「ちくしょうッ!何がドスマリーサカンパニーだッ!何が豪華客船だトンチキがッ!
さっそく沈んでんじゃねーかよこのボケがァアアアアアア!!!」
叫んだ。無駄だと解っていても叫ばざる得ない。
何せ今現在この船は着々と海へ沈んでいるのだ。
たまたま船員専用の食堂でインタビューをしていた俺はこの沈没事故にいち早く気づき
とりあえず救命ボートに乗ろうと船内を駆け回っていた。
だがしかし悲しいかな。記者魂が覚醒した俺の腕が勝手にカメラを使いパニックに陥った船内を撮影し始めた。
ハァ……ハァ……静まれ!俺の右腕よ!
さて、そんなこんなで、まさしくスクープ映像を取ることに成功したのはいいのだが
同時に逃げるタイミングを失ってしまった。
最初に事故に気づくというアドバンテージを失った俺に未来はにい。
人の波に逆らいつつ、救命ボートを手当たり次第探すがどこも空いていない。
……まさに迂闊。
「ちくしょうあのドス!ふかふかボディだからって調子に乗りやがって!ぜってー謝罪賠償と責任追及して
生放送謝罪会見で延々10時間質問攻めにしてやらァアアアアアアアア!!!」
この場合、生き残る為に必要なのは反省する謙虚な気持ちではない。とりあえず適当に誰かのせいにしておいて
テンションをあげていくことだ。
そんな事を叫びつつ、この広い船内を走り回る。
ひたすらがむしゃらに走りまわる。ただこの沈みゆく巨獣から逃げる手段を探して
探して……探して…………ん?
待て。ちょっと待て。
今、俺の目がこの混乱によって何らかの異常を起こしていなければ
今ちらっと、テーブルに座ってお茶の時間を過ごしているゆっくりと人間の姿が見えたような気がするのだが。
HAHAHAそんなバカな。ありえん(笑)
なんとなく確かめることにした。そんな時間もないのに。
数mほどバックしてみる。そこにあったのは
【バー・秘封倶楽部】
バーである。バールではない。ごく普通のバーだ。
バーテンダーはいない。当然だ。
しかし客はいた。しかも1人と1……匹でいいのだろうかこの場合。
と、どうやらその1人がこちらに気づいたようだ。こっちを見て手招きをして
……あれ?俺はなんで何時の間にバーの椅子に座ってんだ。
「やあ、僕●ッ●ー。」
「危ない伏字は止めなさい。」
男の方は見た目30代前半ぐらいか。
不精髭を生やした上下ダークスーツの冴えない顔の男である。
その上何やらやたらめったら首から双眼鏡をぶら下げている。
もう一方の方はゆっくりえーりんだ。
あまりゆっくりに詳しくないので細かいことは言えないが、奈須。間違えた。
ナスっぽいと評判のゆっくりだったはずだ。
「いやアンタら何をしてるんだよこn」
「まあまあかけつけ一杯。ウィスキーでも。」
「さっきから飲みっぱなしじゃない貴方。」
無理やり飲まされた。でも美味い。豪華客船に有るだけはある。
「ってだからちょっとm」
「こっちはダラス・ドゥーの1972年のでしてねえ……」
「ああ、どうもどうも。」
んー美味い。キツイ香りの割にまろやかな味だ。
ふとえーりんの方を見た。えーりんもグビグビと饅頭体型で酒をあおっている。
「彼女のは古酒でしてね。270年物なんですよ。もう今じゃ手に入れるのは難しくくて。
私も飲ませて貰えないんですよ。」
ほうほう。そいつは残念だなーっておいおい。
「いやだからですね。あんた今すぐ逃げなきゃn」
「次はノックドゥの21年物でも。ささ。」
「これはこれはご丁寧に。」
「趣向を変えてシミーン・アルヒでも。」
「私も飲むわ。」
「イイサケダナー。」
「お酒強いですねー。」
はてさて。どれほどの時間ここにいただろうか。
俺が駆け回っている頃には、既に大多数の人間が避難、もしくは海に飛び込んでいたので
結構人は少なかった記憶がある。しかし今は周りには1人と1匹しかおらず
辺りは静けさと海水に包まれていた。
「って足元まで水きてるぅううううううううううううううう!!!!」
「その前に、なんでこんな90度以上傾いてる状態で無事なのに気づかないのかしら。」
「なっ……なァ!!!」
言われてみれば、今現在俺は椅子に座りながら、おおよそ90度ほど船と一緒に傾いている。
この状況だと船はこのまま縦に沈むのだろう。だがちょっとまってほしい。
そもそもなんで俺生きてるの?
「いやまあ気にしない。気にしない。それより酒を飲みましょう。」
「いや流石に無理だろ。なんなんだアンタ。」
あれだけ酒をバカスカ飲んだのに不思議と頭は冴えていた。この常識的に考えておかしい状況なせいだろうか。
「何者なんだアンタ。」
「あー神ですよ。所謂ゴッド。」
「こんにちは。死ね!」
思わず頭をひっぱ叩いてしまった。これが本当に神ならもの凄い罰当たりな事をしてしまった。
男の方を見てみるとなんか涙目になってるキモい。
「まあ私も神なんだけどね。ゆっくりえーりん達の。」
そのまんまじゃねーか。ていうか普通のえーりんと区別つかねーよ。
「わからない?この溢れ出る少女臭が!」
薬くせーよ。病院とかで稀にだがよくある臭いだよそれ。
まあなんだ。とりあえず神ってのは本当なんだろう。
だがしかし、ここで疑問が残る。
「アンタら何しに来たんだ?」
そう。わざわざこんな沈みゆく船で酒を飲むその理由がわからない。
命の危険はないのだろうが、それでもこんな場所では普通飲まないだろう。
すると、男はごくごく普通の顔でこう言ってのけた。
「いやぁ、なんかロッカーに閉じ込められて出られないって叫んでる双眼鏡の声を聞いたもので
助けに来てみたらあらびっくり。」
「私も似たようなものよ。どこからかかぐやの助けを呼ぶ声を聞いて駆けつけてみたら。
たまたま懐かしいのに出会っちゃって。」
んー。俺の耳はついに腐ったか?いま何か変な言葉が聞こえたんだが。
「まて、今双眼鏡って言ったか?」
「ええ。私、双眼鏡の神ですし。望遠鏡の神も同時にやってますけど。」
「バカジャネーノ」
思わず本音が出た。失言である。
「だいたいなんだよ双眼鏡の神って。あんた馬鹿だろ。」
「ししししいいいいいいいいつれいむなぁああああああ!!!!ちゃんとした神ですよ!双眼鏡馬鹿にしないでくださいまし!
双眼鏡助けるついでに船がゆっくり沈むようにしたんですよ私!そんなに力ないのに頑張ったんですからね!」
なんか激怒してるし口調がおかしい。はっきりいってキモい。
「だーさいきんの若い人はなんだってこう双眼鏡を……」
「これがヤゴコロ流北斗神拳よ!」
「ゆべんとすッ!」
えーりんがあの引っ張りたい三つ編みで、神様の脇腹辺りをつつくと
神様は急にバタンと倒れてそのまま動かなくなった。
空気が重い。なんでだろうか。
「そろそろ逃げなくていいの?」
えーりんがやっと口を開いた。
そうだ。逃げねばなるまい。
「あんたはどうするんだ?えーりん?」
尋ねてみた。するとフフフと笑い声が聞こえた後に
「わたしはもうちょっとここにいるわ。まだ見てない人もいるし。」
?が頭の上に浮かんだが、気にしないことにした。
「んじゃ帰ります。」
「今うーぱっくを上に待機させてるから乗って行きなさい。こんな神のグダグダな飲みにつき合って貰ったお例よ。」
「あーどうもあんがとございます。では。」
「ええ、気をつけて。」
目の前に大きさ1mぐらいのうーぱっくが現れた。ホントにでけえな。
でも狭いや。
そのまま乗り込むと、うーぱっくは陽気な声を出しながら真っ暗な空へ飛び出していった。
さて、ここは港である。すごく普通の港である。
数日前はまさかこんなに早く戻ってくるとは欠片も思っていなかった。
しかし今の俺には大スクープになりうる写真が山ほどある。
後は社に戻ってこれを現像して記事にするだけなのだが、その前にやるべきことが一つ。
目の前に居る金髪でふかふかボディのあんちくしょうを取材攻めすることのみ……
「すいませーん!朝売新聞なんですがー!このたびに事故に関して社長はどういっってっ!
なんだこの黒服ふらんは!お前らどけろ!知る権利の侵害だウボォー!」
こうして俺は、ざわざわ言いながら、会社まで送られましたとさ。ドットはらい。
【あとがき】
なにこれ。馬鹿なの?死ぬの?
だって双眼鏡が可哀想なんだもん。一人でロッカーに入ったままだし。
by 僕マリ……もとい
ボックスまりさ
『オマケ』
「ゆ?」
海を眺めていたえーりんの目に何かが映った。
人間だ。海の上をぷかぷかと浮いている。意識はないのだろう。
何故か大事そうにノートを持っていた。よく見ればタイトルに
航海日誌の文字が書いてある。
「仕方ないわね。」
そういって海の上をすぅーと飛びながらえーりんは人間に近づいた。
そして……
「ユゥー!セッカッコー!ハァーン!」
自慢の三つ編みでその人間の胸元を突いた。
しかし、何も起きなかった。
「ゆ?間違えたかしら?」
「しょうがないわね。この世界を作った酒神様を呼びましょう。このままだと私が殺したみたいだし。」
最終更新:2009年06月10日 23:03