「夜雀たちの歌 ~その後の後~」Aパート-2









「凄いわねー、貴女のゆっくり、強かったんだ」
「別に、同じゆっくりと戦って勝っただけだよ。誉められるようなことじゃない」

レミリアに嫌味を言った後、輝夜は感心するようにゆっくりみすちーを見つめ、その飼い主であろう夜雀を素直に賞賛する。

「でも、あんなに早い動きをするゆっくりなんて私も初めて見たわ。あの子、あの時の戦いより、もっと早くなったみたいね」

嘗てのミスティアとゆっくりみすちーとの決戦での場面を思い出しながら、幽々子もまたミスティアのゆっくりを素直に賞賛する。

「まぁ、日々鍛えてるからね」
「みすちーはもっと強くなるよ!えへん」

どこか誇らしげに一人と一匹は胸を張って語る。
同じ夜雀の名を冠するだけあって、ゆっくりみすちーのその挙動と仕草は、ミスティアのそれととてもよく似ていた。

「あらカワイイ」

幽々子は口元を押さえ、クスクスと愉快そうに微笑み、

「わー、良いなぁ、こういうの良いなぁ。永琳!私も飼いたい!こういうの飼いたい!」
「あらあら、ペットなら永遠亭に因幡がたくさんいるでしょう」
「でもああいうカワイイ生首はいないじゃない!」

輝夜は目を輝かせながら、永琳と向き合いやや興奮気味に捲くし立てた。
どうやら、この丸い謎の生命体に対し、いたく興味を抱いた様子である。

「あらやだ、思いもよらぬ方向で盛り上がってるわね、この宴」

その和やかな雰囲気が流れていた空間に、少女の形をした隙間妖怪がゆらりと介入する。
そして、えっへんと胸を張っていたミスティアとゆっくりみすちーに対し。扇を広げながら胡散臭げな笑みを投げかけた。

「私も関心してしまったわ。中々良い性能のゆっくりを飼ってるじゃない?」
「別に、飼ってるって訳じゃないけど‥」

その笑みに不穏なものを感じ、ミスティアは一歩引いて紫と対峙する。

「良かったら、私にもその実力、確かめさせてくれないかしら?」

そう言って、紫は片手で小さな隙間を作り、その中に自身の右腕を入れてがさごそと何かを探り寄せる。

「貴女のゆっくりと」

そして、その右手を何かを掴みあげ、隙間から取り出して、ミスティアに掲げて見せる。

「私のこのゆっくりとで戦って、ね」
「分かるよー!」

紫が手にとったのは、緑の帽子を被り、黒い尻尾と耳を生やせた猫のようなゆっくり。

「って、それ私のゆっくりちぇんじゃないですか!!」

また自分の主人が何かをやらかすのではないかと危惧しながらその動向を眺めていた藍が、
当然のように自分の愛玩ゆっくりを持ち出されたことについて呆れ驚きながらツッコミを入れる。

「果たして、貴女のゆっくりは、私のゆっくり“延速のちぇん”に勝てるかしら?」
「だからそれ私のゆっくりですよ!!何意味分からない中学時代にありがちな二つ名を勝手に付けてるんですか!」
「“延ばした線の上に常に存在するかのような速さ”
 即ちそれは、同一線上なら何処だろうと一瞬で移動できるほどのスピードを意味する!」
「紫様いい加減にしてください、ていうかそれ絶対今考えたでしょう!」
「分かる、分かるよー!」
「分からないでいいからこっちに戻って来なさい、ちぇん!」
「何それ凄い」「凄いや!」
「夜雀とそのゆっくりも信じないで!スルーしていいからそのアホ主人は!!」

―ボカン―

紫の隙間は、遠距離からでも自在に相手を殴れるという優れた性能を持っている。

「痛い‥頭にコブできた‥」

「さて、駄狐の制裁も終わったことだし、この勝負受けてもらえるかしら?」
「ごめん、断る」

ミスティアの答えは簡潔で即結だった。

「細かいルールは特になし、単純に喧嘩して買ったか負けたか周りが判断するだけの簡単ルール。
 セコンドからのギブアップも認めるから、危なくなったらちゃんと声をあげてね。
 さてと、戦闘形式についての説明も終わったことだし、この勝負受けてもらえるかしら?」
「あのえっと、だから選択肢→『いいえ』で」

「さてと、戦闘形式についての説明も終わったことだし、この勝負受けてもらえるかしら?」
「いいえ」

「さてと、戦闘形式についての説明も終わったことだし、この勝負受けてもらえるかしら?」
「‥‥お断りします」

「さてと、戦闘形式についての説明も終わったことだし、この勝負受けてもらえるかしら?」
「‥‥、これって、強制イベント?」

紫がニコリと笑顔で静かに頷いた。










「映姫様的には、こういうのアリなんですかねー?」
「白か黒かでいえば黒ですが、まぁ仕方無いでしょう。いつものように、当人達が暴れるより被害はずっと少ないですし」
「確かに、ゆっくり同士の喧嘩なら可愛いもんですねぇ」

そんな何気ない会話を交わす二人の眼線の先には、
部屋の中央で既に熱い戦いを繰り広げる2匹のゆっくりがいた。

「→、いや、正面か!」

翼を広げバッサバッサと右往左往しながら中空を飛び回るゆっくりみすちーと、

「飛行ユニットは運動性が高いんだね、分かるよー!」

それに目掛け床から壁、天井へ、重力や慣性を無視するかのように跳び跳ね回るゆっくりちぇん。

今のところ、ゆっくりみすちーがゆっくりちぇんの攻撃をすれすれのところでかわし続けることで戦線が拮抗しているが、
その回避もいつまで続くかは分からない。

宴の参加者は皆、突如始まったこの余興を、
ある者は興味深げに、ある者は呆れげに、ある者は面白そうに、ある者は面白くなさげに、
それぞれ反応は違うものの、一同にこの戦いを見守っていた。


―ガシャンッ、ガシャシャン!

ちなみに、ゆっくりちぇんが跳ね回る度に、用途を終え床に置かれた茶碗や皿にぶつかって、
派手に飛んだり割れたり飛び散ったりしている。

「‥‥‥‥‥ぇー」
「えっと、なんかごめんなさいね、妖夢。お嬢様が戯れに始めたことから、こんなことになってしまって‥、
 あ、後で私も手伝うから、片付けるの」

そして生気のない顔で事態を眺める妖夢を咲夜が必死にフォローしたりしている。




攻撃する者と避ける者、
続ける限り決着のつくことがないこの拮抗状態を、
最初に打ち破ったのはゆっくりちぇんだった。

「分かる、よぉぉー!」

何十回めかの地面への着地、その直後、
今までの着地から再度の跳躍へのインターバルを遥かに超える速度で、
ゆっくりみすちーに、その“攻撃”は迫り来た。

「ちんちーん!?」

回避のリズムを崩されたゆっくりみすちーは、その“攻撃”に動揺こそしたものの、
持ち前の反射神経を活かし何とか避けきることに成功する。

そして、ゆっくりみすちーのすぐ横を通り過ぎたその“攻撃”、
ゆっくりちぇんによって高速で放たれた純白の食器はそのまま壁に激突し、粉々に砕け、

「囮だよ?分かるかなー?」

今までにない攻撃に回避のバランスを崩したゆっくりみすちーに向かい、
先ほどの食器とは比べものにならない程の高速で、ゆっくりちぇんは高速の体当たりを、

「分っかんないだろうねー」

ゆっくりみすちーにぶち当てた。

「ちん‥!?」

そして、そのままゆっくりみすちーを部屋の壁まで押し付けて、

「!?」
「連撃だよ、分っかるかなー?」

次の瞬間、ゆっくりみすちーが押し当てられた壁に、
まるで獣が引っ掻いたような、三本の傷跡が十字状に刻まれ、広がった。

「やっぱり、分からないだろうねー」




「屋敷に傷がぁぁぁああ!!!」
「ああ、うんえっとまず落ち着いて、妖夢。気持ちは凄く分かるけど。
 でも今あなたが抜刀したらもっと偉い傷が屋敷に刻まれるから、ね。取り敢えず落ち着いて刀から手を放して妖夢」




「‥‥‥あれ? 紫のゆっくり‥、爪なんてないわよね?だってゆっくりだし」

その様子を見守っていた幽々子が不思議そうに隣に座る親友に尋ね、

「ディグダは最初から『ひっかく』使えるし、『きりさく』だって覚えるのよ」
「ゆっくりだから細かいことは気にするな、って意味?」
「そーいうこと」

ウフフ、と機嫌良さげに紫は幽々子の質問に、回答になってない回答を返す。
そして、付近に座り同じく先の戦いを眺めていたミスティアに対し、

「それじゃ、早く貴女のゆっくりの手当てをしてあげた方がいいわよ。近くに優秀な医者がいることだし。
 しょせんゆっくりの攻撃力だけど、私のちぇんは野うさぎ程度なら一撃で仕留めてしまうこともあるのだから」

悪意とも優しさとも取れる言葉を投げかけた。

「へー」

しかし、その言葉を受けたミスティアの表情にある感情には、
自分のゆっくりを心配するような焦燥感や不安感は微塵も見えず、

「ああ、やっぱり、その程度か」

まるで、何でもないというような、予定調和、そしてほんの少しの安心感を伴う薄い笑みだけが、ただ浮かんでいるだけだった。
そして、それとほぼ同じ表情を、


「ふー、やれやれーだよ」

壁に押し付けられ、ゆっくりちぇんによる爪撃を零距離で受けたゆっくりみすちーも、
まるで本当に何でもないような調子で浮かべていた。

「やっと、素早い猫が、捕まった」

その両翼で、がっしりとゆっくりちぇんの顔を包み込みながら。

「「え?」」

もうすっかり決着を決したと油断していた紫とゆっくりちぇんは、
同じタイミングで驚く、というより呆けたような感嘆符を浮かべる。
ちぇんの爪を間近で受けたはずのゆっくりみすちーの顔には、
猫に引っかかれたような3本の傷跡が刻まれているが、
よく見れば、傷跡といっても引っかかれた表皮が少し赤く染まっている程度、内部にまで達しってなど決していない、
本当にただそれだけの傷だった。


「そーいえばさ」

その様子を見て、何となしに幽々子は本の少し前の自分の体験談を紫に告げる。

「私の、“追尾重視タイプ”とはいえ、一応本気の弾幕を受けてさ、けっこう普通に無事だったのよね、あの子」

幻想郷、そのパワーバランスの一角を担う亡霊の、
その弾幕を受けて、無事だったという事実。

「ということは、少なくとも、野うさぎの何十倍かの耐久力は持ち合わせているはずなのよね、あの子も」

そのゆっくりにしては信じられないほどの耐久力を持つという驚愕の事実を、
こともなしげに幽々子は語り、

「えー‥、嘘ぉん」

紫は、軽く冷や汗を掻きながら扇を口に当て、誤魔化すように目を伏せた。



そして、今までそのスピードから、ゆっくりちぇんを捕らえることが出来なかったゆっくりみすちーが、
攻撃を受けた代償として、敵を零距離で受け止めることができた、
この事実が意味するものはただ一つ、

ゆっくりみすちーの反撃が始まる。


「大丈夫、今度は真正面からだから、手加減は簡単だよ!」
「わ‥わ‥!」

動揺するちぇんを抱えながら、ゆっくりみすちーは壁を離れ部屋の天井近くへ飛び上がり、

「よるすずめがこの技使うのはどうだろうとは、みすちーだって思ってるんだよ!」

そして綺麗に宙返りをして、

ちぇんを抱えたまま、部屋の最下層である畳に向かって一直線に、
重力加速度の命ずるままに自分と相手の身体を単純に、


「はやぶさ落とし!!」
「分からないよぉぉぉぉおおおお!!!」


叩きつけた!




ゆっくりとは思えない程の鈍い重撃音が部屋に響き渡り、

「あーうん、今の私って凄く格好悪いわね。いや、うん、ないわー。自分から自信満々にけしかけて返り討ちとか凄くないわー」
「取り敢えず向こうでイジけてる吸血鬼と仲良くしてきたらどうかしら?」

目をぐるんぐるんに回して完全に意識を失ったゆっくりちぇんを尻目に、
何とも気まずそうに語る紫に対し、幽々子は楽しそうにそう告げた。





Bパートへ続く

  • 妖夢哀れ・・・w -- 名無しさん (2010-03-18 12:20:32)
  • この中で幽々子だけ1ボス堕ち・・・トホホ -- 名無しさん (2011-06-02 15:32:48)
  • けーね!けーね -- 上白沢慧音 (2012-10-03 21:39:25)
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最終更新:2012年10月03日 21:39