【2010・11年冬企画】人数とは無関係の食事-1

※原作設定・東方キャラの独自解釈あります



【12月26日】


 「食べきれない。勿体ない」

 と言って天井に大きな穴が空いたらしい、隣の部屋のゆっくりまりささん(と、あやさん)が大量の美味しい
ポップコーンをお裾分けしてくれた。
 午前中はちまちまそれを食べていた。
 昨日はクリスマスだったから、そこそこのごちそうを食べた。
 そうした状況で、レストラン「LUNATIC FIREFLY」でお昼ご飯に回鍋肉定食を選んだまではいいが、中に
茄子が入っていて、明美ちゃんはまともに食べようという気になれなかった。
 元々野菜の中でも茄子は嫌いだった。
 ママは怖いが、もっと怖いパパは、今朝急用ができて先に家に帰ってしまった。
 一緒にお泊りしている、友達のゆっくりチルノちゃんと、その保護者のゆっくりレティさん(親子ではない
らしい。一体どういう関係かは教えてもらっていない)、ゆっくりルーミアちゃん(たくさん詰まった財布と
保険証だけ持参して、何と一人でやってきた)がいるから、ママもそんなに怒らないと思っていた。
 で、他は何とか食べられたが、茄子と肉だけ選り分け、デザートの林檎に手を伸ばしたら、容赦なく怒鳴られた。

 「明美、どうしてそんな所だけ器用なの! 全部食べなさい!」
 「やだ……」
 「勿体ないお化けが来るわよ!!!」

 ゲラゲラゲラ…… そんなの幼稚園の年中さんで、もう怖くなくなった。

 「来るのよ! 本当に!」
 「こんなの食べられないよー」
 「ちるのちゃんと、るーみあちゃんはちゃんと食べているじゃない」

 しかし、この季節にちるのちゃんは冷やし中華なんて頼んだし(ちゃんとした奴。出す店も出す店である)、
るーみあちゃんはたまに皿まで本当に食べようとしまう子だ。「なつもふゆもやっぱり冷やし中華がいちばんね!」
などとご満悦のちるのちゃんとゆっくり特有の不敵な笑みをたたえ、いつも通り「おいしい」も「まずい」も言わない
るーみあちゃんを見ていると、何だか比較されることが納得がいかない。

 「るーみあちゃんは、るーみあちゃん、ちるのちゃんはちるのちゃんじゃない! 明美は関係ないよー」
 「世の中にはためたくても食べられない人がたくさんいるんですよ!」

 それはよく聞く

 「そんなのちがうもん。明美がごはん食べたって、その人たちはおなかすいたままでしょ?」
 「ご飯を作ってくれた人たちに悪いと思わないの?」
 「だっておしくな………」

 反論しかけたが、近くを異様なほど高い(人間の子供の背丈をやや超える)コック帽を被ったゆっくりリグルと
ゆっくり早苗さんが、ゆっくり特有の半眼でこちらを睨んでいた。
 何で調理場から出ているのかは知らなかったが、仏のコック帽はあんなに高くはないはずだよなあ、と皆思いつつ
下を向いた。
 テーブルの上、何かが残っているのは明美ちゃんの皿だけになった。

 「こうして食材揃えたりするのすっごく大変なのよ?」
 「それがお店屋さんのお仕事じゃない」
 「お金払ってんのよ!!?」
 「明美、小さいからお金稼げないのしょうがないもん!」

 何度も言うが、今は外食中だし、パパはいないし、友達とその家族が来ているから、逃げ場がある、と明美ちゃんは
強気になっていた。普段なら家から外に追い出されている所だ。
 ――――で、ママは一発頬を張った。
 痛みや悲しみよりも、不意打ちで何も話せない。

 「すみません…… 娘とこんなはしたない所をお見せしてしまいまして……」
 「随分前だけど、ニ○ニ○動画でクレ○ンし○ちゃん傑作選見てたら、しんのすけがピーマンを頑なに食べようとし
ない話が  あって」
 「………え?」
 「それで、家の外に締め出されて最後は泣いて謝りながら食べるんだけど」
 「―――は、はい!」
 「その時『みさえひでえ』ってコメントに対して、いちいち『これは躾だ』『甘やかすんじゃねえ』っていきり立って
コメントに返す奴らがたくさん出て、荒れに荒れて、最後、赤い大文字で延々と教育論を下コメで表示し続けて、
最後に『わかったかいゆとりくんwwwwww』って締めてた奴がいたんだけど、ああいう手合いって、
『オトナ帝国』とか映画で見ただけで何だか自分が偉くなった気になるんでしょうね」
 「……………」
 「……………」
 「……………」
 「……………」
 「はい?」

 何が言いたかったのだろう?
 するとるーみあちゃんが初めて口を開いた

 「奥さん、ここは私に任せてください」

 ママに対して言ったのだとは解るが、同年代の友達に自分の母親を「奥さん」と呼ばれると何だかものすごく変な気
分になるというか、腹が立つ。どうでもいい話だが。

 「明美ちゃん。これは死んだ牛の肉と、畑から引きちぎった野菜なんだよ? 生きるという事は食べるという事だよ。
食べるという事は  他の命を奪う事だよ。 つまり――――」
 「それ聞いたら、ますます食べたくなくなっちゃった……」

 しばらく沈黙が続き、るーみあちゃんは泣き出した。

 「明美! るーみあちゃんに謝りなさい!」
 「何でよう………」

 ちるのちゃんは何が起こっているのか解らず、全員の顔を疑問符を浮かべて眺めている。

 「もういい! じゃ、あんたずっとここにいなさい! れてぃさん、行きましょう」
 「あらまあ、放置処分決行」

 明美ちゃんは、ママだけが出ていくと思っていた。
 れてぃさんは行くかもしれないけど、ちるのちゃんはしばらく残って、るーみあちゃんは何だかんだで居てくれると
思っていた。
 しかし、コーヒーを飲み干したれてぃさんはすんなり着いて行き、るーみあちゃんは泣きながら席を離れ、
ちるのちゃんは困った顔で明美ちゃんを見つつ、結局れてぃさんに着いて行った。

 「そんなぁ………」

 椅子から降りて、追いかけるのは少し遅かった。
 とりあえず食べられなかった林檎をかじったが、美味しくもなんともなかった。
 昨日のレストラン程ではないが、やはり広い店で、支払いに言ったママ達の姿はどこにも見えない。帰ってくるだろ
うと、しばらく待っていたが、誰も帰ってこない。
 行儀よく姿勢を正したが、変わらない。
 ふと周りを見ると、先程のゆっくりりぐるとゆっくり早苗さんがやはり憐れむような顔でこちらを見ている。
 少し離れた席に、一人だけお姉さんが座って紅茶なんぞを飲んでいた。左右の目の色が違うのが少し怖かったが、
率直にこの状況でも「ああ、かわいい人だな」と明美ちゃんはぼんやり思えた。室内なのに、紫色のまるで大嫌いな茄
子みたいな傘を携えていて、どこかで見た覚えがある気がする。
 非常にひもじそうな、悲しそうな面持ちでこちらを見始めた。あまりに悲しそうな目がこちらまで感染するような気
がして、明美ちゃんはあわてて椅子から降りてママたちを探し始めた。
 多少の期待があった。
 多分お店の外の見えないところで、明美ちゃんを待っていてくれるのだ。
 どやされるだろうが、今よりはましだ。
 しかし、店の尻口には誰も待っていなかった。
 泣いているゆっくりパチェさんと。大慌てのゆっくりアリスさんが、行くの行かないの と押し問答をしているだけ
だった。
 周辺大きな鉢植えの裏にいるのかと思ったが、れてぃさんは隠れる事ができないだろうし、ママ達はやっぱり
いない。
 じゃあ、部屋に本当に戻ってしまったのか―――――?
 何階の、どこら辺の部屋だったかはそれとなく覚えている。廊下にいかにも金持ちの家にあるような、
大きなゆっくりすいかの絵があったからだ。
 すぐ戻ろう。
 部屋で謝ろう。
 顔を真っ赤にして出て行こうとすると、鋭い声で呼び止められた。

 「お客様―――――お支払いをお願いします」

 思わず足がすくむ。
 振り返ると、レジ係のお兄さんが少し焦った顔をしていた。

 「お連れの方の分のお題はいただきましたので―――――お客様ご自身のお支払いをお願いします」

 どういう事だろう。
 ママは、確かにお金の問題を言っていたけれど。明美ちゃんがお金を持っていないし稼ぐ事も出来ない事はしってい
たはずだ。
 なのに、どうして――――― これでは、本当に店から出られないじゃないか

 「ええ~? そんな事……」

 どっと全身から汗が吹き出し、足がすくんで気が遠くなった。
 パパにお見切り怒られた時より、TVや絵本でも怖い話よりも何よりも怖い
 もう少しで泣きそうなった時――――

 「ここは、私がお支払いしましょう」

 上からの声と共に、誰かの腕に明美ちゃんは背後から押さえつけられた。

 「はあ、しかし、この方の親御さんから、ここで留めておいてほしいと………」
 「いや、私はその連れの者ですよ。」
 「―――とは言いましても……」

 全く知らない声だ。
 それに、上を向いて顔を確かめられない程強いtからで明美ちゃんを抑えている。
 その腕はほんのり冷たかった。
 ―――しばらく二人は何かを話していたが、レジ係は納得してしまったらしい。
 その時、明美ちゃんの頭の上で小さな何かが落とされた。
 次いで、とんでもない力で抱き上げられて―――――まるで荷物の様に小脇に抱えられた。
 上半身は相変わらず動けない。
 十分に快適な空調だが、明美ちゃんを抱えている相手は、この季節にやや短いスカートと、ニーソックスを履いてい
た。
 必死で恐怖に任せて暴れたが、びくともしない。

 「………た、たたたた」

 これこそ、学校で習った「誘拐」というものだろうか?
 堂々としすぎて面食らったが、とにかくできるのは抵抗することと、大声で助けを呼ぶことだけだろう。
 そかし、どんなに恐怖に任せて暴れてもびくともしない。

 「――――助けてっ!!!」

 しかも、周囲はまるで無関心。
 冷たい人たちばかり、という訳ではなく、本当に気にしていない様子だ。
 段々明美ちゃんは、自分が人間ではない気さえしてきた。

 「じたばたしては駄目よ? あんたは”買われた”んだから」

 いかにも意地悪そうな、少ししゃがれた高いのか低いのか解らない、怖い声だった。それだけでも泣きそうになると、
さも可笑しそうにお姉さんは続けた。

 「ごはん食べたのに、お金が無かったんでしょ? いけない事よねえ。でも可愛そうだから私が代わりに払ってあげ
たの。だから、ご飯のお金を払ったんだから、 私は あなたを食べてもいいの」

 ちょっとよく解らない。
 人間は食べるものじゃないはずだ。
 ゆっくりは、実は結構食べられるらしいけど、それだって食べてはいけないとパパや学校の先生達からいつも言われ
ている。
 そりゃ、ライオンやトラやサメは人間を食べるが、人間は人間を食べない。
 ―――このお姉さんは、本当に人間か?
 頑張って体を曲げてもがくと――――お姉さんの背中から、何かが、生えているのが見えた。
 おそらく左右非対称なのだろう。
 青くて堅そうな、剣みたいな羽みたいなものと、赤くてブヨブヨウネウヌしてるのに先っぽが尖がっている物が数本
ずつ。
 本格的に悲鳴を上げかけたとき、軽い衝撃がお姉さんの腰を通じて伝わった。
 全然動じなかったお姉さんは、初めて踵を返した。
 その足元には――――ちるのちゃんと、るーみあちゃんが見上げて睨みつけていた。
 明美ちゃんは怖くて仕方がないのに、二人はしっかりと。

 「あんただれ? 明美ちゃんがないてるからはなしてねー」
 「明美ちゃんを食べる気なのか―? 塩焼きかー 蒲焼かー」

 さっき、ママたちと一緒に見捨てられたと思っていたけど……別に助かった訳ではないけれど、明美ちゃんは一瞬目
頭が熱くなった。
 お姉さんはそれでもすぐに無視して歩を進めた。
 二人は後ろから、お姉さんの背中に向かって何度もポコポコと体当たりを始めたが、振り向きもせず―――何かを投
げつけた。
 虫だったろうか? とても小さな蛇のようにも見えた。
 小さすぎて、どこに行ったかもすぐわからなくなったが――――

 「あれあれ~?」

 ちるのちゃんが、ポトリ、と転がる。そして、何故か胴体が出ていた。
 表情があるのかないのかよく解らない顔で「寝ている」

 「ち、ちるのちゃん……?」
 「ゆっくりし過ぎたのかー!?」

 ちるのちゃんは、たまにああなる。理由はよく解らないが、「ゆっくりし過ぎた結果」だそうで、とにかく長時間動か
なくなってしまうのだ。でも、さっきまで元気だったのに、あんなにいきなり何て事はいままでなかった。
 そして―――叫んでいたるーみあちゃんまでもが、同じ様に一瞬で横たわった。
 こういうのを、何と言うのだろう?
 ちるのちゃん、「チルノフ」というちゃんとした名前があり、他にも「キスメノフ」「ユカリフ」「イナバフ」という単
語を聞いた
事があるから、「ルーミアフ」?
 間違いなく、お姉さんがとても良くない事をしたに違いない。

 「酷いよお!!!」

 明美ちゃんは初めて泣いた。
 我慢していたけれど、怖いのではなしに、大声で泣き始めた。
 それを無視して、お姉さんは何やら聞こえよがしに言う

 「子供の生き胆なんて久しぶりだー」

 「ゆっくりし過ぎて」横たわる友達二人を置き去りにして、明美ちゃんは連れ去れていく。
 泣いて泣きまくって――――正直ここまで泣けば誰か助けてくれるんじゃないかと思ってしまっていた。だが、考え
てみれば
「泣けば済むと思ってるの? 馬鹿なの?」とパパにもママにも、ゆっくりてゐにも言われたことがある。
 実際に誰も助けてはくれないではないか。
 たまに覗き込む人達もいるが―――中にはこういう人もいた。

 「可愛いだいちゃんだなあ」

 ―――ゆっくりだいちゃん は知っているけど、それは明美ちゃんを本当に見て言っているのだろうか?
 それとも、豚とか馬とかの、悪口のこと?


 何が起こっているのだろう?


 この短期間で、明美ちゃんは、ママに捨てられ、 知らないお姉さんに「買われ」、友達二人が「ゆっくりし過ぎ」、
そして知らない人達からは「だいちゃん」呼ばわりされる。
 一体自分が何の悪い事をしたのだろう?
 それは―――ちょっと思い当たる節はある。
 そして、段々暴れるのも良く無ない気がしてきたのだった。
 お姉さんはちょくちょく聞こえるように意味不明な事を言う

 「そのまま刺身で食おうかな? 吸い物にしようか? 死んじゃう前に踊り食いも楽しいかもね♪ 眼球もプチプチ
してそだね」

 通路を行く人達を見る。
 相変わらず無関心だったり、興味を示す人も、明美ちゃんを人間とすら見ていない事は明らかだ。
 その中に―――あわてて走ってくる、ママとれてぃさんもいた!

 「ここだよう………!」

 明美ちゃんは、渾身の力を振り絞って暴れ、助けを求めた。
 そんな明美ちゃんを、「だいちゃん」と認識する事も無く、ママ達は慌てて通り過ぎて行った。


 ―――多分、店の中にいたんだろう。外ではなく、トイレにでもいってたのか、かなり離れていたか――――
明美ちゃんが、レジで呼び止められていた時、このお姉さんは近づいて、明美ちゃんに「何か」をしたのだろう。
 その時から、明美ちゃんの姿はみんなに見えなくなっていたに違いない。
 それでも―――ちるのちゃんとるーみあちゃんだけは解ってくれたのだ。
 そんな友達も、もうついて来てくれない。

 涙も声も枯れ果てていた。

 そして――――
 エレベーターで、何階まで上ったのだろう?
 すれ違う人がいなくなった時だった―――――
 うなだれ、もう助けを呼ぶ気力も無かったけれど、お姉さんが歩みを止めたのが分かった。
 前を見てみると―――――二人の、また別のお姉さん達が立っていた。
 立ち止まっている。
 こちらを、注目している。
 何が珍しいのだろう?
 ほとんどの人は、(実際はそうではないのに)明美ちゃんを、ゆっくりだいちゃんだと勝手に思って、無関心か、よく
て「かわいい」くらいの事を言って去っていくのだ。
 しかし、考えてみると、だいちゃんを小脇に抱えて歩く人自体が少ないのだから、ちょっとだけ訝しむかもしれない。

 それでも、明美ちゃんが助かる訳ではない。

 この人達も、同じ様な事を言うんだろう。
 それで終わりだ。
 もうどうしようもない。
 そう思ってまた項垂れたとき、二人は同時に言った。



 「ゴマフアザラシ?」「お肉?」



 しばらく沈黙が続く。
 明美ちゃんは顔をあげた。期待感ではなく、単純に驚いて。
 と、前のお姉さん達二人は顔を見合わせている。

 片方は、赤い髪の帽子を被った――――何だか、外国の、それも韓国とか中国とかベトナムとか、そういった国の人
みたいだ。
 もう一人は、メエドさんだった。
 初めて見たかもしれない、本当に完璧なメエドさんだった。
 ホテルの中にもメエドさんはいるけれど、それはイメージと現実はやっぱり違う、と子どもどころに明美ちゃんは思
ったが、目の前のメエドさんは違う。まるで、絵本の中から飛び出した様。
 そんな彼女達は、まず、お姉さんに 「久しぶりー」と適当に挨拶した。
 どんな知り合いなのだろう。
 そして、再び顔を見合わせて話し始めた。

 「美鈴……… あなたどれだけ食欲の塊なの?」
 「いや、確かに物足りなかったですが………」
 「あんなに可愛いアザラシの赤ちゃんを、食肉としか捉えられないなんて」
 「………… あれ、アザラシの肉ですか……… と、言いますか咲夜さん、なんて言うかそのあの」

 明美ちゃんを思いきり指さしているから、明美ちゃんの事だろう。
 世の中の連中は明美ちゃんをゆっくりだいちゃんと見ていた様子だが、この人達には、アザラシの赤ちゃんか、肉の
塊に見えるらしい。

 「懐かしい…………昔地味に流行ったことがあるの。 『ゴマちゃん』―――というのは正式名称ではないけど
ゴマフアザラシの赤ちゃんを主人公の男の子が小脇に抱えて生活するアニメがね…………」
 「最後には食べちゃうんですか?」
 「―――……美鈴? あなた……?」
 「あの、ぬえ? が抱えてるの、まぎれもなく肉の塊じゃないですか! サシも入って美味しそうな………」
 「―――…………私には、あれがアザラシにしか見えないのだけれど」

 しばらく沈黙が続き、「ぬえ(それにしても変な名前だ……)」と呼ばれたお姉さんがひそかに舌打ちする。
 メエドさんと中国人は、ごしごしと目をこすった。
 そして、藪睨みで言った。

 「なんだ……人間の子どもじゃないの」
 「偽装してたのね」

 見えてる!!?

 「感心しないですねえ。 不殺生が仏教、人妖の平等がキャッチフレーズの寺にいるのに、こっそり”外”で人間狩
りなんて」
 「大抵、この年の子どもは親と行動しますから、ばれたら後々面倒ですよ~」
 「攫ったんじゃないよ。ちゃんと買ったんだ」
 「”外の世界”の、どこで幼児を売ってるんです」
 「うるさいな!とにかく通してよ」
 「――――おっと」

 メエドさんは、ぬえお姉さんの前に立ちはだかった
 よくみると、茶色い大きな板の様なものを抱えていたが、それが何だかは解らなかった。

 「こちらも行儀よくしてるのに、変に暴れたら印象が悪くなります」
 「――――言っておくが、私は”客”じゃない」
 「は?」
 「一方的に、昨日召喚されたのさ。――――呼び出した人間はどこかへ行っちゃったけど、多分期待してたのは
  私がこういう活動を行う事だろう」
 「グランドホテルでそういうのはねえ。夜の山じゃないんだから」

 ポキポキと気持ちの良い音が、中国人の方から拳から鳴った。
 メエドさんは何かを取り出そうとしているけれど、それが碌でもない物だという事は雰囲気で感じられた。

 「――――分が悪いなあ」
 「こっちの気持ちの問題ですよ。あ、これ良かったらどうぞ。個人的に買ってきた『名古屋コーチン』です」
 「ふん。鳥の肉ね」
 「あと、これ。鹿せんべいです」
 「おお、これはこれは…………………!」

 と―――次の瞬間、明美ちゃんはメエドさんに抱きかかえられていた。
 何が起こったのかは――――よく解らなかった。 極端に早いとかではなく、何か根源的に逆らえない何かを
された気がした。
 目の前で、ぬえお姉さんを改めて見たが、あんな赤と青のウネウネは無くなっていたし、黒を基調とした半袖と
ミニスカートがとても可愛らしい人だった。明美ちゃんはもっと鬼のような形相を想像していたけれど、とても
幼い顔つきで、それが却って怖かった。

 「おい、メエド………」
 「はい。物々交換成立。名古屋コーチンに鹿せんべいと、少女の生き胆ね」
 「あんたの所の吸血鬼の、帰った後の夕飯? 多分私より性質悪いよあんたら」
 「用があるならいつでもどうぞ。一番上のスイートルームに私達おりますので」
 「ああ、スイート……… わかった」

 ぬえお姉さんはイライラした様子で、明美ちゃん達を通り過ぎていく。
 途中で、メエドさんは言った。

 「この娘、あんまり怖がってないみたいでしたよ?」
 「え……そう………?」
 「まだ幼児だし、もう少し考えた方がいいかも。 生き胆 なんて言っても解らないでしょ」

 瞬きをすると、ぬえお姉さんはもう見えなくなっていた。

 「あれ、随分あっさりでしたね」
 「何か薄かった……… 意外と本人じゃなくて、何かを飛ばしてたのかしら?」
 「あ、ありがとうござ………」
 「いえ別に」
 「ビスケット拾って、ちょっと機嫌がいいんですね」
 「――――何で拾い食いするのが前提なのよ」

 お礼を言おうとして――――明美ちゃんは、メエドさんと中国人の抱えている板状のものを、見た。

 「―――――………」

 それは、ビスケットだった。
 大きい。
 ゆっくりし過ぎた――――ちるのちゃんと、るーみあちゃんと同じくらいの―――――


 と、言うより、本人たちだった。


 だいちゃんだの、アザラシだの肉だのと言われ続けた事が頭をよぎる。

 「ちる・・・・のちゃん? るーみあちゃ………」
 「何? 知り合い? な訳ないか」
 「―――………様子がおかしいけどこのビスケットもしかして」

 ふ―――と、意識が遠のいた。





 夢も見なかった。
 気が付けば夜。
 ほの暗い部屋。
 最初に、大きな窓が目に付いた。
 月光が妙に赤い。 どういう理由で赤くのあるのかと思い、ついで周りを見て驚いた。
 ホテルの中だとは分かったが、明美ちゃんの泊まっている部屋とはレベルが違う。
 先ほど、メエドさんの事を、絵本から飛び出したよう と明美ちゃんは思ったが、この部屋も同じで、
本当に王様やお姫様が生活している場所と言えば、リアルにこんな所なのだろうと思った。
 広く、そして何から何まで気持ちよく使ってもらうためによほどの財力が必要だという事も

 「あ………」

 まずは、あのぬえとか言うお姉さんにあのまま連れさられなかったこと、おそらく食べられなかった
事を安心したが、自分が安全になったとは到底思わなかった。
 ママは心配しているだろうか?
 怒るだろう。

 そして―――ビスケットになってしまった、友達二人。

 何が起こっているんだろう?
 というか、今までの事が夢なんじゃないか?
 しかし――――明美ちゃんが寝ていたソファの横には――――丁寧に、二人がビスケットになって
眠っているのだった。

 「何で…………」

 色々触って確かめてみたりはできただろう。
 もの凄く手の込んだ、嫌がらせか、偶然で、本物の無関係なビスケットなのかもしれない。
 しかし――――色々な事が起こり過ぎた。
 起こり過ぎて、理不尽な事や怖い事は、すべて疑う事が今の明美ちゃんにはできなかった。

 何がいけなかったのだろう?

 思いつくものがなかったが、それも怖くて、明美ちゃんは静かに泣いた。
 大声で泣く気力もなかったので、ひたすらしくしくと
 とても気持ちの良い部屋にいるのに――――――――――

 「泣けば良いと思ってるの? 全く人間はだらしないわね」

 突然声をかけられた。
 月明かりの下―――――豪華なテーブルの横に、非常に安楽そうな椅子があって、そこには、
明美ちゃんよりもちょっと年上、といった程度の女の子が座っていた。
 月明かりと言っても、逆光になって、その容姿はそこまで解らなかったけれど、何だかパジャマみたい
な服で、外国人らしい。
 ぬえとかいうお姉さんとはまた違った形の、明美ちゃんから見ても本当に可愛い、人形みたいな―――
この部屋に実に似合う――― お嬢様、といった言葉が実に似合う。
 しかし―――その目が薄暗い中でもよく解るのは、ありえない事に紅いためだった。
 それは非常に冷たい目つきで、先ほどのぬえお姉さんを見て、何となく人間と思えない感覚を覚えたの
だけれど、その度合いが、このお嬢様は段違いだ。

 一目見て、すぐに人間ではない事、そして友好的な存在ではない事が分かった。

 足を組んだまま、リラックスしきった体制でなので、まだソファーにいる明美ちゃんの方が目線は上
なのだが、心から見下した目線と、その尊大すぎる態度。
 むしろ、お嬢とか姫を通り越して、王様――――いや、魔王という単語を思い出した。

 「咲夜。もう夕飯後にこんな小娘をどうするつもり?」
 「どうすると言いますか――――グランドホテルで、妖怪が不測に生き胆をすするのも良くないかと
  思いまして」
 「ふん。普段どうせあの寺で碌なものも食べてないだろう。そのまま食わせてやればよかったじゃない」
 「ぬえは、どうやら宿泊客ではないようでして――――変に私達が、ホテル側から疑いをかけられるのも
  困ると判断したためです。 事件になってから、あの妖怪を捕獲するとするのも難しいですし」
 「全く――――グランドホテルはこういう所が面倒ね」

 くい、と何かを飲んでいる。

 「で―――そのぬえから、小娘をどうやって奪ってきたの?」
 「妖怪と人間の交渉の基本は、GIVE&TAKE でございます」
 「吸血鬼は、いつだって誰にでも テーク&テーク だけどねえ。 ―――何を渡した?」
 「鹿せんべいと」
 「勿体ない……………」
 「名古屋コーチンを」
 「勿体ないなあああ おいっ!」

 やや取り乱したお嬢様だが、咳払いを一つ
 すぐにさっきの尊大な態度に戻る。一瞬可愛いと明美ちゃんも思ってしまった分、その佇まいは本当に
恐ろしい。
 明美ちゃんは少し離れた所にいたけれど、もう動けない。
 泣く事もできずに、ただ固まっていた。
 いや―――――動けない状態なのは、恐怖のためだけではなく―――――
 視線を彼女に戻し、お嬢様は言った。

 「小娘」
 「あ、中沢明美ちゃんって言うらしいですよ」
 「明美ちゃん。お前ら人間が生み出した貨幣社会の中で生活している以上、全てのものには代価を支払う
  義務がある事は解るな?」

 難しい言葉はわからないが、雰囲気からそれとなく意味を必死で察して、明美ちゃんは頷いた。

 「お前と、そこで寝ている連中だが、あの鵺に食べられるのをうちのメエドが阻止してくれた。
  ―――鹿せんべいと、名古屋コーチンを代価にして」
 「……………」
 「で、お前はその代わりに、私に何をしてくれるのかしら?」

 ―――何もできるはずない。
 家でだって、そんなにお手伝いをして褒められる事は少ないし、今年入った小学校でも保健係という一番楽な
仕事にしかついていない。
 ちるのちゃんとるーみあちゃんが助けようとしてくれた時も、何もできなかった。
 その事が悔しくて―――――実はそれだけではなかった事が後から解るのだが―――――明美ちゃんは声を
あげて、首を振りつつ泣いた。

 「ほう。それじゃあ――――――」

 唇をなめる、お嬢様の舌が赤い。
 口の中も元々鮮血の様に赤いが、そこには随分と鋭い犬歯が見えた。

 「食べさせてもらおうか?」

 一番の恐怖だった。
 それ程長く生きていないが、本当に命の危険にさらされるのはこれが初めてか?
 多分、顔もひどい事になっているだろう。
 首を振って拒否する気も起きない。
 ただ――――それは、ぬえお姉さんも似たような事を言っていて、その時も怖かったのだが、その時とは少し
違う感情があったのだった。
 食べるというと、何となく自分が丸呑みにされるか、(過程は解らないが)最終的にお饅頭になる、という想像
を明美ちゃんはしていた。
 で、目の前のお嬢様が、丸呑みにしている姿や、饅頭を頬張る姿を想像すると―――――何故か、その時には
恐怖が和らいだ。
 別に食べてもらいたい、と思った訳ではない。
 が、お嬢様の吸い込まれそうな紅い目で見られ、その、今まで出会った誰よりも可愛らしく、かつ尊厳に満ちた
姿を見ていると、食べられるのと同じくらい、その饅頭が、残されたり捨てられたり、粗末に扱われる事が
とんでもない恐怖と屈辱に思えた。
 次第に、食べられる以上の恐怖となってしまった。
 怖い事には変わりないが。
 絶望し、打ち震える明美ちゃんを、実に楽しそうに眺めつつ、ようやくお嬢様は椅子から立った。
 ああ、本当に、今度こそ食べられてしまうんだ。
 もっと死ぬ間際に色々思い出さなければいけない事もあるはずだが、明美ちゃんの頭の中は、自分という
お饅頭が、残されたり捨てられたりする事への忌避感で一杯だった。
 ぎゅっと目をつぶった時

 「そろそろいいでしょう、お嬢様」

 コトリ、とテーブルに何かが置かれる音。
 暗くてよく解らないが、鈴カステラらしきものがたくさん。

 「―――鹿せんべいと、名古屋コーチンは美鈴の分です。お嬢様の分は残してありますから」
 「あらそう。 ――――――それにしても、子どもはいいわねやっぱり。こんなにストレートに怖がってくれて」

 良く見ると――――鈴カステラと思ったら、何かの眼球だった。
 小さく悲鳴をあげるが、お嬢様はサクサクと美味しそうな音をたてる。
 眼球に見せかけた何かのお菓子か。

 「ああ、 これは”当たり”が入ってるの」

 別の一個をもう一口。
 ブチュリ、と嫌な音がした。

 「うわあああああ!」
 「う~ん……… 生臭い………」


 本当に悲鳴をあげたが、当のお嬢様も、渋い顔で食べている。
 ”当たり”って、もしかしてお菓子の方か?
 無理して眼球なんか食べなければいいのに…… といいった表情を、メエドさんも作っている。
 良く見ると、お嬢様の飲んでいたのはグラスで、近くに古そうなワインのボトルがあったから、あの年でお酒を
飲んでいたという事が分かる。
 大体、いくらメエドさんとは言え、年上への態度も悪い。

 「その通り」

 心を読んだみたいに、ニヤリ、と心底意地悪そうな笑顔を、お嬢様は明美ちゃんに向けた。

 「私達、吸血鬼――――いや、妖怪と言うもの自体が、明美ちゃん達からすれば『悪』と定義される存在ね」
 「……………」
 「その妖怪が、元来太古から人間よりも人口は少ない分、人間よりも遥かに強い存在として生み出されている。
  少数だとしても、全てにおいて『格上』の生物だ。 ――――しかし、人間はその上の『天敵』に駆逐されずに
  残ってきた。”幻想郷”が必要になる以前も一定の状態を保って変わらず、家畜化されることも無く、だ」
 「??????」
 「これがどういう意味か解るか? 腹立たしいけど、何者かの意思を感じない?」

 さっぱりわからない。

 「最も必要になるのは人間の”恐怖”―――殊更死や被捕食といった事によるものさ」
 「…………」
 「ほら、明美ちゃん。 『もったいないお化けがでるぞ~』って言われるでしょ?」
 「咲夜…………それ解りやすすぎ…… 言わないでよ。まとめ早すぎるよ」
 「『さあ、お前の罪を数えろ』ってTVでやってるでしょ?」
 「咲夜…………それ結構前………」

 確かに前だ。
 ああ、そういえば後藤さんが次に変身する訳じゃないのは気の毒だよなあ、 と明美ちゃんは突然思い出していた。
 そして同時に――――


 明美ちゃんは、 ママが、茄子を残そうとしたときに何を言ったのかを思い出した。


 『さあ、お前の罪を数えろ』

 ―――さっき、「何で自分がこんな目に」と明美ちゃんは思った。
 今、すごく解ってしまった。
 自分が、何をやったかという事。

 そして――――難しい事は解らないけど、このお嬢様が、何で怖いのか、それも解る気がした。

 「あの……… ごめんなさい」

 謝る相手は違っているけれど。
 本当は、ママとパパと、あのコックさんと、茄子やお肉に謝るべきだ。 
 明美ちゃんは、お嬢様とメエドさんに言わずにはいられなかった。
 メエドさんは、苦笑し、お嬢様は、めったやたらとご機嫌な顔。
 お酒をくいくい飲みつつ、眼球の盛り合わせを一粒また口に入れると、渋い顔をしている。また「外れ」だったのか。
――――良く見ると、別に人間の目という訳でもなさそうだった。
 その時、部屋に誰かが入ってきた。
 ―――同じく、なんだかパジャマみたいな服にナイトキャップを被った、お嬢様と同じくらいの女の子だった。

 「ええと、ぬえの潜伏先が解ったわ」
 「へえ」
 「昨日、天井と床をぶち抜かれた、803号室ね。 ―――というか、そこから離れられなみたい」
 「じゃあ、さっきうろついてたのは本体じゃない訳ですか」
 「――――……… とりあえず、このゆっくり2匹が、明美ちゃんにはビスケットに見えるのね?」
 「お嬢様は最初から正体を見抜いていましたね! 私も最初はビスケットだと思っていました」

 後ろには、バーテンダーみたいな格好の赤い髪の女の子と、先程の中国人もいた。

 「さて、グランドホテルの中、思い上がった鵺ごとき、どうしてくれよう?」
 「さっき『食べされてやれ』って言ってたじゃないですか」
 「私以外に、妖怪で好き勝手しようとしてる奴がいると思うと腹立たしいわ。挨拶にもこないし」
 「本体は動けない部屋から動けないみたいですし――――」
 「随分観念的な存在になってるのね。じゃあ、さっきみたいな調子でここに飲みにこさせる様に言ってきなさい」

 お嬢様は、

 「明美ちゃん」

 とまた恐ろしい顔を向けた。

 「あんたが、ぬえのいる部屋まで行って、このスイートルームに挨拶に来るように言うのよ」
 「え……でも…………」
 「あら? さっき『何ができる?』って聞いて、答えられもしなかったわよね? こっちから具体策を上げたと
しても、まだ納得いかないの?」

 ――――そういう事か。

 「それに、このままじゃ、あなたは世界中から『ゆっくりだいちゃん』、ゆっくり2匹は『ビスケット』と
認識されて余生を送る事になるのよ?」
 「うう………」

 と、メエドさんはお酒の瓶と、紙袋を渡してくれた。

 「お土産に、と言えば、なびくかもしれません。まずは頼んでみませんと」
 「まあお酒なら………」
 「咲夜、随分優しいわね………名古屋コーチンまで」
 「あ、パチュリー様。あれは小悪魔の分ですので、ご安心ください」
 「おいおいおいおい!」

 小さな体に、酒瓶はずしり、と重かった。
 それに―――こう言っては良くないが、何故こんな事を、お嬢様はさせるのだろう? 明美ちゃんが、このまま
逃げてママの所へ向かったりとかは考えないのだろうか?
 おずおずと戸惑っている明美ちゃんの前まで、今度こそお嬢様は近づき、そしてしゃがんで目線を合わせてくれた。

 「できる、わよね?」
 「は…………」


 ――――この人(?)は「悪」だ

 人間である明美ちゃんにとって、良い事は一つもない。
 おそらく、本当に今まで人間を食べているし、多分これからもどこかで人間にとって良くない事をし続けるだろう。
 少なくとも、明美ちゃんは無事だが、大いに怖がらされたのだ。
 そしてそんな様子を見て、心から楽しんでいる、性格の悪い人だ。
 酒なんか飲んでるし。
 別に好物って訳じゃないけど眼球なんか食べてるし。

 だけど――――

 「返事は?」



 何だかそれが小さい事に思えた。



 明美ちゃんは、別にそうした倫理観とかを捨てた訳じゃない。
 ただ―――このお嬢様限定で、何かそうしたものを越えて、気にせずに何かをしなければいけない気がしていた。
 こうした事は初めてだ。
 怖いと言えばものすごく怖い。
 騙されているかもしれない。
 けれど、お嬢様の自分を見据える顔を見ていると―――― 「それでもいい」 と思えてしまった。
 この気持ちには逆らえそうにない。
 ―――この人(?)の役に立ちたい。
 この人のためになる人間になりたい。

 「は、はい!」

 顔を真っ赤にして、明美ちゃんは頷いた。
 何より―――――このままだと、ママ達は明美ちゃんが見えないかもしれないし、ビスケットになった友達二人を
助けなくては。
 ソファの上で、幸せそうに眠ってビスケットになっている二人を見て、すこしイラッと来たが、明美ちゃんは胸の
中で「待っててね」と強く言った。
 そして、メエドさんに、改めてお辞儀もして、お礼を言う。

 「本当にありがとう………」
 「いいえ。こちらも横で明美ちゃんの痴態を傍観しながら、爆笑させてもらいましたからお礼なんて」

 笑い声何て聞こえなかったのに………
 最後に――――お嬢様は、しゃがんだまま明美ちゃんの両肩に手を添えた。
 逆にそれで明美ちゃんは怖さと嬉しさで卒倒しそうになったが―――――――――





           ,. -───-- 、_
      rー-、,.'"          `ヽ、.
      _」::::::i  _ゝへ__rへ__ ノ__   `l
     く::::::::::`i / ゝ-'‐' ̄ ̄`ヽ、_ト-、__rイ、
      \::::::::ゝイ,.イノヽ! レ ヽ,_`ヽ7ヽ___>
      r'´ ィ"レ´ ⌒ ,___, ⌒  `!  i  ハ
      ヽ/ ! /// ヽ_ ノ /// i  ハ   ',  うー♪ 頑張ってね!!!
      .ノ /l           ハノ i  ヽ.
      〈,.ヘ ヽ、        〈 i  ハ  i  〉
       ノ レ^ゝi>.、.,_____,,...ィ´//レ'ヽハヘノ





 ―――ああ、そうだ………
 誰かに似ていると思ったら、こいつ(↑) に似ているんだ。
 明美ちゃんは妙に納得した。
 よく見ると、全員――――メエドさんは、ゆっくりさくやさん似だし、中国人はめーりんにそっくり。
暗くてよく解らないが、パジャマっぽい少女は、ゆっくりパチェさんで、バーテンダーみたいな奴は、
こあくまだ。
 というか、「さくや」「めいりん」「ぱちゅりー」って思い切り言ってた……


 ――――……… 何だ? この集団


 一瞬やる気がなくなったが、ソファの上の友達を再度一瞥して、決意を燃やし、明美ちゃんは出掛ける事に
した。
 いつの間にか、扉の所まで移動していたメエドさんが開けてくれた。
 この人は最後まで優しい。

 「まったく、鹿せんべいに名古屋コーチンまであげて、よく見ず知らずの人間の子どもに………お人よしだこと」
 「まあ、”同族のよしみ”って奴ですよ。 利己主義のがモットーの妖怪でも、同じ眷属には優しいでしょう?」
 「”Give&Take”はどうした?」
 「対人間には、”Give&Give”で行くべし――――と、この前本で読みましたので」
 「どこの宗教家の言葉よそれ」
 「年商50億の企業家です」
 「それにしても人間嫌いが、子供には優しんだな」
 「人間嫌いじゃありませんよ。興味が無いのと、単に仲良くする努力をやめただけです。あの霊夢にちょっと
近いかもしれませんね」
 「よく言うわ」

 「企業家の名前は忘れましたけど」―――――という所で、部屋を出ていけばよかったのに――――
 お嬢様の言葉が、最後に明美ちゃんを凍りつかせた。

 「自分の家族と同級生を皆殺しにして―――――毎日吸血鬼の家で人肉を捌いてるあんたがねえ」


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最終更新:2011年01月05日 14:40