0:「君はゆっくりと人間の恋愛を信じるか?」
人の繋がりはどうしたって変わっていく物、その時僕は時の流れを恨めしく思うときもあれば喜びに思うときもある。
友達が出来たこと、好きな人が出来たこと、大事な人がいなくなったこと、好きな人に振られたこと。
それらは全て否定しようもない僕の歴史、僕そのものと言ってもいい。
時は進む。それと共に僕らも進む。
それを象徴するかのように、僕の日常にとある一枚の紙が紛れ込んできた。
1:「ゆっくりと人間の子、そんなのだってあり得るかもしれない」
朝起きて食事を作る。その後は客が来るまで居間で待つというのが僕の日課。
完全に消極的と言われても仕方がないが意外にもこれで一年以上続けてこれた生活だ。完全に生活として組み込まれているので惰性はない。
今僕達は医者の真似事をやっている。
「お薬できましたよ~~」
聞き慣れた声が奥の部屋から聞こえてきてので僕は体を伸ばし立ち上がった。
この声は今僕と一緒に住んでいるゆっくりえーりん、ナスみたいな輪郭をしているけどこんな僕とは不釣り合いに優秀でいつも僕を手伝ってくれている。
馴れ初めはそう、一年ほど前。僕の空回りした、けど切なく淡い初恋物語から始まった。
「ああ、ありがと」
えーりんから薬一式を受け取って僕は居間に戻ろうとしたが、えーりんは僕の背中に向けて嫌みそうに呟く。
「ゆっくりばっかして、相変わらず怠惰な生活をあらためたら?」
さっきも言ったけど惰性で生きてるつもりはないけどなぁ。
けれどそんな自分の認識とは裏腹にえーりんから見たら怠惰に見えてるらしい。
「僕はこんな変化の無い日常が大好きだけど………」
「どーしようもないわね…………何か別のことはじめたら?」
と、えーりんはきっぱりと怠惰な僕を切り捨てるように言った。
至極まっとうな意見で僕には反論できない。でも一つだけ言わせて欲しい、
何回聞いたんだろ、この台詞。
「………………そうですよね、はぁ」
一ヶ月に一回はこの台詞を聞いていたと思う。そしてその度何か新しいことを始めようと思ったけどそれも長続きしない。
望みだった物書きもやってみたら先輩の妹さんにぼろくそに言われ、運動を始めたら何故か骨折する。
山登りしようとしたら妖怪に襲われて、泳ごうと思ったら普通に溺れた。
「ちゃんと練習しないでおよごうとするから………」
うるさいよ、提案したのはお前だろうが。
と、勝負でいったら連戦連敗であって結局僕はすることなく日常を謳歌している。僕個人としてはそれが一番だ。
故に今日も聞き流す。
「…………………ふぅ」
えーりんもそんな僕の事をちゃんと分かっているので呆れたような顔をして居間に戻ろうとする。
けどふと何かを思い立ったかのように動きを止め僕の方に振り向く。
瞳は相変わらず眩しい位に輝いている。そしてえーりんは僕に向かって言った。
「そろそろ貯蓄もたまってきたし、身でも固めたら?」
「……………身を固める……………」
身を固める、つまりは結婚して家庭を持てと言うことだ。
確かに僕ももう26歳で結婚してもおかしくない年齢だ。えーりんの言うように家庭を養えるほどの貯金も貯まっている。
初恋も見事に散ったし、僕は少し頭を捻らせる。一年前だったら思考がグダグダになって碌でもない精神状態になってることだろう。
あれから僕も変わったのかな。
「ほら、友人の…………あの人だって結婚してるし」
「……………………アイツ幼なじみと結婚したんだっけなぁ」
こんな僕の幼なじみなんて崇高な人はいない。それどころか僕の人生、女性と関わった事なんて殆ど無いのだ。
あると言えば先輩か、アレとは絶対に結婚したくない。じゃあ妹さんか、どっちにしたって先輩が関わってくる以上あまり好ましくない。
「…………………ふぅ」
不意に永琳さんの表情が思い浮かぶ。初恋は酸いも甘く、さわやかであった。僕の恋はあれが最初で最後だったのかもしれない。
こんな僕が人を好きになるなんて、もう無いと思うから。
「そういってにげようとしてません?」
「ううぅ……とにかく結婚も何も相手がいないんじゃしょうがない、この話はお流れで」
流れるように、切り捨てるようにそう言い残して僕は自室の方に逃げた。
そんな僕に怒ったのかえーりんは素早く僕を追いかけ歯を立てて噛みつこうとする。
とっさに戸を閉めたおかげでえーりんは戸にぶつかり何とかその凶刃から逃れることが出来た。
でもえーりんの僕に対する罵声が戸越しに聞こえてくる。根性無し、働け、カス、○○○と生易しい物から聞くに堪えない物まで永琳さんの声で聞こえてくる。
仕方ないことじゃないか、仕方ないじゃないか!!いないんだから!!!
「…………………ギギギ」
とうとうえーりんが牙をたて、その長い髪に家に常備していたクロスボウ(ボウガンみたいな物)を携えて扉のスキマから顔を出す。
なあなあの関係でいた僕とえーりんだがこの時ばかりは命の危険を覚えた。
「あ、え、いやいやいや、怖い、死ぬ」
「………………あらごめんなさい、なんてったって私(のオリジナルは)不死だから、そういう概念わからなくて」
何ていい笑顔をしているんだろう、何ておぞましい殺気を立てているのだろう。えーりんはそのままジリジリとにじり寄ってくる。
「や、やめあ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あああああああああああああああ!!!!」
もうまともな思考が出来ない。僕は狼狽えながらとにかく後ろに下がる。クロスボウ相手には無意味な行為だが僕はもうどうしようもない。
そして机に当たってバランスを立て直す余裕もなく僕は盛大に転んだ。
「あぎゃばばぁぁぁぁぴゃがぎゃばぎゃがやおぎゃみゃ!!!!」
「…………………………あら」
ずっこけた拍子で机の上に積んであった書類が空を舞う。その中の一つがえーりんの手に渡った。
えーりんは僕の事を全く目にかけずクロスボウを置いてその紙をまじまじと見る。
「あががが…………」
「あら、へぇ、ほうほう…………………」
うん。といきなり頷いてえーりんはその紙を持って僕に近づいてくる。武器は持ってないと言えど怖い物があるものである。
「な、な、な、なんだぁ?」
「友人の方の奥様、どうやらかいにんしたようですね」
「え?」
僕はえーりんからその紙を受け取って体勢を立て直してから読む。
書類の中に混じっていたのだろうか。葉書だ。
住所欄には達筆すぎて読みにくい文字とぶっきらぼうに書かれた文字が隣り合っている。
この字は何回か見た事あるから覚えている、あの僕だけに悪意満々の友人とその奥さんの字だ。
それで裏の方を見てみるとこれまた達筆で懐妊しました。と書かれている。
「…………………………懐妊、か」
こんな事呟いて羨ましがっているとまるであの31歳童貞のように思われそうで心地悪い。
とりあえず僕はそのまま天井を見続け、そして立ち上がった。
何となくのお祝いだ。久しぶりに会いに行こう。
2:「ゆっくりは赤ちゃんでも喋るからな」
僕の脆弱な精神と一枚の紙から始まったこのようないきさつで僕はえーりんを連れてその友人の家へ出発した。
えーりんはと言うと僕の腕に抱えられて移動しているわけだが、不機嫌なのか先ほどから長い髪の毛で僕の体を打ち続けている。地味に痛い。
「あの手紙一週間前のものじゃないの、ゆっくりしないでもっとしっかりとせいりしておけば……」
「いちいちうるさい………一応土産というかお見舞いというか持ってきてるんだから………」
あいつが好きそうな新書や奥さんが好きそうな果物を持って行ってるがこれがどうにも重く
さらにはえーりんを抱えてるものだからどうにもしんどい。元々猫背気味だが姿勢もますます自然と悪くなる。
端から見ればゆっくりを抱えた猫背の変な人だ。
そんな僕の辛さを察知したのかえーりんは髪で僕を打つのを止めたと思うと今度は髪を僕の腕に巻き付けてきた。
意地でも降りないつもりらしい、そんなに歩くのがいやか。
「そんな遠くないでしょう、このくらいの苦労はしなさい」
「楽したいだけだろう」
親身に付き合って色々このゆっくりえーりんの事が分かってきて少々幻滅してきている僕である。こいつ本当に永琳さんを元にしたゆっくりなのだろうか。
いやもしかしたら永琳さんも親身になったらこんな風になってしまうのかもしれない。想像したくない。
「………………でも、不快じゃない」
このえーりんと共に暮らした日々は賑やかだった。それのおかげで僕は変わった。それだけは確実に言える。
「素直にうれしいっていいなさい」
不快じゃない。そんな事を心の中で反芻して僕はこの姿勢のまま友人の家に向かう。
「だからうれしいって」不快じゃない。「すなおに」悪くない。
3:「お腹の中で『ゆっくりしていってね!!!』と言う声が聞こえたら………」
愛想の悪い友人の家は永遠亭の道のりにある村にある。
永遠亭から家まで大量の薬の材料を持って帰るのに約一日。それなら友人の家に着くのにそう時間は掛からなかった。
「四ヶ月ぶりかしら、ここ」
「相変わらずだよなぁ」
古本屋と言っても店の中は半ば居間と融合している。つまり店に入ればアイツが横になってる姿が真っ先に目に入るというわけだ。
いくら金がないとはいえもう少し考えた方が良いと思う建築である。
とはいえ今日は祝うために来たのだ。店から入らずしっかりと裏口から入ろう。
僕とえーりんは建物と建物の狭いスキマに潜り込んで店の裏側に出た。
「スキマというのがどうも………」
「いでででで」
体付きが良くなったのか単に太っただけなのか抜け出すのに相当なダメージを負ってしまった。
散々だ。とっとと祝ってあげてとっとと帰ろう。
「失礼します。麻草です」
そう言って裏口のドアを叩いてみたが返事は無い。元々そんな大きくない家だ、ノックの音も家中に響くだろう。
何回も続けると廻りに迷惑になりそうなので五六回ほどで止めた、昼間だってのに居ないのか。
「はぁ、徒労だ」
「ま、こんなこともあるでしょう」
何も目的を果たせなかったままあのスキマをもう一度通り抜けるのはどうも気が乗らない。
僕は肩を降ろし大きな溜息をつく。
「じゃ、帰るか。この果物どうする?」
「後で一緒にたべましょうか」
えーりんはにこやかな顔をしてそう言う。
果物は取っておくつもりはないし保存する術もない。えーりんも食べたそうだし今日中に食べてしまおう。
ただえーりんにその旨を伝えるとえーりんはすぐさま髪で顔を隠す。
「そ、そんな私はいやしくありませんよ!」
えーりんは顔を赤らめて必死に否定しているがそんな事はもうどうでも良い。
さっさとスキマ通って帰ってしまおう。
「んしょ、いでででで」
ズリズリと体を擦らせながらスキマをくぐり抜けていく。
行きは一応通り抜けられたから帰りも通り抜けられるだろうと意気込んで僕達はゆっくりと進む、そんな矢先であった。
「………………あ」
「どうしたのかしら?」
「…………………………………嵌った」
「これだからスキマってヤツは……………」
えーりんが何に憤ってるかはよく分からないがこれでは動けない。
しかも嵌っているのは肩ではなく腹と背だ。無理矢理に動かしても痛みしか残らない。
「…………………………えーりん」
「久しぶりに名前でよんでくれましたね」
「そうじゃなくてさ、誰か助け呼んでくれない?」
このままではこのスキマで一生を終えてしまう。どこぞのギャグマンガのシチュエーションなんだ。
「わかりました………」
「なにやってるんだ」
と、不意に声が掛かる。僕は何とか現時点で動かせる首を声の発せられた方向に動かした。
「……………久しぶり、家にいたのか」
「………………いつもオドオドしながら正面から入ってくるくせに、身に合わないことをするからこうなるんだ」
スキマの外に僅かながら悪態尽きまくりな僕の友人の姿が見えた。
ノックをしても返事がなかったという事は今帰ってきたところなのだろうか、そんな彼は細い視界から冷ややかな眼差しと罵倒を僕に向けて送ってくる。
渡りに船、と思って喜んではいるものの、こんな悲惨な状況なのにこんな扱いされるって僕は一体何をしたんだ。
「嵌ったんだ。ちょっと引っ張って………」
「いいのか?引っ張って」
その友人の皮肉的な笑みを見て僕はふととある不安に襲われる
…………………………………もし、こんな状態で勢いよく引っ張られたら。
「ええ、おねがいします。このままじゃ」
僕がまだ思考を巡らせている最中だというのにえーりんは早速僕の友人に懇願してしまった。
友人は悪態をつく性格の割りには小柄な体格だ。えーりんの要求をやれやれ……と言いながらも異様に素直に呑み、スキマを通り抜けて僕の腕を掴む。
スキマの暗闇で見えたのはアイツの怪しい表情。そして僕の腕は勢いよく引っ張られる。
覚悟も何もあったもんじゃない。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
スキマから上がる咆哮。ほとばしる激痛。もうスキマなんて通らないよ絶対。
4:「ここは幻想郷そんな事もあり得るさ」
「なるほど、お祝いという訳か」
痛みはえーりんの薬で抑えられているが服はどこぞのパンクなヤツが着ている様に破れてしまって見るも無惨な状態だ。
人前には出られない程恥ずかしい状況だが泣きっ面に蜂、この家は外から居間がまる見えだ。嫌がらせじゃないか。
「と言うわけでは果物をどうぞ、それでは」
「何がと『言うわけ』で、何が『それでは』だ。お前は一体何しに来たんだ、人のカミさんの姿もみないで何がお祝いだ」
「は、は、ははははぁ」
友人のいう事ももっともだがこれ以上僕に恥をさらせと言うのか。通りの人が僕の姿を見ている、死にたい。
「すみません、手紙もらったのは一週間前なのにこんなおそくなってしまって」
えーりんは僕が言うべき謝罪を代わりに行ってくれた。けど友人は怪訝そうな表情を浮かべる。
「ん?それは配達員のせいじゃないのか?」
「………………かなぁ」
「自分のミスを他人のせいにするなんて…………はぁ」
いや、それはこいつが言い出したことだから。勝手に人の人格を攻撃するな。
「十凪と修二は真っ先に来たんだがな、十凪のヤツ『まだ原作ではそこまで言ってないのにお前はバカか』とバカなことを抜かしてた、
十凪一人だったら止められなかったぞ」
「先輩とダンナも相変わらずだなぁ」
そう言っても変わっているところもあるのだろう。僕でさえ変わるのだ。
「……………で、カミさん、というか優々子さんは?」
「今奥にいる、今呼んでくるからな」
そう言って友人は気怠そうに立ち上がりこの居間から出て行った。
優々子さん、名前はあの亡霊娘と同じだが性格は至って真面目で名前の通り優しい人。そして友人の幼なじみというある意味で恐ろしい人だ。
そして僕がちょうど21の時あいつと結婚、その後結婚生活も悪いこともなく今に至る。
正直羨ましかった。もし永琳さんの事を知らなかったら僕の初恋は優々子さんになっていた、そして恐らく失恋の痛みは今より重くなっていただろう。
そこの所は永琳さんに感謝感謝。
「連れてきたぞ」
「お久しぶりです、蓮太郎さん」
そんなぶっきらぼうな声と清らかな声と共にアイツは優々子さんと肩を組んで戻ってきた。
懐妊した、と言っていたけれど一目見ただけで分かるほどになっていたとは予想もしなかった。
まるで妊娠九ヶ月くらいの妊婦じゃないか、一週間遅れとかそう言う次元ではない。
「こんな遠くまで来てくれて………ふふ、やっぱ仲が良いんですね」
優々子さんは軽く微笑みながら僕とアイツの顔を交互にみる。
僕はすぐさま否定しようと思ったがアイツは僕よりも先に強く言った。
「ないな、どうせこのゆっくりにせがまれたんだろうに、動け動けとな」
……………よく分かってらっしゃる。こんなんだから仲が良いと誤解されるんだよな。
嫌いじゃないがこう罵倒されて気持ちいい物じゃない。そんな悪意と罵倒で繋がってる関係だ。
人目的だというのならコイツじゃなくて優々子さん目当てだろう。
「………………おひさしぶり」
えーりんはちょっと煩悩に塗れた僕を一発髪で叩いた後、優々子さんに向かって深々と頭を下げる。
「ゆっくりえーりんさんも久しぶりね。うちのぱちゅりーならそこの本棚で眠ってるわ」
優々子さんが指差した本棚にはいつものようにゆっくりぱちゅりーが挟まっている。
ある程度成長したのか幅を取るようになってきた。小声でむきゅむきゅ言いながら僕らのことを見つめてる。
「………………それでは、また今度」
疑問は残るが優々子さんの姿も見たし少し寒くなってきたしそろそろ帰ろう。
えーりんも流石に僕の心情を分かってくれたようで僕のアイコンタクトにこくりと頷く。
「え、もう行っちゃうの?」
すぐさま去ろうとする僕に優々子さんは寂しそうに呼び止める。
何とも心揺さぶられるシチュエーションだ。人妻じゃなかったらなぁとさえ思う、僕に寝取りは絶対無理だ。
「今急患の患者が居ることを思い出したんだ」
「嘘だろ」
「嘘です、実は言うと恥ずかしくて」
へそ丸出しだよ。それを憧れの年上人妻に見られちゃってるんだよ?僕はもう耐えきれない。これ以上居たら臍噛んで死ぬ。
「………………………そうですか」
自分は切実だけど身勝手なことくらい分かっている。
でも優々子さんはこんな僕の身勝手な要求も素直に受け入れてくれた。
「でもどうせだから……………赤ちゃんの音でも…………」
「赤ちゃん…………」
ソイツと優々子さんの愛の結晶、正直僕はそれを否定したい気持ちで一杯だ。
勝手に幸せになるなよ。
僕を置いていくなよ。
僕を一人に
「ゆ、ゆっくりきかせてください!」
医療関係のゆっくりなためか僕の独白を遮るようにえーりんは興奮気味に語る。
………いや、今の自分を孤独なんて言えるはずがない。
失恋の傷は残っているけど、今の僕は一応満ちている。
何気ない生活、何気ない会話、それら全てがえーりんによって成り立ってるのだ。
そう思うだけで心が安まる。
「それじゃ………失礼します」
「人のカミさんに手を出すなよ」
そうアイツが冗談っぽく言うのを聞いて僕は優々子さんの膨らんだお腹に耳を当てる。
人の肌はこんなにも温かい、今にも命の音が聞こえてきそうだ。
…………ゆっくりしていってね………
……………………………………何だ今の声。
僕はすぐさま辺りを見回す。今の声はゆっくりの声だ。でもえーりんもぱちゅりーも僕の後ろの方にいる。この位置では聞こえないはず……
試しにもう一度耳を当てる。
……………ゆっゆっゆっ………
………………………………………………………確実にお腹の中から聞こえてきた……
そう言えば、いつか前遊びに来たときあいつがこう言ったのを思い出した。
『君はゆっくりと人間の恋愛を信じるか?』
『ゆっくりと人間の子、そんなのだってあり得るかもしれない』
『ゆっくりは赤ちゃんでも喋るからな』
『お腹の中で『ゆっくりしていってね!!!』と言う声が聞こえたら………』
『ここは幻想郷そんな事もあり得るさ』
……………………………まさか。
そしてアイツが結婚したときの言葉も思い出す。
『俺は優々子を愛してる、例え優々子が俺のことを嫌いになっても俺は愛し続けたい。』
…………………………………………
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
僕はとっさにえーりんの髪を掴んで勢いよく外を飛び出す。
「え、な、なに!?いったいなにが!」
「そうぞうしたくなあああああああああああああああああい!!!!!」
滑稽すぎて見たくない!!あんなアホらしいほどの愛の言葉を言って、それで優々子さんはそれに似合う返事をした!
いやだぁぁぁぁぁ!優々子さんがそんな浮気性だなんてぇぇ!!清純じゃないのぉぉ!!!!??
時が過ぎれば人だって変わる、でもこんな変わり方は嫌だぁぁぁぁ!
じょせいこわいぃぃぃぃぃぃ!!!!
5:「俺は優々子を愛してる、例え優々子が俺のことを嫌いになっても俺は愛し続けたい」
若者の行方は、誰も知らない。
6:「私も有裕さんのことを愛してます。私の一生を貴方に捧げます、だから貴方の一生も私に捧げて下さい」
若者が去った居間に二人の人、そして二人のゆっくりがいた。
二人は幼い頃から互いに愛し合っている、この愛は揺るぎない物。
「…………………意地、悪かったかもしれませんね。わざと手紙送るのを遅らせたり正面から入らせたり……」
「ははは、俺に会う前にお前に会ったら意味ないから、でも面白いくらい引っかかったな。十凪は一発で看過したが」
そう言って日村有裕は自分の愛妻日村優々子の服を捲る。
その中から今本棚で寝ているはずのゆっくりぱちゅりーが転がり落ちた。
「むきゅうううう………おねーさんのなかあったかかったわ」
「こんなイタズラに付き合ってくれてご苦労様、まちょりーさんももういいのよ」
「MUKYUU!」
その呼びかけに対して本棚が急に揺れ出す。
本棚が前に動いたかと思うと裏からゆっくりぱちゅりーの亜種、ゆっくりまちょりーの姿が見えた。
「MKYUU!むきゅ!おとなしくしているのはむずかしかったわ!」
そうして本棚から自分の顔を抜く。長い間本棚に嵌っていたせいかすっかり四角顔になっていた。
筋肉質な体と四角顔、この上なくシュールな光景である。
「前ゆっくりと人間の恋愛について話したのが効果合ったようだな、何で逃げ出したかは知らんがな」
「……………ね、有裕さん、どうしてこんな事を?」
「…………………あくまでこれはイタズラだ、意味はない。ただ少し変わったあいつに会ってみたかっただけだ」
あの時否定はしていたがその理由を語ってはいない。まぁ有裕も蓮太郎のことは嫌いではないが暗い性格と付き合ってて気持ちのいい物じゃない。
そんな関係。
「…………でも誤解されちゃうかも………ゆっくりとの子供って………」
「ははは、ないない。だってここにはちゃんと俺とお前の子がいる。自信持ってくれ」
そう言って有裕は優々子の腹を優しく撫でる。まだ膨らんではいないけど確かにそこに命があるのだ。
優々子は赤面して有裕と顔を近づける。
「……………………有裕さん……………大好きです」
「俺もだ、優々子」
二人は見つめ合い、互いの指が相手の肌に触れる。二人は同時に目を瞑り、互いの唇を(こっから先はぱちゅりーさんに『そこまでよ!』されました。
続きの営みを見たい人は『マッスルマッスル』と叫びながらまちょりーさんのように頑張って下さい。
後書き:単なる息抜きだよ!続きに期待しないでね!
と、最初の独白は特に意味ないです。確かに変化する物だけど変化して欲しくない物もありますしね。
舞台は
蓬莱の茄から約一年後、鬱男も変わっております。
それでは次回、また!
鬱なす(仮)の人
- マッシュルームマッシュルーム -- 名無しさん (2009-12-19 11:06:42)
最終更新:2009年12月19日 11:06