※編注:容量制限により分割
―――人間そんなに、簡単に変われるものでもない。 変われたら、苦労はしない―――
にも関わらず
「あなただってなれますよ」
屋上で、あのゆっくりはそう言ってくれた。
抓られすぎて、もう地面に垂れ落ちるのではないかと思うほど腫れた頬を、撫でてくれた。―――身長は私のほうが大きいので、
凄く不自然だったけれど
「いえ、でもでも。こうなるのも、私が弱いからでずが?」
「―――ああ、そらそうですね。まあ、良くも悪くも実力主義、弱い者は何されても仕方ないのが今ですから………」
もっと慰めの言葉がもらえるかと思ったのに…だけど―――― その時、ゆっくらいだー はなおも、ぎこちない手で頬を触ったまま、
続けてくれた
「誰でも今より強くはなれます。意志があるなら。たぶん。いやきっと」
「無理でず」
「まあ、無理とは言わず。私だっていつまでもこうして助けられる訳じゃないんですから」
それは衝撃だった。
「ええ~!!?」
「それは、そうですよ」
「私、どうしたら…………」
「大丈夫。あなたも、私みたいになる事はできますよ。多分。きっかけと時間がいるでしょうけど」
―――そりゃあ、イクさんが、帽子を90度傾けて顔隠してるだけですから………
そう言ったら、ゆっくりらしく 「何言ってるの? 帽子なんか見えませんよ? 大体イクさんって誰ですか?」 と返された。
それでも、私は、あのゆっくりの様になりたいと思った。
………かっこうは真似したくなかったけど
4回目に会った時、また助けられて、少し怒られた で、「もうお別れだ」と言われた。それ以来イクさんを見た人はいない。
――――本当に愛想をつかしたのかも
5回目にあった時、すでに、ゆっくらいだー の体は、機械か何かになっていた。綺麗で良い匂いの羽衣は、アルミホイルになっていた。
6回目で、殴られ、財布を奪われた
7回目で、見てみぬ振りをされた
8回目で――――――なんだったか忘れたが、とにかく、中身が担任の教師だという事が解った
それから、色々な理由で服従し、何か反抗的な奴や、反抗的な事を考えているだけの奴を、密告して突き出してきた。
ゆっくらいだー には、総合で何回会っただろう?多分、22回かな?
そして、23回目――――
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「創作スレ一周年企画」ゆっくらいだーディケイネ
第11話 いく闘士達
「ゆっくりむぞんすまっしゅ~」
「こられいむ! やめい!! それにそれはキックの名前!」
ゆっくらいだー は、5階のエレベーターの前で、変身もせずに、片手で端末をいじくる生身の床次さんに、緩いパンチを食らわせようとしていた。
「だからゆゆこ、頼むから信じて!!!」
「おのれあのドMめ……… れいむの忠実な下僕のまりさをよくも連れて行ったね!!!従順な子猫のような〇奴隷のまりさを!!!」」
『まあ…………そんな爛れた関係だったの? ともかく、そんな話は信じろって言ったって無理ですわ』
「―――後で後悔するわよ!!! それかられいむ、こんな所で関係性を捏造するな。最初の仕返しのつもりか?」
「あの? 何を………?」
「あ、地香さんだっけ? ごめん。実験室の行き方って解る?学園長室誰もいなくて、実験室に皆いるらしくってさ」
実は、実験室は別棟の方で―――ここからだと8階にある渡り廊下をつっきり、また更に登らなくちゃいけない。 かなり遠い。
丁度エレベーターが上がってきたので、案内がてら、私は乗ってしまった。
「で……どうして来たの?」
「ちょっと謝りたい事が―――――その前に、その ゆっくらいだー は一体……?」
「これ、れいむよ」
嘘だと思ってたけど、ヘッドロックを掛けつつ、顔の前の帽子を引っ張ると、簡単に取れ――――地味なエフェクトの光と共に、
床次さんの腕には、帽子とれいむだけが残っていた。
「簡単に変身できるけど、外れやすいのよこれが」
「はあ…………」
「まあ、ちょっと玄関先で騒いじゃったけど、学園長達も私等がこうして向かってきてるとは対策立ててないんじゃない?」
と、言っている間に、8階に到着。
「当然そうなるわるな・・・・・・・・・・・・」
「頑張って戦おうね!!!」
開けた先に―――― そこには そこには
ただ広い踊り場。
前方数メートル先には、3体の見覚えのあるゆっくり達が立ちふさがってた。
エレベーターは何故か止まってランプがつかない。
そして、迎撃用に使われる迎撃用の人工の妖精が、夥しい数で。そして数名、敏捷性のあるきめぇ丸やれみりゃ達が、ものすごく不完全
だって解る、ゆっくらいだー・ファイク のプロテクターやマスクの一部を身につけてる。
他の場所に迎撃用の妖精がいなかったから、多分この先を守りたくて、一挙に集めているんだろう
「外が騒がしかったと思ったら、結局ここに来たか」
「お前がうわさのディケイネだね……………思ったより、もろそうね」
「ここからさきはいっぽもすすませないよ!!!」 あのよで ゆっくりしていってね!!!」
――――教師達だった。じと目さとり、普通のさとり、男前さとり――――
「人は我々をこう呼ぶ…………」
,_人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> ゆ っ く り 五 天 王 !!! <
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
「3人じゃない」
「うるさいな……………」
「その内の一人、 ぱちゅりーを倒したくらいでいい気にならないことだ。奴は我々の中でも一番の格下」
「もう一人はどうした」
「こまちは………………入り口を守っていたのだが……ううっ・・・・音信不通に」
「もしかして、でんこが追い回してたこまち? あれが? 戦う前から、5天王のうち2人まで倒しちゃったの?」
「この勢いなら、 剣持って突っ走っていけば、すぐに魔王の所までいけるよ!!!」
「賢者の石も必要なしか。
『地上に異常気象を降り注ぐ計画だったが、中止にしておいた』
『捕まってるまりさがいたような気がしたが、別にそんな事は無かったぜ』」
「なんて展開になればいいね!!!」
無理…………
一応教師が目の前に居るという事で、床次さんは私を背中に回してくれた――――
このまま、目の前の相手をかいくぐって、実験室までいけるとは思えない。
「こっちは何の罪の無い非戦闘員を連れてるんだけど、それでも手エ上げるの?馬鹿なの?」
「――――誰だその生徒は」
「お前が素直に諦めれば、その生徒も被害は無い」
「れいむ、あの変身もっかいやって見る?3対1じゃ辛い」
「―――ひ、ひとでなし!!!あれ疲れるんだよ!!!」
その時、私たちが乗っていた隣のエレベーターが開いた
「私が来ても、3対2 解りやすい悪役ね」
「でんこ!? ―――聞きたくないけど、こまちは?」
「――――つたこよ。あなたもしつこい子ね………それさえ言えれば、もう一段階上がれるのに。こまちちゃんは……『何故か』逃げられた」
『何故か』………?
顔が鼻血らしきものでやや汚れている
―――あ、前のさとり3体を見て、また少し出そうになってる………
「――――とんでも無い事になってるわね。 一応嬉しいとかそういう意味じゃなく、真面目に」
「こうなったのも、きっと学園長のせいに違いないわ。あのドM、ぶん殴らないと気がすまないわ。それが目的だとしても」
「――――紅里、 この先で 『新しいゆっくらいだー』 の実験が続けられてる。この世界は緋想天。異常気象に続いて、地震まで起きた後、
量産された ゆっくらいだー は、容赦なく、推測だけど、地上の制圧に使われる。」
床次さんは、ペンダントを
でんこ というらしい女性は、 キーホルダーを
「何があっても止めるわ。この下に住んでるゆっくりちゃん達のためだもの」
「今日はよく使うわぁ!」
それぞれ手にして、即座にその先のロケットへ、メダルをはめ込んだ!
『ユックライドゥ!』
――ディ・ケイネ!
――ディ・エイキ!
光に包まれ、そこには、2人のゆっくらいだーが
5天王と、警備達も驚いている。
「私は、あの沢山居るのを倒す――――あんたはゆっくり5天王のさとり3人だけを相手にして」
「な………ライバルらいだーに、敵幹部を押し付けて自分は戦闘員相手? あんた恥ずかしくないの!!?」
「おねえさんは、いつもこんな感じだよ!!!」
「ん? それに相手がさとりなら―――――傷つけずに何とかできる方法もあるでしょうよ。あなたなら」
そう―――先生たち――――ゆっくり3天王がいかに強いかは私でも解るけど、同時に一人で相手にするより、沢山の武装した
きめぇ丸とれみりゃ、そして迎撃用の妖精達を相手にする方が遥かに辛いとおもう。
「まったく………自分だけ変にかっこつけて、そっちの方が腹立つわよ。そっちの方が大変だって事くらい解るわよ」
「まあ、悪いわね。ゆっくりちゃん達を打ちのめして先に進む事なんてできないでしょうに………………………あんたが
死んだら死んだで、 それはちょっと寂しいんだから」
「それも――――私が言う事なのに。敵幹部と、一人とも戦わないなんて、絶対主人公ライダーじゃないわね」
ディケイネは一枚のメダルをペンダントにはめ込んだ。
「地香ちゃん………ちょっと道開けるから、すぐにまっすぐ走ってね」
『ユックライドゥ!かぐや!』
昨日見たのと同様、更に今度は、かぐやへ変身。
続けざまにメダルをもう一枚
――『スキルライドゥ、かぐや』
瞬間――――何が起こったかわからなかったけど―――――まず、瞬く前にキックを入れようとしていたきめぇ丸が、床に転げ、
ついで、一直線に目の前の妖精達と、何体のれみりゃが床に落ちた。
帽子ははがれ、ゆっくらいだーの装備は外されている。
まだ若干倒れずに残っている者はいたけど――――――ちょうど一本道が廊下の端までできて、いつの間にか、その先に
ディケイネがややへたり込むようにしてこちらを見ている
「地香ちゃん早く!!」
「は………はい!!!」
それほど重症でもない様だけど、何が起こったか解らない様子で、きめぇ丸達は辛そうな息を吐いている。
私は、その間をくぐって、必死でれいむを抱えたまま、ディケイネに向かって走った!!
「『ファイク』の失敗作でしょあれ。やっぱり、あれ使って変身するのって、相当負担なのね」
「さっきは本当につかれたよ!!!」
多分―――試作品か、不完全な変身システムで変身していたんだろう。
帽子を脱がされて、その疲れで倒れてしまったんだと思うんだけど、私は実際に帽子を外す所を見ていない
全く何が起こったのか解らなかった。
一瞬、床次さんは倒れこみそうになった。―――きっと、相当疲れる作業だったに違いない。
何人かがまだ着いてきたけれど、ディケイネに連れられ、私は全速力で走った。
このまま、実験室に行くのだろう―――と思っていたら、脇道にそれ、非常階段までに連れてこられた
「ここからならこっそり下に行けるでしょ。 あんな所に居る訳にもいかないしね」
「あの、私、謝りたいことが………」
私は、話した。
この世界の ゆっくらいだー が、既に中身はただの俗物で、ヒーローなどではなくなっていた事。それを私が知っていた事。
そんなものに逆らえず、言いなりになって、素行の悪い生徒を、引き渡していた事
床次さんも、あのまま密告して売り渡そうとした事
それを、今更謝りに来た事
許されるとは思っていないけど…………本当に、私を助けてくれた―――そして外国産でも、ゆっくらいだー を売った事は、
自分でも気持ちの整理がつかなかった。
「ん~…… 許す許さないっていうより……ここで、わざわざ謝りに来た事がびっくり」
床次さんはかえって困った顔だ
「ですよね……。でも、今謝らないと駄目な気が・・・・・・・それに私、変わりたくて」
「そりゃ、ここで私が死んでしまうとでも? あと、私がこの問題を解決してる所を見学しただけで、あんた自身変われるもんじゃ
ないでしょ…」
本当に馬鹿だ
結局、私のした事はなんだったんだろう。最初に彼女をかくまったつもりだったけど、すぐに密告したから、意味は無いに等しいし、
建物内を案内しようとしたけど、それもあまり役に立ってない。むしろ足手まといだった。
もっと最悪な事に、私は泣き出していた。 床次さんは、苦笑しつつ、私の頭を変に不器用に撫でまくる
――――あの時の、初代『ファイク』みたいに。
「大丈夫だから。ついでに怒らないから。担任に逆らうなんて普通はそうできるもんでもなし」
「すみません・・・・・・」
「信じられないかも知れないけど――――これから、地上に向かって、異常気象が起きるわ。最初は局地的な大雨・旱魃・霧。
お次は地震。自然災害と、天上に対してはいつ終わるか解らない紛争もおきる」
自分の知らないところで、ずいぶん大きな事に……… 信じたいが、ちょっと信じられない。
「その事は、さっきエレベーターに乗る前にゆゆこに話したけど、半信半疑。とにかく、事が起こる前に止めないと」
「あの、床次さん」
何でここまで動くんです?? 足元もふらついてるほどボロボロなのに?
私なんかも助けてくれて
関係ない国なのに、やっぱりゆっくらいだーだから?
「っていうか………理由は無い。 ゆっくらいだー だからとか、どうこうっていうより、人として? あ、これは偉そうね」
「………………」
「あと、本当にどうでもいい事だけど、まりさが捕まってるのよ。いや、本当にどうでもいいことだけれど、一応ね」
「いちばんの目的は、ふるさとこづづみだけどね!!!」
「一番大きいのは、ドMで世間知らずの学園長を、思い切りぶん殴りたいから」
ドM? 初耳だった。何でそんな事知ってるんだろう
「目の前で、惨事が起こったり、その原因作ってる奴がいるのに、放置できるほど私も冷静じゃないのね。ムカつく世界だけど 」
何だか、床次さんに自分のいる世界が、とても醜いと思われることがすごく恥ずかしくなった。
私自身、こんな世界いつか壊れてしまえば良い、と思っていたのに。本当にそうなりかけているのに。
本当は無関係の床次さんが頑張って、私は何をやっているんだろう
「わたしも、この世界も、どうずれば、変われるでずが?」
泣いて、酷い顔してるんだろうな、私。最悪だ。馬鹿すぎる。
「変わってもらうの待ってどうすんの?」
踵を返し、気楽に手を振りながら言った
「変えようってのは、『変わりたい』って思ってる子がするんじゃない?」
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かつてない程の恐怖を、さとり達は味わっていた。
「どういうことなの・・・・・・・・・・・・・・」
「そ、外の世界には、我々以外にも、こんな猛者がいるというのか………?」
「こ、こわいよおおおおお!!!」
対するは、何故か人工色の無い、全く聞かされていなかった 外国産ゆっくらいだー・ディエイキ。
勿論、こうして学園5天王基礎的な能力もさることながら、「心を読む程度の能力」があったからだ
さとりの中では、自身すら忌み嫌う事もある能力だが、彼女達3人はそれを利用するだけ利用してこの位置までのし上がった。 だが
「も、もうだめだ……」
「おうちかえりたーい!!!」
―――― それは、思いがけず、向こうから露になった 煩悩と執着、本来ならば同義語であるはずの―――――強烈な……ある種の……
うわあ・・・・さとりちゃんがいっぱい・・・・・・・・・・・・・
最初は、本当に体調が悪いのかと思い、気遣いさえしてしまった、じと目さとり。男前さとりは、バイザーの下、潤みきった愛しげに見つめる熱っぽい
視線を感じ取った。 ゆっくりさとりは泣き出している。
どうやら、本気でこちらに愛情をこめた視線を注いでいるらしい。隠そうともしない。味わった事の無い危機感を感じたが、それはもう遅かった。
恐怖しか感じない
「かわいい………あのじと目も、男前も―――それにいつものゆっくり顔も。あらあら、幼稚園みたいな服着ちゃって――なんて………なんて」
「ど、どうしよう!!! あいつ、ついに声に出し始めちゃったよ!!!」
時折、ディエイキは正気に戻り、真面目に煩悩をかき消すのだが、2秒ともたずに、それは鎌首を擡げ始めるのだった。
お互い、きまずさで動けず―――膠着状態は続いた。
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「ここが学校だって忘れてた………」
実は、これが一番重要だった。 ―――考えてみれば、この世界は敵が多すぎる。
階段を登って実験室に向かう途中――――待ちか待て得ていたのは、迎撃用の妖精でも、武装したゆっくりでもなかった。
大量の、生徒達である。
武装はしている。バットやら角材やら等で。
「あー 結局一人か。これから災害を止めようっていうのに、この世界の奴等ときたら」
「ディケイネを捕まえれば、あのワンピースを弟に着させてやれる!!!」
「お父さんにお酒を!」
「米が…………」
「特進特進特進…………」
「金金金・・・・・・・・・・」
「またお前等か! 天上って言っても生活厳しい人もいるのね」
「―――――この国は渡さん」
自主的にか。
――――軽くだが、弾幕の準備をしていたものの、ディケイネは最後のそれを聞いて中止した
「仕方ないわね」
『ユックライドゥ ――レミリア!!!』
殴打や蹴りの応酬を避け、上空から一気に学園長室を目指すつもりだった――――が、実験室のある階についた時、投げつけられた消火器が激突。
あまりの痛さに落下し、変身まで解けた――――ところで、血走った目付きの学生達に囲まれそうになる。
『ユックライドゥ ―――チルノ!!!』
転がりつつも、もう一度変身と、すかさずユックライドゥ
『スペルライドゥ!アイシクルフォール!!』
実験室に向け、思い切り放った氷の弾幕が――――身構えた学生達の脇をするすると流れていく。
ほぼ全員が、何が起こったか解らず、また逆に恐怖している
その隙を突いて、そのまま走る!!!
不意を付かれて反応できなかったが、すぐに追ってくる生徒達、 途中で待ち構え、殴り、蹴りかかる面々。
避けつつ、耐えつつ、ディケイネは走った。
ほぼ満身創痍と言ってもいいほど、全身に打撃を受けた。繰り返す内、痛すぎて変身が解けたが、そのまま人間として走り続ける。
「今回こんなんばっか」
しかし、手伝ってくれる相手はいない。 この世界の ゆっくらいだー も、ゆっくりも、味方ではない。 中にはいるが、今はいない。
後ろの追っ手の声を気にしつつ――――もう一度、息も絶え絶えにディケイネに変身。
無言で弾幕を放ち―――扉を壊して中に入ろうとすると、周りには近づくものはいなくなっていた。腰抜けめ。
「さあ、覚悟しなさい、親の七光りの、ドM天人!!」
最初の研究室よりも重々しい設備を備えた実験室。
見渡すと、まりさがいた。
最初に覗いた研究室よりも、薄暗く雑多な実験室。奥の椅子の上で、何かいい物でも食べたのか、満足そうに眠っている。
その横では、何体ものゆっくりが、疲れきった顔で意識を失って転がっていた。人間が数人。
まだ比較的若い男が、技術者らしい者と、まりさを指差しながら何かを話している。
「まさか――――お前か?ディケイネとやらは。 ドM? 天人?」
「あれ? あんたが学園長? 人間? 不良天人じゃないの? 2次設定だから……?いや違うか」
「ここまで来たのなら仕方ない。時間稼ぎにはなったからな。一応正義派を気取ってると聞いていたから,一般生徒には手を出しづらかっただろう」
「あんたのやろうとしてる事はなんとなく解ってる。集中的な旱魃・大雨・霧―――お次は地震。迷惑かければ何でもいいのよね?」
心底馬鹿にした顔で、学園長は続ける
「どこで知った…………? だが、随分ずれてるな。
最終的な目標は、『殲滅』だ。迷惑かけるという何でそんなちっぽけな話になる?」
「は?」
「天候や地震だけでは、害虫駆除はできないからな。汎用的な駆除剤として、この新型『ゆっくらいだー』が生まれた」
「あんた、本気で言ってるの? 地上の人間を皆殺して――――別に一人で生きてる訳じゃないのに」
「だから、 長年かけて、選別した。 チャンスは平等にあったはずだ。生き残るべき、努力した者達は、いま天上に集まっている」
図書委員たちや、すいかの言っていた事が思い浮かぶ
「でも、ゆっくらいだーは世界平和のために作った ってすいかも言ってたじゃない」
「私は世界を平和にしたいんだよ」
今度は、心底悲しそうな顔
「だから、どん底から這い上がった私は、全員にチャンスを与えた。誰にでも這い上がれるチャンスをだ。断じて親の七光りなどではない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ゆっくり、人間、身分を問わず、全員が努力すれば、だれでもこの天上の世界へ登れるシステムがほぼ完成していた。ずっと、私が生まれる前から
多くの者の悲願だった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だが、実際はどうだ。これだけしてやったのに、結局人間もゆっくりも大して変わってくれない。全員が天上に登れるような奴等ばかりではないし、
ゆっくりどもは、相変わらず大半がゆっくりする事ばかりに頭を回している。 ――――馬鹿馬鹿しい。
だから、こんな不要な連中を浄化する必要があると決めた。優秀な人材は、この天上に残ったんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ここに上がれない奴は、やはり何かが足りないのだよ。生きていてn・・・・・・」
紅里は、一端変身を解いて、なおも話す学園長に近づき
殴った
拳で、頬を一発。抓るのではなく
「お前、この学校の生徒の事見てないだろう? 地上と天上の関係のそれになってるって知らないでしょ? どこまでも自分中心か」
「何だと・・・・・?」
人間を叩いた拳は、やはり痛かった。 すぐに変身に戻る
「ああ、それから『変わりたい』って言って、必死でついてきた、下等部? のいじめられてる女の子がいたよ。」
「それがどうした」
「お前、その娘に負けたんだよ」
そして―――まりさの方に向かったのだが―――それより早くに、研究員が何かを装着し始めていた。
よくよく見れば、体は椅子に固定されている。
「あれあれっ!!!? まさか…………まりさに変身させるの? 適合者って事? 無理無理!」
「毛唐の糞餓鬼が…………兎に角遅い!!! もう 『ゆっくらいだー』は、『193システム』 は完成だ。これで最初に死ぬがいい」
すいかとでんこは、新しいゆっくらいだーシステムは、かなりの「条件」が必要だと言っていた。
例えば、「ゆっくりであること」「本人もゆっくりできていて、周りもゆっくりさせようとする姿勢である事」 等
「てかさ、『ファイク』って、変身後に極端に疲れて、途中で外れる事が多いってのを抜かせば誰でも変身できるんでしょ?」
「おかげで、めぐり巡って、そこら辺の不良どもまで身につけてた時期があったようだがな!」
「その『193』の性能はともかく、軍事利用なら、『ファイク』の方が凄くない?何で『生粋のゆっくり』なんて難儀な変身条件を設定したの?」
この時、本気で首をかしげた学園長を見て、床次は事の真相が少し解った気がした
「―――そんな指示を出した覚も、報告も受けてはいないが――――性能故のデメリットとは聞いているが……」
「いや~… こいつじゃ改めて無理だと思うんだけどなあ。それにしても、こんな事に無駄な金を………」
「そこは、予算から差し引かせてもらっていた。発覚すれば大事だが、今更関係無い」
『馬鹿ねえ 本当に馬鹿ねえ』
第三者の声。電子音
懐を探り、床次は端末を取り出した。
ゆかりの声である
『はい。悪趣味だけど、今までの会話、録音させてもらいました』
「盗聴?趣味悪すぎでしょう」
仮に裏社会を牛耳る『謎の組織』―――とは言っても、こうも自分の、『殲滅』などいう言葉まで用いて、強烈な選民思想を垂れ流しにすれば、
社会的に生きて入られまい
「はあ。自分の行動に酔うっていうか、悪人の性かしらねえ」
『あと、早めに計画をゆゆこに教えてくれてありがとう。 もう手は回してあるから安心なさい』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
周りの研究員も蒼ざめる中、学園長は落ち着き払って―――――奥の職員に合図をした。
拘束され、眠ったままのまりさ――――に、「ファイク」と大差は無いが、金色のロザリオが刺繍されているのがやや目立つ――――帽子を被せ、
紐を顎の下でしっかりとあわせる。
と、ちょうどまりさの前方に、ゆっくりのシルエットがくっきりと現れ――――それが後退し、まりさと同化
―― R E A D Y ――
ファイクの時よりも、顕著な電子音
「うわあ、もう一度?」
―― F - E - V - E - R O N !!!! ――
出現したのは、ファイクのような無機質ではない――――完全なゆっくり―――ただし、何か冷たいイメージの金属の十字を帽子につけ、 「753」と
謎の数字が打たれたシャツに、周囲に羽衣をまとった ―――― ゆっくりいく だった。
右手の親指を高々と掲げ、
『この国の危機ですね!!!』
声は、完全にまりさのものではない。そして、いつものまりさなら酔っていても口にはしない台詞。
『空気の読めない、荒らしはどこですか? 』
「目の前だ193! そこの眼鏡に作務衣の、場違いなクズが相手だ!」
――――あれだけてこずった ファイク は、装着者が素人であった。
今は、激闘を終え、約6回目の変身。おそらく、基本能力自体、この193の方がファイクより数段上らしい
先手必勝、とばかりに、弾幕を撃つ―――――が、そろそろトラウマになりそうな、あの決めポーズを即座に193はとる
―――『龍魚の怒り』
恐らく、スペルを使っても同じだろう。轟音と共に下ろされた壁に、空しく全ての攻撃は遮断される。
気を落とす暇も無く、193から反撃が始まる
―――『龍魚の一撃』!!
強力な電流と、螺旋状に回転する羽衣の貫通力
どうやら、ファイクが無言で使っていた技の正式名称らしいが――――
何とか避けたが、電流と螺旋は、後ろの壁と床を大きく抉り取り、廊下を突きぬけ、夜空が見えた。
「私は努力した。周りの為に尽力もしてやった。当然の結果だよ」
「とりあえず、『してやった』ってのが気に食わない。お前の力じゃないし」
―――ここで、もう一度変身が解けたらまずい
『後悔なさい。そしてその命神に返しなさい』
「もうとっくの昔に後悔してるわ!!!だからって、諦めないのが主人公の宿命よ」
―――野符 「将門クライシス』
バリアにも、発動には一定の距離がある。 193の本体ではなく、上空から屹立するので、至近距離で放てば防ぐ事はできまい。
渾身の力で放とうと間合いを詰めたが―――
それより前に、193はディケイネの懐へ飛び込んできた! やはり、基本性能はとてつもなく高い
『いくさサーイズ!!!』
弾幕でも何でもなかったが、 パンチとキックの応酬に、前が見えない。思わずのけぞって転がる。
「これは私の力だ。何の努力もしなかったお前は、私の上に立つ事は無い」
「上? 上に立ちたいから努力してたの? 世界平和はどうしたの?」
「平和にするには力がいるだろう」
「『上』にもいて、力も持ってたゆっくりを知ってるんだけど
そいつの国自体が、化け物に潰されそうになってた。 で、そのゆっくりは、 剣持って、自分で前線に乗り込んで毎回戦ってたわ
ボロボロになって、私が手伝おうとしても、自分の国のことだからって、頑固に一人で戦おうとして」
それでも、そのゆっくりは
「周りと国を守る事を第一に考えてた。――――途中で全身串刺しになりかけてたけど、それでも自分で皆のために戦った」
「理想主義だな」
メダルの準備。
恐らく――――これは、本日最後の「ユックライド」と「スペルライド」。
ッバチバチという電気の音が、ファイクの時の機械音とはまた違った恐怖を煽ったが――――ディケイネは、ケガレの核との決戦を思い出していた。
目を瞑ってしまっていたから、あの時直接は見ていないが、都を守っていたスポンジボディのゆっくりは、全身で臆する事無く自分を守ってくれていた。
あの時に比べて、非常に不愉快な世界に自分はいるが――――今、自分が守るべきものとは?
電撃が迫る
薄いアルミニウムではなく、しっかりした質量を持った羽衣が、ドリルのように螺旋を描いて進む。
正面から見据え、メダルを一枚
――――『ユックライドゥ!!! ヨヨヨリヒメ!!!』
避けずに、2枚目
――――『スペルライドゥ・・・・・・・・』
――――『龍魚の一撃』!!!
同時に 直撃!
吹き飛ばされるディケイネ。
しかし、その顔は若干の笑みが見て取れた。 よろめきながらも懸命に起き上がる。
容赦せずに追撃が来る
またしても直撃
轟音 そして煙
学園長からは、煙が晴れると―――― 193 と、 紫の髪を黄色のリボンで止めたポニーテールのゆっくりが、まだ立っているのが見えた。
羽衣が、めりこんでいる。貫通まではしていないが、致命傷には――――と思ってみると、刺さってすらいない。
体が不自然にへこみ、全身で、螺旋を受け止めている。
苦痛に歪んだ顔だが、本当に笑ってすらいる。
『どういう事なの・・・・・・?』
「 今…………体の中身を、洗剤からゴムに変えた………」
致命傷も避け、電気も通さない。ただし、その熱と衝撃は、防ぎようが無かった。 戦える時間はもうあまりない。
予想だにしていなかったであろう193は、一瞬立ち尽くす。
ディケイネは、その隙を見逃さなかった。
「普通はお前(まりさ)を攻撃するのに、躊躇うのがキモなんだけどね」
紐までついているので、難儀したが、引きちぎるように帽子を剥ぎ取る。本当に服か鎧の憑物が離れるように、193の変身が解かれる。
まりさが、涎を垂らして汗だくになりながら、床にごろりと転がった。
対して学園長達は――――現実を拒否するよう呆然と立ち尽くしている。
たまらず、ディケイネの変身が解かれ、紅里は本当に前のめりに倒れこんだ。全身が悲鳴をあげている。
ややあって、再び端末が鳴り、ゆかりの声が聞こえた。どうやらずっと通信していたらしいが、気がつかなかった。
『床次さん?大丈夫?すごい音がしたけど……』
「大丈夫じゃない………一応、ゆっくらいだーは倒したけど、もうだめだ」
『こっちは通報したから、直に学園長達も捕まるわ。もう少しまっててね』
通報した、という言葉どおり、どこからかサイレンが聞こえる。学園長は、おそらく逃げ出したのだろうが、時間の問題だ。
転がるまりさを抱え――――疲労困憊したまま、学内の見取り図を改めて見た
「――――このすぐ下か。 しつこいなあ……」
最終更新:2009年08月18日 22:10