【リレー小説企画】ゆっくらいだーディケイネ 第18話-4


 可燐は大きく弧を描くように平手を振り下ろすが二人は何とか躱し、先ほど二人がいた場所が地面ごと大きく抉れる。
その圧倒的パワー見て、絶望的だな、とりぐるは思った。
「いくわよ!!まずその1!あえてこちらの戦力を削ぐつもりで!!」
 ディケイネは銃を取り出し可燐に照準を合わせるが一瞬のうちにその銃は可燐によって弾かれて宙を舞った。
「無駄、無駄、無駄だぁァァァッッ!!!!あの分身体の時のように思うな!!!」
「くっ!!!」
 これで通常弾幕を有効に放つ手段はなくなってしまった。普通のりぐるの拡散弾幕だと絶対弾かれるか躱されるかのどちらかしか思えない。
ここでラストスペルライドを放つか?いや、先ほどりぐるが言ってたようにまだこの次があるかどうかも分からない。
それに一昨日の場合は分身体になっていたからボムバリアが剥がれたのだ。剥がれるという確証も一切無い。
「オラオラオラオラッ!!!」
「ドラララララァァ!!!」
 ディケイネの拳と可燐の拳が互いにぶつかり合い火花が舞う。
だがパワーそのものが違うのですぐにディケイネは押し負けて大きく後ろに吹き飛んでいった。
「その2、小競り合いは負けろ!」
「はあああああああああああ!!!!」
 そして可燐はディケイネに向かって大きく蹴りをかます。それを腕で何とかガードしたはいいけれど勢いは止まらずそのまままた吹き飛んでいった。
「その3………避けるな、ダメージを受けろ…………」
「必殺技その892!!シェルスター!!」
 193までじゃなかったのかよ。可燐は体を丸めて一直線にディケイネに突進していった。
「それらの策を用いて!敵を油断させて懐に入るのよ!!」
『いえっさー!!!』
 ディケイネはその単直な攻撃を躱し可燐は木にぶつかる。
そしてその直後ディケイネは可燐に向かって突撃していった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「とりゃあああああああああああああああああああ!!!!!」
 ディケイネは、可燐の拳を、左手で受け流し、そして右手を拳の形にし、可燐の腹に向かって突き立てた!!
「!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「……………………………き、効かねぇって言ってんだろ………」
 だがディケイネは左手も可燐の腹に押しつける。
この時を待っていた、と言わんばかりに顔をにやつかせディケイネはこう言った。
「この距離、バリアの射程内よね」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
『スペルライドゥ!蛍符「地上の彗星」!!!』
 ディケイネは何回も何回もボムバリアの射程距離がどの位であるのか測り続けていた。
スペルが放たれる瞬間、可燐はこのディケイネが百戦錬磨の強者という事を思い知らされた!!!!!!!
「が、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 零距離弾幕を体に万遍なく喰らい可燐の体は吹き飛ぶ。そして追撃を掛けるようにディケイネは
可燐が吹き飛ぶよりも速く跳び、また可燐の懐に入った。
『スペルライドゥ!蛍符「地上の流星」!!!!』
「いっけえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
 そして二発も零距離でスペカを喰らった可燐の体は木々を薙ぎ払っていく。
そして何本か木を折り倒した後、可燐の体はようやく止まりそして力なく地面に伏した。
立ち上がる様子はない。この様子でもってディケイネは自分達の勝利を確信した。
「…………………………………………………い、い、いやったああああああああああああああああ!!!!!!」
『勝ったの!勝ったんだね!!!!』
 最後の最後でディケイネは反撃の一糸をつかみ取り!ようやく勝利した!!
ディケイネは自分も倒れそうになったがそこを何とか抑え地面に倒れている可燐を見た。
思えば辛い戦いで、少し悲しい戦いであった。
「おーーーーーーーーい、大丈夫ーーー!?」
 と、遠くの方から伝子の声が聞こえてきてディケイネはそちらの方を向く。
「ゆっ!蜂が倒れてるぜ!と言うことはおねーさん倒したんだ!!」
「え、ええ。ちょっと辛かったけどね………でんこ帰りおぶってくれない?実は言うと立ってるのもきついのよ」
「立ってるのはりぐるちゃんでしょうが」
 誰かが笑い。そしてそれにつられるように皆が笑い出した。
この果てしない達成感。今の今まで得られる物でなかったからこそ清々しかった。
「ゆっはっはっはっは……………………え」
 まりさがいきなり笑うのを止め顔を強張らせている。
嫌な予感がし、ディケイネは後ろを振り向いた。
「は、は、は、は、ははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
 可燐が立っていた。血反吐を吐きながらもその2本の足で立ち不敵に笑い続けている。
「最初に笑い始めたのって………まさかコイツ?」
『そう言う問題じゃないよ』
 血を何回も吐きながらも可燐は憎しみの詰まった目つきでディケイネを睨みつけ口を開く。
「ご苦労でした……………と言いたいところだけど………よくも私をここまで痛めつけてくれたな」「あんたのせいで
私の体もプライドもめちゃくちゃ、これから先あたしは全ての防御の力を攻撃に回しあんた達を処刑する」「圧倒的暴力の前に
あんた達はなすすべもなく無残に死んでいくのよ」「さぁ地上最強軍団の蜂の真の実力、見せてやる」「退くことは許さない、では」
                    「死ぬがよい」「そしてさようなら」

 可燐はそのまま空を飛び空中を漂う。
呼吸はもはや虫並みでしかないが目つきは悪意に満ちている。
そして可燐は羽を大きく天使のように展開した。
「でんこ。まりさを連れて逃げて!」
「そうだぜ!!というか逃がしてほしいんだぜ!!!」
「……………あ、うん。死なないでよ」
「誰が死ぬか」
 そう言って二人は互いに頷く。伝子とまりさを見送ってディケイネも空を飛び可燐と向かい合った。
「………………これがほんとの最後の最後よ、命掛けなさい」
『言われなくても、わかるよ』
 そして可燐とディケイネは互いに向き合って構えた。
可燐は札を、ディケイネはメダルを持って。
……………………………………………………………………………………………………
              『       緋      蜂        』

            『ラストスペルライドゥ!!りりりりりりりりりりりぐる!!!!』
                 「季節外れのバタフライストーム」

  ほぼ同時、いや、可燐の方が少し速く弾幕の嵐を放った。
二人が放った弾幕の嵐は互いにせめぎ合い、当たることの無かった弾幕は辺りを破壊し尽くしていく。
「はあああああああああああああああああああ!!!!!」
「このおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
 恐らく、一発でも相殺しきれなかったら一発の弾でもどちらかの体を抉るだろう。
それは周りの様子を見れば自ずと理解できる。
「くあああああああああああ!!!!!!!!!!!」
 可燐の弾幕のほうが勢いが強くディケイネは次第に押されていく。
しかし完全に押し負けてるわけでもなく何とかその場で喰い留めることだけはできた。
「負けるか負けるかああアアアアア!!!!!!!!!!こんな所で死にたかねええんだよおおおおおおおおおおお!!!」
「それはこっちだっておなじよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
 これほど命をかけた戦いには楽しみも悲しみも感情という物は殆ど全て排除されていく。
残るのは生きたいという想いと、殺したいという悪意のみだけである。
「そらっっっ!!そらっっっっ!!!!そらあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「ぐううう!!!!」
 そしてその想いは可燐の方が何倍も強い。GストーンとかZメタルとかじゃないけれど想いの強さは弾幕に反映されていく。
「ま、まけ、ないわよ!!!!!!!!!!!」
 互いの思いがせめぎ合い、時間が経つうちに二人の弾幕は次第に弱まっていく。
もう二人とも体力の限界を既に超えているのだ。だが二人とも相手の体力切れを期待していない。
コイツだけは絶対にこの弾幕で仕留める。その思いだけがあった。
「ヒィーヒィー………この…………やろう」
 可燐の口から血が溢れ出す。ダメージは確実に可燐の方が大きい。でも可燐には元々のポテンシャルがある。
そんな状態になりながらも可燐の弾幕はディケイネの弾幕を押し続けていた。
「虫を、なめるなあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
 可燐は咆哮と共に最後の力を振り絞り弾幕を放った。
その弾幕の嵐は完全にディケイネの弾幕を上回り、そして一気にディケイネの弾幕を吹き飛ばした!!!
「…………………が、がはっっっっ」
 だが可燐は一斉に血を吐いて意識が朦朧とし、視界も朧気となる。
しかし相手の弾幕を吹き飛ばしたという事で弾幕はディケイネに向かったはずだ。可燐は勝利を確信し、弾幕を撃つ手を止めた。


          「いい?先人達の技を使うときに大事な物は尊敬(リスペクト)よ。忘れないで」
 可燐の耳にあのディケイネの声が聞こえる。
まさか、あの弾幕の波を躱しきったというのか。
     「貴方の蹴りは強い。紅き月の吸血鬼だって、桜の下の幽霊だって、境界を操る妖怪でさえも一撃で倒す!」
                        『わかったよ!!!』
 五感が麻痺して上手く位置を掴めない。景色がめまぐるしく歪み、そして血を吐いた。
ディケイネが生きているというのであれば早く始末しないとこっちが殺される。それだけを考え可燐は辺りを見回した。
                 「これで終わりにするのよ、最後の力を込めて今!!!」
 ようやく五感がまともになり可燐は声のする上の方を振り向きディケイネの姿を見つけた。
そうか、私が弾幕を吹き飛ばしたときにはもう上の方に逃げていたのか。
 可燐は残り全ての力を全て弾幕としてそのディケイネのいる方向に放つ!!!
「ライダァァァァァァァァ!!!リグル!!!キィィィィィッッッッック!!!」
 そしてディケイネは足を可燐に向けて一気に跳び蹴りを放った!!
偶然か奇跡か、ディケイネは可燐の放った弾幕のスキマを上手く切り抜け可燐へ向け一直線に突撃していく。
全ての防御を攻撃に回した可燐に、これに耐えるだけの余裕は既に無かった。
「い、いや」
「うらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
 ディケイネのその単純きわまりないただの跳び蹴りは可燐の腹に直撃し、その体勢で速度を保ったまま二人は地面に激突する。
そしてその衝撃で土埃が舞い上がり二人の姿を隠した。

 荒れ果てた森の戦場で一人だけが立ち尽くしていた。
可燐は地面に倒れ、泡と共に血を吐きながら白目をむいている。ディケイネはそれを見おろしてただ静かに黙っていた。
「……………………………………本当に、勝った」
『……………………………………………………………………』
 それだけ言ってディケイネは振り返る。遠くに伝子とまりさがいたのを見つけ大きく手を振った。


「はっ!」
「れ、れいむさん、体の方は………」
「大丈夫だよ!それよりもいまれいむは感じたよ!おねーさん達やったんだね!!二人が帰ってくるよッ!!」
「やっぱりジョジョネタかよ」




 もうすっかり日も暮れて辺りはしんと静まる。
戦い終わってすっかり草臥れた紅里とりぐるは稗榎さんの家ですやすやと眠っていた。
「「むーしゃむーしゃ!ココナッツうめぇ!」」
「それはよかったです!」
 すっかり元気になったれいむはまりさと共にカブト虫の形をしたココナッツを食べている。
喉もと過ぎれば何とやら、あの時の真剣な顔つきはすっかり太々しいいつもの表情に戻っていった。
「………ねぇ十紘先生」
「あー、えのちゃんでいいですよ。とは言って元々これは姉のあだ名ですけどね」
「……………その腕、と言うか傷大丈夫なの?」
 伝子はそのあだ名で呼ぶことなく稗榎さんの腕を指差す。
稗榎さんの腕には万遍なく包帯が巻かれていて、机の周りにも血の跡がほんのり残っていた。
「大丈夫ですよ、そんな麻痺してないし動かなくなったら口で書きますから」
「麻痺、しちゃってるんですか……………」
 世界を修正するためには大きな代償が必要である。
あの原稿用紙をたった1文字修正しただけでこの有様、しかしその修正がディケイネに勝利をもたらしたのだ。
「………………………これでいいんですよね」
 机の近くのゴミ箱には紙くずが目一杯に詰め込まれている。
稗榎さんはそれを一瞥した後紅里とりぐるの方を向いた。
「そう言えば、何で上半身下着なんですか?」
「…………………知らない、とりあえず上着持ってきてあるけど」
 かっこつけるためにボスの真似して上着を脱いだため、今紅里は上半身下着の状態のままで寝ている。
れいむとまりさ、そして伝子は『もしこの場にカメラがあれば……』とまで考える程の痴態であった。
「それじゃ貸して下さい、これじゃ寒そうですよ」
「え、でも腕は………」
「そんな麻痺してませんって」
 とりあえず伝子はその作務衣の上を稗榎さんに差し出し、それを受け取る。
そして寝っ転がっている紅里に着せようとしたが手が上手く動かずつい紅里の肌に触ってしまった。
「あ、柔らかい………」
「柔軟剤使ってるんだぜ!!」
「きっと漂白剤に混ざってるんだよ!」
 そのまま稗榎さんは紅里の肌に次々触れていく。
いままで人と離れて暮らしていた稗榎さんにとって人肌の暖かさは懐かしい物であった。
まぁ端から見ればセクハラの現場なのだが昨日紅里も稗榎さんにセクハラを行ったのでどっちもどっちである。
 程良くその肌を堪能した後稗榎さんはちゃっちゃと紅里に作務衣を着せた。
「ふつうにきせちゃったよ!?」
「まぁ手先は器用ですから、動かない手を上手く使うのがポイントですね」
「…………………ん。」
 そんな事をやっていたせいで紅里、ではなくりぐるの方が起きてしまった。紅里はというとあれだけセクハラされたのにまだ眠りこけている。
「あ、起こしちゃった………?」
「………………………………えのちゃん、その腕」
「え、ああ、大丈夫大丈夫。それよりもりぐるの方が心配だよ」
 可燐から散々打撃を受けまくったのでりぐるの体には痣が沢山残っている。
それでも痛がる様子もなくりぐるはのろのろと稗榎さんの膝の上に乗った。
「…………………………………………この事件は全てりぐるのせい。
えのちゃんも村のゆっくり達もあの蜂さんもおねーさん達もりぐるが傷つけたようなものだよ………」
「…………………………でも一番傷ついたのはりぐる………………なんじゃない?」
 稗榎さんはりぐるの頭をゆっくりと撫でる。
確かに稗榎さんの言うとおりりぐるは今回の異変で罪悪感による地獄のような苦しみを味わった。
 しかしりぐるはその言葉を否定するかのように首をブンブンと振り、目元に涙を溜めながらも泣くのを堪えた。
「…………そんなことないよ………やっぱりりぐるは嫌われ者になる宿命なんだよ!」
「……………………………………でもさ、ほら、外」
 そう言って稗榎さんはのれんの外を指差す。
「ゆっゆっ」
 風が吹いているわけでもないのにのれんがもそもそと動き外から多くのゆっくり達がなだれ込んできた。
「「ゆっくりしていってね!!ココナッツはいかが?」」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「ゆっくりするよ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「え!!ゆっくりちゃんがいるの!?どこどこ!?」
 伝子は自分の第六感をフルに作動させ、なんとゆっくり達がいるところに正確に突っ込んでいく。
だがいくら感知したといっても触れられないことに変わりはないので、伝子はその勢いのまま再び家の外へと飛び出していった。
「………………………あ、あの」
「みんなげんきだよ!!それもこれもディケイネのおねーさんとりぐるのおかげだね!
だからこうしてお礼を言いに来たよ!!」
「どういたしましてだぜ!!」
「…………………………」
 それほど関係ないまりさは反応したが当のりぐるはずっと押し黙っている。
それを見かねた稗榎さんはりぐるを持ち上げゆっくり達の前に置いた。
「………………ごめんなざい……………りぐるのぜいでみんなが………」
「それほど気にしてないよ!」
「最初はマジでうざかったけどね!!」
「でも二人のおかげでこうしてみんなゆっくりできるよ!!!」
 そしてゆっくり達はらんしゃまを一番前にして整列し、りぐると紅里に向かって大きくこうべを垂れた。
「「「「「「「「「「「「「「「どうもありがとう!!!!」」」」」」」」」」」」」
 りぐるの目から大きな涙の粒が雨のように溢れ出す。今まで溜めていた苦しみ、悲しみを全て吐き出し、
りぐるは何の迷いもなく目の前のゆっくり達に抱きついていった。
そしてもう一人の当人である紅里はこれほど騒がしいというのにまだ寝ていた。
「紅里さん…………完全に寝ちゃってますね」
「ねぼすけさん!」
 とはいってもあれだけの死闘を切り抜けてきたのだ。ゆっくり寝させてあげるくらいの権利は当然あっていいだろう。
稗榎さんは奥の部屋から掛け布団を持ってきて紅里の体に掛けてあげた。
「ふふ、相変わらず年下には健気ね」
「うわっびっくりした」
 紅里と布団のスキマから再びD4Cの如くゆかりんが現れた。
ゆかりんは乱れた布団をしっかり直すと稗榎さんの目の前に鎮座する。
「ええと、貴方は『覇王色の少女臭』湯月火村の村長のゆかりんですよね」
「ご名答。まぁ当然よね、貴方は私たちの生みの親なんだから」
 胡散臭く微笑みながら少女臭を発するゆかりん。
けれど稗榎さんは少し表情に影を落としてゆかりんを抱えた。
「…………………………私を恨んでないですよね」
「なんで?貴方を恨むのならともかくまずあのりぐるを恨んだ方が話が通るわ、恨んでないけど。」
「いや、この異変はやっぱ私のせい、だと思うんです。あんな物語を作り具現化させて貴方たちを苦しめ………」
 稗榎さんが言葉を言い終わる前にゆかりんは扇子で稗榎さんの頬を軽く叩いた。
「貴方に想像を具現化させる力なんて無いでしょうに、責任を感じる必要なんてないのよ」
「……………」
「ほら、そんなしかめっつらしない。それに私たちはむしろ感謝してるのよ、私たちの命を与えてくれたことに対してね」
「命だなんて…………」
「いえ、貴方は私たち全員にやたら緻密な設定と歴史、人格、性癖とありとあらゆる物を与えてくれたわ。
 ほんのちょっと小さい悪意で変なことになっちゃったけど今はとてもゆっくりしてる。ありがと」
 そう言い残してゆかりんは稗榎さんの指のスキマから何処かに消え去ってしまった。
少し自分の世界が空虚になって稗榎さんは天井を向いて考えた。
そしてほんの少し言い様のない寂しさを覚えた。
「えのちゃん……………」
「?どうしたの?りぐる」
「…………………………………りぐる、もっと強くなるよ!バカにされても挫けないくらいずっとずっと!
 だから………………………りぐるは旅に出るよ!!」
 稗榎さんはそれほど驚いたような顔を見せず、寧ろ笑顔でりぐるを見つめる。そしてりぐるを持ち上げその頬に軽い接吻をした。
「がんばって、私りぐるのこと応援してるから」
「……それじゃ、行ってくるよ!!」
 とても誇らしい顔つきでりぐるはそのままゆっくり達をかぎ分けて外に出た。
のれんのスキマからは触角と垂れ下がったポニーテールが垣間見える。そして耳障りな羽音と共にりぐるは森の闇の中へ旅立っていった。
「…………………………これからの物語、頑張ってね」
 稗榎さんは机の中に仕舞ってあった原稿用紙を取り出す。
そう、それは悪意に染まってない2話目の原稿用紙。主役が師匠と共に修行のたびに出かけるお話だ。
 稗榎さんはそれを一枚だけ残し一気に破り捨て近くのゴミ箱に突っ込んだ。
これからの物語に筋道は必要ない。彼女らは二人だけの新しい物語を歩んでいくのだ。



「元はこんなのだったんだ……………」
 翌日の朝、私こと床次紅里は家の外の光景をみて呆れるような感嘆するような思いを抱いた。
あれだけ賑やかだった村も今はただの空き地。あの柵も、家も、賑やかなゆっくり達も今はもういない。
「そう言えばりぐるとでんこは何処行ったの?」
「りぐるは旅だったんだぜ!」
「伝子さんは早朝に出発しちゃいました。なんとも『りぐるちゃんがいなくなっちゃったから帰る』だそうですよ」
 まぁでんこらしいっちゃでんこらしい。でもなんとなくあの森をちゃんと抜けられるのか少し気に掛かった、お互い様だが。
「……………………で、稗榎さんはどうするんですか」
「えと、とりあえずここに住むことにします。出口も分からないし」
 ここは本当に孤独の世界となるわけか。少し心配になる。
孤独な戦いが辛いのなら、孤独な生活はどれほど辛くなるか予想も出来ない。
「おねーさん!今出ないとメビウスが終わっちゃうよ!」
「あーはいはい。それじゃ稗榎さん。またいつか」
「ええ、それでは」
 私は稗榎さんに手を振りれいむとまりさを連れて森の中に入っていった。
ある程度進んでいった時、私たちの目の前を小さい虫が二つ飛び回ってるのが見えた。
「うわっ蜂だ」
「そ、それに、あ、あ、あれも!いるぜ」
 いや、一つは確かに蜂だがもう一つは決してアレなんかじゃない。
蛍だ。
「昼間に蛍だなんて珍しい………………」
 そしてその虫たちは私たちに付いてこいと言わんばかりにそのまま進んでいく。
私たちは何の考えもなかったけど、その虫たちに妙な確信がありただただその方向へ向かっていった。
「…………………?ひと?」
 遠くに人がいるのが見えた。女性と思しきその人は身長は高く髪は紅かった。そして多くのゆっくり達を引き連れている。
あの姿には見覚えがある。稗榎さんが持っていた写真に映っている女性そっくりだ。
「………………………孤独ってものは続かないもんよね」
 人は一人では生きていけない。そんな当たり前な事を考えながら私は騒がしい同居人達と一緒に足を進めていった。





【きょうのでんこ】

 朝早々と出たのは良いけれどやはり道が分からず伝子は結局迷ってしまった。
歩いてもう三時間、空はこんなに蒼いのに、太陽はこんなに眩しいのに未だに自分が何処にいるかも分からない状況だ。
「も、もう迷うの嫌よ!!…………………そうだ」
『ユックライドゥ!ディエイキ!!』
『ユックライドゥ!りぐるぅ!!』
 何か思いついたのか伝子は変身してすぐにりぐるを召喚する。
「さありぐるちゃん!道案内をお願い!」
 森なら虫であるりぐるがよく承知してるはずだ。
そう考えて召喚し、そのお願い通りりぐるは辺りを見回す。
「?どうしたの?」
「むしさん来てね!!」
 りぐるがそう言うと辺りの草木から何かが蠢いたような気がした。
伝子のこめかみに冷や汗が一筋流れる。
「ま、まさか、虫って」
 草が動く音は次第に大きくなっていく。そして草、気、地面からありとあらゆる虫が這い出てきた。
「あ、あ、あ、あ、あああああああああああああああああ!!!!」
 伝子は生理的嫌悪感から一目散に逃げようとしたが、既に遅く多種多様の虫に囲まれてしまった。ホラー。
だが伝子は通常なら怯え、立ち尽くすところを!あえてりぐるに突っ込んだ!
「ど、どうせ逃げられないのなら!!最後はゆっくりの胸の中で死ぬぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!」
 その雄叫びを最後に、森の中は静かになった。幻惑の森は平和である。


      ゆっくらいだーディケイネ18話 ~ゆっくりEND~


  • ギャレン「この距離なら、バリアははれないな‼」
    ライダーネタ多くて楽しかったwww -- 名無しさん (2009-10-10 00:04:56)
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最終更新:2009年11月08日 00:07