あのゆっくりゃが私の庭の小さな小屋でゆっくれいむと暮らすようになってから一週間の時が過ぎた。
ていうかもう一週間か。
時間の流れって速いな。びっくりしちゃう。
それだけの間、寝起きで奴らのことを観察していた訳だから、奴らの生態も大体把握できた。
基本的に奴らの行動は怠惰と欲望で構成される。
つまり、基本的に実のある行動なんて何もしやしない。
基本、小屋の中か、天気の良い日は外で、二匹揃ってぐでっと横になって寛いでいるのが基本である。
その時、なるべくそうしてるのが落ち着くのか、二匹よりそって団子になって寝そべっている姿が何回も目撃されている。
まだ晩春とはいえ、晴れてる時にそれは暑苦しくないのか、と思わなくもないが、
そういえば数日前はもっと大勢のゆっくりが一か所に固まったりしていたし、奴らにはそれが心地良いのだろう。
弱い者同士、くっついていた方が安心なのかもしれない。
ますます私の理解から遠い生き物である。
そして、そうでない時は大抵二匹で飛び回って遊んでいる。
基本は跳ねまわって互いに追っかけあったり、
(この時ゆっくりゃは決して飛んでれいむを追っかけたりしない、飛ぶ方が体力使うからだろうか)
ゆっくりゃがれいむを掴んで空を遊覧飛行したり、
(れいむは凄く楽しそうに『ゆっ!ゆっ!』とはしゃいでいるが、ゆっくりゃは凄く辛そうである)
互いに『ゆっくり!』『うー、ゆっくり!』とか意味分らない掛け声をあげながら、
互いに嬉しそうに頬を擦り寄せてくっつき合っている。
本当やることやること一つ一つに意味が見いだせない生物だ。
いいぞ、もっとやれ。
と、ここまで観察して分らない点もいくつかある。
その中で格別に私が気になっているのは、奴らの主食、
つまり、餌は何を食っているのか、どこでそれらを調達しているのか、だ。
一日中観察している訳ではないので仕方ないのかもしれないが、
私はまだ奴らが食事している風景というものを見たことがない。
聞く話によると奴らは、たかが食事一つに感動し、
一口食べ終わる度に涙を流し、「しあわせ~」と大きな声でその感動を周りに伝えるらしい。
無駄の二文字でしか言い表せない習性だと思う、超見てぇ。
という訳で、今後の観察方針は、
『取り敢えず奴らが何を食っているのか見届けてみる』
でお送りします。
庭には二匹ゆっくりが居た②
5月21日 快晴だよ 不愉快な
今日は久々に人並な生活習慣に戻してみた。
人並ってのは、夜寝て朝起きる、人間的なアレである。
ゆっくりは夜行性ではないようだし、この方が奴らの多くの行動を観察できるだろう。
「ふわぁ~」
しかし、ねみぃなぁ。
早起きってやつはけっこう辛い。
「もう時計の短針は11時を回っていますが、お嬢様」
うちの瀟洒な従者が自身の銀時計を見ながら呆れ顔でぼやいた。
「ああ、吸血鬼時間的にゃ朝の六時だからねぇ、だいたいこの時間は」
「人間は吸血鬼より絶えず五時間先に進んでいる生き物ということですか、光栄です」
「いいえ、十九時間遅れてるのよ」
窓の外を見てみると、小屋近くに2匹のゆっくりの姿は見えない。
「ほほう、奴らはどこに行ったのかしら?」
「あの一頭身どもなら、この時間はいつも何処かしらに出かけていますわ」
「なるほど、さっそくの新発見だ。やはり早起きはしておくものね」
「人間の進み具合は百六十八時間なのやもしれません」
やれやれとまた呆れるように首を振る従者を尻目に、私は活気よく廊下へ飛び出した。
「さぁ、咲夜。傘を持ちなさい。今日は吸血鬼のゆっくり観察 屋外スペシャル編だよ!」
「それ言葉だけなら人間的にはノーマルですが」
ゆっくり達の小屋はうちの庭でも外側の、森に面したところに建っている。
なるべく屋敷の奴らと切り離した、人間や妖怪の手の届かないところでの生態を観察したかったからだ。
だから、ゆっくり達が出払っている今は、奴らの小屋を近くで存分に家探しする絶好の機会と言える。
「あら?思ったよより生き物臭くないじゃない」
「なんでがっかりしてるんですか?」
しゃがんで小屋の中をがさがさと漁る私に、従者が傘を掲げながら淡々と尋ねてくる。
「リアルはファンタジーからかけ離れていたほうが心地良いものよ。
その方が幻想抱いてる奴らに通ぶれるじゃない?」
「え~、動く饅頭相手にリアルもファンタジーもないと思いますが」
「あ、咲夜、これ見てみて」
小屋の奥の方に集められていたそれを私は手を伸ばして掴み取り、従者に対して広げて見せた。
「あー、飴玉の包み紙ですか?」
「どうやらそのようね」
奴らの主食、と考えていいだろう。
人間の作った菓子を好むというのは実際よく聞く話だ。
「問題は、この飴をどこで手に入れているか、ね。もし人間の里からうまくくすねているのだったら、
なかなかに小賢しい生き物じゃない?」
「ここから、人間の里は些か遠すぎる気もしますが」
取り敢えず、ゆっくりが何処に行ったのか探してみましょうか。
そう思い、私はゆっくりの小屋に対して掌を掲げてみた。
そして、集中するため静かに目を閉じる。
「説明しよう。吸血鬼レミリア・スカーレットは運命を操る能力を持っている。
運命とは“アカシックレコード”のように文章やそれに伴うデータの羅列で構成されているものではない。
森羅万象、有象無象、この世に存在するあらゆるものの“結びつき”そのものだ。
言葉に表すのなら正しく“運命の糸”。
レミリア・スカーレットはその糸に触れ、手繰り寄せることによって運命をも自由に弄ぶ力を持つ。
そして、あらゆる場所に偏在する残された糸の行き先を手繰ることで、
対象がこの先どんなものと結びつく運命なのか、僅かであるが辿ることも可能なのだ!!」
「咲夜、五月蠅い」
「これは失礼致しました」
うちの瀟洒ってば時々変だ。
人間なのに、時々魔女や妖怪以上の奇行を平気でやらかす。
いや、知り合いの他の人間を考えるに、
基本人間というものは奇行ばかりしているものなのかもしれない。
妖怪に生まれて良かったぁ。
「ふん、これは‥、近いわね。いや、近いというより‥」
問題のゆっくり2匹は案外すんなり見つけることができた。
「はい、飴ちゃん」
「ゆっくりありがと!おねーさん!」「うー!うー!」
場所:紅魔館、正門。
そして、
「あ、あとこのクッキーも食べるかな?」
「ゆー!ゆゆゆゆゆー!!」「うー!うー!うー!」
朗らかな笑顔でそいつらに餌を与えているのはどう見ても顔見知り。
頭に緑の帽子と紅い髪、我が紅魔館の頼もしき門番である中華な妖怪。
「咲夜」
館の角からその様子を眺めていた私は、穏やかでない心境で従者に向かって指示を送った。
「御意に」
時を操る程度の能力。
解説は、省略。
結果は、一瞬。
「連れてきました」
「は、あれ?私いつの間にこんな場所に?」
正門付近では、一瞬のうちで門番が消えてしまったからだろう、
ゆっくり2匹が驚きながらきょろきょろ辺りを困惑顔で見渡している。
が、いいんだよ、今はそんなことどうでも。
「咲夜、取り敢えずお仕置きよ。上から4番目に痛い奴で」
「御意に」
「あ、咲夜さん!?お嬢様!? あのあれどうしたんですかそんな怖い顔でってあれ痛いイタ
イイタイイタイイタイいたたいたいたたたた!!!!!!」
「取り敢えず『痛い』って言葉がゲシュタルト崩壊するくらいまでお願いね」
「御意に」
「ま、待ってください!もう崩壊しました!
“痛い”とか“病い”とかの区別もうつかないからやめてくださいぃぃぃぃ!!」
ゆっくりを観察する際、一番気を使ったのは、
なるべくゆっくりが館の影響を受けないで暮らすことができる環境。
その為に館の者全員にゆっくりとは極力干渉しないようにと強く命じておいたのだが。
「だ、だって、あの顔で『お腹すいたな~』とか言って目の前をポヨンポヨン跳ねまわってるんですよ!?
そんで私のポケットの中には飴ちゃんがたくさんな訳です!普通あげるでしょ!!」
とは門番の談。
正直喧嘩売ってるのかと思った。
あいつらを見て、可愛いと思うのが自分一人だけだと思っているのか?
見たところ随分懐かれやがって。
羨まし、いや、妬まし、いや、とにかくムカつくなぁ。
ムカつくから従者に更なるお仕置きを命じて、私はその場を後にした。
5月22日 久々のくもりだね、良くやった。
ゆっくり達の朝は遅い。
具体的に言うと朝9時に起きて、まだ早いから二度寝したらもう10時を回っていたとか、
そういう休日の朝並みに遅い。
変な例えとかでなくマジ話である。
「ゆ~、ゆす~」「う~、うぴぃ~」
小屋の中で可愛げに寝息を立てる2匹。
揃ってくっつきあって団子のように固まっている。
ふと、そのうち一匹、ゆっくりれいむの方がピクリピクリと少しずつ動き始めた。
「ゆ‥ゆ‥ゆ‥」
薄眼を開け、その瞳を右に左にきょろきょろさせる。
「ゆ‥ゆっくり‥して‥」
そして、大きく口を開け。
「ゆすぴ~」
また閉じた。
不発による二度寝。
うちの従者は「いつもこの時間くらいには起きている」とか言ってたのになぁ。
ゆっくりの起床の時間は割かしいい加減らしい。
~中略~
「ゆっくりしていってね!」「うー!ゆっくりー!」
はい、やっとお目覚めですよ。
もう11時回ってるぞ、この寝ぼすけが。
起きて早々仲の良いもので、
お互いの身体をまたすりすりと接触させて幸せそうにはしゃいでいる。
「ゆ!朝のお散歩行くよ!」「うー!うー!」
もう昼だって。
ゆっくりれいむはぽよんぽよんと跳ねながら、
ゆっくりゃはぴょ~んぽよ~んとスロウテンポに跳ねながら、
小屋から出て辺りの探索を始める。
「昨日はあんまりお菓子食べられなかったからね!」「うー!」
「今日はご飯たくさん見つけられるといいね!」「うー!」
そんな話をしながら、ぽよんぽよんと庭のあちこちを跳ねまわる。
そんなとこ跳ねまわってもお前らの餌になるものは落ちてないよ。普通は。
「う?うー!」
ふと、ゆっくりゃが何かに気づいたようにゆっくりれいむを引きとめた。
「どうしたの?」「うー!」
ゆっくりゃが顔を向けた先に落ちていたのは、銀色に輝く、丸い何か。
「ゆ?」「うー?」
首を32.5度傾けて、興味深げにゆっくり2匹がそれに近付く。
銀色の正体は包み紙。
そして、包まれていたものは。
「ゆゆー!」「うーっ!うーっ!」
一粒のチョコだった。
2匹はとても喜んで、さっそくチョコを二つに割る。意外と器用なもんだ。
そして、同時に口に入れ
「むーしゃ、むーしゃ」「むーしゃん♪むーしゃん♪」
良く噛んで良く噛んで、
「しあわせー!!」「しあわしぇー!!」
歓喜に震える声で、顔一面で感動を表した。
うわぁ、本当に涙を流していやがる。
「す、凄く美味しかったね!」「うー!」
「もっと落ちてるかもしれないよ!さがそ!」「うー!」
そして2匹はまた私の庭を、大はしゃぎで跳ねまわった。
あの様子じゃ、残りのお菓子もすぐ見つかるだろう。
うむ、あの反応見れただけでも朝早く起きて菓子類を庭にばら撒いた甲斐もあったといういものだ。
「結局、干渉しないというルールは反故ですか」
「まぁ、紅魔館の庭は普通じゃないからねぇ、色々と」
またやれやれと首を振る従者に向かって、私はニヤリと悪戯っぽく笑い返した。
確かに、当初の予定とは食い違ったものの、問題はないさ。
私は別に奴らの保護活動がしたいのではない。
奴らのいろんな姿をこの窓の中からこの目で観察できなきゃ、意味はないのだ。
奴らが自力で餌を見つける待ってたら日がくれちゃいそうだしね。
「これじゃ昨日の美鈴のお仕置きはなんだったんだか‥。彼女がかわいそうですよ」
「直接手を出したのは貴女でしょう、咲夜?」
「それはそれはもう‥、ご馳走様でした」
「御馳走でした?」
「美味しかったです」
「えと、あの後何やったの?」
従者はしれっとした顔で一言。
「頂きました」
「何を!?」
うふふ、と今度は従者の方が悪戯っぽく私に笑いかける。
やだ、なにこの従者ちょっとこわい。
「もう、お嬢様たらなんて恥ずかしいこと聞くんですか?
まぁ、どうしても聞きたいというのなら、話してさしあげますが‥」
「いいよ、私幼女だからそういうのよく分からない」
門番の安否を気遣いながら、私はまた窓の外を見やった。
「ゆ!あったよれみりゃ!」「うーっ!うー!」
2匹は順調にばら撒かれた餌を見つけているらしい。
おうおう、食え食え。この私の為に。
「まったく。長く居つきそうですね、ここに」
「ええ、せいぜい仲の良い姿を見せつけられてやるとするわ」
享楽と慈愛と、ほんの少しの羨望を込めて。
どうか願わくば、その姿を末永く。
5月の終わり。
春が梅雨に差し替わる季節。
私の邸の庭には、
楽しそうに飛び回る、
二匹のゆっくりが居た。
その時はまだ。
- 続きはどうなる?それにそてもれいむとれみりゃ可愛いからハッピーエンドだといいな。 -- 名無しさん (2010-04-21 13:15:20)
最終更新:2010年04月21日 13:15