注:前に
ご当地ゆっくりのSSを書かれた方とは別人です。勝手にネタを使って申し訳ありませんでした。
あれを見たら無性に書きたくなったので。今は反省している。
注2:このゆっくりは広島弁をしゃべりますが、仕様です。
さて、仕送りというものは、一人暮らしの独り身には故郷の薫りを届けてくれる、ほぼ唯一の手段と言ってもよい。
であれば、それを喜ぶのは、大抵の場合は適切な反応と言ってよいだろう。
そして、その仕送りで、いやに重い段ボールを男の母は送ってきた。
米でも送ってきてくれたのかな、とは思うが、時折ガタガタと揺れているような気がする。
さすがに、うーぱっくを運送業の人間が受け持つとは思えなかったが、あける事がどうにもためらわれ、ひとしきり考えた後に、開梱を試みてみよう。
そう決心はしたたが、どうにも嫌な予感がする。
カッターは使うまい、と考えて、ぺりぺりと布テープを剥がしていき、段ボールのふたを開けた。
「ゆっくりしていきんさい!!!」
ぱたん、という音を立てて、反射的に男はふたを閉じる。
目の錯覚でなければ、自分の頭より若干大きい程度のゆっくりが入っていた。
運送業者が間違えたのかと思うが、しっかりと送り先のところに自分の住所と、送り主のところに母の名が書かれている。錯覚ではない。
もう一度、慎重に開ける。そこには、ふくれっつらをしたゆっくりゆかりが居た。
家で飼っているゆっくりの中でも特に古株で、ゆっくりらんとゆっくりちぇん、果てはゆっくりチルノの親代わりまでやっている。
母が独身のころから一緒だったというから、何年生きているのか、見当もつかない。
ゆかり種独特のZUN帽には、枯れたところを見たことが無い紅葉が飾られている。
「なにはぶてとるんじゃ、おまえは」
「おまえが心配じゃけぇわしがせっかくきてやったのに、どういう態度なんよ。ゆっくりできん奴特有の態度が鼻につくわい」
ぷりぷりと怒りながら、ゆかりはそういうが、いきなり来られても困ります、と返したくて仕方が無い。
そもそも、どうやって入ったのかと思うが、ゆかり種特有の体の柔らかさを全力で発揮したのだろう、と思いたい。
これだけ重いのに、気付かない母も大概どうかと思うが。
「ほいじゃが、母ちゃんが心配しとるんじゃないんか?」
「ききゃえーじゃないか。ゆっくり聞いていってね!!!」
こういう時だけ、何故か標準語になるあたり、色々作為的なものを感じるが、大方厭味なのだろう。
昔からそういうやつだったが、本当に子供だったころに、この言動で腹を立てて、ゆかりの頬をひっぱりすぎて破いてしまい、異臭騒ぎになった事がある。
故に、手を出すのも憚られた。いくら腹が立っても、もうやる気は無いが。
電話をかけて聞いてみるが、電話の向こう側に居る母はのんびりした口調で、心配じゃ心配じゃゆうとったけぇ、かわいがってやりんさい、と返してきた。
問い詰める前に電話をゆっくりらんに代わられ、ちぇんがさびしがってるから、はやくかえってきてね!!!
とまで言われてしまい、言い返す言葉がなくなった。正確には、返す気が無くなったのだが。
さて、電話は切れたが、ゆかりは例のにやにやとした表情を浮かべて、こちらを見ている。
ただ、心配だから来たというあたり、なんというか、ゆっくりにまで心配をかけていたのかと思うと、若干気がとがめた。
しかし、それを認めるのもなんとなく癪で、段ボールの中身を出していく。
紅葉饅頭や、広島菜漬け、あとは大量の夏みかんと、ゆかりの大好物である羊羹が二棹、他にもこまごまとしたものが入っている。
さすがに、牡蠣はクール便ではなかったので入っていなかったのは残念だった。
生牡蠣をちゅるっとやりたいなぁ、と考えながら、羊羹を冷蔵庫に入れようとすると、ゆかりがぴょんぴょんと跳ねながら、何事か訴えている。
だが、口に出すのはくやしいらしく、黙っているが。
「食後のお茶の時間に食べるけぇ、我慢しんさい」
「わしゃおなかがへっとるんよ、ゆっくりいそいでね!!!」
聞けば、三日分の食料が入っていたのに、美味しくてうっかり食べ過ぎてしまい、二日目には無くなってしまったらしい。
一時的な冬眠で凌いだ、とはゆかりの弁だが、やせ我慢だという事は良くわかった。
それでも、荷物に手を出さなかったあたりは、年の功とでも言うべきか。
ゆっくり種は言い含めてやれば、たいていのことは理解できるのだが、おあずけはそれ程得意ではない。
「お好み焼きが食べたいんじゃが、お好み焼き屋は近くに無いん?」
「あるわけないじゃろう。ここは広島じゃないんじゃ」
「この際大阪風でもええよー」
要は、ともかくお好み焼きが食べたいから食べさせて、という事らしい。
勝手だなぁ、とは思うが、まあ材料費はそんなにかからないから良いか、と納得し、具材を切って種に投入して、フライパンで焼き上げる。
いい色になったところで、皿に載せてソースをたっぷりかけ、青海苔を散らす。
マヨネーズは、かけるとゆかりが怒ってひとしきり語りだすので、かけない。
ゆかりを膝に乗せ、箸で一口大に切ってやって食べさせる。
自分で食べさせても良いが、そのときは、口には出さないものの残念そうな顔をさせてしまう。それは望む結果ではない。
「むーしゃ♪むーしゃ♪しあわせー!!!」
青海苔を口の端につけながら、ゆかりは本当に幸せそうに緩んだ表情でそういう。
普段は厭味だが、こういうところはかわいくて仕方が無い。
「ほら、青海苔ついとるぞ」
口元を拭ってやり、もう一度口元にお好み焼きを運んでやる。
今度もまた、おいしそうに食べてくれた。
半分ほど食べたところで、時折、ちらちらとこっちを見始める。
確かに美味しいが、このあとに大好物の羊羹が控えている事を思い出したらしい。
かわいいやつだ、と微笑みながら考えて、口元にお好み焼きをはこんでやる。
目の前のお好み焼きか、羊羹か、と逡巡している様子がかわいらしい。
「むーしゃ♪むーしゃ♪しあわせー!!! でも、羊羹食べさせてくれたらもっとしあわせよー!!!」
「ほんとに現金なやつじゃのぅ」
そういって、お互いに声を出して笑いあう。
久々に、ゆかりと『ゆっくり』できているのを感じる。そして、ふと考えた。
たまには故郷に帰ろう。ゆかりといっしょに。
了
あとがき
どうも、猫の話と犬の話を書いた人です。ちなみにはぶてる、とはまあ、ニュアンス的にはすねる……といったところでしょうか。
方言が滅茶苦茶なのは、中の人が最近広島に帰っていないから……というのがあったり。
一口に広島弁と言っても、実のところ地域差もありますし。どうしたものやら。
あと、広島というと色々取れるんですが、あえて今回は紅葉だけにしてみました。
ゆっくりしずはでも出せば良かったかもしれませんが……どう書いていいのか(ry
- ゆかりのふてぶてしさが良かったです、雰囲気にゆっくり出来ました。 -- 名無しさん (2009-03-18 16:06:27)
- そうそう、オタフクソースをたっぷりかけて食べるお好み焼きがうまいんですよ。 -- 山口県民ゆっくり (2009-03-27 08:37:26)
- いろんなところに共感しながらゆっくり楽しめました。面白かったけぇ、次回作に期待しとるけぇね! -- 連レススマソ (2009-03-27 08:42:41)
- わしもゆっくりしないといけんわい。 -- ゆっくりげん (2010-06-05 19:02:51)
最終更新:2010年06月05日 19:02