えろほんがあったよ!さとりさまよんで!第5章

※ キャラ崩壊注意






「もし この先の宝が ほしいなら この私を たおしてゆくがいい」

「では ゆくぞ!!」


戦闘の際のこのシンプルな前口上がトラウマワードとなった人も少なからずいるだろう。
その言葉を発した者こそ海底の宝物庫にいる全国の少年少女のトラウマモンスターランキング上位のキラーマジンガさんだ。
「どうせ楽勝だべ」と鼻歌交じりでマダンテをぶっ放したはいいものの、倒れず突っ込んでくるところを見て目が点になった者は数知れず。超攻撃力と常時二回行動という烈火のごとき猛攻で冒険者達を棺おけに鎮めてきた。
「何でこんな強キャラがフィールドではただの一般兵のグラフィックなんだよ!?」「絶対グラコスよりも強いだろこれ!」「セーブしてねぇぇぇ! 俺の二時間がぁぁぁ!」と様々な悲劇を生んだ。
そう、価値ある宝物がある場所には必ず番人がいる。ましてやそこにいるのはただの番人ではなく、製作者の悪意あるほくそ笑みが伝わってくるような強ボス。昨今の少年少女なら誰もが知っている常識だ。
さんごのうでわを持っていないがためにタイダルウェイブで瞬殺なんて少年時代の通過儀礼のようなものである。
だがそれもボス達の身を守る為には必要なのだ。もしも強い宝物を守るボスが弱かったら、アイスソードを購入してはしゃいでるガラハドのように、「ころしてでもうばいとる」を選択されたついでにデス様の生贄に捧げられて死の鎧の材料になる。強欲な冒険者達に骨までしゃぶり尽されるのだ。
けれどもし仮にガラハドが持っているのがアイスソードではなくオブシタンソードだったらどうなるだろう。
ガラハド超ハッスルである。多分宝物を守る為にスーパーサイヤ人もかくやというほどの大暴れっぷりを見せ付けるに違いない。つるっ禿げてるからぱっと見わからないからタチ悪い。
例えて言うならばそういうことなのである。
要するに宝物を守る相手を舐めてかかってはならない。どえらいしっぺ返しを食らうのだ。









頭から壁に突っ込んでぷらぷらと体を生やしているお空、目が点になっているお燐、「ありえねー」と叫んだまま固まっているうにゅほ、無言無表情で佇んでいるアリス・マーガトロイド。
アリス邸の人形やぬいぐるみが立ち並ぶ少女趣味なリビングは、水を打ったように静まり返っている。

「外の世界のとある神はこう言ったらしいの。右の頬を打たれたなら左の頬を差し出しなさい」

アリスが口を開き、ツカツカとブーツの足音を鳴らしながらお空の傍まで寄ってくる。

「そして鍛え上げた左頬で相手の拳を砕きなさいってね」

アリスはお空の右足を片手で掴み、まるで雑草か何かのようにぐぃっと引き抜いてお燐達の方目掛けて投げた。










お空、お燐、そしてお空のゆっくりことゆっくりうつほのうにゅほ。二人と一匹はとある目的の為にアリス邸を尋ねた。うにゅほがどうしても必要な道具、それがアリス邸にある。うにゅほが喉から手が出るほど欲しいもの。
お空は能天気ながらも自らの妹分の為に力を貸すことを約束し、お燐はお空とうにゅほの突拍子も無い提案に対し半ば保護者として付き添っていた。
くだらない事と一蹴されるようなその提案。だがお空とうにゅほはどこまでも本気だった。半信半疑で半ば監視役のような気持ちでやってきたお燐も自らの子供の頃の愚直なる純朴さを思い出し、全力で手伝うことを決めた。
地霊殿の主でありその住人達にとっては母も同然の存在であるさとり。
彼女への贈り物を巡る珍道中は今――終点を迎えようとしていた。







うにゅほは目を回しているお空に近寄り「ゆっくりしていってね!」と安静を促す。自らのモデルであり、その強さを尊敬しているお空があっさりやられたことにうにゅほは多大なショックを受けている。お燐だってそれは同じだった。地上に出る為に右手の制御棒を預け核の力を制限されているとはいえ、あのお空が易々とやられるなんてありえない。
うにゅほ達は目的の物の在り処を聞きつけたまではいい。ただ、何も意気込んで最初から喧嘩腰で突っ込むこと無かった。そこで下手に出て譲ってもらえばよかったのだ。
お燐の失敗は意気揚々と突っ込む親友が元々調子に乗りやすく、尚且つ無鉄砲なところがあるということ。
そしてそれ以上の失敗は、相手がよりにもよってアリス・マーガトロイドであるということだった。
お燐は金髪の人形のように美しい少女をその双眸に捉えながら震えていた。妖怪になる以前の、野生動物だったころの本能が訴えている。

(あたいはこれでもそこそこ腕はたつ。修羅場もいくつかぬけてきた。そういうものにだけ働く勘がある。その勘が言ってる)











        ,. '"´ ___,,,,....、,,,_   `ヽ.
       ,:'´,.- ''"´ ̄ ̄`"''ヽ:ヽ,   ':,
     / /' / ,   i   ,ハ  Y ヽ.  ',
     ,'  i  !/  ハ  /  ヽ _,ハ  ',  i
     i   !  ( \)ノ '')/'/::、Ti !ハノ ,'
     !ヘ ,ハi'`'_ヒ_]`:::::::r''ヒ_カ).イ/ i   〈
     ヽ ヘハ::::::::.:::::::::::::     ハ〈   ハ
       ) | .l、":::-‐‐-:::   ,"/ /  ノ
     / ノ ノ ,i>.`¨´:::::,イ/ ン' イ ノ  
      '〈r'k' ,!>イ'トー‐ァ'i∠、_! /_ン
        ン´  ゝ'=ニ=r'"  `ヾ     
      rくヽ、/__,/:.ナ:.:.:|_  ',  _`ゝ.
      `''ァヘr-/:.:.:ナ:.:.:レ、_,.ヘ,_rヘ,_ン
       '/  `i:.:.:;ハ:.:.:.:.:.::._',    ':,
      ./_____ァ'>lコ--‐'"_ハ     ':,  
     rk「lllll/:`7''トl ̄i.:.:.:.:.:.:.':,  、 _,〉 


(あたいはここで死ぬ)





「来いよ。建物(アジト)は壊したくない」
(めっちゃ壊してるじゃん!?)

自分達はもはや『敵』と認識されている。
家の外へ出る事を促すアリスの提案に対し、お燐は両脚がすくんで動けないでいた。
あの表情は特にマズイ。自分は猫耳で死体愛好家だ。マズイ。
そういえば自分は死体を操るネクロマンサー的な能力を持っていると一時期思われていたなぁと、お燐はふと思う。実際にはノリのいい妖精達を手懐けてゾンビごっこしていただけだったが、その死体を操る程度的な能力は誰かに似ているとお燐は気がついた。



                    _. -‐"^`'ー 、
                  |ヽ-<        ヽ_
               ー-ァ{」_. \         'ー、_
                  ,-ゝ"    `ー`            Z
           キ.  (    、__            rlii;;;{ヾ=,}
           ュ   {_    }`ッ-、-、  、_   ,r=、 `ー、) |!
           イ    (_ ('t__`!.f.、 ; ``!ソ }テ"`! ';ト-- 、}
           ィ    └`-■■■■  ``    !‘.... ν  痛かったら手を挙げてね
           ィ          ヽ ..ノ   .ィ ,.;;;iiii|||||||)
           |              `-、/,,!ii||||||||||||||i、_
            ン              ィii||||||||||||||!!'''" }
             (( ●             `|||||||!'''" _... `;
            _..., /           /|||!'"// _.. ` 、
    __   ___ _..f ./!、 ● ))      /l||!'/ --==  ̄ /
   ,´ _,, '-´ ̄_i l_/_. ×         i i|!〃..-- 、、_  /
.   ,'r´ iノ イノ(└ィニ、_/- !r;;、       l i!' ,;ii||||||||||||||||iii;ソ
   ,'==(?) , ×/``ニ`ヾ!||||i;、,,..   ,ィ!ニヾ!!|||||||||||||||||||!'
   i イ    ,rェ /、 し="   `ーィi|||||i;,、<〃!、ヽ 〉||||||||||||||||/
   レリイi  {⌒⌒`/(/、  /|||||||||||||||||ii;;;i、ソ||||||||||||||||/
    i!Y  ヽェェェェ' ヽ-'ー"T|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||/
    L.',.         L」 ノ``'''_人人人人人人人人人人人人人人人人_
     | ||ヽ、       ,イ| ||イ| /> ゆゆゆゆゆゆゆすひ:wふゅq:fyf  <
     レ ル` ー--─ ´ルレ レ´  ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄


頭から潰される。
弾幕ごっこでも事故の名の元に死ぬ。格闘ごっこやったら確実に死ぬ。

(チクショウ富樫め、あんな化け物を幻想入りさせるたぁね……。あまりにも長い期間読者を待たせるんじゃないよ……今更あのネタとは……)

だがお空が核の力を使えず、尚且つあのダメージでは自分しか戦える者はいない。
そう、やるしかないのだ。自らよりも強い相手に対しては逃走か服従を選ぶのが動物の本能。けれど今はそういうわけにもいかない。守るべきものが出来た。仲間がいる。群れを守る為に戦うのだ。

「最初はグー……」

右手を押さえて構えるアリスの殺気に対し、思わず涙が浮かんでくる。怖い、怖い、怖い。恐怖を振り払うため、お燐は自らを奮い立たせるように一歩前に出る。
他人に話せば確実に呆れられ、からかいの種になるような今回の騒動の目的。だがお燐はそれを笑わない。笑えない。むしろ自分達を笑うのはいい。だけどうにゅほのさとり様への気持ちを笑う奴は許さない。前に出ろ猫パンチでデンプシーロールかましてやる。それが今のお燐の気持ち。
そう、うにゅほのさとりを想う心は本物。子供が母を想う気持ちは守らなくてはならない。守れる奴が守るのだ。例え自らが傷ついても、目的を達成するまでは逃げることなんて出来はしないのだ。

「性は火焔猫、名は燐。死体を持ち去る程度の能力を持つ妖怪火車。二つ名は地獄の輪禍。灼熱地獄の燃料とするために墓場や葬式会場から持ち去った罪人は数知れず、卑しい卑しい日陰者の黒猫さ……。さてご来場のお嬢様、こんなあたいの一世一代のショーをご覧下さい……」

震える手を握り締め、涙が浮かびそうになるのを堪え、気を抜けば意識を奪われそうになる体に渇を入れ、お燐は今――魔人に立ち向う。







おりんりんランドはっじまっるよ~~!!!!」









「おかあさんってナニ?」

うにゅほ、お空、お燐がアリス邸に向かう直前の事、お燐に抱きかかえられて空を飛んでいるときにうにゅほは言った。
「うにゅほにとってさとり様ってお母さんみたいだよね」お燐が何気なく言ったその一言に対し、うにゅほは頭の上に疑問符を浮かべた。
ゆっくりは幻想郷の少女の能力の分け身。幻想郷に異変が起きて新しく住人が増えるたびにどこからとも無く現れる存在。うにゅほ自身も気が付いたらその辺を跳ねていた。それ以前の記憶は全く無い。故に親というものが存在しない。そんなうにゅほにとって、母という言葉は聞き馴染みのないものだった。

「え~とお母さんってのは要するに子供を産む雌の事で、こうお父さんっていう子供が出来る元を持ってる雄から――」
「????????」

お燐の説明に対し更に疑問符が増えるうにゅほ。保健体育の授業は難しかったようである。「子供を産むために交尾した雌のことだよ」と言えば一発なのだろうが、今回の場合は意味合いが異なる。

「まぁ要するに子供を育てて守る雌のことだね、あたいも実のところよくわかんないけどさ」
「だいたいわかった!」

自信満々に答えるうにゅほ。あぁ多分わかってないんだろうなぁとお燐は苦笑する。

「おりんとおくうのおかあさんってどこにいるの?」
「今はもういないよ」

お燐が言う。お空も右に同じと頷く。

「なんでおりんとおくうはおかあさんがいないの?」

聞きようによっては残酷な言葉をうにゅほは言った。そこに悪意も悪気も無い。ただ疑問に思っただけなのだ。
それがわかっているお燐はあっさりと答える。

「たぶん、私を産んですぐに地底のどこかで死んじゃったのかもね。昔の地下って今みたいにに恵まれてなかったんだよ。実際、私も野たれ死にそうになったことが何回かあったし」
「おかあさんがいなくてさみしい?」
「う~ん、私を産んでくれたお母さんには悪いけど、実はあんまり寂しくない」
「なんで?」
「え~と、そのさ――」
「仲間がいるから寂しくないって事だよ。最後まで言わせるなよ恥ずかしい――ってやつかい?」
「そうそれそれ」

お空がフォローに入ってきたお燐に同意する。

「お母さんってのはさ、抱きしめてくれたり寂しいときに一緒にいてくれたりする人のって意味もあるよ」

お空が答えた。お空にとっては母というものはそういうものとして認識されている
今現在お燐に抱きかかえられているうにゅほが更に疑問を口にする。

「じゃあおりんがわたしのおかあさん?」
「ん~、それはちょっと違うかも、ん~――」

お燐が満更ではなさそうにしつつも否定しつつ、返答した。

「うにゅほにとってのお母さんって、さとり様なんじゃないかな?」
「さとりさま?」
「そ、さとり様。馬鹿やって、遊んで、傷ついて、そんな風に過ごしていくことを見守ってくれる人。うにゅほもさとり様のこと大好きだろ?」
「うん!」

うにゅほはさとりの膝の上で絵本を読んでもらうことが大好きだった。まるで卵の中で守られている用にゆっくり出来る。そんな温かさと安心感。

「じゃあおくうもおりんもさとりさまがおかあさん?」

自分のお母さんだからお空もお燐もお母さんでもある。その理論の飛躍に二人は苦笑する。だが間違ってもいない。自分達が主人を想う気持ちは母を慕う気持ちと似ているのかもしれない。生まれた時からずっと母という存在を知らなかった二人はそうだといいなと淡く思った。

「うにゅほ、お母さんのために頑張りな」

だから今回は自分も全力で協力する。今まで本気じゃなくてゴメンとお燐は続けた。

「ううん! おりんありがと!」

うにゅほはお燐の胸元じゃれ付いた。

「わたしがんばるね! ぜったいにさとりさまをゆっくりさせてあげるから!」
「よしよし、その意気だ」

お燐が優しく微笑みながらうにゅほを撫でた。






「おりん!!」

うにゅほが叫んだ。アリスに向かって飛び掛っていくお燐。右手を振りかぶるアリス。
全てがスローモーションに見えた。ゆっくりと、ゆっくりとお燐目掛けてアリスの拳が迫る。
膨大なオーラを込めたアリスの拳が迫る。
死んじゃう、お燐が死んじゃう。いつも面倒を見てくれる大好きなお燐がぐしゃっと潰されるところなんて見たくない、やだ。ぜったいやだ。うにゅほは思わず自らの羽で両目を覆い隠した。

「…………」

だが、いつまで経ってもお燐の悲鳴も何かが潰れた様な音も聞こえてこない。恐るおそるうにゅほがうっすらと目を開けると、そこにはお燐を肩で担いで息を切らしているお空がいた。

「おくう!」

うにゅほが涙を浮かべながら自らの分身でありモデルの名前を呼ぶ。
先ほどのダメージはまだ残っているはずなのに、お空はお燐のピンチの瞬間咄嗟に間に入った。

「おくうだいじょうぶ! 頭いたくないの?」
「大丈夫だって。私ってばメチャクチャ強いんだから。あんた自分のモデルの強さ忘れたの?」

えへへと笑いながらお空は言った。そのこめかみからはだらだらと血が流れている。
嘘。
空元気。
あまり察しのよくないうにゅほでもわかった。
確かにお空は強い。神の力を得て核を操る程度の能力を持つお空は途方も無いパワーを持つ。
しかし核を撃つために必要な右手の制御棒はその強大すぎる破壊力のために地上に持ち出すことはできず、今のお空は核を撃てない。
もしそんな状態のお空が今のアリスに挑みかかるとどうなるか結果はわかりきっている。
それでもお空はお燐を見捨てることは、地下での異変のときに誰よりも自分を庇おうとしてくれた親友を見捨てることは、絶対に出来なかった。

「馬鹿お空……あんたが喧嘩売ったせいでとんだとばっちりを受けたじゃないか。あのお姉さん相手にどう戦えばいいのさ」

お燐はふっと不敵に笑った。何はともあれ助かったよ、ありがとう。心の中で礼を言う。
そんなお燐も左手で脇腹を押さえている。どうやら痛めたようだ。かすっただけでこの威力。だが今は怖くない。

「ごめんごめん。ま、どうもこうも無いよ。戦って勝つ、それだけだよ」

現状、アリスの方が強いことをお空は認める。だが強い奴が勝つとは限らない。あらゆる手を駆使して活路を見出す。それはすなわち文字通り死力を尽くして戦うこと。

「も――」

もういいよ、そううにゅほが叫ぼうとする。なのにそこから先の声が出ない。出せない。二人の気迫に気圧される。二人がこれ以上傷つくのは見たくないのに、止めることが出来ない。

「うにゅほ!」

そんなうにゅほに向かってお空が不適に笑いながら振り向いた。

「……こういう時くらいお姉ちゃん達に甘えな」

うにゅほがこれまで聞いた中で最も優しい声で伝えられたその一言は、うにゅほを金縛りにでもあったかのように動けなくなった。






お空はうにゅほが邪魔だった。誰もかれもが自分よりもうにゅほに構う。面白くない。うにゅほが地霊殿に来てからつまらなくなった。
近寄ってくるうにゅほをお空はいつもうっとおしがっていた。故にうにゅほも段々お空に近寄らなくなった。
さとりはお空に対し「うにゅほには優しくしてあげてね。貴方だから出来ることがあるの」
そう言いながらお空にもうにゅほにも平等に愛情を注げるように気を配った。
お空はその言葉の意味がよくわからなかったし、わかる必要も無いと思った。

お空とうにゅほの間に訪れた転機は本当に何でもない事だった。
特に事件も事故もイベントもあったわけではない。ただうにゅほが地霊殿の中庭で深さ10センチ程の穴にぴったりとはまっていたところを助けただけ。それだけ。もはや事故という事も憚られる。しょうがないなぁと思って気まぐれに拾った。本当にそれだけだった。
ただ、その時のうにゅほの「たすけてくれてありがとう!」というお礼と安堵に涙ぐんだ顔を見て、お空はふとした拍子に二つの気持ちに気づいた。
保護欲とでも言うのだろうか、自らを頼ってくれる存在に対し助けてあげたいと思う気持ち。
見得とでも言うのだろうか、うにゅほの前ではちょっとばかりイイ格好をしたいと思う気持ち。
それはまるで妹が出来た姉の気持ち。
うにゅほは、自分のゆっくりは、自分の妹みたいな存在なのだと。
かつて妖怪になる前のただの烏だった頃、次々と野垂れ死んでいった自らの妹と同じなのだと。

なんてことは無い、お空のうにゅほに対する気持ちは妹が出来て居場所が無くなった姉の心境だったのだ。
孤児であるお空には、知りたくても知ることの出来なかった感情。
それに気付いて以来、お空はうにゅほを邪魔だと思わなくなった。うにゅほもお空に近づくようになった。






お空は思った。たまには姉らしい姿を見せてあげたい。面倒を見てあげたいと。
うにゅほの力になってあげたいと。明一杯の幸せを受け取ったこの卵に。


「いくよ、お燐!」
「あいよ! 言われなくてもわかってるさ!」

お燐は頑張ろうとするうにゅほをどこか自分とお空の昔の姿に重ね合わせた。
お空と一緒にさとり様の力になろうとしたあの頃を思い出す。自分達の過去の姿。

下らないと一笑するならしろ。笑いたければ好きなだけ笑うが良いさ。だけど自分達は今この瞬間決死の覚悟を固めている。子供の夢を壊さない為に大人が必死こかなくてどうする。
傍から見たらどうしょうもないこの珍道中。かつての自分達の姿を思い出させるひとつの卵に、全力で力を注ぐ。
二人は息を合わせ、眼前の魔人目掛けて渾身の一撃を加えようと踏み出した。

「「でやあああああああああああああああ!!」」



















「貴方達の目的の物はこれね」

アリスが一冊の薄い本を手に持ちながら表情を変えずに呟いた。

「まさかこれひとつの為にここまで必死になってくるとは、流石としか言いようがないわ」

アリスはすぐ傍で倒れているお空とお燐を一瞥する。二人とも全身傷だらけでピクリとも動かない。普通に戦って出来た傷ではない。二人とも倒れても何度も何度も立ち上がり、そのたびにやられていった。再生力の強い妖怪とはいえ、しばらくは立って歩くこともままならないだろう。
だが、アリスも無傷ではない。二人の決死の覚悟で打たれた一撃はアリスに直撃し、激しい音を立てながら壁に叩きつけた。もし二人がダメージを負っていなかったらアリスは今こうして立つ事は出来なかっただろう。

「う……うにゅぅぅぅ……」

うにゅほは悔しかった。自分の大好きな二人がボロボロにされるのを黙ってみているしかなかった。
反撃してやりたかったけど、うにゅほは弱い。そしてそれ以上に怖くて手が出ない自分が情けなかった。
目的の物が目の前にあるのに、それなのにあと一歩のところで届かない。

「でも、ここまで頑張った事には敬意を表すわ」

アリスがぱさりと、一冊の薄い本を床に放り投げた。うにゅほの眼前に。
うにゅほは一瞬呆気に取られた後、ひょっとしてくれるのかと期待に目を輝かせた途端、すぐさまアリスの拳が空を切った。
するとうにゅほのすぐ隣の地面がボコォッと穴が開く。

「当然貴方だけに棚ボタで渡すつもりは無いけどね。謝って手に入れる? それともお願いだからちょーだいと媚びる? 貴方の友達が傷ついた今、そんな方法で手に入れてもいいの?」

そんな事、聞くまでも無い。迷うまでも無い。即答で断言できる。

「よくない!」

うにゅほは心からそう思った。過程よりも結果の理論で世の中は回っているが、それで割り切れないものなんていくらでもある。今このときがまさにそれだった。

「貴方はこの子達が戦うところを見てどう思ったの?」

お空とお燐が自分の為に必死に戦うところ、うにゅほはそれを目の当たりにした。
うにゅほは頭が良くない。複雑な感情の正体を掴めない。故にシンプル。
自分の為に頑張ってくれて嬉しかった。お空もお燐もやられて悔しかった。

「能力が無いならその体で掛かってきなさい。手足が無いなら食いちぎりなさい。実力が及ばないなら頭を使いなさい。正攻法で駄目なら卑怯な手を使いなさい」

弱いことは罪ではない。戦うべきときにそれを言い訳にして戦わないことこそが罪なのだ。
アリスは眼前の雛鳥に、気高き獣としての戦い方を説いた。
そうする気が起きたのは必死に戦う二人に感化されたからなのか、それはうにゅほにはわからない。

「欲しければ私と戦って奪いなさい」
「う、う…………うにゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」














ゆっくりうつほのうにゅほは、その日生まれて初めて戦った。
辛くって、苦しくって、痛かった。だけど我慢した。自分のために頑張ってくれるお姉ちゃん達がいた。だから自分も頑張る。平気。



そしてアリス邸を後にしたうにゅほ達の手元には一冊の本があった。





  • 凄くシリアスな戦闘に心が震える‥、中で「でもネチョ同人誌かけて戦ってるだよな‥」と絶えず心の中で思いながら読みましたw
    台無しだよ!! -- 名無しさん (2010-11-03 22:47:39)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年11月03日 22:47