【リレー小説企画】ゆっくらいだーディケイネ 第15話

―――カリ―――カリ―――カリ………




閑散とした部屋。
帳面を綴る音が響く。
太陽は黒陰と化したビルヂングの吊り輪のようだ。



もうそんな時間なのかーと背伸びをする。
背凭れが軋む。

レモン色の残光の中に佇む。
夕暮れと言うものは時に朝日以上に眩しく思える。
そうして途方に暮れるのだ。
反復、反復。




せんせえ、さようならあ―――


それが最後の子。
聞こえる声に振り向いても、黄ばんだ戸しか見えない。
その向こうでもう一人の先生が送り出しているハズだった。



教員――正確には保育士である。
一昔前には保母さんと呼ばれていた――まぁその辺りはどうでもいい。
要は自分もその真似事をしていると言うこと。


紅里は“いかにも”なエプロンを見下ろして苦笑した。
野暮ったくていかにも“せんせえ”が着そうなシンプルカジュアル。
いかにも似合っていない――だろう。多分。
もっとも、気に入らない訳では全然なくて、照れくささこそが頬を染める要因であった。



けいねならお似合いかな。
さなえやかなこでもいいかもしれない。いやかなこだとちょっとそれっぽ過ぎるか?
あとは――らんしゃまとか。
気の付くゆっくりに当てはめてみる。
これはそういうシチュエーション。



―――あいつらが見たらなんて言うだろうか。



壁を再び眺める。
そこには子供達が描いた「にがおえ」が一面に貼られていた。
顔ばかりがデフォルメされたそれらは、まるであいつらの「似顔」のようにも思えた。
贔屓目に見ても、この様な人間はいない。実際にいたらそれはお化けだ。
だが誰がどう見てもそれは見事に誰かの「にがおえ」なのだ。
その様な感性を持ち得た時代には確かにあって、それに対してどうしても憧憬と哀愁を憶えるのは―――
まだこの部屋になじんでいないから、なのだろうか?





ぺったんぺったん。

親への引渡しが終わったのだろう。
スリッパってのはどことなく剽軽だな、廊下から向かってくる音を聞きながら思った。
「ふう、終わった終わったー」
ガラリと音を立てて滑り戸が開く。
そうして入ってきたのは、けいねでもさなえでもかなこでもらんしゃまでもなく―――











    |┃三                            ,────ヽ
    |┃三      /   ヽヽ     ヽ   /       ∞      ∞ )      _________
    |┃       /  \   ー―  _/      / 凵凵凵凵 .| /     /
    |┃ ≡                          | | の  の | | |   <  送ってきました!
    |ミ\___________________ノ (  ワ   レ′し    \
    |┃=___________________        \        ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |┃ ≡                          )      人 \ ガラッ







ゆっくりですらなかった。






(ていうかなんでののわやねん!)
紅里は何十度目かのツッコミを入れる。

「つーかさー、ゆっくりはどこいったのさー………!」








そう、この世界に来てからもうゆっくりを






一人も、見ない―――







   ゆっくらいだーディケイネ  第15話  No Yukkuri, no more cry ...







「え? ゆっくりですか? それって伝説上の生き物じゃないですか~!」
なんて同じことを言われたのが今朝のこと。
それが目の前にいる彼女であり、この世界で最初に遭遇した存在だった。

周りを見渡せば閑静な住宅地といったところか。
我らがゆっくり達はいつの間にかいなくなっていた――というかそもそもいたのだろうか?
まぁ異変を居っていけばそのうち合流するだろうと踏んで、その時にはあまり気にも留めなかった。
目下のところの関心は、その異変が何かというところにある。
まずはどうしたものかと思案する紅里の前で、「あッ」ののワさんが思い出したように走り出した。
「……とりあえず、付いていってみるか」
―――それは彼女の姿こそがもっともらしく“異変”に見えたからだということは、まぁ確かである。





そうして訪れた先が、この小さな保育園だった。
「今日は助かりましたー。まさか園長と諸先生方が宿酔いで倒れられるとは」
「まぁ困ったときはお互い様って事で……あ、どうも」
少しほうけていた紅里の前にお茶が差し出される――ちょっと熱い。
見ればののワさんのカップには氷が山のように盛られていた。
「……」
「ほんと私一人ではどうしようもありませんでしたよお。それにしても子供の扱い、お上手ですね?」
「熱つ。そうかな、まぁこういう仕事をしてみたいとは思ったこともあったけど」
つい敷地内に入ってしまった紅里に対し、子供達は殊の外懐いて来た。
とある子などはずっと作務衣の裾を掴んで離さなかったほどだ。
(ゆっくり達に大分接して来たから……雰囲気でも付いて来た……かな?)
丁度人手が足りず困っていたののワさん、渡りに船といったところで紅里をスカウトしたというわけである。
しかし、そう見知らぬ人間をホイホイしてしまっていいのかとはたずねたものだが、

の の
 ワ  <こう見えて、人を見る目には自信があるんですっ

    (目、ねえ……)

強引にエプロンを渡してののワさんはさっさと去ってしまったために、紅里は子供達の集中攻撃を受けることとなった。
かくして今の今まで先生をすることになったのであった。
ちなみに、付けられたあだ名は「さむらいせんせい」である。
(和装で髪を結っていれば子供にはそう見えちゃうのか)
それで気を良くして逆さ中空納刀までみせるのはどうかと思う。
ところでそれとなく観察していたのだが、子供も親も予想に反してというか、普通の人間だった。
――少なくとも目がのの字だったりはしない。
壁の写真を見る限りは、他の先生にも取り立てて変わった所は見えない。
実は大○ョッカー幹部の卵を育成している――なんてことも、勿論ない。

ではこの世界の異変とはなんだろう?

「あのー、最近変わった事とかない? 例えば顔がデフォルメされるとか」
「? さあ?」
「ふむ……」
更にいえば、彼女自身ののワであること以外は取り立てておかしなことも無いのだ。
真面目に仕事に従事している……少々抜けているところはあるが。
まぁ言って見れば、○ラえもんが普通に通りを闊歩するようなものなのだろう。
(或いは……彼女がこの世界のゆっくりのようなもの……とか)
「うーん、そういえば変わったことといえば」
「な、なに?」
「先生方が宿酔いになったことぐらいですかねえ」
――それは何度も聞いた。
「……まぁ教育者だって、多少の不養生はあるんじゃない?」
「そおかもしれないですけど、でも皆お酒呑まないはずなんですよね」
「そーなのかー」
酒を呑まない人間が集団で酒に呑まれる――異変にしては“弱い”が、何かの予兆ではあるのかもしれない。
(とゆーか単純に「怪しい人(ののワさん)から得た」補正が入った情報って、無視すると怖いんだよなぁ)
もう少し詳しい話を促そうと身を傾ける。
リン――…
夕暮れに聞く虫の声は、日中のそれとは違い涼しさを運んでくる。
ゆえに、涼虫といふらむ。
音が融けて行くように、辺りは暗色を帯びてゆく。

なんだ、あれは。

それは揺らぐ視界の片隅。表の通り。
堕ちた陰影の中に人影が蠢いている――黒ずくめ、というか全身黒タイツの集団に、人が襲われている!
「ど、どうしまし……!」
問うののワの声をさておいて、紅里は窓際まで駆け寄ると、一気にそれを開け放った。
涼風が部屋に流れ込む――それを掻き出す様に飛び出し、柵を蹴り上げ、件の場所へ到達する。
「KAKA-! KAKA-!」
「KAKA-!」
「それ、何、掛け声……? ええい、悪趣味な! 情報はほしいけど、まずは適当に人を減らす!」
奇声を発する集団を威圧するように叫びながら、紅里はポシェットからメダルを取り出した。



「変身!」



シン――…



「…………」



「……………………」






「………………………………………………………………?」





ペンダントに挿入するが、一向に反応がない。
「え? 何で?」
慌ててロケットからメダルを取り出す。

それは、墨のように真っ黒に塗り潰されていて、表面の判別すら出来なくなっていた。
―――やがて音もなく崩れてゆく。

「!?」

「……! KAKA-!」
「KAKKA-!」
律儀にも変身を待っていた、のだろうか、妙な間があって――思い出したように黒タイツどもが飛び掛ってくる。
「クッ、なんてことだ!」
ヴンッ――
攻撃が空を切る――その感触を耳に残しながら上体だけでかわし、丁度落ちていたバット程の枝をすれ違いざま脇腹から突き上げた。
その勢いのまま後ろ回しで2,3人まとめて蹴り飛ばすと、返す刀で面、胴、順繰りに叩き割る!
壁際を突っ切って正面の敵に柄をかち上げ、背後から忍び寄ってきた奴には肘を食らわせ、
居残り棒立ちになったそいつには突きをくれてやる。――――そのまま紅里は頭を抱えて叫んだ。
「変身せずにどう戦えばいいっていうの!?」
「しっかり倒してるじゃないですか」
「雑魚相手に通用してもね……」
呆れ顔?のののワさんに肩をすくめて見せた。
紅里は倒れている黒タイツをつま先でひっくり返し、顔を覗き込む――が、その隙をついて起き上がられる。
慌てて身構えるも全員が完全に戦意を喪失しており、諸手を上げながら一目散に逃げてしまった。
もっともその顔といったところで目無し帽というやつをしていたので、判別の仕様もなかったのだが。
「ああ、尋問が……あれ、襲われてた人は?」
「紅里さんがボコボコにしてる間に逃げましたよ」
「なんてこった! 情報がほしかったのに、これじゃ骨折り損だわ」
「確かに何本か折ってましたね」
「……ちゃんと手加減はしましたですよ? 突きとか首は危ないから鎖骨狙ったし……」
いくらかはバツの悪そうな顔をしながら首元を掻いた。
「まぁそんなことよりあいつらなんだったのかな、一人も捕まえられないのは失敗だったわ」
苛立ち紛れに枝をへし折る。
「ああ、あの人たちだったら」
「ん?」
あっけらかんと、ののワさんは言った。
「大カッカー団ですよ」
暗がりで口元は見えなかったが確かに、そんな風に言ったのだ。





「大カッカー団、ねぇ……」
道すがら、ののワさんの言葉を反復する。
街灯がポツリ、ポツリと灯り始める。
エプロンはもう返して今はいつもどおりの作務衣姿。
ひとり、黄昏の町。
(一言で言うと、悪い人たちですねぇ。この前は、ここを大カッカー幹部育成所にするとかいってたような)
(あ、本気でそういうこと考えてたんだ。……ていうか怪しいというレベルじゃない! 何でさっきその話はなかったの?)
(さっきですか? ああ、さっきは“最近”変わった事というお話だったので)
(ん? えーと、まぁ、そうね。ということはなに、前々からああいうのがいるっていうこと?)
(そうですねぇ、それに―――)
「そもそもああいう“人型”戦闘員スタイルの敵が出てくること自体、しっくり来ないんだよねえ」
これではまるで―――
「ん?」
ふと見ると、「だがしや」の昇りが立っていて、何とはなしに足を止めていた。
まだ店はやっているようだ。
覗き込みながら、後ろに声をかけた。
「へー、駄菓子屋だってさ。今日は奮発して500円まで……」

体が強張る。
一体、誰に話しかけているのだろう。
子供より更に低い目線の位置に苦笑する。

「ゆっくりのいない世界……か」
なにやってるんだろ、私。
仰ぐ空にも、星があかりを灯していた。






ピンポーン

その音は妙に懐かしく聞こえた。
久しく「訪ねて」くるものも、「必要な」場面もなかったからだ。
いつもはこちらから出向くばかりで、時には招き入れることもあったが。
まぁ少なくとも今のように引きこもっている事はなかっただろう。
「はい?」

の の
 ワ  <こんばんはっ

「あれ? おはようございま」
「なにいってるんですか、もう夜ですよ?」
「清々しい朝だなぁ」
「夜ですってば」
寝ぼけ眼というか、妙に腫れぼったい目をしている。
ののワさんがひょいと中を覗き込むと、先ず目に入ったのはスルメ烏賊だった。
アタリメにさきイカ、いかくんにイカの塩辛。
そして今も焼きイカを口の端に咥えている―――出迎えたのはそんな紅里だった。
「この前のお礼をしようと思ったんですけど」
「お礼、ねえ。散らかってるけどあがる?」
「はいっ」
「綺麗好きのあいつがいないからねぇ……」
紅里について入ってみると、単純に食べ物が多く積まれているだけで、そこまで散らかっているわけでもなかった。
烏賊盛りの他に目に付くのはPCの明かりである。
締め切った部屋で煌々と光を放つその画面には

『ざんねん!れいむのぼうけんは これで ゆっくりしてしまった!』

と不思議な文字が躍っていた。
多分何かのゲームだろう。
「あれ? そういえば保育園はどうしたの?」
お茶缶を手にしながら紅里は訪ねた。
お茶請けに煎餅でもと思ったが見つからない――烏賊があるからいいか。
「何言ってるんですか、今日は日曜日だからおやすみです」
「そうか、日曜日なんだ」
ちょこんと座るののワさんにお茶を配る。
その異様さにも何となく慣れてしまうのは、やはり、似ているのか。
「ああ、どうもですっ」
「思えばこちとら土も日もなく働いてるようなもんだから、たまに休むと気が抜けちゃって」
「ずっとゲームしてたんですか?」
「まぁ、そうねえ」
「紅里さんって、どんなお仕事されているんですか?」
「正義の味方みたいなものだった、かな?」
「かこけい?」
訪ねると、どこか遠い目になる。
「この世界を観察してみて分かったんだ」


「この世界は“私”を必要としていない」


「? どういうことです?」
ふと見ると、ののワさんは全然お茶を口にしていない。
(ああ、猫舌だっけ)
園での光景を思い出して、冷凍庫からロックアイスを入れてやった。
「もしかして、何か酷い目にあったんですか? 迫害されたとか?」
「いや全然? むしろ歓迎されてすらいるような感じ?」
裂きイカをつまみながら話す。
「今まで拒絶された世界はあったけど、ここはその反対で滅茶苦茶許容されてるんだよねえ」
きんじょのおっちゃんもおばちゃんも皆優しいし、こうして付け届けまでしてくれる。
なぜか烏賊ばかりだが。
紅里はテレビをつけた。
ニュースをやっている。―――怪人のニュースだ。
こうしたニュースはののワさんが言ったとおり日常的に発生しているようだった。
「おまけに適度な刺激すら与えてくれる。まさに理想の町かも」
「ならいいじゃないですか」
映像が、切り替わる。続報―――
そこには当の怪人が何者かに続々と首関節技を極められている姿が納められていた。
○ッチャンダー。

変身ヒーローだ。

それも一人や二人ではなく、チャンネルを変えれば別の組織とヒーローの戦いをやっていた。
「悪の組織が蔓延する一方で、正義の味方もまた普通にいる。つまり」
「……」
「私が解決しなくても、異変は勝手に発生して、いつのまにか解決されている、そんな世界だったんだ」
紅里はペンダントをいじった。
もう使えない、変身できない変身デバイス。
ゆっくりできないゆっくらいだー。
「守るべきゆっくりが、いない世界……」
目を臥していたが、やがて開き直るように肩をすくめて笑って見せた。
「だからこうしてぐーたらしてるわけなのよ」
「ぐーたら、ですか……」
ののワさんは、あくまであっけらかんとしている。
その顔を見つめる。
「その割りには、生傷が増えているような気がしますけどね」
気の無い様に袖元を隠す。
はたして襲われた人を助けるために戦闘員の集団に飛び込むことがなんだというのだろうか。
「変身もできない、ただの役立たずだよ」
日中走り回り、泥まみれになった靴がなんだというのか。
怪人と切り結んで折れてしまった模造刀がなんだというのか。
「あなた自身は……そんなこと、関係ないと思ってるっぽいですよね」
――気づけば2人は光の中にいた。
困惑する紅里――状況は見えている。
(周りを怪人たちに囲まれている!?)
「KAKKAー!」
「KAKA-!」
「……まったく、本当にぐーたらしていればいいというのに、不器用な人ですね」
ののワさんはいつの間にか進み出ていて、逆光の中に仰ぎ見る形になった。
「ここが何のための世界か、本当は分かっているのでしょう?」
―――懐かしい人の匂いがした。
はっとして振り返る。
この優しい世界は。
「そうか、わたしだけがゆっくりするせかい、か」
「でも結局、あなたはゆっくりできなかったようですけどね」
寂しそうに嬉しそうに、その人は笑った。
「さあ戻って。貴方の信じる道へ。……本当に、不器用な子」
「!? まさか、あなたは……!」
何か武装しているのか――その影は目くるめく怪人たちをなぎ払った。

          ._,,..............____
      _rッ-' ̄      `'‐、_
      |.ノ゛            ┌、_\___、
     / . /  _  . i .、    |  ゙X  .|
     / /.  /|  /|. .||  || |\ノ \/
    / ./_メ、|_| |__||/__|.|_|.  |  |   闘うとは……こういうことです!
    |  | /  |. |   /  |\ .|  |  |
    |  | \./ /   \ノ //  |  /
    | /   ┌―┐   ./  / /
    \\    ._/   .ノ  /  |゙
      レヾシ―---―ツ_ノ、|\ し




眩く世界が閉じる。

既に日は過ぎて、それは3日目の夜のことであった。






  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇







「……そういう事か……」
「おや、気づいてしまったかい」
身体を起こすと、そこは先ほどの町とは似ても似つかぬ、閑寂な岩山だった。
そこに無造作に包まれた石畳の上で、一人のゆっくりが酒を呑んでいる。
が、構わず紅里はひとりごちる。
「そういやいたんだよ、あーいうお面被った先生が」
「?」
「もっと早く気づくべきだったんだ……そもそも子供達があんなに懐いてくれるとか、それこそ夢物語じゃん!」
「起き上がりで錯乱してる……の、かな?」
「はじめからそういう世界だって気づいてりゃあんなことやこんなことをしてたっていうのに……いやいかん、それじゃでこちんの発想だわ」
そこまで言って、漸く戸惑っているステージの主に視線を向けた。
「そっか、あそこじゃあんたとはやってなかったもんね。まだ“ここ”があったか」
「ふむ、ようやく……お目覚めかい?」
「ええ、目が覚めたわ。この世界は、」

「萃夢想の世界、か」

月下のゆっくりすいかは、やはり酒を呑んでいた。



「ようするにあれね、ここについて早々精神攻撃を食らっていたというわけね」
「まさか目覚められるとは思わなかったけどね」
手を握り開きして感触を確かめる。
催眠を仕掛けてきたのが目の前のすいかだとして、それ以上攻撃をした様子はないようだ。
まぁ岩床で寝ていたもんだから身体は痛いが。
「萃めて見せたのは零れ落ちた夢だ。……そうそう目覚めるようなモンじゃないんだけどなぁ」
「なるほど夢、か。確かに入り方が悪ければ……よければ、かな? まあ別の形なら嵌っていたかもね」
辺りを見て呟く。
「ゆう~……すぴか~……」
「むにゃゆんゆん……」
れいむもまりさも近くでいびきを掻いていた。
耳を澄ませば寝言も聞こえる。
「青汁……ソムリエに……なりさはなる……のぜ……zzz」
「おっちゃん……勝負だよ……どっちがギネス……お姉さんに沢山……青汁飲ませるか……zzz」
「ああ、あおじるのつもりがあほじるになったのぜ……zzz」
「お姉さん、ゆっくり飲んでね……zzz」
「……仲良く同じような夢見るのはいいけど、もっとましなのにしてちょーだい」
たたき起こしてやろうかとも思ったが、あまりに寝顔が幸せそうだったので、痛くないように草叢へうつすだけにとどめる。
と、向こうには見知った顔が転がっているのが見えた。
「むにゃむにゃ……サニーちゃんのこくまろみるくちゅっちゅしたいよお~☆
 え? わたし? だめだよぉ……ちょっとしかでないよ?……むにゃ」
なにがだ。
「……あいつはとりあえずほうっておくこととして」
紅里は改めて向き直り――肩をすくめた。
「あまりに恵まれすぎた環境って、却って怪しいものよ?……加えて私の夢からゆっくりを消したのは、不味かったわね」
「ゆっくりを消した……? 私が分断したのは“仲間”のはず……」
(という事は何か、私の中ではそれ程までにゆっくりと仲間とが直結していたということなのか……)
「……まぁともかく、思い返せば“酔い”だの“おつまみ”だの、あんたに繋がるキーワードはてんこ盛りだったわ。幻術にしては脇が甘い」
「くっ、まさか……精神防御を張っていたとでも言うのか……ええい!」
そこまで言うと、ゆっくりすいかは場に躍り出た。
「穏便に安らかな眠りのまま死の床に着かせてやろうと思ったが、そうもいかないようだね!」
「ッ!」
紅里は一歩下がった。
――空気がひりつくのを感じる。
正直いって酒臭い。
だがその酒気こそが力の源とおぼえ。
現存する危機を肌で感じよ。

其は幻想郷最強たる、鬼種のゆっくりなり――――!!!

「おのれディケイネ! 世界の破壊を防ぐため、お前にはここで朽ち果てて貰うよ!」
「またそれかッ、ったく、一体どこのどいつが吹き込んでいるのやら」
恐らくいっぺん退治するまで耳を貸すまい。
勝負事が好きなところも含めて――鬼、なのだ。
戦闘が、始まる。




「ああ、そうだ。私がここに戻ってこられた理由、教えといてあげるよ」
「なに……?」






幼き頃に見た背中。







『たとえ……』




「たとえ…………、孤独でも」





『命ある限り……』




「命、ある限り」




『誰かのために』




「誰かのゆっくりの為に闘う………それが」




『それが』





『……でしょう?』







「 ゆ っ く ら い だ ー だ ろ う … … … … ! ! !」






「あんた……何者だい」
意気に――一瞬だけ圧倒され、思わず誰何するすいか。
そんな彼女に紅里は手を掲げてみせた。
キラリと光る変身メダル。
そしてその首にぶら下がるのはまさしく、





「通りすがりのゆっくらいだーよ。……覚えておけ」





ディケイネックレス、それは勇気の証。






     l      ノ
   刀下    |ニl    /7
    イ7   _ト-|/   !/
    乂     フ1   o
                   」



―――『ユックライドゥ! /////// ディケイネ!!!』―――



幾重のライドプレートに刻まれた異形のゆっくらいだー、ディケイネ。

その変身シーンが終わり――先手を取ったのはすいかの方だった。





『疎符「六里霧中」』


「むっ!」
伊吹萃香の密と疎を操る程度の能力――
その密の能力で夢を萃めていたすいかが、今度は疎の力で霧状に雲散して襲い掛かってくる!

「ふはははは! どこを狙えばいいか分かるまい!」
「この……悪い子鬼にはお仕置きが必要ね……!」
ディケイネは前の世界で手に入れたメダル――ゆーぎ&パルスィのメダルを取り出した。
「よし、これで……! あ、あれ?」
何故かメダルが上手くはまらない。
「あっちゃあ、ちょっと歪んじゃったかな……あれ?」
良く見るとロケットには先客がいたために入らなかったらしい。
そいつはまるで自分を使えと主張しているようだった。
「自己主張の強いやつめ……よしわかった!」
体勢を立て直して宣言する―――




―――『ユックライドゥ!イイイイク!!!』




変身音とともに現れたのは、帽子の十字と謎の数字が打たれたシャツが特徴的な、ゆっくりいくであった。
「ていうか前の世界でも使ったような……ほんとに自己主張が強いというか……おっと」
ポシェットからメダルが飛び出した。
「なになに、これはスキルライドメダル……「Kya-IKKUSAN」……?」


―――なにか、嫌な予感がする。
   そう、それは「ORE-SANJO!」的な―――



「万策尽きたかい? それじゃあこっちからいくよ!」
霧と化したすいかが迫ってくる。
さすが六里と名打つだけあって――逃げ場はない!

「仕方がない……スキルライドメダル、君に決めた!」
観念してメダルをロケットに通し、声高に宣言する。

―――もち、ポーズ付きで!








『スキルライドゥ! 歓声「キャーイクサーン!」』







                     ──━━━  ∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵ ∴∵∴ :r─-、.,_  _,,..-─┐:∴∵∴∵∴∵∴∵∴
                 ──━━━  _/ ̄/_ ∴∵∴∵∴──━━━∴∵∴∵∴ ____∴∵ :  _」:::::::::;;::二、:;__::::::::/、_  ,|\_ /|: ∴∵∴
      ⌒ヽ, 〉  *    ──━━━  /__  _/ _/ ̄/_ ∴∵∴∴∵∴∴∵∴∴∴:`ヽ.)ヽ、.,___「,.>''"´      `"'ヽ、:::7く___,.ンヽ!: ∴∵∴
  ┼ : ,. -─V-、     ──━━━. /__  __/ /__ __ / / ̄ ̄/∴∵∴∴∵∴∴∵∴ :\/ /              ヾ,. -ァ'7,ヘ,.ヾ、: ∴∵∴
    n_k=ニニ}><{=!_  ┼  ──━━━ /_/     /__//   ̄ ̄  ──━━━ ∴∵∴ :`7 / /  / i  、  ヽ.  〈   ,ァ'"|__r┘: ∴∵∴
   〈フ7 /ノノハノ) )       ──━━━  ∴∵∴∴∵∴∴∵∴∴∵∴∴∵∴∴∵∴∴∵∴ :|  ハ ,ォ-;、|__ハ__/_」__`ハ |  Y: ∴∵∴∵∴
    {|く{l、リ━┻ノ〉       ──━━━   _ノ ̄/  / ̄ ̄ ̄/  _/ 7_,/ 7_ ∴∵∴ / ̄/ ./''7、.”・”;‘ ・. 、(◯)Y!-|   : ∴∵∴∴∵∴
    {l /`L753(r_>       ──━━━ / ̄  / / / ̄/ /  /_  ___  __/       ̄  / / ;⌒∴⌒`、,´ェェ、 ":::i |  i |: ∴∵∴∵∴∵∴
    {レ /´ 〈 ヽl}   +     ──━━━  ̄/ /   'ー' _/ /   /__/_/ /  / ̄ ̄/  __ノ /;゜ )⌒、"::) ヽ;・r-| ::::/ |  | .|: ∴∵∴∵∴∵∴
  +   ^i_ァ~ーく)        ──━━━  /__/  ∴∵ /___ノ ∴∵∴ /__.ノ ∴  ̄ ̄∴ /___,./((´;;ノ、"'人;; :))、ニ´;イ/ ,ノ  .| |:∴∵∴∵∴∵∴
      ̄  ̄  ̄  ̄        ──━━━ ∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵_人人人人人人人人人人人人人人人_∵∴∵∴
                                                        >     ぐはぁっ!!!       <
                                                         ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄





「まさか音響兵器とは……やるなディケイネ……ガクッ」
「……まさか効くとは……」
雷撃に繋げる牽制くらいのつもりだっただが。

   ―――おそるべし、753。

ゆっくらいだーの秘めたる力に、改めて戦慄するディケイネであった。



スペルカードが解けて実体化したすいかを抱き上げる。
この子もまた誰かに―――ともすれば運命に?―――操られていたのだろう。あの大ケガレのように。
ディケイネのことを破壊者と言い含めるもの。
ゆっくらいだーには何か裏があるのだろうか?
まぁそれ程悲観しているわけでも無いのだった。

だって、ディケイネには仲間がいるのだ。

―――今は眠りこけているが。

「まぁ何にしても、懐かしいものが見られたのは良かったよ……それには礼を言っておくわ、すいか」
この子も目覚める頃には冷静になって話をすることが出来るだろう。
まずは何から話そう。

何となく、のの字の顔が思い浮かんだ。

「……まぁ起きたら取り合えず遊んでやるかな」



保育園のあの日々のように。




こうしてひとりぼっちの伊吹のゆっくりと、床次紅里は邂逅したのだった。



☆おしまい








<特別ゆんでぃんぐテーマ>



ゆーゆゆっゆゆのゆゆー♪ ゆゆんゆゆゆゆ♪ ゆっゆゆうゆゆーゆ♪
ゆゆゆ、ゆゆゆー♪ ゆんゆゆゆゆゆっゆゆん! ゆゆゆんゆゆ♪

ゆゆゆうゆゆゆっ
ゆゆゆ、ゆっゆ♪ ゆゆ~ゆゆゆゆゆゆ♪
ゆゆゆゆ、ゆっゆ、ゆーゆゆ♪ ゆーゆーゆ、ゆっゆんゆ~♪

ゆ~あ~、ゆっ、ゆゆゆゆ!
ゆゆゆゆ! ゆっゆ~~~~ゆ!!!!
ゆぅーゆゆゆ ゆんゆゆゆゆゆ ゆゆっゆ、ゆんゆっゆゆ~♪

ゆんゆゆゆ♪ ゆ・ゆ・ゆ♪ ゆゆゆゆゆゆゆ、ゆゆゆー、ゆんゆーゆ!
ゆゆゆっゆ、ゆゆうゆ~ゆっ ゆゆうゆゆ、ゆっゆっゆんゆん?

ゆゆゆんゆん、
ゆゆゆんゆんゆんゆんゆん、
ゆっゆっゆんゆんゆんゆんゆん~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!

ゆ~あ~、ゆっ、ゆゆゆゆ!
ゆゆゆゆ! ゆっゆ~~~~ゆ!!!!
ゆぅーゆゆゆ ゆんゆゆゆゆゆ ゆゆっゆ、ゆんゆっゆゆ~♪

ゆゆゆゆゆゆゆゆ! ゆっわっゆ~!

ゆゆゆうゆゆゆっ
ゆゆゆ、ゆっゆ♪ ゆゆ~ゆゆゆゆゆゆ♪
ゆゆゆゆ、ゆっゆ、ゆーゆゆ♪ ゆーゆーゆ、ゆっゆんゆ~♪

ゆう~~~~~~~~~~~~~~んっ、ハッ!



                              ,,,r'"""""""""丶
          ,.  -───-  、        r'"          ヽ,,
         /            \     r'"      ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;)
        / ▽           ▽    ヽ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノ
       / △            △|
       |  |  |           |
       |  |  |ノ|_∧_∧_ト| .|  ♪
       > . |  |/ Τヽ   / Tヽ| |  /\
     _/   |   |ヽノ    ヽノ .| | /;;;;;φ                     ♪
     `Z____ヽ |、_    ワ   ノ| / /;;;;φφ    ♪
     ヾヾ:.:Yヾ:.::;,;;イ;#ヽ/ゝ/#|ヽ /;;;/           r─-、.,_  _,,..-─┐
          r'"_ζ##| _|_ヽ|:# |/;;;/    ____      _」:::::::::;;::二、:;__::::::::/、_  ,|\_ /|
        (( ヽ ヽ、r'"  .丶/ヾゝ)   ♪ `ヽ.)ヽ、.,___「,.>''"´      `"'ヽ、:::7く___,.ンヽ!
_______ ヽr"|.__ /;;;;/ヽノ____ \/ /              ヾ,. -ァ'7,ヘ,.ヾ、
          ,/ヽノ /ヽ;;;/ 丶\   _____ _ `7 / /  / i  、  ヽ.  〈   ,ァ'"|__r┘
        /''   |///|   |ヽ#\/ 〆  \ |  i  |-‐ハ  |  ハ___ i  iY´Y
        |     ヽ/_/   ノ丿#ヽ       |  ハ ,ォ-;、|__ハ__/_」__`ハ |   |
        |      ::::::::::: //###ヽ      レヘ__,!ヘ(ヒ_]     ヒ_ン )Y!-|   |
      /  \    :::::::  / ./##o###ヽ     / !7,""  ,___,   "ノi |  i |
     |ヽ___\___//ノ'┬ヽ#o###|     / ヽ、   ヽ _ン   ./ |  | .|
     |i;;|::::::::i:::::i:::::|### /| ヽ|:::ヾ##@#|    レヘ_/ヽ、      イ/ ,ノ  .| |
     /i;;i::::::::::i::::i:::::ヽ##/:::ヽ .|::;;;;ヽ### |    .       ̄ ̄ ̄














<今日の伝子>

「んふぅ~……ああ、良く寝た」
「あ、面倒なのが起きちゃったよ」
取り合えず紅里はすいかを伝子の視界から隠す。
「あんた今回全く出番なかったわね……どうした?」
と、伝子は伝子で何かもぞもぞしていた。

何か、胸元を気にしているような?

「……やだ、ちょっと出ちゃった……」
「なんでだ!
 つか な に が だ!?」

☆こんどこそおしまい♪


  • でんこ…何故私のツボを突くんだ… -- 名無しさん (2009-09-12 21:55:44)
  • ゆんでぃんぐテーマとAAに和んだ
    ののワさんの登場とゆっくりが登場しないことに驚いたけど、
    終わってみればまさにゆっくりssでした -- 名無しさん (2009-09-12 23:06:21)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年09月13日 23:38