れみりゃのはじめてのぱたぱた-1

※この作品はれみりゃとお兄さんシリーズの世界観です
※ゆっくりがいじめられてしまう描写があります
※この作品はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません



お姉さんシリーズ第二弾です。
こちらを読む前に、出来れば前作のれみりゃとお兄さんの出会い(裏)をお読みいただきたいと思います。











↓大丈夫ならどうぞ











れみりゃのはじめてのぱたぱた






「うっう~♪」

私の隣をれみりゃが嬉しそうに歩いている。
うん、今日も満面の笑顔だ。
本当は手をつないで歩きたいが、そうすると私は屈まなければいけない。
無念だ。

「うぁうぁ♪」

今日も良い天気だった。




「うっう~♪こうえんについたっぞぉ♪」

目的地である公園に着いた途端、れみりゃが私の目の前で踊り出す。
手をフリフリ、頭をフリフリ、お尻もフリフリ。
やばい、涎が出てきた。
踊っているれみりゃを見ていると抱きしめたくなってくるが、そうするとれみりゃを怒らせてしまう。
踊りの邪魔をしてはいけないようだ。
無念だ。

「うっう~♪うぁうぁ♪」

れみりゃの踊りを黙って見守ることにする。
これを毎日でも見ていたいが、私は明日帰らなければいけない。
明日で有給休暇が終わってしまうからだ。

弟やれみりゃと過ごしているうちに、れみりゃを連れて帰りたくなることは何度もあった。
しかし、同時に親れみりゃの死体をどうしても思い出してしまう。
あの時は私が原因だとしか思えなかった。

…今では…どうなんだろう。
もしかしたら、私がゆっくりの死体を見たくないだけかもしれない。
れみりゃと一緒に暮らして、れみりゃが死んでしまうところを見たくないだけなのかもしれない。
私にも自分のことがよく分からなかった。

「れみ!りゃ!う~!!!」

くだらないことを考えているうちにれみりゃの踊りが終わってしまった。
思考に現を抜かしれみりゃの踊りを見逃してしまった。
無念だ。
後でれみりゃにもう一度踊ってもらおう。

…が、今はそれよりもやることがあった。

「れみりゃ、始めましょうか?」
「うっう~♪れみぃがんばるぞぉ♪」
「今日はどうするの?最初から一人でやるの?」
「れみぃだけでがんばってみるぞぉ♪」

無念だ。
あの小さくて可愛い翼を今日も触りたかったのに、
後でこっそり触るか。

…ちなみにこれから何を始めるかと言うと…
…見ていればすぐにわかるか。

「う~!!」

れみりゃの気合の入った叫びと共に、背中の小さく黒い翼が動き始める。
ゆっくりと、しかしその動きも少しずつ速くなってくる。

「頑張って!れみりゃ!」

私は声援を送る。
いや、それしか出来なかったという方が正しいか。

「う~!!」

その叫びと共にれみりゃの体が浮く。
少しではあるが、確実にその体は宙に浮いていた。

「…やった!れみりゃ!飛んでるよ!」
「う~!!う~!!」

れみりゃは必死に翼を動かす。
その高度を3m程度まで上げることに成功する。
まさかここまで上がるとは思わなかった。

「う~…れみぃ…つかれ…ぞぉ…」

しかし、その高度も段々下がってくる。
滞空は出来るが、まだまだ飛行というところまでは行かなかった。
しかし、産まれて一週間程で、しかも親の助けも借りずにやったのだから十分凄い話だと思う。

ちなみに、れみりゃが飛行訓練をやっているのは弟には内緒だ。
だから、これをやるのは弟が大学に出かけている間だ。
特に理由はないが…まあ、驚かせてやることくらいはできるかもしれない。

「う~…」

そして、れみりゃの可愛い靴が地面に辿り着く。
それと同時に私はれみりゃの元へ駆けだす。
何をするかって?
勿論れみりゃを抱きしめる。
当然の話だ。

「れみりゃ~頑張ったね~偉いよ~」
「う~?れみぃえらいえらい~?」
「うんうん!れみりゃはとっても頑張ってるよ~!ゆっくり出来てるよ~!」
「うっう~♪れみぃほめられちゃったぞぉ♪うっれしいぞぉ♪」

私はれみりゃの全身を持ち上げ、頭を帽子の上から撫でまわす。
たまにはれみりゃの頭を直に撫でまわしたいが、れみりゃは帽子を取られると泣いてしまう。
まあ、泣き顔を見るのも悪くないのだが…たまに怒ってしまうこともあるから迂闊にはできない。
その怒った顔を見るのも悪くないが、口を聞いてもらえないのはさすがに堪える。
だからやらない。
無念だ。

まあ、それは良いとして…

れみりゃが飛行訓練を始めたのは数日前に遡る。
本当ならば飛行というものは親から教えてもらうものなんだろうが…。
れみりゃの親は…私達の目の前で死んでしまった。
だから、私が手伝ってあげる必要があった。









数日前の話だ。
弟が大学に行っている時間の話だ。
私はれみりゃにある提案をしてみたのだった。

「れみりゃ、そろそろ飛んでみない?」
「…う~?とんでってなんだぞぉ?」

突然の私の提案にれみりゃは不思議そうな顔をする。
予想通りれみりゃは気付いていなかった。
自身が飛行できることに。
恐らく、自身の翼も今まで何に使用するのかも理解できていなかったのだろう。

「え~っとねぇ…れみりゃのその黒くて可愛い羽根さんを動かしてぱぁ~たぱぁ~たって飛ぶんだよ」
「う~?ぱぁ~たぱぁ~た…なのぉ?」

れみりゃは今までは飛行する必要性はなかった。
いや、もしかしたらこれからも必要がないのかもしれない。
それでも私はれみりゃに飛んで欲しかった。
れみりゃの本来の姿が見たかった。
れみりゃがれみりゃらしく生きることが…あの親れみりゃの願いだったと思うから。

「う~?」

れみりゃは自身の翼をその柔らかそうな手で触りながら不思議そうな顔をしている。
恐らく、動かそうとしても動かないのだろう。

やはり私が手伝ってあげる必要があった。
あの親れみりゃが生きていたら、どういう方法で飛行のやり方を教えるのかを考えてみる。

う~ん…。

私は考える。
やはり感覚から叩きこむ方が良いのだろうか。
私はれみりゃの背後に回り込み、れみりゃの黒く小さく可愛い翼に触ってみる。
れみりゃの翼はひらひらとしていたが、やはり暖かかった。
これは…ずっと触っていたくなってくる。


失敬。
ちょっと涎が出た。

「ティッシュ、ティッシュ…と」

私は一度れみりゃの翼から手を離し、手近にあったティッシュを一枚掴み、口元を拭く。
ちなみに私はハンカチなんて高尚なものは持ち合わせていない。
理由は簡単。
面倒だから。
ハンカチなんてハンカチ落としくらいにしか使った記憶がない。
親には「あんたは女の子なんだから」と何度も言われたが、ハンカチと女が関係あるのだろうか?
社会人になった今でもハンカチなど持ち歩いてはいなかった。
まあ、それはどうでもいい。
私はれみりゃの黒く小さく可愛い翼を再び掴む。


やばい、また涎が出てきた。

「ティッシュ、ティッシュ…」
「う~?おね~さんなにしてるのぉ?」

…本当に私は何をしているのだろうか。
無限ループって恐い。

れみりゃが私の顔を不思議そうな顔で見ている。
そんなに見つめないでほしい。
食べたくなってしまうじゃないか!
性的な意味で。

そうだ、れみりゃが可愛過ぎるのが悪いのだ。
れみりゃが私を魅了するから悪いのだ。
私は悪くねぇ!私は悪くねぇ!

「う~?」

れみりゃが頭を抱える私を不審そうな眼で見ている。

…早く始めるか。
あまりれみりゃを待たせる訳にはいかない。
れみりゃの可愛さを考えるのはいつだって出来る。
今はれみりゃにその翼の意味を教えるのが先だ。

私は三度れみりゃの黒く小さく可愛い翼を掴む。
鼻血と涎が出そうになるが我慢だ。
これ以上グダグダな展開にする訳にはいかない。

私はれみりゃの翼を掴んだままの手をゆっくりと左右に振る。

「これがぱぁ~たぱぁ~た、よ。わかる?れみりゃ」
「う~?これがぱぁ~たぱぁ~た…なのぉ?」
「そうだよれみりゃ。この感覚を忘れないで」
「う~」

私はれみりゃの翼をゆっくりと動かし続ける。
自分で動かせるようになるまでは補助してやるべきだろう。
しばらく左右に動かしていると、れみりゃの翼がにわかに震えだした。

これは…れみりゃが翼を動かし始めている。
自分の意思で。

「れみりゃ。頑張って!動いているよ!動いているから!」
「う~!!う~!!」

れみりゃの翼は震えたままだ。
しかし、その震えは小刻みに早くなっていく。
あともう少しだ。
もう少しで…れみりゃの翼が動き出す。
れみりゃ自身の意思で。

「う~!!」

れみりゃの必死な叫び。
それと同時に、翼を掴んでいた指先に違和感を感じる。
これは…勝手に動いている?

私は翼から手を離す。
それでも、それでも翼はゆっくりと、しかし確実に動いていた。

「…やった!!」
「う~!!う~!!」

私の歓喜の叫びとれみりゃの必死な叫びが交差する。
れみりゃは…自分で自分の翼を動かせたのだ。
まだ飛ぶには至らない速度ではあるが。

「れみりゃ!そのまま動かし続けて!その感覚を忘れないで!」
「う~!!う~…!つか…れ…ぞぉ…」

れみりゃの翼の動きは徐々に小さくなる。
そしてやがて完全に止まってしまった。
翼を動かしたのはこれが生まれて初めてだったのだ。
疲れるのも当然だろう。

「れみりゃ!やったね!」
「うあっ!?」

私はれみりゃの背中に抱きつく。
れみりゃの驚きの声が聞こえるが気にしない。
れみりゃは相変わらず柔らかくて暖かかった。

私は嬉しかった。
れみりゃがわずかにだが確実に成長したことに。
親れみりゃが見ていればきっと喜んでくれたであろう。

そして…

「ふふふ…ふにふに…ふかふか…」
「うぁぁ!?なんかきもちわるいぞぉぉぉ!?」

私はれみりゃの背中に顔を埋め、首を左右に振る。
暖かくて柔らかくて肉まん臭くて…とてもゆっくり出来た。

ん?
なんか鼻の奥が…鉄臭くなってきたような…?

一度れみりゃの背中から顔を離す。
先程まで私が顔を埋めていた部分に紅い液体が…?

これは…まさか…?
私がそれが何かを認識した途端…

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

私の鼻から紅い液体が噴水のように飛び出した。

まさか…

「うぁぁぁぁぁぁ!?れみぃのかりしゅまなおようふくがぁぁぁぁぁぁ!?」

こんな…

「まっかっかになっちゃったぞぉぉぉぉ!!!」

ベタな展開になるとは…

「うぁぁぁぁぁ!!れみぃのはねさんもぉぉぉぉぉぉ!?」

目の前には服と翼を真っ赤にしながら泣き叫ぶれみりゃ。
ああ、れみりゃの洋服と翼が私の鼻血と合体してしまった。
私は背徳感と満足感を何故か感じながら…

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!れみぃのおようふくとはねさんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

意識を失ったのだった。








意識を取り戻した後、れみりゃの機嫌をとるのは大変だった。
鼻血が付いたれみりゃの服を強引に脱がし、れみりゃの服を洗濯に入れたのだから。
れみりゃが怒るのも無理はないだろう。

しかし、私にドロワーズ一丁の姿を見せながら顔を真っ赤にして恥ずかしがるれみりゃは非常に可愛かった。
今でもあの姿を思い出すと興奮してしまう。
れみりゃ万歳!おぜうさま万歳!


…ふぅ。

ちなみに、翼に付いた鼻血はウェットティッシュで拭けば何とか取ることが出来た。
あの時はさすがに焦ったが、結果オーライって奴だろう。
ん?使い方が違う?


まあいいや。

話を戻すが、れみりゃは翼の扱いをみるみる上達させていった。
やはり感覚を最初に叩きこんだのが良かったのだろう。
次の日にはなんと自身の身体をその翼で滞空することが出来るようになった。

そしてれみりゃが翼を動かし始めてから3日目。
私とれみりゃは公園まで出かけるようにした。
部屋の中はやはり狭い。
れみりゃも広々とした場所の方が翼を動かしやすいと思ったからだ。
まだ飛行する、とまでは行かなかったが、滞空時間は2日目より伸ばすことが出来た。
高度も私の身長と変わらない程度まで上げることが出来た。
そして、それが昨日の話だ。

今日はれみりゃが翼を動かし始めてから4日目。
れみりゃはもう私の手助けなしに翼を動かせる。
それが私にはとても嬉しかった。
まさかここまで成長が早いとは思わなかったが。

「う~♪う~♪きょうはおに~さんにもぉ♪れみぃのぱぁ~たぱぁ~たをみせてあげるんだぞぉ♪」

私の腕の中にいるれみりゃが嬉しそうな声を上げる。
そう、私達は今日、弟にもれみりゃの飛行している姿を見せようと思っていたのだ。
今は弟は大学に行っている時間だ。
あと10分くらいしたら大学の授業が終わる時間だ。
その時間になったらメールをしてこの公園に来てもらうつもりだった。

「そうだね~♪お兄さん驚くよ~♪」
「うっう~♪おにいさんはぁ♪れみぃのぱぁ~たぱぁ~たでゆっくりできるかなぁ♪」
「間違いないよ!自信を持って!」
「うぁうぁ♪ありがとねぇ~ん♪」

れみりゃは私の腕の中で嬉しそうに両手を頭上に上げる。
恐らくバンザイのつもりだろう。
これも私が教えたものだ。


バンザイをするれみりゃ…可愛過ぎる…。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

ん?
れみりゃの叫び声が聞こえる?
私はれみりゃの様子を見ようと視線を下に向ける。

そこには…

「うぁぁぁぁぁぁぁ!?なにこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

私の鼻からいつの間にか血が滴り落ちていたようだ。
幸いれみりゃの身体にはかからなかったが、れみりゃは大層驚いたようだ。

「またまっかっかだぞぉぉぉぉぉぉぉ!?」

驚くれみりゃもやっぱり可愛かった。









「…ふぅ」

私は今、水飲み場にいる。
手に鼻血が付いてしまった。
さすがにこんな手でれみりゃに触る訳にはいかない。

この公園に来るまで歩いたことと、先程まで翼を動かしていたことで、れみりゃもかなり疲れてしまっていたようだった。
れみりゃにはベンチで休んでもらっている。
短時間であるし大丈夫だろう。

よし、綺麗になった。
服に鼻血が付かなくてよかった。
さて、そろそろ弟の授業が終わる時間だ。
ぼちぼちメールを…

「うぁぁぁぁぁぁぁぁん!!やめでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

!?
今の悲鳴は…?
まさか!?

私はれみりゃの方へと振り返る。
この公園はそれほど広くはない。
端から端まで見渡すことが出来る。

「…!!」

私は走る。
先程までれみりゃがいたベンチには…


複数の少年が群がっていた。







「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

私はれみりゃの方へ走りながら大声で叫ぶ。
このクソガキ共はれみりゃに何をしていると言うのか。

「うわっ!?」
「なんだあのオバサン!?」
「誰がオバサンだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

私はまだ20代前半だ!
オバサンと呼ばれる年齢では決してない!

「に、逃げろぉぉ!!」
「ま、待ってよぉぉぉ!!!」

クソガキ共が逃げ始める。
はっきり言ってこんなクソガキ共はどうでもいい。
れみりゃの無事が確認できればそれで良い。

クソガキ共が散らばると、その中心にいたれみりゃの姿も見えた。
れみりゃはベンチの上で頭を抱え込んだ状態のまま震えていた。

「れみりゃ!!」

私はれみりゃの全身を持ち上げる。

「うっ…うっ…いだいぞぉ…」

れみりゃの泣き顔が視界に入る。
頬のところにいくつか手の平形の痣が出来ていた。
恐らくここが先程のクソガキ共にやられたところだろう。

…大丈夫だ、中身は出ていない。
れみりゃの中身は肉だ。
中身が餡子のゆっくりよりも頑丈だ。
れみりゃの帽子を一度取り、頭も確認したが大丈夫そうだった。

「もう大丈夫だから…大丈夫だからね…」

私はれみりゃを抱きしめる。
れみりゃが安心できるように。

「うっ…うっ…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

れみりゃが大声を上げて泣き出した。
気が済むまで泣いてほしい。
そして、また私の前でゆっくりしてほしい。
私が今望むのはそれだけだった。




「あ…あのぉ…」

ん?
背後から声を掛けられ振り返る。
そこには…先程のクソガキ共の一人がいた。

それを認識すると私の機嫌が急降下してしまう。
何をしているんだろうか。
さっさと視界から消えてほしい。

「…なに?」
「ひっ…!!」

返事をしただけだと言うのに怯えるとは何て失礼な奴だ。
と、思っていたら…少年の顔が歪みだした。
これは…泣いているのか?

「ご、ごめんなさい!そ、その子を叩いちゃったの僕なんだ!本当はやりたくなかった!ごめんなさい!」
「…は?」

クソガキ…もとい少年はそれだけを言って泣きだした。
いや、ちょっと待て。
これでは私が何かやったみたいではないか。

「「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

どう収拾を付ければいいのだろうか。
私は2人が泣きやむのを黙って見ているしかなかった。




「ひっく…ひっく…ごめんなさい…」
「君は…どうしてこんなことをやったのかな?」

少年が少し落ち着いてきたところを見計らって私から話しかける。
私も少し落ち着いてきた。
出来るだけ優しく話しかける。

「僕…僕だって…やりたくなかった!でも!あいつらが!クラスメイトが!そのゆっくりを殴れって!!」
「…え?」

これは本当のことを言っているのだろうか。
…いや、多分本当だろう。
自主的に殴ったのなら、こうやって私の元へ残って謝る必要などない。
他のクソガキと一緒に逃げているはずなのだ。

「じゃあ…れみりゃに謝って。悪いことをしていると思うのなられみりゃに謝って」

この少年が言っていることが本当であろうと嘘であろうとれみりゃを叩いたことには間違いない。
どちらにせよ謝らせるべきだろう。
私はその場にしゃがみ、まだ私の服にしがみついているれみりゃと少年の顔の高さを合わせる。
まあ、れみりゃは未だに私の服に顔を埋めたまま泣いているのだけれど。

「ごめんね…痛かったよね…ごめんね…」
「う~っ…う~っ…」

少年がれみりゃに向かって謝る。
一方のれみりゃは服に顔を埋めたままいやいやと首を振る。
自分を叩いた人間の顔など見たくもないと言うことなのだろうか。
まあ、れみりゃがそれを望むのならそれでいいだろう。
それより少年に聞きたい事があった。

「他のクソガ…もとい、クラスメイトに無理矢理やらされたって?」
「うん…あそこにゆっくりがいるから叩けって…」


「どうして?」
「え?」

少年は私の言葉にきょとんとした顔をする。

「れみりゃは…いえ、ゆっくりは何故いるだけで叩かれるの?ゆっくりが君達に何をしたの?」

私が以前から子供に聞いてみたかった言葉。
子供がゆっくりを虐める光景は珍しくはない。
彼らが何故ゆっくりを虐めるのかは何となくわかる。
恐らく、『それは悪いことではないから』ということなのだろう。
それでも子供の口から直接聞きたかった。

「それは…」

少年は言いにくそうにしている。
しかし、私の顔を見据えて強い口調で話し始める。

「僕の学校では…ゆっくり退治が流行ってるの」
「…ゆっくり退治?」
「うん、ゆっくり退治」

…物騒な言葉だ。
その言葉を聞くだけでどのようなことをするのかはわかる。
しかし、私はその行為の内容を聞きたいのではない。
何故そうするのかを聞きたかった。

「君達は…ゆっくり退治をして…何かいいことあるの?」
「…ゆっくり退治をすれば…クラスの中でヒーローになれるんだ」

…なんてことだ。
子供達がゆっくりを虐めることに罪悪感を抱かないと言うことは予想出来ていた。
しかし、まさかゆっくりを虐める行為自体を正しいことだと思っているとは。
そのようなことが広まってしまっては、元々ゆっくりに興味がなかった子にもゆっくり虐めが広がってしまってもおかしくはない。
彼らにとってのゆっくりはロールプレイングゲームの中に出てくるモンスターみたいなものなのだろう。
事態は私が考えていたよりも深刻だったようだ。

「…ふぅ」

思わず溜息が出る。
ゆっくりを虐めれば勇者になれるということか。
子供が考えそうなことだ。
胸糞が悪い。

「わかった…それで、君も?」
「ぼ、僕はやりたくなかったんだ!でも…でも…やらないと…僕は…皆から…」

…そうか。
クラスメイトのほとんど…いや、彼一人を除いてゆっくりを虐めていた可能性が高い。
ゆっくりを虐めないとクラスから孤立してしまうと言うことか。

孤立することは誰だって怖い。
この少年にそれを断われと言うのも酷な話なのだろう。
勿論だからと言って、れみりゃ…いや、ゆっくりを叩いていい訳ではないが。

「ねえ、君は…ゆっくりを叩いたりするのはこれが初めて?」
「え?あ、うん。そ、そうだよ!ゆっくりってそんなおかしなものじゃないと思うし!」

少年は慌てた調子で私の問いに答える。
恐らく嘘は言っていないだろう。
ここまで教えてくれた少年の言うことを信じたかったし、それに何より彼の瞳がそれが真実だと言うことを語っていた。

「…わかった…じゃあ、これからは出来る限りゆっくりを虐めないであげて」
「え、あ、うん!」

本当は可愛がってあげてと言いたかったが、さすがにそれは酷なのかもしれない。
もしゆっくりを可愛がっているところをクラスメイトに見られたら…彼はクラスの中で孤立してしまうだろう。

この少年にこれ以上何かをさせるのは酷だろう。
この少年には何も出来やしない。
大人がやらなければいけないことなのだ。
ゆっくり達の扱いの…改善を。

「じゃあもう行っていいよ。色々お話聞かせてくれてありがとう」
「あ、ううん!こちらこそごめんね!じゃあね!」

少年はそう言って走り去っていく。
そうして、その場には私と私の服にしがみついたまま泣き続けているれみりゃだけが残された。

憂鬱な気分になる。
ゆっくりを虐めれば何がヒーローだ、バカバカしい。
しかし、全ての子供を一人一人捕まえて説教をするのも無理がある。
どこか大きなところで変える必要があるのだろう。
ゆっくりの扱いを。

…私には何か出来ないだろうか。

「う~…う~…もういったぁ…?」
「ん?」

れみりゃが私の顔を不安そうに見上げていた。
その瞳には怯えの色が宿っている。
そうか、自分を叩いた少年が恐かったのか。
そのことに気付かなかった自分に腹が立つ。

「うん、もう行ったよ。もう大丈夫だからね」
「う、う~♪」

私が笑顔で話しかけると、れみりゃも笑顔で返してくれる。
涙は止まったようだった。

「こわいこわいはぽぉ~いだっぞぉ♪」

とはいえ、そろそろ腕が疲れてきた。
れみりゃが如何に軽いとは言え、長時間持ち続けるのもあまり腕によろしくない。
私はベンチの上にれみりゃを下ろす。

「うっう~♪うぁうぁ♪」

れみりゃはベンチの上で踊り始める。
私も…弟も…この笑顔を守っていかなくてはいけない。
しかし、れみりゃがこの笑顔を続けて行くにはこの世はあまりにも非情過ぎる。
このままではいつまた先程のような出来事に巻き込まれるかわからない。

私にも何かできないだろうか。
れみりゃだけではなく、この世のゆっくりの扱いを改善させる為に何かできないだろうか。
法律など待ってはいられない。
一刻も早く動きたかった。
しかし、どう動けばいいのだろう。

「うっう~♪おにいさんにぃ♪れみぃのぱぁ~たぱぁ~たをみせるんだぞぉ♪」

しまった、そのことをすっかり忘れていた。
左腕の腕時計を見る。
時刻はすでに弟の授業時間を過ぎてしまっていた。
もう帰宅しているかもしれない。
…どうするか。

「れみりゃ、弟君呼ぶ?それとも帰る?もう弟君の授業が終わる時間だけど」

一応れみりゃに確認する。
れみりゃはやる気満々にしか見えなかったが。

「う~♪おにいさんにもぉ♪れみぃのぱぁ~たぱぁ~たみせたいぞぉ♪」

そのような可愛らしい笑顔で言われてはこちらは何も言えない。
私は上着のポケットから携帯を取り出す。

「じゃあ…弟君呼ぶね」
「うっう~♪よろしくねぇ~ん♪」

私はメールの本文を書きこむ。
私はあまりメールというものが得意ではない。
どうせ相手は弟だ。
簡潔で良いだろう。

『今すぐ近くの公園に来てね お姉さんより』

これでいいだろう。
そうしたら弟も間もなくここにやってくる。

「うっう~♪うぁうぁ♪」

れみりゃが私の目の前で再び踊り出す。
その踊りは私を非常にゆっくりさせてくれた。

私に何が出来るのか分からない。
しかし…誰かが始めなければ誰もやらないだろう。
ならば私が先駆者になってやろう。
ゆっくりの扱いを改善する為に。
私はれみりゃの踊りを眺めながらこれからのことを考え始めた…。




後書
どうもお久しぶりです。
最近書く為の時間がなかなかとれなくて…間が空いてしまい申し訳ございません。

このシリーズは、れみりゃと一緒にゆっくりするお兄さんとつらい現実に立ち向かうお姉さんという対比になっております。
大人なれみりゃとちょっと子供なお兄さんでは、すでに人間にとってのゆっくりの扱いは改善されておりますので、バッドエンドということはありえないと思います。
いつ完結できるか分かりませんが、読んでいただけると幸いです。

最後に、これのお兄さんサイドの話を当初予定しておりましたが断念。
何故かというと、ちびりゃのはじめてのぱたぱたと完全に展開が被ってしまうからです。
ですので、そちらはおまけということで用意させていただきました。
短い上に相変わらずクオリティは低いですが、お読みいただけたら幸いです。


  • お姉さん≒十六夜咲夜・・・? -- 名無しさん (2011-02-05 02:59:58)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年02月05日 03:47