『ゆっくらいだーディケイネ』
これまでのゆっくらいだーディケイネは!
「『最強』って所は合ってるかもね…。覚えときなさい、極低温は」
『完全静止(パーフェクトフリーズ)の世界よ!』
「大丈夫…って言いたい所だけど流石にちょっとヤバいわね。次、でかいの行くわよ。準備はいい?」
『うー!まかせて!』
「やれやれ…ホントはさっきみたいなカッコいい事言うのは私の役目なんだけどね。
まあいいわ…いけるわね」
「はい!」
「よりひめ、やるよ!」
「ああ、この身体、貴様に預ける!」
「役立たずですみません」
「あんた――――人間としてゆっくりしすぎ。最高な意味で」
「私らの分、ついでにあの伝子の分の食事とか、頼んでもいいかしら?もちろん、食った分は働かせてもらうわよ」
「ハハハ、そうか。済まない、私の早とちりだったようだ。確かに、そちらの方が筋が通っている。
沈むことが決定付けられている船を、わざわざ沈ませる必要などないな」
「行くわよ!ディケイネ!ゆーぎちゃん!」
「う、うんわかったよ!パルスィ!」
「今度こそ決着をつけてやる!」
「あんた……何者だい」
「通りすがりのゆっくらいだーよ。……覚えておけ」
「紅里さん! もう一度変身を!!!」
「!!!?解った!」
「一緒に戦うわ、だから早くこの物語を終わらせましょう」
「………………分かったよ!!!りぐるもゆっくりがんばるよ!!」
「…私も…少しずつでも強くなれるかな?…伝子お姉さんみたいに。」
「勿論よ!」
「…アイツ、かなり凹んだと思ったけど、案外強い子じゃ無いかい。」
「これで全て解決、って所かしらね。」
「おねえさん…ディケイネ、わたしも連れていって!」
「え?いいの?こんなんよ?」「こんなんですよ?」
「力になる、わたしも手伝う!」
「く、くそぅ! 蜘蛛蹴『クローラーアサルト』!!」
「仲間の為なら‥、怖くなんか‥ない‥!!」
第23話 |最悪の世界
朝起きて見た光景は、いつものそれとは異なっていた。
窓の外が違っているのはまあ、違う世界を行ったり来たりしてるわけだから当たり前だが…今回は部屋の中から違っていた。
「おーい」
まず感じたのは妙な違和感。すぐに気づいたのはあの二人、れいむとまりさがいない。
視界にいないのはもちろん、家具の隙間や戸棚の中とかも調べたがどこにもいない。一応郵便受けや光学ディスクドライブなんかも開けてみたが、やっぱりいない。
その過程で、さっきの違和感の正体に遅ればせながら気が付いた。あの二人がくるまって幸せそうな(だらしない、ユルみきったとも言う)顔で
寝ていた毛布がない。それだけではない、愛用の食器やらまりさの集めてたガラクタやらその他もろもろ、およそあの二人の持ち物、
存在を示すものが一切なくなっていた。
あの二人がいなくなっていた事はこれまでも何回かある。だが、ここまで徹底的にいなくなった…「なくなった」とも言っていいほどその存在が
消えうせているのは初めてだ。
経験から仮説を立てる。
その1.何者かによって連れ去られた
「途中からいなくなった」パターン…月の時とか船の時とかはこれが原因だったが、おそらく違うだろう。本人達のみならず持ち物まで
綺麗さっぱり持って行く理由が考えにくい。(それを言ったらそもそも本人達を連れ去る理由もイマイチ考えにくいが)
その2.自発的に出て行った
もっと違う。理由がない上に、あいつらが自分達であの割と大量の荷物を、私を起こさないように運べるとは思えない。
(それ以前に私より早く起きるとは思えない)
その3.また夢とか
「痛っ」
違うみたいだ。
あとは、いつぞやみたいに脚本の世界とか世界の隙間という可能性も無くは無いが…確かめようが無いので保留。
考えてても結論が出るとは思えないし、仮に出たところでどうにかなるとも思えない。お腹もペコちゃんだしとりあえず朝ごはんでも食べて、
いつも通り色々調べに行くとしよう。
窓の外を見る。どうやら林の中らしく木々が見えたが少し離れたところにガードレールと道路、遠くには街も見える。
元いた世界に近い世界のようだ。
「あれ?」
その時、ようやく気が付いた。
無くなっていたのはあの二人とそれに関連するものだけではなかった。
ネックレスが、無い。
「流石にこれは初めてね…」
道路をぺたぺた歩きながら呟く。「変身しようとして変身できない」事はあったが、そもそも「変身しようとする事さえできない」のは初めての事だ。
ひょっとしたら結構ヤバいんじゃあなかろうかとか思いながら歩いていると、向こうから車が
「え?」
ぐんぐんと
「ちょっ…」
猛スピードで走り抜けて行った。
「危なっ!」
車との距離は十分離れていたが、それでも恐怖を覚えるほどのスピードだった。法定速度も何もあったもんじゃない。
朝っぱらからえらくファンキーな運転する馬鹿がいたものだと思ったが、すぐにその考えは間違いだったと思い知る事になる。
「うおっ!」
「また!?」
「どうなってんのよ!」
その後3台ほど車が来たが、そのどれもが最初の車と同じように猛スピードで駆け抜けていった。
仲間にしては距離が開きすぎている。暴走行為にしては警察が来る気配が無い。
まさかこれが普通の速度なのだろうか。
「なんか、とんでもない世界ね…」
更にその後2台ほど、同じような車が走り去った後にそう呟いた。呟いた後に気が付いた。
なんだか今日は独り言が多いな、と。
遠くから見えた光景と近くで見る光景は往々にして違うものだ。街に着いた紅里はそれをひしひしと感じていた。
遠目には普通の街に見えたここは、彼女の常識に当てはめると明らかに異常だった。
走っている車は道中見たのと同じで猛スピードで走っている。誰も何も言わないのを見るとやっぱりこれが普通らしい。よく事故が起きないものだ。
それに負けず劣らず異常なのがこの街の景色。見渡す限り同じような色と形の建物が延々と並んでいる。知らない街や町へ行った時は
見たことの無い景色を多少なりとも楽しめるものだが、ここは一目見ただけで飽きてしまった。どこへ行っても同じなのだ。
こんなのでよく迷わないものだと思ったが、よく見ると全ての建物に番号が振られていた。これならば地図さえ持っていれば初めて来た人も
現在地と目的地へのルートが一発でわかりそうだが…なんとも味気ない。
人といえば、そう、人もそうだ。すれ違う人は皆、何かに追われているような必死の形相で、早歩きで歩いている。思い返せばさっきすれ違った
何台かの車、あれに乗っていた人もそんな感じの表情をしていたように思える。速さゆえ見えたのは一瞬だったが。
「はー…」
ため息をついてコンビニのようなところへ入る。人に話を聞こうにもあんな顔でつかつか歩き回られたら声をかけられるものではない。
公園みたいな落ち着ける場所もないし…と、逃げるようにして入った店内もまた、異常だった。
その店は素晴らしいほど品揃えが良く、呆れるくらい品揃えが悪かった。
普通のコンビニよりやや広いくらいの店内に様々な商品が置かれている。食料、飲料、雑誌、医薬品、衣料、エトセトラエトセトラ…
片隅にぶ厚い本があったのでなんだろうとめくってみると、カタログだった。店内に置けない大型の商品、家電製品や驚いた事に
車や耕作機械なんてものまで載っている。この店だけでおよそ人が一生に使うものの殆ど全てが揃えてしまえるのではなかろうか。
だが、しかし。
カテゴリーの多さとは対照的に、商品の種類が極端に少ない。食料はバランス栄養食の固形か流動食かのみ。飲料も雑誌も一種類だけ。
衣料も男性用・女性用・大人用・子供用…性別と体格の最低限の分類がされているだけでデザインの違うものとかは一切無い。
そういえば外をギュンギュン走っている車、あれらは全て同じ色と形をしていたような気がする。歩く早さと形相に目を取られがちだったが
道行く人の格好も…性別や体格、顔の形といった個体差を除いた自分で自由にできる部分…髪型とか服装はみんな同じだった。
薄気味悪さを感じつつ店を出る。レジが無人化されているその店からは、入ってきたときと同様掛かってくる声は無かった。
「あー…疲れた…」
街に入ってから一時間程度の後、紅里の足は早くも岐路へとついていた。たった一時間、それが限界だった。
これ以上あの街をうろうろするのは精神的に非常に厳しいものがある。
結局何の手がかりも、情報も掴めないままだった。分かった事といえばこの世界が異常なところであるということ。
そりゃまあ、元の世界と比べたら今までのどの世界も結構異常だったけど、ここはある一点において際立っている。
なんというかえらく気味が悪くて…窮屈だ。
「まさかいつぞやみたく、この世界そのものが『異変』ってんじゃあないでしょうね…。あ、そういえば」
ふと気づく。街の中で一人もゆっくりに出くわしていない。息苦しさにばっかり気をやっていたせいで見逃していたのかもしれないが、
少なくとも自分の記憶にはゆっくりがいた光景は残っていない。
「ゆっくりのいない世界?うーん…リレー小説の時とか旧作の世界が確かそんなだったような…」
そんな事をぶつぶつ言いながらもと来た道を戻っていく。街は『出た』ところよりも随分と低い位置にあったので帰りは上り坂だ。地味にしんどい。
ネックレスもどっか行っちゃったしどうしようとか考えながらぺたぺた歩き、右折するカーブを曲がったところで足が止まった。
「…っとと」
人がいた。団体様だ。
やはり全員同じような格好…だがそれは街の人のとは明らかに違う。厚手のジャケットにズボン、頭にはヘルメット。暗い色で統一されたそれは
まるで軍隊…いや、軍隊そのものに見える。
「すいませんね。どうも」
ここで何か、演習とか行進とかのイベントでもあったのだろうかと思いながら引き返すと、下り坂の方からも同じような集団がずんずん登ってきた。
上にいる連中は何も言わない。「通っていい」とも「どけ」とも。
そうしている間に下からも迫ってくる集団。明らかに、紅里を挟み撃ちにするつもりだ。
「…あんたら、何者?」
埒が明かないので上の集団に問いかける。応じるように、隊長らしき人物が進み出てきた。
「…ディケイネだな?」
「おっと、会話の成り立たないアホがひとり登場~。質問文に質問文で返すとテスト0点なの知ってた?」
とりあえず軽口で返す。しかし、内心ではかなり動揺していた。得体の知れない世界で得体の知れない連中に自分の正体をいきなり看破されたのだ。
というか、自分はまだこの世界で変身していない。できないのだから。それなのにディケイネである事が知られている。
そして、今までディケイネを既に知っていた者の認識は決まって…
「世界を滅ぼす悪魔…ここで消えてもらう」
(やっぱり…!)
想像していた通りの答え。しかし『隊長』が次にとった行動は、想像していなかったものだった。
「!それは…」
『隊長』がその腰のベルトに取り付けているポシェットから取り出したもの。
それはよく見覚えのある、しかし知っているものとは明らかに違う、一枚のメダル…!
「変身!」
『隊長』は取り出したそれを、左腕に付けているブレスレット…ガントレットとも呼べるようなごてごてした道具の、時計盤のようになっている
スロットへと挿し込んだ。
『YUKKULESS RIDE ON』
ガントレットが音声を発し、時計盤の針が高速で回転する。
「ッ!」
周囲に一頭身のシルエットが出現し、それらが『隊長』に重なり…黒い光の中から「それ」は現れた。
輪郭だけ見れば、一頭身というところは、ゆっくりと同じだ。
しかしその表情はあの小憎らしいニヤケ顔ではなく、氷のように張り詰めた無表情。口は真一文字に結ばれている。
見るものをただ威圧するそれは、断じてゆっくりにあらず。
「まさか…」
『隊長』の後ろに控えている連中、そして下から登ってきた連中も同じようにメダルを取り出し、ガントレットに挿し込む。
「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』
「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』
「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』
「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』
「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』
「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』
「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』
「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』「変身!」『YUKKULESS RIDE ON』
「く…!」
瞬く間に紅里はそのゆっくりもどきに包囲される形となり…『隊長』は静かに吼えた。
「撃て!」
前と右から、放たれた弾幕が迫り来る。
「冗談じゃない!」
他に逃げ場は無い、紅里はガードレールを飛び越えて急斜面を滑るように駆け下りる。一瞬遅れて頭の上を弾幕が通過した。
「1から3番隊は続け!追撃する!残りの部隊はここから援護射撃!」
『隊長』の声と共に部隊の一部が紅里を追って斜面を滑り降りてくる。その間も残った連中の攻撃は続く。
「うあっ!」
そのうちの一発が足に当たり、下に辿り着く寸前の紅里は体勢を崩して倒れた。
「今だ!逃がすな!」
「いたぞ!こっちだ!」
上から迫る連中に加え、更に別の部隊が迫ってくる。紅里は痛みを感じる間さえ与えてもらえず、急いで起き上がって逃げ出した。
変身できない彼女に、対抗する術は無い。仮に変身できたとして、あの数を相手にどれだけ戦えただろうか…。
逃げる紅里の前に、車が2台停まった。
「あれがディケイネ…世界の破壊者か!」
「行くぞ!」
そこから出てきたのは、街で見たのと同じ格好をした一般人。手には鉄パイプのようなものを持って武装している。
先刻自分で発した独り言を思い出し、背筋を冷たいものが走った。
『まさかいつぞやみたく、この世界そのものが『異変』ってんじゃあないでしょうね…』
幸い相手が体勢を整える前に到達できたので、先頭の連中を蹴り倒して突破する事に成功した。
紅里は逃げる。
ゆっくりもどきに弾幕を撃たれ、一般人に追い回され、挙句子供に石まで投げられて。
(最悪だわ…!)
逃げながら、紅里は一つの結論に達していた。
暴走するかのような速さで走る車。
『無駄』…言い換えれば『余裕』といったものの一切が排除された街並み。
何かに追われるように忙しなく活動する人々。
そしてあの連中…『ユックレス』。
つまり。
この世界は―――
第23話 |最悪の世界
第23話 |悪の世界
第23話 |の世界
第23話 |世界
第23話 ゆっくりできない|世界
-つづく-
書いた人:えーきさまはヤマカワイイ
この作品はフィクションです。ゆえに実在する人物だのなんだのとは一切関係ないんじゃないかと思います。
- 最後の世界に相応しい、ゆっくりとは色んな意味で正反対な世界ですね
余裕をなくした世界がここまで無機質に感じるとは・・・ -- 名無しさん (2009-11-08 16:05:35)
- 最初のこれまでの世界での台詞群達から、
これまでの旅の出来事が次々と頭に浮かんでいきました
最終回間近っぽい演出で燃えた
-- 名無しさん (2009-11-08 21:11:24)
最終更新:2009年11月15日 23:55