ゆっくりらんど

ゆっくりSS ゆっくりランド

 気が付いたら全く覚えのない場所にいた。
いくら紅魔館の近くにある湖に霧が発生することあるとはいえ、
霧が晴れたら全く見覚えのない場所にいるなんてあんまりじゃないのか。

「ゆっくりしていってね!!!」

「うおっ!? なんだ、ゆっくりか。脅かすなよ」

いきなり足元で声がしたかと思ったら、ゆっくりれいむじゃないか。

「れいむにはちゃんとれいむってなまえがあるんだから、なまえでよんでね!!!」

「へいへい。 れいむ、おどかすなよ」

「わかればいいんだよ。ゆっくりしていってね!!!」

「それで、ここはどこなんだ? 俺は湖にいたはずなんだが……」

「おにいさん、なにいってんの!? ここはゆっくりらんどだよ!!!」

 ゆっくりらんど、聞いたことのない名だ。もう少し突っ込んだ質問にしよう。

「それで、そのゆっくりらんどとはどこにあるんだ? 湖はどっちにあるんだ?」

「ゆっくりらんどはここだよ!!! みずうみはあっちだよ!!! 
 やさしいれいむがおしえてあげるから、ゆっくりついてきてね!!!」

 ああ、なんでゆっくりって生物はこんなに偉そうなんだ……。

「ここがみずうみだよ!!! ゆっくりしていってね!!!」

 そう言ってれいむに案内してもらった場所はどう見ても湖とは呼べない。
人間基準ならどう頑張っても池としか言いようがないじゃないか。
紅魔館の近くにある湖とは似ても似つかぬ大きさだ。

「いや、俺が行きたかった湖は、反対側が見えないぐらいの大きなものなんだが」

「そんなのゆっくりらんどにはないよ!!! おぼれたあぶないでしょ!!!」

 そう言って背伸びをするれいむ、人間の動作ならならふんぞり返るってところか。
もしこのれいむの言うことが正しいなら、
ここは紅魔館からものすごく離れた場所ということになる。
とりあえず、このゆっくりランドの出口を探さねばならない。

「なあ、ゆっくりらんどの出口ってどこにあるんだ?」

「でぐち? ゆっくりらんどはゆっくりらんどだよ? おにいさんなにいってんの?」

「いや、ゆっくりらんどにだって入り口はあるだろ? なら、出口もあるだろ」

「ゆっくりらんどにいりぐちもでぐちもないよ!!!」

 ……。困ったな、話が全く掴めない。もっと頭のいいやつに話を聞くしかないか。

「あーわかったわかった。もういい。
 わかったから、お前達の仲で一番頭のいいやつに会わせてくれ」

「わかったよ!!! のうかりんならおにいさんのレベルにあわせてくれるかもね」

 そう言うとれいむは踵を返しまた別の場所へと跳ねていった。一言多いやつめ。
さて、のうかりんとやらのいる場所まで案内してもらうとするか。
それにしてもこのゆっくりらんどとやらは自然が豊かだ。
今歩いている場所は花が咲き乱れる草原だし、後ろには森が見える。
おそらくあの遠くに見えるのは山なんだろう。
よくよく見るとれいむが出入り口がないと言ったのも頷ける。
こんなに広いのならば出口もクソもないだろうしな。
だが、そうなると発生するのはここがどこなのだろうかということだ。
そんなことを考えているうちに、民家のようなものが密集した場所にたどり着く。
ミニチュアサイズの民家から、俺の家と同等かそれ以上のものまである。
なんというシュールな光景だ。

「ここがのうかりんのおうちだよ!!! たいどにきをつけてね!!!」

 まずお前が俺に対する態度を考えろよ、と言いたいが我慢する。
今の俺にとって最も重要なことはこのゆっくりらんどからの脱出だ。

「のうかりん、おきゃくさんをつれてきたよ!!! ゆっくりおじゃまします!!!」

 そういいながられいむはどこからか取り出した木の枝で引き戸を開ける。
猫みたいに器用なやつだ。

「いらっしゃい……おんやまぁ人間でねぇか!! こりゃ珍しいお客さんだ」

 家の奥から出てきたのはチェックの服を着た人型のゆっくりだ。
あのゆっくり特有の顔がなければ人間と言われても納得できてしまう。
しかも、来ている服は幻想郷縁起に載っている大妖怪のものだ。
本人が見たらどんなリアクションをするのか想像もできない。

「さぁさ、上がってけ。こんなに日は麦茶がうめぇんだ」

 あっけにとられる俺を尻目にのうかりんとやらはさっさと奥に行ってしまう。
俺は慌ててそれについて行った。

「ちるの、出番だよ。いつもの通りにやってけれ」

「あたいのクライマックスさいきょーパワー!!!」

 のうかりんが差し出した薬缶に息を吹きかけるゆっくりちるの。
薬缶の表面がたちまち白くなって霜が降りたようになる。

「だいせいこー!!! やっぱあたいさいきょー!!!」

 薬缶を冷やすだけでそんなに喜ぶなんて……普段は失敗したりするのか?
のうかりんからもらった麦茶を飲む。冷たくてしかもうまいじゃないか。

「 さてお兄さん、このゆっくりらんどになんのようけ?」

「いや、自分でもよくわからないが、霧が晴れたらここにいたんだ。」

 と、言ってここに来るまでの経緯を話す。のうかりんは神妙な顔で頷いた。

「そかそかぁ。じゃあまんずここについて説明すっぺ。
 ここはゆっくりらんど、ゆっくりだけの理想郷だぁ。
 幻想郷とも外の世界とも全く違う場所よぉ」

 のうかりんの話を要約すると、のうかりんはゆっくりらんどの最古参で、
ゆっくりらんどはそれなりに昔からあるらしい。
そしてときどきさまざまなところからゆっくりが辿り着いたり、
あるいは人間が迷い込んでくることがあるらしい。
そして何よりも重要なことだが、ゆっくり以外はすぐにもとの場所へ送還するらしい。
じゃあ、もう安心だ……そう思ったのが運の尽きだった。

「へ……へえーらろろろーらなーあおなーおなー」

「違う!! こう!!ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー」

 ……一体何度ダメ出しをされればいいんだ……。
こんなテンションの高い歌、素面じゃやってられねぇよ。俺、歌苦手だし。
それでものうかりんのギターは止まらない。
まさか無事に帰るのにこんなことをしなければならないとは……。

「へーらろろーおあーあああー」

「こんのお兄さんもわからん人だっぺなぁ!! ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー……
 はい、もう一回!!」

 くそ、何で帰るためにこんな歌歌わないといけないんだよ!!!
あゝもうヤケだ!!! 俺の歌を聴けぇ!!!

「ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー……」



「ヒィーィジヤロルリーロロロー……って、あれ?」

 なんということだ。この景色は間違いなく紅魔館の目の前だ。
いや、まずは落ち着こう。どうやら俺の記憶が混乱しているらしい。
まず、俺は何をしていたのか? 紅魔館へ物々交換をしに行ったんだ。
そして湖の辺りまで行って……そこからの記憶があやふやだ。
楽しかったような腹立たしかったような記憶があるが、
まあ、湖の妖精にばかされたと思って家に帰るか……。



「ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー」

 あれ? 俺、こんな歌知ってたっけ? 最近の妖精は歌まで教えてくれるのか。

END 

ARIAの猫の町に迷い込む話は素晴らしい。
あんな感じを出せるようになりたいと思いつつもオチをつけてしまった。



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最終更新:2008年08月31日 04:58