廃屋のお茶会 2 曇、所により、一時にわか雨

企画、お疲れ様です!!・・・そんな合間、ちょっとだけこの話は続くんじゃよ?な即興。

廃屋のお茶会 2 曇、所により、一時にわか雨』

今日は、まりさと約束の日だ。私はなんとか仕事を切り上げ、時間を作りあの廃屋へと向かう。
会社から出ると空は曇っていたが、幸い雨は振っておらず、私は雨に合わないようにと駆け出した。

だが、どれほど駆けても、何時まで経っても廃屋に辿り着くことは出来無かった。
どうやってもそこへ辿り着くことなんて不可能だった。いや正確には行くことは出来るのだろう。
危険や世間体を省みること無く突進すれば確かに到達は出来る。だが、無駄だ。

確実に、あの廃屋は・・・もう残ってはいないのだから。

私は目の前に立てられた、あの工事の際に使われる安全用の銀色に輝く防壁の前でただ立ち尽くした。
その中で聞こえる重機の騒音。消えてしまったあの古ビル達。それが何を意味するのか、言うまでもない。

「ここの工事かい?もう取り壊しはすんどるよ。いつ工事が決まったかって?
 いや、ワシも詳しくは知らんがかなり急に決まったみたいでね。民間の何処か・・・何処だっけ?
 ああ、そうだ、egnomik(イグノミック)社だっけ?なんかそんな会社が買い取ってアミューズメント施設を
 作るって話になってるよ。」

念のため・・・いや、未練がましく側にいた作業員の男に尋ねたのだが、現実を突きつけられただけだった。
言いようの無い怒りと、どうしようもない事への脱力感に襲われながら、私は男に礼を言って去る。

それからトボトボと、目的も無くただ無為に歩を進めながら考えた。
思えば、あそことまりさとのお茶会は私にとって童心に帰れる場所だったのだと思う。
仕事に疲れ果てるだけの毎日、嫌な事ばかりのニュース、人間関係などで溜まり続けるストレス。
私にとって、あの廃屋は、あの時間は、久しぶりに新鮮な気持ちを味わえた場所だったのだ。
それを失った。だが、ただそれだけだ。こんな事はこれまでにも何度かあった事で何も特別なことではない。

空を仰げば、何時の間にか曇った天は、どんよりと暗く、雨の気配を見せている。
明日に成ればこれまでの様にすぐに忘れられるだろう。それぐらいにはまともに年を取っては来た。
だが、今のこの喪失感は、どれだけ年をとってもどれだけ繰り返されても、嫌な物に違いはない。

 ・・・結局、それからもぶらぶらと無駄に歩き続けた挙句、私は工事現場の前まで戻ってきてしまった。
雨もパラパラと降り出したと言うのに何をやっているのか私は。自虐の言葉を誰にも聞こえ無いように
呟きながら、せめてこれで何らかの踏ん切りはつけようと現場の前を歩くことにする。

「ああ、すみません!!今そっちの道は通れないんで!!!こっちの道からどうぞ!!」

誘導員に注意され、さらに情けない気持ちになりながら私は誘導された方に向かう。
板をはられただけの簡易な仮道路を渡り切る前、ぐっと肩を掴まれ何事かと思い、振り返れば・・・。

「よう、結構バレないもんだろ?これ。」

見覚えのある顔でそう言う誘導員は、紛れも無く体は人間、だが顔はまりさ。そんな姿だった。

「いやあ、参った参った。しばらくさ、あそこを離れていたらいきなり工事やってんだもんな。」

通り雨は過ぎ、晴れ間が見え始めた天気の中、
少しして交代の時間になり引継ぎを終えたまりさのと並びながら、近くの公園を歩く。
色々と言いたいことはあったが、ただ嬉しい気持ちが胸に詰まり、私は何も言うことは出来無かった。

「まあ、あれだ、積もる話はとりあえず喫茶店にでも入ってからするか。」

呟きながら髪をタオルで拭いていたまりさがふと立ち止まったので、私は何事かと思い顔を向けると、

「そうそう、先にこれだけは言うぜ・・・。あのさ、あんたがちゃんと約束を守ってくれてさ・・・嬉しかったぜ。」

頬を染めながら、これまでに見たことが無いぐらいに輝いた満面の笑顔を浮かべて、そう言ったのだった。

即興の人

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最終更新:2009年12月28日 11:21