ガラクタ通りのさなえさん Vol3.家

注意
この話には野生環境の表現が含まれます。


 大都会の隅に埋もれた、ゴミの集まる廃棄場。
 ポツリ、ポツリとゴミは増え、いつしか人々に忘れられていった通りと住宅街。

 広場からの裏路地を通れば、すぐに都会の大通り。
 ひっそりとそびえる住宅街には、大通りからかすかに伝わる騒音しか聞こえない。

 元々捨てられたものや、生活に疲れ果てたものがこの場所に迷い込み、積もり行くゴミを漁っては今日も生活を繋げている。
 物音がするだろう? 彼らが生きている証拠さ。

 耳を澄ませば、ほら―…



ガラクタ通りの`ー゜)さなえさん



「ゆう~…」

 さなえが今現在腰を落ち着けている場所は、壁のひび割れた建物の中であった。



   Vol3.家



「ゆっ、ゆっ」

 黙々と、どこからか家具を見つけてきては咥え運び、部屋の中へ運搬してゆくさなえ。
 この建物を勝手に、許可無く占領してしまっているさなえであるが、この通りは元々捨てられた通り。
 今更承認を受ける人など、どこにも居ないのである。

「ゆ゛う~…」

 今だって、さなえは自身よりも一回り大きい家具を背負いながら、残骸が散らばる通りの難路を歩いている。
 さなえの顔つきは息を切らせた、されどもさほど苦にはなっていないものである。
 さなえが背負っているその家具とは、いわゆるホテルなどに見かける、ランプシェードの類のものであった。
 大方、通りの広場から見つけてきた物なのだろう。

「ゆうっ」

 歩き難い道を渡りきり、なんとか自身の家へと到着したさなえ。
 さなえが建物を見つけた当初は何も無く殺風景であったこの部屋も、今では家具が集まりそこそこの賑わいを見せている。
 勝手に住居し始めた部屋の床下に、今背負っていたランプを慎重に下ろしてゆくさなえ。
 夜、暗くなっても、なんとか自分の住む部屋だけは明かりを保っておきたいと考えたのであろう。

   心細い夜は、もう嫌だ。

 その一身で、さなえは自身や仲間よりもずっと重いランプを、広場から必死に担いできたのであった。

「ゆっ!」

 呼吸が落ち着いた所で、さなえはホクホク顔をして早速ランプの明かりを点けようとする。
 今は昼間であるためそのありがたみこそ味わうことは難しいが、実際にこのランプが使い物になるかは確認できる。
 さなえは期待に胸をときめかせながら、ランプのカサ部分の内側より垂れている紐を口で咥え引っ張り、スイッチを作動させた!

「ゆうっ! …、…。

 …?」

 いつまで時間が経っても、一向にランプから明かりが付く前触れや兆しは見えぬまま。
 むしろ、ランプ自身がげんなりとしてしまったかの様に、さなえの目に映る始末である。
 どうしたのだろうと疑問を抱いた面構えをして、さなえはランプの周りを窺い確かめて行く。
 …スタンドの尻部分には、電源を確保するためのコンセントが付いていた。

「ぺっ」

 さなえは隠し気も無く、いかにもつばを吐き捨てそうな面持ちを全面に表してランプの体を軽くどつく。
 そのままふて腐れながら床下に寝転んで、あからさまに機嫌を悪くした様子で瞼を閉じてしまった。
 ランプは立った状態を保とうと、倒れそうになるも傾き揺れる体勢を幾度か繰り返す。
 しかし、その効果むなしく。
 最後にはコンクリートむき出しの床に、ごろんと倒れたままになってしまった。
 床に突っ伏したランプのあり様は、情けないものであった。

「ぷん」

 この建物内に、コンセントなどの文明利器などありやしない。
 さらに言えば、仮にこの部屋のどこかにコンセントの差込み口があったとしても、そもそも電気などとうの昔に給配されなくなっている。
 不機嫌さを露骨に表した態様で、さなえは乱暴に寝返りを打つ。
 さなえの表情は、険しいもののであった。

「…」

 広場からこの建物まで、決して距離が近い訳ではない。
 加えて建物を含め部屋の中に自分が居ない状態で、知らない誰かに部屋を奪われては堪らない。
 その為にことさらに二階の部屋にまで登り、家具を展開しているのだ。
 ランプに期待してしまっただけあり、駄目だと感じた時の気苦労も大きいものであった。

「…ぷん」

 わざわざ重い荷物を二階まで運んだ私の労力はどうなるんだ。
 さなえは唇を尖らせて、とうとう部屋の隅にていじけ始めてしまった。

 …それでも部屋を見渡すと、横に長いタンスの他に、やけに足の部分が擦り切れた木製のシングルベッドなど。
 ランプよりも生活に便利であろう家具が、幸いにも一通り揃っていた。
 部屋の見栄えは確かなもので、仮に多少財力のある者がこの部屋で生活をしていると主張しても、何ら遜色のないものであった。
 それほどまでに、部屋の設備は整っていた。
 そして、それらの家具は何もさなえ一人で全て運搬された訳ではない。

「ゆっ!」

 まりさがさなえの背後にある入り口から、さなえの居座っている部屋の中へ入る。
 背負っている自身よりもはるかに大ぶりであるテーブルを、足元の床下に落とすまりさ。
 ぞんざいにテーブルを下ろした為、その際に鳴った重低音が建物を伝って通りに響くものの、体裁など気にしてはいられない。 
 まりさはやっと運んだと、背中に感じていた重力から解放された事に安心してほっと一息をつく。
 ものの、すぐに降ろしていた腰を立ち上げ始めて、まりさはテーブルを部屋中央の適正な位置へと押し始める。
 さなえは疲労した容体のまりさを労わり迎えて、テーブルを運んでいるまりさの反対側からテーブルを引っ張って、手助けをする。
 二人は何も無かった閑散とした部屋で、生活を繰り出し始めようとしていた。



 別に、何も初めから二人で家具を揃えて、部屋を作ろうとしている訳ではない。
 元々さなえが何も言わず、自分一人で計画していた事であった。

「ゆう~、…ゆっ」

 さなえには、決まった居場所が無い。
 雨が降ったとき、眠るとき。
 いつもその場しのぎに適当な建物へ避難して、一人心細く過ごしていた。

   落ち着ける、居場所が欲しい。

 さなえはいつしかそう考えるようになり、その思いが募りに募って、部屋を用意することを決めたのであった。

「ゆっ」

 少しずつ、何日もかけて家具を揃えてゆくさなえ。
 ガラクタを漁れど都合良く家具が見つかる筈も無く、見つからない時には3日経ってもめぼしい物にかかれない事すらあった。
 それでもめげる事無く、さなえは根気強く家具の探索を続けていったのだ。 

「ゆう~、ゆっ!」

「…」

 …部屋作りのことは秘密にしていた筈なのだが、いつの間にかまりさもさなえの家具探しに参加していたのであった。
 さなえは表情をぶしつけに歪めさせ、まりさに怒鳴り散らしその場を立ち去るように威嚇する。
 一方まりさは気に止めた様子をチラとも見せず、黙々と広場に流れ着いたガラクタを漁るのみ。
 その内にまりさが何かを見つけたのか、一層と気を集中させて辺りに散らばるガラクタをどかし、探り始める。

「…ゆっ?」

「! ゆうっ!」

 無理にガラクタを引き抜いては投げ捨てていたためか、ふとした拍子に調和を満たしていたガラクタ山が音を立てて崩落する!
 なんとなく音を聞いてその場から逃げ出そうとしたまりさであったが、ざっくばらんに漁っていた為か地盤もガタガタに崩れていて思うように動けぬまま…!
 …まりさはなす術無く、なだれ落ちるガラクタの波に飲み込まれてしまった。

「…! ―…ゆ゛うーーーーーーっ!」

 一部始終を見ていたさなえが、慌ててまりさが飲み込まれていったガラクタの近くへと駆け寄っていく!
 いくつかのガラクタを掻き分けてまりさの姿を探すものの、…気配どころか、活気すら見受けられない。
 物音が無くなりさっぱり静かになったガラクタ山の上で、さなえは少しずつ体を震わせ始め、瞳からは小さな涙が地面に零れ落ちて…。

「…ぐ、ゆ、げえ…。ゆっ!」

「…」

 …まりさが埋もれたと思わしきガラクタ面の場所がもぞもぞと動き、やがてまりさがガラクタを突き破ってひょっこりとその顔を表す。
 ふうと一息ついたきり、すぐにまりさは顔をねじらせてガラクタから体を出し、軽いけ伸びをする。
 その体が煤けてしまった事も気にせずに、まりさはまた先ほどの場所を目で探り、そのまま神経を集中させて探索を再開し始めた。
 漁る、探るといった言葉よりも、まるで掘り進むかのようにまりさの行動は進んで行く。
 いつしか角の一面を表したその物は、さなえが何よりも求めていた、寝心地の良さそうなベッドであった。
 一度で言いから気持ちよく寝たい、ぐっすりと眠りたいと、まりさは幾度かさなえが漏らした愚痴を聞いていた。
 まりさは、さなえにはにかみかけた。

「…ゆう」

 さなえは呆れ帰りながら、一人でガラクタを除けようとしているまりさの近くに寄り添い、取り除き作業を手伝う。

   部屋を占領されるかと、警戒していた私がバカみたいだ。

 困り顔をしているものの、さなえの口元の両端にはこしょばゆそうな笑みが浮かんでいた。
 …その後何とかガラクタの撤去が終わり、部屋に運ぼうと二人で抱え運搬を始めるのだが、あまりの重さに何度も倒れてしまいベッドに要らぬ傷が入ってしまったことは別のお話。
 どこからか、二人の様子を覗いている陰が見えていたのだが、すぐに消えてしまい何事もなかったのかの様に通りは再び静けさを取り戻した。

 それからもまりさは、さなえの片棒をかつぐようになった。
 さなえは、最初こそまりさのいらぬおせっかいに嫌がっていたのだが、その内に拒否を示さないようになり、今では素直に協力をして貰っている。
 どんなに煙たがられても前向きに手伝いをしてくれたまりさに、さなえはいつしか感謝の念を抱き始めたくらいであった。

「ゆうっ」

 そうしてどんどんと家具は集まってゆき、今では十分に生活を営めるくらいに家具が集まった訳である。
 それでも二人は、今日も地道に家具集めに励み、精をだしている。

「ゆっ!」

 どうやら二人の内のさなえが、以前に見つけ持って帰ったベッドに引き続いて暖かそうな毛布を見つけた様子である。
 ガラクタとガラクタの隙間から申し訳程度に顔を覗かせている毛布の端を、口に含みもふもふと甘噛みをして感触を確かめるさなえ。
 その感触は思い描いていたものよりもパサパサとざらついていたものであったが、元々捨てられていたもの。
 この毛布があれば寒い夜から脱却できる上に、寝心地も格段に良くなるだろう。
 さなえには、十分すぎる収穫であった。

「ゆっ、…ゆうっ♪」

 さなえは口を器用に使って隙間から毛布を引っ張り出し、全面を表した毛布をガラクタ上の地面に広げ、毛布の上に飛び込んだ!
 パサパサっと、やはりどこか乾燥してかさついているものの、さなえは久々に感じる布の肌触りを存分に堪能していた。

「ゆう~♪」

「…ゆっ」

 やがてその様子を見たまりさが羨ましいといった態度でさなえに近付き、同じく余っている毛布の片側面に飛び込み包まり始める!
 しかし、さなえはまりさの行動にあまり良い顔はせず、一人で占領する気かまりさをどついて毛布からどかそうとする。
 それでもまりさは粘り強く毛布に喰らい付き、やがて二人のもみ合いすら毛布の包まり合いへと変わってゆき、二人の喧嘩はじゃれ合いへと変化していった。

「ゆっ、ゆっ、ゆう♪」

「ゆう、ゆんやあ~!」

 互いの頬のぶつけ合ったり、毛布の中でいたずらをしたりと、所詮子供らしい戯れといった遊びであったが、…さなえたちには、十分であった。
 満ち足りていた。
 純粋にふざけあえる事が、幸せであったからだ。
 ほどなく、そもそもまともな食事を取っていなくエネルギーの無い二人はすぐにガラクタ上に横たわり、ばててしまったが。
 腹ばいになった際に見えた空の景色は朱く曇がかっていて、夕焼けなど微塵にも姿を出す素振りを見せなかった。

「…ゆうっ」

 少し休み、落ち着いた二人は早速毛布を家にへと運び始めた。
 遊んでいた際に、ガラクタにまみれていた泥が少々毛布にもついてしまったのだが、渇いた泥など軽く払えばすぐに取れる事である。
 意気揚々に部屋へ乗り上げ、隅に置いてあるベッドの上に勢いをつけて毛布を投げかける。
 二人はそれぞれ同時にベッドの上に飛び乗って、再び感触を確かめていた。
 ベッドは弾まないし、毛布は乾燥しているし、環境は最悪。
 されども、ガラクタ通りに、こんなにも恵まれた設備にありつけるのはこの二人くらいではないだろうか。

「…ゆあ」

「…zzz」

 …疲れたのだろう、二人とも眠気を隠さずに、ベッドの上にてすぐに静かになってしまった。
 まりさに至っては既に寝息を立てている始末である。

「…ん、ゆあ…」

 自然と瞼の皮がたるんでゆき、視界が狭まって行く。
 ひとえにシングルベッドと言えども、ゆっくりであるさなえたちなら2人でも十分にくつろいで睡眠を取れる大きさである。
 …とはいえ、口からよだれをあたり構わず垂れ流しているまりさには別か。
 ふらふらとした動きながらもまりさを容赦なくベッドの上から床に突き落として、1人広いベッドの上に横たわった。
 まりさは変わらずいびきをかくばかりである。

「…ゆう」

   まりさは、なんで私についてきてくれるんだろうな。

 さなえの脳裏に何か考えがよぎるも、思考すら霞みんで、よくわからないまま。
 眠気を催す睡魔をそのままに、さなえもまりさの後に続いて眠りの船を漕いでいった。



「ゆうっ、ゆう!」

 まりさがまた、何かを抱え運んできた。
 大体の設備が整ったこの部屋で、わざわざ持ってきたということは何か便利なものなのかなと、さなえは少なからず期待をして振り返った。
 …そこには、いつしかの忌まわしき記憶を纏った、ランプの類の照明器具が置かれていた。
 まりさの瞳の色は確かなものだ。
 さなえの容体は反比例して、げんなりと塩を塗られたかのようにしょぼくれてしまった。

「…? ゆ~?」

 事情を知らないまりさがさなえに呼びかけるも、さなえはのれんに腕押しといった様子で取り合う姿勢を見せない。
 勝手にいじけているさなえをよそに、まりさは一人でこの照明を点けようと躍起になっている。
 スイッチの紐を引っ張ったり、ランプを軽くどついてみたり、果てには媚を売って機嫌をよくしようとしたり。
 色目遣いをしたまりさの姿はそれはそれはおぞましいもので、さなえは愚か機械であるランプでさえも気力がなくなったかのようにぐったりとしてしまった。
 やがて、ランプの尻部分にあるコンセントの存在に気付くのも、時間の問題であった。

「ゆっ、ゆう!? ゆんやあ~!!」

 信じられないと言った具合に、現状を叫んで嘆いているまりさ。
 体をよじらせ、大袈裟に自身の不幸をアピールしているが、既に一度さなえが通った道である。
 さなえの様にいじけふて腐れないだけましか。
 とめどない感情を表しているまりさに、さなえは一言だけ呟いた。

「ゆっ」

 その言葉のニュアンスは、嘲笑。
 息を吐くついでに思わず漏れたと言った方が正しいか。
 まりさの行動を馬鹿にした、愚か者だと見下ろした笑いであった。

「…む、むっきーーーーー!」

 心情の変化には人一倍敏感であるまりさはもちろんさなえの言いたいであろう事を理解して、短気を起こしてしまった。
 さなえの方へ体を向かせ、飛び掛るまりさ。
 一方既に喧嘩の態勢で構えていたさなえは、まりさを返り討ちにしようとタックルをけしかける。
 その内にお互いは我を忘れてボコスカと埃を立てて叩きあいを始めてしまった。
 もちろん叩きあい程度ではお互いの致命傷を与えることなぞ出来る筈も無く、体力を使い果たした二人は横ばって冷たいコンクリートの床に頬を当てて休憩を取っていた。

「…ゆ゛、ゆ゛」

「…ぼげらあ」

   こんな事になったのも、全てランプが悪い。

 二人の意思は全く共有のものであった。
 おかしい、私たちがいがみ合わないといけないなんておかしい!
 私たちは文明利器を授与して貰うことができる筈なんだ!
 …元々部屋にある家具は全てガラクタから引き漁ったものなのだが、今の二人に理屈など通用しない。
 ただならぬ憤怒を解消するために、とにかく照明器具を見つけてやる!
 …少々理不尽な面もあるが、二人はガラクタが最も流れ着く広場へ、足を出向かせたのだ。



「ゆう~! ゆっ!」

 先ほどの形相はどこへやら、まりさはすっかり遊びほうけてしまっている。
 本当にたまたま、広場に新しく流れ着いたガラクタに、大きなトランポリンがあったのだ。
 もちろん遊ばない手はない。
 初めは新たなランプを見つけるという明確な目的があるため少々嗜む程度だったのだが、次第にちょくちょく休憩がてらに遊んで、果てには誘惑に負けて跳ね放題というわけであった。

「…、ゆう~」

 さなえは呆れた様子でまりさをジト目にて険しく睨んでいる。
 遊びたい欲求は、好奇心は、もちろんさなえにも存分にある。
 されども、なんとしてもランプを見つけるという使命を遂行するために、さなえはまりさを見捨てて黙々とガラクタを探っていた。
 やがてかなりの時間が経過したが、それらしきものは一向に見つからないまま。
 まりさは一日中トランポリンで跳ねていたため、まともに道を歩けないでいた。

「ゆう?」

 諦めようと、なだめるニュアンスの声を呟いて、まりさがさなえに呼びかける。
 先ほどの発端にてどちらかと言えばさなえよりまりさの方が激情していたのだが、ここまで切り替えが早いものかとさなえは改めて呆れ返る。
 外も大分暗くなり、目を凝らさなければとてもでは無いがガラクタの姿を確認することもままならない。
 潮時か、…帰ろうと家に体を運ばせた、その時だった。

「ゆっ?」

 何かが、さなえの胴元に当たったのだ。
 普段ならガラクタなど溢れかえっているため気に止めないで放っておくのだが、何故だか今日だけは妙に気がかりに感じた。
 一応当たった物は何か確認をしてみると、それはさなえたちが一日中探し回っていた、照明器具そのものであった。

「…! ゆ! ゆう~~~~~っ!」

「ゆ? ゆああ? ゆんやあ~!」

 さなえは疲労を見せていた表情を一変報われたものに変化させて、喜びを空に叫ぶ!
 まりさは何故さなえが嬉しがっているか良く理解していないあんばいであるが、とりあえず喜んでおこうと適当に声をあげていた。

「ゆっ、ゆっ! …ゆ」

 急いで家に持ち帰ろうと背中に担いだのだが、さなえは用心した様子で担いだ照明器具を再び地面に落とす。
 電気が必要かどうか確かめるためだ。
 二の舞になったら堪らない、そうならない為に、あらかしめ確かめることにしたのであった。
 …どうやら、コンセントの類のものは見受けられない。

「ゆあ、ゆあ~!」

 さなえは声を伸びやかに張り上げて、はしゃぎつつ照明器具を背負い家へ急ぐ。
 まりさも今度こそお目当てのものが見つかったことに気が付いて、駆け回り足軽にさなえの後を付いて行った。
 部屋に着き、照明器具をテーブル上に置いて、さあどうかと照明器具を念入りに調べてゆく。
 やはり電気は必要無いみたいだが、肝心のスイッチというか、火を点すためのボタンらしきものが見当たら無い。
 どういうことだろう?

「ゆう?」

 何度も、まじまじと照明器具らしきものを窺うも、さっぱり明かりをもたらしてくれる気配は無い。
 外も暗くなり、部屋の中を認識することが辛くなってきた頃だった。
 思わずまりさがバランスを崩し、テーブルの脚に体をぶつけてしまったのだ。
 その拍子に上に乗ったランタンもいともたやすく倒れ転げてしまい、床に打ち付けられる。
 ゴン、ゴンと無常の響きを持ったその音は、さなえたちを落胆させるには十分なものであった。
 …元々、この物は照明器具では無く、もっと別の何かだったのだろう。
 片付けようと、さなえは照明器具らしきものに近づき、咥える。
 すると、照明器具らしきものの上蓋が開いていることに気が付いた。

「…~?」

 さなえは上蓋が取れた所から、照明器具らしきものの中を目に覗かせる。
 中は煤けて黒染めに汚れていて、これが照明として使われた証拠らしき痕が残っている。
 鼻を利かせて中の臭いを嗅いで見ると、…オイル臭といった、もわりと鼻に残る臭いが、さなえの嗅覚を刺激する!

「ゆ、ゆやあ!」

「ゆう?」

 さなえの大袈裟な異変に興味を示したか、まりさも照明器具らしきものの臭いを嗅いで確かめる。
 同じく床に転げ回り悶絶して、さなえの後を追う形となった。
 その照明器具の正体は、所詮、…ランタンと言われるものであった。

「ぷふぇっ!」

「ゆっへえええ!」

 なんとか冷静を取り戻した二人がつばを飛ばして不満を口にする。
 こんなものお呼びじゃないと先ほどまでの待遇とは打って変わって、ぞんざいにランタンに当り散らすさなえ。 
 部屋内には大ブーイングが勃発してこだまする。
 口々にランタンを罵っては、何故かお互いの悪口の言い合いへすれ違ってゆき、またもや喧嘩を始めてしまう。
 学習はしている筈なのだが、恐らくその学習よりも物事が上回っているのだろう。
 当人たちは目を鬼にして争っているが。

 …二人の失敗は、恐らく、明かりなぞ何か燃料に頼らなければ使えないことに気が付いていないことに関してだろう。
 出すものも枯れ果てた二人はそのままベッドに飛び込み倒れ、泥の様に眠りこけてしまった。
 しかし、まりさの歯軋りがうるさいためさなえがまりさを突き飛ばそうとするものの、逆にまりさにより押されてしまいさなえが床で寝る形になってしまった。
 切なそうな表情をして、さなえはそのままうつ伏せになった。



「…」

 なんでか、目が冴えてしまった。
 …床で寝ていた筈なのに、自分がベッドで寝ていることに気が付いた。
 窓がはまっていない窓越しから外の様子を窺うと、まだまだ夜更けには遠く、ぼんやりと霞んだ月が見える。
 空の色は、少しだけ藍色がかっていた。
 針で開けた穴のように小さな小さな星々も、ちらほらと所々に顔を出している。
 大体は雲で隠れてしまい見えないのであろうが、ほんの少しでも星の姿が確認できたことに、さなえはちょっぴり気持ちが嬉しくなった。

「ゆがぁ…、ぐ~、すぴいい」

 床下からはとんでもない歯軋りが聞こえてくる。
 騒音は継続して聞こえてきて、何故今まで耳に入ってこなかったのか不思議なほどである。
 瞼が開かないながらに床下のたたずまいを確認すると、その騒音は予測するまでも無い、まりさのものであった。
 まりさのお腹にはいつ付けたのか、ピンク色で腹部分に『嫉』の緑文字が書かれた腹巻きがされていた。
 暑苦しいのか、床下をのた打ち回りひんやりとした場所を探しているまりさ。
 苦悶するくらいなら腹巻きを取ればいいのに。
 忠告してあげようかとも思ったが、落ち着きを取り戻したまりさの表情があまりにも油断した、…安心したものであったため、ためらわれて、とうとう言わずままとなった。

「…ゆわ、…あ」

 元より、私も眠っている所だったんだ。
 なんでか理由はわからないけれど、ふとした拍子に目が冴えただけだ。
 寝よう。
 …窓越しから入ってくる宵の風が、毛布に包まっていて火照っていた体に丁度良く冷える程度、体を冷ませてくれる。
 気持ちよく寝れそうだ。
 ただそれだけを考えて、これからのことなどさっぱり眼中に無く、うとうとと夜の暗闇に抱えられてまどろんでいった。





「…ゆ゛っ」

 またもや、目が冴えてしまった。
 無意識に出た呻き声が、不機嫌なものであると自分でも認識できる。
 窓越しから空を見上げると、先ほどよりは朝焼けが近づいているものの、まだまだ深夜明けと言って差し支えない時間であった。
 眠りたいはずなのに、眠らないと体力が持たないのに、…なんで起きてしまうのだろう?
 まりさも床下でゴロゴロと転がり何かに対して抵抗をしている様子だ。
 どうやら、まりさも起きているみたいであった。

「ゆっ」

 さなえはまりさに諦めろと呼びかけて、ポンとベッドから飛び降りて転がりまわっている体に当たり、静止させる。
 帽子を取って髪の毛が露わになったまりさの姿は、普段見慣れたそれとのギャップもあり、なんだか新鮮である。
 腹巻きは後ろ前逆になっていて、丸で囲まれた嫉の緑文字が背中にまで来てしまっていた。

「…、ゆう~?」

 まりさの眼は半開きながら、察するにさなえと同じ違和感を抱いているようである。
 さなえたちは、共に抱いた疑問を口々にしあう。


 何か下手なものを食べたか?
 …そもそもろくにありつけてない。

 きっとガラクタ通りにはびこる悪い菌に感染したんだ!
 そんなんで根をあげている様じゃとっくの前に死んでます~。

 創生者とか、いたりして。
 いたとしてもこんな意地悪はしないでしょ。


 幾ら話し合っても結論は出ず、諦めて2度寝ならぬ3度寝をしようと横に転がった、その時であった。
 ぐう~と、部屋や建物内は愚か通り全体を包み込む壮絶な腹の虫が、あまりの仕事の無さを嘆いてお腹の中で大暴れを始めたのだ。
 一度鳴り出してから止まらなくなったのか、片方の腹の虫が鳴り終わると今度はもう片方の腹の虫が自己主張を始める。
 もちろん、初めになった腹の虫も自己顕示を怠らない。
 思わず気が抜けてしまう、二人によって出されるお腹をぎゅ~っと締め付けて絞る音が、まるでハーモニーを奏でて通り中に演奏されてゆく。

「…」

 欠点、絶対にやらかしてはならない、無理やりに抑制させていた言葉であった。

【何か下手なものを食べたか?】

【下手なものを、食べたか?】

『食べたか?』



「…ぐ、ゆう~…」

「…ぐわわ、…ゆんやあ~!!」

 二人は金切り声による断末魔をあげて、ばたり、ばたりと地面へまっ逆さまに倒れてゆく。
 まりさに至っては倒れ方が悪く床に思い切り頭を打ち付けてしまったのだが、ぴくりとも反応しないまま地面に突っ伏すのみ。
 二人が意地でも意識しないように、固く固く、封印していた言葉。
 …それは、『食事』に関する事であった。

「…が、っぺ」

 食に関する言葉を聞いて、忌まわしき空腹を思い出してしまった二人。
 かれこれ2週間は食べ物をお目にすらかけていない二人に、その言葉はあまりに、酷すぎるもの。
 しくしくと締め付けてくる痛みに、背後から狙ってきたのか鋭利なもので突き刺された様な鋭い痛み。
 眠いのに痛みで寝られないイライラ、ストレスと相まって比例し大きくなってゆく苦痛…。
 まさに、地獄絵図といった光景が、部屋の中で繰り広げられていた。
 恐らく目の前で他の誰かに食事をされるか食事を与える代わりに地獄に行くかと二人に問い掛けたら、今のさなえたちなら迷わずに地獄へ飛び込むだろう。
 それも、何回も。


   そういえば、さなえたちは、何も食べていないんだった…。

 空腹を意識したからか、とたんに生気に溢れていた二人の頬が、急にげっそりと痩せこけてしまった。






(ダッダラララダッダラララ)

(アッハッハッハッハッ…)






   CAST


さなえ Sanae

             _,,.. -- 、__,,..,,__   i     /
         ,. -<.     `ヽァo、`ヽ 人   i
       , '7´    )       ';`ー゚). i  i   i
      ノ !     ;    !    i'´  i   i <
      ;.'  ';   _!_ ,!  ! /_!_  ,i  ヽ  ノ   !  ・・・・・・・・・・・・
     ,'    ';  L./ |__」/!_」__ ソ    ̄,   !
     i ,'   ! 'ノ      ヽ ` !  /  ,'    !
     !_ハ_!  ,ハ ⌒    ⌒   !コ    i     ヽ___
      ソーr' !'"   ~   ""'r'´二.ヽ ',
      ;'  ノノ>.、.,_    _,. イ/´ _iノヽ i
      i   ン´ ,,.ィ`i7こ__ノ こ二、ヽ,ハノ
      ',  ! ァ'レ' レ' i:::::iヽ._/   レ'
     、_)、ノヽ/ /  |:::::! (二`ヽノヽ_


てんこ盛りでダンス♪ シャダバダ ランダバエビバ~ディ♪




まりさ Marisa


                _,,....,,_ _
             -''":::::::::::::`''-、
             ヽ::::::::::::::::::::::::::::ヽ
              |::::::;ノ´ ̄\:::::::::::\_,. -‐ァ
              |::::ノ   ヽ、ヽr-r'"´  (.__
             _,.!イ_  _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7
          _..,,,-":::::rー''7コ-‐'"´三三三三`ヽ/`7
          `! r-'ァ'"´三三三三三三三三ヾ_ノ   パカッ
            !イ三三三三三三三三三,. - '
            ゞー'´`ー--―'´ ̄`ー-‐'"
               | | |   | | |   | | |
                  ______
                 ´>  `ヽ、
                _,.'-=[><]=.,_
                ヽi <レノλノ)レ〉'
                 ノレ§゚ ヮ゚ノiゝ
               ;; -''''"" ̄""''''-;;; 
             /          ^ヾ:
            :/   ,-‐     ;  ', `ヽヾ,
            i'  ´/  /! ハ  ハ  !  i ',      ゆんや~っていう言葉がお気に入りなんだけど
            i ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ  ,' 'i      どこで見かけたかなあ・・・
           `!  !/レi' (ヒ_]     ヒ_ン レ'i .ノ
           ,'  ノ   !'"    ,___,  "' i .レ'
          ノノ (  ,ハ    ヽ _ン   人!
         ( ,.ヘ ,)、  )>,、 _____, ,.イ  ハ
 
    / ̄ ̄ ̄ ̄/   /__7 ./''7 /' 7'7       / ̄ ̄ ̄ /
     ̄ ̄ノ /   /__7 ./ /  ̄ ̄       ./ ./ ̄/ /
      <  <.     ___ノ /   /' 7'7./''7  .'ー' _/ / .
       ヽ、_/ .   /____,./    _,ノ /     /___ノ 
                      /____,/

なんだか体中感じる 感覚タンデム中♪(まだまだ!)




ひな hina


       ____
      /      \
      |  風神録  |   良く見直してみな、私は存在する…。
      | rr=-  r=; |   今回はわかりやすい方だから、これでわからない様なら
      |  2ボス   |   マスターハンターも名折れだな…、フフッ?    
      |   ー==-   |      ∫
      \_    _/  =|л=・
         |   |     ( E)
    / ̄ ̄     ̄ ̄\//

       ____
      /      \
      |  風神録  |   今回は短め。
      | rr=-  r=; |   ごめんね~
      |  2ボス   |       
      |   ー==-   |      ∫
      \_    _/  =|л=・
         |   |     ( E)
    / ̄ ̄     ̄ ̄\//


ランダバエビバ~ディ♪


なんだか体中感じる感覚タンデム中♪



STAFF

SPECIAL THANKS

がいたwiki
時間




はらはら二人きりのシートに 跨いだんだったらまあしっくり♪
びっくり体験ビーツ大回転 はたいたマシーンの尻ピンポイント♪ …


原作 増田龍治『ガラクタ通りのステイン』
EDテーマ ハルカリ『タンデム』

NEXT! To Be Continued...


  • 家が作られる描写に手が込んでますね
    でもこの終わり方は不吉な予感しかしないわ……
    さなえとまりさはどうやって乗り切る…… -- 名無しさん (2009-06-13 22:47:46)
  • 内容を少し付け加えました。
    今回の話はギャグパートですので、肩の力を抜いて安心してご覧ください! -- 作者 (2009-06-15 14:29:55)
  • ちょっときになるこんかいのおはなし。
    すごくきになるつぎのおはなし。
    ゆっくりのおはなしどこへいく? -- ゆっけのひと (2009-06-16 23:14:39)
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最終更新:2009年06月16日 23:14