福引でゆイタニック号の乗船券が当たったのだがちぇんは最後までぐずっていた。豪華客船ということは海の上である。
ちぇんは泳ぐことができない。
ちぇんは水にぬれると
ゆっくり饅頭になってしまうため泳ぐことができないのだ。(乾けば元に戻る)
しかし実際に来てそんなことはきれいさっぱり忘れてしまった。とにかく大きい。ちぇんの怖い海も全く見えないほどだ。
お日様のように明るくて宝石のようにきれいなシャンデリア。とろけるような甘い香りが漂うお菓子屋さん。
テーマパークではふたりでゆっくりじゃらし、うーぱっくライド、弾幕アトラクションを楽しんだ。
ゆっくりにとってはまさにひとつの都市だった。
すっかりゴキゲンのちぇんがぽいんと跳ねるとゆっくりにぶつかって本が散らばった。
「むきゅ~」
「ご、ごめんなさい!」
らんが平謝りして本を拾い上げると
「いいんですよ。とてもゆっくりした子ですね」とゆっくりぱちゅりーがほほ笑んだ。
「私はあんな風にぽいんぽいん跳ねることができないからもっぱら本を読んでましたわ。
この船の図書館はとても貴重な古本まで充実していて素晴らしいですわ。」
ひとしきり遊んだらんとちぇんは部屋に帰ってゆっくりしていた。雲のようにふかふかのベッドの上でふたりともぽいんぽいんしながら
「らんしゃまー、あしたもゆっくりあそぼうね~」
「ゆっくり遊ぼうね!!!」
そう言ってらんはさらに尻尾でちぇんを高い高いしていた。その時ドーン!という音とともにひときわ高くちぇんが高く打ち上げられた。
「ゆぅ~おそらをとんでるみたい!」
激しい揺れでちぇんをベットの上に落としてしまった。
「わかるよー。らんしゃまはそんなことぜったいしないよー。」その時船内アナウンスが流れてきた。
「乗客の皆様。ただ今ゆイタニック号は氷山に衝突事故を起こしてしまいました。その際搭載していた避難ボートが
半分落とされてしまいました。そこでお客様のゆっくりの中で空を飛べるゆっくり、泳ぎの得意なゆっくり、
寒くても平気なゆっくりの方は自力で脱出するようお願いいたします。ゆっくり避難していってね!!!」
もっともこれは船側の嘘である。ゆイタニックの避難ボートは初めから乗客、クルーのちょうど半数分しか無かった。
――見栄えが悪くなる――というオーナーの鶴の一声での出港前に取りはずされていたのだ。
しかしそんなことはこの二人には関係ない。らんとちぇんの顔はたちまち青ざめた。
「らんもちぇんもひとつも当てはまらないよ!ゆっくりボートで非難するよ!!!」
「わかるよー。ボートでひなんするんだよー。」ふたりは避難ボートを目指してぽいんぽいんと跳ねていった。
その時警備員のけたたましい声が聞こえた。
「いたぞおぉぉぉ!乱射魔だ!」
「ゆっくりちぇんをゆ質にしているぞ!」
「え?」
どうやら船内にもぐりこんだテロリストと勘違いされたらしい。
「ちょ、ちょっとゆっくり話を聞いてね!!!」
しかしパニックを起こした警備員は銃をぶっ放してきた。どっちが乱射魔だ。
話し合おうにもゆっくりしてくれない相手では逃げるしかない。やがてうまいことダクトを見つけるとそこに隠れこんだ。
人間では追ってこれない狭さだ。やがて気配がしなくなった。船が沈むとなればそれどころではないだろう。
ダクトからゆっくり出ると再びボートを目指した。
「ちぇん!ゆっくり避難しようね!」
「わかるよー」
ようやくボートの場所にたどりついた二人だが既にボートは1隻もなかった。
目の前には真っ黒い海と、反するようにまっ白い氷山があった。あの氷山がゆイタニック号を壊したのか。
らんは必死に泳いで運よく波に乗れば氷山までたどり着けるかもしれない。しかしちぇんは海に飛び込んだ時点で終わりだ。
それぐらいなら死んだ方がましだとらんは思った。やがてガコン!という音を立てて船が折れ傾き始めた。
策は無くとも上を目指すしかない。ゆっくりはもっちりお肌で吸い付くことができる。しかもらんやちぇんは尻尾があるので
他のゆっくりよりも登坂能力が高い。上を目指して登っていくと上から何かゴロゴロと転がってきた。ゆっくりだ!
このままでは海に落ちてしまう。らんとちぇんはそのゆっくりを尻尾で受け止めた。
「むきゅ~」
「ぱちゅりーさん!」
ゆっくりぱちゅりーだ。ゆっくりぱちゅりーはほかのゆっくりに比べて体力がないのでお肌の吸い付きも弱いのだ。
体力のなさは避難でも不利になりぱちゅりーはゆっくりしすぎて逃げ遅れてしまったのだ。
「むきゅ~。避難ボートは?」
「もう1隻もないよ!!!」
「ええっ!」
「それにこの子は水に弱いのよ!もうどうすればいいかわからない!」
氷山は比較的近くにあるがぱちゅりーもそこまで泳ぐ体力は無いだろう。
「むきゅう・・・いい考えがあるわ!らんさん、この子と一緒に私も助けてもらえませんか?」
「もちろんだよ!」
「ならゆっくりついてきてね!」そう言ってぱちゅりーが行った先は「kuneri guru」の厨房だった。
窓が割れていて回りには銃弾の跡があった。もしかしてこれが本物の“乱射魔”の仕業だろうか?
キッチンの中からビニール袋と食材を探し出すと、
「このビニール袋の中に私とちぇんちゃんを入れて空気を入れて口を縛り風船のようにして!」
「そうか!」
これなら水が入る心配はない。念には念を入れてビニール袋を何枚も重ね、そのビニール袋の中にちぇんとぱちゅりーを入れタオルと毛布、
食料を詰めた。そして風船のようにふくらませて縛った。そして意を決して袋とともにらんは海に飛び込んだ!
9本の尻尾のうち4本でちぇんとぱちゅりーの入った袋をがっちりつかみ、残りの5本の尻尾で水をかいて泳いだ。
「つつつ、つべたい!」ビニール袋が浮き袋の役目を果たしたおかげで沈む心配はなかったが北の海はあまりにも冷たかった。
周りにゆっくりにとりが泳いでる姿も見えるが彼女たちですらこの冷たさには苦戦していた。
ビニールで遮断されているとはいえ目の前に叩きつけられる波しぶきはちぇんにとって恐怖以外の何物でもなかった。
それを見てとったぱちゅりーは「ちぇんちゃん、お姉さんがお歌を歌ってあげるわ。」
※おジャ魔女カーニバル!!(おジャ魔女どれみ 無印オープニングのメロディーで歌ってください)
お空にひびけ ゆっくりゆんゆんゆん
むーしゃむーしゃ しあわせ~♪
テストで3点、笑顔は満点
ドキドキワクワクは年中むきゅー♪ ずっとずっとね 年中むきゅー♪
「ゆぅ~。わかるよー、ゆっくりできるよー。」
ちぇんは落ち着きを取り戻し、らんは氷山にたどりついた。
「ううう、さぶいっ!」らんの濡れた体をタオルで拭き取り毛布にくるまって3人ですりすりして暖を取った。
「らんさん、ありがとうございます」
「らんしゃまー、ありがとー、らんしゃまー。」
ゆっくり達が避難している氷山に救助船が来たのは翌日だった。
最終更新:2009年06月10日 22:58