【夏休み10】海に願いを




8月12日(はれ)
  きょう、わたしたち旧地獄のメンバーはこいしさんからおしえてもらったかいすいよくじょうでいっぱいあそんだはずでした。
 おりんさんは水によわいらしいのでゴムボートをもってきたはずですけど、
 途中で穴があいたりおくうがみずをじょうはつさせちゃったりとたいへんなはずでした。

8月13日(はれ)
  ちかくのホテルでいっぱくしたわたしたちは『メイとマイのワールドシーツアー』にさんかしたはずでした。
 旧地獄ではみられないお魚をいっぱいみれてすごく楽しかったはずでした。

8月14日(晴)
 私、ゆっくりぱるすぃは山で海水浴をしています。
なぜ、誰のせいで、命を狙われているのかはわかりません。
ただひとつ判る事は、この海水に秘めた力と関係があるということです。
お空とお燐は水に弱い。
他にも巨大ゆっくりが2~3人以上。白い揚陸艦を所有。

どうしてこうなったのか、私にはわかりません。
これをあなたが読んだなら、その時、私はゆっくりしているでしょう。
…パルパルしているか、どうかの違いはあるでしょうが。
これを読んだあなた。どうか博霊神社にでも訴えてください。それだけが私の望みです。

「一体どうしてこんなことに………っ!」




 事の始まりは8月12日。明日から三日間海で遊ぶということでゆーぎややまめたちと水着とかの道具を吟味していた時だった。
突然私たちを海に誘った張本人であるゆっくりさとりんがやってきて、男前フェイスで私たちに向かってこう叫んだのだ。
「大変だみんな!海が全て蒸発した!!」
「「「な、なんだってーーーーーーーーーーーーー!!!!」」」
 ノリで叫んだのはいいがその時の私たちにそんなこと信じられるはずがない。
私たちはまず始めに困惑し、熟考し、あらん限り嘲笑した。
けれどさとりから示された情報は私たちにその残酷な事実を信じさせるものに十分なものだったのだ。
「な、なによこれ……」
「私達が行く予定だった海の写真です。……鳥取砂丘じゃありませんよ」
 いや、これはもう鳥取砂丘にしか見えない。潮が消えたため砂浜が広がり、水平線が地平線へと変わり果てた海の姿が映像として映し出されたのだ。
流石にこんなものを見せられては信じるしかあるまい。というわけで私たちは仕方なく次の旅行のプランを立て始めたのであった。

 その日からTVではひっきりなしにキャスターのきめぇ丸の偽物が海の蒸発にについて熱弁し始めた。
天人の仕業だ、とか孔明の罠だとか、ディケイドの仕業に違いないとか色々な憶測を呼んだけれど確的原因はまだ誰にも分らなかったのである。
 で、8月14日、紅饅館の前の湖で水浴びしようということになって再び水着とかの道具を吟味していると再びさとりんがやってきてこう言ったのだ。
「ぱるすぃ!ゆーぎ!あなた達は海を取り戻す為に山に登り聖水(清めの塩を入れた水)を火山に投げ込んできなさい!」
 RPGの王様もびっくりな難題を押し付けてきやがった。
なんでピンポイントに私とゆーぎなのだ、と当然の疑問をぶつけるとさとりんはこう返してきた。
「りんは猫だから水に弱い、お空だと聖水を蒸発させてしまうかもしれない。
 やまめだと聖水が穢れてしまいます。きすめは桶だからです。あと愚妹のこいしはどっか行っちゃいました」
「……で、消去法でわたしたちってことね……」
 くそうパルパル。水に弱いやつらが妬ましい。私はよりにもよって橋姫だし。
正直めんどくさいし断るつもりだったがゆーぎのやつがやたらノリノリで私と一緒に行くこと前提で話を進めやがった。
で、そんなこんなで話は異常なまでに進みまくり私たちは今こうして聖水という名の海水を入れた水槽型スィーに乗って山を登っているのであった。
 私も湖に行きたかったなぁ。ああ、妬ましい。
「ごぼごぽぱぁぐぽぽぽぽぽぽ(まぁいまこうして海水浴できるしいいじゃないか)」
「がぽぽぽぽぽぽぽぎゃぽんぽぽぽっぽぽぁ(水槽で海水浴ってふざけるんじゃないわよ、ぱるぱる)」
 本当どうしてこうなったのだろうか。責任者出てこい。
「ぷはっ、しかしどういう理屈なのよ。この水を火山になげこめば海が復活するなんて」
「ぱんぽいっぱぶぽぽぺばばばばび(ま、信じるしかないだろ。海が無くなった理由だって分かんないし)」
「いい加減でてきなさい」
 まぁあの人を見透かしたようなさとりんのことだ。変なところから情報を得ても別におかしくはないだろう。
訳分からないことは訳分からないことで対処する。それは私たちゆっくりにも当てはまるような気がする。
「山で海水浴かぁ……ああ、きすめ達が激しくねたましいっ!!」
 私達を運ぶ水槽型スィーは海水を溢すことなく順調に山を登り続けている。
この調子なら今日中に着くだろう。そしたら明日から海水浴の準備を続けようじゃないか。
「そういうわけにも……びぱぱぽうばぽ(いかなそうだぞ)」
「なんでセリフの途中で……ってどういうこと!?」
「ほらみてみろ……やつらこの海水をねらおうとぎらぎらめをひからせてやがる」
 出発するときさとりんから海水を狙う敵には気をつけろと言われた。
海水なんて狙うやつどこにいるのだ、水なんて井戸掘れば出てくるし海が戻る事を願わない者はいないはず。
その時は一笑に付しただけだったが今私達は確かに何か悪意に満ちた視線を肌で感じていたのだ。
「う、うそでしょう……」
「あいにくわたしは嘘が嫌いでね……奪われないようにそなえろよ……」
 そう言ってゆーぎはスィーから出てその視線の主に対して構えをとる。
私もスィーを止めて敵に備えるが何故か体の震えが止まらない。どうして、受けているのは単なる視線だというのに。
「くるぞっ!!」
「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
 猛獣のような雄叫びが響き、草陰からその視線の主がのそりのそりと地響きを立てて現れる。
「そいつ」は山の如して言っても遜色がないと言いきれるほど巨大な体を携えていた。
腕も足も腰も胴も、全てが規格を超えている。そして何より、その巨体から発せられる威圧は全てを圧倒していた。
「ヘビータイプ……だな」


                    -''"´     `'
                ,'´ ,. -‐ァ'" ̄ ̄ ̄`ヽー 、`ヽ
               ゝ//          `ヽ`フ
              . / .,'  /! /!      ! ハ  ! ',ゝ
           .   (    ! ノ-!‐ノ!   ! ノ|/ー!、!ノ  ,.ゝ   DOSUKOOOOOOI!!!
    .   .  .     ヘ  ,ノレ':::::rr=-,:::::::::::::r=;ァ:::::ir /! ノ
    .      .   (   ノ !::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::! ヘ(
      . .  .     )  ,.ハ    ) 'ー=ョ (    ! ',ヽ.''ー‐---,,,_
              .) '! ト.、   ,____,   .イ  i .ノ      , ゛',
               r´    t、 `r---------‐´レヘ ノ    /   ノ
             _,f'、   ,, '   ` ー一'´  ,;'   ::゛''''i、,-''"゛i  ノ
          _,,r''´  ゛ "´              ::: (   ノ
       ,,.‐'´ ゛'' ,、,,‐'iン'   .....   ..:::..     ', r,‐‐  /
   r、__,-'´   _,,-'´_,,,.-ヽ,       ,' '、       l i,)  /-,,_
  ヒ'-'ゝ. 、 ,,.-‐'',.-''"´    l'、,.   ,...ノ  ゛'、,,_  ノソ_,/    `゛'‐,
  ゝミ_,,ノ"  ,'´       iヽ,`゛゛゛´       ゛゛"./~i      ....::',
        ト;:::..      ', i'、         ,/ノ.,ノ     ..:: ゛゛ ',
         ,'   ゛'',ソ‐-、   '、i i'‐、,_    _,,..ノ、,ィヘ,,-‐‐'"´゛i"   ゛,
.        ,'     ,'    `゛'',<´ヽ、'、 ヽ'ど'''"'‐、,,_ノ,  >     ';::    ',
      l   ,.ノ     <,  </"'ぐすこいヽレティ゛>'  .>    ゛'、.    l


「って関取じゃないのよ!!!」
「いや、ただの関取じゃない……RIKISHIだ。この騒ぎで魔道に堕ちたか……」
「ちがいがわからないわよ」
 まぁ単なる力士ならゆっくりしてるスィーの速度でも引き離せることだろう。
そう思って私はゆーぎに再び乗るよう勧めたが、ゆーぎは首(?)を横に振って私の勧めを断固として拒否した。
「むり、だ。すぐに追いつかれる」
「そんはずないじゃない、あんなでかい体なのに」
 私は分からず屋のゆーぎをむりやりスィーに乗せようと一度水槽から出る。
だがその時関取が大きく四股を踏み、それによってかつてないほどの衝撃が私達を襲ったのだ!!
「あわわわわわっ!!!な、なによ!!」
「見ろ……これがRIKISHIのちからだ」
「DOSUKoooooI!!!」
 そのまま地響きを鳴らし続けながら力士はガニ股の姿勢で私たちに迫ってくる。
先ほど私は山のように、という比喩を使ったが少し訂正させてもらう。
この速度は、道なき道を駆けるダンプカーそのものだ!!!!
「ぱるすぃ、わたしがこいつを引きつけておくからすぐに山頂へ向かってくれ」
 その巨大さに速度が加わったあまりの威圧に私は委縮することしか出来ない。
だがゆーぎは私に向かって誇らしげにそんなこと言い放ったのだ。自分だって30㎝くらいのゆっくりの癖に。
「で、でも……」
「RIKISHIはDOHYOUに撒くためのSHIOを欲しているんだ。奴らはこの聖水を狙うことだろう」
 そうなったら海はもう復活しない。だから世界のために命がけで守る必要があるんだ。
ゆーぎはそう言うがこのあまりの力量差ではゆーぎは無事ではいられまい。でもゆーぎは私に有無を言わせず髪の毛で私を水槽の中に投げ込んだのだ。
「さあぱるすぃ!いくんだ!いそげよ!!…………実は……お前のこと……そんなに好きじゃなかったよ」
「ゆ、ゆーぎ……………………」
 一見良いように見えて地味に捨て言葉のような告白を受け私は涙ながらにスィーをフルスロットルで動かした。
零れた涙が聖水に混じる。塩が目に入って再び涙を流す無限ループ。
 私は居た堪れなくなり去っていくスィーから勇猛果敢に戦うゆーぎの姿を見た。
ゆーぎは必死に相手の突っ張り、張り手を悉くかわし、隙を見てはあの巨体に向かって体当たりを続けている。
でもゆっくり特有のもちもち肌で相手にダメージは与えられない。寧ろ相手の弾力のせいでゆーぎの方がダメージを喰らっているように見えた。
「あ、ああ……」
 彼女の姿は次第に小さくなっていく。もう見ていられなくて私はちゃんと運転するためにくるりと前を向いた。
「ゆーぎ…………無茶ばっかり……」
(知ってたか?角が付いてるキリン装備で角攻撃は出来ないんだぜ?だから私は角を使わない)
 いつも角を使わず体当たりで戦うゆーぎはそんなことを信条としてのたまっていた。
今も彼女は体一つで戦っている。ウソかホントか分からないが、もしホントだったら相当のアホではないだろうか。



「あぁーここならゆっくり出来る……」
 全速力でスィーを走らせようやく私は落ち着けそうな岩場まで辿り着いた。
でも夢中で走っているうちに日もすっかり落ちてしまい辺りはシンと静まりかえっている。夏だというのに虫の音さえも聞こえてきやしない。
「はぁ………」
 まるで寂れた墓場のようでバサルモスでも出そうなこの場所で私は大きく嘆息をついた。
これじゃあ明日海行くのは絶望的だ、あとゆーぎは大丈夫だろうか。色々な悩みが悉く押し寄せ私は夜風に当たろうと水槽から飛び出した。
「うう、何で私は……勇気を振り絞れるゆーぎがねたましい……」
 本当はちょっと悲しいけど、そんな感情を誤魔化す為に私は無理にパルパルする。
でも今の私は水槽の外、混じらせるための聖水は周りには無く私はただただ涙を流した。
「…………………………お~い」
「!!!!!!」
 静寂の中、微かに誰かの声が私の耳に聞こえてきた。
いいや、誰かの声なんて暫定的なもので表すものじゃない。確信する、この声はゆーぎの声だ。
「いやぁまさか私の角にこんな使い方があったとは!!」
 闇の中からあの鬼特有の活発な声がどんどん大きくなってくる。
これほど大きい声を出せるということは無事なのだろう。それにセリフから判断すると、きっと角を使って勝利したのだ。
 私は純粋にゆーぎが無事だったことに喜んだ。涙を誤魔化そうと無理やりパルパルしてももうそれは無駄に終わる。
「ゆ、ゆーぎっ!!!」
「いやぁ私の角が取っ手として使えるほど持ちやすいとは!盲点だったなー」
「ばっかじゃねぇのかてめえ!!!」
 確かに無事だったけどさ。ゆーぎはその自慢の角をあの力士に掴まれてやってきたのだ。
そのままゆーぎは私の方へと投げられて見事に水槽へとダイブする。
塩水が頭にかかる。もう混じらせるための涙は流石に湧いてこなかった。
「ごぼごぼごっぽぉ(いや~体当たりだけじゃあの肉質にダメージ与えるのは無理だな~)」
「何か意図があってあえてしないと信じたいけど………角使いなさいよ!!」
「ごぱぽ(いや、キリン装備は角で攻撃しないじゃん)」
「……その素材元のキリンは普通に角攻撃するのに?」
 私がそう言うとゆーぎは無言となり十秒後くらいにうわああああああ的な表情になった。
真性のアホだった。
「ど、どうすんのよってああああ!!!あのふとましいのめっちゃこっち見てる!目が輝いて怖い!」
「MADOUに堕ちたRIKISHIはみなああなるんだ………他にもPOTETIしか食べなくなったりYAKYUTOBAKUしたり……」
「もう何なのよ!RIKISHIって!!うわこっちきたぁ!!」
 私はすぐさまスィーに乗って逃げだそうとしたがあのRIKISHIの突っ張りがスィーの側面を打って、激しい衝撃が私たちを襲う。
幸いガラスは割れなかったようだがRIKISHIは続けざまに突っ張りを繰り返し、もう横転してしまうんじゃないかというくらい激しく揺れた。
「ぽぺぺぺぺ(ゆれるゆれるゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ…………うえ~~~っ)」
「ぐぺぷぽ!(やめてよ!)」
 あ、もうこりゃ駄目かな、仕方ないからこの夏休みはプール行こう。
そう悟りながら水中を揺れていると何か反対側の方から目の前のRIKISHIとは違ったまた別の威圧を感じた。
「ば、ばぴ!?(な、また何かが!?)」
「この水を狙ってるのは、こいつだけじゃないってことさ……おげっ(ぐぺぽぽぽんぼぼぼぼぼ)」
「ぐぺぷぽ!(やめてよ!)」
 もう一人の敵よりもゆーぎの体調の方が危機的状況だが無視しないではいられない。
私は揺れる水の中、もう一つの闇に光る眼を見つけた。

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           ヽ===√λλλλλV===/ λλ λλλλλλλ/

「なんじゃいあの戦車!!」
「あれもRIKISHIのなれの果てさ……」
「いや流石にそれは無理がある」
 その訳の分からない戦車は私たち、いやこの塩を狙ってキュラキュラと岩場を抉り取るように進んで行く。
このままでは挟み打ちだ。でも突っ張りを受けている今のこの状況でスィーを動かせるはずがない!!
「KOITUもDOHYOUにMAくSIOをMOTOMEてここまでYATTEきたのか……
 くそっZITAIはSINKOKUだぞ!PARUSULI!!!」
「無理にアルファベットにしないの!!………そういえばあれもホントにRIKISHIなのよね」
 ちょっとあるアイデアが思い浮かんだから私はゆーぎにそう尋ねる。
一か八かの賭けだけどもし彼らが心からのスポーツゆっくりだったら成功するはずだ。
ゆーぎは対流する水の中でこくんと頭を下げた。
「………りょ、両者見合って見合って!!!」
 私は揺れる水から必死の思いで水面に出てその二人のRIKISHIに対して叫んだ。
するとスィーを打ちつけていた突っ張りは止み始め、ようやく私たちはつかの間の平穏を手に入れた。
 やはり、RIKISHIとしての性か。二人は私たち越しに互いを見つめあい、相撲のような構えを始める。
私は再び叫んだ。
「はっけよ~~~~~い!!!NOKOTTA!!!!」
 叫ぶと同時に私はスィーを全速力で発進させる。
私の叫びに反応するかのようにダンプカーみたいな奴と戦車は私たちがいた場所で激しく取っ組み合いを始めた。
もし急発進していなかったら、そりゃあもうおぞましいことになってただろう。
 そのまま私たちは山頂へと向かう道へとゆっくり進んで行く。RIKISHIが追ってこないのを確認して私は安堵の息を吐いた。
「ゆ、ゆーぎ!わたしたち助かったのよ!ってうわっすっげぇ顔色悪っ」
「はかせろ……酒も飲んでないのによった……う、うえええ」
「マジやめてよ!!!呪い殺すぞ!!」
 宥めたり怒ったり、そうして私たちは海を救うために山へ登っていくのであった。


「ふぅ、あれから襲撃もないしあとちょっとで無事に山頂へ着きそうね」
「あ、うん。はぁ……ようやく波が治まってきた」
 岩場も越えて私たちは火口まで数百メートルのところまでやってきた。
こうなればもう障害なんてない。目をつぶれば明日の海水浴が目に浮かぶようだ。
 ただなんかゆーぎが吐きかけたせいか調子を悪くしてしまったので少し話し相手になってあげた。
「あ~塩……外国だと塩って岩からとれるらしいね」
「あれ、旧地獄でも発掘して無かったっけ、結構いい商売になるらしいよ」
「マジでッ!?」
 うわー、ゆーぎに無駄知識で負けたー。バカっぽいふりして意外と知識あるわー。
ねたましいわー………ちくしょう、ちくしょう!!!!
「そんなことで嫌な顔すんなよ……あ、そうだ。塩と言えばもう一つ無駄知識があったわ」
「……………ま、まぁ聞いてあげないこともないわね!!!」
「あ、いやさ。ガン○ムでセ○ラさんが勝手にガンダ○で出撃する話あるじゃん。
 あれTV版だと塩を探してるときに交戦してるんだよ」
 へぇ~、自分は映画版しか見てないから知らなかったわー。
ってだからなんでゆーぎに教えてもらってんのよ!!畜生畜生畜生!!!!
「ぱるぅーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「落ちつけおちつけ」
 ゆーぎに必死に宥めてもらって私はようやく正気を取り戻す。
こういうときは明日のことを考えろ。青い空、青い海、きらめく水飛沫。ああ、考えただけでも胸がときめいてしまう!!!
「はは、もしかしたら塩を探してる戦艦が実際に来たりしてな」
「そんなはずあるわけないじゃないの、やっぱりゆーぎはゆーぎね。」
 ああ、妬ましい嫉ましい。でもいつの間にかゆーぎも元気を取り戻してくれたようだ。
最初の頃はなんか鬼ってうぜーなって距離を置いていたけれど、こうして一緒にいるうちにゆーぎと一緒にいるのが楽しくなってきた。
明日の海水浴ゆーぎも誘おうかな?そう思うと少し楽しくなって私はスィーを動かし続けた。
「…………………なんかさっきより暗くなってない?」
「…………………………なんか轟音が聞こえるな」
 先ほどの台詞がフラグで無いことを祈る。
とにかく前を向いて、戦艦なんて来るはずないじゃないの。
『あ~テステス、ムラムラ。こちらびゃくれん軍第四ボス艦隊所属強襲揚陸艦ホワイトセイレーン。塩わたせ~』
「逃げるぞっ!!!」
「分かった!!!」
 危機を共にすると深い絆を生むというように互いの意思がシンクロする。
ゆっくりせずに全速力で進んでいるがヤバい。なんか背後ですっごい爆発音が聞こえる。
「ここまで来て終われるかぁーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「劇場版でのマ・クベってどうなったんだろうなぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
『海水なくちゃ舟幽霊のアイデンティティがなくなっちゃうでしょうがーーーー!!!』
 三人の叫びが夜の火山にこだまし、不意にわたしたちの体はスィーごと浮き上がった。
恐らく、ミサイルか何かが、私達のちょうど背後に、着弾して、爆風に巻き込まれたの、だろう。
そして、必死に、走り続けたためか、いつの間にか、私達は、山頂に辿り着いていて、
私達の着地予定地点は、火口の中だった。
 なんでこんな冷静に物事を判断できるのか、私は不思議でたまらない。
「あ」
「おっと」
 水槽から投げ出された私は無意識的にゆーぎの金色の髪を掴んでいた。
後ろ髪を引っ張るだなんて橋姫らしい酷い事をしているような気がしたけれど、ゆーぎはそんなことを気にしている様子はなかった。それどころか
「ちゃんとつかまれよっ!!!」
 とまで言ってくれて、私達はそのまま火口の内壁に勢いよくぶつかっていった。
内壁は掴めるところがなく、このまま私達はずり落ちていくか、跳ね返ってそのまま重力に従っていくかどちらかだっただろう。
でもそうならなかった。ゆーぎの角は見事に内壁に突き刺さっていたから。
「こ、こんな使い方もあるとはな……おどろきだ」
「うううゆゆゆゆゆぅぅぅ」
 私達は助かったのだ。
海水の入ったスィーはそのまま火口に落ちていって、ぼしゃんと焼けるような音を立てて溶岩の中に沈んでいった。
「えっと、あの水を火口に入れればいいんだから……」
「これで海がもどる……のね」
 気が緩んで落ちてしまいそうになったがゆーぎの髪がちゃんと絡みこんでしっかり私を支えてくれた。
そのまま私達は死に物狂いで火口から這い出ていった。
「あの船もどっかいっちまったか。あいつ、前地底にいたムラムラむらさじゃね?やたらムラムラしてたから」
「あ、あの、ゆーぎ……」
 雄々しく紅く輝いていたゆーぎの角は内壁を登っているうちにすっかりボロボロになってしまっていた。
でもそんなこと気にした様子もなくゆーぎはのほほんとゆっくりした表情で前を見据えている。
「さて、ホントに海がもどるのかねぇ……いまいち実感がわかないな」
「あ、そ、それじゃ」
 私はほんの些細なことだけど勇気をもってその一言をゆーぎに語りかけた。
「いっしょに、海いきましょう?」
「うん!そうだな!!」
 ここから近い海ならゆっくりしてても朝にまでに着くだろう。
水着なんていらない。二人だけのゆっくりした夏の海水浴。













「うおぉ……ちゃんともどってるな」
 ゆっくり歩いたり休んだりして約六時間。
私達も知っているありのままの姿の海が私達の目の前に広がっていた。
映像の砂漠なんて元々無かったと、言ってもいい。ちょうど登り始めた朝日が水平線に輝いて美しい。
「これが……海、なのね」
「やっほーい」
 地底ばっかに引きこもっているから流水の美しさというものを忘れかけていたのかもしれない。
ゆーぎは最初から海水浴が楽しみだったのかはしゃいでばしゃばしゃと海の中へ入っていった。
「こらこら、まちなさい!」
 朝の海水浴と言うのは珍しいが歩き疲れたので今は水の冷たさを感じたい。そう思い私はゆーぎを追って海へと勢いよく飛び込んだ。
「ぱっるぅ!!…………………………………あれ」
 冷たくない。海って冷たいものじゃなかったっけ。
それとも私達は間違えて屋外スパリゾートへ来てしまったのだろうか。
「いやーー!あったかくて気持ちがいいな!」
「あ、え、ええと、ゆーぎ……ここうみよね」
「ん?ここはたしか零九寺海岸のはずだろ?」
 近くのおくうのようなマスコットキャラが描かれた看板には確かに海岸と書いてある。
というかスパだったら水平線なんて見えるはずがないじゃないか。そう温かい海に浮かびながら悩んでいると背後から不意に声がかかった
「お疲れ様でした二人とも。はい、これ」
 さとりんだった。男前フェイス&170センチの長身&ラフな格好だから違和感たっぷりだ。
さとりんは手に持った二本のラムネを私達に手渡した。キンキンに冷えて気持ちがいい。
「あ、えーと、これホントにうみ?」
「言いたいことは分かります。とりあえずここまで頑張った二人には1から事情を……」


 とりあえず、旧地獄が岩塩の販売に手を出したことはゆーぎから聞いていることだろう。
しかし調子に乗って掘り続けた結果海に繋がってしまい海の水が一気に旧地獄に溢れ出てしまったのだ。
「海岸線が途方に引くほどの量が流れ込んでしまいましてね。幸い地上近い街の方には行きませんでしたけど」
「あ、それじゃ蒸発ってのは……」
「私達の情報操作です。TVの方もぬかりなくやっておきました」
 地霊殿のみんなを総動員して海の水を元に戻すことをしたけれど出力が足りなくてどうにもいかなかったそうだ。
そこで地球の力を少しだけでも借りようと火山をほんの少し活性化させるという話になったのだ。
「へぇ……それが私たちのしごとだったのか」
「おかげで水もほとんど元に戻すことが出来ました。礼を言います」
 地霊殿の主から礼を言われるというのは結構嬉しいことで私は少し照れてしまう。
いや待て、事情は分かったがこの海の温かさの理由は………
「灼熱地獄跡で保管してましたから」
「………………………………………こんなの海水浴じゃない!!!」
 なんで真夏の暑い日に温かい海で泳がなあかんのだ!!!これじゃ単なる屋外スパリゾートだろうが!!!!
くそう、違いなんて塩分だけじゃないか。この、この。
 …………………いや、先ほどから口の中に水が入っているが塩辛さなんて全然ない。
どういうことだ。海はもっとしょっぱいものじゃないのか!?
「……さとりん、なんかしょっぱくないけど」
「岩塩の事業は駄目になってしまいましたからね……その代わりに海水の塩分を」
 ………………………………………じゃあ、私達は何のための海水浴をしてるんだ。
折角海に来たのにやってることは地霊殿とそう変わらないではないか。なんのための任務だったんだ!!
 ゆーぎのやつはというと全然気にしない様子でのんびり浮かびながら酒を飲んでいた。
「だいじょうぶさぁ~塩辛さなんて長く湯につかってりゃ汗の塩で元に戻る」
「汗臭さなんて誰も求めてないわよ!!」
「とりあえず明日からここで屋外スパ『おくうくうランド』始めるので、バイトしたいのなら優先してあげますよ」
「いらねぇーーーーーーーーーーー!!!!こんな暑い中だれがはたらくかぁーーーーーーーー!!!」
 ああ、いまごろヤマメやキスメ達はつめた~~~~い湖で優雅に泳いでるんだろなぁ。
ちるので納涼、ちょいと場違いなスイカ割り、紅饅館でのディナー。
それに比べて今の私は屋外で温泉だぁーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!
「ねたましィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」


 8月15日晴れ夏真っ盛り終戦記念日あとコミケ3日目。
 一人の嫉妬ゆっくりの叫びが海岸に木魂した。

  • キリン装備じゃ角攻撃出来なかったのか
    それにしても水槽で山を登るって発想自体こうきたかと目が点になった
    普通思いつかないw -- 名無しさん (2010-08-21 10:07:11)
  • 手形の謎とかうまいなあ。そういえば幻想郷って海が無いから塩は
    岩塩なのかな? -- 名無しさん (2010-08-22 18:37:42)
  • RIKISHIの恐怖に背筋が凍ったw奴ら日本の精鋭すぎるww
    でもYAKYUTOBAKUだけは簡便なw
    -- 名無しさん (2010-09-15 15:07:30)
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最終更新:2010年09月15日 15:07