「創作スレ一周年企画」ゆっくらいだーディケイネ
第9話 迫り来る脅威
「緊急事態が起こりました 緊急事態が起こりました。
非戦闘員の皆様はゆっくり落ち着いて地下シェルターに避難してください。」
最初に起こったのは小さな地響き、
その直後に、けたたましいサイレン音と共にアナウンスが部屋中に響き渡った。
おいおい、何が起こったんだよ。
「う、うわぁあああああああああ!家事だ!地震だ!親父だ!お姉さんだ!」
うわ、まりさがサイレンを聞いてパニック起こしてるよ、
「つか私は災害の中には行っているのかい!」
ゲシッ!
「ぐはッ。」
とりあえず、私はこいつの頭にチョップをかますことでこいつを大人しくさせる。
放っておいたら、何をしでかすか解らないし。
「あらあら、今回は思ったより早いわね。」
とよひめは割と冷静にアナウンスを聞いている。
同じゆっくりなのに、この違いは何処から来るのだろう。
育ち方の違いとか?
考えたら何だか空しくなった。
「皆さん!緊急事態です!シェルターに案内しますからこちらに来てください!」
と、部屋の入り口のほうから誰かが呼びかけてくる。
見ると、そこには大型のボードに乗ったうさ耳ゆっくりの姿があった。
ボードはとても薄く、どういう理屈なのか宙に浮いている。
とても不安定に見える。
「案内するって、一体どうやってよ!?」
「ボードの後ろに乗ってください!後は私が案内します。」
そういってうさ耳ゆっくりは身体全体でボードの後ろに乗れって合図を出す。
とりあえず、乗れって言うのなら素直に乗ったほうが良いんだろう。
私は籠に入っていた作務依を手に取ると、ボードの後ろのほうに乗った。
・・・おお、思ったよりゆれない、立っていても安定している。
見た目は空中に浮いている所為もあって不安定に思えるが、安定性はかなりのものだ。
「ちょっと、そこ詰めてくれません?凄く窮屈なのよ。」
おお、とよひめいつの間にかボードに乗っている。
私は「あ、ごめんごめん、と言いながらはしに詰めると、まりさをボードの上においてやった。
「皆さん乗りましたね、それじゃあ、地下シェルターへ急ぎますよ!」
そういうと、ボードの前の方にある光る床の上に載った居るうさ耳ゆっくりが前傾姿勢をとった。
なるほど、あの光る床でこのボードを操作するのか・・・。
ギュウウウウウンッ!
「って、うわあああああっ!」
ちょ、予想以上に加速が付きすぎじゃないの!?
私は思わずバランスを崩しそうになったわよ!マジで。
「ちょ、ちょっとゆっくり出来ないスピードだぜ~!」
まりさの余りのスピードに脅えて必死にボードにしがみついてる。
すると、運転しているうさ耳ゆっくりがこういった。
「落ちないように気をつけてくださいよ、時速100キロは出てますから、これ!」
「じ、時速100キロ・・・。」
仮にも建物の中で出すスピードじゃない。
「ちょ、ちょっと待った!建物の中でそんな速度を出したら絶対ぶつかっちまうぜ!
この乗り物、安全なんだろうな!」
不安に思ったまりさがそう叫ぶ。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。」
と、そこでとよひめがそう話しかけてくる。
さっきから混乱しっぱなしのまりさとは逆に非常に落ち着いてるな、このゆっくり。
「え?そうなのか?」
まりさが顔色を蒼くしながらそう問いかけてくる。
「何しろ運転手が只者ではありませんから。
彼は今までこれを運転していて居たら勢いあまって
時には窓ガラスを10枚ぐらい突き破ったり壁にぶつかる所かぶち破ってしまったり、、時には泥酔運転をしてその結果スィ~10台を巻き込んだ
大事故を巻き起こしたりしていますが、それら全ての事故から全て無傷で生還している伝説の運転手ですよ!」
・・・・確かに伝説だ、それだけの大事故を起こしたのだから。
「まりさはおりるぜぇええええええええ!」
それを聞いて完全にパニック状態に陥ったまりさであった。
「ハイハイ、時速100キロで動く乗り物からムリに降りたら、とんでもない事になるわよ~。」
そう言ってまりさの上に載るとよひめ。
「・・・グェッ。」
ちょっと潰されて苦しそうだなまりさ。
「もうすぐシェルターに着きます!皆さん、受身の姿勢をとってください!」
と、そこで運転していたうさ耳ゆっくりがそう叫んだ。
・・・・受身の姿勢をとれ?今こいつ確かにそういったよな?
「ちょッと、今のはどういう。」
「ハイ、到着!」
キキイ~ッ!
いきなりそう言って急ブレーキをかける運転手!
その弾みでボードの後部が急に浮き上がる!
ブワッ!
「う、うわあっ!?」
後部が急に浮き上がった反動で、私もまりさもとよひめも、中に投げ出されてしまった!
「ゆわぁあああああああ!?」
いきなり空中に投げ出されて絶叫するまりさの顔が視界に入る。
かなりの面白顔で、思わず携帯で写真を撮りたくなったが、今はそんな事してる場合じゃない!
どさあっ!
・・・・ふう、とっさの受身のおかげでダメージはないようだ。
全く、あんな乱暴な下ろし方はないんじゃないろうか。
「・・・い、痛い・・・顔面が痛い・・・。」
まりさの方は受身に失敗して、顔面から地面に着地していた。
こりゃ予想以上にダメージがありそうだな。
「ふう、何とか避難できたみたいですね。」
その横でとよひめが優雅にそんな事を行っている。
その余裕はさすが姫というだけはある。
・・・・さてとりあえず、バスローブから作務依に着替えなおして改めて辺りを見回してみる、
そこには沢山のうさ耳ゆっくり達の姿があった。
周りの壁は頑丈な鉱石(見たこと無い種類だから多分月独特の金属製。)で囲まれた無機質な部屋。
入り口は私たちが入ってきた(放り込まれたというほうが正解か)一つだけでうさ耳ゆっくりが見張っている。
「ちょっと出してよ!おやつを家においてきたんだ!」
「ハイハイ!カンパンやるから大人しくしている!」
一匹のゆっくりがそこから出ようとして、見張りのゆっくりに押し戻されている。
どうやら、本当にここはシェルターの中らしい。
シェルターの中のうさ耳ゆっくり達は、みんな不安な顔で上のほうを見ている。
「あ、おねーさんにまりさ!」
と、遠くから聞きなれた声が聞こえてくる。
声の主は、うさ耳ゆっくり達の群を掻き分けて現れた。
「む~しゃ、む~しゃ。」
「・・・れいむ、あんた何食っているのさ・・・。」
カツ丼を食いながらこっちに来たれいむ見て、私は呆れるしかなかった。
って言うか、食べているどんぶりの他にも頭にもまだあけてないと思われるどんぶりが乗っかってるし。
「食べられるときに、食っておかないとね!」
ほっぺにご飯粒をつけたれいむがそう力説する。
妙に説得力があるように思えるのは・・・気のせいだと思いたい。
「れいむ!その頭の上にあるものをまりさにも食わせるんだぜ!」
「ゆ!これはゆっくり渡すわけにはいかないね!」
頭の上のどんぶりを巡って、醜い争いを繰り広げるれいむとまりさ。
結構普通じゃない状況なのに、こいつら良くやるよ・・・・。
「うわぁああああああああ!」
「たすけてぇえええええええ!」
・・・・ん?何かあっちでうさ耳ゆっくりたちが騒いでいるけど・・・。。
気になった私は叫び声のするほうへと行ってみる。
れいむとまりさは・・・まだ醜い争いをしているので放っておくことにした。
とにかく、声のする方に向かった私が見たものは!
「はぁああああああ!待ってぇええええええぇぇぇん!その耳モフモフさせてぇえええええええ!」
・・・・見なかったことにして良いですか?え?だめですか・・・。
うさ耳ゆっくりを追い掛け回している変な女の子の姿があった。
・・・・つーかアイツ、こんな所で何をしてるんだ。
「怖いよぉおおおおおお!」
「こら!シェルターの中じゃあ大人しくするのが鉄則だろ!」
「こんな怖いお姉さんとゆっくりできないよぉおおおお!」
「ふぉおおおおおおおおおおっ!」
・・・・何かゆっくり達が脅えているし、少女は興奮の余り、発情期みたいな声を上げてる、放って置いたら私にも被害が来るかもしれない。
とりあえず私はその少女に向けてバスローブをブン投げる。
・・・・投げられそうな手ごろな物がそのバスローブしかなかったのだ、悪いか?
バフッ!
「きゃあッ!?突然目の前が真っ黒に!それと、何か微かに加齢臭が!」
「何で加齢臭がするのよ!」
頭にバスローブをかぶり、パニック状態の少女に私は思わず飛び蹴りをかましてしまった。
・・・・いや、だって加齢臭だよ、私はまだそんな年じゃない。
「うう・・・誰よ!変なのを投げて飛び蹴りをかました奴は!」
すぐに起き上がった少女は怒りに任せてバスローブを顔から剥ぎ取る。
最初に彼女の目に入ったのは、私の顔だった。
「あら、あんたも来てたのね、こんな地球から離れた所までお疲れ様。」
「あんたもこんな所で恥ずかしい真似してるんじゃないわよ。でんこちゃん。」
私は半ば呆れながら少女にそう言った。
・・・・このやり取りを見れば解るだろうが、私はこの少女の事をしっている。
こいつが病的にゆっくりが好きなことと、私と同じく変身できる事も、だ。
「失礼ね!これだけのゆっくりに囲まれたら誰だって追い掛け回したくなるわよ!
後、でんこじゃなくて私は伝子(つたこ)って言うのよ!」
「普通は追い掛け回さないわよ、でんこちゃん。」
「だからでんこじゃない!」
・・・・はぁ、あの二匹だけでも疲れるってのに、その癖、また余計に疲れる娘がここに居るとは・・・。
って言うか、何でここに居るのよ、こいつ。
そう考えてると、とよひめが伝子の傍までやってくる。
「あら、伝子さん、貧血の方はもう大丈夫のようですね。」
「あ、とよひめさん!おかげさまで無事に元気になりました!」
とよひめの呼びかけにそう答えて、伝子はハッスルポーズをとりまくる。
頼む、少しは落ち着いてくれ、私が見てるだけでイラつくから。
「・・・あんたこいつの事知ってるの?」
「ええ、この方は貴方達より前に月の宮殿に連れてこられたのよ、
穢れを落としてあげたら鼻血を出して気絶しちゃって、集中治療室に運ばれたんだけど。」
「・・・穢れ落しって・・・私と同じ事をこいつにもした訳?」
「ええ、そうよ。」
・・・・つまり、こいつも全裸に向かれてうさ耳ゆっくり達に全身を洗われたわけか・・・。
なるほど、こいつにとっては鼻血で出血多量を起こすほどの天国だったんだろうな・・・。
「あれはこれ以上はない至福の体験だったわ・・・・。」
あ、何か悦に入ってる、ちょっと鼻血出しているし。
・・・・こいつの事はもう、放っておくか。
それより、とよひめに一つ聞きたいことがある。
「ねえ、とりあえず成り行きで私達は避難したわけ何だけど、一体何が起きたの?
ケガレが襲撃したって言ってたけど、何が起こっているわけ?」
とよひめにそんな質問を投げつけてみた。
「・・・そうですね・・・あれを言葉で説明しても、地上の物にはわからないでしょう。」
とよひめはそう言うと、また何処かに移動し始める。
姿が見えなくなったので追いかけようかと思っていたら、すぐに戻ってきた。
頭の上にはあの水を張った洗面器を載せている。
・・・・どうやられいむの尋問室の様子を見せてくれたときと同じように、あれで外の様子を見せてくれるようだ。
「・・・これからケガレの姿を見せます、心してみてください。」
そういうと、彼女はゆっくりと目を閉じた。
すると、洗面器に張られた水面によりひめの姿が映し出された・・・。
~☆~
よりひめは、月の都の扉の前に立っていた。
その表情は、ゆっくりとは思えないほど真剣である。
そんなよりひめにレイセンが飛びよってくる。
「よりひめ様!全ゆっくり、所定の位置につきました!」
レイセンはよりひめにそう報告する。
よりひめの目の前にはキレイに陣どったうさ耳ゆっくりたちが並んでいた。
「フン、丁度あちらさんも準備完了のようだな。」
よりひめは陣取ったうさ耳ゆっくり達の向こう側を見て、そういった。
・・・・・敵は、もう月の都のすぐ傍まで来ていた。
うぉおおおおおん・・・うぉおおおおおん・・・ぬぉおおおおおおおおん・・・。
その不気味は黒い影は鳴き声とも泣き声とも思える声を上げながらゆっくりと月の都へと向かっていた。
時には人の肩を取り、時には獣のような形を取りながら。
その黒い物体は月の荒野を闇に染め上げながら月の都に向かっていく。
・・・・まるで、日食のように・・・。
「もう何度も見た光景ですけど、いつ見ても恐ろしいものですね・・・・ケガレの大行進。」
「何だレイセン、お前は怖いのか?」
「怖くない・・・といえば嘘になります。」
「・・・当然だ、あれを見て脅えぬものは居ない、
そして、その恐怖を乗り越えた先に、勝利への道があるのだ。」
そういって黒いものを真っ直ぐ見据えるよりひめ。
彼女は既にその恐怖を乗り越えていた。
「みなのもの!行くぞ!忌まわしきケガレを月の都に入れるな!!」
『オーッ!』
うさ耳ゆっくり達はストローを片手に高らかに叫んだ。
~☆~
「何?あのへんてこりんな黒い化け物は!」
水面に映った不定形の黒い物体を見て私は思わずそう叫んでいた。
それについてはとよひめが丁寧に説明してくれました。
「あれこそがケガレ・・・かつて私たちが体から捨て去ったケガレが意思を持ったものと言われてるけど詳しいことは解らない、
確かなのは私たち月のゆっくりに襲い掛かってくるという事だけ。
我々月のゆっくりにおける、最大の脅威よ。」
はぁ、あんたらあれとといつも戦ってるわけですか。
「へぇ・・・ポリポリ・・・。」
「あんなのが居るなんて大変だね・・・ポリポリ。」
横でれいむとまりさがカンパンを食いながら水面を見ている。
「・・・あんたら、そのカンパン何処で貰ってきたのよ。」
まぁ、当然の疑問なんで問いかけてみる。
「カツ丼を巡って争っていたら「これあげるから大人しくしていなさい」と渡されたんだぜ!」
「まったりしていて、それで居てしつこくないお味だよ!」
そういいながらカンパンをポリポリ食べ続ける二人のゆっくり。
食べ物で起こった争いを食べ物で解決する辺り、ゆっくりらしいというか何と言うか。
どうでも良いけど、さっきから食ってばっかだな、この二人(特にれいむ)。
「あら、戦いが始まったみたいよ。」
と、とよひめがそう言うので私は慌てて洗面器に視界を落とした。
~☆~
「全軍、突撃!」
水面に映っていたのはよりひめの号令を受けて黒い塊、ケガレに突撃するうさ耳ゆっくり達。
うさ耳ゆっくり達は、黒い塊まで二メートルかそこらの所で立ち止まる。
「ストロー構え!」
全員、ケガレに向かってストローを構える。
「発射!」
「ぴゅー!」
うさ耳ゆっくり達はケガレに向かって白い液体を飛ばす。
液体はケガレに当たらずにそのまま地面に飛び散ってしまう。
私はその光景を見て、思わず駄目じゃん、と思ってしまった。
その次の瞬間!
シュワァアアアアアアア!
白い液体から白い煙が一斉に立ち昇る!
「・・・・!」
ケガレはその白い煙に驚いて怯んでいく。
「よりひめさま!ケガレが煙にひるんで後退を始めました!」
「よし!そのまま飛び掛れ!」
「はい!」
よりひめの指示にうさ耳ゆっくり達は力強く返事をした。
そして、怯んでいるケガレに向かってジャンプした!
地上の六分の一の重力はうさ耳ゆっくりたちを大きくジャンプさせ、ケガレの上に着地させた。
「それ!ゴ~シゴシ!」
「「「「ゴ~シゴシ!」」」」
ケガレの上でうさ耳ゆっくりたちは身体をこすり始める。
うさ耳ゆっくり達の身体から、大量の泡が出始めた。
その色はケガレの色をすっているためか、若干黒く汚れている。
「・・・・!・・・・!」
身体をうさ耳ゆっくりに洗われたケガレは段々弱り始めていた。
「5分後退で後退しろ!コツに攻撃の隙を与えるな!」
「了解です!」
うさ耳ゆっくり達はよりひめの指示通りに五分間ケガレを洗うと、ケガレから大ジャンプで飛び降りる。
その直後に他のうさ耳ゆっくりがケガレに飛びついて、全身を使ってケガレを洗っていく。
「・・・・・・・・・・。」
その繰り返しを受けて、ケガレはその身体を泡まみれにして少しずつ弱っていった。
「中々凄い光景だぜ、この黒い化け物が泡まみれになって弱っていくのは。」
カンパンを食いながら水面に映るケガレとうさ耳ゆっくりの戦いを見ているまりさは、さながらお昼のテレビを見ている主婦のようであった。
まぁ確かに、うさ耳ゆっくりと比較して明らかにでか過ぎるケガレがうさ耳ゆっくりの団結によって弱っていく光景は
中々ものすごい光景であるである。
内心、ここで洗面器越しに見ているより実際にその目で見てみたい、
まぁシェルターを見張っているうさ耳ゆっくりが居るのでそう簡単には出られないんだろうが。
「はぁあ・・・あの黒い怪物をごしごししているゆっくりかわいすぎ・・・私もごしごしされたぁあい・・・」
・・・・・何か後ろで誰かが気持ち悪いことを言っているので、振り向いてみたら、伝子がむっちゃ興奮状態で洗面器を見ていた。
こいつ、騒ぎすぎなんですけど、つーかいつの間に私の後ろに移動してるんだよ・・・。
吐息がうなじにあたって気持ち悪いので、私はとよひめのお隣に移動する。
「ケガレは見ての通り、巨大な汚れのような物、あんな風に清潔にされると段々と弱っていくのです。」
とよひめが私達にそう説明する。
「ふぅん、でもなんでうさ耳ゆっくり達は身体をこすり付けるだけであんなに泡が出たりするの?」
と、れいむがそこでとよひめに質問する。
ああ、それは私も気になっていた。
全身洗われたから解るんだけど、うさ耳ゆっくりは身体をこすり付けるだけで簡単に泡を出してきた。
何でそんな事ができるのか、少しは疑問に思っていたのだ。
それに対するとよひめの答えはこうだった。
「それは、月のゆっくりの身体がスポンジと洗剤で出来ているからよ。」
うわぁ、凄い答えが返ってきた。
とよひめの説明に寄ると、月のゆっくり達はれいむ達の皮に当たる部分がスポンジで、
餡子と言った中身に当たる部分が洗剤で出来ているんだそうだ。
だから身体にちょっと力を込めるだけで全身から泡を出すことが出来る。
この泡で床との摩擦係数を限りなくゼロにすることで遠距離を滑るように移動出来たり。
ストローを使ってシャボン玉を大量に敵に吹き付けて混乱させる事が出来るんだそうだ。
「スポンジかぁ、確かに抱きしめたときに独特の手触りだったわね。」
説明を聞いた伝子がうさ耳ゆっくりを抱きしめたときの事を思い出して悦に入ってる。
その手つきは正にセクハラ親父のそれだ。
「じゃああの煙は何だぜ?」
と、今度はまりさが問いかけてくる。
「種類の違う洗剤を混ぜるとでてくる煙があるでしょ、あれです。」
とよひめはニコリと笑ってそう答える。
・・・・それって、無茶苦茶有毒だった気がするんだけど、
あいつら、何ちゅーもんを吸わせるんだ。
「まぁとにかく、いつもならこれでケガレは逃げ帰っていくはずなんですけど・・・。」
とよひめは何だか心配そうな様子で洗面器を覗き込む。
そして、ゆっくりには珍しい真剣な口調でこう呟く。
「何だか、妙な胸騒ぎがするのよね・・・。」
うさ耳ゆっくり達の努力の甲斐あって、ケガレは最初と比べると、半分ほどまでに小さくなっていた。
「よし!あと一息だ!」
「頑張れ~!頑張れ~!」
うさ耳ゆっくり達は力を会わせてケガレを洗っていく。
「よりひめ様、あと一息ですね!」
「わかってる、お前ら、一気にカタを付けろ!」
「了解しました!」
そして、うさ耳ゆっくり達がラストスパートをかけようとしたその時!
ゴォアッ!
ケガレを洗っているうさ耳ゆっくりの頭上に巨大な黒い塊が降ってきた!
「え!?」
いきなり頭の上にふってきた黒い塊に、うさ耳ゆっくり達は固まってしまった!
このままでは、うさ耳ゆっくり達は黒い塊に押しつぶされてしまう!
「よ、よりひめ様!」
戸惑うレイセンに対してよりひめが叫ぶ。
「お前たちは後ろに下がっていろ!」
そして、よりひめは大きく飛び上がった。
落下中の黒い塊の目前までよりひめは跳ね上がる!
それと同時に、よりひめの身体から黒い煙がわいてきた。
これぞ、よりひめの特別な力、
よりひめは身体の中身を自在に変えることが出来るのだ。
月のゆっくりに取っての基本的な中身である洗剤は勿論、
先ほどれいむを捕まえたときのように液体窒素、
その気になれば餡子にだって中身を自在に入れ替えること出来るのだ。
そして今回は・・・。
「燃えろッ!」
ゴォアアアアアアアアアアッ!
中身をニトリグリセリンに変え、歯を火打石代わりに引火する!
よりひめは口から真っ赤な炎を吐き出した!
黒い塊は一瞬にして炎に包まれ、灰となって風に流される。
「よ、よりひめ様、助かりました!」
「お前ら!今すぐケガレから飛び降りろ!」
「は、はい!」
ケガレを洗っていたうさ耳ゆっくりは慌ててケガレの上から飛び降りる。
ケガレはうさ耳ゆっくりが全員飛び降りるのと同時に、進んできた方向を逆走していった。
飛び降りたうさ耳ゆっくり達の横によりひめも着地する。
「みんな!無事か!?」
着地したよりひめはうさ耳ゆっくり達にそう問いかけた。
「よりひめ様のおかげで、全員無事にケガレから降りられました!」
うさ耳ゆっくりの一人がそう報告する。
「そ、そうか・・・。」その報告を聞いて、よりひめはホッと一安心した。
しかし、次の瞬間、顔面を真っ青にしてレイセンが叫ぶ。
「た、大変ですよりひめ様!!」
「何だ!?」
「ち、地平線の向こうから・・・・。」
レイセンはそこまで言って黙り込む。
恐怖の余り、舌が上手く動いてくれないのだ。
よりひめは直接見たほうが早いと思い、双眼鏡を取り出して地平線を眺めてみた。
・・・・地平線が、動いている。
いや、動いているのではない。
ケガレの黒が、空の黒に溶け込んで、地平線が動いているように見えているだけだ。
「ばかな・・・。」
よりひめはそれを見て絶望する。
地平線を埋め尽くすほどの、いまだかつてない巨大なケガレの出現に・・・。
「よりひめ様!あんな巨大なケガレは見たことありません!」
レイセンはパニック状態でよりひめにそう問いかけます。
巨大なケガレを見て、呆然としていたよりひめは、そんなレイセンの言葉で正気に返る。
「うろたえるな!ケガレとの距離はまだはなれてるんだ!すぐに体勢を・・・。」
よりひめが指示を出そうとしてその時だった。
ゴゴゴゴゴ・・・。
遠くから、地響きが聞こえてくる。
「・・・こ、今度は何だ!?」
これ以上どんなやばい状況になると言うんだ、
よりひめはそう思いながら、辺りを見回した。
音の正体はすぐに判明した。
ドドドドドドドド!
こっちに向かって、黒い四肢を持った化け物が迫ってくる!
ケガレは己の一部を分離し、それを黒い四肢の怪物にして月の都に向けて突進させたのだ!
黒い四肢の怪物―仮に馬ケガレと名づけておこう。
その馬ケガレは想像を絶する速さで月の都に突撃してくる!
「う、うわ!こっちにつっこんでくる!」
いきなり突撃してきた馬ケガレに、うさ耳ゆっくり達は体勢を整えられない!
どぉ~ん!
「うわぁああああああ!」
何人かのうさ耳ゆっくり達は馬ケガレの体当たりをまともに食らってしまった!
「く!各自、馬ケガレを足止めしろ!」
突撃してきた馬ケガレに戸惑いながらもよりひめは指示を出す。
それと同時によりひめは身体の中身を一瞬にして変える。
今度はかなりの強度を誇るチタン合金だ。
ウォリャアッ!
よりひめは突撃して来た馬ケガレの足に体当たりをかます!
スポンジに包まれているとは言え、チタン合金の体当たりを食らったの馬ケガレは横倒しになって倒れる。
倒れた馬ケガレに対して、うさ耳ゆっくり数匹が飛びついてケガレを洗っていく!
「・・・・・・!」
身体を洗われた馬ケガレは悶え苦しみ、そして消えていった。
しかし、一匹消えたくらいではこの戦況は変わりはしない。
相手は周りにいるだけで数十匹、しかも、増援は次々に駆けつけているのだ。
「・・・・・・!」
「ま、まて~!」
「は、早すぎて追いつけない~!」
他のうさ耳ゆっくり達も馬ケガレに飛びつこうとするが馬ケガレの素早さに翻弄されている。
ガスッ!ガスッ!
「うわ!アイツ月の都の壁に体当たりしてるぞ!」
「みんな、アイツをを止めるんだ!」
「・・・・・・!」
グォオオオッ!
「うわあああああああっ!」
月の都の壁に体当たりを繰り返す馬ケガレを止めようとして、逆に体当たりを食らううさ耳ゆっくり。
戦況は、時間と共に悪化している。
「よりひめ様、このままでは月の都への侵入を許してしまいます!」
「・・・諦めるな!!全員しがみついてでもケガレを止めろ!」
よりひめは大声でそう叫んでケガレの群に飛び込んでいった。
~☆~
「・・・これ、もしかして最悪な状況なんじゃない・・・ポリポリ?」
洗面器越しに見えた状況を見てまりさはそう呟いた。
「確かにそうね・・・って言うかいい加減カンパンを食うのをやめなさい!」
私はまりさに向かってそう指摘する。
緊迫した状況なのに、それを食べる音が脱力感を誘うのだ。
「食えるときに食っておくべきだぜポリポリ!」
「それには同意だね!ポリポリ!」
・・・・もう勝手にしてよ・・・。
「あれだけケガレが積極的に攻めてくるのって初めて見たわ
これは最悪、月の都に侵入を許してしまうかもしれないわね。」
とよひめが洗面器を見て冷静に喋り続ける。
「・・・考えたくないけど、もし、そうなったら。」
「一応、最後の守りとして月の宮殿の周りに何匹か精鋭を置いてあるけど、
それでも足止め程度にしかならないわ・・・・。
最悪、月の宮殿に突入してくる、
そうなったら私達は安全なところに逃げるだけね。」
「安全なところに逃げる?」
「この地下シェルターはいざという時にシェルターごと中に居るゆっくりを逃がすことが出来るのよ、
どうしようもなくなった時の最終手段としてね。
月の都はケガレたちに滅茶苦茶にされるでしょうけど、私たち全員がやられるよりはまし・・・そうでしょ。」
「その場合、外に居るゆっくり達はどうなっちゃうの?」
と、そこで伝子が口を開いた。
さっきの問うな鼻血流したりのだらしない表情ではなく、とても真剣な口調で。
「…聞くまでもないでしょ。」
「見捨てるって言うの!?あの中には貴方の妹もいるんでしょ!」
伝子は悲痛に満ちた表情でそう叫ぶ。
ゆっくりを深く愛する彼女にとって、ゆっくりを見捨てるなんて、冷酷な行為に感じるのだろう。
「…多数の仲間を助けるために、少数を斬り捨てる…上に立つ物は常にその決断をしなくちゃいけない。
よりひめも、ここのいるゆっくりが犠牲になる位なら自分を犠牲にするわね。」
とよひめはそんな伝子に冷たい返事を返す。
「…そう、それが貴方の答えなのね…。」
そう言うと伝子はゆっくり立ち上がった。
「…貴方、何処に向かうつもりなの。」
「…悪いけど、私はゆっくりを見捨てるなんてマネは出来ないわ。」
「…今更貴方一人行った所でどうにもならないわ、無駄死にするだけなのは目に見えてる。
行かせる事は出来ない。」
そう言って伝子の進行方向に立ちはだかるとよひめ。
「…退いて、退かないなら力づくでも通るわよ。」
そういってととよひめを睨みつける伝子。
とよひめと伝子のにらみ合いは暫く続いた、そして・・・。
「…解ったわ、どうやら貴方には何を言っても無駄みたい。」
先に折れたのはとよひめの方だった。
「あんたの妹も仲間たちも全員助け出してあげるから、お風呂の準備をしていなさい!
勿論、身体を洗ってくれるうさ耳ゆっくりもよ!」
そんならしい台詞をとよひめに向かって言うと、伝子は地下シェルターを飛び出した。
「待っててね、かわいいゆっくりちゃ~ん…ウフフフフフフフ…。」
……頼むから去り際までシリアスで居て欲しかった。
「…さて、じゃあ私も行くかな。」
そう言って私も立ち上がる。
何故かって?…まぁ、言うまでも無いって言うか。
「おねーさん、ハイ!」
と、横でれいむが頭に何かを載せている。
それはウェストポーチとペンダント…ああ、そう言えば忘れてた。
私はウェストポーチを腰につけ、ペンダントを首からぶら下げる、何だかんだで、これをつけると何だかやれる気がしてくるから不思議だ。
「まさか、紅里さん、貴方まで行くつもり!?」
とよひめが私の様子を見て慌てた様子でそう問いかけてくる。
「…言っとくけど、おねーさんはアイツより頑固者だからね!」
「…止めても無駄と、言いたいんですね。」
れいむの言葉を受けて全てを悟るとよひめ。
「そういう事!世界一の石頭なんだよ、頭突きグランプリがあったら優勝候補のけーねを抑えてチャンピオンになれるくらいに!」
それは誉めてるのか?れいむ。
「まぁ、そう言う訳だから、風呂に入れてくれたお礼のつもりで行って来るわ。」
「…解りません、たまたま立ち寄っただけのこの場所を守ろうとするの?」
とよひめがそんな質問を投げかけてきた。
「まぁ、こういう性分としか言いようがないね。」
私は頭をポリポリ欠きながらそう答える。
「…地上の者の思考回路はホントによく解らないわね。」
そういって笑うとよひめの顔は、確かに笑っていた。
そして、こう呟く。
「…でも、嫌いじゃないわ。」
さて、ここでいつまでもグダグダ話してもしょうがない、
「そいじゃあ、行って来る!」
「…御武運をここで祈らせてもらうわ。」
「…じゃあれいむも祈ってるよ、「ごぶうん」を。」
二人に見送られ、私は戦場へ…。
「頑張ってね~~~~ぽ~りぽり。」
向かう前にUターンしてまりさに軽くチョップをかましてから私はシェルターを飛び出した。
全く、れいむでさえ空気を呼んだのに、あいつと来たら・・・・。
最終更新:2009年08月24日 20:41