れみりゃのはじめてのぱたぱた-2




「…あれ?」

帰ってきたら姉貴もれみりゃもいなかった。
この部屋ははっきり言って狭いので隠れる場所などある訳がない。
外に出かけたのだろうか。

しかし、少なくとも俺が家にいる間はれみりゃを外に出したことはなかった。
恐らく姉貴が一緒にいるとは思うから大丈夫だとは思うが…。

漠然とした不安が俺の中によぎる。
2人はどこに行ってしまったのか。

「うわっ!?」

突然上着のポケットが震えだした。
いや、これは…。

「何だ…携帯のバイブか…」

一瞬でも焦ってしまった自分がバカみたいだった。
気を取り直して俺は携帯を開く。
そこには…

『今すぐ近くの公園に来てね お姉さんより』

というあまりにも簡潔なメールが届いていた。

姉貴とれみりゃは公園にいるのだろうか。
そこに2人はいるのだろうか。
どちらにせよ行くしかないだろう。
先程の不安は気の所為であってほしい。
俺はそう願うしかなかった。

近くの公園と言われたら一つしかない。
そこはあまり大きくはないが、遊具も一通り揃っている。
犬の散歩のコースにもよく使われている。
姉貴はそこで何をしようというのだろうか。
俺はそのようなことを考えながら公園への道のりを走っていた。

「れみりゃ!?姉貴!?」

俺は公園に着くと2人の姿を探す。
この公園は広くない。
端から端まで見渡すことが出来る。
しかし…見つからない!?
ここじゃなかったのか!?

「うっう~♪おに~さぁ~ん♪」

…!?
今のは…れみりゃの声か!?
しかし…どこにいるんだ!?

「れみりゃ!?どこにいるんだ!?返事をしてくれ!!」
「うっう~♪おにいさぁ~ん♪れみぃはここだっぞぉ♪」

ここってどこだ!?
俺にはれみりゃの姿を見つけることが出来ない。
れみりゃの声は実は幻聴なのか?
焦りばかりが広がっていく。

「れみぃはぁ♪おそらをとんでいるんだぞぉ♪」

お空?
俺は反射的に見上げる。
そこには…翼をはためかせ、滞空しているれみりゃがいた。

「うっう~♪いまからぁ♪おに~さんのところにぃ♪とんでいくぞぉ♪ゆっくりまっててねぇ~ん♪」

れみりゃの高度は大体3m程。
そして、れみりゃと俺の水平面の距離は1mもない。
垂直面の距離はともかく、水平面の距離は歩けば1秒で届く距離だ。
その距離をれみりゃは飛んで来ようと言うのだろうか。

「う~!う~!」

れみりゃの身体はゆっくりゆっくりと俺の方へ飛んでくる。
俺には、れみりゃがいつの間に飛べるようになったのかはわからない。
恐らく俺に隠れて姉貴に手伝ってもらいながら頑張っていたのだろう。
秘密にされていたことは少々寂しいが、俺にも見せてくれたから…よしとしなきゃな。

飛ぶれみりゃの顔は可愛らしい笑顔のままだが、どこか無理したような笑顔。
必死に頑張っていると言うことが見て取れる。
本当なら俺の方から迎えに行きたかったが、それはれみりゃの努力に水を差してしまうだろう。

「頑張れ!れみりゃ!俺はここだぞ!」

俺は両腕を広げてれみりゃに声援を送る。
それしか出来なかった。

「う~!…う~!」

疲れてきたのだろう。
その声にも必死さが混じる。
しかし、今の俺とれみりゃの距離は最初の半分くらいまで縮まった。
あともう少しだ。

「もう少しだ!頑張れ!れみりゃ!」
「う~…!う~!!」

ゆっくりゆっくりと俺に近づいてくるれみりゃ。
あと30センチ…20センチ…10センチ…
この10センチの距離がもどかしかった。
そして…

「う~!!!」

その叫びと共にれみりゃが俺の上空まで辿り着く。
後はここまで降りてくるだけだ。

「れみりゃ!あとちょ…うわ!?」

俺は驚いた。
れみりゃが…落下してきたのだ。
れみりゃの高度は大体3mくらい。
もしここから地面に落ちれば…。

「弟君!れみりゃを受け止めて!」

姉貴の声がどこからか聞こえる。
言われなくてもわかっている!

俺は両腕を使ってポケットキャッチの要領でれみりゃの全身を受け止める。

…危なかった。
子供の頃に野球をやってて良かったぜ…。

「う~…しっぱいしちゃったぞぉ…」

れみりゃが泣きそうな顔を…ん?
れみりゃの頬に痣みたいな物がある。
何だこれは?

「おい…れみりゃ、その…顔に付いている痣は何だ?何かあったのか?」
「う~!?」

れみりゃの驚愕の声。
何だ?
言ったらまずかったのか?

「な、なんでもないぞぉ…」

れみりゃが柔らかそうな両手を使ってその痣の部分を隠す。
言わない方が良かっただろうか。

「あ~…ちょっと…れみりゃが練習中にちょっとドジっちゃったんだよねぇ…」
「う、う~!そ、そうだぞぉ!」

いつの間にか俺の背後に立っていた姉貴の声にれみりゃが慌てたような調子で同意する。
何だか怪しいが…まあいいか。
それより、俺はれみりゃにしなければいけないことがあるしな。

「れみりゃ、よく頑張ったな」

俺はれみりゃの頭を帽子の上から撫でる。
れみりゃは撫でられると喜ぶ。
ならば、今は撫でてやるべきなのだろう。

「う~♪なぁ~でなぁ~できもちいいぞぉ♪」
「お兄さんに褒めてもらえて良かったね、れみりゃ」
「うっう~♪おね~さんもありがとねぇ~ん♪」

最後の落下は危なかったが…まあ、れみりゃも失敗だと自覚しているようなので言う必要はないだろう。
今はれみりゃを褒めてあげることが優先だと思った。

「弟君、思ってたより来るのが早かったねぇ。準備がギリギリだったよ」

俺は背後から聞こえる声を無視し、れみりゃの小さな体を抱きしめる。
今はれみりゃの暖かさを感じたかった。

「れみりゃ、俺をゆっくりさせてくれてありがとな」
「うっう~♪ゆっくりゆっくりぃ~♪」
「無視するな~!私にもれみりゃを抱かせて~!!」

れみりゃとなら俺は一緒にゆっくりして行けるだろう。
こいつと出会えた運命ってやつに感謝しなければいけない。

「れみりゃ、これからも一緒にゆっくりして行こうな」
「うっう~♪ゆっくりしていくんだぞぉ♪」

れみりゃが輝くような笑顔を見せてくれる。
これからもこの笑顔を見ることが出来ると思うと、未来が楽しみに思える。

俺はこの笑顔を守っていかなければいけない。
れみりゃと一緒にゆっくりする為に。



「れみりゃを弟君の所に連れてきたの私だよね!?弟君は私に感謝しなきゃいけないよね!?私って運命の女神だよね!?無視しないでぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

自称運命の女神の声はいつまでもやかましかった。








後書
お兄さんはれみりゃの飛行のことを秘密にされていた件でお姉さんに対してパルパルしております。
尚、お兄さんが主役の話にはお姉さんサイドの話を持ち込ませないようにしたいと思っております。
おまけまで読んで下さって本当にありがとうございました。


  • 冷静に考えたられみりゃもまだまだ子供なんだよなあ -- 名無しさん (2011-02-04 19:19:02)
  • れみぃマジプリティ -- 名無しさん (2011-02-05 03:00:55)
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最終更新:2011年02月05日 03:00