ゆっくりもんすたあ 第五話-3



「あいつもかなり頑張ったようだね!それじゃれいむいきまーす!!」
 れいむは門番さん達にはあまり恐怖を抱いていないようで呑気なことを言ってフィールドに飛び出した。
その陽気さが頼もしくもあり、また同時に不安でもある。
「こ、コウマジムを任された以上負けてしまってはお嬢様に顔向けが出来ません!行きなさい!!めーりん!!!」
 いちりんが相打ちしたことが相当ショックだったようで門番さんは焦燥の表情を浮かべながら最後のゆっくりボールを投げた。
中から出てきたのは以前にも見たことがあるめーりん、ただし今回は図鑑の画像のようにZzzという効果音をつけて眠っていた。
「ねむってるね。なめられてるのかな?」
「ゆ、油断はできないぞ……」
 れいむはめーりんに近づかずじっと様子を見続けているが、1分、3分、5分経ってもめーりんは起きる様子が無かった。
何これ、なんかの放送事故ですか?
「門番、この失態どう説明するのですか」
「え、ええと、この子相手から来ないと起きなくて……」
 一応門番さんの作戦とかではないようだ。しかしこちらの攻撃を待っているということはあの厄介な『カウンター』を仕掛けてくるかもしれない。
そうすると僕達も待つしかないわけで。そうして何もアクションが起きずまた刻々と時間は過ぎていくのであった。
「……門番!これは不祥事ですよ!このことはお嬢様に全て報告いたします!」
「だって~~!!ルール上関与できないじゃないですか~!」
「シュン君~何かできないのか?」
 誰もがこの状況を見かね、ケシキさんが退屈そうにそう僕に呼び掛けた。
「だってカウンターなんてやられたら負けちゃうじゃないですか」
「カウンターか……ありうるな。でもあれは物理的攻撃だけだから……炎とか風の攻撃には何の対応もできないぞ」
「え?マジ?」
 風の攻撃が聞くということであればあれが効くはずだ。この戦いの先制はこちらが貰った!!!
「れいむ!オウレイフウカノン!!」
「ゆっくりわかったよ!!」
 れいむのリボンから送られる烈風によってめーりんは何の抵抗もなく吹き飛んでいく。
けれど着地の衝撃で目を覚ましてしまったようで途端にじゃおじゃお張り切りだしたのだ。
「よ、よしっ!!こっからが本当の戦いですよ!!」
「なんの!さっさと終わらせるぞ!れいむ!もう一度オウレイ……」
「うりゃっ!!!」
 と、僕が言いかけたその瞬間めーりんは目にもとまらぬ速さでれいむの前まで距離を詰めてきたのだ。
比喩じゃない、今まで出会ったどんなめーりんよりも、中ボス3人組のスィーなんかよりも、それらを遥かに超えた速度だったのだ!!
「めーりん!発勁!!」
「はああああ!!」
「ぎゃあああん!!ビリッときたァー!」
 めーりんはいちりんも使っていた技でれいむを吹き飛ばす。
そのまま追撃をかけるようにめーりんはれいむを追うが、れいむが苦し紛れにリボンで風を起こしたためめーりんは一度足を止めた。
 何という速さ、これがジムリーダーの切り札だというのか。
「強いッ!!」
「タイプなど克服してこそジムリーダー!!そうれ!めーりん岩落とし!!」
 めーりんはその指示を受けるとフィールド上にあった岩を破壊し、一番大きな破片をれいむに向かって投げつけた!
「マズイぞっ!飛行タイプに岩タイプの攻撃は危険だ!!」
「れいむ!避けろッ!!」
 急だったのでそんな指示しか出せなかったがれいむはなんとかその岩を転んでかわした。
だがどこか動きがぎこちない。さきほどまでの機動力が無くなっているように見えたのだ。
「れいむっ!オウレイフウカノンは今だ相手に有効だ!相手の隙を狙って放て!!」
「ゆ、ゆぅ……わかった。でもなんかビリビリしてうまく体がうごかないよ!」
「にゃにぃ!?」
 お前らに麻痺とか言う概念があったのか、と言う突っ込みはともかくいつからそうなったのか疑問に思う。
さきほどまではいつものように結構ピンピンしていたのだ。もう考えられる原因は一つしかない。
「さっきの技のせいか!!」
「そうです、発勁は攻撃と共に気を送る技。体内に入り込んだ気は相手の神経を麻痺させるのです!」
「つ、つまり……波紋法ってことか!!」
「それとはちょっと違う気も」
 ジム戦において道具の使用は制限付きながらもありとガイドに書いてあったが、貰った支給品の中には麻痺を治す薬は無かった。
この不利な状態で僕達は戦わなければいけなくなる。でもやり抜けば勝利を手にすることが出来るのだ。
 もう決心は変わらない。僕のために戦ってくれたみのりこのためにも勝つまでとことん貫いて見せる!!
「せめてもう少し動ければなんとかなりそうだよ!!」
「むむむ……麻痺さえ何とかすれば」
「とりゃーー!!!!」
 そうこうしている間にめーりんが飛び蹴りでもするかのようにれいむに向かって飛んできた。
足というか底部を地面につけていないためかとんでもない勢いと言うほどではない。けれど麻痺して動きが鈍っているれいむにとっては脅威でしかなかった。
「うおおおおお!!!」
 リボン、髪、体を全部駆使して、逆に言えば全てを使わなければれいむはその攻撃をかわす事が出来なかった。
けれどめーりんは地面に降り立つとすぐにれいむの前に近づき、両もみ上げでれいむの体を連打していったのだ。
「ほあたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!!!!」
「ぎゃぶぶぶぶぶぶ!!」
 めーりんの攻撃はれいむを吹き飛ばすほどの威力は無い。けれどそれによって相手を逃がすことなく次の攻撃に移すことが出来、結果として脅威の連撃を受けることとなるのだ。
いちりんの時とは似ているようで全然違うこの状況、現にれいむは手も足も(?)出なかった。
「く、くそう!!いででででリボン動かしてもこの位置じゃあたんねぇ!!」
「れいむ!!!」
 と、このれいむの言葉で僕は少し考える。
そもそもれいむの攻撃手段は体当たりとリボンによるオウレイフウカノンぐらいだ。
れいむが言っていたようにこの距離だとオウレイフウカノンは当たらないし、助走もつけられない以上体当たりも繰り出せない。
 だからこそ手も足も出ないのだ。攻撃する手段がないのだから。
「他に技……ッ」
 僕は今までの戦いを思い出して他に何かないか考えてみる。
どれもこれも体当たりとオウレイフウカノンでけりをつけてきた印象がある。それなら他に何か……
「…………螺旋昇竜」
「ゆ、ゆっ!?」
「ええい!!れいむ!!!高速スピン!!!」
 この技なら今の状況でも放つことが出来る!!
れいむは打撃を受けながらもその場で回転をし始め、その風によってめーりんは少し怯み攻撃の手を止めてしまった。
「回れ回れ!!もっともっと!MOTTO MOTTO!!!」
「ゆゆぅぅ!!!」
 回転の影響によりれいむの周りにオウレイフウカノン以上の風が巻き起こりめーりんを大きく吹き飛ばしていった。
このままどんどん回転していけば!!きっと強い攻撃になるはず!!!
「っていくらなんでもそこまではいかないよな」
「め、めがまわったぁ」
 竜巻でどどどーーっって相手をぶっ飛ばそうかとも考えたが流石にそれは無理だった。
れいむは目を回しその場でばたんきゅーしてしまう。めーりんも離れたところでぶっ倒れているからどっこいどっこいと言った感じか。
「……何かもう……ケリをつけます!!めーりん!渾身の一撃を相手のれいむにぶつけなさい!!」
「わ、わかりました!!」
 門番さんの命令を受け、めーりんは最後の攻撃のためその場で気合を込め始める。
髪の毛も逆立ち、ビリビリとした衝撃が空気を伝って周りに広がっていった。状況を見て直感的に判断する。次の一撃で全てを決めるつもりであると。
「や、や、や、やべえええ!!!あんなのどうしろっていうんじゃい!」
「れいむ、さっきも言ったけど……相手の隙を狙ってオウレイフウカノンを撃て!!!」
「え、ええええええええええ!!!そんな!こんな麻痺した体で……」
「放出(放て)!!!!!!!!!!!」
 一瞬だけジムが静寂に包まれ、めーりんは虎のような凶暴なオーラを放ちながられいむに突撃していった。
地面を擦れる度砂塵が宙を舞い、空気は彼女に道を明け渡すように轟音を立てて風となっていった。
 これが正念場。ピンチをチャンスに変えるんだ!!
「れいむゥゥゥゥ!!!!かぜおこし!!!風刃砲!!オウレイフウカノーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!」
「どりゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 れいむはめーりんから逃げるように後退しながらリボンの風を送っていく。
風はめーりんの進撃を止めるには至らない。だがれいむの機動力は以前のものに戻っていて、めーりんがれいむに1mくらいまで近づく前に5発も放つことが出来たのだ。
「な、な、な!!!」
 一発ですら体が吹き飛ぶほどの強さ。それを短時間に5発も受けたらまともに動けるはずもない。
めーりんの突撃もいつしか勢いを失い、最後のオウレイフウカノンによってめーりんはその場に転んで動かなくなってしまった。
「………嘘」
『………こほん、めーりん戦闘不能!!!勝者!!!シュン!!!!!!!!!!!!!!!!』
「「いやったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」」
 アリアさんの宣言によって僕は計り知れないほどの喜びを覚えれいむと精いっぱいのハグをした。
勝ったんだ!あのジムリーダーに!!!
 悲しくないのに目には涙が流れ、僕はれいむと共に勝利の余韻にずっと浸っていったのであった。




「どうして……麻痺した体であんな」
 負けたショックだろうか、門番さんは目を回しためーりんの前で力なくへたり込んでいた。
そんな門番さんの元へセリエさんは素面のように見える表情で、優しく門番さんの肩をたたくのであった。
「ひ、ひぇぇ!!クビにだけはしないでくださいぃぃぃ」
「よくやりましたね門番。あの頃よりずっと成長しました」
「ふぇ……」
 セリエさんはポケットから光り輝く物体を取り出すとそれをめーりんの頬に押し当てる。
するとめーりんの顔に生気が戻りゆっくり、ゆっくりと瞼を開いていったのだ。
「……しかしよく考えたものですね。高速スピンで柔軟体操代わりにするなど……まるでろくろに載った作りかけのつぼのように」
「いや、足が痺れた時とか大体揉んで直してましたから……」
「やっぱ見込みあるな~」
 ケシキさんは僕や傷だらけのれいむを見てにししと笑う。
まるで新しいものと触れ合った時のの子供のよう、とても無邪気で屈託のない笑顔だ。
「さて、次はケシキさんの番ですけど‥…これじゃあすぐには戦えませんよね」
「大丈夫ですよ、私にお任せください。門番、いちりんを」
 セリエさんの言うように門番さんはいちりんをボールから取り出した。
額にまだ葉っぱが残ったままでどこか痛々しい。けれどセリエさんはそれをためらいなく引き抜き再びあの輝く物体をいちりんに押し付けた。
「元気のかたまりなんてすっごく珍しいものもってるな」
「これがないと一人で事務仕事なんかできませんよ」
「自分で使ってるのかよ……」
 その輝く物体とアリアさんの手厚い看護によって門番さんの手持ちゆっくりは全快し、最初の時と同じような元気を見せつけてくれた。(ちなみにこの時みのりこも回復してもらった)
これでケシキさんと戦えるわけか。僕は疲れているから今すぐ横になりたいけど応援してくれたケシキさんの戦いを見逃すわけにはいかない。
それに地味に楽しみなのだ。ケシキさんとジムリーダーの戦いが。
「それじゃ戦うか!行くぞエロい人!」
「せ、せめて門番と言ってください!!」
 こうして紅き霧のコウマジムにアリアさんの叫びが再び響きわたるのであった。



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     \ \__///,ィくヽ,」|_|||_/
       `l|  } ̄`l_l_j-='__ノ
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「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!」
「ぬわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!」

 ……分かってはいました。僕でさえ勝てたんだからケシキさんが負ける道理なんてない。
「セリエさん……もしかしてこれが分かっててすぐに回復したんですか」
「そうっですよっぷぷぷぷっっ、ああwwwwマジヤベェwww腹痛いwww」
「セリエさんって上にも下にも丁寧な人ですけど、同期の門番さん相手には心を許せるというか弄れるというか……」
 そうなのかー、と僕は微妙に納得したようで納得できなかった。
セリエさんの笑い声を耳にワンサイドゲームを鑑賞、僕は何か無性に空しい。



「心が折れました、バッチの譲渡はセリエさんがやってください」
 そう言ってうなだれる門番さんの背中を見ると気の毒でたまらない。
かける言葉もなく一人にさせてあげようということで、門番さんがいないまま僕達はバッチの譲渡を始めた。
「これが『ウィンドバッチ』。元々お嬢様用でしたけど変える予算もないのでそのまま。
 でもこれで他の人にお嬢様に勝ったと思われるのも癪なのでマークでも付けておきますね」
 セリエさんはボールペンでバッチの裏側に綺麗にサインしてそれを僕達に手渡した。
初めてのバッチ、初めてのジム勝利、幸せをすべてつぎ込んでしまったんじゃないかと思うくらい僕の心は嬉しいことで一杯になっていった。
「さて、俺はそろそろ行くぜ」
「あ、ケシキさん。行くんですね、ゆっくリーグへ」
「おうよ、今度はそのお嬢様に勝つんだ。んじゃ!また会おうぜ!」
 別れと再会を意味するようにケシキさんは大きく手を振ってコウマジムから出ていった。
僕もあんな風に強くなりたい。これでまた一つ目標が出来たわけだ。
「……2年前のリベンジが果たせるかどうか、見物ですね」
「2年前ですか……」
 あれ?と言うことはケシキさん2年も前からあの森に籠っていたということになるのか?
確かバッチの有効期限はその期間のリーグが終わるまで。つまりあの7つのバッチはもう意味をなさない事になるではないか。
「………ま、あれだけ強いのならきっとすぐにバッチを集められるさ」
「「いいのかよ!!」」
 僕の二人のゆっくりが同時に突っ込みを入れて僕は微かに笑う。
残るジムはあと7つ。そのすべてを回りゆっくリーグに辿り着くまで、シュンの旅は続くのであった。





  第5話  終わり



 ディケイネの門番バニーさんとメイドさんをお借りしました。えーきさまはヤマかわいいさんありがとうございます。

  • みのりこ惜しい。そういやいつもみのりこは不利な戦いを強いられているような。
    たしかにゆっくり同士の戦いってお互いゆっくりしてしまって試合にならないということがあるかも
    スピン攻撃で風を起こすってむしろゆっくりひなの技のようなw
    全編においてバトル描写が残酷にならずになおかつかっこいいのが感心しました。 -- 名無しさん (2012-07-19 20:05:31)
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最終更新:2012年07月19日 20:05