【リレー小説企画】ゆっくらいだーディケイネ 第21話-2


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小さな古びた劇場―

観客はただ一人、隣の席にバウムクーヘンを山と積みスクリーンを眺めていた。

薄暗い中、カタカタと映写機が音をたて、一筋の光が埃とスクリーンを照らす。
時にそれは過去、時にそれは未来、時にそれは現在。
かけ離れていてもどこか似通っている異なる世界の出来事。

やがて物語は終盤へと差し掛かかっていく、
しかし途中で映写機の光は途切れはじめ、程無くただ白いスクリーンが映された。
ここではこれが物語に与えられる結末。全て結末の無いままに閉ざされる、欠けた終わり。
その中では今回はなかなか頑張ったほうだった。

しかし、一度フィルムの途切れたはずの光が再びスクリーンに一人の少女の姿を映し出した。

もういくほどかわからぬバウムクーヘンを頬張りほくそえむと、
「彼女」は足早に席を立った。


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「はあ…はぁ…な、なんとかなった・・・」

―ゆゆこが剣を振り上げた刹那、反射的に放ったハリセン。
苦し紛れかと思ったその一撃は見事に後頭部へダイレクトヒット、
信じられないけどそれでゆゆこの変身が解け、生えた体も元通りに無くなり気絶までしてくれた。

「コレも立派に私の能力ね」
かと言って、私のハリセンが伝説の聖なるハリセンってわけでは無い。なのに弾幕の効かなかったゆゆこを元に戻せた…

「やっぱり…『アレ』?」

ハリセンの衝撃でゆゆこが吐き出した一枚のカード。
そういえば「食事」が止まった時、一瞬ゆゆこが妙な声を上げた気がする。
「ホントに変なモン喰ってたわけね…」
まぁ、いまよだれ垂らしてるのがさっきまで自分を追い詰めてた強敵とはさすがに信じらない。
とすると、このカードが異変…

≪ガサガサ…≫
ぴょん「ゆゆこ様ー!どちらにおいでですかー!」ぱくっ

「あ」

「みょ…みょ、みょおおおおおおおおおん!」『はいじゃっく・フォーム!』

突然うなりを上げ(以下略)
形はさっきのゆゆこと少し似てるが、ボロボロ具合とくっついてる半霊のせいか黒い亡霊のような出で立ち。

「ゆゆこ様(のお腹の虫)を泣かせるなぁっ!」
「知るかそんなモン!」
「けふぅ(ぐ~きゅる~…)」
「あなたもあんだけ喰ったらもうちょいがんばろうよ!てか今ゲップしたでしょ!」

くそ、さっきから駄目元とはいえ何度やってもネックレスがピクリとも反応しない。もう踏んだり蹴ったりだ…
でも、やっぱりあのカードがゆっくりを変異させるってわけね…

「なら…もういっちょこれで!」再びハリセンを取り出す、
「させるかみょん!」
シュバッ…!

ビシィ!
「っ、しまっ…!」しかし みょん・ゆうきの手にした鞭がすぐさまそれを弾いた。

一難去ってまた一難。さすがにベースがみょんなせいか今度は隙が無い。
せめてさっきみたく後ろさえ取れれば素手でも勝ち目はあるはずなんだけど…
近づこうにも鞭が飛び、
離れようにも鞭が飛ぶ。
そうこうするうちすっかり追い込まれ、袋の鼠にされてしまった。

「さあ、ゆゆこ様のために料理してやるみょん!」

うわーコテコテの定番台詞なのに全然笑えないや。

さて どうしよう…さっきの剣に比べて威力はそれほどじゃないはずだし、
イチバチで突っ込むか、それとも回れ右して逃げるか…どっちにしても足はこっちのが上
じゃあその二択なら・・・

「まわれ~、右!」
「みょん?」
「言われなくてもスタコラサッサだ!」いっきに逃走を図る。

「な!往生際がわるい!」 シュバァッ!

逃げる紅里の背に鞭が伸びる、

「と、見せかけて…ッ」

それを寸前ギリギリで横へ跳びかわし、着地と同時に反転、

「ストレート、ど真ん中!」

そのまま一気にみょんへと距離を詰める。
『逃げて鞭を引き付け、避けて一気に突っ込む』
単純だけど、それで十分!やっぱ異変をほったらかしにできないっしょ!

「そんなのあまいみょん!」クンッ!

みょんが手首をひねり鞭の軌道が再び紅里を捉える。
だが紅里もすでにみょんの目前まで迫っていた。―互いのチャンスが交わるその瞬間、


「上からくるぞ!気をつけろ!」
突然降ってきた、れいむ。

ドむにぃ!「みょん゛…ッ!」
それをモロに喰らった、みょん。

≪ズザーッッ!!≫
勢いのまま顔面スライディングの、私。

地面に転がった私達(一名除く)、SISIRUIRUI。


「・・・・・」
「取り出し口からカードがでるぞ!」
「…けふぅ」ぽ ひゅん

うん、なんかさ、なんとなくさ…いや助かったけどさ、そのー…なにこのなんか。

「しーゆーあげん」しゅわんしゅわん

非常にやりきった顔で消えていくれいむ、どうやらディエイキの召喚ゆっくりだったようだ。
「・・・助かったよ伝子」でもこのやるせなさと敗北感は必ず返してやる、そう心に誓う紅里だった。

「あ、そうだカード…」
いまあんまり立ちたい気分じゃないけど…三度はしんどいからちゃんと回収しないとねっ、と。
ダルそうにフラフラとした足取りでカードを回収する紅里。

「これがこの世界の異へ・・・ん?」

この時 紅里はそれを漠然と何かスペルカードのような物とイメージしていた
が、その予想は大きく外れた。
手にしたカードにはデカデカとこう書かれていた、

『映画館でまってるぜ!』

メンコのごとくカードを叩きつける。

「なんの宣伝だよ!」

信じられないけど、さっきの間にすりかえられたらしい。

「もういや…力いれたくない・・・ん?」

と、うな垂れた目の先に映ったのはカードの裏側
そこには手描きで地図が描かれていた。

「・・・ここへ来い、ってこと?」


―■―


「何なのよこの『とりあえず右』とか「つぎ左」とか…そもそもこの辺よね?」

地図に書かれていたのは街の外れ。
そこは更地じゃないかわりにセットのような小さな町になっていて、見た目自体はあの街の一部のように見える。
けど、誰もいない上 何もかも灰色で出来ているから粘土細工みたいで薄気味悪い事この上ない。

そして肝心な目的地

「・・・ほんとに映画館だ」

かなりボロボロで古そうなのだが、粘土細工の町では妙に落ち着いた風に見えた。
それと何だろう…そうだ、多分あの街でも一度も感じられなかった時間の流れがある。
変な話、ここはこの世界で初めて「自然」だった。


さすがにチケット売り場にも 中のロビーにも従業員の姿は見当たらない。
出迎えてくれたのは、入り口で≪ゆっくりしていってね!!≫と喋るれいむ看板。
その年季の入った掠れ声で非常にビビらせてくれた。

≪ゆ…KILL…死てザザ…ぇね!!≫

ていうかこれ、壊れてるんじゃなくて元から違うこと言ってるんじゃないの?


―●―


客席へ続くドアを開けると、煤けた空気と…何故かやたら甘ったるい匂いがした。

「おぉ、よこそ よこそ。おまちしてました」

そして薄暗い中でもわかる空席の中、その最前列に『それ』はいた。
席の両隣にバウムクーヘンを山と積み、堂々と脚を組んだ清々しいまでに偉そうなその相手は…
やはり体のあるゆっくり・・・きめぇ丸だった。
ということは、ここは文花帖か風神録の世界?

「招待状ありがとう。…おかげでだいぶ台無しだったよ」
「それはこちらも同じ…ほんらいあそこでお目にかかるつもりでした。・・・やはり まりさは邪魔者ばかり」
「あー、ごめん多分あれ知ってる奴の犯行。…だけど別に普通に出ればよかったんじゃない?」
「おぉ、美学美学。ヒーローはタイミングがだいじですから」

まぁ、そりゃ あの場で出てきてもまともに取り合う自信は私にもない。
だがスカを掴ませる必要はなかろう・・・

「ヒーロー?・・・あんた異変の主じゃないの?」
「いいえ、清く正しいきめぇ丸です。」
「答えになってない」
「・・・では外で説明しましょう。そろそろ時間ですので」
「時間?」
「見てのおたのしみ」

ポケットから取り出した懐中時計を振り子にしながらきめぇ丸は腰を上げた。


余談だが、この時 紅里はきめぇ丸の立った姿に不覚にも敗北感を感じてしまっていた。

「おぉ…さわってもいいのよ?」
「ば、馬鹿にスンナ!」


―■―


パシャ… パシャ…

「外に出たのは写真撮るため?一回300円よ」
「これはしたり。…上をごらんください」
「…あいにくと曇ってるわね。さっきのもあんまりキレイに写らなそう。でも300円よ」
ふっ「ご心配なく…ご心配なく…」
「どういう意味だコラ。」

まったく、ムカつくのにやたら落ち着く…なんか最近ツッコミが楽しくなってきてない?
そんな事を考えると視線が遠くなる・・・ 「?」

「そういえば街の方はあんなクッキリ晴れてるのね…」
「時間です。」

きめぇ丸が告げた瞬間、
そのクッキリ晴れた空が突然、まるで巨大な扉のように「開いた」

「なんなの・・・?あれがこの世界の…超獣でも出るの?」
「ここは世界と世界の間にある『世界のすきま』。あれはその自然なすがたです」
「世界のすきま?…すきまの世界じゃなく?」
「ここは 希望も絶望も止まった物語がながれつく。そういう「空間」です」
「でもそれ、私達来れないんじゃない?」
「つぎの世界へいくとき、わたしたちの物語は一度止まる。ですから少しふみ外すだけでオーケー」
「なんか電車とホームの間みたいな空間なのね・・・」

でもそんな綱渡り状態とは思わなかった。
しかし、自分が「作品」として扱われてた世界はあったけど、とうとう世界じゃないとか、また随分乱暴ね・・・
それより「わたしたち」?このきめぇ丸も別の世界からの旅人なの?だったら異変の主は…

呆然と眺めていると確かに何かがボトボト落ちてきた。
この町と同じような灰色のモノが降る。それは、まるでゴミ処理場の光景を見てる気分だ。

「・・・シュレッダーにも見える」
「どちらかといえば「お蔵入り」ですが」
「アレ…どうなるの?」
「どうも。今はただああしてたまっていくだけです」
「じゃあ あの街は?どう見ても普通…じゃないけど人もゆっくりも普通に暮らしてたわよ?」
「あれが異変…ここはいま、世界になろうとしています」

世界じゃない場所が世界になろうとしてるのが、異変?

「それって新しい世界ができるってだけなんじゃ…」
「それは…こういうことです」

きめぇ丸がスッと一枚のカードとベルトを取り出した。
そのカードはまるでトレーディングカードのようだった。
絵柄は…「ディケイネのパチモン?」
一部見覚えはあるのに、所々違う。しかしなんだか顔の線とか目のあたりとか、ようは顔に親近感を覚える。

ベルトを装着し、カメラのようなバックルを可動させ、現れた窪みにカードをセットした。

「へんしん!」『かめんらいど!』カシャ『でぃけいど!』

9つの影がきめぇ丸に並び一つになり、9枚の光のカードが顔面に突き刺さる。
サクサクサクサクサクサクサクサクサク「おぉ、いたいいたい」

体は左右非対称、
色はピンクと黒、
なんとなく西瓜を思い出す・・・じゃなくて!

「アンタ、やっぱり!」

攻撃を予感し身構える紅里にきめぇ丸は淡々と続ける…

「ディケイネ、わたしとあなたは似たようなもの」
「うん、そのカッコ悪さはなかなかないと思う」
「仮面ゆっくりでぃけいど…『外の旅人』とおなじ力だそうです。ちなみに ひらがな なのでそこんとこよろしく」

きめぇ丸…でぃけいどは腰に下げたファイルから再びカードを一枚取り出し、バックルにセットした。

『あたっくらいど!』カシャ『ぶらすと!』
するとファイルが変形し銃になり、その銃口が紅里へと向けられる。
そしてそのトリガーが引かれる寸前、

「・・・・ふせなさい!」 「!!」

ダダダダダダダダダ!!

「おー・・・めいが~…」がしゃん!

銃弾を浴びたのは私の後ろにいた白いファイクもどきだった。
背中に大きな武器パックを背負っていて…さすがにこれにはハリセンが叩き込めなかった。

『ぽん!ぽんっ!』と、ファイクもどきの姿が消え、
そこにはカードと…メダル?!

「…しかも、にとりの?!」
「とうとうソチラにもはじまりましたか」

急いでポシェットの中を確認すると、数枚のメダルがなくなっていた。
全然気がつかなかった、いつの間に・・・

「盗まれたわけではありませんよ」

変身を解除したきめぇ丸が拾ったカードを目の前にかざす。
絵柄を見るとやっぱりそれはファイクそっくりだった。

「ここが世界になるのにはつながった記憶がたりない。
 だからこの、カードやメダルの記憶と力をとりこむためにかいほうしたんです」
「ここが世界になれば終わるんでしょ?」
「世界のすきまは無数にあります、その間世界はくだかれつづけます」

そう甘くない、か。
それに、あのカードの力の変化の仕方…どう考えても悪い方よね。

「やっぱりその異変を進めるのって・・・・」
「ほかでもない わたしたち、ということになります」
自嘲気味に笑いきめぇ丸は答えた。

元々ここはこの粘土細工みたいなのしかなかった。つまり『この世界』が異変そのもの。

「なら私がここでするべき事は…」


「世界を破壊すること」


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最終更新:2010年04月02日 18:27