【ゆイタニック号のゆ劇】Marisa the Third 後編

注意
  • この作品は露骨なパロディです。
  • 一部ブロント語が使用されていますが、適当です。
  • けっこうな駄作の危険性があります。
今更どの面下げて投下した!と言われれば、アホ面としか言いようが……。
それでも良ければ、どうぞ。




4:四月十三日
ぱちゅりー警部はゆイタニック号の警備室で、一人本を読んでいた。
子供の頃から大好きだったその本は、何度もボロボロになり、今持っているのは三代目だった。
コンコン。
ドアを叩く音がした。
「むきゅ。どうぞ。」
ドアを開けたのはこぁだった。デスクに座るぱちゅりーの前にとことこと歩いていく。
「こぁ。……どうだったかしら、あの子は?」
「おおむね問題ありません。……ちょっとばっかりふざけすぎな所を除けば。」
「むきゅう……。ま、仕方ないわね。」
そういって、ぱちゅりーはまた本に目を落とす。
「警部。」
「なにかしら?」
「なぜ、あのまりさの監視を私に?」
そう聞かれて、ぱちゅりーは胡散臭い雰囲気で答える。
「……あの目は、やっぱり信用出来ないわ。まぁ、ICPOの犯罪ゆっくりリストに名前が無いのは関
心するけど。」
「……なら、どうして警備に引き入れたんですか?」
「言った通り、有能だからよ。それに、毒を以って毒を制す。怪盗同士なら食い合ってくれるわ。」
ぱちゅりーは本を閉じた。
「ただ、手綱を引く必要はあるだろうけど。……けど、私はまりさ三世で手一杯。要するに、あなたを信頼して
るのよ、こぁ。」
その言葉に納得できないのか、こぁはポツリ、ともらす。
「……信頼と丸投げは違いますよ。」
「当たり前よ。どういう形にせよ、信頼してるから丸投げできるんだもの。」
「……。」
ぱちゅりーはそう言うと、デスクにあるものを置いた。
こぁが初めてぱちゅりーとコンビを組んだ時の夜、ぱちゅりーがおごってくれた一品。
鉄火巻きである。
「餞別よ。これを食べて、元気を出しなさい。」
「……ありがとうございます。」
長いままのそれを頬張ると、こぁはそのまま部屋を出て行った。

それと入れ違う様に部屋に入ってきたのは、にとりだった。
「……こぁさん、どうなされたんですか?何か涙目で巻き寿司を頬張ってましたけど……。」
「むきゅ……ちょっとワサビがきつすぎたかしら?」
少し考え込むようにうつむいてから、ぱちゅりーは再び本を開き、読み始める。
「……ところで、なにかようなのかしら?」
「あ、はい。その……。」
にとは急にもじもじしだした。そして、
「今日休日なんで、デート……とかいかがですか?」

パタン、と本が倒れた。
そのタイトルは「バーネット探偵社」
かのモーリス・ルブランの著作である。


「どういうことなの……。」
目を点にしてぱちゅりーが呟く。
「い、いえその……いけません?」
「かまわないけど……あまりに突飛なものだから……。」
「よかった!……実は店長から、お見合い話を持ちかけられてて……。
『好きなゆっくりがいますからお断りします。』って言い訳したんです。」
「むきゅ……、じゃ、お断りは出来たんだからそれで十分じゃないかしら。」
あからさまにぱちゅりーが断ろうとすると、にとりは恥ずかしそうに
「いえ、その……、なんかぱちゅりー警部さんが相手だと勘違いされたみたいで……。」
と、予想外の答えが返ってきた。
「……むきゅッ?!な、なんなのそれ……!?」
「昨日警備室から帰るところを見たそうです。……なんだか仲睦まじく見えたそうで。」
「……どういう観察眼なのかしら。ひとまず、誤解を解きに行くべきかしらね。」
ぱちゅりーが呆れ顔で言うと、にとりは慌て始めた。
「そ、それは勘弁してくれませんか!?そしたらまた店長がしつこく言ってきます!」
「むきゅううう……困ったわね……。そういうのは一応好意だから、無碍にも出来ないし。」
「……一日だけでいいんです。お願いします!!」
ふかぶかと頭を下げるにとり。それを見たぱちゅりーは少しばかり困惑していた。
色々と規格外と言われてはいるが、ぱちゅりーとて警官の端くれ。一般ゆっくりを騙すというのも如何なものか。
とはいえ、なにも誰かを不幸にするための嘘でもない。警官である以前に一人のゆっくりとして、にとりのお願
いは聞くべきことではないだろうかとも思える。
「嘘も方便、ってのはよく聞くわよね……。」
「え?じゃ、じゃあ!」
「むきゅ。私でいいなら、恋人代理、引き受けていいわよ。」
結局、ぱちゅりーはにとりの頼みを聞くことにした。


「いやぁ、まさかとは思ったけど、本当にあの有名なぱちゅりー警部がお相手だったなんて!」
河城飯店のとある一席。
ゆイタニック号支店の店長、すわこはひどく喜んでいた。
「む、むきゅ……それはどうも……。」
そのテンションにいささかおされ気味のぱちゅりーと、
「えへへ……。」
慣れているせいか、照れる余裕もあるにとり。
「いつもまりさに逃げられてるけど、にとりちゃんは逃がさなかったみたいだね!!!」
「……。」
すわこは二人を改めて見ると、嬉しそうに話し出す。
「にとりちゃんはいい子だから、是非とも幸せにして欲しいね!!!」
「む、むきゅきゅ、分かったわ。」
「早速、今日はデートにいきますしね!」
にとりはそう言うと、ぱちゅりーの腕に抱きつく。
「でも、まりさの逮捕みたいに失敗しないでね!!!」
「……むきゅん。」

ほくほくとした顔ですわこ店長が席を立った後、にとりは申し訳なさそうにぱちゅりーを見た。
「ごめんなさい、警部。すわこ店長って結構一言余計で……。」
「もういいわ、にとり……事実だし……ICPOでも……むきゅうぅ……!」
無邪気に言われたのが、思いのほか堪えているらしい。
「けど、それよりいいかしら。」
「は、はい。」
「……うそは良くないわね。そこまでしてくれたのは嬉しいけど。」
ぱちゅりーの鋭い視線に、思わず萎縮するにとり。
「……す、すみません……。その……どうして……。」
「すわこ店長のZUN帽、ものすごい速さで瞬きしてたのよ。……私のこと言ってるとき以外。」
にとりは黙りこくったままだった。
ぱちゅりーはそっと席を立つ。
「……ご、ごめんなさい!その……」
そして、にとりの手をそっと握る。
「むきゅ。行きましょ、まだ予定はあるでしょう?」
「は、はい!」
「……そ。おどおどしてるより、笑顔のほうが似合うわよ?」
胡散臭くも魅力的な表情で、ぱちゅりーは囁いた。


「それにしても……見事なものね。一つの街に来たみたい。」
ショッピングモールを二人で練り歩きながら、ぱちゅりーが呟く。
「初めて来られたんですか?ショッピングモール。」
「むきゅう……。まだ乗船して日も浅いし、その僅かな間も仕事ばかりだったもの。」
ゆイタニック号と、スカーレット・ブルーの警備について以来、ぱちゅりーは食堂街に警備室、全世界みゅーじ
あむを行き来するだけで、仕事以外でこういった歓楽街や娯楽施設に立ち行ったことはなかった。
「仕事熱心なんですね。」
「恥ずかしながらね。ここに来たのもスカーレット・ブルーの警備のためだもの。……まぁ、お陰でまりさが乗
り込んでくれたのは好都合だったけど。」
「まりさ・ザ・サード……。彼女を逮捕したら、警部さんはどうするんです?」
にとりの問いに、ぱちゅりーは少し考え込む。
「むきゅ……考えたこともないわね。結局は逃げられちゃうし。」
「逃げられちゃうのに、追いかけるんですか?」
「当たり前よ。逃げられたぐらいで諦めたら、ICPOのゆっくり警部の名がすたるわ。」
そう断言するぱちゅりーの目が、にとりにはとても力強く見えた。
……その目が、不意に別方向を捉えた。
「どうされたんですか?」
「むきゅ……あれは。」
ぱちゅりーはそう言って、懐から本を取り出す。
「『世界犯罪者名鑑』……?」
「むきゅ。世界中の有名な犯罪者が網羅された、ICPO必携の本よ。」
ぱちゅりーはパラパラとページをめくる。
「むきゅ……。あったわ。モンスターペアレント集団『乱射魔部隊』の構成員ね……。」
「えぇっ!本当ですか?!」
にとりが驚くのも無理は無い。乱射魔部隊といえば、世界で起きているちぇん絡みの事件の七割に関わっている
と言われている巨大犯罪組織なのだ。
その犯罪組織の一員が目の前に居る。簡単には信じられないことだ。
「とりあえず、本部に連絡を……あら?」
「ま、またですか?!」
ぱちゅりーの変な声に、にとりはまたしても凶悪犯がいたのかと慌てだす。
「いえ、違うわ。むきゅー!こっちよこっちー!」
ぱちゅりーが声を掛けた先から、二人のゆっくりが歩み寄ってきた。
見ると、さとりにこいしなのだが……
「(何だろう……濃い。)」
「ぱちゅりー警部!こちらに居られたんですか。」
「お久しぶりです……という程でもありませんか。」
男前な二人を前に、ぱちゅりーも胡散臭さを取り戻す。
「むきゅ……、あなた達もお元気そうで何より。」
「あの、こちらの方達は……?」
変な空気に耐えられそうにないにとりは早々と介入を試みる。
「むきゅ。紹介するわ。ICPOの同僚で、こめいじ姉妹よ。」
「さとりです。宜しくお願いしますね、にとりさん。」
「こいしです。大方、警部の恋人って所かな、姉さん。」
「ひゅいっ?!」
恐らくはジョークのつもりで放ったこいしの一言に、にとりは顔を真っ赤にさせてうつむいてしまった。
「……図星、でしたか。」
「こんな所で百発百中の腕なんて見せてどうするのよ。」
「あはは、妹がすみませんね、にとりさん。……それより警部、乱射魔部隊、ですか?」
さとりの表情が一段と引き締まる。
「むきゅ、そうよ。あなた相手だと話が早いわ。……一人を確認しただけだけど、恐らくはまだ潜りこんでいる
連中が他にもいる筈。まりさ逮捕の応援に来てもらったけど、こちらの方、頼めるかしら。」
「わかりました。まりさ三世なら一般人・一般ゆっくり相手にはまず危害を加えませんし、警部に一任します。いいわね?こいし。」
「OK、姉さん。まりさ・ザ・サード相手じゃ、ぱちゅりー警部の方が分がありますから。」
「むきゅ。ありがとう。お願いするわね。」
それでは、と言うと、こめいじ姉妹は先ほどの乱射魔を追うために、乗客達の中に紛れ込んでいった。
「さっきのこめいじ姉妹さんたちって、警部のお知り合いなんですか?」
ようやく顔のほてりが取れたにとりは、ぱちゅりーに尋ねる。
「むきゅ、そうよ。ICPOのリーサルウエポン……十三人いる『⑨大天王』の一角。」
「十三人なのに⑨大天王……」
ゴクリ……。
「もしかして、ぱちゅりー警部もその一人なんですか?」
「一応ね。……ICPO上層部の忘年会で任命されたわ。」
「お酒の勢いって恐いんですね……。」
「まあ、名前と実態はふざけてるけど、十三人ともかなりの腕利きなのは確かね。」
ぱちゅりーはそこまで言うと、コホンコホンと咳をした。
「これでこの話はお終い。……折角の休日なんでしょ?あなた楽しまないと。」
「そうですよね。……警部さんと一緒に居るだけで、結構楽しいんですけど、ね。」
「むきゅ?!」
思わぬ大胆な発言に、ぱちゅりーは久しぶりにゴホゴホと咳き込んだ。






「博士!だいじょうぶなのぜ?!……ありす、早く薬を!」
「……いいのよ、まりさ。そう長くは持たないみたいだから……。」
「でも……博士にはいままで世話になったのぜ!」
「そうよ。博士にはまだまだ手伝って欲しいわ!契約金だって支払ったのよ!」
「ふふ……ごめんなさい……。キャンセル料は言い値でいいから……。」
「……!それで済む話じゃないわ!」
「わかってるわよ……でも、ごめんなさい。」
「……博士。」
「ごめんなさいね、まりさ。折角作ったのに、持って行かれちゃった。」
「……いいのぜ、別に。」
「ねぇ、まりさ。私ね、欲しいものがあるんだ。」
「……なんなのぜ?」
「次の発明品が上手くいってたら、プレゼントしてほしいなぁ。ありすが欲しいっていってもだめだよ、私のが先。」
「……。」
「『私』のために、盗んできて欲しいんだ。あのダイヤを……スカーレット・ブルーを」
うまれたばっかりの
「『わたし』だけのために」




「……なんや、起きてたんか。叩き起こそかと思うたのに。」
まりさの部屋に入ったきもんげは、窓の側に佇むまりさに声を掛ける。
「……悪い知らせ、なのぜ?」
「せや。……インターポールからの援軍さんが到着や。こめいじ姉妹にうにゅほやら、物騒な連中ばっかり。」
「こりゃあまいったのぜ。……胴付きの同業者さんのこともあるし、さっさとやっちまうおうか?」
軽口を叩くように言うまりさに、きもんげは静かに問う。
「まりさ。……あんた、なんか隠してへんか?」
「何を?」
「そんなん、知らんから聞いとるんやない。けど、相棒舐めたらアカンよ。」
「……。」
「隠すんなら隠し切りぃ。隠し切れんなら、とっととゲロしてしまい。相棒なんやから。」
「……わかったのぜ。きもんげ。」
まりさはきもんげの言葉を受け、一言。

「……博士が死んだ。」

「……ほんまか。」
「持病が悪化しちまったのぜ。仕方が無いことだぜ。」
「ほんなら、スカーレット・ブルーは博士のリクエストかいな。」
黙りこくるまりさ。
それを傍目に、きもんげはポケットからタバコを取り出すと、火をつける。
「……あいも変わらず、女には弱いんやから。」

四月十四日
その日、波はとても穏やかだったという。
多くの人間とゆっくりは、それまでと同じ日を過ごし、豪華客船の旅を満喫していた。
ぱちゅりー警部を始めとするICPOは対まりさザ・サードの警備体制を展開し、まりさもまた彼らを出し抜く
ために機を伺っていた。
こぁは涙を流しつつ、再びぱちゅりー警部からもらった鉄火巻きを頬張っていたし、胴付きまりさも表面上は大
人しくしていた。
誰もが、いつもと変わらぬ日々を過ごしていた。
誰がそのことを予想していただろう?



【ゆイタニック号のゆ劇】Marisa the Third 「スカーレット・ブルー」後編



5:四月十四日 23:35
最初に、その異変に気づいたのは警備室にいたぱちゅりーだった。
コーヒーをカップに入れ、監視モニター前に戻ったぱちゅりーの目に映ったのは、砂嵐を映すばかりのブラウン
菅だった。
「むきゅ?!どういうことなの?故障?」
ためしにチョップを叩き込んでみるが、事態は好転も悪化もしない。
「むきゅきゅ……一体」
ぱちゅりーは少し考えこんでいたが、漸く「ある可能性」に気づく。
「……!まさか、まりさ?!」
言うが早く、ぱちゅりーは駆け出していった。


同時刻:船内貨物エリア
「まったく、まりさも無茶なんだから!」
ありすは脱出作戦の肝となる、高機能ボートの整備をしていた。
というのも、スカーレット・ブルーの盗みだす日が明日に決まったためである。
完璧主義者であるありすは、こういった整備にも余念がないのだ。
「……さすがあの子の作品ね。まりさの無茶な運用にも耐えられそう。」
そんな独り言を言っていた、その時だった。


23:40
「きゅ?!む、むきゅ?!」
全世界みゅーじあむに向かう途中、ぱちゅりーは謎の揺れに襲われた。
地震とはまた違う、強く不自然な揺れ。
「な、なんなの……?」
「ぱちゅりーさん!」
聞きなれた声のする方を向くと、にとりが居た。
「どうしたの……、こんな時間に。明日は仕事じゃあ……」
「その、なんだか眠れなくて、少し散歩をしてたんです。それより、さっきの揺れは……?」
「わからないわ……。ただ、少し前にどういうわけか展示室のモニターが死んだのよ。」
「……それって!」
「恐らく……まりさね。だから……」
「い、急ぎましょう、警部さん!!」
にとりはそう言うと、展示室の方向へと走りだす。
「む、むきゅ?!ちょっと待って!……あなた、そんなに足速かったの?!」


同時刻:河城飯店
「な……なんよ、さっきの揺れは……。」
「わからにい……。」
河城飯店で夜食を取っていたきもんげとてんこは、思わずテーブルの下に潜り込んでいた。
「……とはいえこれが地震でないのは確定的に明らか」
「てんこはん。」
「なにかようかな?」
「要石使こた?」
「使ってない」
「そうですか、緋想剣すごいですね。」
「それほどでも……っておいィィィィィ?!なにてんこのこと疑ってるわけ?!」
お約束やないの。」
「おまえ勝手に地震の犯人に疑われた奴の気持ちわかりますか?マジぶん殴りたくなるんでやめてもらえません
かねぇ……?そふぇ依然にここを海錠であることにきづくべきそうすべき」
「……せやな。ここ船の上やったね。忘れとった。」
「おまえそれでいいのか……?」
てんこが呆れが鬼なった時だった。
「Tieeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeen!!!!!!!!!!!!!!」


23:45 ゆイタニック号内 通気口
「ふいー。火事場泥棒ってのは好かないけど、四の五の言ってられないのぜ……。」」
ゆイタニック号で謎の揺れが起きた直後、まりさはすぐさま進入経路の一つであった通気口から、展示室を目指
し携帯型折りたたみ式スィーで移動していた。
恐らく、今現在は先ほどの揺れの情報収集に当たっているはず。警備はまだスカーレット・ブルーを動かしては
いないはずだ。
……しかし、
「どういうことなのぜ……ありすやきもんげ達と連絡を取りたいのに、つながらない……。」
だが、それを気にしてる場合でもない。今を逃せば、恐らく……。
「待ってろよ……!スカーレット・ブルー、それに……。」
『あのこには、あれが必要なんだ、きっと。』
「……博士も、馬鹿なことを考えたものだぜ……!!」
正直に言えば、気乗りはしなかった。それでも、義理がある。夢もある。何より、誇りがある。
「そんじゃま、いっちょやったりましょっか!!]

23:55
「むきゅ……、にとり……、むきゅ……!」
息も絶え絶えになりながら、ぱちゅりーは全世界みゅーじあむへと向かう。
走り出したにとりの足は尋常でなく速く、ICPO屈指のタフさを誇るぱちゅりーがまともについて行こうとす
ると、ヘタってしまう程だった。
「飛ばしすぎよ!もう!」
そんな文句を言いつつも、ぱちゅりーはどうにか全世界みゅーじあむにたどり着いた。
「漸くついたわ……!にとり、大丈夫かしら?」
全世界みゅーじあむの前に着いたぱちゅりーは、急いでスカーレット・ブルーの展示室へと駆け込んだ。
「にと……!!?」
そのぱちゅりーの目に飛び込んだのは、何故か倒れている警備員達に、よく分からない蟹っぽい匂い。
そして。
お下げで拳銃を構えるまりさ・ザ・サードと、
その銃口に狙われるにとり。
「……?」
一瞬、ぱちゅりーには状況が理解出来なかった。
そして、
銃声が響いた。

「……ッ!!」

にとりは倒れた。

銃声が響く度に、体が揺れた。

銃口から立ち昇る硝煙がまりさの息で吹き流され、

再びの揺れがにとりだったものをぱちゅりーの間近まで運んだとき、

ぱちゅりーはようやくすべてを認識した。

『……氷山が激突、氷山が激突、みなさま、落ち着いて行動されたし……』

「まりさぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ぱちゅりーの懐から、コルト・ガバメントが引き抜かれる。
「どぉぉいうことなのッ!!!!!」
全世界みゅーじあむに、銃声がまた響き渡る。


24:00
もとい、四月十五日0:00
「……どやら、行ったみたいやな。」
乱射魔に人質にされていた乗客を、こめいじ姉妹とうにゅほが避難させた後の河城飯店。
きもんげとてんこはテーブルの下からこっそりと店内を覗いていた。
地震の直後、突如闖入した乱射魔部隊と、待ち構えていたかのように現れたこめいじ姉妹とうにゅほを始めとす
る警官隊。
おまけに船は沈没の危機にあるという有様。
「シャレにならん……どころやないね。危機一髪や。」
はぁぁぁ、ときもんげはため息をつく。骨折り損のくたびれ儲け、ということはまりさと組んでる以上良くある
ことではあったが、そうはいっても矢張り嬉しいものとは到底言えない。
「それよりここはさっさととんずらでトン図らすべきこのままではてんこの寿命が沈没でマッハ」
「そんなんわかっとるけど、……なんや、さっきからまりさに連絡つかへん……。」
うどんげがぼやいたとき、
外からマシンガンの音が響いた。
「……おいィ、お前らさっきの音が聞こえたか?」
「聞こえてない(裏声)」
「何かあったの?(裏声b)」
「……私のログにはしっかり残っとるな。マシンガンの音やない?」
「空気読まないとかきもんげ絶対忍者だろ……。」
沈没の危機にあるわりには呑気な会話を二人が続けていると、ザッ!ザッ!と音がした。
「……珍しいのにあったものね。こいし。」
「そうね、姉さん。二人とも、避難のことは心配しなくていい。……取っておきを用意してある……。」

0:05 全世界みゅーじあむ
「よいしょっと……。ようやくついたのぜ……。」
スィーから降りると、まりさは帽子から特製レーザーポインターを取り出し、通気口の出入り口をカットし始める。
ガタンッ!という派手な音とともに、歪な丸に切られた網目が落ちる。
そして、まりさもすっと降りる。
「ふぅ、どうにか……って、なんじゃこりゃあ!!!」
改めて周囲を見回したまりさは驚愕した。
辺りには複数の警備員が倒れていた。肝心のスカーレット・ブルーは……。
「あった!……って、まさか……」
チュッと口付け。
「……クソッ……!やられたってのか!」
まりさが無い足で地団駄を踏んだときだった。
「いえ……違います……。」
まりさが振り返ると、そこにはぱちゅりー警部の助手、こぁが居た。
「どういうことなのぜ?」
「最初は……あのまりさがやったのかと思いました。この鉄火巻き型酸素ボンベで私は事なきを得ましたが、得
体の知れないガスでみんな倒れてしまって……。そのあと、あのまりさは何だか痛そうな変身をしてここを出て
いってしまったんです。」
「……ダイヤは?」
「……色々あって、盗まれたと思ってたんですが……辺りに注意しつつ見直してみると……。」
「あった。……ってところなのぜ?」
「はい。……おそらくは、ホログラフィか何かだったんでしょう。……とはいえ、ホログラフィの奥に別の何かがあったのは確かなはずですが。」
「……?」
「それより、重要なのはその後の話です。私は急いでぱちゅりー警部に連絡を取ろうと無線をつけたんですが」
「まるでうごかない……。」
「はい。そうこうしてる内に、なんらかのガス……それを吸い込んでしまったんです。」
「……どういうことなのぜ……って、簡単な話か。別に狙う奴の仕業……。」
「恐らく。慌ててボンベをつけましたが、ガスを少し吸ってしまったせいか、いままで動くことが出来なくて……。」
こぁはそう言うと、まりさに歩みよる。
「お願いがあります。警部を……助けて下さい。」
「ぱっつあんを?どういうことなのぜ?」
「警部はここであなたの偽物と対峙し、……逃げ出した偽者を追っていきました。でも、それは罠なんです!」
こぁの話を聞くと、まりさはぽつりと呟く
「……いや、恐らく、まりさ達も狙い、だろうぜ。まりさ達を追い詰められるのはぱっつあんぐらいなもんだ。
……それも、トサカに来た、な。保険のつもりかもしれないが、だとしたら厄介すぎるのぜ。」
そんなんじゃ、おちおち仕事もしてらんないのぜ、とまりさは言った。
「それじゃ……。」
「……ぱっつあんの部下だけはある。察しがいいのぜ。……ぱっつあんに命狙われるのは勘弁だぜ。それに……、
多分スカーレット・ブルーの本物は盗まれてないんだろ?」
「……はい。」
「まりさも気が動転してたのぜ。……まりさを捕まえる体制整えてるんだ、よく出来た偽物を数日展示させるな
んてぱっつあんならやらせかねないのぜ。だろ?」
「……。」
「ま、いいのぜ。本物の場所の検討も付いてる。……だからこそ、ぱっつあんの所へ行かなきゃな。」
「信用して、よろしいですか?」
こぁがそう言うと、まりさはにやり、と笑った。

0:15 河城飯店
「おいィ、これsYレならん状況でしょう……!」
「わーっとるよ!って、わっ?!」
きもんげのすぐ側を弾丸が掠める。
まりさ一味のきもんげ、てんこを発見したこめいじ姉妹は、その確保に当たっていた。
案外デリケートな事案のため、うにゅほは外で見張りをしている。
「観念しなさい。にげられないわ。」
「ここをお前達の墓場にするのも粋だとは思うが……命は粗末にしたくない。」
彼女達は本気だった。……いや、そうでなくとも、普通の犯罪者であれば、姉妹ともに射撃の名手であるこめい
じ姉妹に狙われた時点で諦めて投降するだろう。
しかし、本気だろうと手加減していようと、きもんげとてんこには投降する気などまるで無い。
いや、むしろ、
「……私が援護射撃したる。やれるか?てんこ。」
「……てんこならコレぐらいチョロいこと。」
「頼もしいことやね。……ほなら、いくよ!!」
「ハイスラァ!!」
カカッと駆け出すてんこ。その向かう先は――
「……!わたしを狙っている?!」
「姉さん!」
姉妹二人による銃弾がてんこめがけて降り注ぐ。
「っ……!」
てんこは銃が構えられたそのタイミングで大きく横へと逸れ、同時に緋想剣を構える。
「ハイスラァァァァァ!!!!」
それでもなお降り注ぐ銃弾を、緋想剣で切り払う。
「……!?まさか本当に弾丸を切り払うなんて……。」
てんこの荒業にこいしが関心していたときだった。
「!?きもんげか!」
敵対する感情を認識したさとりは、その方向へ銃口を構える。
が、
「遅い!」
「一瞬の油断が命取り!」
だがそれよりも早く、
緋想剣の峰はさとりの急所を強く打ち、
きもんげのマグナムから放たれた銃弾が、こいしの得物を弾きとばす。
「ぐッ?!」
「ッ!?姉さん!」
「……完全に打ちのめしたので以下レスひ必要です」
そして、カカッと駆け寄ったてんこは、こいしのみぞおちに柄を打ち込んだ。

0:30 ゆイタニック号通路
「ありす!もっと早くするのぜ!」
「なによもう!人使い、じゃなくてゆっくり使いが荒いんだから!」
ぱちゅりー警部を追いかけていたまりさは、……色々と「お仕事」を終えて合流しようとしたありすと偶然にも
合流していた。
「それにしても、その話……本当なの?」
「多分な。まりさ達のアジトを知っていたことを考えれば……。」
「俄かには信じられないわ。」
「……まりさも自信ない。」
ちょっと!とありすが怒るのを聞き流しつつ、まりさはお下げに隠した通信機を見る。
「……やっぱりなのぜ。電波妨害が解けてる。お陰で二人の位置がわかるけど……誘い込むつもりだぜ。」
「いいの?まりさ。」
「いわずもがな!!」

0:30
「……ふぅ。寿命が縮んだかと思うたわ……。」
きもんげは思わず安堵の声をもらす。
「思うにこれはてんこが頑張り過ぎではにいか?元ネタでもやたらと多才になってる系の話があるらしいそ(五
ヱ門話)」
そして不機嫌そうに愚痴るてんこ。
「ま、感謝しとるよ。それよか、はようありすやまりさと合流せんと……。」
「こいつらは?」
「そやな。得物バラしといてから起こしたるわ。ここもそんな時間あるとは思えんし……。」
「……てんこも見捨てりよりはマシだと思った(リアル話)」
二人がそう言いつつ、さとりとこいしの得物に手を掛けたときだ。
「……きもんげ、てんこ。」
声のする方を見た二人の目に映ったのは、河城飯店の入り口に立つぱちゅりー警部の姿だった。
「まりさは何処かしら。」

「てんこはああ警部は本当に偶然常に近くを通りかかるもんだなと納得した」
「ちょうどええとこに来たわ。ぱっちぇはん、この二人運んでいってもらえへん?」
「てんこ達は闇系の脱出があるのでこれで」
二人はそう言ってぱちゅりーの方を(チラッ と見たが、ぱちゅりーはなんの反応も見せず、ただ一言
「……もう一度聞くわ。まりさは何処?」
というだけだった。
いままで見せたの無い威圧を込めて。
「……見逃してはくれへん、みたいやな。」
「全身からかもしだすエネルギー量がオーラとして見えそうになる警部にたいしてナメタ言葉で対応しようとし
た浅はかさは愚かしかった……!」
きもんげとてんこがそう言って構えようとした時だった。
銃声が二つ、響いた。

宙を舞ったマグナムが音を立て地面に落ち、弾け飛んだ緋想剣が床につき刺さる。
ぱちゅりーが構えた銃口からは、未だに硝煙が立ち昇っていた。
「……マジ、かいな。」
「マジ震えてきやがった……」
ぱちゅりーは先ほどと変わらぬ声で、一言。
「最後のチャンスよ。……まりさは何処?」
「……お断りや!」
きもんげはそう言って走り出した。そして、さとりが持っていたオートマチックを手に取ると――
「無駄よ。」
目の前には、銃口。
「きもんげ!!」
「てんこだって心配してるわ、きもんげ。……リボルバーならまだしも、慣れないオートマティックで私に敵う
と思う?」
「……やってみな、わかるかい。」
両者が引き金を引こうとした、
そのときだった。

5:四月十五日
盛大にガラスの割れる音がしたかと思うと、それはぱちゅりーときもんげの側をギリギリで通りぬけていく。
「おいィ……ボートが陸を走るのはずるい」
バイクモードに変形した、例の高性能ボート。
ありすはそれを駆って貨物室からゆイタニック号を走り回りここ河城飯店に飛び込んだのだ。
「……まりさ!」
「おいィ!」
ぱちゅりーの隙を突き、きもんげとてんこはボートに飛び乗る。
「待ちなさい!まりさ!!!」
ぱちゅりーはボートへと銃口を向ける。
「……待つのはぱっつあんだぜ。」
まりさはそういうと、ひらりとボートから飛び降りる。
「まりさ!」
「心配御無用なのぜ、ありす。」
「でも……。」
ありすはそう言ってぱちゅりーの方を見た。
「……本気よ?」
「こっちはいつだって本気だぜ。……早くいくのぜ。脱出経路確保しておいてくれ。」
まりさの言葉にありすは無言でうなずき、ボートのスロットルをあげる。
「お、おいィ!!お前それでいいのか!?」
「いいのよ!……あの二人にしか分からないことだってあるの……!」
凄まじい勢いで、ボートは河城飯店を駆け抜けていった。


後に残ったのは、二人。
「私と……あなただけね、まりさ。」
ぱちゅりーはそう言うと、一歩歩み寄る。
「私は、あなたは人やゆっくりをむやみに殺さないと思ってた……いえ、勘違いしてたのかしら。」
そしてまた一歩。
「答えなさい。」
ぱちゅりーは、まりさを見下ろした。
「なぜあの子を殺したの!!」
まりさはそれに答えること無く、帽子から拳銃を取り出す。
「ぱっつあん。その得物……これとおんなじなのぜ?」
ぱちゅりーはそれをじっと凝視する。
「……どうとでもいえるわ。」
「どうとでも言えちゃ、まずいのぜ?……なぁそこのアンタ!」
銃声。
……弾丸はぱちゅりーの横を掠め、その後ろに消えた。
「なんのつもり?」
「後ろ。見てみるといいのぜ?」
「その手は桑名の……!?」
ぱちゅりーは初めて目の前に鏡があることに気づいた。そして、そこに映るものも。
「ぱちゅりー警部……!!」
「に……とり……?!」
ぱちゅりーは体を翻し、にとりが生きていることを確かめようと、彼女の元へ……
「やめろ!!ぱっつあん!!!」
再びぱちゅりーに向けられた銃口は、その心臓を捕らえていた。


「邪魔者は居ないってわけか。……出て来いよ。そんな操り人形相手にする気にもなりゃしない……!」
「……私も願い下げだ。」
立ち尽くすにとりの後ろから現れたのは、地獄から来た女。
「黒谷スパイダーマ……!」
「そう。そして、お前に見捨てられた相棒だ。」
「……見捨てたのはお前さ、ヤマメ。金を盗みきった直後にタマ取ろうとしたんだ。……フライ・フェイスで済
んだのは幸運だと思うぜ。」
「違うな。全身大火傷だッ!」
宙に浮いた二つのウィスプ・ハンドからストリングを繰り出すダーマ。
まりさはそれをすんでのところでかわす。
だが、
「……まりさ。スカーレット・ブルーは渡してもらうよ。」
まりさの後頭部……もとい、背後に、にとりは拳銃を突きつける。
「……光学迷彩、か。完成させてたんだな、お前が。」
「当たり前じゃない。……まりさにだって、もう少しで完成するって言ってたでしょ?」
カチリ、撃鉄の音がした。
「……だから、本物のスカーレット・ブルーは何処?」
「さあて、まりさもご存知ないのぜ。」
聞いたことも無いような銃声が響く。目の前の床に残ったのは、大きな跡。
「……カスールたぁ、品がないのぜ。『博士』なら、そんなことはしない。」
「そんなの、まりさが知る『私』だよ。本当の私じゃない。」
まりさに撃たれたにとりの左手が、バチバチと火花を散らす。
「私は、『私』を作りだせたんだ。」

「ねぇ、まりさ。あの子に、『私』にスカーレット・ブルーをプレゼントして頂戴。」
「……どうしてなのぜ?いくら精巧なコピーでも、機械にそんなものやったって……」
「……あの子の、『ゴースト』のためよ。」

まりさの帽子を探るにとりの手が、鉱物をさぐり当てる。
「なんだ、あるんじゃないか。」
「……。」
ダーマのストリングに縛られたまりさは声を発することも……
「『お望みの品だろ?どうなのぜ?』」
腹話術が出来た。
「ふふ……やっぱり本物は違うね……このひんやりとしたさわり心地……。」
まりさは、なにも言わない。
「もう二度と。もう二度と……。」

『……そ。おどおどしてるより、笑顔のほうが似合うわよ?』

にとりは、スカーレット・ブルーに頬ずる。
「にど、……と……。」

『これでこの話はお終い。……折角の休日なんでしょ?あなた楽しまないと。』
『そうですよね。……警部さんと一緒に居るだけで、結構楽しいんですけど、ね。』
『むきゅ?!』


なんだろう。
こころがいたい。
これは……これが……?



「……もういいだろう、にとり。」
……これで何度目だろう。銃声は、いつでも無常に響く。
にとりの体は、今度こそ動くことが無くなった。




「とある少女は、とても裕福な家庭に生まれました。彼女は、家に代々伝わる宝石がとても好きでした。」
「しかし、ある日を境に家は没落を辿り、」
「少女は家族と、その宝石を失ってしまいます。」
「ですが、少女は天才でした。」
「誰も頼れぬ裏社会で、彼女は異端の科学者として、地位を築きあげ、信頼を得、頼れる存在を見つけます。」
「その大福の名はまりさ。彼女は泥棒でした。」
「失った家族を取り戻せぬことを知った彼女は……。」



「まりさ。人の心はね、痛むと分かっていても、それを求めてしまうことだってあるんだよ……。」





「……無力だな、まりさ。お前はまた彼女を殺した。」
「『殺したのはお前さ、ダーマ。それも、博士じゃない。にとりだ。』」
ダーマはマスク越しにそっと笑う。
「『殺した』のは確かにそうさ。言葉が悪かった。……だが、救えなかったのは……」
「救えなかったのはまりささ。……けど、博士は二人いない。」
いつの間にか、まりさはストリングから抜け出していた。
「……!?」
「ふざけるなよ。お前は二人の存在を馬鹿にした。」

「彼女という人間の記憶を持ったとしても、機械では同じ人物にはなれない!ましてや、それがゆっくりならな……!」

「そうね。」
そして、
「……私もそれには賛成ね。」

ゆイタニック最後の銃声が、夜に響く。


「ぐ……うっ……!」
「……鉛玉の味はどうかしら?慣れっこかもしれないけど。……このあともずっと覚えていてもらうわよ。」
ぱちゅりーはそう言うと、にとりの側まで歩いていく。
「ひゅーひゅー」
「ちゃかさないで、まりさ。逮捕するわよ。……にとり、大丈夫?」
「……ごめんなさい、警部。」
にとりの体は壊れていた。……そのボディは、乱射魔部隊の使っていたものをベースにした特注品。
博士の作った、分身にして娘への贈り物だった。
「私……ほんとうは分かっていなかった。人の……ゆっくりの心を……。だけど、今なら……分かる気がする……。」
頭だけになったにとりを、ぱちゅりーはそっと抱きかかえる。
「……無理しなくていいわ。人の心なんて、本人だってよく分からないんだもの。」
「……でも、なんだろ。あの日のことが、とても嬉しいんだってことが……よく分かるんだ。」
「……ごめんなさい。生憎、勘違いよ。あなたがロボットだとして、最初から心を持っていたのではなくて?
あのダイヤは大きいだけのただのダイヤだもの。」
ぱちゅりーそこで一旦言葉をとぎると、自慢げに語りだす。
「第一、まりさが本物のスカーレット・ブルーなんて持ってる訳ないわ。だって……。」
「もしかしてぱっつあん。『まりさが持ってたら私は今頃死んでる』っていいたいのぜ?」
そういってまりさは、にとりが落としたスカーレット・ブルーを帽子の中にしまう。
「むきゅ。そうよ。世界一硬いダイヤだったからこそ私は胸に弾丸を受けずに……」」
「……警部。万一本物のダイヤだったら、粉々になってるんだけど。」
「む……きゅ……?」
にとりの言葉に、ぱちゅりーの思考回路は停止する。
「さっすがぱっつあん。……ダイヤは世界一硬いってのをちょっと勘違いして偽物作ってくれるなんて。」
じり。
「む、むきゅきゅ?!」
じりじり。
「……まりさに絶対狙われない場所……『盗まれない』んじゃなく、『狙われない』場所……つったら、ぱっつ
あんの近く。絶対なら……ぱっつあんの懐みたいな場所にきまってるのぜ。」
じりじりじり。
「そんじゃま、後は若いもんに任せておいとまいたしましょっか。」


パリーン。


「むきゅー!!!やったわね!!まりさ!!!」
河城飯店の窓を破り、海に浮かぶボートに乗り込むまりさ。
「じゃあなぁ、ぱっつあん!ヤマメのことは頼むのぜ!」
その声とともに、ボートは勢いよく海上を走る。


「むきゅう……!またしても……!」
「まだだよ。」
「むきゅ?」
「まだ手はある。」


四月十五日 7:00ごろ ゆイタニック号付近の海域
まりさが目を覚ますと、そこは大海原の上だった。
「お。ようやく目ぇさましよったな、まりさ。」
「あれから大変だったんだが?疲れてるのは分かるがすぐに眠りこけてしまうのは、どちらかといえば大反対。」
「悪い悪い。」
「そんでまりさ、ダイヤは大丈夫かいな?」
「お宝はどうなったんですかねぇ……?」
「そそ、お宝よ、お宝!!」
「お前ら……少しはまりさのこと心配してくれたっていいのぜ。」
いつもと変わらぬ三人の辛辣さに、まりさはどこか安堵を覚えていた。
「んじゃま、わかったのぜ。ほれ、スカーレット・ブルー。」
朝日に輝くそれは、ぱちゅりー警部が作ったあの偽物をはるかに凌ぐ、極彩色の美。
博士が、にとりが、心を奪われてしまったのもいたし方無いだろう。
「それにしても、今……七時だろ?ぱっつあんはどうしたのぜ?何時間もまりさ達のことをほったらかしなんて、
珍しいことなのぜ。」
「生憎、や。後ろ見てみ。」
きもんげにそう言われて、まりさが後ろを向くと、
「むきゅー、すー。」
「(寝ながらコレに掴まってる……やだなにこの超ゆっくり)」

ぱちゅりー警部が鮫に乗って寝ながら追いかけてきていた。
「……斬新すぎね?ぱっつあん。」

「……むきゅ!にとり、まりさは?!」
「ごめん、警部……追いかけるので精一杯……。」
「むきゅうう、それじゃ、よくわかんないけどアニマトろ何とかって言うロボットを、引っ張り出した意味がな
いじゃないの……。」
「いや、結構使えるかなって……あ。」
「な、なに?!」
「バッテリー、切れちゃう。」
「むきゅー?!ちょ、ちょっとそれは困るわよ!」


「だーれかー、助けてー!!」


その後。ぱちゅりー警部とにとりは、気分上々で空を羽ばたいていたとある自称妖怪Lさんに助けられたという。


――
ついで。


「……く、傷がうずく。」
スパイダーネットの筏で海を漂流するダーマ。
特製の包帯で止血した傷口は、まだ痛んでいた。
「……逃がしはせんぞ、まりさ。」


「むきゅ、ローレライさん。」
「え?なんです……こほん、あら、何かしら?」
「あの変体仮面もお願いできるかしら?」
「お安い御用よ!」



――
遅れて申し訳ありませんでした。
……後日修正ですかね、これ。

ゆっくり怪談の人

  • スパイダーマの登場でシリアスなシーンのはずなのに笑ってしまいましたw
    登場人物みんな格好いい!特にきもんげとてんこのコンビが好き過ぎます。
    そして色々な伏線回収ご苦労様です。ていうか、Lさんやら鮫やらクロス有難う御座います!
    凄くローレライ「らしさ」が出てて感激しました。 -- かぐもこジャスティス (2009-06-20 22:09:36)
  • ぱちゅりー警部とまりさ一味が他の作者の方々のssとクロスしていく様子と、
    事件に立ち向う姿に興奮しました
    それからこめいじ姉妹の登場感謝です!
    私の場合ちょい役としてしか登場させられなかったので、こうして掘り下げていただいてありがとうございます。
    継ぎ方がすごく自然で、思わず唸りました

    6スレ目 -- 名無しさん (2009-06-21 23:25:28)
  • あまり自分の作品を駄作なんて卑下するのはよくないですよ
    作品にとっても、楽しんだ読者にとっても失礼です
    作品は面白かったんですが、そこだけがどうも残念に感じました -- 名無しさん (2009-06-22 19:08:29)
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最終更新:2009年06月22日 19:08