永遠亭の日常(姫様の不満編)

※東方原作キャラが出てきます
※普段の姫様は多分温厚です
紅魔館の日常(さとりん来襲編)の後日談となっております。
 できれば、こちらからお読みください。









よろしければどうぞ








永遠亭の日常(姫様の不満編)












幻想郷の一角を占める広大な竹林。
その竹林の中にひっそりと建てられた屋敷があった。
その屋敷の名前は永遠亭。
美しい木造建築の建物だ。

「納得できないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

そのような美しい建物から怒声混じりの絶叫が聞こえてきた。






「ど、どうしたんです!姫様!?」

絶叫が聞こえた部屋に慌てて駆け込んでくる一人の少女。
少女は頭に一対の大きく長い耳を付けており、現代日本の女子高生を思わせるようなブラウスを着ている。
名前は鈴仙・優曇華院・イナバ。
永遠亭の住民の一人で、主に彼女の師匠が作った薬を人里まで運ぶのが仕事だ。

「姫様!?どうしたんですか!?姫様!?」

鈴仙は寝ている少女(?)に慌てて駆け寄る。
しかし、反応はない。
少女(?)は寝ているのだから。

「イナバァ~…?」

鈴仙の背後から聞こえてくる高く澄んだ声。
しかし、今のその声は地を震わせるのではないかと思わせるほどに震えていた。

鈴仙は振り返らない。
いや、振り返られないのだ。
あまりの恐怖に。

「イナバ…聞こえないの…?」

しかし、鈴仙は振り返らない訳にはいかなかった。
彼女こそが自分の主なのだから。
ゆっくりと声が聞こえる方へ振り返る。
そこには…

「イナバの言う姫様って誰のことだったっけ…?」

そこには笑みを浮かべた、しかし確実に怒っていると思われる顔をした長い黒髪の美しい少女。
鈴仙の主である蓬莱山輝夜がいた。




「す、すみません!姫様!」

鈴仙は慌てて輝夜に向かって頭を下げる。
真面目で素直な彼女は、別に輝夜を怒らせようとしていた訳ではない。
ただ、慌てすぎて間違えてしまっただけだ。
輝夜と寝ている少女(?)はあまりにも似ていたのだから。

「ふぅ…もういいわよ…」

輝夜は諦めたように溜息をつきながら、その顔を崩す。
彼女とて、鈴仙がわざとやった訳ではないことは分かっているからだ。
鈴仙の方も安心したように溜息をつき、先程の質問を繰り返す。

「それで、一体どうしたのですか?」
「それのことよ」

輝夜は鈴仙の足元に指を向ける。
鈴仙も輝夜の指先の延長線上を見る。
その視線の先には、先程鈴仙が輝夜と間違えてしまった寝たままの黒髪の少女(?)がいた。

「えっと…これがどうかしたのですか?」
「わからない?」

鈴仙は焦る。
寝ている黒髪の少女(?)が何かをしたようには見えない。
いつも通りに寝ているようにしか見えない。

鈴仙は必死に考える。
彼女がどのようにして輝夜を怒らせたのかを。

「はっ!?」
「わかった?」

鈴仙の頭に閃光が走る。
これしかない。
確信を持っていた。
鈴仙は顔に自信の色を浮かべて輝夜の顔を見据えて言った。

「大丈夫ですよ!姫様の方がスタイル良いですから!」
「誰がそんな心配してるって言ったのよ!」

怒声と投擲された扇子が鈴仙の頭に飛んできた。





「いたた…」

涙目になりながら鈴仙は扇子が当たった箇所を撫でる。
結構痛かったらしい。

「イナバはそいつが何なのかわかるわよね?」

未だに憤慨した顔をしている輝夜に促されて、未だに寝ている少女(?)を見る。
その顔は輝夜に瓜二つであった。

「これは…姫様のゆっくり…ですよね?」

ゆっくり。
最近幻想郷に現れた謎の饅頭。
それは幻想郷の住民を模した姿をしている。
顔だけの姿が多いが、中には人間のような体をつけたゆっくりも存在する。
そして、今の鈴仙の目の前にいる輝夜のゆっくりも体が付いている。

輝夜の胴付きゆっくり…名前はテルヨフ。
基本的に一日中寝ている。
普通のゆっくりならば、「ゆっくりしていってね!」という元気な声を張り上げるのだが、テルヨフは言葉を発しない。
声を掛けても反応しない。
だが、甘い食べ物を差し出されると受け取って無言で食べ始める。
通常のゆっくりとはあらゆる面で一線を画する特殊なゆっくりだ。

何故テルヨフがここにいるのかというと、永遠亭の住民である因幡てゐを初めとする兎達が輝夜と間違えて持ち帰ってきたのが発端だった。
最初は主である輝夜も興味を持っていたので、永遠亭に置くこととなった。
しかし…今の輝夜はテルヨフがとにかく気に入らないようだった。

「イナバは…ゆっくりっていうのがオリジナルの特徴を真似したものっていうことは知ってるわよね?」
「え?あ、は、はい…」

ゆっくりは上述のように幻想郷の住民がオリジナルとなっている。
当然、テルヨフのオリジナルは輝夜だ。
そして、ゆっくりにはオリジナルの特徴を受け継いでいる種類が多い。
つまり…

「私のゆっくりが寝てばっかり、これはどういうことだと思う?」
「え!?あ…え~っと…それは…」

顔に笑みを浮かべ始めた輝夜。
間違いなく不機嫌だということは鈴仙にもわかった。
迂闊なことは言えなかった。
やましいこともないのに、言い淀んでしまう。

「…この前ね…妹紅といつものことをやってきたの」

妹紅…フルネームは藤原妹紅。
輝夜とは旧知の仲であり…犬猿の仲。
会う度に戦闘を行っている。
特に危険はないし、本人達は好きでやっているので誰も止めようとはしないが。

「ふふふ…それでね…妹紅にこう言われたの…」

鈴仙にはその笑みが何よりも恐ろしかった。

「お前のゆっくりが寝てばっかりの引きこもりならお前も寝てばっかりの引きこもりだな!…って…」

輝夜は震えだした。
間違いなく怒りに震えている。
鈴仙はその場から逃げ出したかったが、恐怖で動くことが出来なかった。

「ねえ、イナバ?」
「は、はい!?」

条件反射で鈴仙は返事をする。

「私って…何もしてない引きこもり?」
「い、いえ!?そんなことはないですよ!?」

そう、そんなことはなかった。
何故なら、最近の永遠亭の家事を取り仕切っているのは輝夜だったのだから。

輝夜は料理が出来る。
1000年以上前に人間と一緒に暮らした時に教えてもらったものだ。
暇潰しに色々作っていたところ、その腕はどんどん上達して行った。
上達するにつれて逆に飽きてしまったのだが。

また、洗濯や掃除のやり方も料理同様、人間に一通り教えてもらった。
それ故、例の異変解決後の輝夜は積極的に家事をやろうとする。
当初は鈴仙含めた従者も「姫様のやることじゃない」と止めようとしたのだが、輝夜の「やらせなさい」の一言により、そのまま輝夜の仕事となったのだった。

「私の御飯って美味しくない?」
「いえいえ!?姫様の御飯は本当に美味しいですよ!!ほっぺたが落ちそうなくらい!!」

慌てながら古典的な表現で輝夜の料理の腕を褒める鈴仙。
輝夜が若干涙目かつ自虐的になってきたのだ。
怒られるのも嫌だが、泣かれるのも困る。

「そうよね~…私の御飯なんて美味しくないわよね~…ぐすっ…」
「え、え~っと…姫様?」

輝夜は鈴仙の話など聞いていない。
まるで酔っ払いと話しているようだ。
恐らく素面だと思うのだが。

「ううっ…どうせどうせ私なんかこのまま枯れて行っちゃうんだ…このまま死ぬまで枯れながら生きて行くんだ…」

いや、あんた死なないだろう、というツッコミを入れられるほど鈴仙は命知らずではない。
そんなことをしたら鈴仙は明日の日の出も拝めるかどうかわからない。

輝夜は過去や未来より今を一番大事にしようという思考の持ち主だ。
彼女が未来を憂うなんて早々あることではない。
どうやらテルヨフに相当参っているようである。
単に酔っぱらってるだけかもしれないが。

「ぐすっ…皆に永遠と須臾の引きこもりって呼ばれながら生きて行くんだ…」

確かにそれは嫌かもしれない。
いやいやそうじゃない、と鈴仙は頭を振る。
何とか姫様を慰めなくては、と決意を改める鈴仙。

「大丈夫ですよ…姫様」
「イナバ…?」

鈴仙は優しく語りかける。
顔を俯かせて泣いていた輝夜がその優しげな声に顔を上げる。
その瞳には涙が溜まっていた。

「例え姫様が永遠と須臾の引きこもりでも…姫様は私達の姫様です…」

決まった。
鈴仙の心の中は達成感で溢れていた。

次の瞬間、鈴仙の頭に扇子が突き刺さる。
非常に痛かった。

「誰が永遠と須臾の引きこもりよぉぉぉぉぉ!!!!」
「じ、自分で言ったんじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」

キレた。
冷静に考えれば、全然フォローになっていなかったかもしれないと思う。
と、鈴仙がそんなことを考えているうちに輝夜が襲いかかってきた。

扇子で鈴仙の頭を叩く。
とにかく叩く。
叩きまくる。
扇子が耳に引っかかってもとにかく叩く。

「ちょ!姫様!待って!待って下さい!」
「イナバまで私をバカにしてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「冷静になってぇぇぇ!!!姫様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

念の為に言っておくが、普段の輝夜は非常に温厚だ。
それだけは間違いない。
今は相当精神が追い詰められているか、単に酔っぱらっているかのどちらかだろう。

さすがにこのままではまずい。
鈴仙は輝夜から背を向けて逃げ出そうとする。

「逃がすかぁ!!」
「きゃあっ!!」

逃げようとする鈴仙の腰が輝夜の両腕に掴まれる。
鈴仙はうつ伏せに倒される。
そしてそのまま素早く鈴仙の背中に馬乗りになってバックマウントポジションへ。

さすがに妹紅と日常的に肉弾戦をしているだけあって戦い慣れしている。
鈴仙ではとても敵う相手ではなかった。
相手は姫なのに。

「ふっふっふ…覚悟はいいかしら?」
「ロ、ロープロープ!」
「大丈夫よ…3カウントまでには終わらせるから…」

鈴仙が人生最大のピンチに立たされている時

「…」

テルヨフが突然立ち上がった。

「「…?」」

輝夜と鈴仙も動作を止め、テルヨフに注目する。
テルヨフが起き上がるなど、永遠亭に連れてきて以来初めてのことだったのだ。
そして、テルヨフは歩き出して部屋の外へ出て行ってしまった。

「…追うわよ!イナバ!」
「え!?ええ!?は、はい!!」

さすが主だけあって、素早く指示を下す輝夜。

確かにテルヨフを放っておくわけにもいかないだろう。
鈴仙も走りだした輝夜の後を追いかける。

テルヨフを尾行していると玄関まで辿り着いた。
どうやらテルヨフは永遠亭の外へ出ようとしているようだった。
何故常に寝たままのテルヨフが永遠亭の出口の場所を知っているのかは誰にもわからない。
輝夜と鈴仙は足音を立てぬようこっそり尾行する。

「なんかこういうのってワクワクするわよね…♪」
「は、はぁ…」

輝夜はすっかり御機嫌になっていた。
面白ければ何でもいいようだ。

テルヨフが外へ出ると、輝夜と鈴仙もそれに続いて玄関から外へ出る。

「ねえイナバ、尾行する時って変装が必要なんじゃないの?」
「そ、そうかもしれませんね…」
「あ!あと新聞!新聞の陰からこっそり覗くのが常識よね…どうしよう…能力使って取りに戻ろうかしら…でもそれは反則よね…」

気分はすっかり探偵だった。




「どこまで行くのかしら…」
「結構歩きましたよね…」

時間にして十数分ほど。
竹林の中を歩くテルヨフを尾行する2人。
傍から見れば怪しい人物にしか見えなかったが、元々竹林には人はほとんどいないので問題はなかった。

それからもしばらく尾行していると、テルヨフが突然足を止める。

「やい!テルヨフ!」

それと同時に幼く高い声が聞こえてきた。
輝夜と鈴仙は竹林の中に隠れながら、様子を伺う。

「あれは…?」
「妹紅…?」

その人物は紅白のリボンをつけた白い長髪を後ろに垂らし、紅いもんぺをはいている。
輝夜の宿敵である藤原妹紅に瓜二つだった。
しかし、輝夜には違和感があった。

「妹紅にしては…小さいわよね…」

そう、普段の妹紅に比べれば身長が小さかったのだ。
しかし、見た目は妹紅に瓜二つ。
そのことが輝夜を混乱させた。

「う~ん…妹紅に双子の妹なんていたのかしら…」

いる訳がない。
鈴仙はそうツッコミたかったが、妹紅関連であまり輝夜に話しかけたくなかったのだ。
妹紅に関しては輝夜は異様に沸点が低いのだから。
ここで輝夜を怒らせたくはなかった。

「きょうこそもっこもこにしてやんよ!!」
「…」

小型の妹紅(?)がシャドーボクシングよろしく拳の素振りをその場で始める。
それと同時に、テルヨフも両腕で構えを作る。
なかなか様になっていた。

「あ!?もしかしてあれって妹紅のゆっくり!?」
「そ、そうかもしれませんね!姫様すごぉい!!」

鈴仙は実はとっくに気付いていたが、あえて気付かない振りをしていた。
まさに従者の鑑だ。

「いくぞぉっ!」

ゆっくりもこうはテルヨフへ向かって突っ込む。
右のストレート。
テルヨフは左手でいなし、右腕のジャブをゆっくりもこうの顔面に向かって繰り出す。
しかし、それはもこうの左腕に阻まれた。

「このっ!このっ!」
「…」

しばらく2人はその戦闘を見ていたのだが…

「ねえイナバ?」
「は、はい?何でしょうか姫様」
「帰りましょうか?」
「あ、そうですね」

輝夜も鈴仙もすっかり目の前の戦闘に興味を失ってしまっていた。
元々、輝夜は妹紅のゆっくりになど興味はない。
鈴仙にとって目の前の光景は本物がいつも行っていることなので、特に目新しいとは思わなかった。

それにそろそろお腹が空いてきたのだ。
テルヨフを放っておいて2人は永遠亭へ帰ることにした。
ここまで来れたのだから、テルヨフも帰り道くらいわかるだろうという結論を出して。

テルヨフが何故突然ここに来たのか、ゆっくりもこうはどこから来たのか。
そんなことは2人にとってどうでもよかった。
八雲紫の私生活や博麗霊夢の食生活並に興味がなかった。

「今日は何作ろうかなぁ♪」
「姫様の料理は美味しいですから!何でも食べますよぉ!」
「ふふっ♪ありがとうイナバ」

永遠亭への帰路を歩く2人はゆっくり出来ていた。
それはテルヨフのお陰かもしれない。
元々輝夜が不機嫌になったのはテルヨフが原因だということは言わない約束だった。

「こよいのたまはテルヨフのトラウマになるよぉ!!」
「…」

ちなみに今は昼間だった。





「…はっ!?」
「どうしたのお姉ちゃん?」
「いえ…今、アイデンティティを奪われかねない発言をされたという電波が…」

全身を包帯に巻かれながらベッドに寝ている地霊殿の主、古明地さとり。
先日、怒り狂う鬼巫女の襲撃によって深刻なダメージを食らってしまったのである。
ちなみに、その場に居合わせた友人の吸血鬼も鬼巫女の襲撃を受けたはずなのだが、すでに全快しているそうだ。
こういう時は吸血鬼の生命力が羨ましい、心の底からそう思った。

「え?お姉ちゃんって電波系だったの?」

なかなか失礼なことを言うのはさとりの妹である古明地こいし。
さすがは無意識を操る程度の能力の持ち主である。
無意識に姉の心を傷つけている。

さとりは思った。
こいしにだけは電波系と言われたくはないと。
しかし、妹を傷つけたくはないという想いからそれを言うのは憚れた。

「あっ♪わかったぁ!」
「…え?」

何が分かったというのだろうか。
心を読めるさとりにも、心を閉ざしてしまったこいしの心だけは読めなかった。

「これが本当の地獄耳ね!!」

これは笑ってあげるべきなのだろうか。
ただでさえ痛む頭をさらに痛ませることとなったさとりであった。




            ,.-─- 、
        ∧_,,∧\様/
   /\  ( e'ω'a)∩‐  
   | 姫 ⊂     /
   ヽ/ r‐'   /
      `""ヽ_ノ


姫様のキャラに四苦八苦。
綺麗な姫様にしようとしたのですが、それだと話が全く続かなかったのでこのような性格に。

最近さとり様が何気にお気に入りです。


  • とてもおもしろいです。 -- 形 (2011-02-23 23:17:19)
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最終更新:2011年02月24日 03:39