「おいッこれはどういうことだッ!なんでこのつくえに4つけーきがあるんだよッ!!」
「また?そんなに4がいやならたべなきゃいいじゃん」
「まりさはしょーとけーきがたべたいんだよォォォォォォ!!!!」
そんなギャング的な騒がしさもある茶屋『守蒼海紅茶館』。重が作ったケーキも全ての客に配り終え、残るケーキも一切れとなった。
「喜んでくれて嬉しいです!やっぱみなさんかわいいなぁ」
「…………ねぇ重さんは食べないの?」
「私はいいんです。皆さんに食べて貰えれば」
「みょみょ………いい子だみょん」
「かなな…………いい子だねぇ」
そのように皆が重の明るさに癒される中、猟犬の様な目つきで重の目の前にあるケーキを見つめていた者がいた。
白々しくいい子とか言っていた彼方とみょんである。
(最後の一つッ……あの食感は忘れられない………だからどんな手を使ってでもッ)
(だがこの隣にいる奴も同じ事を考えてるはずッ……どうやって先手を取るかッ)
「どうしました?」
瞬間、二人の心は一つになった。
( (小細工はいらない!!先手必勝!!))
「「あのっそのケーキ!ちょうだい!」」
………………………………………………………
ほぼ同時とも言える二人の要求、そして二人は瞬時に向き合い牙を剥き出しにして唸り合った。
「ええと、それじゃ二つに分けて」
「それじゃ駄目みょん!苺は一つしか無いッ!」
「負けられないんだよッ!生首なんかには!!」
彼方とみょんが西行の国で出会ってから多少のいざこざは全てしりとりやじゃんけんでケリを付けてきた。
だが今回は違う。二人は互いの姿が映る瞳に殺気を込め、彼方は拳を、みょんは武器を小出ししながら互いに威嚇していた。
「ぼ、暴力する人にはあげみゃせん!ぎゃっ噛んだ」
「暴力は無し、ね。じゃあどうする?」
「それではかさね殿に認められることを証明するってのはどうでござるか?」
「良し!(GOOD!)」
完全に二人の世界にのめり込む彼方とみょん。重ももう自分で食べちゃおうかなと呆れながら思ったが流石にそれは申し訳ないと思い
とりあえず二人の行く末を見守ることにした。普遍的に良い子である
「かさね殿!まずはこれをみてほしいみょん!」
そう言ってみょんは口から巻物らしき物を取り出しそれを重に突きつける。
それなりの防水加工がしてあり唾液とかは付いていなかったが、流石の重も口の中から出した物を直視したくなかった。
「な、何でぇすか、それ」
「ふふ、これは西行国国主『西行幽微意幽意』様から承った旗本証明書。及びみょんが所有する領地の明細書だみょん」
「え、なにそれ。みょんさんってそんな偉かったの?」
「西行の国で6番目くらいに偉いみょん」
ゆっくり顔がさらにうざくなるほどの勝ち誇った顔つきを浮かべみょんはさらに証明(自慢とも言う)を続ける。
「領地はおよそ6540石、ゆっくりの旗本としては珍しいらしいみょん!!むふふ」
「ふええ、すごいですね!」
単なる自慢を何の屈託も無く賞賛するところは流石良い子と言うべきか。その横では恨みがましそうに彼方が唸っている。
勝負とは自分を知り相手のことをよく知ってこそ勝てるものだ。まだまだ人生経験が彼方には足りない。
「さて、かなた殿は一体どんな?」
「ぐ、ぐぐぐぐぐぐ」
拳を固め振り抜けようとする腕を必死に押さえ、彼方はその腰にぶら下げている刀に手を触れる。
すると何かを思い立ったかのように彼方はその刀の胴をを掴み一気に重の前に突きつけた。
「さあさあさあ!!見てらっしゃい、聞いてらっしゃい!ここに取り出したるこの刀はかの有名な刀鍛冶
『在処風伊仙』が現役時代に造りし刀、覇剣『舞星命伝』!
この刀を悪に振るえば悪の根源すら途絶え!善に振るえばその命は再び目覚める!
世に17本しか存在しないと言われる名高い覇剣の中でも1、2を争う出来とも言われているのです!
そしてその現物が今私の手の中ににある!!!」
「……………………す、すごいです!!!そんな凄い剣があったのですね!!」
「む、むむぅ」
形勢逆転と言うべきか、先ほどまで誇らしげにしていた表情もあっと言う間に憎悪に満ちた表情へと移り変わっていく。
「と、いうわけでケーキちょうだい」
何が「というわけで」だと言いたくなるような単なる自慢であったが、彼方のその勢いにつられてか重はついその言葉に従うように
ケーキの皿を彼方の前まで持って行ってしまった。
「勝った!!第二話完!」
「みょみょおおおおおおん!!!!この後出しがぁぁ(注:放送禁止用語はみょん語で表現されます)」
「にゃはは、いただきだよっ…………ん?」
今までの騒ぎで気づかなかったのだろうか、いつの間にか店の中に羽織を着たるーみあや大ちゃんが入ってきて彼方の周りを囲んでいる。
そしてそのゆっくり達は彼方の持っている刀を異常なほど凝視していた。
「あ、あげないよ!そんなに見たってやんないからねっ」
「騒ぎがあって来たのかー」
「そうですっ、つうほうがあったんですよ。ちゃやでかたなをふりまわしているひとがいるって」
それは恐らく苺大福にマジギレしたみょんの事であろう。ただこのゆっくり達はその張本人を今刀を突きつけてる彼方だと思っているようだ。
「じじょうちょうしゅのためれんこうします!ついてきてください!」
「有り体に言うとたいほなのかー」
「え、え、えええええ!!!!」
誰の反論も許さずそのゆっくりるーみあとゆっくり大ちゃんはそのまま彼方を連行、と言うか拉致に近い形で
そのまま担ぎあっと言う間に茶屋から連れ去ってしまった。
「…………………かなた殿ォ!?」
「ひ、ひええええ。どうなっちゃうんでしょうか」
「あ、後で奉行所にでも……その前にそのケーキ頂戴でござる」
「ええ~~こんな時に?………あれ?」
そんな会話をしている内に今度は羽織を着た体付きめーりんとぱちゅりーが重の周りを囲っていた。
なんか何処かで見たことのある光景である。こういうのをデジャビュ(既視感)と言います。
「ZYAON。つうほうがあってきたよ。」
「そ・こ・ま・で・よ!むきゅう!」
「えっと、私に何か用でも………」
「ZYAZYAON。かたなをもってるね!」
今重の右手にはケーキの載った皿、そして左手にはめーりんの言うとおり刀を持っている。
だがこれはケーキを切るために使っていた刀であり決して人を刺したり切ったりするような切れ味は持っていないのだが
確実にこのゆっくり達は誤解しているようであった。
「ええと、これは」
「ZYAおん!れんこうするよ!」
「むっきゅー!」
「ひゃあああああ」
そう言って既視感溢れるようにめーりんとぱちゅりーはたった二人でその重の身体を持ち上げそのまま連行していった。
ついでに残った一切れのケーキも重と共に行ってしまった。
「か、かさね殿ォォォォォ!!!ケーキィィィィィィィィ!!!!ついでにかなた殿ォォォォォォォ!!!!」
重>ケーキ>彼方。
いきなりの急展開で他のゆっくり達はぽかんと大口を開き立ち尽くしていたが、その中でみょんだけは確固たる意志を持って
そのまま連れ去られた二人を追っていった。
ケーキへの執念が強いだけではない、紅茶何百杯分のお代を払うのがいやだったのだ。
「むきゅう。始めに申しておくけど貴方には黙秘権があるのよ。それを確認して尋問を始めます」
「………………………」
「まず茶屋『守蒼海紅茶館』において客の一人が店主に向かって刀を突きつけたと言う通報がありました。これについては?」
「………………………」
「それに連行を行った者から今貴方の隣にいる人にも刀を突きつけたという話があります。それについては?」
「………………………」
「正直に話しなさい。これは大変な事実であってもしこのようなことがゆっくりにも行われたら……」
「うるせェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーー弁護士を呼べェェェーーーーーーーーッ」
彼方と重は何故か奉行所ではなく町の中心にある町長屋敷へと連れられてきて、そこの謁見場のような所で
二人は高官のぱちゅりーと正座をしながら向き合っていた。
「むきゅううう。さくや、そっちの方の人は?」
彼方の妙な威圧に押されたぱちゅりーは隣に座っているフリルが付いた羽織を着た体付きのゆっくりさくやにそう呼びかける。
それを聞いてさくやは即座に立ち上がり先ほどから呆けて一言も発していない重の方へ近づいた。
「…………舌をかんでいます。とりあえずいきているようですわ」
「余計に疑わしいわね。とりあえず話が聞きたいのよ、だからゆっくりゆっくりと……」
「何で私がこんな目に会うんじゃーーーい!!ドアホーーーーーーーッッ!!」
重は極度の緊張で舌を噛んでしまい、彼方はこの状況下に置いて冷静さを完全に失っている。
こんな状況で尋問などまともに行えるはずもなくぱちゅりーとさくやは困惑するしかなかった。
「ちくしょーーーーッッ!!この手錠さえなければァァーーーーー!!」
「むきゅううううう!!さくやっ!少しこの少女を静かにさせなさいッ!」
「異議ありッッ!!!」
さくやが動作を始めたその瞬間、そこへ現れたるはこの物語の主人公みょん。体中に警備のゆっくり達を引き連れ颯爽と登場した。
「むきゅっ!な、なんなの!?あなたは」
「ひとつひしめくすみざくら。ふたつふりむくこころがふたつ。みっつみつごにちとせあめ。よっつしのこくまいります。
我が名は西行国旗本の真名身四妖夢!烏丸彼方及び柏木重の釈放をお願いしたいでござる!」
「…………」
その発言に対しさくやは無言で腰にぶら下がっている西洋小刀に手をかける。
だがその敵意をみょんにぶつける前にぱちゅりーが口を開いた。
「むきゅう。だったら貴方が説明しなさい」
「みょんが悪うございましたーーーーーー!!!刀振り回したのはこのみょんでございますぅぅぅーーーー!!」
果てしなく清々しいほどのジャンピング土下座。先ほどまでの威勢の良さも何処へやら、である。
ただジャンプして顔を床に付けているだけのようにも見えるがこれがゆっくり流土下座である。
実際ぱちゅりーもさくやもその行動に少し物怖じをしている。と言うかマジ引き。
「………………………なるほど。旗本である貴方がそんな事を……」
「もーしわけありまっせーーーーんっ!」
半ばやけくそ気味にそう高らかに叫ぶみょん。そんなみょんを見てさくやとぱちゅりーは話し合う。
そしてぱちゅりーが溜息を一つついてみょんたちに向かってこういった。
「わかったわ。釈放します。三人ともお好きに帰ってもいいわよ」
「へ?みょんは?」
「どうでもいいのよ。そんなこと。こあ、手錠を外してあげなさい」
ぱちゅりーの命令に従ってこあくまが手錠を外し彼方達は一応自由の身となったが、三人はただ訳が分からずにそのまま正座を続けるしかなった。
「………………腑に落ちないなぁ」
「舌痛いぃぃ……」
「…………………ぱちゅりー殿。失礼ですがこの釈放は流石に……」
「………………『人間』が『刀』を使って『事件』を起こしてなければ問題ないのよ」
ぱちゅりーはそう言うがみょんたちは全く理解することができないし納得することもできない。
みょん達は再度ぱちゅりーに尋ねようとしたが一歩踏み出そうとするといつの間にかみょんたちは出口の方を向いていた。
「!?」
「お早いところお引き取りを」
「むきゅう」
「いいじゃないの、説明くらいしてあげましょ?」
みょんがまたぱちゅりーの方を振り向いた時、奥の部屋の方からその様な声が聞こえてきた。
「で、でもこれから仕事……」
「外交関連は全て目通したから。ごめんね~うちの人たちが迷惑かけて」
その声と共に奥の襖が開かれそこから長身の女性が姿を現した。
肩の辺りまである金髪で星の装飾が付いた緑色の帽子を被っていてまるで他の国から来たような出で立ちであった。
その女性はつり上がった瞳でみょんたちの事をじっと微笑みながら見つめている。
「あの…………あなたは……」
きょとんとしている重がそうその女性に尋ねると、その女性は正座になりみょんたちに向かって頭を下げながらこう言った。
「おっと自己紹介忘れちゃったね。私は不乱鳥蘭華(みだれずどりらんか)この暮内の町長を務めさせていただいております」
「え、ええべぇ!?ぎゃああああ」
いきなりこの町の代表が頭を下げたことに大変衝撃を受けたのか重はまた舌を噛みその場で悶え始める。
彼方は呆れながらその様子を見て蘭華の方へと振り向いた。
「とりあえず説明お願い」
「ああ、だがその前に。貴方たちはこの町を見て何か思ったことはない?」
「へ?」
説明が入ると思いきやいきなり質問された事に二人は戸惑い頭を傾げる。
そんな事より説明を、と二人は言いたかったが実際蘭華の質問に心当たりがないわけではない。
いや、寧ろそれがずっと彼方達の心にずっと引っかかっていて説明どころではない。ここぞとばかりに二人は胸の内に秘めていた疑問をぶちまけた。
「じゃあ……何でこの町人間が殆どいないの?」
「キタキタキタァ!!ビンゴビンゴッ!」
唖然。何このハイテンション。本当に町の代表なのだろうか。
「あ、ゴメン。いやぁ思ったことがうまくいくとすかっとするよねぇ、ねぇ?何かジョジョだと悪役っぽい台詞だけど……」
「知りません」
とりあえずこの妙なテンションで変になった空気を無理矢理戻そうと蘭華はしどろもどろに話を続ける。
「うん。その通り。貴方たちのその考えは何一つ間違っちゃいない。今この町には恐らく人間が三人しかいないわ」
「三人……?私と重さんと……蘭華さん?それだけしかいないんですか?」
「ええ。それ以外は全部ゆっくり達よ」
急につまらなそうに、また物憂げに蘭華はそう話し続ける。
みょんと重はその雰囲気を微かに感じ取って少し言葉に詰まったが彼方はそうした蘭華の様子に全く気づかないまま質問を続けていた。
「なんで?何で人間しかいないの?」
「……………通り魔」
「通り魔?」
「ええ、いつ頃かしらね。この町に通り魔が現れててそれがまだ捕まってないの。今日までに七人襲われてるわ」
「それは深刻でござるな……」
ふむふむと納得した様子で頷くみょんと重。ただ一人理解できなかった彼方だけが訳の分からないような呆け顔で首を傾げている。
「ちょ、ちょっと。納得しないでよ。何で通り魔で人がいないの?」
「少し考えれば分かることだみょん……みんな通り魔が怖くて町から逃げちゃったんだみょん」
みょんが蘭華に目をやると蘭華は神妙に頷く。
「ええ~~じゃあ何でゆっくりはいるのさ、ゆっくりってそんな図太いの?ばかなの?」
「かなたさん!ゆっくりを莫迦にしないで下さい!」
今まで大人しかった重にそう強く声を張り上げられたからか彼方は今までになく驚き、その勢いを止めることが出来ずにそのまま畳の上に転がる羽目となった。
と言うかゆっくりに魂売るの早すぎだろうと、その原因を作った自分を恨みながら彼方は床に額を擦りつけていた。
「か、かにゃたさん!うぎゃっ」
「………………人は成長するものか。まさか重さんに怒られるとは思わなかった………ぐふっ」
「ふええ。すみません!成長してごめんなさいぃぃ!」
「話を戻すでござる」
真横で阿呆なことを続けている彼方と重を無視しみょんは再び蘭華達と向き合った。
ノリの良くないダメなゆっくりである事よ。
「恐らくその通り魔は人間しか襲わない、でござらぬか?」
「名答」
人差し指をみょんに突き出し蘭華はキメ顔でそう言った。しかしこのノリの良さにみょんはいまいちついていけない。
ノリの良くない頑固なゆっくりである事よ。
「目撃証言もバラバラ、女性だったという証言もあれば子供だったと言う証言もある。
とある共通点以外はまるで特定が出来ないのよ」
「?その共通点って?」
何事もなかったかのように溢れる好奇心でもって蘭華に尋ねる彼方。みょんが反応してくれないので小芝居も止めたようだ。
ただその横では重がやたら彼方のことを気遣っていた。こちらは本気で反応していたらしい。
「まず凶器は刺し傷が深かったことから日本刀のような長い刃物。そしてその刺し傷や切り傷は上半身の方に多い。という事ね」
「…………………だからかなた殿やかさね殿を……」
みょんは彼方が腰に差している日本刀と重が使っていたケーキ用の刀に目をやる。
「……………待って、つまり通り魔は刀を持っている人間。と言うことなんですよね……」
「そうよ、だから貴方たちを拘束しちゃったの。ごめんね」
申し訳なさそうに頭を下げる蘭華だが、重はその事を全く気にしていようで再度蘭華に尋ねる。
「三人と言いましたね…………私は今日船で帰ってきたばかりです。そして彼方さんとみょんさんは…‥今日来たばかりです。
じゃあ……何処にいるんですか?通り魔は」
「……………………………………」
蘭華はその質問に答えずただ沈黙を守っている。沈黙しか得られないまま重の頬に一筋の汗がつたった。
「……も、もう町の外へ逃げたんだよ。それしかないって。ありえないって」
彼方もその言葉の真意を察したようで蘭華と重を交互に見ながらしどろもどろに口を動かし続ける。
だがこの場にいる誰もがこの不穏な空気に耐えられず、押しつぶされそうになっていた。
「…………貴方たちが来る前。この町に人間が二人いた」
手を額に当てながら重々しく蘭華は話し始める。
口を動かし続けていた彼方も動きを止め、体中を振るわせながら蘭華の方を向いた。
「そして二人のうち一人が…………通り魔に殺された。残った一人は……」
「もうやめなさい!!!」
この全身が潰れてしまいそうな空気の中、高官のぱちゅりーが声高に叫び蘭華の足を扇子で叩いた。
元々ぱちゅりーは身体能力は高くないためあまり蘭華に痛みとして与えられなかったが正気に戻すには十分だったようだ。
「…………ごめん。ぱちぇ」
「あたりまえよ、あの時貴方は私たちと一緒にいた!だから貴方は通り魔なんかじゃないわ!!」
「………………そりゃそうよね、何でそんな変なこと思ったんだろう」
ああ、しっかりしなくちゃっ。と言って蘭華は足を崩し帽子を脱いで微かに笑った。
「……じゃあ通り魔はまだこの町に?」
「かもね、まだ隠れてるかもしれないし逃げたかもしれない。どちらにしたってすぐ分かる事よ」
「…………」
「不安なの?大丈夫。私たちに任せなさい。貴方たちはゆっくりとこの町を楽しんでいくと良いわ」
「ゆっくりたのしんでいってね!」
そのぱちゅりーとさくやの掛け声で一気に彼方達の緊張の糸が切れその場に疲れたようにへたり込んだ。
さっきまではしゃいだり話し合ったりと元気いっぱいだったがやっぱり旅の疲れは残ってるのだ。
「何かもう疲れたぁ……」
「ははは、ゆっくり休んでいっていいわよ。これはお詫び」
「みょん………またケーキが食べたいみょん……」
「………………あ、持ってきてますけど……」
「「何だとッッッッッッッッッッッ!!!」」
疲れて動けなかったはずの二人は即座に起き上がり一気に重に詰め寄る。これが人とゆっくりの持つ欲望とやらか。
あまりの速さに困惑しながらも重は自分の横に置いてあった皿を膝の上に載せる。
皿の上のケーキは少し崩れてあまり良い外観とは言えなかったが二人の視線はハイエナと化していた。
「うおおおおおおっっっ!!!みょんはっ!西行国のっ!旗本でござるゥゥゥ!!」
「わたしはぁぁぁ!!!こんな凄い剣をぉぉぉ!!!もってるんだよぉぉ!!!」
もう醜すぎて見てられない。こいつら一応主人公ですぜ、読者の皆さん。
だが重はそんな魑魅魍魎となった二人の威圧に怯むことなくその皿を二人から遠ざけるように頭の上に持ち上げた。
「ダメです。こんな風に当たって汚れた食べ物をあげることは出来ません」
「うあああああああああああああ!!!!」
「ひいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
「ああもうやかましいわッッッッッッッ!!!」
いくらゆっくりしていけと言ったとしても、この惨状は蘭華の逆鱗に触れたようで蘭華は彼方達の前の前に立ちふさがった。
「……………ごめんなさい」
「ふん。…………その………騒ぎの原因となった………そのケーキ………預からせて…………もらう」
そう時々言葉に詰まりながら蘭華はチラチラとケーキが載った皿を見たり見なかったり。
町の長と言えどやっぱりすいーつ(笑)に興味のあるお年頃なのだ。
「だ、だめですよ。お腹壊したらどうするんですか」
「預かるだけ!」
そう言って蘭華は無理矢理重から皿を奪おうとする。だが料理人の意地と言うべきか重は断固としてその指を放さなかった。
「いいじゃんかよぉぉぉ………たべさせてやろうぜぇぇぇ」
「うひひひひぃぃぃ…………ゆっくりたべておなかこわせぇぇ」
二人が争っている最中もはや死人のようになった彼方とみょんが重の身体にまとわりつく。
最初っからこんな調子じゃこの先思いやられますね。でもそれほどこのケーキの魔力に取り憑かれたと言うべきでしょうか。
げに恐ろしきは重の料理の腕である。
「いくら港に住んでるからってね!外国の食べ物は保存できるのしか食べられないのよ!」
「うひひひぃぃぃぃかさねさんの越波○柔らかぃぃぃぃ」
「ぺーろぺーろ汁がぁ……汁がぁ」
「そ・こ・ま・で・よ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(注:このSSは一応健全な作品を目指しています)
「うううううううう!!!!やっぱうまい!!!」
結局、高官パチュリーから最大級のそこまでよアタックを喰らったあと、ケーキは蘭華が食べることとなった。
あくまで腹を壊しても文句を言わないという約束があってこその結果である。
「ああ!なんて舌触り!そしてあまぁぁい!こんなのクッキーとかじゃ味わえないよ!流石ね!」
「ああ、ええと、うん。ありがとうございます」
料理人としてのプライドが賞賛を素直に喜べなくさせているので重は不機嫌そうにうなだれていた。
ちなみにその横ではあまりにぐったりとした二つの死体がある。今んところ関わらないので気にしなくて良いです。
「……………柏木重といったね。あなたこのあと何するか決めてる?」
「?……………ええと……覚えた外国の料理を日元中に広めようかなぁ……って。」
「……………………ね、もし良かったら二年ほどこの屋敷の料理人にならない?」
その一言がふて腐れていた表情を一気に健全な驚きの表情に変えた。
「え、ええと…………でみょ…………」
「ダメって言ってる物でもこんなにおいしいのよ。だからさ」
驚愕の表情から次は困惑の表情へ、重はその提案を理解しきれず戸惑うことしかできなかった。
「…………………もし、それで高評価だったら………店をただであげちゃうっ!」
「…………え、え、え、えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
困惑の表情はまた驚愕の表情へと変わる。
現在の重の年齢は19歳、もし二年働くとしたら店を持つのは21の時となる。そんな驚異の天才というわけでもないのに21で店を持つと言うことは
あまりにも名誉なことなのだ。その上無料。比較的大人しめで消極的であった重もその提案に心躍らされ、勢い付きすぎて気絶しそうにもなった。
「わ、わてゃしの………おみせ………………」
「ふふふ、うまくいったら、の話だけど」
「は、はいいいいい!!!!いやりゃしぇちぇぇいてゃでゃきみゃしゅう!!!!」
重はかつないほど言葉を噛み、そして額が畳にこすれるほど蘭華に頭を下げる。嬉しさと共に涙も出てきた。
こんな気持ちは初めてであった。
「……………………これで二年後には外国の食材が輸入できる。うしし」
「むきゅう。おぬしも悪よのう」
「さぁて、何があったかは知らないけど遊ぶぞぉぉ!」
見事にリザレクションした彼方は残りの駄賃を持ってそのまま屋敷を飛び出していった。
遊ぶとは言ってるものの本命は刀鍛冶なのだろう。みょんも止めることなくとりあえず縁側で日に当たりながらゆっくりしていた。
「みょんさん!日差しが気持ちいいですね!」
「妙にうきうきしてるでござるなぁ。何か良いことでもあったのかみょん?」
重は終始笑顔でみょんの横でゆっくりし始める。今日の天気は晴れ。春の陽気が二人を眠りに誘わせようとしていた。
「そうだ、かさね殿。ちょっとお願いが」
「?なんですか?」
「もう一個だけケーキを……………」
「………………………………………………」
露骨に嫌な顔をした。どちらかと言うと消極的で、大人しめの彼女が。
まぁあのような痴態を見せられたらそれも仕方ないことだろう。
みょんもその事をちゃんと理解している。だがみょんは重に向かって何の躊躇いもなく頭を下げた。ゆっくり式土下座である。
「おねがいでござる…………これには訳があってただ食べたいからという理由じゃないみょん」
「……………………………分かりました。それじゃ台所へ行きましょう」
再び重は笑顔に戻り、顔を床に付けていたみょんを持ち上げる。
今度は優しく、凹むことの無いように。
ただ顔を床に付けていたため指が猛烈に目に入っていたことを、重は気づかなかった。
みょんはあえて言わなかった。
「ふぅ、それじゃ理由を教えて下さい」
「わかったみょん」
台所に着いた重はみょんを台の上に置き、再びエプロンを着付ける。
ほんのり充血気味なみょんは羊羹剣を出すかのように髪を口の中に突っ込んだ。
「見て貰いたい物があるみょん」
どうして口開けたままなのに普通に喋れるのだろうかなんて考えてはいけない。ゆっくりだし。
そしてみょんは口の中から三つの物体を取りだした。
「?何ですかそれ」
「これこそ、ゆっくり専用の刀『菓子剣』を作るために必要な物だみょん!」
台の上には変わった形の金槌、金鍔の袋、そして羊羹剣でないいかにも普通の羊羹が置かれていた。
「菓子剣…………っていうとさっきまで使っていた剣のことですか?」
「そうだみょん!いやそうじゃないみょん。剣じゃないみょん刀だみょん!!」
ちなみに、一般的に剣は両刃、刀は片刃と言うことになってます。
みょんの羊羹剣は両刃なので剣です。と言うか名前にも剣とあります。
真面目のように見えて結構アホで頑固なのです。これからも見守ってあげて下さい。
「見てて欲しいみょん………」
みょんは金鍔の袋を開け、中から取りだした金鍔を羊羹の上に載せる。そして金槌を持ち上げ金鍔に向け一気に振り落としたッ!!
「!!!!!!!!!!!」
誰もが金鍔と共に羊羹もぐしゃぐしゃに潰れてしまっただろうと思うッ!
だがっ!現実はそうではなかった!!金槌の下から現れたのは菓子の残骸ではない!!そこには1本の剣が誕生していたのだッ!!
「これは………」
「みょみょみょん!!!これこそっ!!菓子剣が生まれる行程!この特殊な金鍔を刀にしたいお菓子の上にのせ
この金槌で叩けば!菓子剣が生まれるのだみょん!!!!!!!!」
みょんは金槌を置きそして生まれたばかりの羊羹剣を口の中に入れる。
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ~~~!!」
「………………え…………食べちゃったんですか!?」
「そうだみょん、げぷっ」
みっともないげっぷをしながらみょんは金槌を再び口の中に仕舞った。食べてんだか仕舞ってるんだか分からないけどむしゃむしゃ言ってないから仕舞っているのだろう。
「今のはただ見せたかっただけだみょん、だからみょんがおいしく頂いたみょん!」
「…………………もしかしてショートケーキの剣を………?」
「そうだみょん!かさね殿の腕を見込んでお願いするでござる!!」
そう言ってまた顔を台に擦りつけるみょん。土下座のつもりなのだろうが、こう一日に何度も見せられては誠意が全然伝わってこない。
恐らくこのみょんは「土下座なんてタダだからいくらでもしちゃうぜベイベ」的な考えの持ち主なのだろう。そう言う人物は幸せだ。
「……………………みょんは…………最高の菓子剣を探して旅をしているでござる………」
「………そうなんですか?でも彼方さんは普通の刀鍛冶をさがしていたようですけぎょ、噛んだ」
「…………確かに目的は違うでござる、でも向かうべき先は殆ど同じ、だからみょんたちは一緒に旅をしているんだみょん」
ほろり。
「しゅ、すばらしいです!この重死力を尽くしてみょんさんの為に最高のケーキを作っていただきましゅっ!」
何が重の涙腺に触れたのか重は豪快に涙を流しながらみょんの髪をとる。
そんな重の行動に戸惑うみょん。なんとまぁアホで頑固でノリが悪い融通の利かないゆっくりな事よ。
「……………それじゃあ、準備に入ります!恐らく明日くらいには出来上がると思うので楽しみにしてて下さい!」
「みょっ?明日?さっきはほんの2時間ぐらいで出来たのに………」
「すいまてん。噛んだ。すみません。実はクリームを作るのってかなり時間掛かるんですよ」
あの時は運良くクリームの素が売っていたけれどちょうどそれで売り切れに。新しく作るには乳が必要なんです。と重は言い
みょんもぶーたれながらも、とりあえずしぶしぶ承諾することにした。
「………………それじゃ気長に待ってるみょん」
そう言ってみょんは台の上から降りてそのままたゆんたゆんと跳ねていった。
「………………………………彼方さん大丈夫でしょうか……」
「………ま、昼間だし大丈夫だろうみょん」
「…………………………人間がいない町って…………なんか私たち人間にとっては不安です」
「そういえば、らんか殿に聞き忘れたことあったみょん」
「?」
重は振り向きそのままみょんと向かい合う。その時のみょんの表情は太々しくもなくまた感情はあまりないように見える。
そしてそのまま無表情でこう言った。
「この町はどうしてれみりゃがいないんだみょん?」
この時、まさか次の日にショートケーキを食べることが出来ないだなんてみょんは予想できなかっただろう。
そして自分や彼方、重、蘭華に何が起こるか。赤に染まる町は紅き日を迎えながら一日を終わらそうとしていた。
~続く。
前半で50Kb超えたけど実はこれシリーズ物なんだよぉぉぉぉぉぉ!どうしよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
- 彼方お姉さんは突っ込み役だと思ったら突っ込みどころ満載だったw
飲みすぎw -- 名無しさん (2009-07-26 22:03:45)
- これほどケーキが美味しそうに思えるとは・・・ -- 名無しさん (2009-07-29 00:54:46)
- ジョジョネタ多いなw -- 名無しさん (2009-08-04 11:55:35)
- >露店で買った熱々の肉棒を咥えながらすっかりはぐれてしまった彼方を探していた。
なんか卑猥だなあw -- 名無しさん (2009-08-04 19:42:46)
最終更新:2009年09月09日 22:21