「……………………それで、どうする?説得なんて無駄だぜ?ならさっさと帰った方が」
「こうするのよッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
紅里はそう叫んで思いっきり全握力をもって拳を作り可燐の頬を殴りつけた!!!
虫故に体重が軽いのか可燐はそのパンチで大きく吹き飛んでいく。
「はっっ!!誰があんたに同情するだって!?ふざけんじゃないわよッ!!まだあんたにやられた傷残ってる!
とにかく今まであんたをぶちのめすことだけを考えてきたわ!!!どうしてやろうかしら!
揚げてイナゴのように竜田揚げにしてやろうかしらッッ!!ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!!!!!!!!!」
それはもはや鬼子母神。優しさと恐怖に満ちた神の表情である。
そんな様子を影から見ていた伝子とまりさはその圧倒的威圧による恐怖で怯えてきっている。しかし可燐の方は頬を殴られながらもとてつもなく良い笑顔をしていた。
「あっっっははははははははははは!!!!いいじゃねえか!!!でもさ勝てるの!?針にびくびく怯えていたあんたがさ!!」
その時の紅里の瞳には鋭さがあった。そしてその目で可燐を睨みつけながら紅里は上の作務衣を脱ぎ始めた。
「……………そう、これは「試練」よ。
過去に打ち勝てと言う「試練」と私は受け取った」
「…………………?あんた、そんなに胸…………あった?」
「人の成長は……………未熟な過去に打ち勝つことだとな…
え?あんたもそうだろう?ビーブーン・カーレーン!!!」
「びーぶーん・かーれーん!!!」
脱ぎさると共に作務衣の下からりぐるが飛びだし、紅里はペンダントに一枚のメダルをはめ込んだ!!
『ユックライドゥ!!ディケイネ!!』
「いくわよっ!!!りぐる!!!」
変身するやいなや紅里は続けざまに次のメダルをペンダントにはめ込む。
『ファイナルフォームライドゥ!!!りりりりりりりりりぐる!!!!』
「りぐるは!今こそ飛び立つよ!!!」
すでに心の成長は果たした。りぐるは自分の未熟な過去と決別を果たすために今こそ戦う。
りぐるの体が光り、次々と幾つかのパーツになっていく。それは鎧、籠手、ブーツ、肩アーマー。
そしてそれら全てがディケイネに装着されて、ディケイネはまるで体付きゆっくりのようになった。
緑色に光る鎧はかつての初代ライダーのように雄々しく輝いている。
「…………………さぁ主役の凱旋よ。」
『覚悟してね!!!』
そしてディケイネは肩に付いていた赤いマントを首に巻き付けた。
「……………は、主人公も一緒で最初っからクライマックスという事カァ!!!いくぜぇ!!!」
可燐は楽しそうに叫びながらポケットから一枚のカードを取り出す。
そして耳障りな羽音が突如森中に響きそうなほどの大音量となり可燐の姿は五つに分かれていった。
「分符『クイーン・B・B』!!」
そして五つに分かれた可燐は赤い本体を中心に陣を取る。
「わたしの名前はビーブーン・サーレーン。どんな敵の中だって切り込んでいって見せよう。マゾ?それでいいのだ」
「私の名前はビーブーン・ターレーン。私じゃなきゃこの有象無象の集団を纏められないわ。でも分身体なのはご愛敬」
「ええと、私の名前はビーブーン・ナーレーンです。あんまり積極的じゃないけどみんなの為に頑張ります。〆ちゃいます。」
「私の名前はビーブーン・マーレーンですよ。コミュニケーション能力抜群。いつでも何処でも戦闘以外では引っ張りだこです。」
「そして私の名前がビーブーン・ハーレーン。サディスティックだけどなんか動く気しないのよね。でも言葉の刺でちくちく刺すわ」
「「「「「私たち!!ビーブーン突撃隊!!」」」」」
「相変わらずじゃかましいわっっっっっっ!!!!!!!!!!!!」
一昨日も鳴り響いた5.1chサラウンドは今回もディケイネの耳をつんざいていく。
さらに妙な自己紹介が余計に紅里のかんに障った。紅里は頭を抱えて一度は気が滅入ったが顔を上げて可燐たちを見据える。
「…………行くわよ」
『わかったよ!』
ディケイネは腰に装着されていた虫取り籠みたいな銃を構え、そのまま五人に向けて発砲していく。
可燐たちは本体を残して散り散りになり、本体もその弾丸をたった一本の指で跳ね返していった。
「ああ、何にも変わってないように見えた。成長してるの?」
そして昨日と同じ様に可燐分身体達はディケイネの上空を飛び回りそこから弾幕を放っていく。
一見回避不可能のように見えるその弾幕だがディケイネは背中の羽を動かし真上に移動することで回避した。
「飛べるのか!」
「空はあんた達だけの物じゃないわ!!バグ!!シュート!!!」
ディケイネは空を飛ぶと同時に銃の照準を分身体に向けて、発砲した。
銃身から放たれる弾丸は数こそ少ないが速度は通常弾幕の比ではない。だからこそ、高機動の蜂には効果がある。
「サーレーンとマーレーンは攻撃を続けて!ナーレーンは本隊の護衛をお願い!!」
「「イエッサ!!」」
三つ編みの分身体の掛け声の通りに可燐たちは動いていく。
相手が空を飛べると分かった以上やたら弾幕をばらまくのは同士討ちの危険性がある。
なら出来るだけ少数で仕留めに掛かった方がいいと考えたようだ。
「ああもう!行動速過ぎよ!!」
流石軍団と言うべきか。
可燐分身体達は空を飛んでいるディケイネを追い続けながら弾幕を放っていった。
「いつまで逃げ続けるんですか?いくら空を飛べても慣れないでしょうに」
「くぅっ!!バグ!シュート!!」
ディケイネは逃げつつも弾丸を放ち応戦するが、速度を持った弾丸を持ってしても大量の弾幕に相殺されてしまう。
弾幕は相対速度がある故に避けるのは難しくなかったが速度の差もあってディケイネと可燐たちの距離は次第に縮まっていった。
「どうにかなんないの!?」
『これは蜂さんのスペカの中でもじょういにはいるほどのつよさだよ!!対策たててなかったの!?』
「…………………あ。」
いままでずっと自分の恐怖について考えていたからすっかり忘れていた。
ここぞとばかり碌でもないことが起きる物だ。
「前はゴリ押しだった………でも一応仕組みは理解したつもりだけど」
「だったらはやくやろうよ!」
「仕組みが分かってもこいつら強すぎなのよ!!!!」
と、そのように話し合っている内にいつの間にか視界から可燐たちが消えているのに気付き、ディケイネは空中で制止する。
「だから速いっつうの!!!」
「そら!!!」
真下からの声に気付いた時にはもう既に弾幕がディケイネを襲っていった。
上昇しながら弾幕を撃っていたようでその速度は半端無く一発二発避けるのが精一杯であった。
「こ、この!!!!」
「………………………これが、チェックメイト」
ディケイネの首に冷たいながらも肌のような感触が走る。
完全に後ろを取られた。真下からの弾幕に気を取られていた隙に可燐分身体の指がディケイネの首に触れていた。
この距離では逃げる余裕もない。その上ディケイネは例え一発であったとしてもこの零距離弾幕に耐えきれる自信は無かった。
「これが軍団。分かっていただけましたでしょうか?」
「『オープンゲット!!!』」
「なっ!!!」
ディケイネの頭部と胴体が分解し迂回して逆に可燐分身体の後ろを取って再び合体する。
そしてディケイネは虫取り籠みたいな銃を可燐分身体の背中に押しつけた。
「形勢逆転ね」
「う、う、うあああああ!!それでは皆さん!私はこれまでです!ありがとうございました!!次回作も宜しくお願いします!」
「バグシュート!!!」
二丁の銃が連続して零距離で発砲され可燐分身体の体を抉っていく。
そのまま分身体は力なく落ちていき、落ちていく過程において消滅していった。
「まず一人ッ!残る分身体は三人だッッ!!」
『え!?まず本体からやっちゃった方がいいよ!』
「いえ!分身体がいる状態じゃきっとアイツにダメージすら与えられないわ!
一昨日見たのよ!分身体が全員やられたとき本体の色が変わるのを!きっとそう言うタイプのスペカなのよ!」
それは敗北したときの記憶。かなり印象的であったため朧気ながらにも紅里の脳裏に焼き付いていた。
そしてそれがまるで事実であるかのように可燐たちは動揺の色を隠しきれていなかった。
「ああ、ばれちゃってるなら護衛は必要ないわね!ナーレーンちゃん!サーレーンさん!三人で行くわよ!!」
「「いぇすまいろーど!!」」
「………寂しいわ」
本体が完全に蔑ろにして分身体はディケイネを囲むような形で襲いかかってくる。
一体倒したことによってある程度有利になるかと思われたが、逆に相手が本気を出して三人で襲いかかってきたため寧ろ不利になってしまった。
「相手の上を取れば同士討ちの危険は無いの!いくわよ!!」
その命令に従って可燐分身体達はディケイネの上部に回り込む。
今度は真上に飛ばれないように三つ編みの分身体がディケイネの真上に配置していた。
「一斉照射!スタンバイ!?」
「「OK!!」」
「くぅ!!オープンゲット!!!」
ディケイネは再び分離して弾幕のスキマをくぐり抜けていく。
そうしてまた可燐分身体の後ろを取るが既に察知され、可燐分身体はディケイネから距離を取る。
一応包囲状態からは脱出できた。しかし猛攻はこんな事くらいでは止まらない。
「私は上、ナーレーンちゃんは真ん中、サーレーンさんは下で攻撃よ!」
「「Yes!Yes!Yes!」」
可燐分身体達は上下一列になって弾幕を放つ。ただでさえスキマが少なく速度が速い弾幕が全てディケイネのいるポイントで重なるように放たれたのだ。
避けるスキマが見つからず、また動いても状況そのものを変える事が出来ない。
ディケイネは本格的にこの蜂妖怪の圧倒的パワーに恐怖した。そして目の前の弾幕に対し、覚悟を決めた。
その時ディケイネの前に何者かの姿が降り立つ。
『ユックライドゥ!!!!ディエーーキ!!』
『ユックライドゥ!!!るーみあ!!!』
『スペルライドゥ!罪符「彷徨える大罪」!!!』
それは森定伝子、いや、ゆっくらいだーディエイキであった。
ディエイキはるーみあに乗ってディケイネの前に降り立ち、可燐たちに向かって弾幕を放っていった。
「!!!で、でんこ!あんた!」
「あんただけにいいかっこはさせないんだから!!あとでんこっていうな!」
そして勢いよく放たれたディエイキの弾幕は、
全てが全て可燐の弾幕をすり抜けていった。
「へ?」
いや、それどころかその弾幕はディエイキの体さえもすり抜けてディケイネに向かっていく。
さらに悪いことにディケイネはディエイキの体で視界が遮られたせいで弾幕に上手く対応することが出来ず、弾幕が見事ディケイネの顔面に被弾した。
「うぎゃぶ!!」
『ぎゃん!!!』
「……………………ええと………………………外した?」
伝子はこの森に渦巻く仮想現実に対応することが出来ない。聞く事も出来なければ触ることすら敵わない。
だからいくら弾幕を放とうが罪を裁こうがHENTAIしようが可燐や可燐の放った弾幕にさえも一切干渉できないのである。
「……………………………」
俯いて弾幕が当たった部分をさすりながらディケイネは含み笑いをしていた。ただし物凄く黒い笑い方だが。
そしてディケイネは顔を上げるとそのままその腕でディエイキをぐわしと掴んだ。
「もう二度と邪魔すんな!!今度家に来て
家のゆっくり罰××罰していいから!!あと!」
「マジ!?じゃあもう二度と邪魔しない!!」
やけに聞き分けが良くディエイキはそのままゆっくりとるーみあと共に地面に降り立っていく。
そんなディエイキを一瞥して視線を元に戻すと可燐たちは二人の様子を大いに笑っていた。
「さ、流石にこれはちょっと滑稽すぎというか、妙に聞き分けが良いのもまた……あはははは」
かんに障るような笑い方では無かったがただでさえ邪魔されて腹が立っているディケイネは余計に苛ついた。
ディケイネは感情に身を任せ可燐たちを睨みつけながら怒りと共に銃身を向ける。
「……………ああもう、慣れないのよスペカ無しの戦闘は!」
そうぼやいてディケイネは可燐たちと距離を取りながら弾丸を発射していく。
だが可燐たちはいとも容易くそれらを躱していき速度を緩めずにディケイネを追っていった。
「くっ!!」
長期戦になるかもしれないけれどこの広い空間で戦うのは不利と感じたディケイネはそのまま森の中に突入していく。
可燐たちもそれを見てディケイネを追っていった。
「弾の数を少なくして精密射撃!いいわね!」
「わかりました!」
可燐たちは少し速度を弱めて森の中に入るがそれでもディケイネを見失わずに追い続けディケイネとの距離の差は依然縮んでいく。
相手は小回りが良い上にこの森を知り尽くしている。ディケイネもそれなりの速度、小回りを持っているが可燐には到底及ばない。
逃げてる間でも可燐分身体達の弾丸と化した弾幕がディケイネを襲っていく。
「くっ!!オープンゲット!!!」
ディケイネは分離して攪乱を目論むが弾幕は正確にディケイネに向けて発射され、可燐たちの前では全く無意味であることを思い知るだけであった。
そして何回か周りを迂回した後再び合体しディケイネは木々のスキマから空に向かった。
「追うわよ!!」
三つ編みの可燐分身体を先頭に可燐たちは同じ様にそのスキマからディケイネを追っていく。
そして三人は距離があるにも関わらずディケイネの後頭部に向けて照準を合わせた。
「一気に高速弾で仕留めるわよ!」
「「わかった!!」」
「1・2・3・SHOOT!!!」
一斉に三人の指先から弾丸が放たれ、空気を切り裂きながらディケイネの後頭部目がけて飛んでいく。
だが弾丸を放った直後、司令塔の可燐はディケイネの姿に違和感を覚え、そして気付いた。
「し、しまった!あれはディケイネじゃない!」
そう、そのりぐるの体に乗っていたのはディケイネではなくディエイキだった。
三人が放った弾丸はそのままディエイキの体をすり抜けていく。ディエイキが可燐に干渉できないのと同様に、可燐もまたディエイキに干渉できないのだ。
「後で森に入ったときにりぐるに乗れって言われたから乗ったけど………これで良いのよね」
『ばっちりだね!!』
「ああ、りぐるちゃんに乗れて、し、あ、わ、せ~~~」
気持ち悪く微笑んでいるディエイキを無視して可燐たちはディケイネの姿を探す。
あの身体無しに飛べないことは知っている。だから絶対何処かの地上にいるはずだ。
「引っかかったわね!!!私はここよ!!」
「!!!そこか!!!」
地上からディケイネの声がして三人ともその方向に体を向ける。
と、そこで司令塔の可燐はまた不思議な違和感に襲われた。