「こんな味は『Night sparrow』でも『河城飯店』でも『kuneri guru』でも食べたことがないぞ!作った人は誰なんだ?」
料理が運ばれてからだいぶ経った頃、料理を食べた中年の男性がそうメイド長に質問する。
メイド長はその質問に対し笑顔で、けれど淡々な口調でこう返した。
「あら、つまりあなたはこう言いたいのですね。『コックはどこだ!』」
「ふざけないでもらいたい!こんな味本当に料理で作れるのか?私はそれが知りたいだけだ」
別に悪口を言っているわけではない。だがそのあまりの美味さにどこか不自然さがあっただけなのだ。
「あら、魔界ギアノスのモモと魔界リオレウスの尻尾で作れば簡単だと思いますけれど?」
そのメイド長の発言に誰もが何を言っているんだ、といった顔で首をかしげる。
ただ一人、魔界と天界にそれなりに詳しいりりーだけを除いて。
「まさか!きさまは!」
「あらヘッドスプリング天使。あなたは食べなかったのですね」
「正直お腹いっぱいだったのですよ……無理にエセ団欒に参加させられましたから~」
「………ふふ、と言うとあの二人も……まぁいいですわ」
メイド長が自分の顔に手をかけるとゆっくりの目から一瞬にして悪趣味なアイマスクに変貌する。
そう、彼女はミスティさくや。ユクリールと対をなす悪魔のゆっくり少女である!
それとともにメイドたちも自らの正体『魔界メイド妖精』へと姿を変えていった!
「え、え、え!なにこれ!なんかのアトラクション!?」
「愚民はすぐそうやってドッキリに期待する。どうしてそうテンプレで愚かなんでしょうか?」
ミスティさくやは溜息をついたがすぐにスカートの裾を掴んで皆に向かって形だけのお辞儀をする。
「まぁよろしいでしょう。それでは皆さま、これから始まる完璧で瀟洒な悪魔のパーティを存分にお楽しみください」
ほとんどの乗客は全く事情が呑み込めずにただ困惑するしかなかった。
だがそんな中、一番始めに料理を食べたゆっくりありすが突然うめき声をあげて苦しみ始めた。
「う、う、ううううううううう!」
「どうしたんだぜ!?ありす!おなかでも壊したのかだぜ!?」
「う、う、う、う、」
,,. ' "´ ̄`"'' ..,
, '´ _,,-======-,, `ヽ、
r´ r´,、 i´ `ヽ、 、', ',
ノi レ'-ルi λ ,-i-ノi '、i
レi ,.イ ,r=;,レ´ V r;=;、iイル' .i
i i イ ! ヒ_,! ヒ_,! ! i iイ i 「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
イ!/i "" ,___, "" i iレ' ゝ マリサァァァァァァァァァ!!!
_ノ i iヽ、 ヽ _ン ,.イ i ゝ'i
_,.r'´ ̄ 〈/レル`' .'´ ルレVノ〉
_,..r'´,,.... _ ヽ `ヽ、_,..-‐´ `ヽ、
,'´ _,r'´ ⌒ヽ< /_∠、_ 〃′ __ `ヽ、
i ,r'´ ` `/ ⌒ ⌒ヽ' ̄ `ヽ `)、
!_ ⌒/ ,r'´ ̄ _ , ;;,,, ヽ.
,r' ,′ / ヽ、 i
/ ! ,′ ′ !
,i !、 i 入. _,、_ ,. !
!/ ト、_,.-‐´ `、 ノ / `´ `Y'´ Y
,イ ⌒ヽ、 ,!、 ` ‐ 、. ′,′ `i
_ノ、 Y、i、 _,..-―-.、_ ` ヽ 、_,.-l,i .l !
./ .!、 `ト、_ \!' `ヽ、_ ,; イ il , i __、 )
〈 ヽ `ヽ、_. `ヽ、 、 、_人 Y 〉 ' V
`、 ヽ、 ヽ、>ー-- !^ ,l、|_, ! !
`;、 ` \__,..--..、 ヽ ',r'´ 〈. !
ヽヽ、 ,r'´ ̄ ヽ ̄`、 ヽ-‐'´ ̄ ) !
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
ありすが整形&マッチョになったことでホール中が大パニックになる。
近くにいたまりさはすぐさま逃げようとしたがありすの巨大な手で捕まってしまった。
「マリサ、マリサァァァァ!!!」
「うわあああああああうわきしてごめんなさいだぜぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ありすが変になったのを皮切りに幾人かの乗客達も同じようにマッスルで不気味な表情となって他の乗客を襲い始める。
ミスティさくやと悪魔メイドたちはそんな惨状とも言える光景を傍から眺めて高らかに笑っていた。
「ふふふふ、どうかしら魔界肉の体力増強、性欲増大の効果は……ああ、なんて素晴らしい混沌な状況でしょう」
「うー、流石だぞぉー、何か今日はいつもと一味違う。一時間スペシャルって感じぃ~?」
おかしくなった人々から辛うじて逃げだした人はすぐさま扉の方へと向かう。
だが入るときは緩やかに人々を迎え入れてくれた扉は押しても引いてもこじ開けようとも、
そして無理やりテーブルをぶつけようとしても決して人々を通すことはしなかった。
「あ、あけてくれ!!あけてくれぇぇぇ!!!」
「無駄無駄ァ、今この部屋は私の空間固定によって外界から完全に遮断されております。
中で何をやろうが外で何が起ろうが、決して伝わることはありませんのよ!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!マリサァァァァァ!!」
「ムキュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!マリサァァァァァァ!!」
「カッパッパァァァァァァァァァマリサァァァァァァ!!!」
「ウーーーーーーーーーーーーーマリサァァァァーーーーー!!!」
「なんでまりさばっかりねらわれてるんだぜぇぇぇぇぇぇ!?」
ま、それはプレイボーイ(ガール?ゆっくり?)だったからじゃないでしょうか。
あんまフラグ立てるなって神様が囁いているのでしょう。
「おねーさん!はやく起きるですよーーーー!!!朝ですよーーーー!!春ですよーーーーー!!!」
「う、うう」
ありすが変貌した時りりーがすぐさま二人を机の下に隠してくれたのでおねーさんとさなえはなんとか被害を受けずに済んだ。
だが見つかるのも時間の問題だろう。りりーはいつにも無く必死な声で二人の体をゆさゆさと揺すった。
「うー?あの二人の姿が見えないぞぉ~?」
「どうせいつか現れるでしょう。それまではゆっくりこの光景を楽しみましょう」
「ふん、そうやっていつも変身前に倒さないでやられてばっか、今日はオ・ゼウ様が直々に殺しにいくうー」
そんなこと言ってれみりゃはパタパタと背中の羽を羽ばたかせて一人でホール中を探し回る。
マッチョな人間やゆっくりが暴れ回っているがその陰に隠れている様子はない。ならばテーブルクロスの影にでも隠れているのか。
そう考えてれみりゃは荒れ狂うホールをかぎ分けて一つ一つテーブルの下を確認していった。
「ど~こ~か~な~うーーーー……」
「スプリングパンチ!」
だがれみりゃがりりーたちのいる所の隣のテーブルを調べた時、りりーの明らかに射程外だったはずの不意打ちがれみりゃの後頭部にヒットした。
「うぎゃああ!あぎゃ!」
そのままれみりゃは殴られた勢いで大きく吹っ飛び、床で怯んでいる間にも変になった人々に何回も何回も踏まれていった。
「説明するDEATHよ!スプリングパンチとは春天使がこのゆっくり状態で使えるメインウェポンなのですよ!
腕をばね状にすることによってリーチを二倍三倍に、また威力も比例するように増大するのですよ~!」
「スプリング違いじゃぼけ!あぎゃん!しゃくや~たすけてぇ~~」
「やっぱりオ・ゼウ様は役に立たないですねぇ、仕方ありません」
ミスティさくやはまた一つ溜息をついてひょいひょいっとテーブルの上を華麗に渡っていく。
そして変になった人たちに当たらないようにゆっくりとりりーの前に降りていった。
「う、なんですか~!?り、りりーだってたたかえるのですよ~スプリングパーンチ!」
りりーは威勢よく目の前のミスティさくやに拳を振るう。
しかしその拳は何故か空を切りミスティさくやに届くことはなかった。
「…………………………」
「………………………あ、伸ばさなきゃとどかないのですよ~よいしょ」
りりーはすぐに右腕をテーブルの脚にひっかけようとしたがその前にミスティさくやに尻を蹴られた。
「ひゃん!天使のお尻はデリケートなのですよ~『天使ちゃんマジ天使』という名言を知らないのですか~!?」
「知りませんね、それにあなたはそれを言ってもらえるだけの価値があるのでしょうか?」
「御存じないのですか!りりーこそ超時空シンデレラ!リリリエルちゃんです!」
いらついたミスティさくやによってりりーは再び尻を蹴られる。さっきは足の甲だったが今度は爪先で蹴られたので痛みに耐えきれずに転げ回った。
「…………さて、不本意ですがこのままあの二人と決着をつけましょうか」
つまらなそうにさくやはそう言ってスカートの中から片手剣と同じくらいの大きさの銀製ナイフを取り出す。
さくやはそのナイフを目の前に翳していったん目をつぶる。そして一呼吸置いてテーブルの中心めがけて振り下ろした。
「………………ふふ、このまま切身が出来ていたらどうしようかと思っていましたわ」
「……………………」
テーブルは真っ二つに分かれたがそこに人やゆっくりの姿はない。
顔を上げるとそこには正義の表情に満ち溢れた人間一人とゆっくり一人、じっとミスティさくやを見つめていた。
「世界に裁けぬ悪がいれど」「目の前の悪はほおっておけぬ」「それがゆっくり出来なくて」「えっちなことなら直ゆる早苗!!」
「おねーさん!今こそ変身ですよ~!」
変になった人々にもみくちゃにされながらもりりーは自分の頭の上にある天使の輪っかをさなえに向かって投げつけた。
輪っかはさなえのちょうど頭上で静止し、輪が高速回転してさなえの体が光り出した!!!
ヤマ(ザナドゥ)ちゃん「説明しよう!普通のゆっくり高校生、ゆっくりさなえは語り部のおねーさんとの愛を原動力、
りりーの天使の輪っかを起動力にして身長135㎝の体つき!脇を出したコスチュームの背中に天使の羽が生えた
聖緩慢天使ユクリールに変身することが出来るのだ!」
「二十一本は完全禁句!緩慢天使ユクリール参上!」
「ふ、現れましたわね。ユクリール!!」
ユクリールとミスティさくや、天使と悪魔がダンスホールで対峙する。
そしてまるで
ダンスを舞うがごとく、二人の刃が交わった!
「まさかこんなところにまでくるなんて!どこまでしつこいんですか!」
「悪魔はしつこいものですわよ、魂をえぐりとるまで。ずっとずっと!だからユクリール!覚悟しなさい!」
ミスティさくやはテーブルの上を渡って一旦ユクリールから距離を取り、胸に隠していた銀製ナイフ三本をユクリールに向かって投げつけた。
「ミラクルサマーソルト!」
それに対しユクリールは強烈な縦回転蹴りで天井まで弾き飛ばす。そしてそのまま羽を羽ばたかせてミスティさくやを追っていった。
「ふふ、わかっていますわよユクリール、今あなたが弱っていることを」
「!?」
ミスティさくやは軽々とバックステップでテーブルを渡りユクリールの追撃をかわしていく。
そして今度は肩の膨らんでる所から小型ナイフ六本を取り出し両手の指にはさんで構えた。
「こんな船の中、環境が変わってなじめないことだってあるでしょう。
それであなた達はセッ(愛を確かめ合うことが出来た)のですか?」
「…………」
「そんな弱ったあなたにこれはかわせない。いけ!メイドオブクイックシルバー!!」
ミスティさくやの手から放たれたナイフは高速の域を超え光となってユクリールを狙う。
常人の目では全く捉えきれない。だがユクリールはひるむ様子もなく迎撃体勢を取った。
「ミラクルスピードスター!」
ヤマ(ザナドゥ)ちゃん「説明しよう!ミラクルスピードスターは手から二発の星を投げつける技でユクリールの技の中で一番の速射力がある!
ちなみにスピードと付いているが絶対先制の効果はなく命中率が100%という不思議な技だ!迎撃には向いてるぞ!」
ミスティさくやのクイックシルバーはユクリールの体に届く前にスピードスターによって撃ち落とされる。
それを見たミスティさくやは驚愕の表情を浮かべながらも再びクイックシルバーを連続で放つが、
命中率100%を誇るスピードスターによってユクリールの体に届くことは叶わなかった。
「ど、どうして!二三日ユクーレをためなければちからもはんげんするはず……」
「分からないでしょうか………」
ユクリールはちらりと語り部のおねーさんを見て、そしてミスティさくやに向かって高らかにこう言い放った。
「愛に場所なんて関係ありません!!いつでもどこでもわたしはあいしあっているんです!」
「そうだ!場所が変われば変わるほどそれはそれで燃えるんだぞ!」
「くっ………わたしはこの船旅で体の調子をわるくしたのにッ!」
ミスティさくやは歯をギシギシいわせながら悔しがる。
確かによく見るとほんのちょっと顔色が悪いように見えた。別に悪魔だから顔色が悪いわけじゃないらしい。
「ええい!こうなればいつもの手!ちみもうりょうどもよ!このユクリールをやってしまいなさい!」
ミスティさくやの号令によって変になった人々は一斉にユクリールに襲いかかる。
正義の味方はこのような民間人を利用して襲わせるシチュエーションを最も苦手としているものである。
力がありすぎる故の弱点。それはユクリールも例外ではない。
「ひ、ひきょうです!いつもいつもこんなことを!」
「はっ!卑怯といったらだましうちぐらいですわよ。場にある戦力を使ってなにがひきょうとおっしゃるのですか?」
筋肉の波から逃げようとユクリールは飛び上がるが、身長の点もあって足首を掴まれてしまった。
「コハアアアアア………」
「くっ!化物相手ならようしゃなくこうげきするのにっ!」
「さなえから手を離せ!!!」
ユクリールが肉の波に引き込まれる直前に語り部のおねーさんがユクリールを掴んでいる腕に体当たりをする。
そのおかげでユクリールは空に逃げだすことが出来た。しかし変になった人々の標的はおねーさんに変わったようでおねーさんは肉の波に飲み込まれてしまった。
「!い、いまたすけ」
「助けなくてもいい!早くミスティさくやを!そうすれば……」
「そ、そんな!見捨ててなんかいけません!」
「………………………」
「僕はどうなってもいい……いままでずっと僕は見てばっかだった。いつだってさなえの役に立ちたいと思っていた!」
「……わ、わかりました……ゆぅ、ううううううう」
全てを覚悟した上でにこやかに笑うおねーさんを見て、さなえの瞳から何粒もの涙が零れ落ちた。
そしておねーさんの姿は次第に肉の壁に隠れて見えなくなっていった。
「おねーさん!おねーさん!おねーーーーさーーーーーーーーーーーーーん!!!!」
「あああ!もう目の前でいちゃつかないでもらえませんか!?一人で来た私への当てつけですか!?」
何故かは知らないが唐突にミスティさくやがぶち切れ、目を血走らせながら指をパチンと鳴らす。
その号令によって変になった人々は解散し始め、そのままおねーさんが服がめちゃくちゃになりながらも床に落ちた。
パンツとブラが無事であるあたり一応貞操だけは守れたようである。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あ、あやうく
投棄場送りになりそうだった………」
すぐさまユクリールはおねーさんとボロボロになった服を抱えて比較的安全な場所まで移動した。
「残念、投棄場送りの役目はこのわたくしが直々に行うだけですのよ、行け!エターナルミークワーム!」
ミスティさくやのメイド服から何か湿っていてぬるぬるした紐が生えてきて放射状に飛びかかってくる。
その紐はその狂暴な本能のままに手当たり次第近くにあるものを縛り上げていった。
「きゃーー!」
「ゆわーーーー!」
「ノォーーー!!」
人々やゆっくりはその紐の力にあらがうことが出来ず次から次へと吊りあげられていく。
そして紐のうちの一本がユクリール達の方に向けて飛びかかってきた!
「くっ!」
「こんどはまもってみせます!!」
だがユクリール達に届くその直前、紐は急に勢いが無くなり萎み始める。
それと同時に他の客達を掴んでいた紐も次から次へと萎んでいき人々はようやく自由を取り戻した。
「あ、あれ?どういうことですの!?こらっ!元気を出しなさい!」
ミスティさくやは足元で力なく転がっている紐を掴んで必死に激励する。
いつもだったら捕まえたら絶対離さないくらいのパワーを持って(そこまでよ!)するというのに。
これにはミスティさくやだけでなくユクリールもおねーさんも疑問に思っていた。
「う、うー……あのヘッドスプリングめぇ、あいつのどこが春なんじゃあ……」
「オ・ゼウ様!これは一体どういうことですの!?」
「んあ?」
今まで気絶していたようでれみりゃは目を凝らして周りを確認する。
そしてすぐ近くに落ちていた紐をジィっと見つめてこう言った。
「ありゃ、潮でやられてるぞぉー」
「…………潮?」
「うん、ワームは潮に弱くてよわくて。耐性ついたワームはそれなりに高いんだど……れみりゃの給料じゃとてもとても……」
「……………え、じゃあ………こいつらはもう役に立たないと」
「ミラクルアクロバード!!」
長話に痺れを切らしたのかさなえさんは足をグルグル回しながらミスティさくやに向かって飛びかかってくる。
ミスティさくやは間一髪バックステップで躱すことが出来たが、服から生えている紐がどこかに引っかかってしまったようでど派手に転んでしまった。
「もういやー!ちぎってやりますちぎってやります」
「うー!やめてー!もう予備はないんだぞぉー!!」
れみりゃの必死の懇願にミスティさくやは仕方なく一本一本ずつ紐を回収していく。
その間ユクリールの攻撃をかわさなければいけないので大変なものである。例えるなら大型モンスターの目の前でシビレ罠設置くらい大変。
「よしっ!回収しきりましたわ!ユクリール!覚悟なさい!メイドフラッシュ!」
ヤマ(ザナドゥ)ちゃん「説明しよう!メイドフラッシュとはミスティさくやの手から放たれる光線のことである!
元々はご主人様の足元を照らす為に作られた技!だからと言ってその威力はそう弱くはなく、
『暗くてお靴がわからないわ』『どうだあかるくなつただろう』の光の数万倍のエネルギーを誇るぞ!」
ミスティさくやの手から放たれる光線を前にユクリールも同じように左手を翳す。
「ミラクルウォール!!」
ヤマ(ザナドゥ)ちゃん「再び説明しよう!ミラクルウォールとは奇跡の力によって起こした空間湾曲で作られた対ビーム用の防御バリアである!
ぎりぎりバリアが耐えられる程度のビームならそのまま打ち返すことも可能!
ガオ○イ○ーを一晩見てオマージュした技だが流石にさなえさんも暑いアニメはこりごりだと思ってるぞ!」
その説明通りにメイドフラッシュは防御バリアによって阻まれ、バリア上で五芒星の形となってそのままミスティさくやに撃ち返される。
新技に対応できなかったのかミスティさくやは避けることを忘れそのまま自分の技を自分で受けることになってしまった。
「ゆくぅぅ!!」
「これでおわりです!!ミラクルナックル!!」
雄々しく叫ぶと同時にユクリールの拳が神々しく輝き始め、そのままミスティさくやの体を正確に狙って体ごと突撃していく。
さなえもこれで全て終わらせるつもりだった。この忌々しい因縁をこの拳で、そしてこの船で終わらせたかったのだ。
「ぐッ…‥…な、なお……さん」
「!!?」
そう決意したはずなのに、ミスティさくやのその何気ないつぶやきを聞いてユクリールは少し勢いを落としてしまう。
その僅かなタイムラグ、ミスティさくやは突如姿を消してユクリールの拳は空を抉る結果となった。
恐らく時を止めて移動したのだろう。ユクリールはあたりを見まわしてミスティさくやを探した。
「どこにいったの!?」
「下から来るぞ!気をつけろ!」
どこから来たかも分からず、またあからさまにフラグな掛け声にさなえはつい反射的に下を向いてしまう。
「違う!さなえ!後ろ!後ろーー!」
「し、しまった!」
おねーさんの掛け声でユクリールはなんとかミスティさくやの方を向いてギリギリ防御態勢を取ることが出来た。
だがその僅かな時間はミスティさくやに技の準備させるのに足りるものであった!
「嘘をついてはおりませんのよ!メイドトルネード!!!」
メイド服のいたるところのフリルが回転し始め、それとともにあたりの風の動きが徐々に変わり始める。
そして空気の流れはユクリール一点に向かい、竜巻となってユクリールの体を持ち上げた!
ヤマ(ザナドゥ)「ええと、今日のTVで特撮やっていましたっけ…………こまち~新聞紙取ってきてください~
………………………………………………………………あ、せ、説明しよう!
メイドトルネードとは風を唸らせ部屋中の埃を集めるメイドの奥義を攻撃用に転用したものである!
下から風を巻き上げて天井にたたきつけることが出来るがパンチラは決して起こらないぞっ!」
「天井にぶつかるだけならもんだいありません!」
そう言って巻き上げられながら姿勢を整えるユクリールであったが天井に顔を向けたときミスティさくやの本意に気付いてしまった。
先ほど天井に跳ね返したミスティさくやのナイフがまだ残っているのだ。柄の部分をぎらぎらに尖らせながら。
「ふふふ、両面ナイフは基本ですのよ、まぁ完璧で瀟洒な私以外はそうそう扱えないと思いますけどね!!」
「く、くぅ!!」
ユクリールはナイフに刺さらないように体を捻らせる。
しかし風の動きで視界が目まぐるしく動きナイフのうちの二本が体に突き刺さってしまった。
「ゆ、ぐぐぐぅ……」
「さなえぇぇ!!」
「も、もんだいありません。まだ戦えます」
体から謎の天使液体を吹き出しながらもユクリールは羽根を使ってゆっくりゆっくりと降りていく。
だがテーブルの上に着地した瞬間、突然ミスティさくやが姿を現してユクリールを後ろから羽交い締めにした。
「!!!」
「完璧で瀟洒な悪魔は時を止められる。そのくらいしっていましたよね?」
ユクリールの力ならすぐに逃げ出すことも出来るだろう。だがそんなことする暇もなくミスティさくやはナイフを取り出しユクリールの首を掻っ捌いた!!
「メイドCQC……静かに仕事を終わらせるのもメイドのしごとですね……」
ミスティさくやがナイフを胸にしまうとユクリールの頭がコロンと地面に転がっていく。
その生首を一瞥して、ミスティさくやはちょっと寂しげに歩を進めた。
「さ……さなえ………?」
「ふふ、これで邪魔なやつはもういない。これでようやくあなたはわたしの……うぎゃん!」
セリフの途中で突然ミスティさくやはど派手に転んでしまう。
何かと思ったら先ほど殺したばっかのユクリールの体が足を掴んでいるではないか。
「え、な、なに。どういうことですの?あ、腹パンチはやめて、マジ、痛い痛い」
「………………さなえ………?あっ!!」
ここでおねーさんは当然のことを思い出した。ゆっくりって元々生首であると。
そしてすぐさまユクリールの生首の方へと駆け寄った。
「あ、危なかったです!死ぬかと思いました!」
やはり、いくら体つきになったとしても本質的にさなえは生首なのだ。
それを分かってはいたものの、何故かおねーさんの瞳からは涙があふれ出ていた。
「ふぅ、ほんと、よかった……」
「……すぐにからだとれんけつをおねがいします!」
「分かった!!」
おねーさんは涙をふくとさなえを右手に持ち勢いよくユクリールの体へと投げつける。
それと呼応するかのようにユクリールの体はミスティさくやを突き飛ばし、飛んでくる生首と見事にドッキングした!
「元気百倍!緩慢天使ユクリール再誕!!!」
「く、このぉぉぉ!!!」
ミスティさくやは破れかぶれでユクリールに殴りかかるがあまりにも無軌道なためか直ぐにかわされ、逆にユクリールに懐の中へと入られてしまった。
「これで、おわりです!!ミラクルウィンド!!!」
「そ、そんなあああああああああ!!!」
ユクリールの両手から放たれる奇跡の風を零距離で受け、ミスティさくやは大きく吹き飛んでいった。
「うー……今日は勝てると思ったのにぃ……」
しみじみと黄昏ているれみりゃだったが吹き飛ばされるミスティさくやに巻き込まれ、二人まとめて部屋の壁に叩きつけられていった。
そして力なく床に落ち、時々震えていることから死んではいないようだがこの様子では当分目を覚ましそうにないだろう。
それはつまりミスティさくやの戦闘不能、そしてユクリールの勝利を意味するのだ!!
「……………ゆぅ、疲れました………」
ユクリールは一つため息をついてその場にへたり込む。
ミスティさくやが倒れたせいか変になった人々も次第に正気を取り戻し始め、ダンスホールは元の雰囲気を取り戻し始めていた。
「さなえーーー!!」
「さなえおねーさん!!」
「ゆぅ、これで一安心、ですね」
おねーさんは涙目で、だけれども嬉しそうにさなえに抱きついた。
同時に他の人々もユクリールを中心に集まってきて次から次へと感謝、果てにはハグしていく人までいた。
「ありがとう!」「ありがとうございます!」「全てのチルドレンに」「ありがとう!!あの悪い人やっつけてくれて!」
「ゆ、ゆ~そんなぁ~てれちゃいますよ~」
「でも、ダンスパーティがお釈迦になっちゃったよ……」
あれだけのことがあったのだから人々はもう踊る気になれないだろう。
あちらこちらと自分の部屋に戻る準備を始めている人もいる。けれどそういう人たちはなぜか出口の所で戸惑っていた。
「どうしたんです?お疲れならお部屋にもどっても………」
「いや、まだドアが開かないんだ。一体どういうことなんだ!?あいつを倒せば出れるんじゃないのか!?」
不思議に思ったユクリールは何が起こっているのか確かめるために扉にそっと手を触れてみた。
「……………どうやら相当強い力で空間固定されてるみたいです……私の力では解除することは無理かと……
術者が直にとけばはやいとおもうんですけれど……」
その張本人であるミスティさくやは全然目覚める気配がないのだ。
だが痺れを切らした客の一人が気絶しているミスティさくやに詰め寄った。
「ど、どうするんですか!?」
「決まっているだろう、こいつをたたき起すんだよ。いつまでも閉じ込められたままでいられるか!」
「下手に起こしてとばっちり受けたいと言うのならいいと思うけどね僕は。」
いきり立つ客に対し語り部のおねーさんは挑発するかのようにそう言い放つ。
実際正論だからか客は物怖じしてしまい、全ての希望を失ってしまったかのように力なく壁にもたれかかった。
「じゃあどうしろってんだ……このままこの部屋にいたんじゃ……」
「ん~~~~ダンスパーティ、再開したらいいんじゃないですか?」
「再開?」
大きく頷くとおねーさんはゆっくり、ゆっくりとユクリールの方へと向かい、そっとユクリール、いやゆっくりさなえに手を差し伸べた。
「…………………今なら出来るよね、ダンス」
「……………あ!ほ、ほんとです………」
ユクリールとなったさなえは身長が135㎝となっている。おねーさんとは二十五㎝も違うがギリギリダンスを踊れるほどの身長差であった。
「あ~りりーも踊りたいですよ~」
「ふふ、あとでね」
一人の少女と、一人の緩慢天使がダンスホールで華麗に舞い踊る。
少しぎこちないように見えるけど、互いにステップを補い合う姿はどこかしら温かみを感じさせるものであった。
「…なおさん」
「さなえ」
こんな暖かい時間がずっと続けばいいのに、とこの場にいる誰もがそう思う。
だが彼らはまだ知らない。この船のゆ劇は、既に始まっていることを!!!
最終更新:2010年08月07日 21:05