ほんの小さな出来事も、大いなる伝説も、きっかけは些細なもの。
かすかな始まりの光が射した時、物語は始まる。
しかし忘れるなかれ、自分が迷いの中にいることを
―そこにはもう標となる光の無いことを…
―・―
「いったいおねいさんの旅はいつまで続くの?」
「主役自身のパワーアップなし2クール終盤は、そろそろスポンサー的に厳しいんだぜ?」
今度の世界への一歩を踏み出そうって時に二人が突然そんな事を聞いてきた。
「さて、それは私が聞きたいね。それから私は毎回進化し続けてるのさ」
「ゆっ!確かにますます胸板がたくましくなったね!」
「ふぅ~…この体型じゃテコ入れもできず打ち切りだぜ…打ちっ切りなんだぜ!」
スパパアァン!
「一体ヒーロー物で何を画策してたのさ…つーかうっさいわ!頭だけのお前達に私の苦しみがわかるか!」
「「ゆゆ?」」
「いまさらそんな澄んだ瞳で『なにが?』な顔すんな!かわいさゼロだよ!」
…まぁ、でも『旅がいつまで続くか』か。
いつの間にか次へ次へと世界を渡るのが当たり前になってて忘れかけてた。
これだと元の生活に戻ってもしばらく違和感あるかも。
あ~、思い出したら らんぷ亭の牛とじ丼が恋しい…
「ほんといつ戻れるのかねぇ…」
ん?そういえば、あのさくやは何が旅の終わりか言ってなかったな…
旅をするのも「いくつかの世界」としか言ってなかったし、あれから連絡の一つもよこさないし。
それに睡眠学習で覚えたディケイネもなんか《悪魔》とか呼ばれるし…この旅自体、結局何が目的なの?
い、今更だけど…とんでもない安請け合いした…?
いや、達成の暁には魅力的な特典(ふるさと小包)がある!これも覚悟の上さ!
「・・・」
その時、ふと脳裏に『終わらない戦い』の記憶が浮かび上がった
―あれは私がまだ幼い頃、
ゲームを手にして初めての夏休み。
毎日 宿題もそこそこに、友達が挫けたソフトまで借りてひたすらゲーム攻略に明け暮れる日々…
うず高く積み上がった撃墜パッケージを眺め、私は完全に天狗になっていた。
そんな時に手にした一本のゲーム。
魔界村を制覇し、たけしの挑戦状さえ突破した私にかかればそれもすぐ片付くはずだった・・・
しかし信じられない事が起こった。
裏面は免疫ができていたので始まっても驚かなかった…なのにそれをクリアしてもエンディングが始まらない。
何度やっても最初に戻る、それはまさに地獄だった。
それから数年後だ「『いっき』にはエンディングが無い」そう、知ったのは・・・
終わりが無いのを知らず、延々とやり続けたそれは、
私に『この世に終わらない物もある』・・・そう思い知らせるには十分なトラウマとなった。
「ゆっ!どうしたのおねえさん?」
不安からドアノブに掛けた手にじわりと汗が滲んでいる。
今になって気になるか、結構 修羅場くぐってきたってのに…だから考える暇がなかったのか。
最初に説明書見ないのも私の悪い癖だしね。
「いつまでもゆっくりしてないでガンガンいくんだぜ!」
いまさら気にしても仕方ない…よね、そういうキャラじゃないし・・・
「ん…はいはい そうね」バンッ!
私は纏わりつく不安を振り払うに、いつもより強めにドアを開けた―、
⇒【あかりは めのまえが まっくらになった!】
―ゆっくらいだーディケイネ・第21話―
床次 紅里が目を開けるとぼやけた視界に白い天井が映っていた。
「っ痛ぅ~…」
頭痛い…眼鏡もどっかいった・・・、
足引っ掛けて思いっきりコケるとか…らしくない事考えた結果がこれだよ。
「・・・・は、はは・・なにしてんの私」
でも、おかげでさっきまでのが少しはどうでもよくなった。
うん…立つか。
「え~っと、メガネ、メガネ…っと」
『・ ・ ・ ・ ・ ・、』
なんかさっきからずいぶんと静かなような・・・
「れいむ?まりさ?」
『・ ・ ・ ・ ・ ・、』
THE・ノーリアクション。
なんだよベタなパス出してやったのに。
だからガッカリ倍増?・・・それはそれでムカつくわー。
「…っと、あったあった」キュッキュ…カチャ
・ ・ ・ ・ ・ ・、
「おっかしいな…」
キュッキュ…カチャ
「まずい、また目ぇ悪くなったかな?」
キュッキュ…カチャ
「そろそろ換え時か…」
―※―
結局、眼鏡も視力も何もおかしくはなかった。
最初に天井だと思ってたのは薄暗い雲に覆われた空、
おまけに倒れていた場所はさっきまでの家の玄関ですらなかった、
ついでにすっ転んだ様にナイスムカつきリアクションを示す同居人達も姿がない、つーか・・・
「私ン家どこよ?」
―更地、ただ跡形も無い更地がただ眼前に広がっていた。
着いて早々連れ去られた事とかはあったけど、家が無くなるのはさすがに想定外だ。
「えー、何…ドッキリ?」
玄関開けたら外が別の世界なのは慣れてるけど、家消えるって…何で?いやいやホントに。
主人公が本格的に宿無しもマズイでしょ。私、女の子だよ?
「美少女がこんな場所に放り出されてるなんて、危険極まりないでしょ…」
。 。 。 。 。
「はい!?」
「…ですか」
突然の声に振り向くと、そこには三つのジト目で私を見てるゆっくり―さとり。
イ、イヤ…そんな目で見ないで・・・。
「・・・あ~」
「じっとりさせていただきます」
さとりはさらに紅里の目を凝視する。
『『・・・』』
「『こう心を読まれると心情もへったくれもないわね。』…すみません癖でして。」
「『まあ別にいいけどね、話が早いし。』…ご理解ありがとうございます。」
「『そだ、ここらでれいむとまりさ見なかった?だいぶムカつくの」…ここではあまり見ないですね。」
「『じゃあ、ここってどんなトコなの?』…」
・・・・・・
「…あの、自分からやっといてアレですが。あんまり横着しないで…」
「あ、ごめん、つい楽だったんで。で、どうなの?」
「…そうですね…」
さとりは頭を捻る素振りを見せ、そのままコロリと一回転し、
「なにもないですね」
そう きょとんとした顔で言った。
それは「何かある」と同意語のようなもんだけど・・・
「よろしければご案内しますよ?」
「・・・・・悪いけどお願いするわ」
「かしこまり、ではいきましょう」
―▼―
さとりに案内されて『更地』から出るとすぐ道が続いていて、しばらくして街へ辿りついた。
「・・・なにもない、というには随分バラエティ豊かすぎやしないかね?」
「そう見えますか?」
そこはなんとも奇妙な街だった。
高層ビルが立ち並び、
なんとも昭和な商店街が升目のように続き、
唐突に明らかに時代が繋がらない建造物があったり、
そういうのは大抵離れていそうなものだが、全く分断されず混ざりきっている。
「不思議のダンジョンだって、もうちょい統一感があるでしょうに…」無節操にもほどがある。
「そうですか?あ、ちょっと段差がはげしいとこありますよ」
「いや、違う段差が激しいんだけど」
さらにその具合が住人にもフォーマットされてて、パッと見風刺画かコントみたいな光景に途中何回も吹く。
―サラリーマンが人力車はまだセーフだけど、邪馬台国な方は…
「おねえさん、笑いの沸点が低いんですね」
「心外な。わりとうるさいよ?私」
「ですがさっきからおねえさんのせいで生温かな視線が」
そこの人、こっちみんな。
まぁ、そりゃ この世界の住人はそんな不思議環境を一切気にせず生活してるんだから、
いちいちリアクションする私は失笑モンだろうさ。
―あ、てことは世界のこの状態は異変じゃないのか。
でも、こんなごちゃ混ぜOKの懐の広さなら 私の家も最初からこの街に飛ばしてほしかったなぁ。
それが少し離れた場所で影も形も無いんだから…少なくとも世界には拒絶されたって事になるね。
まぁ 別の世界から来た私もそりゃガッツリ『異変』だけどさ。
信じられないくらいドムドムバーガー普及してて良いトコなのになぁ・・・
そして案内最後の場所・各エリアの間を繋いでいる森の前へと着いた。
「それではわたしの案内はここまでです…」
「色々ありがと、必要な情報はいまいちだったけど楽しかったよ」
「いえ…変な言い方ですけどトラブルがあるといいですね」
「迷惑かけない程度だと祈ってて」
―・―
森は迷わない程度の大きさ とは言っていたけど、入るとすぐに街の様子は見えなくなった。
でも結局さとりの案内は観光状態で目ぼしい情報は無かったなぁ。
こんな時、伝子でもいたら聞かなくても喋ってくれるんだけど…
今はれいむもまりさもいないし、さとりもいないくて あのゆっくり(ピー)は気配もよこさない。
「せめて今度こそ何かしらあるかと思ったけど、やっぱただの森っぽいわね…」
≪ガサガサ…!≫
「っと思ってたら、ようやくおいでなすった!」
ガサガサ ぴょん「こっぼねー♪」
あら旅先でそこそこお馴染み愉快なゆゆこさん。紛らわしいわ!
あー、なんか急に疲れた…ちょっと座ろ。
「いただきま~す♪」
ははは お食事ですか。平和ですなー
「ん?」
急にざわめく木々、揺れだす髪、
段々と強くなる空気の流れにとうとうネックレスとポシェットが浮き始めてきた。
だけどおかしい、なんで木の揺れと完全に逆方向に・・・嫌な予感がする。
やがて次々に葉っぱやら木の実が地面に落ちる事無く風に乗っていく。
っていうかこれ明らかにただの風じゃないよね、木にしがみついてないと本気でヤバくなってきたし。
「うわああああああああああああああ!!」
「何事?!」
極め付きにみすちー、もう嫌な予感は確定状態。
みすちーの行く末と共に私は風の中心を見た、 ―それは吸引力の変わらないただ一つのゆゆこ。
前にゆーびぃのは見たけど、自分に向くとそのとんでもなさがよく分かる。気分は嵐のど真ん中。
最初の世界から凄まじい食への執念とは思っていたが…
「やり方がダイナミックすぎるだろうがあぁぁぁぁぁぁ!」
状況を打破しようにもメダルを取り出せば吸われて1クレジットは必至!その前に手ぇ放したらアウト!
あ、結局変身したらもっとダメか。なんにしても今はとにかくしがみつくしかできん…
「無力…ッ!あまりにも無力ッ!」
ズオォォォォォオオオ…「こーぼーねぇー」ゴオォォォォォォォォォォォォォオオオ!!!
「うわっ、パワー上がった!くそ、なんであの発音でこんな吸えんの!?」
ま、まずい、手の感覚が…だ、だめっ!物理的に考えて吸われたってどうってことないはずだけど、
頭の大事な部分が「放すな!」って叫んでいる!
ひゅっ「こぼねっ!」ごくっ オォォォォ・・・・・・・・・・・ン
・、
・・、
・・・と、止まった?
「あ、危なかったぁー・・・いままでで一番お手軽に危なかった。
まったく…あんまり食い意地張ってると、ダイエットしてもリバウンドってモンが・・・」
「・・・・お?」
危機が去ってふとゆゆこを見ると…何を言ってるかわからないだろうが、顔が鰐になっていた。
「わたしは腹が減ってるんだ・・・」
いや、だからってちょっと喰う気満々すぎない?
いや、それ以前になんか明らかに様子がおかしい。
「大丈夫?あんながっつくから変なモンでも食べたんじゃ…」
「全テ喰ラウ、う、う、、おぉ、ぉ、ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
突然ゆゆこが唸ると、みるみる内に体が変異して『体』が生える。
そして、鰐の顔がガバッっと大口を開け声を発した
『がおう・フォーム!』
口から飛び散ったバラバラのパズルのような光がゆゆこの体に張り付き、牙だらけのアーマーに。
同時に鰐の顔が中央から真っ二つに割れ、瞬く間に変形していき、
≪ガキャ、ガキャガアンッ!≫
組み変わった顔のパーツが噛み合わさり『仮面』になった。
「へ、『変身』した…」
ゆゆこの姿は、まるで緋想天の世界のゆっくらいだーシステム・ファイクを彷彿とさせた。
しかし流線型のファイクと違い、荒々しくゴツゴツとしたフォルムがひどく攻撃的、
以前使用したFFRりぐる形式でも、元からでもなく『急に体が生えた』のもあまりまともには思えない。
というより見た目がまたずいぶん「いかにも」って感じすぎるし。
「見た目通りなら、だいたいこの次は…」
「・・・」
ゆゆこは黙ったまま腰に掛かっていたパーツを棒状に組み上げる
≪ギュワン≫するとその倍はある鋸状の刃が飛び出した。
「…オマエ、マルカジリ」
ゆらりと仮面越しに品定めされた。
「ほらきた、ってか得物は反則でしょ!」
さすがにいつまでもゆっくりしてられないので、こっちも変身させてもらう。
「変身!」 『ユックライドゥ!』カチッ『ディケイネ!』
「さて、お行儀の悪い子にはちょっとお仕置き…」
「はあぁっ!」ブワッ!
「うお!?」
ガッッゥ!!
変身完了と同時にいきなり振り下ろされたゆゆこの一撃をすんでのとこで回避する。
ギギギギギギギギ・・・・!!「フンッ!」バガッッ!!
代わりに音を立て倒れた木を「邪魔だ」と言わんばかりに粉々に砕くゆゆこ。
一振りでなんつー威力してくれるの。
近づかれたらこっちが不利だ、森の中で振り回す武器の方が有利ってのもみょんな話だけど、
「もう欠食児童が…カルシウムちゃんと摂りなさいよね!」
弾幕を張りながら後退するディケイネ。
対してゆゆこはそれを避けようともせず、一歩一歩悠然と近づいてくる。
現に弾幕は命中どころか直撃しているはずなのだが、まるでビクともせず全く動じる様子がない。
簡単に変身が解けたファイクとはやはり異質のものであるようだ。
「この世界のゆっくらいだーはずいぶん頑丈なのね」
「・・・」
「口も頑丈ね」
「・・・」
ふと ゆゆこが歩みを止め、おもむろに剣を握りこむ。
「うっとうしぃー」
それが振り下ろされるとオーラのような衝撃波が弾幕をかき消し、ディケイネを吹っ飛ばした。
「ッ・・・牽制する意味無しか…なら、とっとと決めるまで!」
『ファイナルスペルライドゥ!ディディディケイネ!』
ラストスペル・高天原がゆゆこに放たれた。
「決まった」ディケイネはそう確信する。
だが、直撃の寸前までいきながら高天原はゆゆこを包む事はなかった。
「?・・・おわりぃ~?」
また ゆゆこが打ち消したわけではない、むしろ ゆゆこの方が不思議そうにしていた。
そしてディケイネはようやく把握した。
高天原はそれ自体が先端から徐々に消滅していっているのだと。
「なによこれ…?!」
そして高天原が完全に消える去るとディケイネの姿も影へと戻り、変身までが解除されてしまった。
「え?ちょっ…」
「イタダキマース」
状況が飲み込めないままの紅里の眼前に、ゆゆこの刃が振り上げられた―、
― !!
最終更新:2009年11月11日 17:13