呪いが積み重なり強大な呪術を生み出すのなら、
それ以外の想いだって、同じ条件で重なれば大きな力を生み出せるはずだ。
誰かを憎み、破滅させる呪いとは違う、
それは優しさだとか、勇気だとか、欲望だとか呼ばれていて、
自分の為だったり、誰かの為だったり、皆の為だったり、
統一性のないバラバラな色だけど、どれも強くて美しい色をしているはずだ。
それらを束ねた希望の色を、人々は“にじ”と呼ぶ。
「なるほどですね。それがあの子の起こした奇跡の形。人の想いを戦う為の形に変えた、七色の光を放つ救世の剣」
「攻撃力220、クリティカル率70%。奇しくも、あの
ゲームの最強装備と同じ形をしているわね。ラヴォスの中で起こった奇跡だから、形もそれに従ったのかしら?」
一人の巫女と、一人の薬剤師が空を見上げている。
彼女たちの瞳に映るのは、上半分を失くしても平然と生存し、中空へ向かっておびただしい数の炎弾を放つきめぇ丸(黙示録形態)の姿と、それに毅然と立ち向かう、一振りの剣を持ったゆっくりの姿だった。
空を真赤に染め上げん程に放たれる炎弾の渦をものともせずに空中を飛び回り、剣を一振りすれば忽ち幾千もの炎弾を相殺する衝撃波が放たれる。
そのゆっくりは、世界をも滅ぼしかねない地獄と互角以上の戦いを繰り広げていた。
「ラヴォスの形を成しているとはいえ、流石に急ごしらえの存在じゃ、本物程のパワーも耐久力もないということですね」
「それでも、あれは蠱毒が生み出した呪術の結果だから、あのまま暴れて負の想念を取り入れ続ければ、いつか世界が滅んでしまっていたことは確かでしょう。それを防いでいるのがあの剣。あの黙示録形態と同じ起源を持ちながら、まったく逆の性質で形作られた神なる器。あの力なら、あの化け物にも対抗できる」
「でもそれって、“圧倒”ではなく“互角”って意味ですよね」
「ええ、彼女だけでは勝つのは難しいでしょう‥。だから」
彼女たちは再び空を見据える。
(手ごたえがない‥!)
一方、空中で激しい弾幕の雨に抗いながら武器を振るい続けていたゆっくりあやは、自分に有利に働いている戦況とは裏腹に、強い焦燥感を感じていた。
一番最初に外殻を真っ二つにしたように、何度も剣撃から生まれる衝撃波を本体にぶつけて、着実に敵の身体を削り斬ってはいるのだが、そのことで敵が怯む様子も力を落とす様子も見受けられない。
その代わりというように、削れて内部の暗黒が剥き出しになった箇所からは、豪雨のような炎弾が彼女に向って放たれる。
(これじゃまるで火に油を注いでいるようなものじゃないか)
本体から切り離された部位は光の粒子となって消失していくため、攻撃が効いていない訳ではないだろうが、如何せん終わる気がしない。
あの怪物は体をあと何分割すれば機能を停止するのだろうか。
(分からないことで悩んでも仕方なかい‥。あれがどんなにしぶとかろうと関係ない。あれは私が倒すって決めたんだ!)
そして、ぜったいにアイツらを助け出す。
そう強く覚悟している彼女は、迷いを振り払うがごとく、自身の前方から迫りつつある炎弾の群れを一振りにて斬り払う。
「!?」
瞬間。眼前の在り得ない光景を見て彼女の動きが鈍る。
あろうことか、剣の一振りで発生した衝撃波を、炎弾がまるで生きているかのように、自力で群れの方向を転換させて、全て避けきってみせたのだ。
物理法則を豪快に無視された弾の動きにゆっくりあやは対応する暇もなく、
数多の炎弾が彼女の眼前で弾け飛んだ。
「危ない所だったわね」
眼前で、である。
ゆっくりあやの眼前に立ち、両手を前に押し出し防御結界を張って彼女を守ったのは二人の少女。
八意永琳と東風谷早苗の実況解説の二人組。
「お久しぶりです。生きていて何よりです」
「私の壺どころか、アイツの腹の中から生還できるとはね。あなた、中々素質ありですよ」
炎弾を一つ残らず打ち消した彼女たちはゆっくりあやへと振り返り、
「でも、闇雲に攻撃するだけじゃ奴は倒せませんよ」
「奇遇にも、この惑星を守りたいと思うのは私たちも一緒でね」
その手を、ゆっくりあやへと向かって伸ばし、良い笑顔でこう言ってきた。
「「協力して、一緒に奴を倒しましょう!」」
☞たたかう <ピッ ピピッ
わざ
アイテム
クリティカル 東風谷早苗に939のダメージ!
クリティカル 八意永琳に873のダメージ!
「「きゃー」」ピチューン ピチューン!
ゆっくりあやはそんな二人の戯言には構わず、手近なところにいた悪二人を取りあえず滅ぼしてみた。
「いたた‥、酷い、突然何をするんですか!?」
「ゆっくりあやさん。どんな悲しいことがあったか知らないけど、闇雲に他人を傷つけてはいけないわ。無意味な暴力は人を闇の道へ引きずり込むものですよ」
「うるせぇッッッッよ!!本格的にお前が言うなだよ!!どうして自分が斬られたか、自分の胸に手を当てて考えてみろ!」
「‥‥‥?」「‥‥‥?」
「何マジで心当たりがないように可愛く首を傾げてんの!?萌えねーよ!?寧ろ腹立つよ!?なにその仕草!?」
折角斬ったのに、二人ともただの人間じゃなかったから、残機を一つ失っただけで済んだようだ。
『STGキャラはこれだから厄介なんだ、ちぃっ!』と、ゆっくりあやはこれみよがしに舌を打つ。
「まぁ、あなた方の言うことも一理ありますけどね。不覚にも助けられたのは事実ですし」
話している最中にも遠慮なく襲ってくる炎弾を適度に避け、それが無理な分については斬り払い撃ち落としつつ、不承不承といった面持ちでゆっくりあやは二人の少女に問いかける。
「それで、わざわざ私に話しかけてきたってことは、あいつを倒す算段を持っているってことで良いんですよね?」
「ええ」と、待っていましたと言わんばかりの自信満々な態度で早苗は説明を開始した。
「といっても難しい話じゃありません。まずは弱点についてですが」
∧∧∧
< ○ >
-≦_○○ _≧-
↑
ココ
「この眼だか口だか分からない、如何にも弱点っぽい部分に攻撃を当ててください。そもそもゲーム中じゃ、本体のターゲットポイントはここにしかありませんから、それ以外の箇所ではまずダメージ判定がないと推定されます」
「変なとこばっか再現されてるんですね」
的確なアドバイスに感心していいか、呆れるべきか分からず、ゆっくりあやは大きなため息をついた。
「『真似ボス』が再現されてないだけマシと思いましょう。アタッカーは現在攻撃力が一番高いあなたにやって頂きます。このポイントに近づくにつれ、攻撃は更に激しくなることが予想されますが、私と永琳さんがフォローするので、安心して接近してください」
しかし問題は、と隣に立つ永琳が続ける。
「あなたが持つ剣は、あのきめぇ丸だったものと起源を同じくし、性質を真逆にした対存在。故に、あの怪物を浄化させるのに、その剣は打ってつけでしょう。しかし、問題はその残りエネルギー。それほどの力を持つ奇跡が、長くこの世に顕現できる訳がありませんからね。本来は大した力を持たない一人のゆっくりであるあなたが使っているのなら尚更です」
永琳は難しい顔をしてゆっくりあやに対して一つの数字を示す。
「あと3回。細かい衝撃波ならともかく、あなたが一番最初に外殻を真っ二つにしたレベルの斬撃を放てば、その剣が持つ奇跡の力を使い果たしてしまうでしょう‥」
「なんですって‥!?」
最大攻撃を放てる数はたった三回。
たった三回ですべての蹴りをつけなければならない。
その事実を知ったゆっくりあやは‥
☞たたかう <ピッ ピピッ
わざ
アイテム
クリティカル 東風谷早苗に1203のダメージ!
クリティカル 八意永琳に1192のダメージ!
「「ぎゃー」」ピチューン ピチューン!
取りあえずその貴重な二回で身近な悪二人を、今度は全力で滅ぼした。
「て、何するんですかぁ!!永琳さん言ってたでしょ、あと3回って」
「貴重な攻撃回数を半分以上減らしてまで私達を攻撃するなんて、気でもふれましたか!」
「うるせーよ!少なくとも私にとっても、きめぇ丸にとっても、その二回はお前たちを攻撃する価値があると判断するよ!適正価格だよ!」
もしこの場にイズン様が居たらそれだけで剣の力を使い切ってしまったかもしれない。ゆっくりあやの怒りはそれだけ本物だった。
「とまぁ、色々と確執はありましたが、今は置いといて」
「今はお互いにラヴォスを倒すために手を組みましょう! ‥、何か魔王が仲間になった時のノリと似ていてちょっとすてきね!」
ゆっくりあやのそんな荒ぶる感情を誤魔化すようにシカトしながら、二人の少女は今なお炎弾を自分たちに向かって放ち続ける地獄の化身に向けて、各々の武器を向けた。
「取りあえず一回残ってればアレを倒すには十分でしょう。私がこの弓矢で弾幕を張り、あなたに接近する全ての炎弾を消し飛ばします」
「そして私の風であなたを一気に奴の弱点部位へと接近させます。うまくいけば、ケリは一瞬でつくはずです」
『私はその様子を実況解説します。一人しかいませんが頑張ります』
早苗、永琳、そして姿を見かけないと思っていたら、未だに地上の会場で実況していたイズン様が、それぞれの役割をゆっくりあやに説明し終える。
「おい、頼むからそこの女神誰か黙らせておいてくれないか。本当誰でもいいから」
しかし、全ての観客が非難し終わった会場に、実況のイズン様以外の人影は誰もいなかったので、それも無理な話であった。
「それでは、最後の奇跡を起こしましょう。私たちの手で」
「この一撃で、呪われし術儀の幕を永遠に閉じるためにも」
『頑張ってください!信じる力があれば、きっと勝てるはずです』
「頼むからお前らがそういうこと言うなよ!元凶共が!」
そして彼女たちは、持ち得る力の全力を出して、燃え盛る炎の弾幕の渦へと飛び込んだ(イズン様除く)。
蘇活「生命遊戯 -ライフゲーム-」
一番手は八意永琳。
彼女が弓矢を弾き震わせると、まるで碁石のように円形の青色の弾幕が、ゆっくりあやを囲むような布陣を作り、彼女に近づく炎弾の全てを飲み干していく。
奇跡「神の風」
二番手は東風谷早苗。
ゆっくりあやの背中を掴み、そのまま祝詞を唱えると、彼女たちを中心に目に見える程確かな形で翠色の風が吹き荒れる。
「早苗、行きます!!」
神風。
そう呼ぶに相応しいスピードで、彼女たちは黙示録形態の懐へ一直線に飛び込んで行った。依然として永琳の弾幕が彼女たちをガードしているため、その接近を阻むものは何もない。
天上から黙示録形態の鼻の先まで辿り着くのに、ほんの数秒の時間もかからなかった。
「ゆっくりあやさん、お願いします!」
「言われなくてもな!」
しかし、三番手はイズン様。
『敵が目の前にいます。気をつけてください!』
分かりきっていることを教えてくれる実況が大空全体に響き渡る。
ゆっくりあや、内心『誰でもいいから本当あいつ殺してくれねーかなー』と凄く思う。
そして四番手。ゆっくりあや。
奇跡の剣“にじ”を装備し、ただ一撃。
きめぇ丸達から受け継いだ万感の想いを込めて、
「罪も業も呪いも、あの場所で膿出された“くだらない”モノ全て‥!」
彼女達が自分を助けてくれたという事実を証明する為に、
彼女達の想いが全て無駄であったという真実を反証する為に、
「全部、叩き斬る!!!」
彼女は黙示録形態の弱点部位目掛けて、渾身の力を込めて剣を振り下ろした。
「うおぉおおおおおおおッッッ!!!!」
激しく、それでいて美しい光が、黙示録形態と剣の間で火花のように散乱する。
呪いが想いを、想いが呪いを、蝕み喰らいつくし相殺していく。
『元々は同じモノ。言うなればぶつかり合う氷河と暖流。だから、削り勝つのは、より大きな力を残しているものです』
珍しく的を射たイズン様の実況が走る。
ここまで来たら後はもうゆっくりあや、そして彼女が起こした奇跡の耐久力に懸けるしかない。奇跡を起こす巫女も、月の天才も、ただ見守ることしかできない。
ちなみに、イズン様は最初から見守ってしかいない。
ぶつかり合い削り合い、形を消していく二つの力。
そして、最初にガタが来たのは、
ピキっ―
虹色の剣の方だった。
「まずい‥!」
永琳がいち早く気づいてそう口走るが、もう遅い。
剣にヒビが入ったとゆっくりあやが気づいた次の瞬間にはもう、彼女の剣は音もなく粉々に砕け散っていた。
音は発生しなかったが、その衝撃は剣を中心に大きく響き伝わった。早苗が自分とゆっくりあやに纏せていた神風も、永琳が放っていたままの弾幕も、一瞬のうちに弾け消え去る。
「そんな!?」
そして早苗自身もまたその衝撃波で身体を吹き飛ばされる。暴風のように形を共わない波だった為、身体にダメージは負わなかったものの、彼女だけが吹き飛ばされた結果、ゆっくりあやだけが黙示録形態の懐に取り残される結果となってしまった。
「ゆっくりあやさん、危ない!!」
そして、彼女を守る防壁がなくなった今、外殻から発射された炎弾の群れが、容赦なく彼女へと降り注ぐ。
それを守るものはもう誰もいない。
『スライディングで避けるんです!』
イズン様のアドバイスも役に立たない。
身を焼きつかさんとする業火に囲まれたゆっくりあやは、
「例え、あの場所で生まれた呪いの量が、私達の想いの量をどんなに上回っても」
その表情に、恐怖も絶望も諦めも浮かべていなかった。
「それに私たちが負けるはずなんて‥、ないっ!!!」
武器も防具も装備していない状況で、ゆっくりあやは、ただ自身の身体を黙示録形態の弱点部位へ目掛けて、残った全ての力を込めて叩き付けた。
それは、体当たり、頭突き、徒手空拳、悪あがき、様々な呼ばれ方をする、最後まで諦めなかった戦士が放つ、最終攻撃。
「ねぇ、そうでしょう!?きめぇ丸ッ!!!」
きめぇ丸から受け着いた想いではない、
ゆっくりあや自身が生み出した“救いたい”という願い、
彼女はそれを、地獄の化身に向かって、ただ力づくで叩き付けた。
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早苗「私達、勝ったんですね‥」
永琳「ええ、けれど、その為に払った犠牲は大きかったわ」
イズン様「けど、そのお蔭でこの星は救われました。この星に住む数多の生物の息吹を、守りきることが出来たんです」
彼女たちが涙と共に見つめるのは、焼け野原と化した嘗ての会場。
数多のゆっくりあやときめぇ丸が勝負を交わした決戦の舞台跡。
早苗「私は‥忘れません。世界を守る為に命を懸けて戦った戦士たちのことを‥、彼らが私達に教えてくれた大切なことを‥!絶対に‥忘れません‥!」
永琳「近い将来、また悪しき者たちの手によって、似たような事件が巻き起こされるかもしれない。人の想いを、呪いを利用して、己が欲望の為この世界を滅ぼさんとする輩が現れるかもしれない。そう、どんなに荒野に花を埋めようと、どうせ人はまた吹き飛ばす」
イズン様「ならば、何度吹き飛ばされようと、私達はまた花を植えましょう。今度は容易に吹き飛ばされないような、強い花を」
永琳「はい‥、そうですね」
早苗「だから、今はお別れです‥」
そして、東風谷早苗は大地に四つん這いになって倒れ伏し、それらに向かって最後の別れを告げた。
早苗「さよなら、私の青春。クロノ・トリガーとスーパーファミコン‥」
彼女の腕の中には、黙示録形態の爆撃によって会場ごと粉々に砕け散ったスーパーファミコンと、そのカセットロムの残骸が残されていた。
そう、壊れた玩具は、もう二度と元には戻らない。
良い子の皆は親に買ってもらった玩具は大切にしよう。
「あいつら、マジ殺してやりたいんですけど。マジで殺してやりたいんですけど」
「おお、無茶をしてはいけません。死んでしまいます」
そして、思い出のゲームが壊され涙にふけっている神様系三人娘の後方では、全身包帯グルグル巻きにされたゆっくりあやと、その看病をする一人のきめぇ丸の姿があった。
「結局、犠牲者は出ませんでした。ならば、平和が一番一番」
「出なかったって言ったって‥」
ゆっくりあやは複雑な心境で、自分の看病をしてくれているきめぇ丸の顔を見つめた。
彼女が最後の力を振り絞ってきめぇ丸(黙示録形態)に打ち勝った後、その内部から引っ張ってこれたきめぇ丸は、たった一人だけだった。
それは、きめぇ丸を全員一人残らず救ってみせると決意したゆっくりあやにとって、決して望ましい結果ではなかった。
「結局この世界に帰ってこれたきめぇ丸はあなた一人だけじゃないですか」
「おお、心配ご無用心配ご無用」
しかし、当の本人であるきめぇ丸は、そんなことまるで気にしてない様子で、快活な口調で話を続ける。
「あの全てが闇に覆われた空間の中、あなたと心が触れ合うことが出来た18人のきめぇ丸の人格も記憶も、その想いも私と共にあります。今の私達は既に19人で1人。言わば19の力を併せ持つスーパーきめぇ丸と言える存在です。仙水忍的なアレです。」
「あれはただの多重人格じゃないですか‥。実際、今のあなただって人格がどうあれ、身体は一個しか残っていない訳ですし‥」
「おお、そういった器に囚われないのが我々きめぇ丸なのです。ワン・フォー・オール、オール・フォー・ニャン」
「猫どっから出てきた?」
「ただの萌えですにゃ」
「うぜぇ‥」
きめぇ丸の奇妙で訳の分からない理屈に、ゆっくりあやはまた大きなため息をついた。
しかし、そんな訳の分からない奴らの優しさに、彼女が救われたのもまた事実だった。
「うざいけど‥、だけど、今回のことで正直、あなた方のことを見直しました。例え種族が違っても、誰かの為にひた向きに頑張ってくれる、優しいゆっくりなんだって。私は、あなたのそういう良い所を今まで見ようとしてなかった」
「やめてください、照れてしまいます」
「今まで嫌ってばかりだったけど、あなた方のそういう所、好きですよ」
それは、今回の件でゆっくりあやが感じ学んだことの一つ。どちらが本物だ、偽物だと絶えず争いを続けてきた二つの種族だが、これからはもう少し歩み寄って仲良くすることができるかもしれない。
今はそんなすっきりとした気持ちで、彼女はきめぇ丸達のことを見ることが出来た。
「‥‥‥‥」
「?」
しかし、きめぇ丸からの返事はない。疑問に思った彼女はきょとんとした表情で隣に座るきめぇ丸の方へ振り向くと、きめぇ丸の顔はどういう訳だか朱色に染まっていた。
「その‥、やめてください。恥ずかしいです」
「へ?何が?」
「突然、愛の告白なんて‥」
ゆっくりあやがきめぇ丸のその言葉の意味を理解するのに、およそ5秒の感覚を要した。
そして、理解した後、ゆっくりあやもまた目の前のきめぇ丸同様、顔を真赤にして慌てはためく。
「は?へ? ば、ババば、バ!馬鹿!! だ、誰もそんな意味で言ったんじゃ‥!!」
そう。そんなはずない。突然こいつは何を言いやがってくれるのだろう。
あろうことか、ゆっくりあやである自分が、きめぇ丸のことをそういう意味で好きだなんて、そんなはずが‥あるはずない!
ゆっくりあやは必至でそう思おうとしたが、そう思おうとすればするほど、どういう訳か脳内では、ラヴォスの腹の中で優しい謝罪の言葉をかけてくれたきめぇ丸の言葉ばかり再生される。
それを思い出す度にゆっくりあやの顔を紅に染まっていき、目の前にいるきめぇ丸のことを直視できなくなっていく。
「す、す、好きな訳ないじゃないですか!い、いや、好きって言ったけど!それは恋愛とか百合とかそういう好きじゃなくて‥!そういう意味じゃアレだし!嫌いだし!あんたなんて、好きになるはずないし!!」
否定の言葉を積み重ねてはいるが、『好き』という単語を口に出す度に、ゆっくりあやの顔は、更に更に包帯の下からも分かるくらいリンゴのように真っ赤に染まっていく。
「おお、ツンデレツンデレ」
「勝手なことぬかすな!畜生、やっぱ死ね!お前ら種族丸ごと死んでしまえぇぇ!!!」
自分の内で生まれ落ちた未知なる感情に戸惑い混乱しながら、ゆっくりあやは大きな声で叫び回って、これは何かの間違いだとゴロゴロとその身体を回し始めた。しかし、その言葉からはこれっぽっちも相手を呪いたいという負の想念は発せられていなかった。
きめぇ丸は顔を朱に染めながらも、その姿をニヤニヤしながら見つめている。
,--‐‐‐‐v‐‐-、
ハッo+0*O*0+ッハ,,
,、'`冫〈 //ヽヽ 〉,、ヽ
./シ刕,((/ ヽ))ミー、
i`,、ゝ, ノ/__,. 、__ヘ i/j
/<o フ ノ(ヒ_] ヒ_ン `,'。フ 1年後、この二人はめでたく結ばれることになるのですが、
〈 V.ゝ!'" ,___, "' iノゝi それはまた別の御話です。
`、_.淼. ヽ _ン ノ淼ノ
.|X|>,、_____, , ,.イ .|X|
「死ね、お前が一番死ね!」
こっちはガッチリ殺気が籠った、立派な呪言だった。
【2011年夏企画】 きめぇ丸VSゆっくりあや 十番勝負 蠱毒
きめぇ丸〇 ― ×ゆっくりあや (惚れた弱み的な意味でも)
きめぇ丸の勝利を以ってここに終了。
「きめぇ丸のことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!!」
もとい、
「コドクにイキル」
―完!!―
- 一言。
か ぐ も こ ジ ャ ス テ ィ ス の 人 だ っ た。 -- 名無しさん (2011-08-27 06:53:54)
- 途中までギャグだったのに最後の熱い展開に燃えてしまった、くやしいっ(ビクビクンッ)
読んでいて物凄く楽しかった、読み終わるのが勿体ないと感じる作品でした
クロノトリガーネタをギャグだけじゃなくてシリアスでも活用されるところなんて感嘆しました
にじ懐かしいなぁ……
それにしても元凶三人組、救えねぇw
だがそれがいいw -- 名無しさん (2011-08-27 13:33:37)
最終更新:2011年08月27日 13:33