、るーみあ、聞こえとるか!?」
もちろん、きもんげ社長にはこの歌声は聞こえない。
突然変な奇声と共に踊りだしたゆっくりるーみあを不振に思いツッコミを入れる。
が、言ってる間に、彼女(?)を押しつぶしている鮫のアニマトロニクスがガタガタと震え始めた。
「な、なんや!?」
- la-lalala-la-lalala-lan-lan-lan-lala-lala-lalalalan-lala-lalala-lan♪
そして、ゴロン、と突然鮫の巨体は横回転し、きもんげ社長の頭を、
「ふみゃ!!」
転がりながら思い切り踏み潰していった。
そしてゴロンゴロンと壁際に転がりつく。
- Lalala-lalalan♪ ‥あぁ、ごめん。転がす方向間違えちゃった」
ベロを半分出しながら悪戯を謝るように彼女はきもんげ社長に対し頭を下げた。
「きゅぅ」
被害者本人は軽く気絶してしまったようだ。
まぁ今までずっと身体を下敷きにされてても無事だったんだから、あれくらいじゃ命に別状はないだろう。
そんなことを少女は勝手に思う。
「お嬢さんは結構やるタイプの人類?」
感心したようにゆっくりるーみあが少女に尋ねる。
「まぁ騒霊騒動(ポルターガイスト)くらいはね」
伊達にローレライの名を騙ってはいない。
物を宙に浮かすことはできないが、ある一定の方向に引っ張る力はそれなりに持っているつもりだ。
けれどそれは飽くまでそれは動かす力、物を捻じ曲げたり壊したりすることはできたことはない。
自分以外の幽霊には出会ったことがないので、これが幽霊全てがもっている能力なのか、自分だけの特別な能力なのか知る由は無かったが、
人をちょっと驚かせるくらいならなかなか使える能力だと少女は思う。
といって海上じゃたまに通りかかる船の上ぐらいでしか使う機会がなく、例え動かしても、絶えず波が押し寄せる船上では自然の揺れの結果だと思われて、
自分の存在のアピールに役立つことはほとんどないのだが。
「歌った意味はー?」
「気分」
少女がローレライを名乗る上で、自分で自分に課しているちょっとした義務みたいなものだ。
あと、実際歌ったほうが気分が乗って、より大きなものが動かせる気がする、ということもある。
何はともあれ、これで一応助けを求めていたきもんげ社長は助けることができた訳だ。
「あーあ、余計な時間使っちゃったよ」
「そーなのかー」
そうとなれば長居は無用。
少女は気絶しているうどんげ社長を尻目に、半分呆れ気味に、半分安堵したような表情をしながら部屋の外へ出て行った。
「ちょ、ちょっと待ってなー」
ゆっくりるーみあは部屋の外に出て行く少女を目で追いながら、急いで口にペンをくわえ、室内電話の側にあったメモ帳に何か走り書きをする。
そして、そのメモ用紙を切り取ると、気絶するきもんげ社長の側に置き、急いで少女の後を追っていた。
「ってハッ!!わ、ワシは助かったんか!?」
少女とゆっくりるーみあが去ってから数分後、きもんげ社長は頭を打った衝撃から漸く回復し、上半身を起こして辺りを見渡した。
さっきまで自分を苦しめていた鮫のアニマトロニクスは壁端に沿って横たわり、動く気配は無い。
何が起こったかは分からないが、どうやら助かることができたらしい。
きもんげ社長は深く安堵の息をついた。
「あ、そうや?あのるーみあは何処行ったんや?」
起き上がり、またきょろきょろと辺りを見渡すが、この部屋に居るのは自分とあのどでかい鮫だけのようだ。
もう行ってしまったのか?そう考えた矢先、きもんげ社長は自信の足元にあるその紙を見つけた。
それは、最後にゆっくりるーみあが残した、判別が困難なほど汚い字の伝言。
「なになに、『シャチョーさんを助けたのはローレライっていう女の子だよ!ゆっくり感謝するんだな!!』か?」
仕事柄ゆっくりの書く字を見るのに慣れているのか、きもんげ社長は迷うことなくすらすらとそれを読み上げた。
そして少し考えてポツリと呟いた。
「ろーれらいって誰やねん」
もちろんその疑問に答えてくれる者はどこにもいない。
- るーみあの口調がおかしいですよー -- 名無しさん (2009-06-10 19:16:34)
最終更新:2009年06月10日 19:16