あれから中ボス三人組はずっと暴れ続けていたのだろうか、森は先ほどよりも広い範囲で被害を受けていた。
他のゆっくり達は怯えて木の陰に隠れてるし人間の子供たちも遊び場を破壊されて泣きじゃくっている。
どうしてこんな、こんな酷いことが出来るんだろうと僕は理解が出来なかった。
「あたまわるいんだよバカってやつは。それはそれで個性だけどつきつめると人の迷惑さえも考えないものよ」
「ええとそれはちるのに対してのことか?」
「全員だよ、ぜ・ん・い・ん!!」
れいむもみのりこもこの極悪非道な所業に相当腹(?)を立てているようである。
もちろん僕だって同じだ、この服や髪をバカにされた恨みだって、まだ晴らされてはいないのだから。
「さて」
森に入って数分が経ち、僕らはあの忌々しい妙な音楽を流したスィーの姿を見かけた。
初めてその音楽を聴いたときは三人一緒だったから音が重なり不協和音になったが、改めて単品を聞いてみると地味に良い物だと気付く。
けれど、それであの悪行が相殺されるはずもなく僕はただ怒りを持って一歩を踏み出した。
「こらああああ!!!」
「ゆわあっ!!……なんださっきのやつか」
僕達の存在に気付いたもみじはスィーから降りることなく呆れた顔でわふんと溜息をついた。
『敗残兵がのこのこやってきたよ』とでも言いたげな顔に激しく腹が立つ。
一人でいるうちに潰しておこうかと思ったがもみじは即座に遠吠えをして他の二人を呼び寄せた。
「ああん、またやってきたのぉ?」
「さっきの借り、きっちり返してやるよ」
ちるのはいつのようにバカっぽく、キスメは頭に絆創膏をつけているがすっかり元気な様子で戦線に復帰したようだ。
「……しゅん、お願い」
「分かった」
僕はみのりこを軽い感じに放り投げ、みのりこは器用に姿勢を整え三人の前に着地する。
正直戦法を行使する前に攻撃されないか心配だ。でもみのりこは大胆不敵な笑顔を浮かべ三人を見つめていた。
「あぁ?不人気がなにかもんくあんの!?」
「ええ、バカなことをやっているゆっくりにちょっと説教を」
「アタイはバカじゃねえーーー!!」
突然激昂したちるのが小さなつららを投げつけるがみのりこはそれを間一髪かわした。
ただしつららが纏っていた冷気はかわしきれなかったようで皮膚が少し凍りつく。
「ゆふふ……威勢がいいわね。あの日もそうだったわよねぇ……懐かしいわ」
「そうだよ!あの頃はよかったさ!でもしずはのやつが……」
「そう、全ては姉さんの身勝手のせい、でもあなた達も変わってしまったのね……メンツを見るとそう思うわ」
その一言で少なからず三人は動揺する。
作戦が始まった、僕はれいむを抱えその様子をじっと見届けていた。
「正直に言うわ、この中に一人!仲間はずれがいるわ!!」
な、仲間はずれだって!!と僕は驚きと共にトラウマを掘り起こされる。
確かに仲間外れなら3を1と2に分裂させることが容易だ。仲間外れになった人は頑張ろうとしても他の人と馴染めずに、孤立してしまう。
僕もそうだったよなぁ、小学五年生の時バカなことを言っていたせいで皆に引かれて…………
「へ、へ、へへへへへへへ」
「なんで泣いてんの?」
おっとトラウマに浸っていてはゆっくり達に示しが付かない。
しかし仲間外れはあの三人のうちの誰なんだろうかとクイズ感覚のように考える僕だがどうしても一つの答えにしか行きつかなかった。
というかあいつしかいないだろう。分類上でも出演数でも、中ボスとか言ってるけれど。
そしてみのりこはもったいぶった様子で口を開いた。
「そう、それは………もみじ!キサマよ!!」
「………………え?」
…………………え?
いやいやそれは無いだろうと僕もれいむも首を振る。
どっからどう考えたってちるのしかないだろう。人気はあるし2ボスだし一人だけ妖精だし主役機にもなったし。
それがどうしてもみじになるのか僕にはよく分からない!
「どういうことですか!このもみじがなかまはずれだなんて」
「あなた達、何故姉さんがHard軍団って名前にしたか分かる?」
「え、ええと……静Hardが作ったから、じゃないの?」
キスメのその答えにみのりこは大きく首を横に振り、真の答えを声高々に叫んだ。
「Hardの真の意味は……中ボスは難易度がHardになりスペルカードが使えるようになってようやく壁になるということなのよ!!」
「「「な、なんだってえええええええええええ!!!!!」」」
中ボス三人組の激しい驚愕をうけながらもみのりこは恐れずに次の言葉を紡いだ。
「それなのに!あなた達は姉さんのその意味を汲まずに中ボスってだけでもみじを引き入れて……
スペルカードも使えない中ボスなんてHardを名乗る資格はないわ!!!」
「わ、わん!でもダブルスポイラーでは」
「うるせえええ!!!ダブルスポイラーは大体みんな出演してるでしょうがああああああ!!」
ダブルスポイラーに何か恨みでもあるのかというほどの怒声にここにいる全員が怯んでしまった。
もみじだけが仲間はずれとはそういうことだったのか、ところでスペルカードって何?
みのりこの言葉は三人に多大な影響を与えたようで他の二人はもみじによそよそしくなり、もみじはアイデンティティが崩壊したように呆けた顔をしていた。
「う、うううう……そんな、そんな、もみじだけがスペルカードなしだなんて」
「でも、あなたに一つだけチャンスをあげる」
「ちゃんす……?」
すっかり狼狽しきっているもみじに対し、みのりこはふてぶてしい表情でもみじのスィーに近づいていった。
「この秋姉妹1ボスであるこのわたしを一人で倒したら、Hardを名乗ってもいいかもしれないわよ……多分」
「なに……」
「さぁかかってきなさい」
とても静かに、それでいて人の心を抉りこむようにみのりこはもみじを挑発していく。
もみじはとても不安げに他の二人の方を見やるが、きすめとちるのは『いいじゃん、勝手に頑張ってれば?』といったような突き放した表情を浮かべている。
そしてもみじはひたすら歯がゆそうな顔をした後、ふっきれた感じで思い切りスィーでみのりこに突撃していった。
この時点を持って、作戦は成功だ!!!
「うおりゃああああああああ!!!」
みのりこは予測通りと言わんばかりのしたり顔でその攻撃をサラリとかわす。
この調子なら一応もみじはみのりこに任せていいだろう、でも地味に問題なのがこの後だ。
1対2、弱点と不安要素は多々とある。でも折角みのりこが頑張ってくれたこのチャンスを無下にするわけにはいかない!
「そこのお二人さん……あんたらの相手はこのれいむだよ!!」
「ああん?2対1で勝てると思ってんのか?」
暇つぶしかのようにみのりこともみじの戦いを観戦していた二人は、れいむの挑発を聞き逃さないといったように興味をれいむに移し替える。
やはり戦力差もあってか二人は余裕満々な様子を見せつけている。ならば僕達は、そのニヤケきった顔をフッ飛ばしてやる!!
「一騎当千!!れいむ!やつらをぶっ倒せ!!!」
「らじゃー!ロジャー!なるほどクン!!」
何事も勢いよく、僕は全力を持ってれいむに指令を出した!!
「ナメやがって!!!Hard中ボスの実力みせてやるッ!」
「アタイはバカじゃねえんだよッ!!」
キスメとちるのは一斉にスィーでれいむに突撃していく。
それに対しれいむは一度自分の体を昨日のような平べったい状態で地面に伏せ、キスメに向かって思いっきり直線軌道でジャンプした!!
「ほえ?」
「ラリアーーーーーット!!!」
れいむのリボンがキスメの丁度桶と頭の間に抉りこみ(普通なら首と描写すべきだと思う)そのままキスメをスィーからたたき落とす。
そしてれいむは自分も衝撃で跳ね飛ばされるという所を、両もみ上げでスィーを掴みそのままスィーを乗っ取ったのだ!!!
「げ、げえええ!!!しまった!!」
「よし!そのままちるのも落としてしまえ!!!」
れいむはすかさずちるののスィーに向かっていき、車体で何回もちるののスィーに体当たりしていった。
その勢いのままぶち壊せればよかったがちるのはれいむから逃げるようにスィーを動かし、れいむもそれを追っていく。
簡単に言ってしまえばカーチェイスだ。相手はそれなりにスィー慣れしてるのか徐々にれいむから距離を離していった。
「れいむ!下手に追うんじゃない!!」
「ゆっ!?」
そう言った途端、前方からちるのが放ったつららがれいむに向かって勢いよく飛んでいく。
相対速度もあって相当な勢いを持ったつららをかわしきれず、れいむはそのふくよかな頬を大きく傷つけてしまった。
「へへへ~ん!!!や~いばーかばーか!!」
「ゆぐぐぐ……痛みよりも……あいつにバカにされたことが許せないよ!」
それは僕も同感だ。しかしこの状況では相手に一方的に攻撃されてしまう。
どうしたらこの状況が打破できるか、と悩んでいて僕はとある案を思いついた。
「れいむ!!その場でUターン!!今すぐだ!!!」
「ゆっ!?わ、わかったよ」
れいむは相当困惑しているようだが僕の言うことを一応聞いてくれた。
これで相手が上手く動いてくれればいいのだけれど………
「ゆっ!?おってこないの?じゃあこんどはこっちのばんよ!!」
れいむが方向転換したのに気付き、ちるのはれいむを追うように方向転換する。
やっぱちるのは⑨だった。
れいむが逃げてちるのが追うという先ほどとは真逆の状況が出来上がっていくではないか、上手くいきすぎたことに笑いが止まらない。
「れいむ!!オウレイフウカノンだ!!!」
「いえっさー!!」
スィーの上かられいむはリボンをバタバタと震わせ、ちるのに風を送る。
ちるのはようやくこの不利な状況に気付いたようで急いで氷のつぶてで迎撃するが、風に吹き飛ばされつぶてはちるのの顔面に戻ってきた。
その隙を狙ってれいむはちるののスィーに向かってジャンプし、再びリボンのラリアットでちるのをスィーから叩き落とした。
「うっぎゃああああ!!!」
「連撃!追撃!猛進撃!!!」
何事もノリよく、僕の指示を受けたれいむは地面に落ちたちるのを頭突きで空中に跳ね飛ばした。
それを何回も、ジャンプで届かない距離になったら近くの木に登ってまでより高みを目指していった。
「辛酸をなめられたが!これで終わりだああ!!」
近くの木の頂点あたりまで跳ね飛ばすとれいむは頭突きを止めてそのままちるのと組み合う。
このまま地面にたたき落とせばちるのの戦闘続行は不可能になる、大丈夫!グロくはならないから良い子でも安心して読めるよ!
「ゆっへっへっへ……」
「!!!!」
だが謎の笑い声に僕は勝利の確信を突き崩される。
この声は先ほどれいむに叩き落とされたキスメだ。そいつが今、れいむの着地地点で頭を引っ込め頭突きのスタンバイをしているのだ!
「相打ち上等ォ……このままぶっ飛ばしてやるぜ!!」
「れ、れいむ!!!」
「わかってるよ!!」
とはいうもののこう組み合った状態では移動が出来ずただ重力に引かれて落ちることしか出来ない。
回避しようとジタバタしているうちにもれいむときすめの距離は刻々と近づく。このままではみすみすきすめの攻撃を喰らってしまう!
「さあ!きやがれえええええ!!」
「ゆっ!!」
だがれいむは地上から一メートル辺りのところで大きくリボンをパラシュートのように展開し減速していく。
そのためきすめのロケット頭突きは完全にタイミングを外してしまい、れいむはきすめの頭をぽてんと跳ねてゆっくりと地面に落ちた。
「んなっ!!」
「これでもくらえええええ!!!」
驚きで動きが止まっている今が最大のチャンス!!!
れいむは地面に落ちるとすかさずちるのを抱えたままジャンプし、きすめの桶にダンクシュートしたのだ!!!!
「ぎゃ、ぎゃあああああああああつめてえええええええ!!!」
「ゆっ!!」
今きすめの桶にはちるのときすめの二人が詰まっている。
このままの状態が続けばきすめはちるのの零距離冷気であっという間に氷漬けだろう。
だがさっきの一撃できすめを戦闘不能には出来なかった、きすめはちるのを外に出そうと桶の中で必死に揺れ動いている。
「こ、この!出ろ!早く出ろおおおお!!!」
「出てくるんじゃねーよ!」
れいむはそれを妨害しようと桶を体当たりしまくるが、桶は意外に固く衝撃が内部に伝わらない。
折角勝利一歩手前だというのにみすみす出してたまるものか!!
「ひっくりかえす!!」
「うぎゃ!!」
というわけで僕はきすめの桶をひっくり返した。
別にトレーナー同士の戦いじゃないからトレーナーの参加もありだ。脛やられた恨み忘れてねぇぞ。
「んで、載らせていただきます」
「ぎゃーーー!ぎゃーーー!!ぎゃーーーー!!ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ……………」
ほんのり尻が冷たくなったのを感じ僕は勝利を確信した。今頃きすめもすっきりシャーベットだろう。
だが最初の場所から結構移動してしまったせいでみのりこの戦いがどうなっているか分からない。無事でいるといいんだが……
みのりこにはれいむのような機動力は無かった。みのりこはれいむのような機敏な動きも出来なかった。
だから、彼女は今もなおもみじのスィーの機動力に苦しめられていたのだ。
「はっ!!なんだなんだ!あれだけ威勢のいいこと言っちゃって!!」
「ゆぅぅぅ……」
みのりこは一応スィーの突撃を回避する事は出来るが、それ以上先へ進展することが出来なかったのだ。
むしろすれ違いざまにもみじの攻撃を受けて不利な状況になっている。
「へん!所詮1ボスなんてこんなものか!こんなならHardの称号もいらないね!!」
「……こ、このHardをバカにするんじゃないわよ!!!」
Hardは自分の姉の誇り、いくら姉がどんな姿になっても忘れなかった言葉。
それは姉と一緒に頑張っていくうちに、みのりこにとっても大事な言葉になりつつあったのだ。
だからバカにされたくない。あんな姉でもしずははみのりこの誇りだったのだから。
「一気にけりをつけてやるよ!!うおりゃあああああああ!!!」
もみじはみのりこから大きく距離を取り、一気に加速をつけてみのりこに向かって突撃していった。
あの速度だとみのりこの足では到底回避しきれない。けれどその旋回の時間分、みのりこは余裕を持つことが出来た。
「うおりゃああああしんでまえーーーーーーーーっ!!」
「………」
みのりこは猛スピードで迫るスィーを見据えただその場にゆっくりした様子で鎮座した。
そしてスィーはみのりこの体と派手に衝突する。だがスィーはみのりこと衝突した勢いで急停止し、乗っていたもみじは大きく弧を描いて吹き飛んでいった。
「………え?」
空中でもみじは思う。
普通あの速度で衝突したら吹き飛ぶのはみのりこの方だ、なのになぜ!今こうして自分が吹き飛んでいるのだ!?
訳の分からないままもみじは空を舞っていたが無事に着地することはなく近くの木へ派手に激突し、思考そのものがストップした。
「ぐ、いてててててて」
そんなもみじに対しみのりこは猛スピードのスィーが衝突したというのにそう痛がる様子を見せなかった。
「姉さんのおかげ、ね」
みのりこはシュンの仲間になるまでしずはの人気のための特訓に付き合わされていた。
新しい技を受けたり互いに競い合ったり、そうしているうちにみのりこは下手な攻撃ではやられない強靭な体力を手に入れたのだ。
だがそれだけではまだ理由としては今一つ、あの激突を耐えられたのは他にも理由があった。
「な、なぜ……あのこうげきをうけて……」
痛む体を無理に動かすもみじ、掠れる視界の中もみじはみのりこの姿を見て耐えれられたもう一つの理由がわかった。
「な、なんだ……その……根っこみたいなのは!!」
「その通り、根を張ったのよ」
『ねをはる』草タイプの技で地中の養分を吸い取る事で自分の体力を回復させる技である。
みのりこはそれに加え自分の体を地面に固定することであの攻撃を耐えきる事が出来たのだ!
「でもうごけないのが難点、カッターの射程さえ長ければいいんだけど……」
「………ははっ!!つまりは自分から的になったのかい!」
水を得た魚のようにもみじは満身創痍ながらも調子に乗り、牙をむき出しにしてみのりこに襲いかかった。
流石天狗のゆっくりと言ったところか、もみじはスィーに乗らずともかなりのスピードでみのりこを翻弄していく。
「ホラホラホラーーーーッ!!」
「ぐっ!!」
手負いのためかもみじの攻撃は本来の勢いではなかったがやはり手数が違いすぎる。
回復量がダメージに追いつかない。根を外して回避に徹することもできるがそれでもみのりこにはもみじの攻撃をかわしきる自信は無かったのだ。
「小回りが格段にッ!」
スィーと同じような機動力を持つもみじだが一番の違いは小回りの良さ。
スィーは一度突撃したら方向転換するまで攻撃できない、だが一度降りて自分自身で攻撃すれば攻撃の間隔は好きに調整できるのだ。
(さっきのようにはいかない……ッ)
みのりこは内心で舌打ちをして攻撃を耐えながらもみじの動きを観察する。
じっとゆっくりしていれば絶対に好機は見えてくるはず。それを信じてみのりこは必死に意識を保ち続けた。
「きしゃあああああ!!」
「今だッ!!」
もみじが真正面からみのりこに噛みつこうとしたその瞬間、みのりこははっぱカッターを持てる限り全ての力で持って投げつけたのだ。
射程はギリギリだった。はっぱカッターは全弾もみじの口の中に入りもみじの口内をザクザクに切り裂いていった。
「がああああああああああああああ!!!」
「く、くぅ」
これで倒れてくれればいいのだがとみのりこは祈ったがもみじはすぐに葉っぱを吐きだし、希望は泡となって消えた。
これは一発限りの奇策、もう二度ともみじ相手には使えないだろう。
「うがああああああ!!!やってくれたなああああああああ!!!」
「ちくしょっ……」
もう後が無くなったと悟ったみのりこはすぐさま根を外しもみじと格闘戦に入った。
もはや策略も作戦もないただの取っ組み合い、けれどもそれももみじが優勢に立っていた。
「がぶがぶがぶ!!」
「いやあああ帽子噛まないでええ」
「むーしゃむーしゃ!!しあわせーーー!!」
もみじはみのりこの帽子についているブドウを噛みちぎりおいしそうに咀嚼する。
ゆっくりはお菓子で出来てることが多く、そのため甘いお菓子、果物、ジュースなどで傷を治すことが出来るのだ。(ちなみに辛いものだと普通に沁みる)
口内の傷は激しく集中力を乱す、そのためもみじは治癒のために真っ先にみのりこの帽子のブドウをを狙ったのだ。
「はなれろッ!!」
「きゃんっ!」
みのりこは帽子ごともみじを振りほどき、地面に転がったところをジャンプしてのしかかる。
けれどもみじはあらん限り抵抗してゴロゴロととっ組み合ったまま二人は森中を転がっていった。
「このいぬちくしょうめ!!このこの!!」
「不人気のくせになまいきいうんじゃねえ!!しねゆっくりしね!!」
そんな風に互いに罵倒しあいながら二人はキャットファイトを続けていく。
しかしここでも身体能力の差が顕著に表れ、もみじの素早い攻撃にみのりこは自身の体に傷を増やしていった。
「はははっ!やっぱり格闘戦もにがてなのかなァ?わおーーーーん!!」
「………」
だがもみじの勝ち誇った顔を前にしてもみのりこはその瞳に宿る希望を消し去ってはいない。
傷つきながらも反撃を諦めず、一方的になりかけた戦況をイーブンに持ちこたえていた。
「このっ!!………ハァ…このいい加減に……ぶっ倒れろ……」
「ふふ、さっきよりも遅くなってるわよ」
「生意気な口をっ……ぐぅ」
おかしい、長い間戦っているうちにもみじは自分の体に違和感を持ち始めた。
まだ十分に戦えると思っていたのにその予測に反して急激に体が疲労感に襲われたのだ。
でもそれなら相手だって同じなはず、そう思って戦いを続けるがみのりこの方はそんな様子を見せず、いや、さっきよりも元気になっているように見えた。
「な、なぜ……」
「予定通り、予定通りよ!」
「な、なにが……うぎゃっ!!」
疲労のせいで思うように抵抗が出来ずもみじはみのりこに跳ね飛ばされて力なく地面を転がっていった。
これはあまりにも異常、根も張っていないのにみのりこはどうして元気でいられるのだ!?
「い、いったいなにをした!!」
「えぇ~私は何もしてないわよぉ」
「しらばっくれるな!!」
だがみのりこの言うことは本当だ。やっていたことというと自分と組み合って変哲のない攻撃を繰り返していただけ、間近で見ていたから間違いない。
こうして思い返している間にも疲労感は刻々と増していった。
「……自分の頭……見てみなさいよ」
「はえ?」
自分の頭って、いつものように白眉と呼称してもいいくらいの優雅で華麗な白毛とプリティで可憐な赤い帽子、あと犬耳があるだけだろう。
だが恐る恐るもみ上げで頭頂部をさすってみると妙なものが生えているのに気が付いた。
_
\ヽ, ,、
`''|/ノ
.|
_ |
\`ヽ、|
\, V
`L,,_
|ヽ、)
.|
/ ,、
/ ヽYノ
.| r''ヽ、.|
| `ー-ヽ|ヮ
| `|
ヽ, ,r__/__!:::__\
ヽ ,. '"´ /::::::::i:::::::::::::ト 、 :
, ' '´`ー-'----┘ `ヽ .:
/ / _!__ ! , ', '.、 :
∠.,,_ ,' ´/___ハ /! ,!、 ; ',\ :
| ` i ,ィ´ レ' レ'r!、/ ! |-‐' :
'、 ! /,!'、 ( ) ( ) | ハ! :
i. ヽ. V ハ''" rェェェ、 "!ノ :
ハ, )ヘ`ヽゝ、 |,r-r-| 人| :
,' ヽ. _V>ソ`; ー-r='i´/ :
「なんじゃごりゃあああああああ!!!」
「ふふ、これこそ私の切り札『宿り木』よ!!」
『宿り木の種』草タイプの技で相手に種を植え付けることで毎ターン相手の体力を奪い自分の体力にすることが出来る技である。
一応高速スピンで剥がし取る事が出来るが高速スピンは威力が弱くそれを覚えている人も少ないため、非常に凶悪な技となっているのだ。
「い、いつの間に!!!?植えつけられた覚えなんて……」
「いつの間にって……自分から食べたんじゃない」
食べただと。いつ、どこでともみじは今までの行動を思い返してみる。
そして思い出した、『食べた』ことを。
「あ、あ、あ、あのブドウかああああああ!!!!」
そう、宿り木の種はブドウに仕込まれていたのだ。普通ブドウは基本種ありだからそれに気づくことも出来なかったのだ。
「ゆふふふふ!!口の中に叩きこんでやろうとは思っていたけれどまさか自分から食べに来てくれるなんて、食い意地の張ったワンちゃんね!!」
「うがああああああああああ!!!」
ひっこ抜こうとしても力が足りず、もうやけになってもみじはみのりこに吶喊していく。
だが回復しきったみのりこにとってそんな破れかぶれの技をかわすのは造作もないこと。
そして技が空振りして転んでしまったその隙を狙い、みのりこは勢いを付けて大きく跳ね上がった。
「確かに私は姉さんのように強くはなれない!!でも!これが豊穣の神としての!わたしのたたかいかただあああああああああ!!!」
みのりこののしかかりはもみじに直撃し、もみじは疲労も相まってかそのまま目を回して動かなくなった。
勝ったんだ。達成感が身に染みてみのりこはその場にごろんと横になった。
「弱くなんかないぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
神を模したゆっくりの叫びは荒廃した森に響き渡った。
こうして戦いは終わった。かなり不利な状況だったというのにれいむもみのりこも無事で何よりである。
「はいそれじゃ反省会をはじめま~す」
頭を地に伏している中ボス三人組を見下して僕の右手に収まっているれいむはそんなことをのたまっていた。
このまま無視してコウマに行くのもいいけれど敗残兵であるこいつらがまた暴れ出さないとも限らないからだ。
「うわーんやまめー」
「あたいもうおうちにかえる!!」
「くぅ~ん」
「もう絶対こんなバカなことしないって約束しなさい!!もし破ったら森中のゆっくりをあげて総リンチ&凶暴になった姉さんを呼びつけるからね!!」
「「ゆっくりわかったよぉ~~」」
みのりこの脅しに近い叱責できすめとちるのは泣きながらどこか逃げかえってしまった。
しかし残る一人であるもみじは苦虫をかみつぶしたような表情でふるふる震えたままその場を動かなかった。
「どうしたの、もみじ。あんたもさっさとどっかいきなさいよ」
「うるさいよ!仲間外れにされた今もういばしょなんてないよ!!」
そうだった、こいつはなんかスペルカードがないとかそんな理由で僕達が仲間外れにしてしまったのだ。
こうして見てみるとなんか可哀そうに見える。これからこの森で孤独で生きるのは大変だろう。
「なによ、他のところ行ってきめぇ丸とでもつるめばいいじゃない」
「いまさらあんな奴とは……ッ」
「ああ、そっか……あの設定のせいね、姉さんも怒り心頭だった……」
なんだかよく分からないがそのきめぇ丸という所には行けないようだ。
しかしそうするとどうしたらいいものか、一応仲間外れは僕達の責任でもあるのだからなんとかしないと気分が悪い。
みのりこも色々頭をひねらせて本気で考えている。れいむはというとアホみたいな表情で蝶々を目で追っていた。
「それじゃあ……エイヤの方に行きなさい」
「エイヤ……?」
「そこにあなたと同じようにHardでスペカを持たないウサ耳のゆっくりがいるはず……これを見せれば分かってくれるわ」
そう言ってみのりこは帽子の中から一枚の赤く染まった葉っぱを取り出しもみじに手渡した。
もみじはそれを受け取ると何も言わないまま、ただ泣くことを耐えてどこかに去っていった。
これにて反省会は終わり。僕はみのりこを左手に抱えコウマへの道をゆっくりと歩き始めた。
「そう言えばみのりこ……さっきの仲間外れの話だけどあれって普通だったらちるのだよな?」
「ええそうよ、でもね」
「でも?」
「私一人で天敵みたいな奴を倒せるはずないじゃない」
だよなぁと思って僕は妙に納得した。こんなみのりこを僕は好きだ。
第四話終わり。
- れいむがこんなに主人公らしいのって珍しいかも。あと「レンジでチンしたら治ったよ!」にはワロタ。饅頭なら普通ホカホカになるだけですよね~。
Hardな姉のキャラの濃さに押されていまいち影が薄いみのりこにスポットが当てられているのは珍しいです。根を張るみのりこって絵にするとなんかコワいw -- 名無しさん (2012-07-06 20:44:53)
最終更新:2012年09月19日 08:46