ゆっくりトレーナー入門書
1:ゆっくりトレーナーについて
ゆっくりトレーナーとは主にゆっくりを戦わせて『ゆっくりバトル』を行う人たちの総称である。
トレーナーの最終目的はオトハ島にあるゆっくリーグに挑戦すること。そこで優勝すればゆっくりトレーナーとしての最高の栄誉を得ることが出来る。
ゆっくリーグに挑戦するためには地方各地に散らばるゆっくリーグ公認ジムのバッチを8つ得ることが最低条件である。
2:トレーナーが利用できる施設、設備
ゆっくりトレーナーが利用できる施設は主に二つ。
一つ目は「ゆっくりメディカルセンター」ゆっくりバトルなど傷ついたゆっくりを治療してもらうため施設である。
ゆっくリーグから補助を受けて経営しているため無償で治療を行えることから、ゆっくりトレーナーにとって必要不可欠な施設であろう。
もう一つは「ゆっくりフレンドリィショップ」。ゆっくりバトルやゆっくりの育成の為の道具を取り扱っている商店である。
こちらは必要ない、と言うトレーナーには全く縁がない物で、主にバトルが苦手というトレーナーにはお馴染みである。
だいたい回復薬からゆっくりボールまで取り扱っているが、店舗によって品揃えが大きく違うのが特徴であり、また問題点でもある。
ただ注意する点は現金が使用できない事である。商品購入の際にはゆっくりトレーナー用のキャッシュ『由円』でなければならない。(由円については後述)
この二つの施設はどの市町村にも必ず配備されているのでここでトレーナー同士の交流をするのも良いだろう。
(なお、カザハナタウンにフレンドリィショップが無いと言う抗議があったので近日オープンする予定です)
3:ゆっくりバトルのイロハ
ゆっくりバトルはゆっくりトレーナーがゆっくり同士を戦わせる行為のことを指します。
バトルにも様々な物があり、1VS1のシングルバトルや2VS2のダブルバトル、ローカルな物だと6VS6のマスターバトルなんてものもあります。
ルールはその場でトレーナー取り決めするものですが、最低限『手持ちゆっくりが全部戦闘不能になったら負け』『トレーナーに直接攻撃禁止』
『手持ちゆっくりは最大6体』とこの三つは守って頂きたいです。
ちなみにジムやリーグなどの公式戦においては『回復薬は1バトルに二回まで』というルールも取り決められています。
またゆっくりバトルで勝負した際、負けたトレーナーは全『由円』の一割を勝利した側のトレーナーに賞金として取り上げられます。
拒否権はありません。頑張って強くなれるようにしましょう。
4:『由円』について
由円とはゆっくりトレーナー専用のキャッシュのことです。フレンドリィショップではこれがないと商品の購入が出来ません。
由円の手に入れ方は様々有り、まず『現金から由円に換金すること』。手っ取り早く手に入れたいのならこれが一番良いですが、
逆に由円から現金への換金は出来ないので注意しましょう。下手に換金して涙目になったトレーナーさんも沢山います。
また『使わない道具を売却すること』、前述の通り『ゆっくりバトルに勝利すること』などがあげられます。
フレンドリィショップで預けることも出来て、その際キャッシュカードが発行されます。旅だから現金じゃ不安という人にお勧めです。
5:まとめ
ここまでゆっくりトレーナーについて説明してきましたが最後に二三点心に命じて貰いたいことがあります。
まずゆっくりを悪事に使わないこと。ゆっくりには様々な能力があってそれらは様々なことで役に立つことが出来るけれど
それと同時に悪事にも使用されることがあります。だからトレーナーはモラルを持ってゆっくりを育てましょう。
また、ゆっくりを信頼すること。ゆっくりは何も考えてないように見えて意外と皮肉的なことを考えていたりします。
だからゆっくりだけが強くなっても必ず命令を聞くとは限りません。ゆっくりとの信頼を得てこその一人前のゆっくりトレーナーです。
それでは最後に、これを読んだ駆けだしトレーナーがゆっくリーグで会うことを………………
ゆっくりもんすたあ~スカーレットレッド~ 第二話「少年の戦い、れいむのたたかい!」
「ふ~ん、へぇ、ほお」
カザハナタウンにサヨナラバイバイしてからほんの一時間。
僕はメディカルセンターから貰った入門書を片手に、隣町のトキハシティに向かう道路をのんびりゆっくりと歩いていた。
「ゆ~ゆ~ゆ~」
で、僕が最初にゲットした初めてのゆっくり、れいむはというと歩く(?)のが面倒くさいのか先ほどから僕の頭に載ったままだ。
まるで僕の事などお構い無いように小刻みに揺れながら呑気に歌まで歌っている。
全く、これでは果たしてここに書いている信頼なんて得られるかどうか分かったものではない。
「そろそろ降りろよ、首がしんどくなってきたぞ」
「はっ!おなさけで付いてきてもらっているのにその言いぐさったらないね」
「んだと?お前は僕に捕まって、それ故に僕はお前のご主人様。ドューユーアンダンスタァン!?」
「ガキが」
「生首こんにゃろう」
一回お仕置きのためにれいむを小突こうとして僕は頭の上に拳を移動させるが、れいむはそれをジャンプして難なく躱し逆に頭の稲妻で腕を切ってしまった。
「ぎゃうぅ!このぉ」
「………さすがにそれは自業自得、としか言い様がないね」
くそっ、何でこんな生意気な奴捕まえちゃったんだろうなぁ。
けれど実際コイツを捕まえようと思ったのは僕自身。どう考えても結局自分自身に対する後悔しか生まれてこなかった。
「ところでけがはなおったの?」
「急に気を遣うな。まぁ一応大丈夫だったけどさ」
メディカルセンターでれいむを休ませようとしたところ自分が運ばれたことを今でも覚えている。
今僕の額には大きなガーゼが張られていて、その上からバンダナを巻いてる状態だ。これが地味に圧迫される。
だったらバンダナを外せ、とでも言いたくなるが、れいむが僕の髪の上を直に載りたくないのかそれを拒否しているのだ。
この紅い髪、結構自信あるのに。
「赤いバンダナだから血で汚れたってあんまかわんないよ!」
「ならお前のリボンも血染めにしてやろうか!」
「れいむの赤は紅白の赤だよ!そんな血の汚い色と一緒にして貰っちゃこまるね!」
「紅は格好いいんだ!何でそれが分からない!!」
「ちんちーん」
れいむを掴んでそのまま頭突きでもしてやろうかと思った瞬間、茂みの中からその様な気の抜けた声が聞こえ、僕とれいむはその方向を振り向く。
「お、とうとう来たか」
この状況をセオリー通りに言うならこうだ。
やせいのゆっくりみすちーがあらわれた!!
孫子とバトルが出来なかったからこれが初めての戦闘、つまり格好良く言うと初陣となる。
それに相手は昨日取り逃したみすちー、きっと別個体だろうけど俄然リベンジの炎が燃え上がってくる。
「というわけだ!いけ!れいむ!」
「はいはいゆっくりゆっくり……かかってこいやぁ!!」
「ゆぅーーー!と、とおりまだぁーーー!」
何か悲痛な叫びが聞こえたような気がしたが気のせいにし、ゆっくりバトルが始まる。
とりあえずバトルにおいてトレーナーがやることは、ゆっくりに命令を与えること!
「よし!れいむ!まずは、空間縮尺<エアリーズ>!!!」
「……………………は?」
あれ、伝わらなかったかな。
「ええと、つまり相手を高速で攻撃してそれで攻撃し終わったら高速で距離を取る………だから空間縮尺」
「な、なにいってるかがわからない……………ぎゃん!」
れいむがまごまごしている間にみすちーが口を尖らせてれいむをつついてきた。れいむはそれから逃れようと必死に逃げ回る。
「だからさっさと攻撃しろい!とにかく今説明したので!」
「全然理解できないから、ゆっ、もっと簡潔で、ゆっ、ああもうじれったいよ!おらっおらっおらっ」
れいむは僕が言ったことを完全に無視し、みすちーのつつくを躱して一転みすちーに執拗な頭突きを繰り返す。
それによってあっと言う間に形勢は逆転、それに頭突き(もしかしたら体当たり)の方が威力は強いためか完全にれいむの方が優勢となった。
「ちくしょー、もうこねぇよぉぉ!!!」
とうとうその頭突きに耐えきれなくなったのかみすちーはれいむから一目散に逃げ出し、そのまま茂みの中に帰ってしまった。
………………これで一応勝ったことにはなるんだろうけどやっぱり釈然としない。
「おい、なんで僕の言うこと無視したんだよ」
「自己のパーソナリティに浸りきった命令がわからなかっただけだよ、ゆっくりかんけつに言うと……独りよがり」
そのれいむのやたら生意気な態度に怒ってやろうかと思いつつもその言葉に納得している僕がいる。
やっぱまだ僕は一人でやる癖が抜けきっていないのだろうか、いきなりこう辛辣に言われては涙も出てくる。
「…………………………折角徹夜で考えた戦法なのに」
「それがあれ!?よく考えたらあれただのヒット&アウェイ戦法だよ!!だいたいなんなのさエアリーズって!
厨二にも程があるね!それを人に押しつけるなんてぐのこっちょうでしかないよ!そんなんだから『ガキ』なんだよ!」
「……………ぐぐぅ」
れいむの弁論に僕は反論も言えずただ立ち尽くすしかない。けどれいむはある程度文句を言った後一つの溜息をついてこう言った。
「だから、この旅でゆっくり成長していってね!!!」
「お前………」
貶しに貶して最後に甘やかす戦法、これがツンデレなのか。もしゆっくりじゃなかったら惚れている。
僕はその甘い気持ちに動かされるようにれいむを手に取りそのまま顔に近づけた。
「れいむ…………」
「しゅんおにーさん………………」
そして口と口とを合わせようとする直前視界が消え、激しい痛みに襲われた。
「調子にのんな」
僕の愛という名の邪念を察知したのかもみあげで見事に瞳が突き刺され、まともに前を見る事が出来ない。
所謂愛の鞭か、もしくはビスマルク。
「ゴメン、流石にHENTAIすぎた」
「若いうちからゆっくり好き好き好き好き大好きだと碌な大人にならないね!何処の誰かはいわないけれど」
「………そだよな」
この生意気で太々しい表情のれいむから送られる有り難いお言葉、普段なら耳が痛くなるのに今日だけは何故か聞き心地がよかった。
それは僕がこの言葉の意味をしっかりと理解しているからだと思う。互いに理解できる関係がこんなにも気持ちが良いものだと知っているから。
相手はそう思ってないかもしれないけど。
「むふふん!れいむを崇め讃えよ!」
「そういうお前も調子乗りすぎ、ハハハ」
「…………………………………………………………………………………」
「‥‥‥‥‥‥‥‥?」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
そうして小突き合いながら歩いていると、三点リーダーを無駄に多用しているような気配を背後から感じ取り、立ち止まって振り向く。
ゆっくりでも近づいてきたのかと思ったが茂みではなく木の影に隠れている辺り違うようだ。
「ゆ?どしたのさ」
「何かいるんだよ、後ろに」
「あ、ホントだ。ズボンのポケットがベロ出してるね」
「それにぼさぼさの頭が樹皮に引っかかってるように見えるし」
「かかとも踏んじゃってるし」
「うるせえええ!!!!」
いとも簡単に挑発に乗ってくれて隠れていた影は僕達の前に姿を現す。
姿を現す前は単なる怪しい影だったが姿を現せば一転普通の子供だった。
髪はぼさぼさ、服はドロドロ、僕よりも背が低い普通の元気な子供である。
そしてゆっくりボールを腰に付けていることからコイツはゆっくりトレーナーだとすぐに分かった。
「で、なんで僕達に付いてきたのさ」
「ストーカー!」
「違う違う!」
「じゃ追っかけか、流石僕って言ったところだな」
「うぜぇ…………………………とにかく!俺の名前はジロウ!今からお前にゆっくりバトルを申し込むぜ!」
ウザがられた………じゃなくて、ゆっくりバトルだって?
「ならさっさと姿を現せばいいのに!やっぱりお前僕の追っかけだな!」
「マジでウゼェ!!!!」
本気でジロウとやらは僕をウザがり、腰に付けているゆっくりボールを目の前に掲げる。
そしてそのボールの中から手持ちゆっくりであろうゆっくりナズーリンを出した。
「へっ!さっきの戦闘見てたけどあんたズブの素人じゃねーか。だから鍛えるにはちょうど良いかと思ってよ!」
「はん!赤一色と紅白なんかにゃまけないよ!」
「んだと!?」
確かにズブの素人であることがどうしようもない事実であり、それは素直に受け止めるべきであろう。しかし僕らを踏み台にするような言動はどうにも許せない。
しかしここでキレて手を出すほど僕は子供ではない。僕達は日に日に成長している。昨日の自分はもうおらず、今この場所に存在するのは現在の自分だけである。
だからこういうとき僕達は何をするかというと。
「バトルで徹底的にぶちのめす!!」
「アイアイサー!!」
こうして、初めてのトレーナーとのバトル。僕とれいむはとにかく怒りと憎しみを込めて立ち向かうのであった。
たんぱんこぞうのジロウがしょうぶをしかけてきた!!
「いけっ!ナズーリン!」
「こちらもブチ倒せッッ!れいむ!!」
互いに手持ちは一体のみ、相手の情報があった方が良いと僕は念のためゆっくり図鑑を取り出し目の前のナズーリンの情報を引き出した。
/::::::::ヽ、 /´:::::::::::ヽ
/:::::.,-ー、:::::l l:::::.,--、:::::l
l::::::! l:::::l ヽ::::i l::::l
ヽ ,!、___,ノ'´ ̄'"'" ゝ.i、_ノイ
/ ヽ
/ r 人
ノヽノ__ノ-;ノ人ハ__/_」_ヽ_ヽ___\
| ノ (ヒ_] ヒ_ン )Y! (''''''
/ i ,___, i ヽ
( 人 ヽ _ン / | )
''''ヽ >.. ..,____,,,.. .イ/ノ / ゆっくり図鑑 No,139 なずーりん
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ねずみ だけど ねずーりん じゃない。
でぃ○にー やら ぴか○ゅう ねた で はめつを まねくぞ
…ねずーみん? おまえ わざと まちがえてる だろう…
伏せ字に何が入るかは知らないがとりあえず電気技は出さないねずみであることが分かった。
ネズミというならばきっと素早さが高い。最低限一方的に攻撃されるヒット&アウェイ戦法をとられないように注意した方が良いだろう。
「いけっ!でんこうせっか!」
「なずっ!」
だがそう考えていたその間にも相手のゆっくりナズーリンは目にも止まらぬ速さでれいむに接近しその勢いを持って尻尾ではたきつけた。
「ぎゃん!」
「ひ、怯むな!反撃しろ!」
「こ、このっ!」
れいむはすかさず反撃の頭突き(もしくは体当たり)を繰り出そうとしたがほんの少し遅れ、間一髪という所でナズーリンに躱されてしまった。
相手がバックステップ術を持ってないことで安心したが、やはりれいむは先ほどの戦いのダメージが残っている。
もしもう一回ほど野生のゆっくりと戦っていたら、今よりもっと不調になっていたに違いない。
「あっ!まさかテメー!僕達がもっと消耗したところを襲うつもりだったんだろ!」
「へっ!その通りだよ!まぁ失敗に終わったけどな!」
卑怯な奴と対峙すると何故だか知らないが心の底からジンジンと怒りとやる気の炎が舞い上がってくる。
一年前目指した正義の味方になる夢、やっぱりまだ僕の心に残っていたんだろう。
「れいむ!そのまま相手を追って攻撃しろ!」
「へん!ようやくわかりやすくなったね!そいゆっ!」
れいむはすかさずナズーリンを追いかけるがやはり素早さの面では勝てず、一向に追いつくことが出来ない。
しかしぴょんぴょん跳ねてる姿はいつ見ても可愛いものだ。ゆっくりならではの健気さがある。
「ふふ、いけっ!ナズーリン!でんこうせっか!!」
そんな事考えているうちに突如敵のナズーリンは踵を返しれいむに突進する。
恐らくこちらのの勢いを利用して攻撃力を上げようと思っているのだろうが、逆に攻撃に出る良いチャンスだ。
「れいむ!なりふり構わずぶちあたれ!!」
「ゆーーーーーッッッ!!!」
ナズーリンの尻尾がれいむの横頬を叩くがれいむは怯むことなくそのままナズーリンの顔面にぶち当たった。
そのまま倒れたナズーリンにマウントポジションの体勢になってそのまま何回も頭突きを繰り返していく。
「ちょやめ、一面ボスだからって、このあつかいはぐへっっ」
「ちょっ!レフェリー!ストップストーーーーーーーーーーーープ!!!ロープブレイクゥーーー!」
「んなものねぇよ!そのままやっつけちゃえ!」
そのまま続けて倒せればよかったが、ナズーリンは苦し紛れに尻尾を振り回してれいむを弾き飛ばし体勢を整える。
だが二人とも満身創痍であり、恐らく次の一撃で勝負が決まるだろう。
「て、てめぇ………よくもうちのナズーリンを……ただじゃおかねぇぞ!」
「はぁん、弱った敵に苦しめられる気分はどうですかぁ?」
とは言ったものの相手の方が素早さ高いぶん、相手の方がどうしても有利だ。油断は許されない。
的確な指示をと言いたいが、今の僕に出来る事はない。まだ僕は未熟だ、下手に命令してれいむの動きが遅まったらどうしようもない。
「……………………そらっ!!!」
「どりゃあ!!!」
間に沈黙を置かず、まず敵のナズーリンがれいむに向かって突進していく。
それに続くようにれいむもナズーリンに向かっていった。一歩遅れた状態だが、取り返せないほどではない!!
「ゆっくり!ぶつかっていってね!!!」
「ちゅーーーーーーーーー!!!!」
ナズーリンとれいむの体がぶつかり合い、その体勢で二人は動かなくなる。
勝ったのか、負けたのか、引き分けたのか、僕とアイツはとにかく固唾を呑んでこの光景を見つめ続けるしかなかった。
「ナズーリン!起きろ!起きろよぉ!」
「れいむ!立て!立つんだよ!」
「………………………ぐ」
「………………………うう」
二人の声援が飛び交う中、ゆっくりと、ゆっくりながらもれいむはナズーリンから離れ支えが無くなったナズーリンは力なく倒れる。
力の差、そして体の大きさの差が決定的となったのだろう。
これを見て僕は勝利を確信しそうになったが相手のナズーリンは弱々しくも再び立ち上がった。
「な、なず………………」
「お、おい!無茶すんな!ナズーリン!」
「ふ……………こ、これで……終わらぬ!五面中ボスをなめんなよぉぉ!!!」
もはや立っているのが限界のように見える相手のナズーリン。しかしこの自信は一体何処から湧いて出ると言うのだ?
「き、気をつけろ、れいむ」
「わ、わかってる、よぉ」
一騎打ちには勝ったがれいむの体力も相当疲弊しきっている。
例え相手の攻撃力でも一撃でも食らえば即KOにもなりかねない。どうか相手の自信がハッタリであるように願うしかなかった。
「はぁぁぁーーーーー!!!!なずーーーーーーーーーー!!!!」
「な、ナズーリン!!!お前!」
突如相手のナズーリンの体が万遍なく光り輝く。
そういえば聞いた事がある。ゆっくりは強くなるごとに所謂『進化』する個体があると言うことを。
もしその進化が行われたら、僕達はもう勝てない!!
「し、進化したって、れ、い、むは………ま、まけない……ゆっ…………」
「れいむ………」
ここまでボロボロなのにれいむは諦めることをしない。
それなのに、僕は殆ど何も出来なかった。今は、祈ることしかできない。
「ナズーリン!!進化ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
__ ,....-─-、
/::::::::::::::::::::ヽ、 /:::::::::::::::::::::::ヽ
/:::::::::::::::::::::::::::::::ヽ /::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l l::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l
l::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l l::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l
l:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/_,.......-;,==-...ヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l
l:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/
ヽ::::::::::::::::::::::::::::::/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::/
ヽ、:::::::::::::_/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::¬-'´
/::::::::ヽ、 /´:::::::::::ヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l:|┣¨┣¨┣¨┣¨・・・
/:::::.,-ー、:::::l l:::::.,--、:::::l.l :::::::::::::::::::::::::::::::::::::l:l
l::::::! l:::::l ヽ::::i l::::ll::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l:l
ヽ ,!、___,ノ'´ ̄'"'" ゝ.i、_ノイ|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::.l:l
/ ヽ l::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l::l
/ r 人::::::::::::::::::::::::,,'i:::::::::::::∠く あまり私を怒らせない方がいい・・・
ノヽノ__ノ-;ノ人ハ__/_」_ヽ_ヽ___::::::::::::::::::,,-''゙ |:::::::: l
| ノrr=-,:::::::::::r=;ァ )Y! (' ::::::,,-''゙ ,!::::,/) ./
/ i ,___, i ヽ ::r''゙ _,;=‐''゙~:/ /
( 人 ヽ _ン / | )::\ ゙ヽ::::: /
「わーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!キャンセルキャンセル!!BBBBBBBBBBBBBBBBBB!!!!」
「ぐっ、社会はシビアだねぇ……………がくっ」
なんだかよく分からないが……相手方がキャンセルしてくれてそのままナズーリンはダウンしてしまったようだ。
僕はほっと胸をなで下ろし、そのままれいむを抱きしめた。
「やった!やったぞ!トレーナー戦初勝利だ!!」
「ゆぅぅぅ………やったね」
「ナズーリン!!!」
短パン小僧のジロウはダウンしたナズーリンへ駆け寄ってそのまま抱きしめる。
その目には涙がうっすらと溜まっていて、負けたことよりも自分のゆっくりが傷ついたことに泣いているようにも見えた。
「………………なんだよ、笑えよ。瀕死の状態を狙って襲いかかった男の末路だよ!」
「……………………いや、さ。なんだかんだで真面目な戦いだったし……」
戦っていてそれなりに気持ちがよかった、言うべきか初陣が清々しいものであったから、と言うべきか。
とにかく心残りはない。ちゃんと健闘をたたえ合って握手でもしたいくらいだ。
「……………………このっ!」
けれどジロウは僕から逃げるように距離を取り、涙目ながらも強烈な敵意を僕にジンジンと送ってきた。
「このやろー!!!俺は今からトキハシティのメディカルセンターでナズーリンを回復させて、再びお前に襲いかかってやるから!
覚悟しとけーーー!!!赤一色めぇーーー!!!」
すっかり腫れ上がった目であっかんべーをし見事な捨て台詞を吐いてジロウはそのままトキハシティの方向へと逃げ去っていった。
一応元気そうでよかったが、相当憎しみが籠もってたな……リベンジが地味に怖い
「………………で、れいむ」
「いまんところはもうたたかえないかもしれんね」
…………………えっと、今れいむはさっきの戦いで疲弊しきってもう戦えない状況だ。
そして、トキハシティまでまだまだ遠い。
「はっ!野生のゆっくりの気配が!!」
こんな所で襲われたらひとたまりもない。とにかく僕はれいむを抱え一直線に草むらを駆け抜けていった。
「ゆっゆっゆ………」
「どうしたのねぇさん、こんな道の真ん中でふんぞり返って。こんな事しても所詮一面中ボスなのよ?すぺかもないもみじにさえ人気でまけてるのよ」
「ふふふ、このあきしずは。人気を得るために一世一代の賭にでるわ」
「なによ、賭けって。エイヤシティにあるゲームセンターの別名『幽々子沼』と言われる巨大スロットで稼ぐわけ?」
「そんな、無謀な賭けはしないわよ………それにあそこ現金だし……」
「じゃあどうするの?」
「ふふ、風の噂、きめぇ丸から聞いた話だけどなんと最近カザハナタウンで新しいトレーナーが誕生したとか何とか……」
「へぇ~……………まさかねぇさん!!」
「そう、その通りよ。そのトレーナーにわざと捕まって私は栄光の道を行くわ!」
「そんな!下手したらモブで出てくるゆっくりに落ちぶれるかもしれないのよ!!!」
「今よりはいいわ、だから言ったでしょう?賭けって……それに若い少年に夢を預けるってのも悪くないわ」
「………分かった。このみのりこも影ながらサポートする。一撃で倒されそうになったら回復の木の実を。なかなか捕まれなかったら眠り粉をお見舞いするわ!」
「みのりこ………一面ボスで妬ましいと思っていたけど……実に姉思いね」
「ねぇさん………………」
「……来たようね、このしずはにはわかる」
「それじゃあねぇさん、トレーナーの元でもゆっくりしていってね」
「ええ、みのりこもこの森でゆっくりしていってね、そして私の必殺技『メイプルストーム』の威力を全国に見せてやるわ」
「……………」「………………」
「来るわ!」「頑張ってねぇさん!!」
「はぁい!!!私はお茶目な秋神様のゆっくり、しずはよ!草タイプは弱点多いって言うけど私はそんな戯言気にしないわ!
私がいればみず・じめんタイプのすわこやいわ・じめんタイプのてんこなんてちょちょいのちょいよ!
さぁわたしを捕まえて、そして私を栄光の座に!」
「ウララアーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!」
「はりけぇん!!!!」
「みきさぁーーー!!」
「ん?今なんか跳ね飛ばしたか?」
走り続けて約二十分ぐらいだろうか、追ってくる野生のゆっくりはいるもののまだ一回も正面から会ってないのは幸運と言うべきだろう。
だが走りを止めればこの僕をゆっくりさせに来るゆっくり達が容赦なく襲いかかってくる。
追いつかれてしまったら一体僕はどうしたらいいのだろうか。
暴力で追い返すべきか、説得して追い返すべきか、そもそも本当に手段があるのだろうか。
なら今はれいむを守るために走るしかない。とにかく全力で。
「………………」
…………………ふと、今僕はがむしゃらに頑張って走ってるんだなぁ、と全然関係ないことを思ってしまった。
でもあんなに嫌われていた頑張りも周りに嘲笑する人がいないだけで清々しい気分になれた。
それが他人のためであれ、自分のためであれ。頑張ることは本当に素晴らしいと思う。
「ゆぅ~~」
「そろそろか!?」
道も次第に開け、僕は整備された道にようやく足を踏み入れることが出来た。
このまま真っ直ぐ進めばトキハシティに着く。その考えだけを心の中に留め僕は走る。
「こらぁーーー!!このしずはさまを突き飛ばすだなんてなんていじわるなぐへぇ!!!」
「おらおらおらああああーーーーーーーーーー!!!」
ここまで来れば後は全速力で走ればいい。
例えさっきのアイツがリベンジしに来ようとも、人気を欲しがるゆっくりが現れたとしても全て跳ね飛ばすほどの速度で走りきってやる!!!
「!町が見えたぞ!れいむ!」
「あ~はいはい、がんばれがんばれ」
腕の中で息絶え絶えにしているれいむのために、今、僕はようやくトキハシティへと足を踏み入れた!
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ついたぁ!」
「どつかれさん~~」
この時僕は初めてカザハナタウン以外の町に足を踏み入れた。
それまではテレビや雑誌とかでしか見た事がなかったよその町、幻想としか思えなかった物が僕の目の前にきちんと存在している!
そして僕は思う、意外とカザハナタウンと変わらないなぁ、と。
「早くメディカルセンター行かなきゃ」
ここまで来ればもう焦ることはないだろう。とにかく心を落ち着かせ、僕はゆっくりゆっくりと歩いて行った。
「ゆんゆんゆゆゆ~ん」
お決まりの回復音を口ずさむ声を聞きながら、僕はメディカルセンターのソファで横になり精一杯体の筋を伸ばしていた。
流石に二十分間連続爆走は足に相当な負担をかけたようで気を抜いたらすっかり歩けるほどのエネルギーをすっかり失ってしまった。
それでも無事に着けたことは素晴らしいこと。この疲労感を心地よく感じていよう。
「………………………しかし、やっぱ人多いなぁ」
この町にはちゃんとフレンドリィショップがあるからかトレーナーの数も多く、ここのメディカルセンターはカザハナタウンのよりもずっと混んでいた。
大人のトレーナーもいれば僕よりも小さそうなトレーナーまでいて、それぞれ自分のゆっくりを心配したり単なる休憩所代わりにしたりと、
カザハナタウンのメディカルセンターでは全く見られないような行動を取る人までいて地味に感心してしまった。
これが外の世界なんだ。僕が知る由もなかった本当の世界。
僕は起き上がりこの慣れぬ空気と医療関係特有の臭いを十分堪能していった。
「………はて、アイツの姿がないな」
体をぐりんぐりん捻って廻りを確認するが、見知った顔はなくあの小憎たらしい小僧の姿は見当たらなかった。
確かアイツはこのトキハシティの方へ逃げていったから十中八九ここに寄って自分のゆっくりを回復させているはずである。
入れ違ったのかそれとも寄り道でもしているのか、どっちにしたってここに向かう途中で出会わなくてよかったと僕は胸をなで下ろした。
「相次さ~ん、治りましたよ~」
「ゆっっ!!」
とそんな色々と思索を回している内にれいむも治ったようで、えーりん柄のナース服を着た看護婦さんがれいむを抱えて来てくれた。
れいむは看護婦さんの胸から力を込めて嬉しそうに跳ね、そのまま僕の胸に飛び込んできた。
「はぁ~~もうくたびれたよ!」
「こっちだってそうだよ、どんだけ走ったと思ってんだ」
二十分フル爆走(短距離用)なんて普通なら出来るはず無いのだが、あの時は一生懸命だったから痛みも疲れも忘れて走りきれたのだ。
その代償が今の痛みなのだが。動かせるだけマシだろう。
「で、貴方の方は大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。足だってほら動きますし」
「そっちじゃなくて、そこよ」
看護婦さんは前屈みになって僕の額を指差す。
そこは昨日怪我した場所だ。思えばあれから一日しか経ってないんだから治っているはずがないなと、僕は何の気なしに思った。
「それに腕も怪我してるじゃない」
そこはれいむをお仕置きしようとこのバンダナの飾りで傷つけたところだ。
「目も充血してるわよ」
そりゃあ先ほどれいむに目を突かれたから。
………………………………………………怪我しすぎじゃないか?この二日間で。
「一応手当しておく?」
「…………………お願いします」
「ん~~~~やっぱガーゼ替えると傷口も清々しく感じるな~~~」
額のガーゼも新品にして貰い、腕もきちんと手当を受け、目もしっかりと目薬を差して僕の方の治療も大分終わった。
とりあえず傷が塞がるまで無茶はしないこと、と言われたが隣町行くだけでこのありさまだ。これからの旅はもっと大変になるだろう。
「こんな無茶ばっかやってると体壊しちゃうわよ?まぁ元気なのは一番良い事よ」
「面目ない」「だね」
「さっきだってゆっくりナズーリンを抱えた子が泥だらけになりながら駆け込んできてね、
それがもう擦り傷だらけで手当てしようと思ったら『自分よりも早くナズーリンをお願いします』って必死な目で言ってたわ」
その話を聞いて僕はピンときた。傷ついたナズーリンというと恐らくアイツだろう。
「…………もしかしてそいつってズボンのポケット出てたり、かかと踏んでたりしてませんでしたか?」
「あ~そうだったかもしれない。でもあの子ナズーリンが治るとすぐに出て行っちゃったから姿よく覚えてないのよ」
やっぱりここに来ていたのか。
だとしたら何故リベンジしに僕の前に姿を現していないのか疑問が残る、寄り道でもしてるのだろうか?
「んっと、れいむ、お前また戦えるか?」
「あ~はいはい、一応まだ戦えますよっと、もの好きだねおにーさんも」
まぁ確かに進んで相手をしてやるなんて物好きかもしれない。でもどうせ見つかったら襲われるのであれば
こっちから徹底的に潰すのが僕にとっての最善策なはずだ、決して恨みで動いているワケジャナイヨ。
「じゃあ、行くか」
「気をつけてね~トレーナーさん」
そう看護婦さんに見送られながら僕はそのボロボロの足でメディカルセンターから出て行くのであった。
と、出たのは良いが何処に行ったらいいか全く見当が付かない。結局その辺の歩道で立ち往生する羽目と成った
「早めに見つめて早めにぶちのめしたいからなぁ、れいむ何か心当たりある?」
「なんでこっちにふるのさ」
「いやだって僕らはもうパートナーだし………」
もしかしてそちらからはパートナーとして思われてないのだろうか……ちゃんと先の戦いで的確な指示をおくれてればよかったなと何度も反芻する。
「結構ギリギリなたたかいだったからねぇ、もう一回戦っても確実に勝てるとはおもえないね」
「そうだよな、問題はそこだ」
だが、互いの実力が拮抗していることを逆に言えば相手も勝てる確信がないはずだ。
今から勝つために特訓しようにも時間はない。なら時間をかけずに優位に立てる方法を模索するべきか。
そう考えるとアイツが何処にいるか予想は付く。
「フレンドリィショップ………かな?」
「ふれんどりぃ?なにそれ」
「カザハナタウンにはなかった物だよ、主にゆっくりバトルに関する物売ってるってこの本に書いてあった」
傷薬とかゆっくりのステータスを上昇させるアイテムとかそういう戦闘の役に立つアイテムが揃っている、それがフレンドリィショップ。
手っ取り早く勝つ方法を得たいのならここでアイテムを買えば良いだけの話である。
とりあえず奴の居場所に目星は付いたがそこまで考えを進めて僕は本質的なことを見失っていたことに気がついた。
「やばい!アイツにアイテム買われる前にぶちのめさないとまた負けるぞ!」
「あっ!そういえばそうだね、負けるのはいやだよ!」
看護婦さんもさっきと言っていたからアイツはまだフレンドリィショップに着いていない可能性はある。
ほんの僅かだが無いその可能性だが、今この最大の正念場を逃すわけにはいかない!
「いくぞっ!れいむ!しっかり捕まってろよ!」
「OK!」
こんなボロボロの足でもまだ走ることが出来る。だからまた僕は頑張れる!!!
「でも道わかんねーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」
最終更新:2010年10月18日 13:32